![]() | この世界の片隅に 上 (1) (アクションコミックス) こうの 史代 双葉社 2008-01-12 by G-Tools |
海苔養殖を生業とする浦野家に生まれた女すずの人生を綴った作品。昭和九年から物語は始まり、少女時代のエピソードが三本。そして少し時代が飛んで昭和十八年。以降は、すずが北條家に嫁いでからの日々を丹念に描いていく。スクリーントーンを一切使わずに、丁寧に描き込まれた戦時中の昭和風俗がとても印象的だ。素人には想像もつかないのだけど「大潮の頃」の木版画のように見える海の情景なんてどうやって描いているんだろう。
こうの史代作品なので、展開は終始まったりモード。おっとりさんのドジっ子で嫁入りしても子供っぽさが抜けない主人公。絵が得意で、時々不思議なモノを見てしまう力を持つ。このままであれば日常系とか、空気系とか呼ばれる類のお話なのだろうけど、なにせ物語の舞台が戦時中の呉、実家は広島と来ている。間違いなく『夕凪の街 桜の国』の系譜に連なる作品と思って良いのだろう。裕福ではなく、不便なことも多い時代ながらもそこに悲劇はまだ訪れていない。いまのところは。この先を読むのが楽しみでもあり、恐ろしくもありである。
しかし新婚初夜の「カサを持ってきとるかいの」「はい、新なのを一本」のやりとりは、本当に当時の人はこんな奥ゆかしくも美しい会話をしていたのかと思うと、ちょっと羨ましくなってくる。嫁入りは相手家族との同居が前提だったり、貞節という概念が生きていた頃ならではの意味深長なメタファーなのだなと、読んでいるこちらの方がしばし悶え苦しんでしまった(笑)。
絵の端々、会話の端々にまで細かな意味づけがこらされている非常に情報量の多い作品なので、就寝前の一時はしばらくこの作品を再読し続けることで過ごせそうだ。
ちなみに双葉社の漫画アクションのサイトでは第一話が無料で読めるようなので、興味のある人はチェックされたし。
投稿者 nununi : January 29, 2008 11:53 PM