小屋の肖像 [中里和人] ★★★★ メディアファクトリー (\3,200) [Amazon] ※書影無し
実用一点張りで作られる小屋。そこには住居にみられるような華美な装飾は一切なく、ただ実用性だけが追求されている。4年間の徹底取材。北海道から沖縄まで撮影地47箇所。61もの小屋を網羅。日本の小屋の写真集。
写真集です。たまにはこういうのもいいでしょう。書店で見た瞬間惚れ込んでしまった。表紙は青森県小泊村の漁港にある動力小屋。錆びたトタンのちんまりした小屋。不必要なものをすべて削ぎ落とした見事なまでに潔い美しさをそこに感じることができる。実用一点張りで作られた工具の類が不思議な美しさを秘めているのと同じように、実用性だけを求めて作られた小屋の数々もまた奇妙な美しさを放っているのだ。
手近な素材で適当に組み上げられた結果、様々な素材のパッチワークになってしまった小屋。自然環境にのみこまれ環境と渾然一体となりつつある小屋。よくぞここまで面白い物件を多数見つけて来たものだと感動させられます。個人的な好みのツボ直撃の一冊でした。続編を望む。[2000/10]
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遠野物語の世界 [石井正己] ★★★ 河出書房新社 (\1,800) [Amazon]
柳田國男が記録に留めた『遠野物語』。その歴史的な成り立ちを詳らかに解説。また背景となった遠野の風習を山、川、里、町の四つの観点から明らかにしていく。
夏の旅行以来にわかに遠野ブームが訪れているわたし。手っ取り早く概要を知ることが出来ればと購入した一冊。が、誤解していたのだが、本書は『遠野』の本でなく『遠野物語』の本だった(あらら)。
編者柳田國男と語り手佐々木喜善の関係を当時の資料を丹念に拾いながら追いかけていく。当時佐々木は弱冠25歳。柳田も生涯で遠野を訪ねたのは僅かに3回。柳田が村の古老から昔話を丹念に集めてまわったという固定観念が見事に崩壊していくのであった。[2000/10]
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8(エイト) 上・下
[キャサリン・ネヴィル] ★★★ 文藝春秋 文春文庫 (各\705) [Amazon:上/下] ※書影無し
カール大帝の御代から伝わる幻のチェスセット『モングランサービス』。途方も知れない奇跡を呼び起こすと言われた伝説のチェスセットをめぐり時空を超えた壮絶な争奪戦が始まる。
フランス革命期の修道女ミレーユと1970年代の女性プログラマキャサリン。このふたりの物語を軸にストーリーは展開していく。傑作なのはミレーユ編で、同時代に生きた多くの有名人が実名で登場してくる。放蕩司教タレーラン、若き日のナポレオン、女帝エカチェリーナ2世、果てにはヴォルテールやニュートン、バッハまで登場してくるのだ、このあたりはデュマの一連の三銃士シリーズや山田風太郎の明治モノを読んでいるようなわくわく感が堪能出来る。
上下巻で1,000ページ近い超大作なんだけど、序盤が冗長。且つ、おいおいそんなわけねえだろう、ってなご都合主義展開に辟易させられるところがある。しかし後半ストーリーが進展しだしてからは一気に読者をひきこんでいく怒涛の展開。2つの時代にまたがる壮大な物語として見事な大団円を迎えるのだ。
当たり前のことなんだろうけど欧米ではチェスは文化として人々の精神に根付いているわけで、それだけにチェスが登場する文学作品も多い。『不思議の国のアリス』は最も有名な部類だろう。数々のチェス用語やそれぞれの駒の意味なんてものが当たり前のように理解出来ればきっとこの作品はもっと楽しいのだろう。この点は少し残念。
余談だが北村薫の『盤上の敵』がいまいちしっくりこなかったのもこのせいかなあ。[2000/10]
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風の海 迷宮の岸 [小野不由美] ★★★ 講談社 講談社文庫 (\629) [Amazon]
麒麟は神獣。そして麒麟は王を選びそして王に仕える。しかし幼少時代を人間界で過ごした泰麒は麒麟としての自覚も無ければ数多くの能力を発揮することが出来なかった。しかし焦燥する泰麒をよそに王を選ぶ日はついにやってくる。
十二国再読シリーズ第二回。泰国主従編。いやはや初々しいです泰麒。驍宗は記憶してたのよりプライドが高く、人柄も豪気だった。改めて読んでみると、泰麒とは微妙に合わなさそうなカップリングです。驍宗失道でもしちゃうんでしょうか。この後どうなって『魔性の子』につながるのか気になるところ。ネタバレしてると本作の面白さは激減するので再読は楽しめないかとも思ったけど、細かい設定をチェックしていくだけでも意外に楽しめた。[2000/10] ⇒次巻
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商業国家オルヴィエートは大国ボスポラスの大艦隊の襲来を受け未曾有の危地に立たされていた。国家元首を父に持つエレオノーラの心中には秘めた想いが。母を殺した父、そして無能で横暴な二人の異母兄に対しての激しい憎悪だった。
来襲する圧倒的な敵艦隊。味方は足を引っ張るしか能の無いクズばかり。燃える展開です。平時の穀潰しが戦時では天才戦術家というお約束パターンも見事に決まって気持ちいいです。主人公と思しきエレオノーラ嬢にいまいちキャラが立ってないのが気がかりだけど、長編(だよな)スペースオペラの第一巻としてはまあ及第点でしょう。
しかしこういうのどうなんだろう。原案:田中芳樹、本文:荻野目悠樹ってな分担なんだろうけど、確かに田中芳樹がいまさらスペースオペラで別シリーズ始めたらみんな呆れるよな。『タイタニア』はどうなったんだって。そこそこ書けて筆の早い若手に本文書かせるのはいいアイデアといえるでしょう。商業的にはね。徳間ってなんかせこいよなあ。いい加減銀英伝の幻想捨てて欲しい。荻野目悠樹という作家をわたしはこれまで知りませんでしたが、本人はこれでいいと思ってんだろうか。確かに部数は出るだろうし知名度もあがるだろうけど、本人の功績にならなさそう。本編がそこそこ面白いだけに気になります。[2000/10] ⇒次巻
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少年たちの密室 [古処誠二] ★★☆ 講談社 講談社ノベルズ (\840) [Amazon]
地震によって倒壊したマンションの地下駐車場に閉じ込められた6人の高校生と担任教師。暗闇の中で一人の少年が瓦礫で頭を打たれ命を落とす。事故なのか他殺なのか。他殺だとしたら完全な闇の中で誰がいかなる方法で?彼らを取り巻く歪んだ人間関係が明らかになっていくにつれ哀しい真相が明かされる。
帯の惹句がすごい。「下手くそな推理小説にうんざりしている人に」(恩田陸)。である。全然ノーマークだったんだけど恩田ファンとしては買わねばなるまい。だがしかし、なのだ。好きな作家が推しているからといって、その作家と同じ作風を期待してはいかんのですね。当然のことなんだけど。
ページを繰る手が止まらない終始緊張感に溢れた展開は良かったし、メインのネタの切れ味もいい線いっていると思う。しかしそれを凌駕する不快感。ここまで徹底して悪役を不快に描かなくても良かったのでは。殺された高校生にしてもそうだし、なにより犯人のあの人。あそこまでいいところないと逆にリアリティ感じません。ここまでひどい奴はそうそういないって。[2000/10]
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大導師アグリッパ グインサーガ75
[栗本薫] ★★☆ 早川書房 ハヤカワ文庫 (\540) [Amazon]
<ドールに追われる男>イェライシャの助力を得たヴァレリウスは遂に幻の大魔導師アグリッパへの会見を果たす。一方ジェニュアに立て籠ったナリス軍だったが、国王軍は着々と包囲を固めていく。
あとがきの件は語っていると気が滅入ってくるのでまあ置いておくとして……
キタイ勢力の出現が暗示された50巻頃はおおっ成る程!ってなくらい素直に驚いたんだけど、黒竜戦役から、イシュトヴァーンの戴冠に至るまで、こう何でもかんでもヤンダルのせいになってしまうと、いささか興醒めしてくるのも確かで、最後はみんな仲良く共同戦線張ってしまうのでしょうか。これだったらいままでの愛憎が交錯する三国志もどきの方がよっぽど楽しかったのだが。
それというのもヤンダル(レムス)側の描かれ無さ具合がひどすぎるような気がするんだな。シリーズ最大の敵なんだからさ、もっとそれっぽく描いて欲しいんだが。敵としての魅力があまりに欠けている。深刻なやおい化や描写のくどさ、展開の遅さもさることながら、このあたりもこのごろのグインがつまらない理由の一つではあると思う。[2000/10] ⇒次巻
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上と外 2 緑の底 [恩田陸] ★★★ 幻冬舎 幻冬舎文庫 (\419) [Amazon]
夏休みに訪れた中米のG国でクーデターに巻き込まれた楢崎一家。ヘリから落下し密林の中をさまよう練と千華子。熱帯雨林をあてどもなくさまよい歩く中でふたりが見た物とは。全五巻。隔月刊行シリーズの第二作。
ちゃんと出ました第二巻。原稿落としそうな作家には見えないのであまり心配はしてなかったけどいちおうひと安心。二巻目ということで今回はつなぎという感が強いかな、と。リュックの中には便利アイテム。ちょっと歩くとすぐ遺跡に辿りついちゃうし。精神的にもタフでクレーバーな楢崎兄妹に、ちょっと都合良すぎねえかおい、って突っ込み入れたくもなりますが、話が進まないので今回は良しとしときます。古代マヤ文明の謎の遺跡に遭遇するふたり。このまま魔境伝説風な展開になるのか?まだまだ先が読めないぞ。
しかし、いまのところなす術も無い賢パパと千鶴子ママをよそに日本の楢崎一族の行動力が頼もしい。特に楢崎(祖父)。このじいさん説教クサイですが(笑)、無茶苦茶格好いいです。本筋に絡んできそうです。[2000/10]
二巻ネタも入れました。特設ページはこちら。[2000/10] ⇒次巻
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あまねく全宇宙に偏在し全人類を監視し続ける機械神アスラ。それは宗教と伝説と愛をまきちらしながら漂っていた。機械の神が見守る宇宙の興亡の一コマ。地球帝国とカリスト連邦との戦いを描く。
大原まり子の処女長編作。1983年の作品。この作品何故か文庫化されないのですがどうしてなのでしょうか。ずっと探していた一冊だったけど古本でようやく入手。新鋭書下ろしSFノヴェルズの一冊。この四六変形版のソフトカバー、黄色い背表紙に見覚えがあると思ったら新井素子の『……絶句』もこのシリーズだったんだ。懐かしいぞ。
一連の<未来史>シリーズの流れを組む作品。初期の大原作品ってリリカルで叙情的な作風だったので本作にもそれを期待していたのだが見事に裏切られる。意外にも最近の作品に近い作風だった。時間軸も空間も全てパラレルなこの世界では人の生き死にも、帝国の興亡も一つのありえた形でしかない。感動的な結末すらも無限に再生産される可能性の中の一つに過ぎない。泣けるハナシが読めると思っていたけどちと甘かったよ。[2000/10]
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たけまる文庫 怪の巻 [我孫子武丸] ★★☆ 集英社 集英社文庫 (\476) [Amazon]
あの「ひとり雑誌」が装いも新たに帰ってきた。ミステリ界初の快挙!我孫子武丸の個人文庫「たけまる文庫」遂に創刊。9作のホラー作品をよりすぐった短編集。
そういえばありました。ひとり雑誌「小説たけまる増刊号」だったっけ。企画は面白いと思ったものの、短編集だし、特別我孫子ファンってわけでも無いので購入は見送っていた。文庫化にあたりホラー寄りの9編を集めて「怪の巻」として個人文庫化したのが本作。ちなみにミステリ寄りの9編は「謎の巻」として出るらしい。
幽霊モノから医療ネタ、猟奇ホラーまであの手この手でもてなしてくれるものの、ちょっと物足りない。9編それぞれに異なる仕掛けが施されてはいるものの、誤った固定観念を植え付けといて最後にひっくり返すっていう同じパターンの話ばかりなんだよなあ。印象に残った作品も特に無し。『殺戮に至る病』で徹底的にしてやられてからというもの、我孫子作品は初っ端から「騙されないぞモード」全開な悪い読者なのでした。[2000/10]
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自称「マンガ界一絵が下手な漫画家」西原理恵子。サンデー毎日に連載された彼女の初エッセイ集。
西原理恵子を初めて知ったのは『まあじゃんほうろうき』だった。神をも恐れぬ豪快な生き様に惚れたもんでした。いつもながらの直球勝負ぶりが毎度のことながら素晴らしいです。でもやっぱりサイバラはマンガの方が面白いよなあと思う。おしまいの方に載っているおまけマンガの方が笑えたって。[2000/10]
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弟・襾鈴(あべる)の死の謎を追って地図にない村を訪れた兄・珂允(かいん)。その村は大鏡様と呼ばれる生神に支配され、外界に対して完全に門を閉ざした異郷だった。空を覆い尽くす鴉の群れ。蔵の中の人形。不可思議な五行思想。そして始まる殺戮劇。メルカトル鮎が明らかにする戦慄の真実とは。
主人公の名前からして麻耶作品。外界から閉ざされた異郷のムラ。村人の普段着は和服だし、車も無ければ電話も無い、ここは日本のどこなんだあ!っていう突っ込みは本作には全く的外れなのでやめておく(やってるじゃん)。ふんだんに散りばめられた妖しげな意匠の数々と、どっか別の世界へ逝っちゃってる主人公。麻耶作品たるものこうでなくてはいけません。
ラストには『春と夏の奏鳴曲』のような奇跡的力技を期待していたのだが、意外にも常識的な範囲の中で物語は結実。しかしとても奇麗な着地を見せてくれた。端正に良くまとまった秀作でした。作者もキャリアを積んで成長してきたということだろうか。しかし今回のメルカトル。あいかわらずなんだか良くわからないんだけど、かつてない格好良さ。イカしてます。[2000/10]
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ラビリンス <迷宮>
[新井素子] ★★★ 徳間書店 徳間デュアル文庫 (\590) [Amazon] ※書影無し
神は六年に一度現れ、人間におおいなる知恵を授ける。しかしそのかわり人間は若い娘を生贄として差し出さなくてはならない。村一番の猟師サーラと、神官の娘トゥード。神への贄として送りだされた全く対照的なふたり。人を喰らうという神の住まう迷宮でふたりが出会う神の真実の姿とは。
新井素子作品の中に通奏低音のように流れるヒトの「原罪」についての問いかけ。ヒトは生きてゆく為に他の生命を殺さなくてはならない。他種の屍の上に立つ人類の繁栄。それは正しいことなのだろうか。本作はそのテーマをとりわけ強く意識した一作だろう。失われた旧世界文明の遺伝子実験の落し子である神。野獣との合成体であるこの神は人間を捕食する。人間を捕食の対象とする生命体を設定することで、ヒトもまた大いなる生命の循環の中では一つの種に過ぎないことを示し、ラストの堂々たる生の肯定へとつなげていく。
1982年作品。再々々々読くらいかな。手元の資料によると初読は1984年10月14日。16年も前かい。徳間書店から単行本で発売されて後に文庫化。そいでもって徳間デュアル文庫で再文庫化されたのが本作。こうした旧作リバイバルは異論もあると思うけど、意義のあることだと思います。新井素子は今のワカモノにも是非読んで欲しい。「生きることは罪ではない」この言葉に勇気づけられた読者は決して少なくはない。[2000/10]
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平凡な受験生尾崎孝史は予備校受験のために宿泊したホテルで火災に巻き込まれた。絶体絶命の孝史を救ったのは平田と名乗る時間旅行者だった。時は昭和十一年二月。二・二六事件のただなかに連れ去られた孝史はかつての陸軍大将蒲生憲之の屋敷を訪れることになるのだが……
宮部作品で超能力者が登場するのはいまさら珍しいことではない、未来予知、過去視、精神感応、念力放火能力等々さまざまな超能力を描いてきたこの作家が本作で取り上げたのは時間旅行能力である。ついに来るべきものが来た(笑)。期待はいやがうえにも高まるのである。
タイムトラベルモノで問題になるのがタイムパラドックスをどう処理するのかなのだが、瑣末な部分は修正出来ても歴史の本流は変えられない、というのが本作のスタンス。時間旅行者が身を賭して時を越え、歴史を変えようと望んでも大きな流れは絶対に変えることが出来ないのだ。
とりわけ登場人物たちがが英雄的な活躍をするわけではない、二・二六事件という歴史の大きなうねりの中で、人間はあまりに無力である。しかし、歴史を変えることは出来ないとはいえ、やがて来る暗い時代を知りながら、あえて「抜け駆け」をしない登場人物たちの生き様の高潔さが心を打つのだ。普通の人間がしごくまっとうに生きていくことがこれだけ感動を呼ぶ物語もなかなかないだろう。
しかしいつものことながら気になるのが、悪者に対しての異常なまでの冷酷さである。『クロスファイア』の時にも思ったのだがまさに容赦無し。勧善懲悪ここに極まれリなのだ。この点、実は宮部作品を愛しきれないポイントになっているのだが。[2000/10]
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おもいでエマノン
[梶尾真治] ★★★☆ 徳間書店 徳間デュアル文庫 (\762) [Amazon]
彼女の名前はエマノン。それは「NO NAME」の逆さ綴り。ジーンズに粗編みのセーター、瞳の大きな彫りの深い異国的な顔立ち。胸まである長い黒髪。少しばかりのそばかす。彼女は地球に生命が生まれてから現在に至るまでの全ての記憶を持つ少女。不思議な少女エマノンをめぐる連作SF短編集。
長いこと噂には聞いていた名作がついに復刊。SFはハヤカワ寄りの人だったので、徳間系の作品ってあまり読んでいないのでした。しかもイラストは鶴田謙二というベストチョイス。これで即、家に連れて帰ることに決定。
表題作にして連作の第一編である「おもいでエマノン」。これがいきなり泣かせてくれます。自分が死んでも、人類が滅びても、何十億年経っても、それでもエマノンは自分のことを覚えていてくれる。これほどの幸福が果たしてあるだろうか。僅か40頁足らずの短編の中で、何十億年にも及ぶ生命の流れ、その中でのひとりの人間という存在、なんてのを見事に感じさせてくれる逸品でありました。エスエフってやっぱりいいぜ。
と、ここまでは良かったのだが、それ以降の7編がやや苦しい。一編目は主人公である少年の側から見たエマノンを描いているからまだ良いのだが、二編目以降徐々に視点がエマノンサイドに移ってゆく。そこで描かれる肝心のエマノン本人にどうも魅力が感じられないのだ。確かに30億年分の記憶を持つ生命体であるエマノンがただ清純な美少女であるわけはなく、そのシニカルな言動、虚無的な態度に過剰な幻想を抱いていた男性読者の夢は打ち砕かれます。
とはいえ、続巻『さすらいエマノン』も近日発売予定なので、一応チェックする予定。長編新作の構想もあるらしく楽しみではある。[2000/10] ⇒次巻
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ななつのこ [加納朋子] ★★★☆ 東京創元社 創元推理文庫 (\520) [Amazon]
美しいイラストに惹き付けられ購入した一冊の本『ななつのこ』。ファンレターを書いた駒子の元に届けられた作者からの返信。日々の疑問や生活のささやかな謎を問いかける駒子の元に次々と意外な真相がもたらされる。七編の連作短編集。
これまた評判の作品。一日一編ずつ読んでみる。主人公は文科系の女子大生。日常の中のささやかな謎。とくれば、北村薫の「円紫師匠とわたし」シリーズを髣髴とせずにはいられないだろう。一編目と二編目の「スイカジュースの涙」「モヤイの鼠」あたりでややげんなり。テイスト似すぎである。が三編目「一枚の写真」が泣きのツボを強くプッシュ。子供絡むと弱いんだな。この頃から素直に独立した作品として楽しみ始める。四編目、五編目と順調に読み進め、六編目「白いたんぽぽ」。これでまたしても泣かされてしまうわたし。「いい話」度としては悪意の存在が出てこない分、北村作品を上回るかもしれない。
そして全てが明かされる七編目「ななつのこ」。瀬尾さんが怪しいのはどう読んでもバレバレなので予想の範囲内だったが、更にもう一段奥の深いオチが用意されていようとは。なかなかやるのである。二重底ではなく三重底なのね。『ななつのこ』のタイトルネーミングもダブルやトリプルどころじゃなくて、幾層にも意味を重ねているあたり芸が細かいです。次作も読ませていただきます。[2000/10] ⇒次巻
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冬の教室
[大塚英志] ★★★ 徳間書店 徳間デュアル文庫 (\476) [Amazon] ※書影無し
永遠に続く冬。果てのない雪と氷の世界。気象変動によって突如として氷河期を迎えた近未来の日本。そこで出会ったひとりの少女・嶝崎人魚。「夏 が見たい」と寂しげに呟く彼女には凄惨な過去の体験があった。少しずつ心を開いてくれる彼女だったが、平穏な日々は長くは続かなかった。
鶴田謙二のイラストにつられて買ってしまった一冊。でもイラストって表紙の一点だけなのね。口絵まで同じ絵だし。なんだか騙された気分だが、それでもまあいいかと思うくらいこの絵はいい。この絵があるとないとじゃ売上けっこう違うんじゃないかな。
大塚英志の作品はこれで初めて読んだのだが、一連の大江公彦(って誰だよ)サーガの流れに連なる作品なのだそうで、これまたついこないだ出たばかりのコミック『東京ミカエル』と一部を共有しているらしい。ってことは全部読めってことですか?これ一作だけだと大きな物語の断片だけ読まされているようでなんとも気持ち悪い。永遠の冬に閉ざされた世界と薄倖のヒロイン。寂寞とした物語の雰囲気はなかなか好印象だっただけにちと残念。他作品も読んでみるべきだろうか。[2000/10]
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