2000年12月

20世紀最後の月はわたしらしくジャンルばらばらな読書傾向でした。
『イーシャの舟』を年内に読めなかったことが心残り。
大泉実成の『消えたマンガ家』は面白かった。他の著作も探してみようと思う。

書籍名
作家名
出版社
価格
コメント
お薦め度
東の海神 西の滄海  小野不由美 講談社
\629
相変わらず巧い。しみじみと泣かせます。
★★★☆
28年目のハーフタイム 金子達仁 文藝春秋
\429
いまさらだが面白い。
★★★

世に棲む日日 一

司馬遼太郎 文藝春秋
\457
久々のシバリョウ。長州の話。
★★★☆

上と外 3
神々と死者の迷宮 上

恩田陸 幻冬舎
\419
やや進展。もうちょっとガンバレ。
★★★

世に棲む日日 二

司馬遼太郎 文藝春秋
\457
高杉晋作登場。
★★★☆

魔の聖域 グインサーガ76

栗本薫 早川書房
\540
嘆息。
★★☆
世に棲む日日 三 司馬遼太郎 文藝春秋 
\457
禁門の変〜第一次長州征伐あたりまで。
★★★☆

世に棲む日日 四

司馬遼太郎 文藝春秋 
\457
高杉晋作常人じゃないぞ。
★★★☆

ボーン・コレクター

ジェフリー
・ディーヴァー
文藝春秋
\1,857
最後まで油断出来ません。
★★★★

星虫

岩本隆雄 朝日ソノラマ
\571
祝☆復刊。
★★★

ぼくらは虚空に夜を視る 

上遠野浩平 徳間書店
\590
他シリーズと絡むのかな、これ。
★★★
女彫刻家 ミネット
・ウォルターズ
東京創元社
\920
これまたえぐいです。彫刻されたくねえ。
★★★☆

女性を悦ばせる顧客満足

中谷彰宏 日本実業
出版社
\1,300
読まんでええです。
★★

星虫 <旧版>

岩本隆雄 新潮社
\480
旧版も読んでみた。
★★★

鵺姫真話

岩本隆雄 朝日ソノラマ
\571
これが十年振りの新作。
★★★☆
レキシントンの幽霊 村上春樹 文藝春秋
\419
10数年振りに村上春樹読みました。
★★★

消えたマンガ家
ダウナー系の巻

大泉実成 新潮社
\600
マンガ好きは読むべし。でも内田善美って誰?
★★★☆

消えたマンガ家
アッパー系の巻 

大泉実成 新潮社
\638
偽鬼太郎作家竹内寛行篇も面白い。
★★★☆

知られざる特殊特許の世界

稲森謙太郎 太田出版
\1,600
ほんとに知られざるだよこれ。
★★★

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東の海神 西の滄海
[小野不由美] ★★★☆ 講談社 講談社文庫 (\629) [Amazon]

東の海神 西の滄海―十二国記 (講談社文庫)

王を喪い。一度は滅びたといわれた雁国。待ち望まれ玉座に付いた延王・尚隆は延麒・六太と共に国家の再興に身を砕いていた。だがそんなある日、六太は旧友・更夜の罠によって囚われの身となってしまう。元州令尹・斡由の手による叛乱の火蓋が切って落とされたのだ。四面楚歌の中で延王・尚隆の下した決断とは。

十二国再読シリーズ三作目。これまで脇役に甘んじてきた雁国主従がついに表舞台に登場。時代は一気に数百年も遡ります。この二人が出てくるとなんだか安心して読めます。十二国の共通テーマは「成長」なんだろうとわたしは思っていますが、今回は尚隆と六太の心の成長を心憎いまでに丁寧な筆致で描いていきます。違和感なくつながる、過去のエピソードの挟み方が実に秀逸です。

小野作品ならではの語り口のリズム感。そして文章の明快さ。全くの異世界を舞台とし、小難しい造語が頻出する作品でありながら、かくも読みやすいのにはいつもながら感嘆させられます。[2000/12] ⇒次巻

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28年目のハーフタイム
[金子達仁] ★★★ 文藝春秋 文春文庫 (\429) [Amazon]

28年目のハーフタイム (文春文庫)

1996年アトランタオリンピック。サッカー日本代表は対ブラジル戦で奇跡的な勝利を得た。しかしそれはオリンピック代表がチームとして機能した最後の試合だった。快進撃の裏で進行していく内部対立。そして対ナイジェリア戦ハーフタイム。遂に崩壊の時はやってきた。

いまさらではありますがサッカー日本代表。アトランタ五輪のブラジル戦の舞台裏を描いたドキュメンタリー。先日読んだ『決戦前夜』は川口と中田(英)の扱いが突出していて全体的なバランスを欠いていたけれど、本作ではそれほど偏った書き方はしていないので、トータルで見たらこちらの方が素直に楽しめる。とはいえ、作者も書いているとおり、前園に関しての掘り下げ方は不十分。批判するからには誉める時以上にその相手について知っているべきだと思う。そこはかなり残念。でも今前園って何してるんだっけ?[2000/12]

世に棲む日日 一
[司馬遼太郎] 
★★★☆ 文藝春秋 文春文庫 (\457) [Amazon]

世に棲む日日〈1〉 (文春文庫)

幕末の長州。若くして家督を継いだ吉田松陰は旺盛な好奇心のままに学問に没頭していた。しかしそのあまりに先鋭的な思想はいつしか危険視されていく。後の討幕運動に絶大なる影響を与えたとされる吉田松陰の前半生を描く。

幕末愛好家の某氏から強制貸出されたので読んでみました。この作家も実に久しぶりです。亡くなってここ数年、「司馬史観」なるものがもてはやされてしまい、ともすれば神格化されてしまいそうな勢いの司馬遼太郎。ひねくれ者のわたしとしてはちょっと手に取りにくい雰囲気でした。死後になってそんな具合に持ち上げられて、作者本人も愉快ではないと思うんだけど。

で、本題。全四巻の作品。冒頭の一文、「長州の人間のことを書きたいと思う」というところからも分かるとおり、長州藩を中心として幕末の激動期を描いていきます。序盤の二冊は吉田松陰、後半の二冊では高杉晋作を主人公に据えて物語は進んでいきます。初版は1975年。四半世紀前の作品なんですね。残り三冊なんとか年内に読み終えたい。[2000/12] ⇒次巻

上と外 3 神々と死者の迷宮 上 [恩田陸] ★★★ 幻冬舎 幻冬舎文庫 (\419) [Amazon]

上と外〈3〉神々と死者の迷宮(上) (幻冬舎文庫)

クーデターに巻き込まれヘリから密林に落下。ジャングルの中を彷徨する練と千華子。ようやく辿りついた古代遺跡だったが、誰も居ない筈の遺跡だというのに、誰かからの視線を常に感じる二人。肉体的疲労と精神的プレッシャーが二人を追い詰めていく。遂に高熱に倒れる千華子。そんな二人の前に現れたのは……

シリーズ三作目。ようやく物語に動きが出てきた。しかしそう来ますか。敵?として登場したのもまた練と同年代の少年であったことで、本作はジュブナイル路線をひた走ることにほぼ決定!と見てよいのかな。千華子を人質に取られて云々ってのはほぼ予想してたところではある。このまま行くとスーパーナチュラルな方向に進んでしまうのでしょうか。あとは賢パパと千鶴子ママがどう絡んでくるか。本巻で忘れ去られている親戚一同に復活のチャンスはあるのか。正直言ってメッチャ面白い!!と絶賛する気にはまだなれないが引き続き期待継続。次巻は二月発売予定。

三巻ネタも入れました。特設ページはこちら。[2000/12] ⇒次巻

世に棲む日日 二
[司馬遼太郎] ★★★☆ 文藝春秋 文春文庫 (\457) [Amazon]

世に棲む日日〈2〉 (文春文庫)

国禁の海外渡航が露見し、国許へ蟄居の身となった松陰。安政の大獄で刑死するまでの三年間、粗末な小屋で有志の藩士相手に始めた松下村塾は多くの討幕論者たちを生み育てることになる。松陰の教え子の一人、高杉晋作は激烈な討幕の流れに身を投じていく。

全四巻の第二巻。幕末では会津藩好き(穏健派)に属するわたしなので、長州関係者は実は大嫌いです。謀略の限りを尽くし、勝つためなら手段を選ばない、どこか小狡いイメージが長州藩にはあります(ってわたしだけですか)。そんな長州藩の人々を特に美化するでもなく一定の距離を保ち、冷静な筆致で作者は描いていきます。ああ、早乙女貢にも見習って欲しい(笑)。次巻からは高杉晋作がメインのようです。[2000/12] ⇒次巻

魔の聖域 グインサーガ76 [栗本薫] ★★☆ 早川書房 ハヤカワ文庫 (\540) [Amazon]

魔の聖域―グイン・サーガ(76)

圧倒的な国王軍の前にナリス率いる叛乱軍は次第に追い詰められていた。援軍とも分断され、孤立無援のナリス軍は最後の決断を迫られていた。一方ナリスの妻にして国王の姉リンダはレムスに憑依したヤンダル・ゾックに誘われ恐るべき魔の世界を目の当たりにすることになる。

合掌>アルミナちゃん。もうどこに流れていってしまうのかヤーンのみぞ知るというところ。いまさらながらだけど作風ほんとに変わってしまいました。グインでこんなにお下劣路線に行かなくてもいいじゃん。リンダの魔界行編は読んでてどんどん白けてきました。前巻のヴァレリウスVSアグリッパはまだ読み応えがあったんだけどな。こうなると唯一ラブラブを謳歌しているグイン夫妻もやがて悲惨な末路が待っていそうです。しかしこの状態からどうやればレムスはパロ中興の祖になれるのだろうか。[2000/12] ⇒次巻

世に棲む日日 三
[司馬遼太郎] 
★★★☆ 文藝春秋 文春文庫 (\457) [Amazon] ※書影無し

禁門の変にて京での政争に敗れ、蛤御門の変では壊滅的な打撃を受け多くの有為の士を失った長州藩。暴走した藩論は晋作の思惑すらも越え過激化していく。四ヶ国連合軍との戦いに惨敗した長州に追い打ちをかけるように幕府の討伐軍が迫る。晋作は敢然と難局に立ち向かっていく。

西郷隆盛という圧倒的カリスマを戴いていた薩摩藩に対して、長州藩がいかに確固たる指導者のいない藩であったかよくわかります。これだけ内部抗争していてよくも無事に討幕をなしとげられたものです。内乱の果てに自滅しちゃった水戸藩とは大違い。まああくまでも小説なので話半分に読むとしても、幕末の歴史的情勢の劇的さっていうのは凄まじいもので、高杉晋作の人生に用意された数々の舞台の派手なこと派手なこと。こういうのを読むたびに事実は小説より奇なりってのは本当だなって思います。[2000/12] ⇒次巻

世に棲む日日 四
[司馬遼太郎] 
★★★☆ 文藝春秋 文春文庫 (\457) [Amazon] ※書影無し

藩論は一転し佐幕派が実権を握った長州藩。その最中、僅か八十八名の同志を引き連れて晋作はクーデターの狼煙を上げる。防長二国を激震させた内戦に勝利した晋作は幕府による第二次長州征伐をも退ける。しかしいつしかこの男の躰は病魔に蝕まれはじめていた。維新を目前にしながら高杉晋作は病に倒れる。

全四巻これで完結です。しかしメチャメチャです高杉晋作。まさに乱世の英雄。天に愛されているという圧倒的自負心のなせる技なのか、直感的に思い込んだら理屈抜き、ものすごいエネルギーで突き進みます。なにせクーデターで政権握ったのに、全てを投げ出して妾連れて脱藩しちゃうんだよこの人。いやこれはとても真似できない、凡人には到底理解出来ない境地です。作者も書いているけど確かに幕末の長州人は「狂い」という言葉を使わなければ理解出来ないのかもしれない。だいぶ幕末モードになて来たので、次は薩摩人を描いた『翔ぶが如く』を是非読んでみたい。[2000/12]

ボーン・コレクター
[ジェフリー・ディーヴァー] ★★★★ 文藝春秋 (\1,857) [Amazon]

ボーン・コレクター

連続殺人犯未詳823号。骨に対して異常な執着を見せるこの殺人鬼は犯行現場に必ず次の事件の手がかりを残していく。捜査に当たるNY市警はかつての名捜査官リンカーン・ライムに協力を要請する。四肢麻痺という重度の身体障害を抱えたライムは、現場の鑑識作業を全くの素人であるサックス巡査に依頼する。ライムとサックスのコンビは不協和音を奏でながらもボーン・コレクターの足跡を追っていく。

最初はあまりに長大なボリュームと『羊たちの沈黙』似の設定に辟易し、なかなか先に進まなかったのだが、中盤以降は一気読みでした。次々と発生する殺人事件。いずれの事件にも次の犯行への手がかりが残されており、主人公らが早く謎を解くことが出来れば被害者は助かるかもしれない。この設定はなかなかスリリングで読者をひきつけます。巧いなあ。ラストのどんでん返しに次ぐどんでん返しもお見事。安楽死への憧憬と生への執着の間で揺れ動くライム。丹念にライムの心象風景を描写してきただけあって、ラストの壮絶な展開はものすごいカタルシス。思わず快哉を叫んでしまいました。

お願いだから登場人物リストをつけっててば>文藝春秋。こんなに長い話なんだからそれくらいして下さい。全然外国人の名前を覚えられないわたしは最後の最後で犯人を勘違いしてしまいました(泣)。[2000/12] ⇒次巻

星虫 [岩本隆雄] ★★★ 朝日ソノラマ ソノラマ文庫 (\571) [Amazon]

星虫

氷室友美の夢は宇宙パイロットになること。しかし高校生となった今、現実は必ずしも友美に対して友好的なものではなかった。そんなある日突然地球に降り注いだ数十億もの星虫たち。人間の額に張り付いたそれは感覚機能を飛躍的に向上させる機能を有していた。誰もが当初は星虫を受け入れていたが、無気味なまでに成長を続けていく星虫を前に人々の嫌悪感は高まっていく。

祝!岩本隆雄復活。『星虫』『鵺姫真話』『イーシャの舟』と三冊揃ったので一気読み態勢に入りました。

元々は新潮社主催の第1回ファンタジーノベル大賞の最終候補作。選には漏れたものの新潮文庫のファンタジーノベルシリーズとして出版……されたのが1990年。しかしその翌年『イーシャの舟』を上梓したものの以来長い沈黙状態に。作者に天啓が訪れたのか、ファンの声が届いたのか、はたまた朝日ソノラマの編集者が頑張ったのか、何故かソノラマ文庫で加筆修正の上で復刊されました。

ネットに関しての記述とか微妙に小道具はいじってあるけれども本筋は当然変わってません。「夢は、叶えるためにあるのだから」と臆面も無く真っ正面から語りきってしまう直球勝負もそのままです。懐かしく再読。ワカモノに是非読んで欲しい一冊。三十路男が再読すると★★★ですが、二十代前半で初めて読んだ時は★★★★でした。[2000/12]

ついでに…… 
『イカロスの誕生日』@小川一水   <<類似テーマつながりで。

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ぼくらは虚空に夜を視る
[上遠野浩平] ★★★ 徳間書店 徳間デュアル文庫 (\590) [Amazon] ※書影無し

平凡な高校生の自分。ちょっとクラスで浮いていたり、野球部の連中とトラブル起こしてたりもするけど概ね普通の高校生。工藤兵吾。でも超光速戦闘機ナイトウォッチを駆り人類の生き残りを賭けた戦いに忙殺されているのも同じ自分。錯綜する現在と異世界。ほんとうの自分はどこにいるのか……

やっと読んだ。これも四ヶ月もほったらかしでした。徳間デュアル文庫創刊ラインナップ中の目玉作品は間違いなくこれ。よく上遠野浩平を引っ張ってこれました。この点は編集者のプロデュース能力を誉めていいだろう。

ありがちな設定も上遠野文体で書かれるとなにやら哲学めいてくるから不思議。上遠野作品中最もSF色の強い作品じゃないかと思うのだが、これって他作品とリンクしてくるんでしょうか。多層構造の世界観はいくらでも他シリーズとくっつけられそうです。虚空牙って何かで読んだ気がするんだけどなんだったっけ?わたしの弱い脳ではよく理解出来なかったので続編希望。[2000/12] ⇒次巻

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女彫刻家 [ミネット・ウォルターズ] ★★★☆ 東京創元社 創元推理文庫 (\920) [Amazon]

女彫刻家

実の母と妹を切り刻み、血まみれのオブジェを作り上げた女オリーヴ・マーティン。フリーライターのロズは依頼を受けオリーヴのルポを書くことになる。調査していくうちに次々と浮かび上がる疑惑。彼女の精神鑑定は全くの正常。にもかかわらず一切の弁護を拒絶。黙々と無期懲役の刑に服しているのだ。事件の真実を追い求めるロズの前に意外な真相が明らかにされる。

96年「このミス」海外部門第一位作品。そんなに出番は多くないのに、主人公を凌駕する強烈な存在感を示す「女彫刻家」オリーヴ・マーティン。このとてつもなく「濃い」キャラクターの暗黒波動が読んでいてぴりぴりと伝わってきます。レクター博士やボーン・コレクターにもこれほどの嫌悪感は感じなかったのに。想像したく無いんだけどいろいろ想像しちゃって気分がどんよりしてきます。素晴らしい(逆説誉め)。

しかし長いというか冗長というか読んでてお腹一杯になってしまうのがわたし的ミネット・ウォルター観なのですが、本作もその例に漏れてません。とても面白いテーマだし、結末も毎回ひねりが効いていて楽しめるんだけどいかんせん枝葉が多すぎる。20%はボリュームを絞れるような気がします。[2000/12]

女性を悦ばせる顧客満足
[中谷彰宏] ★★ 日本実業出版社 (\1,300) [Amazon]

女性を悦ばせる顧客満足

女性を悦ばせるサービスにはまだまだ多くの可能性が残されている。バツイチ、一人暮らし、帰国子女、オタク系、お嬢様、自宅住まい等、様々なタイプの現代女性の部屋に注目を向け、ライフパターン毎にビジネスチャンスを模索する。

会社にあった本だけど時間が余ったのでついつい読んでしまいました。失敗。中谷彰宏はほんとに商売上手です。タイトルからして姑息です。「喜」でなくわざわざ「悦」なんて漢字を使わなくてもいいだろうに。これでスケベな男が買ってくれたら大成功です。その程度の志しか読み取れない軽い本です。字が大きくてものすごく読みやすいので、電車の行きかえりでさらっと読めます。それで一つでも得るところがあればラッキー。でもこの作家の本ってけっこう売れているのだ。これが時代の趨勢という奴なのだろうか。なんだか納得がいきません。[2000/12]

星虫 <旧版>
[岩本隆雄] 
★★★ 新潮社 新潮文庫ファンタジー・ノベルシリーズ (\480) [Amazon] ※書影無し

氷室友美の夢は宇宙パイロットになること。しかし高校生となった今、現実は必ずしも友美に対して友好的なものではなかった。そんなある日突然地球に降り注いだ数十億もの星虫たち。人間の額に張り付いたそれは感覚機能を飛躍的に向上させる機能を有していた。誰もが当初は星虫を受け入れていたが、無気味なまでに成長を続けていく星虫を前に人々の嫌悪感は高まっていく。

比較のため旧作も読んでみることにしました。で、主な変更点ですが細かいところからいくとインターネットの普及とソ連邦の崩壊という当時としては予想しえない事態に対応して関連部分の記述が差し変わっています。それから友美たちの担任教師がUFOを見に行った際のエピソードが微妙に変わっています。「現場で教え子と出会って後に結婚」という意味深な修正は次回作への伏線なのでしょうか。

ラストで秋緒が乗っている車椅子も手動タイプから電動タイプに変更されています。が、それよりも問題なのは介添者が増員されていること。この旧版では「三人の外国人」だったものが新版では「まだ中学生くらいの小柄な東洋系の女の子」が追加され四名になっています。この女の子は『鵺姫真話』『イーシャの舟』に登場する川崎純なのでしょう。シリーズに連関性を持たせる意味での変更でしょうか。

そして細かいながらも大事なのが星虫による被害者数の違い。最終的な全世界死亡者数は旧版では四百名弱に及んでいたのが、新版では百名以上の入院者を出しているものの死者はゼロ。残虐性を緩和させたのかな、とも思いましたが、これ実は矛盾の解消を図る措置なのかもしれない。旧版では友美と寝太郎以外の星虫最終形態保持者は死亡してしまうわけで、これでは彼らは「特別」な存在になってしまう。別に他の地球人でも星虫を宇宙へ帰せる人間が居てもよかったわけだから。この点新版では最終形態を受け入れたのは友美と寝太郎だけだったという設定に修正されています。なるほどね。[2000/12]

鵺姫真話 [岩本隆雄] ★★★☆ 朝日ソノラマ ソノラマ文庫 (\571) [Amazon]

鵺姫真話 (ソノラマ文庫 (912))

姫森神社のご神木に宿るとされる「鵺姫さま」は二十五年の寿命と引替えにどんな願いでもかなえてくれるという。宇宙飛行士の選に漏れ失意のうちに帰郷した川崎純はある日、神社の境内で巨大な生首に追われる少年に遭遇する。それは「金色ののはら」に通じる途方も無い事件のはじまりだった。

『星虫』はリメイク版なので、実質的な岩本隆雄の復帰第一作は本著となります。なんとタイムトラベルものにチャレンジ。古くは『時をかける少女』から最近では『タイム・リープ』まで数多くの傑作が名を連ねる定番ジャンルなのだが、それだけに生半可なネタの捌きかたでは読者は納得しないのだ。

しかし十年寝ていただけあって(笑)、なかなか良い仕上がりです。ある程度まで読むと物語の構造はだいたい予想はついてしまう。中盤までの展開は少々説明しすぎでもたれ気味の感もある。が、広げた大風呂敷をきっちりと畳みに来る後半の怒濤の展開。ラストで次々と繰り出されるめくるめくサプライズの連続には酔いました。あえて類例をあげるとすれば広瀬正の『マイナスゼロ』に近いかな。

本作は当初『金色ののはら』という仮題でパブリシティが先行していたのだが、正式タイトルは『鵺姫真話』になってしまいました。内容的には前者の方が的を射ていてより相応しいと思うのだがなんで変えてしまったのだろう。[2000/12]

レキシントンの幽霊 [村上春樹] ★★★ 文藝春秋 文春文庫 (\419) [Amazon]

レキシントンの幽霊 (文春文庫)

友人宅の留守番を頼まれた「僕」が体験した不思議な事件を描いた表題作を始め、突如現れた緑色の獣との邂逅を描く「緑色の獣」、あるイラストレータの人生を描いた「トニー滝田」、少年時代のトラウマに翻弄される男を描く「七番目の男」など、計七編の短編を収録。

一番最後に読んだ村上春樹はご多分に漏れず『ノルウェーの森』。ミーハーな読者で申し訳ないです。まだワカモノだったわたしは表層的な猥雑さにドキドキしただけで終ってしまったような記憶があります(後で読んだ親はびっくりしてたしな)。というわけでわたしは良い村上春樹読者ではありません。

これは先日のオフのいただきものです。なんと10数年振りで村上春樹作品に挑戦。苦戦するかと思いきや、思ったよりもすんなり読めてしまったので驚きました。七作ひっくるめて強引にまとめちゃう。人の心に澱のようにように沈殿していく孤独。誰とも深い絆を持ちえなかった孤独、群集の中での孤独、伴侶と判りあえない孤独……と、本書は全編を強烈な孤独感が横溢している。しかしそれは決して悲壮的なものではなく、不思議なことに奇妙な明るさを湛えている。ああ、人間孤独でも別にいいのかな、そんな生きかたもあるよね。なんて妙なシンパシーを覚えてしまうのでした。こういうところが受けるのかな。[2000/12]

消えたマンガ家 ダウナー系の巻
[大泉実成] 
★★★☆ 新潮社 新潮OH文庫 (\600) [Amazon]

消えたマンガ家―ダウナー系の巻 (新潮OH!文庫)

かつて一世を風靡しながらもいつしか表舞台から消え去っていったマンガ家たち。日本マンガ界死屍累々の歴史の中から埋もれていった作家たちを掘り起していく迫真のドキュメント。本書では出版界の圧力の中で消されていった八名の作家(ちばあきお/山田花子/鴨川つばめ/阿部慎一/中本繁/冨樫義博/内田善美/ねこぢる)を取り上げる。

元々は太田出版から96〜97年に発売されていた『消えたマンガ家1・3』を文庫化にあたり加筆修正、更に『クイックジャパン』誌に掲載されていた「ねこぢる」篇を追加収録したもの。

読みたかった本なので文庫化されて嬉しい。過労死に近い形で死んでいったちばあきお、自殺した山田花子とねこぢる。激務の中で筆を折った鴨川つばめ。遂にその天才は理解されなかった阿部慎一。まさにマンガ界は死屍累々。大手出版社による作家の使い捨て構造の深淵をこれでもかといわんばかりにえぐり出していく良書です。作家ごとに章は分けられており、章ごとにその形態はさまざまで、ロングインタビューあり、正統派の追跡レポートあり、時にはファンレター形式までとバラエティに富んでいて飽きさせない。

『HUNTER×HUNTER』で人気絶頂の冨樫義博がラインナップに入っていることはややもすると意外な感もあるが、これは『幽遊白書』から『レベルE』までの空白の時期を追いかけたレポート。出版界から圧殺されようとした冨樫がやがてその立場を逆転、併せて悪名高いジャンプシステム(読者人気最優先。どんな大家でも人気がなければ10週で打切り)の疲弊化について描いていく。

しかしなによりも気になったのは内田善美。主に少年誌しかフォローしてきていないわたしにとってこの作家は全くのノーチェック。集英社系の少女漫画雑誌『リボン』『ぶ〜け』で活躍していたらしい方なのだが、本書での扱われかたが並み大抵ではありません。全文手紙形式。半分ストーカー入っているようなすごい思い入れの入った紹介の仕方です。筆者の怨念をひしひしと感じます。ここまで書かれると読んでみたくなるぞ。[2000/12] ⇒次巻

消えたマンガ家 アッパー系の巻
[大泉実成] 
★★★☆ 新潮社 新潮OH文庫 (\638) [Amazon]

消えたマンガ家―アッパー系の巻 (新潮OH!文庫)

かつて一世を風靡しながらもいつしか表舞台から消え去っていったマンガ家たち。日本マンガ界死屍累々の歴史の中から埋もれていった作家たちを掘り起していく迫真のドキュメント。本書では圧倒的な絶頂を極めた後に自己崩壊を遂げていった八名の作家(とりいかずよし/ふくしま政美/山本鈴美香/美内すずえ/黒田みのる/徳南晴一郎/竹内寛行/鳥山明)を取り上げる。

元々は太田出版から96〜97年に発売されていた『消えたマンガ家1・2・3』を文庫化にあたり加筆修正、更に『クイックジャパン』誌に掲載されていた「鳥山明」篇を追加収録したもの。

このシリーズには筆者以外にも多くの協力者が存在する。『クイック・ジャパン』編集長赤田氏と赤田機関。「ふくしま政美研究家」宇田川岳夫。いずれも想像を絶するヲタク連中で、こんなのを読むとまだまだ俺って一般人とちょっと安心しますです。しかしこの人たちがマンガを語る時の楽しそうなことったらないです。ああ、みんなマンガ好きなんだよなあと幸せな気持ちになります。メジャー作家の時よりも、マイナー系の作家を語る時の方が圧倒的に力が入ってる。このあたり、ヲタクの真骨頂といえるのかもしれない。

とはいえ今はマンガ家を辞め全く別の世界で生きている彼らについての取材は困難を極める。特に宗教へのめりこんでいった作家たちへのアプローチはもはや通常のルートでは不可能なのだ。筆者の大泉は少年時代をエホバの証人信徒として過ごし、後に棄教したという経歴の持ち主。それだけに理不尽な宗教団体への問題意識は強い。当たり前のように潜入取材を試みてしまう行動力には敬服します。しかし山本鈴美香や美内すずえがあんなことになってるなんてショック〜。[2000/12]

知られざる特殊特許の世界
[稲森謙太郎] ★★★ 太田出版 (\1,600) [Amazon]

知られざる特殊特許の世界

「松下電器の漫才人形」「NECのUFO推進装置」「麻原彰晃の焼却炉」「大仁田厚の特殊リング」「鈴木その子のダイエット食品」数々の知られざる特殊特許を紹介。それと共に現在の特許行政の実情、最近多くなってきたビジネス特許モデルついてなど、特許について判りやすく解説していく。

インパクトだけで即買いしてしまいました。またしても太田出版です侮れません。珍しい特殊な特許(出願されているだけで許可されていないものも多い)の数々。豊富なイラスト(もちろん出願者が添付したもの)で判りやすく解説されている。コラム形式で特許についての法的なマメ知識や、現在の特許事情についても細かく説明してあり、意外にも「ためになる本」でした。

最も素晴らしかったのは小林英人氏による「HIDETOに基づく航空、宇宙関連の物や手段と全ての関連物を利用した手段や銀行の運用又は経営法」。特許請求の範囲は「全ての物や空間や時間」。どうやら世界は全てこの小林英人氏のものらしい。また審査請求されていないらしいので今後の特許庁の対応が楽しみです。認可されちゃったりして(笑)。[2000/12]

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