2001年2月

今月は『鉄コミュニケイション』に尽きます。
こないだの『猫の地球儀』よりも個人こちらの方がわたし的には好みです。
残る『EGコンバット』を読むのが今から楽しみです。
ようやく発売された『リセット』。やや拍子抜けするくらいストレートでひねりの無い作品でしたが、
登場人物の思いがひたひたと伝わってきて素直に「良かったね」と言ってあげられる佳品でした。

書籍名
作家名
出版社
価格
コメント
お薦め度
エヴァンゲリオンの夢 大瀧啓裕 東京創元社
\3,400
大瀧センセ素晴らしいです。
★★★☆

真説 謎解き日本史

明石散人 講談社
\552
ちょっと飽きてきました。ネタ被りすぎ。
★★☆

図南の翼

小野不由美 講談社
\695
復刊シリーズこれで最後。次は新作十ニ国だ!
★★★☆

リセット

北村薫 新潮社
\1,800
待っただけのことはありました。
★★★★
五稜郭 杉山義法 角川書店
\420
見るべきものは無し。
★★

<柊の僧兵>記

菅浩江 徳間書店
\590
再読。初読なら楽しめる。緒方ファンも買おう。
★★★

上と外 4
神々と死者の迷宮 下

恩田陸 幻冬舎
\419
とてもあと一冊で終るとは思えません。
★★★☆

疑惑の月蝕
グインサーガ77

栗本薫 早川書房
\540
あやしすぎ。誰も信じてないってば。
★★★
将軍の娘 上 ネルソン
・デミル
文藝春秋
\544
一気に読めます。読みやすい。
★★★
将軍の娘 下
\505

MAZE [めいず]

恩田陸 双葉社
\1,500
3/4までは絶好調なの。
★★★☆
ロシア紅茶の謎 有栖川有栖 講談社
\543
わりと普通です。
★★★

ブギーポップ・パラドックス
ハートレス・レッド

上遠野浩平 メディア
ワークス
\530
中学生モード凪に萌えて下さい。
★★★☆

鉄コミュニケイション1
ハルカとイーヴァ

秋山瑞人 メディア
ワークス
\530
ライトノベル界の至宝と断言しときます。
★★★★

鉄コミュニケイション2
チェスゲーム

\630

チョコレート工場の秘密

ロアルド
・ダール
評論社
\1,400
いまの時代にちょっとつらいかも。
★★☆

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エヴァンゲリオンの夢 [大瀧啓裕] ★★★☆ 東京創元社 (\3,400) [Amazon]

エヴァンゲリオンの夢―使徒進化論の幻影

日本アニメション史に残る名作『新世紀エヴァンゲリオン』。数多くの難解な謎を残して完結したこの作品に碩学大瀧啓裕が挑む。二年余りの歳月をかけ、二段組み400頁強を費やして徹底的に読み解かれたエヴァンゲリオンの真実の姿とは。

先だって古本で入手。発行日を見ると2000年8月となっている。『新世紀エヴァンゲリオン』が放映されていたのは1995年〜96年にかけてだからなんと5年も前のアニメ作品に関しての評論本なのである。頁数は400ページを越え、価格は3,400円。しかも版元は東京創元社なんてまるでアニメとは畑違いの出版社である。わざわざ今になって出してくる辺りにそんじょそこらのブーム便乗本との気合いの違いを感じざるを得ません。

オープニングについての解題からして既に圧巻で目から鱗が落ちるというより、鱗があったこと自体ここで初めて知らされるありさまでほとほと感服させられます。この調子でテレビ版の1話〜最終話、映画版の25、26話について微に入り細をうがった怒濤の分析が続いていくのである。これほどの評論を受け止めるにはこちらもそれなりの礼儀を持ってせねばなるまい(笑)。ってことで全話見直しながらいちいち読んでいたら読了まで1ヶ月もかかってしまいました。

零号機コア=赤城ナオコ説や、レイは全て同一人物説、トリックスター葛城ミサト説、使徒は全てカヲルに収斂する説等々、導きだされる結論の数々にただただ圧倒させられるのでした。あのわけわかんなかった映画版もなんだか判ったような気になってきたぞ。決して皮相的な捉えかたをせず、細かい描写の数々に徹底的にこだわって検証していく真摯な取り組みかたが印象的でとても好感が持てました。これも一つの有り得べき解釈の一つに過ぎない訳だけど、かなり完成度の高い解答ではあると思います。[2001/02]

真説 謎解き日本史 [明石散人] ★★☆ 講談社 講談社文庫 (\552) [Amazon]

真説 謎解き日本史 (講談社文庫)

『忠臣蔵』松の廊下事件の真相。放浪の歌人西行法師の真実の姿とは。武蔵坊弁慶の驚くべき正体。竹島はやっぱり日本領土。天に舞う凧はもともとはイカだった。などなど稀代の博覧強記が次々に解き明かす歴史の蔭に埋もれた真相の数々。

史料を駆使してああだこうだとミステリアスな歴史的事件にメスを入れていくのは相変わらず刺激的ではある。ただ、いずれのエピソードもあまりに内容が短く説得力に欠ける。結果として突飛な結論だけが浮き上がってしまうのが残念。名作『東洲斎写楽はもういない』レベルのボリュームでそれぞれのネタを料理して欲しいんだけど。他作品とネタがかぶるのもいただけない。[2001/02]

図南の翼 [小野不由美] ★★★☆ 講談社 講談社文庫 (\695) [Amazon]

図南の翼 十二国記 講談社文庫

供国が王を失って二十余年。日増しに荒廃の色を濃くする国土にあって、都屈指の豪商の娘珠晶は一人蓬山を目指す。……王となるために。苦難の末に辿りついた蓬山だったが、そこは我こそは王位にと昇山に訪れた人々で溢れていた。妖魔の棲むという呪われた地で、王位を目指す過酷な旅路が始まろうとしていた。

十二国再刊シリーズもこれでようやく最後。本作は前作『風の万里 黎明の空』でちょこっと出てきた珠晶が主人公。十二国史上最年少十二歳の少女が登極するまでの物語。例によってのワカモノ成長物語なんだけど、説教臭くなるかならないかのぎりぎりの線で踏みとどまっていて、この辺の匙加減は相変わらず巧いと思います。キャラクターの正体を伏せておいて最後にあっと驚かせるってのもいつものパターンなんだけど、犬狼真君の正体はさすがにびっくりしました。再読なのに全然覚えていないわたし。シリーズ通して読んでるとこういうサービスは実に嬉しい。[2001/02] ⇒次巻

リセット [北村薫] ★★★★ 新潮社 (\1,800) [Amazon]

リセット

水原真澄は神戸に住む女学生。比較的裕福な家庭に生まれ育ち平穏な生活を送っていた。しかし戦争の足音は着実に彼女の平和な生活を脅かしていく。日増しに悪化する戦況の中、授業は無くなり、生活物資は不足しはじめ、勤労奉仕の生活が始まる。そしてついに激しい空襲が神戸の街を襲う。疎開が決まった日、真澄は淡い想いを寄せる修一の元を訪れるのだが……

お台場を走る新都市交通システム「ゆりかもめ」に乗っていると船の科学館に場違いとも思える大きな飛行機が展示されているのが見えます。真澄たちが関った機体はあれなのでしょうか。機体の一部とはいえ、これ程の兵器を年端もいかぬ女学生たちが作ったのかと思うと驚嘆を禁じえません。

さて、待たされましたが<時と人>シリーズの第三作目が遂に出た。前作『ターン』では頻繁に時が揺れ動いていましたが、本作では時ではなく人の想いが跳びます。輪廻転生を描いた本作は意外にもシンプルな構成。直球勝負です。最初にしし座流星群のエピソードが語られた段階で、ああ、きっとこれが核となる二人の思い出になるのね、なんて擦れた読者は思ってしまい、大体のオチも読めてしまうのですが、それぞれの時代描写を根気良く丁寧に積み重ねていくことで登場人物たちの存在感は次第に確かなものなっていて、オチがわかっていてもラストのカタルシスは一向に減じるものではないのでした。直球勝負と簡単には言うけれども、それって本当に実力が無いと出来ないものです。

奇しくも恩田陸の『ライオンハート』とネタかぶりました。恩田は若手作家らしく様々な属性をそれぞれのエピソードに取り込んでいこうという冒険心が見て取れる一方で、北村の場合はどっしりと腰を据えて一本筋の通った物語を紡ぎ上げたように思えます。また『ライオンハート』は女性受けしそうですが、『リセット』は男性受けしそうな気がします。これも作家の性別が反映しているのだろうか。[2001/02]

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五稜郭 [杉山義法] ★★ 角川書店 角川文庫 (\420) [Amazon] ※書影無し

幕府の誇る最新鋭蒸気艦開陽に乗り組み意気揚々と日本への帰国を果たした榎本釜次郎。しかし頼むべく徳川政権は既に末期状態となっていた。ほどなくして将軍慶喜によって大政は奉還される。戊辰の動乱に巻き込まれていく釜次郎。敗北を続ける彼らが最後に立て籠ったのは北辺の地五稜郭だった。

以前日テレの年末時代劇でやっていた同名ドラマの原作なんだそうだ。ここんとこ幕末物を読んでいたので読んでみた。全然知らない作家なので憶測で恐縮なんだけど、ドラマの原作というよりはノベライズなのでは?思うような点が多々ある。人物の描写は平板で厚みが無く、既にあるドラマのキャストのイメージに寄り掛かりすぎているように思えて仕方がないのだ。

そしてなによりも不満な点。榎本は五稜郭戦の降伏から数年後、明治政府に仕えることになるのだが、ともすれば「変節」と断じられても仕方の無いようなこの行為について納得の行くような理由が全く示されていない。そんな状態でラストに「俺達の夢は死んでいないッ」とか叫ばせても白けるだけなんだってば。[2001/02]

<柊の僧兵>記 [菅浩江] ★★★ 徳間書店 徳間デュアル文庫 (\590) [Amazon]

“柊の僧兵”記

ミルンは砂漠の民の間に生まれる出来損ない「白い子供」だ。体力に劣り、自然の猛威を事前に察することの出来ない彼は村の厄介者でしか無かった。しかし突然現れた未知の来襲者の前に村は全滅。唯一生き残ったのはミルンとそして同じ白い子供であるアジャーナだった。二人は事件の真相を<柊の僧兵>を探す旅に出る。

1990年にソノラマ文庫で発売された作品のリバイバル版。デュアル文庫一連の復刊政策の一環なのでした。元々菅作品ファンではあるのだけれど、緒方剛志のイラストに惹かれて再度購入。というわけで久々の再読となります。

菅作品では多くの場合ファンタジーの殻をかぶりながらも、物語の根幹をなしているものは紛れも無くエスエフです。次第に物語の真相が明らかにされていく中で剥き出しになっていくエスエフの魂。来るぞ来るぞと判っていてもエスエフ好きに取っては嬉しい作品です。描き出されるファンタジックな数々のイメージも秀逸。清く正しく美しい正統派少年成長譚といえるでしょう。

とはいいながらもエスエフとミステリは再読には向かないジャンルであることは言うまでも無く、ネタが割れている分あまりに都合の良すぎる展開(すぐに僧兵に会えてしまう。いきなり宇宙船も操縦出来ちゃう等々)にかなり醒めます。初期の作品だからということもあると思うので、既に刊行が予定されている『メルサスの少年』に期待。個人的には『オルディコスの三使徒』を復刊して欲しいぞ。[2001/02]

上と外 4 神々と死者の迷宮 下
[恩田陸] ★★★☆ 幻冬舎 幻冬舎文庫 (\419) [Amazon]

上と外〈4〉神々と死者の迷宮(下) (幻冬舎文庫)

ニコと名乗る謎の少年によって監禁された千華子。追い詰められた練は儀式への参加を強要される。王と呼ばれる獰猛なジャガーの徘徊する古代遺跡の中で三日間に及ぶ少年たちの死のゲームが始まる。一方クーデター勢力からの逃亡を果たした賢一行はこの事件に改めて奇妙な違和感を覚えるのだった。

快調なペースで四冊目。長い助走期間を終えて、ようやく物語がスリリングな動きを見せはじめた。いかにも恩田的な妙にシステマティックな「ゲーム」の今後の展開はとても気になるところ。物語の根底に流れるより大きな流れについてもようやく言及されてきて興味をそそられます。

しかし残り一冊でホントに終れるのか?儀式がはじまってまだ一日だし、千華子のその後や賢パパ一行の動き、んでもって日本の楢崎ファミリーの動向もあるわけで、全然ボリューム足りそうにないです。カバー見開きで作者がほのめかしているように実は全五巻ではないのかも。全五巻でなく全五編だったら話はわかる。だとしたらまだ第三編までしか来てないわけで、まだまだ続きが書けるわけだ。ちゃんと終らせてくれれば、長くなる分には一行にかまわないよん。

特設ページはこちら。[2001/02] ⇒次巻

疑惑の月蝕 グインサーガ77
[栗本薫] 
★★★ 早川書房 ハヤカワ文庫 (\540) [Amazon]

疑惑の月蝕―グイン・サーガ(77)

アルド・ナリス死す!戦場に突如響き渡る信じられないその叫びに誰もが愕然となった。圧倒的な国王軍に包囲され追い詰められたナリスは遂に自らの命を断ったのだという。呆然立ち尽くす武将達。そのあまりに衝撃的な訃報は中原に新たな波紋を呼び起こそうとしていた。

まあ、誰も信じてないだろうし、そもそも「疑惑」の月蝕なんてタイトルにしてるくらいなので作者自身ユーザーに「ナリス死す!」と信じさせようと考えて書いてるとはとても思えない。作者の美学的にもナリスの死に様がこんな情けないものである筈もなく、あれだけ策謀大好きなナリスがここで死ぬわけはないだろう。わたし的にはラーナ大公妃入れ替え説を取りたいところだけど、スカールがナリスの死体は偽物じゃ無いって断言してるしなあ。どうオチをつけるかが見物といえましょう。[2001/02] ⇒次巻

将軍の娘 上・下
[ネルソン・デミル] 
★★★ 文藝春秋 文春文庫 (\544・\505) [Amazon:/]

将軍の娘〈上〉 (文春文庫) 将軍の娘〈下〉 (文春文庫)

美貌のエリート大尉が殺害された。しかも全裸で手足を杭にしばりつけられたまま絞殺されたのだ。偶然同じ基地に居合わせた合衆国陸軍犯罪捜査部に所属するブレナー准尉は早速事件の解明に乗り出す。被害者の父親は湾岸戦争の英雄キャンベル中将。各方面からの政治的圧力に妨害されながらもブレナーは真相に迫っていく。

映画化までされた話題作。主人公の一人称で物語は進行していく。訳がいいのかもしれないがとても読みやすい。しかし、自分の見聞きしたことしか書けないのが一人称であるわけで、この手の複雑に人間関係が入り組んだタイプの作品で一人称は珍しいのではないだろうか。

主人公はヴェトナム戦争にも従軍した歩兵上がりの捜査官。極めて有能。離婚歴アリ。気まずい別れかたをしたかつての恋人が今回のパートナー。卓越した行動力で事件の真相に肉薄していくが、年齢的なこともあってか、いま一つ積極的に意中の女性に迫ることが出来ないでいる。……なんていかにもアメリカ映画の主人公にありがちなキャラ造形ではありますがよく書けてます。

しかし本質的にはこの話は悲劇の筈なんだけれど、これだけ徹頭徹尾セックスが絡んでくると妙に滑稽な雰囲気になってくるから不思議。たった一人の美人大尉の前に壊滅に追い込まれたフォート・ハドリー陸軍基地上層部の皆さんに合掌。[2001/02]

MAZE [めいず] [恩田陸] ★★★☆ 双葉社 (\1,500) [Amazon]

MAZE(めいず)

アジアの西の果て。険しい谷の行き着くところ、白い荒野のただなかにそれはあった。原住民たちからは「存在しない場所」「あり得ぬ場所」として畏れられる白い構造物。そこに入り込んだものは忽然消えうせるのだという。その忌まわしき地に四人の男がたどりついた。この地の謎を解き明かすために。

存在しない場所、あり得ぬ場所として忌避されてきた白い建造物。数多くの人々を消してきた白い匣。内部は迷路状の回廊となっており、入るたびにその道筋を変える。そして白い壁は年を追うごとに堅牢さを増しているのだという。一章での魅力的な謎の提示。二章での幻想的な解題。そして三章での戦慄の暗転。と、ここまで美しく謎を構築しておきながら、最後の四章でかくも世俗的な着地を決めてくるとは(呆気)。ここまでに俗に落としますか。恩田らしいといえば実に恩田らしい第四章ではある。あいかわらず第三章までは絶好調だ。

あえて強弁してみるならば、美しい造形物というものは「ああ奇麗だ」「素晴らしい」と思う反面、時として無性に壊してみたり、汚してみたくなるもの。また滅びてはじめて永遠の命を得るものなのかもしれない。世俗の埃に塗れながらもきっとMAZE(豆腐って書いちゃうと気分出ないよね)の本質は何も変わっていない筈。その場所は今もあり、その中には永遠に続く一瞬があるに違いないのだ。[2001/02] ⇒次巻

ロシア紅茶の謎 [有栖川有栖] ★★★ 講談社 講談社文庫 (\543) [Amazon]

ロシア紅茶の謎 (講談社文庫)

若手作詞家が毒殺された。彼が死の直前に飲んだ一杯のロシア紅茶に捜査陣の注目は集まる。果たして誰がいかなる方法で毒物を混入させたのか……。快刀乱麻を断つ推理の冴えを見せる犯罪臨床学者火村英生の活躍を描く表題作を始め、六編の短編を収録。エラリー・クィーンの名作に因んだ有栖川版国名シリーズの第一巻。

不勉強なわたしはクィーンをほんの一カジリしかしていないのですが、本家の国名シリーズはいずれも長編作品で名作揃い。有栖川のそれは短編集。国名を冠しているのは表題作だけで、しかも他の作品が国名をテーマとした共通モチーフで描かれているわけでも無いので確かにちょっと苦しい。内容的にも可もなく不可も無くといった作品集でした。なんだか名探偵コナンみたい(失礼)。しいて挙げるとするならば「動物園の暗号」はわりと面白かったかな。珍しく考えたら解けた謎でした(普段は滅多に当たらない)。しかしJRのダイヤ改正で、これももうすぐ成立しなくなるネタとなりますね。[2001/02]

ブギーポップ・パラドックス ハートレス・レッド
[上遠野浩平] 
★★★☆ メディアワークス 電撃文庫 (\530) [Amazon] ※書影無し

九連内朱美は<傷物の赤>と呼ばれている。朱美は幼くして二親に捨てられた。何の力も無い少女が頼ることが出来たのは自らの力だけ。以来統和機構の構成員として、偽りの家族と共に孤独な人生を送ってきた。誰も頼らない。誰も信じない。しかしそんな彼女の前に初めて心を許せると思える少年が現れる。

久々のブギーポップの新刊は少し時間を遡って霧間凪の中学生時代のエピソード。凪メインの話では無いのだが本作は<炎の魔女>誕生譚でもあるわけで見逃すわけにはいかない。様々なエピソードをつなぐ環の一つともいえる作品。中学生モードの凪が臆面も無く正論吐きまくるのが実に微笑ましいです。このころはまだまだひねくれて無かったのね。シリーズ第三作『パンドラ』に出てきた<オートマティック>辻希美がちょっとだけ顔を出すのもファンには嬉しいサービス。

さて本作のヒロイン九連内朱美(凝りすぎた苗字は思いっきり読み手がずっこけるので加減を考えて下さい)。本作が小野不由美作品だったら百ページは分厚くなって、朱美の前半生の涙無しには語れない悲惨なエピソードがこれでもかとばかり散りばめられたことだろう。上遠野作品はいつものことながらキャラクターの内面描写が控え目で、もうちょっと書き込んでいれば感動の名シーンになったであろう幾多の場面もさらっと流していく。だから魂から血を流すような朱美の悲痛な叫びも読み手のココロに届かない。「感動」を前面に押し立てた上遠野作品なんて読みたくも無いのは確かなのだけれど、キメどころではしっかり泣かして欲しいのだな。でもこれってかなり無理言ってるか?[2001/02] ⇒次巻

鉄コミュニケイション 1・2
[秋山瑞人] 
★★★★ メディアワークス 電撃文庫 (\530・\630) [Amazon:1巻/2巻] ※書影無し

ハルカは推定年齢十三歳。ちょっとばかり記憶喪失中、ついでに人類最後の生き残りかもしれない女の子だ。荒れ果てた未来の地球。残されたロボットたちと平和な生活を送っていたハルカだったが、その前に彼女そっくりの少女イーヴァが現れる。平穏そのものの毎日を過ごしていたハルカの日常は少しずつ慌ただしいものとなっていく。

既に名作の誉れ高い本作。昨年読んだ『猫の地球儀』も素晴らしかっただけに期待は高まるのだ。元々はたくま朋正による同名コミック(原案:かとうひでお)のノベライズとして企画された作品。どっちが先なのかはわからんけどWOWOW枠でアニメ化もされているようです。全然知らなかったよ。

『猫の地球儀』は猫たちの物語。誇り高き猫たちの人生を哀感込めて綴った作品でありました。そして本作は一匹の犬の物語。遥かな年月を越えて飼い主を慕い、記憶を封じられながらもその姿を追い求め、遂に再会を果たし、命を賭して雄々しく戦い主を守りぬく。そんな一匹の犬の物語です。今回も泣きます。号泣です。ちり紙の用意を十分してから読みましょう。決して後半は電車の中なんかで読んではいけません。

コールドスリープから目覚め、記憶を失ったまま、ただ一人の人類としてロボットたちと共生していくハルカ。力も強く、食事もいらず、眠ることもしなくて良い機械の命。それは汚れ多き人の身たるハルカにとっては憧れの存在。で、あるが故に自分と瓜二つのイーヴァはかくありたいと願った自分そのものだった。

そしてイーヴァ。ロボットして生まれながら、人の姿に似すぎていたがために生まれながらにして四肢を喰われ、仲間たちの屍を寄せ集めたパーツで再構成されたその躰。唯一の心の拠り所であるルークの心中にかつての主ハルカの姿を見てしまい、死の危険を犯してまで己の姿かたちをハルカと同じに作り替えたイーヴァ。

二人の少女の心情が交互に綴られていきます。ロボットになりたい人間と、人間になりたいロボットとの交わりあうことのない心の擦れ違いが途方も無く切ないです。まあ、これだけでも見事な出来なんだけど、この話には真の主役が存在する。全戦全勝負け知らず。最強の戦闘マシーンにして謎の用心棒ルーク。こいつがまたどうしょうもなく良く書けてます。圧倒的な強さの陰に潜む失われた過去への脅え。記憶を消され、サイボーグ化されていても犬の本能が主を覚えている。かつての主と現在の大切な人。一人がもう一人の命を奪おうとした時、自分はどう行動すれば良いのか。堪え難いジレンマの中で悩み、考え抜き、正しいと信じるただ一つの道を闘い抜くその姿には戦慄にも似た興奮と感動を覚えさせられます。こいつが人間だったらここまで感情移入出来てません。動物使うのは反則だってば![2001/02]

チョコレート工場の秘密 [ロアルド・ダール] ★★☆ 評論社 (\1,400) [Amazon]

チョコレート工場の秘密 (児童図書館・文学の部屋)

チャーリーはチョコレートが大好き。でもとても貧乏なチャーリーの家では誕生日の一枚のチョコレートが精一杯。そんなある日、世界一有名なチョコレート工場を所有するワンカ氏から全世界に向けてメッセージが届く。「五人の子供をわたしの工場に招待しよう!」。運良く招待状を手に入れたチャーリーはワンカ氏の秘密の工場を訪れる。

ロアルド・ダールは第二次大戦中はイギリス空軍のパイロット。戦後は作家として活躍。1960年代からは児童文学にも進出。現在にまで読み継がれるような幾多もの作品を残しています。本作は64年の発表。この本も初版は72年なので日本でももう三十年近く読まれていることになります。不明にしてわたしは知らなかったのですが、小学校の図書室には必ずと言っていい程置いてある程のポピュラーな作品なのだそうです。図書館で読まれることを想定しているのか、カバーを取り去ると、こちらの方がメインなのではないかというくらい美しい表紙イラストが現れます。これはなかなか楽しい仕掛けです。

ええ最初に書いておきますが、ロアルド・ダールファンの方、真面目な児童文学愛好家の方、この先は読まない方がいいかもしれないです。ひねくれたオトナの視点で読むとこうなっちゃうんです。ホントに。

いやしかしこのお話突っ込みどころがあまりに多すぎます。大金持ワンカ氏によって集められた五人の子供たち。主人公以外の四人は、食いしん坊の肥満児、大金持ちの過保護少女、生意気で卑しい少女、テレビ狂の少年といずれも問題児ばかり。彼ら四人は勧善懲悪の名の元に次々と過剰なまでの罰を受け物語から退場していきます。細いパイプを通らされたり、はち切れんばかりに膨れあがったり、ゴミまみれになって落ちていったり、小人のように縮んでしまったりと、訓話的意味合いの強い作品とはいえいささかこれは度を過ぎている。けっきょく最後に「何もしない」で残っていた主人公にワンカ氏の全財産が譲られるというオチも凄い。この主人公にしたって貧乏で可哀想なのは判るけど、道端に落ちていた金をネコババしてチョコレートを買い(何の心理的葛藤も無く)、招待状をせしめているわけで、これはこれで教育的に不味いのではないだろうか。何の権利があってか次々と少年少女たちを罰していくワンカ氏にしても、アフリカの原住民を根こそぎ連れて来てただ同然の賃金でこき使ってるわけで、どう見てもまともな人間には思えません。

贅沢はするな!オトナのの言うことを聞け!テレビを見るな!本だけ読んでろ!時代性もあるのかもしれませんが今となっては狭量な価値観で描かれた作品としか思えません。今の子供たちにこの作品を薦めたいと思わないなあ。[2001/02]

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