ブラックロッド
[古橋秀之] ★★☆ メディアワークス 電撃文庫 (\490) [Amazon] ※書影無し
三つの都市を奈落落ちさせたという魔人ゼン・ランドー。正体不明の敵を倒すため魔導特捜官ブラックロッドによる捜査が開始される。高次の呪符を操り、非人間的なまでに戦闘力を高められた彼らには感情は無い。すべて封印されているのだ。パートナーは魔女の分身ヴァージニア9。病める都市を往く二人に次々と危険が降りかかる。
第二回電撃ゲーム小説大賞の大賞受賞作。1996年2月に単行本版が出版され、1997年の4月に文庫化されたもの(文庫落ち早すぎ)。微妙に異なった歴史を辿った未来の地球が舞台。呪術が日常的に用いられており、街中は悪霊がうろうろしている世界。犯罪は日常茶飯事で治安は最悪。イメージ的にはブレードランナーっぽい。サイバーパンク的な雰囲気も色濃く感じられます。
初っ端から造語のオンパレードで慣れるまではちょっと辛抱が必要。三十過ぎた読者ってのはなかなか異世界には溶け込んでいけないのでした。物語としてはわりと普通です。一応主人公らしいブラックロッドとヒロインのなれそめの書き込みがイマイチなので後半がどうにも盛り上がってこないのが残念。もうちょっとボリューム割いて描写して欲しかったです。ロングファングことビリー・ロンの方がよっぽどキャラ立ってます。[2001/03] ⇒次巻
ブラッドジャケット
[古橋秀之] ★★★ メディアワークス 電撃文庫 (\530) [Amazon] ※書影無し
積層都市ケイオス・ヘキサは空前の吸血鬼禍に見舞われていた。強力な不死性を持ち、次々と仲間を増やしていく最悪の魔物ヴァンパイア。彼らを撃退するために組織された特殊部隊こそがブラッドジャケットだ。血の赤に彩られた制服の群れを率いるのは伝説の男アーヴィング・ナイトウォーカー。その知られざる誕生の秘密を綴る。
『ブラックロッド』に続く第二作。前作より若干時代をさかのぼり、伝説のヴァンパイアハンターと呼ばれた男アーヴィング・ナイトウォーカーに焦点を当てた作品。前作を読んでいると思わずにやけてしまうようなエピソードが随所に散りばめられているのは嬉しい。
屍体解体業に従事する気弱な青年がいつしか精神の平衡を失っていき、それとともに隠された才能に目覚めていく物語なんだけど、二作目ということもあってかだいぶ読みやすくなってます。とにかくガンガン人が死にます。死にまくります。この手の作品たるものやはりこうで無いといけないです。キャラクターもイッちゃってる連中ばかりで好感度大。出色は神の名の下に殺戮を繰り広げる緋色の聖人・ハックルベリー神父。この方最高です。再登場希望。
しかし大森望をして日本SFの最先端と言われた一人(あと二人は上遠野浩平と秋山瑞人)にしてはいま一つ冴えない。つまらないとは思わないけど、特別印象に残るような出来とは思えない。本作が出版されたのは1997年。すごいのはこれからなのか。気になるのでもうちょっとフォローしてみるつもり。[2001/03]
その島の名は夜叉島。現在では平凡な名前にその名は変えられてしまったが今でも土地の古老はそう呼ぶ。島中を風車と風鈴が覆い尽くすこの小さな島で、作家の葛木志保が失踪した。彼女の足跡を辿って島を訪れた式部剛だったが閉鎖的な島民たちは言を左右して容易に真実を語ろうとしない。やがて式部は猟奇的な殺人事件がこの島で起きていたことを突き止めるのだが……
次は十二国の新作かとばかり思っていたところで思わぬ拾いモノ。こんな隠し球があろうとは嬉しい誤算です。黒祠とは明治初期の神社統合に従わず、民間の信仰として残った社のこと。明治期には民間信仰に基づいた多くの小祠が国家政策の名の下に統廃合されていったらしいので、確かにこんな神社があってもおかしくない。ましてや離島ならなおさらのこと。神社フリークであるわたしとしては期待は大いに高まる。
帯には1949年『獄門島』1987年『十角館の殺人』そして…、なんて惹句が書いてあるのだけれど、十角館はともかくとして(旦那の本出すなよ)、雰囲気は確かに獄門島に近い。本作もまた閉鎖社会の因習や土俗的な信仰から生まれた物語なのだ。小野作品の例に漏れずかなりの長編なのだけれども飽きずに最後まで読ませます。特にストーリーが二転三転する後半は読み応えあり。ラストの暗転は相変わらずお見事で全く予想外。浅緋の登場には本当にゾクゾクするような戦慄を味あわせてもらいました。
が、惜しむらくは主人公が弱い。異常に神社に詳しいのは作劇上のご愛敬としても、なぜ仕事上の友人でしか無い人間の事件にここまで首を突っ込むのか、事件を追い続けるだけの明確な動機が描かれないので、逆に何かあるんじゃないかと勘ぐってしまいました。主人公の内面をもっと抉って欲しかった。
『屍鬼』までとは言わないが、もっと長い話になってもいいから徹底して書き込んで欲しかった。主軸としたかったであろう「罪と罰」の構図がどうも鮮明に浮かび上がってこなかったのも惜しい。
最後に祥伝社の人にお願い。登場人物一覧(系図付き)を載せといてください。『屍鬼』程じゃないけれど本作も登場人物が多く、しかも血縁関係ぐちゃぐちゃです。何度もこの人誰だっけと悩んでしまいました。[2001/03]
そして粛正の扉を [黒武洋] ★★★ 新潮社 (\1,500) [Amazon]
卒業式前日。一人の女教師が二十九人の生徒を人質に教室に立て籠もった。札付きの問題児ばかりが集められた3年D組の生徒が一人、また一人処刑されていく。平凡な女教師の外見とは裏腹に彼女の計画は極めて周到に練り上げられたものだった。その気迫は生徒たちを圧倒し、その知性は多数の警官隊を無力化していく。
第一回ホラーサスペンス大賞の大賞受賞作。主催は新潮社・幻冬舎・テレビ朝日。出版社が二社というのは珍しいです。一回目は新潮社が出版権を持ち、二回目は幻冬舎、以降は交互に出版権を持つようです。テレビ朝日も主催に名を連ねてるけど、これって映像化できるんでしょうか。『バトル・ロワイアル』がこれだけ認知されていなければ本作が大賞を取れたかどうか。大いにアヤシイところだと思うのですが勘繰り過ぎ?
あらすじだけ読むとどことなく『バトル・ロワイアル』を彷彿とさせるストーリーですが、内容も意図するところも全く異なります。主人公によるジェノサイドはそれはもう徹底していて終始一貫何の迷いもありません。犯罪被害者は加害者に対して法を越えた裁きを下してもかまわない。そうはっきりと言い切っているのが本作。犯罪被害者を描いた作品は数あれど、これ程の極論を明言してのけたものは無かったのではないだろうか。『クロスファイア』であれだけ容赦なく不良少年を燃やしまくった宮部みゆきですら巻末の選評で「うなずくことはできません」と書いてるくらいで、これはいかにも物議を醸しそうな作品です。読後感は極めて重い。
しかしラストで仄めかされているようにどうやら本作は続編があるらしい。果たして最終的にはどのような結論にたどり着くのか。引き続きチェックしていきたい。[2001/03]
さすらいエマノン
[梶尾真治] ★★☆ 徳間書店 徳間デュアル文庫 (\562) [Amazon] ※書影無し
彼女の名前はエマノン。それは「NO NAME」の逆さ綴り。ジーンズに粗編みのセーター、瞳の大きな彫りの深い異国的な顔立ち。胸まである長い黒髪。少しばかりのそばかす。彼女は地球に生命が生まれてから現在に至るまでの全ての記憶を持つ少女。不思議な少女エマノンをめぐる五編のSF短編集。初文庫化。
『おもいでエマノン』の続編。1992年に単行本として刊行された作品を文庫化したもの。これが初の文庫化だそうです。単行本の時の表紙イラストは高野文子だったかと記憶しているのですが、鶴田謙二版エマノンも実に良い雰囲気です。
「自然」という言葉の反対語は「人工」であるとされている。なにか思い上がってないだろうか?人間って自然とタメ張れる程すごい存在なのだろうか?「そんな訳ないだろ」と思っていたひねくれ者の小学生だったわたしとしてはなんとも読んでいてつらい短編集でした。本作が書かれた時期ならではの時代背景もあるのだろうけど、自然破壊=悪いこと。人類は地球に巣くう病原菌みたいな書かれ方してしまうと、人類もまた大いなる自然の一部なんじゃないの?と突っ込みを入れたくたくなってしまいます。そりゃ良いわけないのはわかってるけどさ。
四十億年分の記憶を持つエマノンにしてみれば人類として生きてきた時間は瞬間の光芒に過ぎないわけで、どうしてこんなに人類的視点からみたエコロジストになってしまっているのだろうと、納得のいかない気持ちになるのでした。屁理屈を言わせてもらえば光合成を行う植物の誕生は地球環境を劇的に変えたことでは人類の比ではなく、無数の嫌気性生命を絶滅に追いやっているわけでしょう。各エピソードの最後に「良き人類」の存在を示し、救済の可能性を持たせているのも、なんとも人類本意の環境保護だなあ。と、どうもしっくりこない読後感なのでした。[2001/03] ⇒次巻
ルノリアの奇跡 グインサーが78
[栗本薫] ★★☆ 早川書房 ハヤカワ文庫 (\540) [Amazon]
アグリッパ探索からの帰還を果たしたヴァレリウスは戦線に復帰。ナリスの死はやはり偽装であったことが明らかにされていく。憤然と陣営を去るスカール。残されて呆然自失となるリギア。そんな彼らをよそに仮死状態のナリスと共に反乱軍は前進を続ける。イーラ湖横断という危険な賭けに出た一行をヤンダル配下の怪生物が襲撃する。
どうでもいい突っ込みですが、近刊八冊の間にタイトル名に三度も「ルノリア」という単語が使われてます。よほど気に入ったみたいですこの言葉。
今度はどんな謀略だったのかと思っていたらイェライシャの魔導によって仮死状態になっていただけだったという、意外にもシンプルな事の真相。あれこれ深読みしてたのに肩すかしを食わされた感じです。リギアの独白やら思索に耽るヴァレリウスやらで例のごとくページ数を稼がれており、あんまりストーリーは進んでません。いつまでたっても誤字も減らないです。慣れてきたけど。
で、結局今回も生き延びてしまったアルド・ナリス。これは当分死にそうにないぞ。次巻はしばらく期間が空いて六月の発売。今後はゴーラ編だろうか。そろそろクムの攻略でしょうか。タルーの行方が気になります。[2001/03] ⇒次巻
ガラスの麒麟 [加納朋子] ★★★☆ 講談社 講談社文庫 (\590) [Amazon]
安藤麻衣子が殺害された。麻衣子は聡明で美しく誰からも愛されていた十七歳の女子高生だった。通り魔の犯行とされたこの事件は多くの謎を秘め、解決の糸口を容易に見せようとはしなかった。周囲を取り巻く様々な人々の視線で、彼女の足跡を辿っていくうちに浮かび上がってきた哀しい真実とは。六編の連作短編集。
小説現代、小説non、ミステリマガジン等の各紙に1994年〜1997年にかけて掲載された作品に、書き下ろし一編を加えた連作短編集。1997年に単行本版が出版されており、本作は2000年六月に刊行された文庫版。
完結までに三年を要しているのですねこの作品。リアルタイムで読んでいた方はさぞかしやきもきしたことでしょう。『ななつのこ』や『魔法飛行』で日常のささやかな謎を追いかけてきた加納朋子作品に遂に殺人事件が登場。北村薫作品における『秋の花』みたいなもんでしょうか。語られるそれぞれの作品で孤独な少女の肖像を次第に浮き彫りにしていく一方で、意外な人物の秘められた物語がその背後に隠れていたことが明らかになります。加納作品はこの二重構造がいつものことながら見事です。女性の描写も良いです。神野先生には幸せになって欲しいぞ。[2001/03]
中世の再発見 市・贈与・宴会
[網野善彦/阿部謹也] ★★★☆ 平凡社 平凡社ライブラリー (\1,165) [Amazon]
網野善彦と阿部謹也。国史学と西洋史学界でそれぞれ新たな中世史観を提唱してきた二人の対談集。中世的社会が確立されていく中で生じた様々な事例、飛礫、市、売買と贈与、宴会、徳政、有徳、公等々について考察を巡らし、現在をも見通す新たな視点を浮かび上がらせる。
1982年に刊行された作品の文庫版。文庫の初版1994年。この手の堅い本が、これだけの年月を経て復刊されるということは異例のことではあるが、この二人のビッグネームの対談ということを考えれば確かに納得は出来る。この値段でありながらもう第五版まで版を重ねているわけだしね。
対談という形式もあってか、一般人にも理解しやすい平易な用語を多く用いて説明がなされているのでとても助かる。この二人にしてみれば基礎的な認識に過ぎないようなのだが、キリスト教に支配された西欧社会の特殊性。その特殊な西欧社会を標準として受け入れてしまった日本学会。などという考え方はなかなかに興味深く感じた。飛礫の考察から始まって、宴会についての認識あたりまではついていけたのだが、後半の「公」概念についての対談はわたしごときの理解力では咀嚼しきれませんでした。用語の意味から学ばないと駄目だなこりゃ。[2001/03]
どろぼう熊の惑星
[R・A・ラファティ] ★★★☆ 早川書房 ハヤカワ文庫 (\760) [Amazon] ※書影無し
ここは不思議な異星人どろぼう熊の住む惑星。ありとあらゆるものを盗んでいく彼らの前に惑星調査隊の面々はなすすべもなく立ちつくす。悪夢のような出来事を描いた表題作を始め、作者ならではのセンスオブワンダーに満ちた17編の短編を収録。日本版オリジナル傑作集。
1914年生まれ。SF作家としてのデビューは1960年。注目を受けメジャー化していくのは1968年以降。というわけなので54歳にしてようやく表舞台に出てきた作家です。しかしエスエフというものがいかにセンスオブワンダーが大事なジャンルであるかということが本当に良く判る一冊。抜群の奇想の冴えとそれでいて幅広い作風。これはなかなか得難い作家です。一部では熱狂的に支持されていますがその気持ちは確かに判る。
「世界の鰐について」は世界を動かす秘密結社についてのシニカルな考察が愉快。「寿限無寿限無」は有名な作品ながら初読。この人が書いていたのですね。究極の徒労とはこのこと。「世界の蝶番はうめく」はその視点の壮大さに感じ入った。選び抜かれた作品集というだけあってどれも傑作揃いですが一番のお気に入りは「草の日々、藁の日々」。計算外の特別な日を獲得するために闘争する人類を描いた作品。ブラックな終わり方でありながら妙に切ない読後感です。[2001/03]
カント・アンジェリコ [高野史緒] ★★★★ 講談社 (\1,800) [Amazon]

少年のままの透き通った軽やかな声。それでいて成年男性の豊かな声量を併せ持ち、なおかつソプラノの声域と超絶技巧を誇る。それは天使の歌声。<去勢歌手>カストラート。電飾と虚飾に彩られたパリ・ルーブル宮で繰り広げられる冒険劇。死を招く天上の歌声とは何なのか。
本当はデビュー作の『ムジカ・マキーナ』から順番に読んでいきたかったのですが、半年探しても手に入らないのでとうとうこの本から読み始めてしまいました。1996年の作品。これが二作目の作品となります。この作品自体も現在ではかなり入手困難である様子。旅行中に浜松のブックオフで偶然見つけて保護しておきました。ラッキー。
なんとなく佐藤亜紀的な作品かなと想像していたのですが、期待は全く裏切られます。一見似て見えるけれども目指すところは全く違います。仮想西欧史にクラシックの蘊蓄をプラスして、エスエフのエッセンスを振りかけるとこうなるんじゃなかろうか。舞台はフランス。パリ・ルーブル宮。史実とは異なった歴史が展開されているこの世界ではまだ18世紀初頭だというのに目映いばかりの電飾によって王宮は彩られており、全ヨーロッパにかけて電話網が張り巡らされている。
極彩色に光り輝くルーブル宮。電話線を介して蠢くハッカーたち。それは現代的なデジタルの輝きではなく、真空管と電話線によってもたらされるアナログな煌めき。そしてそこで語られるのは決して昼の光の下では語ることを許されない夜の世界の物語なのでした。自らの肉体を傷つけることで性別を超越しミューズの恩寵を受けた至高の存在。現代では滅び去った種族。夜の眷属カストラートが活躍するためにはまさにふさわしい舞台と言えるでしょう。
絶対王政時代のヨーロッパで電話線を使ったハッキングバトルが繰り広げられる。この設定だけでも秀逸。極めてアナログなその戦い方がこれまた素晴らしい。情景が目に浮かびます。これはかなりワクワクしました。真剣に感動。その昔300bpsの音響カプラを受話器に貼り付けてパソコン通信してた身としては涙ものです。
しかしこの魅力的な設定ですら本作の中では一つの要素に過ぎない。主旋律を張ることは出来ない。物語世界を跳梁する稀代のカストラート、ミケーレ・サンガルロ。カストラートの至芸もまた夜の世界でこそその本領を発揮するもの。五感のすべてを満たす歓び。それはただ音楽だけによってもたらされたもの。最終幕で確かに読者はイル・アンジェリコの声を聞くでしょう。現代人が聞いたこともないカストラートの艶やかな歌声を。音楽の至福を高らかに歌い上げるその調べを。これは拍手喝采です。[2001/03]
失踪HOLIDAY [乙一] ★★★ 角川書店 角川スニーカー文庫 (\552) [Amazon]
14歳の菅原ナオは継母と大喧嘩。突発的に家を飛び出してしまう。離れに潜伏し家族の様子を伺うナオだったが、次第に騒ぎは大きくなり戻るに戻れなくなる羽目に。少女の巻き起こした狂言誘拐事件の意外な顛末を描く表題作と、他者とのコミュニケーション不全に悩む少年と心優しい自縛霊の織りなすハートフルなストーリー「しあわせは猫のかたち」の二作を収録。
作家名は「おついち」と読みます。ジャンプ大賞出身でデビューは17歳(早え〜)。1978年生まれなのでまだ22歳なのですね。ライトノベル系作家のデビューの低年齢化はとどまるところを知らないようです。本作が四冊目の作品だと思います。著者紹介に今まで出した本くらい全部載せておいて欲しいなあ>角川。他社作品だからってケチケチすんなっての。
しかしながら淘汰の激しいこの業界で五年経ってもまだ作品が出せるというのはそれなりに実力あって始めて出来ること。やたら強気な「ジャイアンみたいな女の子」の元気っぷりが痛快で、コミカルな描写も堂に入っていて読んでいてとにかく飽きないです。一気果敢に読み切りました。イラストもいいんだろけどクニコさんのキャラはほのぼの感が漂っていてとても好感触。三畳部屋の小さな炬燵でのたゆたう時間についての描写は特に印象的でした。
ラストのオチは犯人たちにとってはあまりに危険な賭けではあるわけなのだが、あのキャラクターならそれもありかな、許せるかな、と思える程度には行動にぎりぎり説得力あったかな……。ミステリとしての着地もとりあえず許容範囲の点数。他作品も読んでみたくなった。[2001/03]
なんか島開拓誌 [原岳人] ★★★ 新潮社 (\1,400) [Amazon] ※書影無し
明治末期。大陸に渡る移民船が難破する。船のボーイだった吉堀喜一はその最中、頭を強く打ち付けてしまい、なぜか生神様として覚醒する。漂流する生存者十五名を引き連れて上陸したのは南洋の孤島「なんか島」。困難を極めるかと思われた孤島での生活だったが、キイチサンの巻き起こす奇跡が次々と事件を解決していく。
第三回ファンタジーノベル大賞の優秀賞受賞作品。ちなみに大賞は佐藤亜紀の『バルタザールの遍歴』。さらにちなむと恩田陸の『六番目の小夜子』はこの時最終候補作にまであげられながらこれら二作の前に選を漏れています。
なんともとぼけた作品です。わりと劇的な事件も起きているし、ラストはけっこう大変なカタストロフィもあったりするんだけど、いっこうに緊迫感は伝わってこない。オールマイティな生神様。キイチサンの絶対的な存在があるが故なんだろうけど、終始のんびりとした長閑な雰囲気が全編にただよう不思議な作品。ストーリーテリングの妙を誇るようなタイプの作品では全くないのだけれども、一度読み始めるとついつい先を読みたくなってしまうのもこれまた不思議。惜しい点をあげるとすると、無理に実際の歴史との帳尻を合わせようとしたこと。おかげで後半はちょっと書き急いでしまって物語の密度が薄くなってしまったのは残念。[2001/03]
幕末。動乱の京都を舞台に反幕府勢力と壮烈な抗争劇を繰り広げた新選組。短い歳月の中で隊士たちは時代と云う名の過酷な運命の奔流に巻き込まれていく。それぞれの野心や苦悩を抱えながらも……。新選組を彩った様々な男たちにスポットライトを当てた十五編の短編集。
昭和三十七年(1962年)に「小説中央公論」誌に連載された作品。司馬遼太郎作品で新選組をテーマにした作品といえば言うまでもなく名作『燃えよ剣』があるわけで、それ以外にも通史的な取り扱いをした作品があったのかと思い、やや意外な気持ちで手に取ってみた本作でしたが、予想に反して隊士個人に焦点を合わせた短編集だったのでした。そう考えてみるとタイトル名にも納得が行きます。
芹澤鴨、伊藤甲子太郎といった幹部クラスの暗殺事件から、薩摩の間者、赤穂浪士の因縁話、名刀虎徹の意外な来歴等々、豊富なバリエーションで新選組隊士たちの思いもよらぬエピソードが綴られていきます。名前だけは知っていても、具体的なイメージが湧いてこなかった、斉藤一や山崎燕、原田左之助といった面々が個性豊かに描かれていて、知識の隙間を補って貰えたような、不思議なな充足感を感じた作品集でした。これは楽しい。いくらでも他の隊士のエピソードを読んでみたいくらいです。
いずれ劣らぬ良作揃いなんだけれども、あえて一作白眉をあげるとすれば最後の「菊一文字」。脇役として語られることの多かった総司が最後の最後で大いに魅せてくれます。それほど新選組に傾倒している方ではないのですが、このシリーズで描かれている沖田総司の童子のような透明感にあふれた人柄は実に魅力的。それだけに総司が剣鬼と化す本編ラストは背筋に戦慄が走り抜けた印象的なシーン。しびれます。[2001/03]
星界の戦旗 I 絆のかたち
[森岡浩之] ★★★ 早川書房 ハヤカワ文庫 (\520) [Amazon]
「アーヴによる人類帝国」と反アーヴ勢力との抗争は三年目に突入した。膠着化した戦況を打開すべく、アーヴ側はついに大攻勢に転じた。戦地に向かう艦隊の中には帝国の王女ラフィール率いる突撃艦<バースロイル>の姿があった。かつて王女との冒険行を共にしたハイド伯爵もまた戦場へ同行する。『星界の紋章』待望の続編第一弾。
まだ購入していないのですが、先日ようやく三巻がでたらしい。この第一巻を購入したのは1996年の十二月なので、なんと四年三ヶ月の月日を経てようやく完結したわけですね。ペース遅すぎ>作者。この手の続きものでこの遅筆ぶりは致命的なものがあると思うのですが。よくOVAとか出してたよね。出版社の担当はきっと気が狂いそうな気持ちであったに違いない。
ともあれ、完結してから読むつもりでずっとためていた本シリーズ。ようやく読むことが出来ました。すっかり前の話を忘れていたので事前に紋章の方のOVAをチェックして記憶を復元。だんだん思い出してきたぞ。前作の三年後から物語はスタート。全三巻の初巻ということもあるのか、特に劇的な展開があるわけでなく、各キャラクターの顔見せ程度。問題児だらけのアーヴ陣営の指揮官群像は素直に笑わせてもらいました。なんといってもスポール提督ラブです(笑)。さて、次を読もう。[2001/03] ⇒次巻
星界の戦旗 II 守るべきもの
[森岡浩之] ★★★ 早川書房 ハヤカワ文庫 (\540) [Amazon]
「アーヴによる人類帝国」の攻勢作戦は成功し、新たな作戦が展開される。しかし帝国王女ラフィールが艦長を勤める突撃艦バースロイルに下された任務は惑星ロブナスIIの領主代行だった。ラフィールに代わり地上へ降り立ったジントだったが、そこはかつての囚人惑星。四つの陣営がいがみ合うその世界は彼の手には余るものだった。
戦旗の二冊目です。一巻から待つこと二年です。前巻から継続した大きなストーリーの一環をなすお話ではありますが、これ一冊で1エピソードとしては完結しております。いつものごとく拐かされて人質にされてしまうあたり、ジントのお姫様役振りも板についてきました。
ジント誘拐→ラフィール救出という筋書きは、「紋章」の時のフェブダーシュ男爵編でもあったプロットではありますが、組織の中で制限付きの行動を強いられるあたり、ラフィールの苦悩が見物ではあります。今回はジントを救う為に何人死んだんだろう?これからは次第にラフィールの肩書きが重くなっていくのは間違いの無いところで、どこまで彼女が今回のような行動をとり続けていけるかどうかが気になるところ。[2001/03] ⇒次巻
星界の戦旗 III 家族の食卓
[森岡浩之] ★★★ 早川書房 ハヤカワ文庫 (\560) [Amazon]
休暇を取得したラフィールとジントは軽武装貨物船ボークビルシュに乗り込みハイド星系を目指していた。再び帝国領土となったハイド星系を爵位を継いだジントが領主として初めて訪れるのだ。しかし故郷の星、惑星マーティン政府は頑なに帝国への帰順を拒み続けている。そんな最中、帝国軍の新艦隊が演習のためハイド星系を訪れる。不穏な空気が星系内に立ちこめるのだが……。
戦旗の三冊目です。二巻から更に待つこと二年半。あんまり時間が空きすぎたせいなのか、赤井孝美はジントとラフィールの年齢設定を忘れてしまったのだろうか。二人とも絵が異常に幼いんですけど。タッチ変わりすぎだってば。
一巻を読むときに三冊出てやっと完結したので読み始められるなどと書いてしまいましたが、すいません嘘でした。今回も二巻に続いて大きな流れの中の1エピソードにすぎません。作者的には「ディアーホ三部作」らしいのですが、まとまりには欠けるよなあ。星界の戦旗はまだまだ続くようです。
以前「紋章」を読んだ時に秀逸だと思ったのが、ジントの貴族として成り上がり方でした。惑星政府の最高責任者だった父親は帝国の侵攻に対して独断で降伏を宣言。その一方で貴族として取り立てられ伯爵へ。しかし星系が他陣営に奪還されるや父親は裏切り者として処刑されてしまい、ジントは異境の地で領土も無いまま父の爵位を継ぎます。
そして再びアーヴの支配下に陥ちた故郷を領主として訪れるジント。これは盛り上がらなければ嘘だと思うじゃないですか。が、その割には肝心の故郷への帰還シーンについては僅かなページしか割かれておらず、やや物足りない気分。シリーズ中でも重要なイベントだと思うんだけどなあ。帝国艦隊の演習がどうたら書いてるくらいだったら、ジントや故郷の人々の心理描写を丁寧にやった方が良かったのでは。その分、本が倍くらい分厚くなってもいいからさ。[2001/03]
ツィス [広瀬正] ★★★ 集英社 集英社文庫 (\700) [Amazon] ※書影無し
神奈川県C市で観測された謎の二点嬰ハ音「Cis」。最初はごく一部の人間にしか聞き取れなかったこの音のボリュームは日増しに大きくなっていく。公害か?自然災害か?政府の陰謀か?遂に騒動は都内へと波及。日々鳴りやまぬツィス音に人々の正常な生活は脅かされ、都内は一大パニックに陥る。
広瀬正小説全集の第二巻。元々は1977年に河出書房から出版されていた作品集を1982年に集英社文庫にて収録したもの。長らく入手しづらかったのですが、1996年に再版が行われたおかげで、根気よく古本屋を探せばなんとか揃うようになりました。若くして世を去ったこの作家を悼んでか本シリーズの解説者は大御所揃い。この巻ではなんと司馬遼太郎が解説書いてます。
帯にはパニック小説とありますが、というよりはシミュレーション小説といった感を強く受けます。ツィス音(乱暴に云ってしまうとドの#)が鳴りやまず、会話も満足に出来ない世界の到来。このような事態が生じた際に、政府はどのような対応を取って、市民はどう行動するのか、どんな影響があって、対策はどうなるのか、こんな便乗商法が蔓延りそうだ、なんてことを楽しく書き連ねていったのが本書。
風説の流布に惑わされやすい人心を皮肉ったラストのシニカルなオチは悪くないんだけどやや唐突過ぎかなあ。断定を避けて真相は藪の中にしているのも気持ち悪い読後感。あれこれで終わり?[2001/03]
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