室町少年倶楽部
[山田風太郎] ★★★☆ 文藝春秋 文春文庫 (\475) [Amazon]
若き日々。大望に燃えていた管領細川勝元。それを兄のように慕っていた三春丸(後の足利八代将軍義政)。清楚な手弱女であった侍女、お今。そして頑是無き童女であった富姫(後の日野富子)。運命は人の運命を弄び歳月は人の心を変える。数奇な人生を歩む男女の悲喜劇を描く表題作に、短編「室町の大予言」を収録。
天才と心密かに尊敬する山田風太郎。そのヤマフウが一連の忍法帖シリーズ、明治モノと経て行き着いたのがこの室町モノ。ただでさえ室町という時代は馴染みが薄いだけに何を見せられても新鮮ではあるのだが、この作家独特のアイロニカルな視点を通して描かれた室町世界のキャラクターはどれも実に生き生きとして人間臭い。歴史上の事実を切り取り、翻案して再構成してのける。本当にそうだったんじゃないかと信じたく成る程、山田風太郎の描く虚構は魅力に溢れている。[2001/07]
英雄ラファシ伝 [岡崎弘明] ★★★☆ 新潮社 (\1359) [Amazon] ※書影無し
遙かな未来。崩壊寸前の地球を離れ惑星ダナンへと移住した人類。しかし歳月の流れは彼らを退化させ、文明レベルもまた大きく後退してしまう。劣悪な環境の中で原始的な生活を送る住民たち。ララ族のまじない師の息子に生まれたラファシは一族と共に大陸を放浪し様々な事件に出会う。しかし惑星に巣くう悪魔の奸計により、人々は破滅へと向かう抗争に追い込まれていく。
新潮社の第二回ファンタジーノベル大賞の優秀賞受賞作品。この年は大賞は該当作なし。ちなみにこの作者は前年の第一回では『月のしずく100%ジュース』で最終候補にまで残っている。
移民星。極端に遅い自転。暖かな昼の半球を求めて絶え間ない移動を繰り返す住民たち。エスエフ的ギミックは十分凝らされていながらも、まじないや悪魔の存在、根拠不在のまま示される奇跡の数々のおかげで、受ける印象はファンタジーのそれなのだった。もうちょっと科学寄りに描いてくれるとより個人的には嬉しかったのだけど、「ファンタジーノベル」だからこれでいいのか。でも果ての無い地平をどこまでも歩んでいく人々の図はなかなかに美しい。
惜しむらくは登場人物が多すぎていずれも個性が目立たなくなってしまったことだろうか。せめてラファシとレナの二人だけでも深く掘り下げて描いていればラストはもっと深みが出ただろうに。[2001/07]
スターバックス・マニアックス
[小石原はるか] ★★★ 小学館 小学館文庫 (\657) [Amazon]
ここ数年で急速に店舗を増やしたカフェショップ、スターバックス。これだけ身近に感じられるようになったスターバックスだが、その注文システムの奥深さは意外と知られていない。定番ドリンクのメニューリストを一挙公開、さらに一歩先を行くオーダーテクニックを紹介。貴重なカルトグッズの紹介も。
この店の注文の難しさを越えるのはきっとサブウェイくらいだろうと思う。始めて入った時、どこに並んで良いのか判らずに受け取りのカウンターに並んでしまい、いつまでたっても注文出来ないと云うトラウマになりそうな事件を経験してしまったわたし。どうやら「ショット」とかいう奴を追加出来るらしいぞ、とか、マグカップ持参だと20円安いらしいぞ、とか、ミルクって実は何種類もあるらしいぞ、なんてことを何度も恥をかきながら少しずつ学習していったというのに、こんな本を出して丁寧に解説しちゃうなんて納得いかん〜。
って悲憤慷慨するのはこの程度にして、えっと、カラーページも多くてとても楽しい本です。スタバファンなら買っとけって感じです。学生の頃にこんな店あったら絶対バイトしてたんだけどなあ。ここ数年ですっかり囲い込まれてしまい見事なまでにスタバジャンキーなわたしです。グッズ収集だけは底なし沼なので手を出すのやめとこうと思ってるのにこういう本を読んでしまうと歯止めが利かなくなっちゃいそう。[2001/07]
天帝妖狐 [乙一] ★★★ 集英社 ジャンプジェイブックス (\762) [Amazon]
少年の日、垂早苗という少女と交わした約束によって夜木一太郎の躰は外傷を受けるたびに人ならざるものへと変貌していく。少しずつ自らの躰を異形のものに蝕まれていく主人公の姿を描いた表題作に加え、学校のトイレに書かれてた落書きが巻き起こす異常な騒動の顛末を描いた「A MASKED BALL」を収録。
乙一の第二作。ノベライズやファンタジー系のライトノベルがメインであると思しきジャンプジェイブックス。この手のどうにもカテゴライズ仕切れない作品はやはり扱いに困ったのか、前作以上に表紙のデザインセンスはひどい。これ、普通手に取っても買おうとは思わないぞ。こんなんでよく生き残ってこれたなあ。
最初に収録されている「A MASKED BALL」はトイレの落書きが引き起こすひと騒動。ラストのひねりに乙一らしさが垣間見える一品だけど、ちょっとネタ的に物足りないかな。学校のトイレってことでホラー?と思わせておいて実はミステリ、でも最後にはという持って行き方は面白いけど、いかんせんキャラも弱くて破壊力に欠ける。
続いて表題作「天帝妖狐」。語り口に『夏と花火と私の死体』に似た雰囲気を感じるのは語り手が尋常ならざる存在であるからだろうか。ストーリーそのものは特に秀逸とは思えないんだけど、存在しえないものによって綴られる物語は不思議に現実から乖離していて、このいつの時代とも知れない奇妙な作品世界にとても良くあっている。叢書の性質上仕方無いとはいえ、作品のエッセンスをまるで汲み取れていないスペシャルクライマックスコミックとやらは無い方がまし。[2001/07]
まったく別バージョンに書き直されてしまった集英社文庫版のレビューはこちら。[2001/09]
人間臨終図巻 II
[山田風太郎] ★★★☆ 徳間書店 徳間文庫 (\724) [Amazon] ※書影無し
生は有限の道連れ旅、死は無限のひとり旅。どんな人間で永遠の命を臨むことは出来ない。誰であれ死を避けることは出来ない。アリストテレスから川上宗薫まで、古今東西の有名人たちの死に様「だけ」を紹介していく異色のエッセイ第二弾。
1986年刊行の『人間臨終図巻 上巻』の後半と1987年刊行の『人間臨終図巻 下巻』の前半部を編集して一冊としたもの。全三巻構成。本巻では五十六歳から七十二歳で亡くなった人物について紹介している。
このシリーズとにかく分厚い(500ページ超)のだが、一編一編はせいぜい数ページとなにかの合間に読むには誠に打ってつけ。本巻を読んでいて面白かったのは、これまで知らずにいた偉大なる明治人の数々を知ることが出来たことだろう。効なり名遂げた明治人の気骨というか、迫力とは凄まじいものがあり、惰弱な平成人にはとうてい真似出来ないことばかり。次巻でラスト。今度は七十三歳〜百二十一歳!まで。これまた楽しみ。[2001/07] ⇒次巻
囚人部隊誕生 ナポレオンの勇者たち
[リチャード・ハワード] ★★★ 早川書房 ハヤカワ文庫 (\840) [Amazon]
18世紀末。革命後のフランスは人心ともに疲弊しきっていた。混沌の時代は新たなる英雄の登場を促し、若きナポレオンは一歩ずつ権力の階段を上っていく。しかし極度の兵員不足に陥ったフランス軍は遂に囚人の徴用を決定する。貴族出身でありながら獄につながれ、死を待つばかりになっていてた青年ローザールに転機が訪れようとしていた。
革命で家族を断頭台に送られ、自身はみじめなパン泥棒で投獄の憂き目に。周囲は穀潰しの犯罪者ばかり。処刑の日を待つばかりの主人公に突然訪れた汚名返上の好機。ツボだ。個人的なツボにドはまりのこの設定。元々西洋戦記モノは大好きで、特にナポレオン戦争の時代には興味があっただけに速攻購入なのだった。
同時代を描いた戦記モノの名作といえばセシル・スコット・フォレスターの「ホーンブロワー」シリーズや、アレグザンダー・ケントの「ボライソー」シリーズがあるわけだが、いずれもイギリス海軍の軍人を主人公としているだけに、時代の肝心要の中心人物ナポレオンには焦点が当たらず(当然といえば当然だが)、どことなく物足らず、歯がゆい思いをしていたのも事実。一度思いっきりナポレオン戦記を読んでみたかったのだ。
その意味ではまさにうってつけの本書。なにせナポレオン初期の戦いであるイタリア遠征から物語は始まるわけで、名だたる有名な戦いをこれからすべて読むことができるわけだ。シリーズは現在第四巻まで現地では刊行されている模様。日本の読者としてはこれが売れてくれて続編が邦訳されてくれることをただ祈るばかり。[2001/07] ⇒次巻
童話物語 上・下
[向山貴彦] ★★★★☆ 幻冬舎 幻冬舎文庫 (\648/\762) [Amazon:上/下]
世界は、そして人類は滅ぶべき宿命なのか。九日間人間を観察してその答えを出すことを命じられた妖精フィツは一人の少女に出会う。しかしフィツの出会ったペチカはあまりに悲惨な境遇のために心がねじけてしまった少女だった。両親はなく友もなく、周囲から虐待を受けるペチカは世界の破滅を望む。
1997年に自主制作版として2,000部が出版され、1999年、大幅に加筆修正の後に幻冬舎からハードカバー版が刊行されている。その際に幻冬舎はけっこうなプロモーションを打っていたようなのだが、全くノーチェックでなんだかすごく情けない気分。本書はその文庫版。ハードカバー版の際には収録されていなかった設定資料集を併録している。その1997年版ってものすごく欲しいのですが……。
不幸な境遇によって心の貧しい人間として育ってしまった少女ペチカ。成り行きからペチカを虐めてしまいそれをずっと悔い続けてきた少年ルージャン。そして天真爛漫な妖精フィツ。この二人と一匹?を軸に物語は展開する。数多くの魅力的なキャラクターが登場し、一編の物語を紡ぎ上げていく。
序盤。とにかく悲惨きわまりないペチカの生活に胸をしめつけられるような衝撃を受ける。宮山香里のイラストが素晴らしく、口絵の「ペチカの小屋は燃えてしまった」のイラストは見ているだけで茫漠たる寂寥感がこみ上げてくる。人々の悪意の中で生きてきて、それ故にねじくれた心の持ち主になってしまったペチカ。しかし旅の中で多くの人々の善意を受け本来の素直な心を取り戻していく。その行程が丁寧に描き込まれていて強い感動を呼ぶ。
キャラクターの良さもさることながら、特筆すべきは作り込まれた世界設定。クローシャと呼ばれるその世界は時間、距離、通貨全てこの世界オリジナルの単位が設定されている。ファンタジーでは往々にしてこのような試みがなされるが、これは時としては諸刃の剣であり、場合によっては読み手に対して読みにくさを与えてしまうことになりかねない。だから中途半端なファンタジー作品だと往々にして単位の問題は適当に済ましてしまいがちなのだが、本作では敢えて単位の設定にまで徹底的にこだわっている。
トリニティ、ランゼス、アロロタフの水門、アルテミファ、パーパス等々、登場する全ての都市や町にはさまざまなアイデアが惜しげもなくつぎ込まれており、一つとして同じような空間は存在しない。確たる世界がそこに息づいているのが判る。
とはいえこの作品、欠点は決して少なくはない。まず説明不足である部分が多い。これほど人間に対しての憎悪を燃やす妖精ヴォーとは何者であったのか、イルワルドって結局何物だったの?とか、ルージャンはどのようにして守頭から離れ一人で生きることを決意したのか、後半ほとんどサイコさんと化してしまう守頭は何故かくも執拗にペチカをつけ狙うのか(また狙えるのか)。挙げていくとキリがない。
不自然な展開もある。母の写真を失ったペチカは世界の果てを目指して旅にでる。写真を持ち去ったのは守頭だ。何故せっかくの幸福な暮らしを捨てて、あるかどうかも判らない世界の果てへ旅立たねばならないのか。何が何でも世界の果てへペチカを追いやりたいがために必要な手順を省いて強引な展開にしてしまっている。いささか説明が足りないだろう。これはとても残念なポイント。
そしておそらく賛否両論だろう。というか、これを認められないとそもそもこの作品を前向きには評価出来なくなってしまうのではと思える最重要シーンが終盤にやってくる。ルージャンを目の前で殺されたペチカは、なぜ世界を、自らの悲惨な過去を、すべて許すことが出来たのか。これほどに重くつらい経験を経てきた人間がこのような状況で果たして全てを許せるのだろうか。
母の死から始まった貧困そして虐待、あまりに過酷な境遇はペチカの心を闇に閉ざした。しかし旅の途上で出会った人々の愛情によってペチカの心は癒されていく。ペチカの成長を丁寧にページを割いて描写してきた意義がここで出てくる。ペチカが生まれた時から幸福な少女であったのならば、その心はここでなんなく炎水晶に取り込まれていたことだろう。苦労を重ね、人の心の闇を知るからペチカだからこそ許せる。そう捉えると素直にこのシーンは受け止めることが出来るのではないだろうか。
大ラス。かくも美しい世界を見せてフィツは去っていく。これ以上は無い大団円。閉じゆく物語世界を名残惜しげに読み手は見送るしかない。これくらい読み終えるのが惜しいと思った作品はそうざらには無い。そこはかとない寂寥感に浸りつつ劇終。しかし巻末に朗報が!この物語は全10巻の長大なストーリーの5巻と6巻に当たるのだとか。断然続編希望なので、何年掛かってもいいので続きを書くように>作者。[2001/07]
ストーカーズ [友成純一] ★★ 角川春樹事務所 ハルキ・ホラー文庫 (\619) [Amazon]
福岡県の住宅地。あるアパートで起こった猟奇殺人事件。全裸にされ解体された美人OLは幾多もの人間から執拗なまでのストーキング行為を受けていた。次から次へと現れるストーカーたち。事件の意外な展開に動揺する殺人犯。そして思いもよらぬ方向へと事態は展開していく。
文庫書き下ろし作品。暢気な花見シーンから始まるこの物語。しかし読み進むに連れてそんな長閑な雰囲気は見事に吹き飛んでいく。紛れもなくトモナリの作品。とてつもなくグログロでえげつなくてまるで救いの無い物語。出てくる登場人物がどいつもこいつも嫌悪せざるを得ないダメ人間ばかりでお見事。ま、こうで無いとこの作家らしくなくて逆に気持ち悪いのだが。読後感は最悪で決して人にお奨めは出来ないけど何故か読んじゃうだな。[2001/07]
Hyper Hibrid Organization 01-01
[高畑京一郎] ★★☆ メディアワークス 電撃文庫 (\510) [Amazon] ※書影無し
悪の秘密結社ユニコーンと改造人間ガーディアンとの戦いに巻き込まれ、最愛の恋人百合子を失った山口貴久。失意の中にいた貴久だったが、百合子の仇を討つため、改造人間ガーディアンへの復讐を誓う。謎の組織ユニコーンの秘密を探り、彼らへの接触を試みる貴久。そして遂に再会の日がやってきた。
高畑京一郎はとにかく寡作だ。1994年に『クリス・クロス』でデビューして以来『タイム・リープ』『ダブル・キャスト』と僅か三作。ライトノベル系の作家でこんなに寡作で大丈夫なのかと心配すらしてしまう。そんな高畑の久々の新作はなんと改造人間モノ。というか、そんなジャンルが小説界にあるわけではないのだが、ま、手っ取り早く言うと、『仮面ライダー』を地でいくハナシね。
常にトリッキーな仕掛けを作中に取り入れつつ、ややもするとライトノベルな潮流からは外れた内容の作品をこれまで送り出してきただけに、今回の思いっきりライトノベルな路線での新刊には大いに戸惑いを感じた。しかし後書きによればこれこそ作者の書きたかった作品であるらしい。ヒネリなしでただひたすら熱い漢(おとこ)の物語を書いてみたかったということだろうか。正直まだ受け止めかねている状況なので続巻を読んでから判断したいところ。次が出るのが三年後なんてことにならないように切に願う。[2001/07] ⇒次巻
T型フォード殺人事件 [広瀬正] ★★★ 集英社 集英社文庫 (\640) [Amazon]
嵐の夜に集った七人の男女。今では引退した実業家の泉氏は復元された年代モノのT型フォードを披露する。続いて始まった古いフィルムの上映会。T型フォードに纏わる忌まわしい殺人事件について語る表題作に加え、同時期に書かれたタイムマシンモノの小品「立体交差」、そして処女作である短編推理小説「殺そうとした」を収録。
広瀬正小説全集の第五巻。元々は1977年に河出書房から出版されていた作品集を1982年に集英社文庫にて収録したもの。この文庫版も一時期入手が困難であったが、1996年に再版があり入手が容易になっている。これで全六冊全て揃った。解説は石川喬司。
表題作はタイムマシンモノばかりと思いきやこんな作品も書いていたのかと思わせる本格系。過去の回想を交えつつ、当時の関係者たちを密かに召喚。旧悪を暴露しつつ自白を促すという趣向なのだが、切れ味としては今ひとつ。この機械的トリックはイマイチだろう。語り手である「私」のキャラがまるで立っていないので読み手としても視点が定まらない。
処女作「殺そうとした」はミステリ系の短編。そもそもは推理小説でデビューしていたという事実は意外と言えば意外。でも当時のエスエフ界のお寒い状況を考えれば当然といえば当然かもしれないが。「立体交差」は広瀬正お得意の時間を扱ったエスエフ作品。ラストのひねりがポジティブでいい感じ。[2001/07]

驍宗の命を受け漣国へと旅だった泰麒。相まみえた廉王の意外な真実とは。芳国国王を討った大逆人月渓。彼に届けられた景王からの新書の中身は?景王陽子と楽俊。かつて苦楽を共にした二人の交わす往復書簡。理想を追い求めながら傾きつつある国を救えない才国の人々。崩壊の兆しを見せる柳国を訪れた二人の旅人の正体とは?五編の作品を収録した十二国記シリーズ初の短編集。
「冬栄」はIN☆POCKET誌2001年4月号に掲載。「華胥」はメフィスト誌2001年5月増刊号に掲載。「書簡」は同人誌『中庭同盟』収録されていた作品に加筆修正したもの。「乗月」も同様。改題されていて以前のタイトルは「函丈」。そしてラストの「帰山」は同人誌『麒麟都市3』に収録されていた作品に加筆修正したもの。で、あってる?間違ってたら突っ込んでね。
この『中庭同盟』と『麒麟都市3』ってのはファン泣かせの同人誌だった。これだけ人気が出ている作品で、作者本人が書いてるのに読めない短編がある。本編の方も長らく新刊が出なかったこともあってか、ひところはオークションで五万とか八万なんて価格が平気でついていた。復刊ドットコムも一時期すごいことになっていたのでこれまたびっくり。ある意味一番いい形で出版化が実現したわけで、貧乏人コレクターとしては嬉しい。例によってホワイトハート版は後から出るようで九月発売予定。
以下個別にコメント。まずは「冬栄」。驍宗失踪の少し前のお話。廉王様は実にいい感じに力が抜けていて好印象。泰国に待ち受ける暗い将来をさりげなく暗示。「乗月」は祥瓊の父母を殺した男、月渓のお話。こういう地味なおっさんの話をしっかり書くところが偉い。「書簡」は陽子主上ラブな向きにはなかなかグッとくる一編。行間から想いを読みとって互いを気遣いあう二人。楽俊は大学卒業後は是非慶に仕官するように。「華胥」はなんとも重い話。想いだけでは国は救えないという現実を描く。ラストの「帰山」は十二国記界の暴れん坊将軍と遠山の金さんが夢の競演。長期政権の国が滅びるのは見たくないもんだ。
華胥とは中国の伝説上の王、黄帝が午睡の際に華胥氏の国に遊んだ夢を見たとする伝説に基づく言葉で転じて午睡の意を表す。が、本作では華胥氏の国→理想の国という意味で用いられているように見受けられる。この作品集では程度の大小はあるにせよ、いずれの作品でも地上に理想郷を作り上げようとする人々のひたむきな姿が描かれている。過度にシステマティックな構造を持たされている十二国世界の中で、陽子や泰麒の真摯な想いはかなうのか。本編の今後の展開が気になるところ。[2001/07]
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