偽善系 やつらはヘンだ! [日垣隆] ★★★ 文芸春秋 (\1,238) [Amazon]
携帯電話のマナーの悪さ、インターネット社会の無法ぶり、肥大化した郵政事業、凶悪化する少年犯罪、教育界の偽善者、旧態然とした司法制度……。その欺瞞を徹底した調査、取材と緻密な論理攻勢によって徹底的に暴く。現代日本で横行する偽善の数々に対して鋭くメスを入れた一冊。
「本の話」「文藝春秋」等に発表されていた論評を大幅加筆。更に書き下ろしを追加して単行本化したのが本書。電車の中で平気で電話してる奴には腹も立つし、現在の司法制度はヘンだと思う。人権ママの横暴振りはそりゃきっとひどいのだろう。凶悪きわまりない少年犯罪には厳罰で臨んで欲しいと切に願う。だから明快にこれは偽善っ!って言い切ってくれる人の言葉はとても耳に心地よい。
とはいいながらも、批判の数々はいずれも断片的でとりあげている事象の大きさを考えるといかにも物足りない。どのテーマでも一冊余裕で本が書けるだろう。一つの考え方として聴いておく分にはいいのかもしれないが盲信するのは危険。世の中なんでも白黒はっきりさせられる事ばかりではないだろう。[2001/09] ⇒次巻
ディアナディアディアス
[新井素子] ★★★ 徳間書店 徳間デュアル文庫 (\733) [Amazon] ※書影無し
「南の国」で王位を継げるのはディアである者だけ。唯一正統なる王の血筋を受け継ぎながら、一臣下として平穏な生を全うしようとしていたカトゥサ。しかし兄の突然の死がカトゥサを運命の激流へと誘う。狂える母、ディアナとの相克の中、逃れられぬ血の宿縁はカトゥサを運命の玉座へと導く。
1986年に徳間書店から単行本版が刊行され、その後89年にノベルズ化、93年に文庫化。更に2001年に徳間デュアル文庫にて再刊されたのが本書。『ラビリンス<迷宮>』や『扉を開けて』と同じ系譜の物語。
再読。初読時はなんと高校生だよ>自分。この15年の間に本書は単行本→ノベルズ→文庫→再文庫と版を重ねてきている。サイクルの早いライトノベルの世界では驚異的な事だといっていいだろう。もはや古典の域に達している。新井作品と言えば、軽快な一人称での語り口がすぐに思い浮かぶが、この手の三人称ひたすら陰々滅々系というタイプの作品も結構書いている。
主人公の心理描写が延々と続き、動的な展開はほとんどなく、最後までそのまんま。キャラクターたちの抱える心の闇、狂気、絶望なんてのが緩やかなクレッシェンドで徐々にしみ出てくる辺りが実に好みだった。この路線の延長線上に名作(え?違う?)『おしまいの日』があるのだろうと思う。「原罪」が新井素子の表テーマだとすれば、「狂気」は裏のテーマなのかもしれない。[2001/09]
ifの迷宮 [柄刀一] ★★★ 光文社 カッパノベルズ (\952) [Amazon]
遺伝子偏差値が導入され、産前の遺伝子検査が常識化。いとも検査の結果によっていとも簡単に堕胎が行われている近未来の日本。医療企業の大手SOMONグループの令嬢が殺害される。その死体は上半身を焼かれており、被害者の特定は難航する。しかし決め手となるかと思われた遺伝子検査は驚愕の新事実を明らかにする。
書き下ろし作品。『3000年の密室』でデビューした作者の五作目の作品。
とにかく読みにくい。どうしてのっけからこんなに込み入った構成にしてしまうのだろう。次々と現れる新キャラクター。落ち着く間もない程頻繁な序盤の場面展開。わたしの弱い大脳では事態を把握するのに力不足なのか。市民運動やってる連中は別にいなくても良かったんじゃないかと思う。
かなりのスペースを割いて出産前診断の是非について問題提起をしている。おかげで作者の言いたいことはとても良くわかる。しかしそれだけの主張を本筋に絡めつつ、冗長にならずにまとめ切るには残念ながら力量不足だったように思えてならない。遺伝子ネタのトリックはなかなか面白かっただけに残念。作品としての完成度よりも、自分の主義主張を優先させたってことなのだろうか。[2001/09]
銀の檻を溶かして 薬屋探偵妖綺談
[高里椎奈] ★★ 講談社 講談社ノベルズ (\800) [Amazon]
とある街に不思議な店があるのだという。時代に取り残されたかのような古色蒼然とした外観を持つその店の名は「深山木薬店」。静かな佇まいの青年、白皙の美少年、赤毛の男の子の三人が営むこの店にはこの世ならぬ奇妙な出来事についての相談が寄せられる。この三人には実は決して人間には口外出来ない秘密があるのだが……
第11回メフィスト賞受賞作。高里椎奈のデビュー作品にして薬屋探偵妖綺談の第一作。妖怪が探偵にして主人公という一風変わったミステリ作品。捜査の際には妖怪ならではの能力が駆使されるが、事件の真相そのものには超自然的な力は及んでいない。あくまでも人間の世界の法則の中で事件は解決していく。
読む前からそうなんじゃないかと予想はしていたのだが、やはりこれはどう考えても本来ならホワイトハートで刊行されているべき作品だろう。物静か系美青年。辛口天才美少年。弱々系保護欲かきたて坊やと、ツボを抑えたキャラクター配置は女性向けキャラ萌え小説ならではのもの。なんで講談社ノベルズから出てるの?萌え系イラストつけてホワイトハートで出した方がどう考えても売れたような気がするのだが。
このシリーズは作者が長い間暖めていた作品であるらしく、それだけにキャラへの愛情は半端なものではないようだ。それ故に作者とキャラクターそして読者との距離感の取り方に歪みが生じているように感じた。初対面の他人に自分の子供を「ねぇ、ねぇ、この子かわいいでしょ(はーと)」とは普通やらんだろう。シリーズの第一巻から全編にわたってそれをやられるとさすがに醒める。[2001/09] ⇒次巻
黄色い目をした猫の幸せ 薬屋探偵妖綺談
[高里椎奈] ★★★ 講談社 講談社ノベルズ (\840) [Amazon]
深山木薬店を訪れた少年の依頼は「上中の佐倉康を妖怪に食べさせちゃって下さい」というとんでもないものだった。しかし少年は依頼を断る間もなく姿を消してしまう。しかしやがて発見された無惨なバラバラ死体は少年が望んだ佐倉康その人だった。調査に乗り出した三人。凄惨な事件の裏に潜む意外な真相が明らかにされていく。
薬屋探偵妖綺談のシリーズ第二作。作者曰く、この作品こそがシリーズ中、もっとも最初に書かれた作品なのだとか。ちなみに原題は『硝子の光と夜明けの色』。
大幅に改稿したこともあってか、前作よりは余程良くなっている。ミステリっぽくなってきた。涙腺弱いので秋の過去のエピソードでは少し泣けた。キャラ萌え出来ない人間でもそこそこ読めると思う。もっとも時々「ふぇ〜ん」とか言って泣き出すヘタレ妖怪にだけは我慢出来ないんだけど。しかし前作でも思ったんだけどタイトル名って内容とどのような関係が?読みが甘いのか、やっぱり。[2001/09] ⇒次巻
悪魔と詐欺師 薬屋探偵妖綺談
[高里椎奈] ★★★ 講談社 講談社ノベルズ (\800) [Amazon]
ホテルの喫茶室で毒殺された男。マンションの屋上から投身自殺した男。怪死した病院長の謎。復讐鬼によって殺害された介護福祉士。一見なんの関わりもないように思えたこれらの事件をつなぐ一本の線。その背後にはなにものかの意志が介在しているのか。お馴染みの三妖怪が事件の謎に迫る。
薬屋探偵妖綺談シリーズの第三作。
まず前半部には四編の短編が収められている。それぞれの作品に繋がりはなく、しかも一編一編いずれも解決してるんだか、してないんだか、なんとも後味の悪い終わり方をしている。まさかこれってヘタレ短編集?と、不安感と不快感が高まってきたところで解決編スタート。このシリーズならではのヒネリが効いていて最終的な読後感は悪くない。残酷さの中に垣間見られる叙情性はわりと好みだ。
いや、しかし慣れというのは怖ろしいもので、三作も読んでるうちに段々違和感なくなってきた(ヘタレ妖怪と寺の息子とミーハー刑事は除く)。頑張ってこの先の作品も読んでみようと思う。[2001/09] ⇒次巻
六人の超音波科学者
[森博嗣] ★★☆ 講談社 講談社ノベルズ (\820) [Amazon]
山中深くに築かれた土井超音波研究所。そこに集ったいつもの阿漕荘の面々だったが、施設へ通じる唯一の道に架けられた橋が爆破され孤立してしまう。隔絶された環境の中で起こった殺人事件。偶然居合わせた祖父江七夏と共に事件の解明に乗り出した彼らだったが、やがて第二の殺人が……。
Vシリーズ7作目。相変わらず森博嗣は執筆ペースが早い。アクの強いキャラクターばかりが登場するこのシリーズ。時々面白い巻もあるのだが、総じてハズレの傾向が強い。今回はとりわけダメ。やはり量産してるとクオリティは落ちるものなのか。
博士の皆さん、研究オンリーで浮世離れしてるのかもしれないが、計画があまりに杜撰過ぎなのでは。その程度の偽装で警察を騙せるものなのだろうか。居ても居なくても良かったような気がするテレビクルーの人たちとか、結局超音波は全然関係なかったのねとか、残念な点が多い。ちなみにわたしは紫子さんファンなので(いつから?)、次回はもっと活躍させて欲しいぞ。[2001/09] ⇒次巻
天帝妖狐 文庫版 [乙一] ★★★ 集英社 集英社文庫 (\438) [Amazon]
少年の日、好奇心から始めたこっくりさんで呼び出した早苗という少女と交わした約束。それによって夜木の躰は外傷を受けるたびに人ならざるものへと変貌していく。自らの躰を異形のものに蝕まれていく主人公の姿を描いた表題作に加え、学校のトイレに書かれてた落書きが巻き起こす異常な騒動の顛末を描いた「A MASKED BALL」を収録。
1998年にジャンプJブックスとして刊行された作品の文庫版。ちなみに「A MASKED BALL」はジャンノベルVol-12(1997/5/4号)、「天帝妖狐」はジャンノベルVol-13(1997/9/15号)にそれぞれ掲載されていた作品。折からの乙一人気を受けてのことなのだろうが、ライトノベル系のラインナップからの集英社文庫入り(スーパーファンタジー文庫でもコバルトでも無く)は異例といっていい。
既にJブックス版を読んでいたので「ファンなら買い」レベルで一応購入しただけで、別に読む気はなかった。しかし「天帝妖狐」の文庫版はJブックス版とまるで話が違うらしい、という風説を聞き及び、改めて読んでみることにした。
で、読んでみてびっくり。構成から登場人物からクライマックスまで、とにかく何から何まで、完全に別の作品。主人公の病状は最初から深刻だし、早苗の正体は謎のままだし、アパートの面々も様変わりしているし……。よほどJブックス版に不満があったのだろうか>作者。もちろん物語の骨子の部分は変わっていないのだが、杏子とのところてんのエピソードがあっさり無くなっていて実に残念。骨川君も好きだったのになあ。[2001/09]
偽善系II 正義の味方に御用心 [日垣隆] ★★★☆ 文藝春秋 (\1,429) [Amazon]
無為無策のままに野放しにされてきた再犯者たち。人権の名の下に殺人も「なかったこと」にされる「心神喪失」。辛口評論家佐高信の真実。「田中知事」誕生前夜の長野県政の腐敗ぶり。世に溢れる欺瞞と偽善の数々に断固として異を唱え、鋭く切り込む『偽善系』第二弾。
『偽善系』第二弾。「文藝春秋」「別冊宝島」「諸君!」「エコノミスト」「新潮45」等で発表されていた評論をまとめ、単行本化したもの。
前作同様に寄せ集め的な収まりの悪さは感じるのだが、やはりこれも慣れなのか、この著者独特のこき下ろし文体のリズムに快感を覚えるようになってきたのは間違いなくまずい兆候だろう。他の著作も読んでみたくなってしまったのだが、七章を読む限りこの人、今は相当裕福な暮らしをしていそうなので絶対に新本では買わないことを決意した。
「心神喪失」や再犯者問題に対しての提言は前作で触れられていたが、まあ、十分これは不勉強なわたしでもついていけた。心情的にも首肯出来る。しかしそもそも佐高信って誰?とか思ってしまう人間がこれ読んじゃいかんのではないかとも思うのだが、こうなると佐高信の著作も読むべきなのか。[2001/09]
わたしは虚夢を月に聴く
[上遠野浩平] ★★★☆ 徳間書店 徳間デュアル文庫 (\590) [Amazon]
女子高生醒井弥生の抱いたふとした疑念。確かにそこにいた筈の少女のことを弥生はどうしても思い出せない。謎の解明を託された探偵荘矢夏美がやがてありうべからざる真実へとたどり着く。人々が現実と信じる世界の影で、人類は悪夢のような驚異に晒され続けていた。弥生が知る世界の姿とは……。
徳間デュアル文庫(祝☆創刊一周年)での上遠野作品第二弾。書き下ろし作品。今回もイラストは中澤一登。前作『ぼくらは虚空に夜を視る』の続編というかパラレルな位置にあるのが本作。
きっとまだこれ続くんだよね、これ。あいかわらず全貌がなかなか見えない歯がゆさというか、はぐらかされているようなもどかしさで、読者の気を持たせる上遠野浩平。全編に漂う閉塞感は、いわばこの作者の作品全般に共通する通奏低音のようなものなのだが、同じような息苦しさを抱えて生きている読み手には見事にこれが共振してくる。なんだか良くわかんないんだけど、自分のいまの気分をうまくすくい上げてもらえたような、そんな感じかな。[2001/09] ⇒次巻
佐屋路 歴史散歩 [日下英之] ★★★☆ 七賢出版 (\1,748) [Amazon] ※書影無し
東海道、宮(熱田)から桑名へは本来ならば舟で七里。その一方で陸路四宿をつないで桑名へと至る街道の脇往還、佐屋街道が存在した。船旅を厭う旅人や、天候の影響による旅程の変更を嫌った人々に支持されて、江戸期を通じて多くの人々が行き交った。歴史的役割を終え、それでも随所に往時の名残をみせる佐屋街道の魅力に迫る一冊。
筆者は豊田短期大学助教授。既刊に『美濃路』『東海道 歴史散歩』があり、東海圏を中心とした街道ガイドを手がけてきており、本書はその第三弾となる。
マニアのための本といってもいいかもしれない。現地の方以外で佐屋街道の名を知る者は東海道を往く者たちだけなのではないだろうか。日本橋から三条大橋の東海道五十三次を踏破した後に、実は未だ足を踏み入れていないもう一つの東海道があることに気付かされる。それが佐屋街道。
宮-桑名間の脇往還なのだが、そもそも三代将軍家光の上洛をきっかけとして整備されたコースであるだけに、莫迦にならない交通量を誇っており、周囲には津島神社や七所神社、明眼院などの名刹も数多い。数多くのガイドブックが出回っている東海道に比べ、佐屋街道に言及した書籍は極めて少ないため、それだけに本書の価値は高い。近々東海方面に再度出撃予定なのでこれは発見出来てラッキーだった。[2001/09]
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