2001年11月

読みたい本がわんさかあるのに思うように読めない月でした。ストレス溜まるなあ。
昨年並の数を読むのは難しそう。

書籍名
作家名
出版社
価格
コメント
お薦め度
人間臨終図巻III 山田風太郎 徳間書店 \724
完結。著者の冥福をお祈りします。
★★★☆

夏街道[サマーロード]

早見裕司 徳間書店 \420
再読。美しい夏への憧憬が◎。
★★★☆

水路の夢
[ウォーターウェイ]

早見裕司 徳間書店 \379
そっちへ行っちゃ駄目なんだってば。
★★☆

夏の鬼 その他の鬼
〜Summer Road, Again

早見裕司 エニックス \860
11年振りのシリーズ最新作。
★★★
激戦!エジプト遠征
ナポレオンの勇者たち
リチャード
・ハワード
早川書房 \880
前半の船旅編がお気に入り。
★★★

かりそめエマノン

梶尾真治 徳間書店 \487
強引なんだけど、まあいいか。いい気持ちで泣きましょう。
★★★☆
魔法飛行 加納朋子 東京創元社 \560
駒子ちゃんいい娘すぎだよ。
★★★

次世代携帯ビジネス
「勝ち組」の法則

三和総合
研究所
廣済堂出版 \1,600
ざっと俯瞰するにはいい。
★★★☆

耀変黙示録IV
炎の蜃気楼33

桑原水菜 集英社 \495
拉致られてます。今回も。
★★★

ブックオフと出版業界

小田光雄 ぱる出版 \1,800
電波系もしれない。このヒト。
★★★
クラインの壺 岡嶋二人 新潮社 \520
さすがは名作。
★★★☆

呪禁官

牧野修 祥伝社 \848
いいよこれ。正統派ジュブナイル。
★★★

「ABC」殺人事件

有栖川有栖
恩田陸
加納朋子
貫井徳郎
法月綸太郎
講談社 \590
お買い得なラインナップ。
★★★☆

かっこ悪くていいじゃない

森奈津子 祥伝社 \381
期待外れかなあ。
★★★

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人間臨終図巻III
[山田風太郎] ★★★☆ 徳間書店 徳間文庫 (\724) [Amazon] ※書影無し

わたしは解剖学者が屍体を見るように、さまざまな人間の死をみているだけだ……。意味があって長生きするのではない……。卓越した虚無の視点から綴られる人々の臨終絵巻。釈迦から泉重千代まで古今東西の著名人の死に様をつぶさに収録。異色のエッセイ集全三巻。遂に完結。

1987年刊行の『人間臨終図巻 下巻』後半部を編集して一冊にしたもの。全三巻構成の最終巻。この巻では七十三歳から百二十一歳で亡くなった人物を対象としている。

全三巻の中で扱った死者の数は総勢900名弱。類書ってあるんだろうか。寝る前に少しずつ読んでいたら読了まで四ヶ月もかかってしまった。しかしよもやこのシリーズの刊行中に、筆者本人が亡くなってしまうとは……。因果関係があるわけはないのだが、この人ならではの諧謔を最後に見せつけられたようで、なぜかショックを受けている自分。晩年の山田風太郎は背表紙折り返しの著者近影からは想像も出来ない程、油の抜けきった風貌になっていてこれまた衝撃的だった。あり得ない話ではあるが、風太郎が自らの死をこの作品に書き入れたとしたらどのように書いただろうか。[2001/11]

夏街道[サマーロード]
[早見裕司] ★★★☆ 徳間書店 アニメージュ文庫 (\420) [Amazon] ※書影無し

湘子は東京都下にある私立高校、逝川高校の二年生だ。彼氏の友樹が突然消息を絶ってしまい、途方に暮れる湘子は友人の勧めで季里と風変わりな少女に引き合わされる。不思議な「力」を持つ季里は友樹の行方を占うのだが、結果ははかばかしくない。以来、湘子のまわりには奇怪な出来事が次々と発生していくのだが……。

1988年の作品。早見裕司のデビュー作。続巻に『水路の夢[ウォーターウェイ]』があり、2001年になってなんとシリーズ最新刊『夏の鬼 その他の鬼』が刊行されている。なにせシリーズ1作目は13年前の作品。最新刊を読む前にとりあえず、どんな話だったか思い出さないといかんだろ。ってことで再読なのだ。

初読時の感想は実はあまり宜しくない。湘子がメインの話なのかと思いきや、実は作者の愛はどう見ても不思議少女季里の方に集まっていて、終始焦点が定まらず落ち着かない。季里のナイト役の男子も存在感薄かったしなあ。川原由美子の絵だけがウリだったような記憶がある。当時の評価は★★☆。あれ、じゃなんでこのシリーズをずっとフォローしてるんだ?>自分。

改めて読んでみてもその考えは変わらないのだが、このお話、ただ1点素晴らしいところがあったのだ。作中に描かれる「永遠の夏」のイメージが実に美しいんだなこれが。閉じた世界の中で凍てついた永遠の夏を彷徨う少年。タイトルの良さ、イラストの美麗さとあいまってこのイメージだけは優れて絶品だったのだ。そうだそうだ思い出したぞ。[2001/11] ⇒次巻

水路の夢[ウォーターウェイ]
[早見裕司] ★★☆ 徳間書店 アニメージュ文庫 (\379) [Amazon] ※書影無し

奇妙な「力」を持つ少女季里はある日から不意に水の声が聞こえるようになる。水に導かれるままに東京の街を彷徨う季里。その背後では謎の転校生高取集と、紫づくめの奇妙な一団の姿が見え隠れしていた。身近な存在であった玉川上水に秘められた意外な事実に気付いた時、季里は夢の中で幻の水路を下る。

1990年作品。早見裕司の三作目。ちなみに二作目は『強殖装甲ガイバー 鬼影の記憶』。『夏街道[サマーロード]』の続編。シリーズ最新作『夏の鬼 その他の鬼』を読むためにこれも再読。

以前読んだときもガックシきたのだが、それは今回も変わらなかった。なんだかイマイチなジュブナイル風味の都市伝奇モノ。こっちの方向に来ちゃだめなんだってば。きっとこの作者は玉川上水とその周囲の自然が大好きなのではと推測出来るのだが、その思いが強すぎて、物語の枠からそれが少々突出してしまっている。気持ちはわかるんだけどなあ。[2001/11] ⇒次巻

夏の鬼 その他の鬼〜Summer Road, Again〜
[早見裕司] 
★★★ エニックス EXノベルズ (\860) [Amazon] ※書影無し

水渕季里は幼い頃に両親と姉を失い天涯孤独の身の上だ。肉親を失って以来、不思議な「力」に目覚めた季里は常人には見えないものが見え、聞こえない声を聞くことが出来る。中学を卒業し、高校に進学した季里は自らの持つ「力」の存在に悩みつつも、様々な人に出会い成長していく。

2001年の作品。『夏街道[サマーロード]』『水路の夢[ウォーターウェイ]』に続く季里シリーズ最新刊。なんと11年振りのシリーズ再開。本来の季里シリーズは三作目の『神の冬 花の春(仮題)』で終了する筈だったらしいのだが、諸般の事情から刊行されず中断されたままとなっていた。

なにせ徳間のアニメージュ文庫はほぼ壊滅状態になっちゃうし、ライトノベル界もそうそう景気がいいわけじゃないし、ってことで長らく凍結されていたのではないかと思われるこのシリーズ。版元を変えて再出発なのだ。ということで、これは続きではなく、リスタート。同じキャラクターを使いながらも設定を現代風に変更した全く新しいシリーズとなっている。

旧作のキャラクターは一部を除いてほぼすべて登場するもののかなり印象は異なっている。現代ナイズされたのかというとそうでもなく、ちょっと今時居そうにないタイプの生息年代不明の高校生に仕上がっていて驚かされる。これでメインの読者であるワカモノ層はついてこれるのだろうか。少し不安になる。

続きだとばかり思ってたから、いきなり肩すかしを喰らわされた気分。本作は季里の成長を暖かな視点の元に叙情性豊かに綴っていく連作短編の形式を取っている。この形式そのものは悪くないと思うが、トンデモ度が高いので、感性が硬直した読み手にはつらいかも。神崎先生が神様になっちゃったときは愕然としちゃったぞ。

で、問題はやっぱり終わっていないこと。そりゃまあリスタートなんだからまだ続くのは当然か。果たして続巻は出るのか?[2001/11]

激戦!エジプト遠征 ナポレオンの勇者たち
[リチャード・ハワード] 
★★★ 早川書房 ハヤカワ文庫 (\880) [Amazon]

激戦!エジプト遠征―ナポレオンの勇者たち (ハヤカワ文庫NV)

第一次イタリア遠征の勝利を経て、ナポレオンが次に目指したのは文明発祥の地、エジプトだった。慣れない船旅で消耗しきったローザールたちが上陸したアフリカの大地。そこで待ち受ける灼熱の砂漠。飢えと乾き。襲い来るイスラムの戦士たち。首都カイロを目指す行軍は熾烈を極める。いつ果てるとも知れぬ熱砂の中での戦いを描くシリーズ第二弾。

シリーズ二作目。しかしこの作家よくよく調べてみるとイギリス人なので驚いた。イギリスにとってナポレオンは仇敵なのでは?てっきりフランス人、でなけりゃアメリカ人なのではと思っていたのだった>作者。これまたこの巻で気付いたことなのだが、表紙イラストは生?範義なんですな。いかにも悪者って面魂のアラブ人が竜騎兵にボコにされてる絵。いいのかこれ。

前回のイタリア遠征を生き延びてすっかり経験値をあげてしまった囚人部隊の一行。囚人ならではのこすっ辛さも相まって、ナポレオン軍の中でも侮れない実力を持ってしまっている。実力はありながらも元は囚人、ってことで最前線に投入されるやら特殊任務に徴用されるやらでやたらに酷使されている事実はやはり消耗品。この辺りの辛酸舐めさせられてる描写がなかなか良いのだ。

ナポレオンというと華々しい戦い振りが思い浮かぶが、現実の一般兵士たちにはそんな栄光は全く無縁だった。給料も支払われないまま、過酷な環境下へ連れて行かれ、補給は全て現地調達。革命の名の下に戦われた幾多の正義が多くの流血と略奪を生みだしていった現実を特に意識してこのシリーズでは描写しているようで興味深い。まるでナポレオン礼賛になっていないところは、やはりイギリス人の描いたナポレオン戦記と言えるのかも知れない。[2001/11]

かりそめエマノン
[梶尾真治] ★★★☆ 徳間書店 徳間デュアル文庫 (\487) [Amazon]

かりそめエマノン (徳間デュアル文庫)

荏口拓麻は孤児だった。幼い頃の記憶をほとんど持たない拓麻だったが、ただ一つ覚えているのは握りしめていた幼い妹の手の感触だけ。幸いにも養父母に恵まれ、何一つ不自由の無い学生時代を過ごす拓麻。しかし自分の中に潜む不可思議な能力のルーツを追い始めた時、ひとりの少女が拓麻の前に現れる。生き別れの双子の妹は「エマノン」と名乗った……。

『おもいでエマノン』『さすらいエマノン』に続くシリーズ第三作。シリーズ初の長編作品。書き下ろし。デュアル文庫は長編でもなく短編でもない、中編を主軸とした新シリーズ「デュアル・ノヴェラ」をスタートさせており、本書はその中の一冊。

さて初の長編作品、といってもボリューム的には確かに中編。と、言っておいた方が正確な分量だろう。187頁。それでもエマノン史上最長の作品であることに違いはない。本作はエマノンの兄、拓麻に主軸を置いた、従来とは一風異なった作りとなっている。そもそもエマノンに「兄」ってどういうこと?エマノンのなりたち的にそれっておかしいのでは?と、突っ込めたらあなたも立派なエマノンファン。

出生の秘密に悩み、生きる意義を見いだせずにいた拓麻が遂にたどり着いた、自らの生きる意味とは……。なにぶん中編なので、もっと書き込めばいいのにと思える点も多々ある。後半のマンガチックな展開はかなりズッコケルし、ラストもバレバレだ。でも素直にこれは泣いといた方がいいだろう。エマノンの設定が秀逸だからこそこの力業は許される。[2001/11] ⇒次巻

魔法飛行 [加納朋子] ★★★ 東京創元社 創元推理文庫 (\560) [Amazon]

魔法飛行 (創元推理文庫)

瀬尾さんの勧めに励まされて、かねてからの念願であった「物語」を書き始めることにした駒子。学校で出会った謎の女性「茜さん」の秘密。交差点に現れる少年の幽霊。その真相とは。学園祭で出会った不思議な事件。その背後に隠された思わぬ事実。綴られる「物語」で提示される数々の謎。しかしこの「物語」にはもう一人の読者がいて……。

1992年に『ななつのこ』で第三回鮎川哲也賞を受賞した加納朋子。本書はその受賞後第一作。1993年で単行本として刊行されていた作品の文庫版。東京創元社って文庫化するの遅すぎ。7年も普通かけないだろ。表紙の赤いコートを着た駒子とメリーゴーラウンドのイラストが幻想的な雰囲気を醸し出していてなかなか良いです。

加納作品なので基本的にはハートウォーミング系のいい話が続く。その甘さに擦れた読み手としてはめげそうになるのだが、『ななつのこ』での凝った趣向を知っているだけに、油断は出来ない。……、と思って用心しながら読んでいたのだが、意外にあっさりな終わり方。素直に駒子ちゃんの真っ直ぐさを愛でるべき作品であったのかもしれん。この娘いい子過ぎ。[2001/11]

次世代携帯ビジネス「勝ち組」の法則
[三和総合研究所] ★★★☆ 廣済堂出版 (\1,600) [Amazon]

次世代携帯ビジネス「勝ち組」の法則―日本が真の「ケータイ大国」になるために

2001年10月NTTドコモの次世代携帯サービスFOMAがスタートした。iモードの爆発的ヒットにより、世界に先駆けてモバイルによるインターネットビジネスを軌道に乗せた日本。来るべき次世代機は、仕事、ライフスタイル、産業、経済にどのような影響を与えるのか。新機能についての検証を加えつつ、これからのビジネスチャンスについてのヒントを示唆していく。

三和総合研究所は三和銀行が母体の銀行系シンクタンク。本書はその中の次世代携帯ビジネス研究チーム4名によって執筆されたもの。あからさまにバカみたいなタイトルだが、ビジネス書たるものこれくらい書かないとやっていけないのだろう。明確な実利で売る。現にこうして買ってるユーザーがいる(俺か)。

iモードの爆発的普及の経緯をひもときながらその成功要因を分析。既に実現している携帯ビジネスについて実例を挙げつつ、次世代携帯でもたらされる新技術の数々を紹介。続いてこの次世代携帯がもたらす新たな可能性について模索していく。前半部分こそ、これまで『iモードストラテジー』『iモード・マーケティング&広告』で何度も読んできた話の繰り返しなのだが、さすがに今月発売の新刊だけあって、次世代機については多くの頁を割いておりこの点は役に立つ。提示されるアイデアの中には思わず首を捻りたくなるものもいくつかあるのだが、仕事のネタになるようなひっかかりを拾う分には、まあ十分なボリューム。[2001/11]

耀変黙示録IV 炎の蜃気楼33
[桑原水菜] 
★★★ 集英社 コバルト文庫 (\495) [Amazon]

耀変黙示録4 神武の章―炎の蜃気楼(ミラージュ)〈33〉 (コバルト文庫)

太古の眠りより目覚めた丹敷戸畔の猛威になすすべもない直江たち。一方、成田譲に拉致された高耶は、その危機を意外な人物によって救われる。混迷を深める一方の事態の最中、四国では日本最大の怨霊崇徳院の霊が暴走を始める。直江たちに合流を果たした高耶は局面の打開を計るべく、四国呪法を用いた伊勢神宮への呪詛攻撃を決意する。

炎の蜃気楼シリーズ33巻。あとがきを信じるのであれば、この巻にてファイナルステージ前半戦がようやく終了なのだそうだ。懐かしキャラが続々と再登場を果たし、なんとなく終わるような気になってきた。氏康パパなんてすっかり存在忘れてて、誰こいつ?と、秘かに突っ込んでしまった自分なのだった。登場人物多すぎて完全にわけわからんので、集英社のヒト、登場人物紹介コーナーはもっとしっかりしたモノを作るように。もちろん相姦相関図入りで。[2001/11] ⇒次巻

ブックオフと出版業界 [小田光雄] ★★★ ぱる出版 (\1,800) [Amazon]

ブックオフと出版業界―ブックオフ・ビジネスの実像

近代の出版流通システムの隙間の中で驚くべき急成長を遂げたブックオフ。僅か10年で総店舗数は500に迫る勢いに。街の書店は続々とつぶれ、出版社が赤字に苦しみ、取り次ぎは返品に悲鳴をあげる。不況下の90年代。ブックオフな何故ここまで成長することが出来たのか。その行き着く先は何処にあるのか。

筆者は1951年生まれ。現役の出版会社経営者。他著書に『出版社と書店はいかに消えていくか』『「郊外」と現代社会』等がある。

前々から読みたいと思っていた本だったので、地元の書店で見かけた時に速攻購入。第一章では近代の出版流通システムがいかにして崩壊に至ったかを概説。各出版社の売り上げ推移、大規模郊外店の新店ラッシュとそれに伴う街の中小書店の廃業ペースの加速化、返品率の変化、等々を実際に統計を提示して説明。その深刻なまでの崩壊振りをまざまざと思い知らされる。

続いて二章以降ではいよいよブックオフの実体にメスが入る。売上高伸び率、経常利益、店舗数、売り場面積、全てにおいて新刊書店をブックオフが圧倒している。そして大手出版社や取り次ぎのほとんどが収益でブックオフに劣り、古本専門店に至ってはそもそも比較にもなっていない。文字通りの一人勝ち状態が現出している事実にはとにかく驚かされる。本書では、ブックオフが右肩上がりの成長を続けてきた要因を読み解きつつ、今後の展望について述べていく。

ブックオフが近代出版業界の制度疲労の中から生まれてきた鬼子であることはよくわかった。この内容をより客観的な視点で余計な事を書かないまま終わってくれればきっとこの本はかなりわたしに取って好印象を残したはずだ。が、全編を通じて溢れ出る、ブックオフに対する筆者の常軌を逸した敵愾心には、読んでいてかなり辟易させられた。経営者に対する言いがかりに近い個人批判にまで筆が進むに及んで、この筆者ひょっとしてトンデモ系なのか?という不安が脳裏をよぎる。これは余計なお世話だろう。[2001/11]

クラインの壺 [岡嶋二人] ★★★☆ 新潮社 新潮文庫 (\520) [Amazon]

クラインの壷 (新潮文庫)

何気なく応募したゲームブックの原作コンテスト。ふとしたことから最新ゲームマシン「クライン2」用プログラムの開発に携わることになった上杉。「クライン2」のもたらす圧倒的なリアリティにたちまち魅せられてしまう。しかし開発スタッフたちの異常なまでの秘密主義に不審を抱いた上杉は、ある日信じられない事実に気付いてしまう。

1989年に単行本として刊行されていた作品を文庫化したもの。井上夢人と田奈純一、二人の合作ペンネームが岡嶋二人。本作は岡嶋二人名義で書かれた最後の作品。当時のこのミスで5位、文春のベスト10でも7位に入るなど、発表当時は非常に話題になった本だったと記憶している。映像化もされていたような気がする……。

15年以上昔に一冊だけ読んで以来ずっとご無沙汰の岡嶋二人。避けてるわけではないんだけど、何故か縁遠い作家というのはあるものだ。400ページを超える大ボリュームの内容だというのに、まるで滞るところなく、一気に最後まで読ませてしまう筆力は評判に違わぬ見事さ。エンタテイメント小説としての楽しさマンキツさせてくれる一冊。

クラインの壺とは外側をずっといくと内側。内側をずっといくといつのまにか外側になってしまう壺。境界が存在しない曲面。まあメビウスの輪の立体版みたいなものだろうか。19世紀、ドイツの数学者フェリックス・クラインが考案したもの。このタイトルからなんとなく中身は予想が付くのだが、話の運び方が巧いのだろう。それを知っていて尚、物語に引き込まれてしまう。宙ぶらりんなラストも◎。クラインの壺は閉じられてはならないのだ。[2001/11]

呪禁官 [牧野修] ★★★ 祥伝社 ノンノベル (\848) [Amazon]

呪禁官

葉車創作。通称ギア。亡き父の跡を継ぐべく呪禁官の養成校に通うギア。科学を凌ぐ勢いで呪術が世界に蔓延する世界。世に溢れる呪術犯罪に対抗するのが呪禁官だ。厳しい訓練にあけくれるギアの学園生活。そんなある日国立呪禁センターを科学者テロリスト集団が襲撃する。偶然現場に居合わせたギアたちは、予期せぬ出来事に巻き込まれていく。

1992年『王の眠る丘』でハイ!ノヴェル大賞を受賞。1999年『スィート・リトル・ベィビー』で日本ホラー大賞長編賞佳作を受賞。以後はコンスタントなペースで量産に入った牧野修の最新作。書き下ろし作品。

す、清々しい。牧野修に一体何が?なんと本書はジュブナイル伝奇アクションなのだ。昔の平井和正とか菊池秀行辺りを彷彿とさせるものがある。落ちこぼれなんだけど、秘めた才能を持つ主人公。秀才、デブ、不良とバランスの取れた級友たち。美人でグラマーな女教官に、陰のある中年男キャラ、そしてイッちゃってる美形敵役。定番なだけにピタリと嵌るとこれが実に面白い。

陰陽道から道教、修験道にグノーシス、果てはカバラ思想まで、著名なオカルト呪術がてんこもりになっているのがとても楽しい。未熟な少年たちが呪術と体術、そして知恵と勇気を駆使して、さまざまな困難をいかにして乗り越えていくのか。これは今後に期待するしかない(って、続くのか)。唯一足りない要素としてはヒロインかな。次回作ではなんとかするように。[2001/11] ⇒次巻

「ABC」殺人事件 [有栖川有栖/恩田陸/加納朋子/貫井徳郎/法月綸太郎]
★★★☆ 講談社 講談社文庫 (\590) [Amazon]

「ABC」殺人事件 (講談社文庫)

突如提示される挑戦状。颯爽と登場する名探偵。法則性に基づいた連続殺人事件。一見、何の共通性も持たないそれぞれの事件を貫く思いもよらぬ共通ポイントとは何なのか。アガサ・クリスティの名作『ABC殺人事件』をモチーフとした、実力派作家5名によるアンソロジー。

講談社文庫創刊30周年記念書き下ろしアンソロジー作品。この5人を連れてきたのはさすがは大手所、講談社。ファンとしては恩田作品の書き下ろしを喜ぶべきなんだろうが、法月綸太郎がまだ新作を書いてくれるようで一安心。近頃、新刊見てなかったからなあ。以下、各編ごとに寸評。

「ABCキラー」@有栖川有栖。アリス君と臨床犯罪学者火村英生シリーズ。オーソドックスな一編だが、それだけに最初に持ってきているのは正解。クリスティの『ABC殺人事件』を忘れてる人もこれで一安心。どういう内容だったかこれで思い出せるのだ。ネタバレしまくりなので未読の方は気を付けよう。

「あなたと夜と音楽と」@恩田陸。このラインナップの中では内容的にも、作風的にも違和感は否めないか。物語はDJ二人の掛け合いだけで進行していく。醸し出される夜の雰囲気は絶妙なんだけど、掛け合いだけでこの謎解きを起承転結させるのはちとしんどい気がする。

※「あなたと夜と音楽と」に関しては2007年刊の恩田陸作品『朝日のようにさわやかに』にも収録されている。

「猫の家のアリス」@加納朋子。殺されるのは人ではなくて猫。ネットならではの特性をうまく活用。いかにも加納作品らしいほわほわした読後感。ところでこの登場人物たちってシリーズになってるのかな?

「連鎖する数字」@貫井徳郎。実はこれが初貫井。短編たるもの、無駄な要素は無いわけで、途中で出てきたあの人が関係無いわけがない。どちらかという被害者のたちのキャラが短い描写でありながらよく伝わってきて、なんだか妙に切ない一編。

「ABCD包囲網」@法月綸太郎。久しぶり>ノリリン。ファンとしてはそれだけで満足なんだが、パパの方も元気そうで何より(全然感想になってねえ)。[2001/11]

かっこ悪くていいじゃない
[森奈津子] ★★★ 祥伝社 祥伝社文庫  (\381) [Amazon] ※書影無し

金子美里。28歳。バイセクシャルの美里はこれまで奔放に恋愛を楽しんできた。享楽的で楽天的な美里が、ある時踏み込んでしまった泥沼の恋。人気ミステリ作家神野英一郎との刹那的な不倫にのめり込んでいくのだが、時を同じくして現れたミステリアスな女性ナナにも心惹かれて……。

昨年評判になった祥伝社の400円文庫。中編書き下ろしシリーズが今年もやってきた。昨年西澤保彦の『なつこ、孤島に囚われ』で主役を張った森奈津子センセが今回は自ら筆を取り書き下ろしを上梓したのが本作。

う〜ん。このページ数は短すぎたのか?それとも何かの勘違いなのか?いや、そもそも莫迦エスエフが読めると思って購入した自分が甘かったのか。主人公の女性がバイセクシャルであるという点を除けば、いたってどうということのない性愛小説。言ってることもフツウだしなあ。少々期待が空回り。[2001/11]

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