2001年12月

2001年に読めた本は結局173冊(昨年比-4冊)
月初では昨年のペースを抜けると思ってたんだけど、
やはり年末は数が読めない。

書籍名
作家名
出版社
価格
コメント
お薦め度
信長あるいは
戴冠せるアンドロギュヌス
宇月原清明 新潮社 \1,600
しびれ。酔いに注意。
★★★★

牛丼屋夜間アルバイト

小野省子 本の森 \880
沁みます。
★★★☆

柳田國男

牧田茂 中央公論社 \580
とりあえずこれで概略を。
★★★

イリヤの空 UFOの夏
その1

秋山瑞人 メディア
ワークス
\550
ハッピーエンドを激しく希望。
★★★☆
イリヤの空 UFOの夏
その2
秋山瑞人 メディア
ワークス
\570
空前絶後のマイム・マイム。
★★★☆

アウラの選択
グインサーガ82

栗本薫 早川書房 \540
古代機械にファンクションキーが(涙)。
★★★

飛び出し注意くん
交通安全人形写真集

藤田正美 東方出版 \1,000
路上オブジェ好きは必読。
★★★☆
カルト資本主義 斎藤貴男 文藝春秋 \667
知らないこの国の一断面。
★★★☆

慟哭

貫井徳郎 東京創元社 \720

ちょっと硬いが読ませる。

★★★☆

ネガティブハッピー
・チェーンソーエッジ

滝本竜彦 角川書店 \1,500

イタサが快感に。

★★★☆

暗黒童話

乙一 集英社 \905

初長編ながら、あと少し物足りない。

★★★☆

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信長あるいは戴冠せるアンドロギュヌス
[宇月原清明] ★★★★ 新潮社 (\1,600) [Amazon]

信長あるいは戴冠せるアンドロギュヌス

1930年。ベルリン。アントナン・アルトーの前に現れた、謎めいた東洋人は自らを総見寺と名乗った。異色のローマ皇帝ヘリオガバルスに傾倒するアルトーに、総見寺は日本の戦国武将、織田信長との奇妙な符合について語り始める。共に暗黒の太陽神を崇拝し、そして両性具有であったと。次第に明らかになる信長の真実の姿とは……

第11回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞作品。作者はこれまでに第六回三田文学新人賞を受賞。詩歌、評論などに著作がある。第二作『聚楽太閤の錬金窟』は近日発売予定。

小説書きたるもの、いかにして見てきたような嘘をうまく書くかが勘所だと思うのだが、本作に関してはそんな既成観念は吹っ飛んでいると言っていい。妄想振り切れ気味。ある意味見事なまでのバカ本と言ってもいいだろう。信長が両性具有だったというだけで既にビックリだが、畳みかけられる驚きの真実の数々に最後まで魅せられっぱなしなのだ。

ヨハネの黙示録を実践する信長。道々の輩と野合する信長。バール神と牛頭天王の符合。桶狭間合戦から本能寺に至るまでの史実に隠された意外な真相の数々。いくらなんでもそれはないだろうというネタがここまで惜しげもなく投入されてくると、次第に次はどんなエピソードが読めるんだろうかと楽しみになってくる。

戦国時代と20世紀を行きつ戻りつしながら物語は佳境へ。終盤の仕掛けは来るぞ来るぞとわかってはいても見事な切れ味。顕現する地獄の道化師。黒服の男たちの怒号。この酩酊感はただごとではない。信長は天界へと去り、総見寺もまた舞台を去っていく。至上の存在に置き去りに去られた秀吉やアルトーはただ狂うしかなかったのかもしれない。得難い作品を読み終えてしまった読者もまた同様に……。[2001/12]

牛丼屋夜間アルバイト [小野省子] ★★★☆ 本の森 (\880) [Amazon]

牛丼屋夜間アルバイト

深夜の牛丼屋で疲れ切った人々を癒してくれる一時のやすらぎ。日頃は忘れていた、家族の暖かみ。なんだか煮詰まってしまって、どうにもならなくなってしまった自分。忘れていたはずの幼い日の思い出。何気なく通り過ぎていく雑踏の中で見つけたなにか。言葉にならないなにかを言葉にして届けてくれる、そんな詩の数々。

作者は1976年生。第一回野口雨情大賞(そんなのあるんだ)優秀書を受賞。キャスターポエムコンテスト99グランプリを表題作で受賞。現在は実家の眼鏡店を手伝いながら詩作を続けている方。

いたいけだった?ワカモノの頃ならいざしらず、詩集の類なんてとんとご無沙汰していたわたしだったのだが、朝日の書評がジャストミート。タイトルがこれ以上にないくらいに破壊力抜群。なんでって、それは昔吉野家でバイトしてたから。これは買うしかないとあちこち探してみるものも出版社がマイナーなのか見つからず。仕方なくネット書店で購入。とっととこっちで購入しておくべきだった。

現代詩の世界が今どんな傾向なのかは門外漢には知るよしもないのだが、もっと難解で、カッ飛んでるものを想像していたが、それは全くの的外れ。誰にでもすぐわかる平易な言葉だけでこの作品集は紡がれている。だからすっと作品の中に入ることが出来る。でも、きっとそれはものすごく難しいことなのだと思う。

詩歌だから、合う合わないはフツウの小説以上にあるだろうし、共感のレベルも作品ごとにまちまちだが、個人的なシンクロ度ナンバー1はやはり表題作。吉野屋を舞台とした作品の中では中島みゆきの名曲『狼になりたい』に匹敵してる。深夜営業店のうらぶれた雰囲気がまざまざと甦ってきて、この詩本来の趣旨とは違うところで感じ入ってしまった。[2001/12]

柳田國男 [牧田茂] ★★★ 中央公論社 中公新書 (\580) [Amazon] ※書影無し

日本民俗学の祖、柳田國男。官僚としても活躍。民俗学だけでなく、農政学、社会学、人類学、歴史学、国文学、国語学と、幅広い分野で才能を発揮したこの人物の生涯を概観。あまりに膨大な著作数故に、なかなか捉えることが出来ないこの巨人の姿を、当時を知る者の視点から明らかにしていく。

筆者は元朝日新聞社社員。柳田國男に私淑し、折口信夫に師事していた人物。初版は1972年と30年も前の本なのだが、今回読んだのは版を重ねて10版目。1989年のバージョン。売れてるんだなあ。

伝記本。なにせ柳田國男を柳翁と称してしまう本なので、かなり偏った内容を想像していたのだがそれほどでも無かった。幼少期から晩年まで、少ない紙面をやりくりして、民俗学界のドンの生涯を綴っていく。最初から学者だったのかと思っていたのだが、実は元は官僚だった事を知って驚いた。しかも結構出世している。徳川家達と喧嘩して野に下る辺りのエピソードは面白かった。

官僚としての柳田はかなり破天荒な人物だったようで、公務そっちのけで、海外を含めた各地を何ヶ月も旅行して歩いている。現代ではとても許されないことで、いくら何でもそれは怒られるとは思うのだが、それもまた明治という時代のおおらかさなのだろうか。しかし旅に明け暮れた壮年期の柳田は実に充実していたことだろう。少し羨ましい。[2001/12]

イリヤの空 UFOの夏 その1
[秋山瑞人] 
★★★☆ メディアワークス 電撃文庫 (\550) [Amazon]

イリヤの空、UFOの夏〈その1〉 (電撃文庫)

浅羽直之、中学二年の夏休みはUFOの夏だった。非公認団体新聞部の名物部長に引きずられ、UFOを追い求め来る日も来る日も裏山での張り込みに明け暮れた日々。夏休み最後の夜。不毛な夏の日々のせめてもの気晴らしにと学校のプールを訪れた浅羽。それが不思議な少女伊里野可奈との出会いだった。

『E.G.コンバット』『鉄コミュニケイション』『猫の地球儀』に続く第4作。オリジナル作品としてはこれが第2作となる。本作は『電撃HP』誌に掲載されていた作品に書き下ろし作品1作を加えて文庫化したもの。学園モノってこともあるのか、イラストが微妙に萌え系イラストに。やはりこの作家はもっと売れてしかるべきなので、この選択はまあ、ありだろう。

犬も猫も出てこない。現代?を舞台とした正統派学園ラブコメ。と、言ってもこの現代はかなり現実の日本とは違っている。平穏な学園生活の背後には敵国である「北」からの脅威があり。いつ始まるとも知れない戦争への不安が人々の心の中にはある。なにせ秋山瑞人なので、のほほんとしているだけのラブコメを書くわけがなく、そこはかとなく漂う悲劇への予感がたまらない。やはり散々な目に遭うんだろうなあ>ヒロイン。別にハッピーエンド至上主義者というわけではないんだが、この作品に限っては幸福な結末を強く希望。

では以下、各編ごとに雑感。まずはひとつめ。「第三種接近遭遇」。オープニング。出会い編。キャラクター紹介と状況説明にとりあえずは終始してみたって感じの一編。主人公は特に取り柄のないうすらぼんやり君(妄想癖アリ)。時々妙なことをしでかしてトラブルに巻き込まれるという、ラブコメの基本に忠実な設定。まずはこんなもんか。

続いて「ラブレター」。ヒロイン伊里野可奈の紹介編。伊里野は感情をなかなか表に出すことが出来ず、他者とのコミュニケーションを取るのが極端に苦手な女の子。ドタバタの中にもシリアスな要素を織り込んでいて今後起こりうるであろう悲劇への伏線を撒いていく。ラブレターの件といい、入部届けの件といい、一つ一つの小ネタがいい味出している。

ラストは「正しい原チャリの盗み方(前編)」。原チャリ盗んじゃ駄目だってば。遂に狂気の天才部長水前寺クンが本格的に活躍開始。キャラ的には『あ〜る』の鳥坂センパイみたいなのを想像するように。こういう破天荒なキャラは欠かせんですな。後編これから読むので全体的な感想は次巻に持ち越し。[2001/12] ⇒次巻

イリヤの空 UFOの夏 その2
[秋山瑞人] 
★★★☆ メディアワークス 電撃文庫 (\570) [Amazon]

イリヤの空、UFOの夏〈その2〉 (電撃文庫)

浅羽直之の受難は続く。水前寺部長の命令とはいえ、伊里野加奈とのデートの約束を取り付けた浅羽。しかし二人の初デートは監視付きだった。ハプニング続きのドタバタ劇の果てに、浅羽は伊里野の秘密に触れることになる。終わらない夏。空前の盛り上がりを見せる文化祭。祭りの喧噪の中でそれぞれの想いが行き違う。

前作から僅か1ヶ月で早くも続巻。まあ、雑誌連載作品だから順当に出て当然か。本作も前作同様に電撃HP掲載作品に書き下ろし短編を加えて文庫化したもの巷では『EGコンバット』の続きが切望されているようなので、頑張って書くように>作者。完結するまで読めないんだから。

では例によって各編ごとに感想をば。まずは前作の続き「正しい原チャリの盗み方(後編)」から。少しずつこの世界の謎についての言及がなされてきてシリーズ3作目にして、ようやく物語が動き始めたかな、という予感を持たせてくれる。「北」というのは、どうも海の向こうというよりは、陸続きの日本、東北部以北のような気がする。この緊張感、どことなく『ガンパレード・マーチ』に通ずるものある。ラストの散髪シーン、夕子視点でのクロージングがとても印象的。

で、「十八時四十七分三十二秒(前/後編)」。本作の裏ヒロイン、須藤晶穂にようやくスポットライトが当たる。勝ち気な女の子。想いに気付かない鈍い主人公。そして絶対に勝てそうにないヒロインの存在。頑張って文化祭であれこれ画策してるのに、最後の最後で美味しいところ全部ヒロインに持って行かれてしまう晶穂。既に相当可哀想なので、今後、もっと悲惨な役回りにならないことを祈らずにはいられない。

この作品世界、格別の思い入れがあるのか、なにか仕掛けがあるのか今のところ不明ながら、何が何でも季節は夏で通すつもりらしく、9月も後半だというのにまだ夏だったりする。夏の終わりの文化祭の喧噪。ここら辺『ビューティフルドリーマー』入ってるような……。現在進行形で学生じゃない向きでも、この雰囲気には惹かれるもの大なのでは。

伊里野の過酷な境遇が次第に明らかになってくる中で迎えるラストシーン。相変わらずキメのシーンはため息が漏れるほどの美しさ。秋山節全開。頭の中でマイム・マイムのリフレインが止まらないのだった。[2001/12] ⇒次巻

アウラの選択 グインサーガ82
[栗本薫] 
★★★ 早川書房 ハヤカワ文庫 (\540) [Amazon]

アウラの選択―グイン・サーガ(82) ハヤカワ文庫JA

レムスに導かれ、魔宮と化したクリスタルパレスに単身乗り込むグイン。そこでグインは王の意のままに従う木偶のようなパロ宮廷の人々を目の当たりにする。変わり果てたアルミナに不気味な哄笑を湛える魔王子アモン。そして現れる禁断の古代機械。グインが転送装置に近づいた時、これまでに無い反応を古代機械は示し始めるのだった。

グインサーガ82巻。あ、古代機械絡みの話はひたすら萎えたのでパスね。表紙はリンダだろうか。まさかアルミナ?んなわけないか……。とはいえ、こないだの巻ではヒドイ有様だったアルミナが、中身は壊れているものの、少なくとも外見は現世のレベルにまで復帰。お下劣度も大幅ダウンで再登場。グインのいるところではさすがに品性は下げられんか。ナリナリとヴァレリウスが出てこないというのも大きい。作品の健全化に多いに貢献していると言って良いだろう。

それにしてもいつからリンダはこれほどまでに魅力の無いキャラクターになってしまったのだろう。無思慮にキャンキャン煩いだけで、とてもヒロイン(でしょ?)とは思えないのだが、今回のタイトルと絡めて考えるとリンダ=アウラということなのだろうか。[2001/12] ⇒次巻

飛び出し注意くん 交通安全人形写真集
[藤田正美] 
★★★☆ 東方出版 (\1,000) [Amazon] ※書影無し

路傍に佇み、子供たちの交通安全を祈願して雨の日も風の日も、ボロボロになりながら奉仕し続ける飛び出し注意くん。オリジナルタイプから様々なマンガキャラクタータイプまで、豊富なバリエーションを網羅。折に触れて撮り貯めた2,000枚ものストックから厳選された飛び出し注意くんたちの写真集。

存じ上げなかったのだが、筆者は関西を中心に活動しているタレントさん。十年間かけて撮り続けてきた飛び出し注意くんの写真。その集大成が本書。路上の不思議オブジェ愛好者にとっては貴重な一冊。注文したのに版元品切れでずっと探していたのだが、偶然立ち寄った書店で運良く捕獲に成功。しかし、正直言って女性の方だとは思っていなかったので少し驚いた。

飛び出し注意くんとは、街角によく立っている交通安全用の人形のこと。実物はこんな感じの奴。全国各地で作られているので様々なバリエーションが存在する。子供が作ったものから地域の町内会の手によるもの、果てはプロの作品まで、その出自は様々。キャラクターもオリジナルキャラあり、マンガのキャラクターの無断借用品あり(似ても似つかない奴も多い)と、バリエーションは実に豊富なのだ。

数ヶ月前から自分も飛び出しくんの撮影を始めていただけに、よもやこんなことをしている人間が他にいたとは!秘かにショックを受けているわたしなのだが、撮影レベルといい、着眼の良さといい、さすがは十年選手。単体での飛び出し注意くんだけでなく、背後の子供たちをも枠に取り込んで撮影している辺り、女性ならではの広い視点だなあと感じ入る。惜しむらくは収録点数の少なさと、撮影地域が関西近郊に偏ってしまっていること。もっと見たい。[2001/12]

カルト資本主義 [斎藤貴男] ★★★☆ 文藝春秋 文春文庫 (\667) [Amazon]

カルト資本主義 (文春文庫)

ソニーのエスパー研究室。「永久機関」。科学技術庁のオカルト研究。「万能」微生物EM。オカルトビジネスのドン「船井幸雄」。米国政府が徹底して擁護するアムウェイ商法。バブル崩壊以降の日本経済界において、少しずつ、しかし着実なペースで顕著になりつつあるオカルティズムへの傾倒。その底流にある共通事項とは……。

筆者はノンフィクション作家。本書は1997年に単行本として刊行され、2000年に文庫化されたもの。その際に一部加筆修正がなされている。

自社の社長が稲森和夫好きで、数年前に読めと云って配られた本は船井幸雄の本。胡散臭いネットワークビジネスにハマって辞めていった連中が周りに何人もいたりする。こんな自分に取ってはこの本の世界は絵空事でも無ければ、他人事でもないわけで、この世界を俯瞰して捉えるには良き一冊だろう。世の中思った以上にこの手の人々は本当に増えてきている。個人で楽しむ分にはかまわないけど、他人を(ましてや家族を)を巻き込んじゃダメだ。[2001/12]

慟哭 [貫井徳郎] ★★★☆ 東京創元社 創元推理文庫 (\720) [Amazon]

慟哭 (創元推理文庫)

連続幼女誘拐殺人事件の捜査は長期戦になっていた。一向に展開しない局面に苦悩する捜査陣。現場を指揮する捜査一課長佐伯は異例の出世を遂げたキャリア警察官だった。ぎくしゃくとした雰囲気の漂う現場からは佐伯の方針について批判が相次ぐ。そんな最中に犯人からの犯行声明文が到着。事態は混迷の度合いを深めていく。

1993年に東京創元社より刊行された作品の最終候補作品。本作がデビュー作となる。

先だっての『「ABC」殺人事件』で短編作品は読んでいた貫井徳郎だったのだが、ようやく長編作品を読むことが出来た。社会派(って死語かもう)的なスタンスを取りながら実は本格的要素を多分に含む、というのがこの作家の作品の特徴なのだろうか。ラストでは見事にしてやられた。非常にシビアな終わり方なので、読後感はとても重く、なんともやるせない気持ちだけが残る。処女作ってことで、随所にぎこちなさは残るが、筆力がありそうな作家だと思うので引き続き読んでいきたい。[2001/12]

ネガティブハッピー・チェーンソーエッジ
[滝本竜彦] ★★★☆ 角川書店 (\1,500) [Amazon]

ネガティブハッピー・チェーンソーエッヂ

山本陽介はごくごく平凡な一介の男子高校生だ。しかし彼が恋した少女、雪崎絵理は非凡な運命を背負っている。チェーンソーを振り回し暴れ狂う謎の男を相手に日夜戦い続ける美少女戦士なのだ。退屈な日常からの脱却のため、はたまた恋のため、絵理と共にチェーンソー男との戦いに挑む、陽介の奇妙な高校生活を綴る。

第五回角川学園小説大賞特別賞受賞作品。って、スニーカー大賞とはどう違うの?審査するのが編集部だけであること(スニーカーの方は有名作家の審査がある)。応募条件が25歳未満であることくらい?がくっとレベルは違うけど、乱歩賞に対するメフィスト賞くらいの気持ちで考えておけばいいのだろうか。第五回という割にはそれほど人気作家を出していない当たり、ちと寂しいぞ>この賞。

この設定にしてこの表紙(かなり萌え系)。しかも学園小説大賞ってことなので、いかにもライトノベルテイストな、学園アクション活劇なのかと思って読んでみたらこれが大間違い。正体不明の敵と戦う美少女戦士を、生暖かく下心満々で見守り続ける男子高校生の物語。無気力、勉強ダメ、スポーツダメ、と、三拍子揃った当世風ダメ主人公の平凡な日々に訪れた非日常の世界を描く。

作者が1978年生まれの人間というだけあってか、時代の雰囲気の切り取り方がなかなか良いのだ。かつて上遠野浩平で感じた、「ああ、それ、あるある」ってなシンパシーに近いか。まるで格好良くない主人公なのに、ラストでもたらしてくれたカタルシスが思いの外深かったのには我ながら驚いた。[2001/12]

暗黒童話 [乙一] ★★★☆ 集英社 (\905) [Amazon]

暗黒童話

事故により眼球を失い、それによりかつての記憶を全て無くしてしまった菜深。学校で孤立し、家族との絆も失いかけていた菜深は、祖父の援助を受け、眼球の移植手術を受ける。しかしその時から不思議な幻像が菜深を襲い始める。それは今は亡き、眼球の提供者、和弥の記憶なのか。導かれるままに訪れた和弥の故郷で、菜深は恐るべき殺人鬼の秘密を知ってしまう。

書き下ろし作品。集英社で3冊(文庫入れると5冊)。角川で2冊。幻冬舎で1冊出しているのでこれで7作目。乙一初の長編作品。これでようやく既刊コンプリート。

癒しと再生。グロイ描写。どんでん返し。長編作品だけあってか、乙一のよく使いたがる基本ファクターが全て盛り込まれた一作に仕上がっている。ホラー的な要素を随所に盛り込みながらも、本作はアイデンティティを失った少女の再生譚だったりするわけで、どちらかに振り切れないのが乙一らしいところ。集英社作品はホラー寄りって割り切るのであれば、そもそも主人公が女の子である必要すらなかったのではと思う。この作家、今年で一気に名前が知られた感があるけど、もう一段階突き抜けて欲しい。もっと上に行ける筈。[2001/12]

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