2002年5月

今月はなんと言っても池上永一。
そしてオージャーガンマーさまの大活躍ぶりに尽きる。最高だよ。

書籍名
作家名
出版社
価格
コメント
お薦め度
バガージマヌパナス 池上永一 新潮社 \1,359
綾乃ちゃんがイイ!
★★★★
夜陰譚 菅浩江 光文社 \1,600
怖いというかこれは嫌だ。
★★★
劫尽童女 恩田陸 光文社 \1,500
またやってしまったか。
★★★
真っ暗な夜明け 氷川透 講談社 \900
オーソドックスな作り。
★★★
こわれもの 浦賀和宏 徳間書店 \800
これも非安藤シリーズ。
★★★
コフィン・ダンサー ジェフリー
・ディーヴァー
文藝春秋 \1,857
よく書けてる。ひっくり返し過ぎ。
★★★☆
解決まではあと6人 岡嶋二人 講談社 \540
これもよく書けてる。
★★★
エンジェル&クラウン 如月香 白泉社 \638
惜しいかなあ。
★★★

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バガージマヌパナス [池上永一] ★★★★ 新潮社 (\1,359) [Amazon] ※書影無し

沖縄の女子高生綾乃は印象的な顔立ちの美少女でありながら、島でも名うてのなまけもの。日がな一日なにをするでもなくオージャーガンマーという少々惚け気味の老婆とおもしろ楽しく毎日を過ごしていた。そんな彼女に訪れた神のお告げは「村のユタになれ」というものだった。とまどいながらも成長していく綾乃の姿を躍動的に描く。

第六回日本ファンタジーノベル大賞の大賞受賞作品。ちなみに同時に大賞を受賞したのがかの怪作『鉄塔 武蔵野線』@銀林みのる。この年は当たり年だったんだね。池上永一はこの後『風車祭』が直木賞候補作品に。そして『復活、へび女』(後に『あたしのマブイ見ませんでしたか』に改題)、『レキオス』と寡作ながら良作を世に送り出している。

これはイイ。すごくいいよ。南島モノ、ユタとかノロみたいな民俗ネタ、無意味に元気一杯な老婆と、自分的なツボ押されまくりの本作。まず主人公の綾乃なのだが、溌剌とした健康的なピチピチ感が存分に描き込まれていて、なんとも魅力的なヒロインに仕上がっている。このキャラクターを創出しえただけでも素晴らしいのに、更に強烈なキャラクターオージャーガンマーが惚け老人ならではの破天荒な暴れ振りで、主役を喰いかねない印象度の強さを見せつけてくれる。

タイトルのバガージマヌパナスとは「わたしたちの島の話」の意。南の島の色彩豊かな風景や、そこに暮らす人々の息づかい。南の島ならではの開放的なあっけらかんとしたノリが生き生きと描写されていて、物語世界の醸し出す濃密な存在感は本当に見事なものがある。現実とは異なる別の世界の存在を感じさせること。一つの世界を創造せしめたという点で、まさしく本作は一級のファンタジーに仕上がっている。[2002/05]

夜陰譚 [菅浩江] ★★★ 光文社 (\1,600) [Amazon]

夜陰譚

自らの肥満体を激しく嫌悪する女がある夜巡り会った奇妙な情景を描いた表題作をはじめ、家庭内暴力の取材の中で出会った恐怖体験を描く「つぐない」、人魚の鱗を巡る女の妄念を描いた「贈り物」、離れに隔離された狂った叔母との交流を描く「和服継承」など、九編の短編を収録した怪奇作品集。

カッパ・ノベルスの「異形コレクションシリーズ」等の各種アンソロジーのために書き起こされた八編に書き下ろし一編を加えて上梓されたのが本作。日本推理作家協会賞受賞後の第一作となる。いずれの作品にも女性ならではの情念とも怨念ともいえる、ドロドロした想いが詰め込まれていて、実にゾッとさせられる。夜の昏さ、まとわりつくような空気の密度、闇の中からでも感じられるねとっとした視線……、なんてものを終始感じさせられがら読了。怖いと言うより、強い嫌悪感を覚えた一冊。[2002/05]

ついでに……

『末枯れの花守り』@菅浩江<<こちらもかなり濃厚な闇の香り。

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劫尽童女 [恩田陸] ★★★ 光文社 (\1,500) [Amazon]

劫尽童女

その少女はこの世ならぬ力を持っていた。類い希なる知性を幼い体に宿し、驚異的な戦闘能力を併せ持つ。遙と名付けられた少女を巡って、謎の機関が暗闘を繰り広げる。優れた力を持つが故に、彼女は追われ続ける。同じ境遇を背負う改造犬アレクサンダーと共に、安住の地を求める遙の彷徨は続く。

季刊『ジャーロ』誌(光文社刊)の2000年秋号から2001年秋号にかけて連載されたものを、加筆修正の上で単行本化したもの。

あ、恩田陸またやっちゃったよ的な作品の最たるものが本作なのではないかと。一言で言ってしまうと尻つぼみ。竜頭蛇尾といったところ。始めに威勢良く盛り上げておきながら、最後は首をひねりたくなるような不可解な展開に……。ジャンル分けするなら伝奇アクションな類になるのではないかと思うこの作品。何故恩田陸が伝奇アクションを?疑問は尽きないのだが、やはり書いたことのないジャンルに挑戦してみたかったのだろうか。

一章ではまずその力の片鱗をお披露目。続いて二章では更に謎の機関の存在を匂わせ、三章四章では宿命のライバル(定番の同型機対決)登場と、しっかり盛り上げる手順を踏んでいるのだが、着地点たる最終章ではケチな小物とのタイマン勝負に終始と怖ろしくカタルシスに欠ける強引な畳み方をしてしまうのだ。主人公が年端もいかない少女という設定も感情移入を阻害してしまった一因か。[2002/05]

真っ暗な夜明け [氷川透] ★★★ 講談社 講談社ノベルズ (\900) [Amazon]

真っ暗な夜明け

氷川透はミステリ作家志望のフリーター。学生時代のバンド仲間たちとの久々の再会を果たしたその晩に、中心的人物であった和泉吾朗が殺害される。現場は地下鉄M線の杉並駅構内。深夜ということもあり、その場に居合わせたのは氷川たちのグループのみ。密室状態の地下鉄駅構内で、事件はどのようにしておこったのか。

1997年に鮎川哲也賞最終候補作に残った『眠れない夜のために』が島田荘司に評価され。2000年に入って本作で第15回のメフィスト賞を受賞。しかし巻末にシマソウの「薦」とか書かれている萎えるな。クイーンの顰みに倣いたい気持ちはわからんでもないけど、探偵の名前が作者と同じなのは、もうそろそろやめてくれないかなあ。地道に本格指向な作品なのだが、本格ツボの無い人間が読んじゃいかんのかもしれない。仄かに青春ミステリ風だが、それほどセンチな方向には走っていないのは好印象。[2002/05]

こわれもの [浦賀和宏] ★★★ 徳間書店 徳間ノベルズ (\800) [Amazon] ※書影無し

売れっ子漫画家の陣内龍二は最愛のフィアンセ里美を交通事故で失う。自暴自棄となった陣内は自らの描く人気作品のヒロインを作中で殺してしまう。殺到するファンからの抗議。しかしその中には里美の死を予言するかのような不気味な投書が紛れ込んでいた。差出人は48歳の中年女性神崎美佐。神崎は予知能力者なのか?次々と予知を的中させていく神崎の行動に陣内は巻き込まれていく。

書き下ろし作品。メフィスト賞出身の浦賀和宏だが、先だっての幻冬舎から出た『彼女は存在しない』に続いての非講談社系作品。徳間はこのごろミステリ系のコンテンツを増強する方向性を打ち出しているね、今更ながらではあるが。徳間ノベルスだと背表紙に著者近影と共に紹介文が入るのだが、これってちと恥ずかしい。

安藤シリーズでミステリの枠からあっさり飛び出してしまった浦賀和宏だが、このシリーズばっかり書いてるわけにもいかないだろうし、今後どうなるのかとちょっぴり不安に思っていたりもしたのだが、『彼女は〜』でしっかりミステリ作品が書けることを証明。本作も流れとしてはこちらに近い。安藤シリーズみたいに常識を越えた展開をしない分、普通の人でも大丈夫。リーダビリティも向上しているようで安心した。[2002/05]

コフィン・ダンサー
[ジェフリー・ディーヴァー] ★★★☆ 文藝春秋 (\1,857) [Amazon]

コフィン・ダンサー

その男は「コフィン・ダンサー」と呼ばれていた。殺しのスペシャリストが受けた依頼はとある公判の重要証言者たちの暗殺だった。警察を出し抜き次々と証言者を殺していくコフィン・ダンサー。彼を追うニューヨーク市警は四肢前身麻痺の天才科学捜査官リンカーン・ライムに協力を求める。ライムとダンサーの壮絶な戦いが始まろうとしていた。

『ボーン・コレクター』に続くリンカーン・ライムシリーズの第二弾。究極の安楽椅子探偵ライムとその相棒サックスの活躍を描いていくわけだが、ジェフリー・ディーヴァーのサービス精神旺盛さは相変わらず凄まじい。2段組450ページの大長編をあっさり一気読みさせてしまう。

脇役群が良く書けているのもこの作家ならではで、ダンサーに狙われる女社長パーシーの烈婦ぶりは特に印象的。しかし殺し屋スティーブン・ケイルの使い捨てっぷりがあまりに鮮やか過ぎて、少々もったいないような気がしないでもないが、これぐらいのキャラを気前よく切り捨てられたこそ、ラストの冴えがあるのかな。[2002/05] ⇒次巻

解決まではあと6人 [岡嶋二人] ★★★ 講談社 講談社文庫 (\540) [Amazon]

解決まではあと6人―5W1H殺人事件 (講談社文庫)

「カメラを探して欲しい」「喫茶店を見付けて欲しい」「自動車の後部シートが無くなったわけを調べて欲しい」各地の興信所を訪れては次々と不可思議な依頼をしていく女、平林貴子。六人の探偵たちが貴子の依頼を解決していく中で、次第に浮かび上がってくる、ある事件の真相。

1989年に双葉社より刊行された同名作品を底本として加筆修正したもの。この講談社文庫版は1994年刊行。読んでるようで読んでない作家が岡嶋二人で、あれだけたくさん書いてて評価も高い作家なのに、まともに読むのはこれがまだ三冊目。ひねりの効いたアイデアと抜群の読みやすさがこの作家のウリだと思うのだが、それは本作でも健在で、語り手の視点を次々と変えながらの連作短編という、簡単そうで、実は難しいんじゃないかと試みをしっかり成功させている。[2002/05]

エンジェル&クラウン
[如月香] ★★★ 白泉社 白泉社文庫 (\638) [Amazon] ※書影無し

19世紀末のイギリス。ロンドン。新聞記者のコプランドは凄惨な殺人事件の現場に出くわしてしまう。そこでコプランドは犯人と思しき謎の男に出会う。しかし印象的なペールエールの瞳を持つその男は姿を現さないまま姿を消してしまう。その後名門エフィンガム家のスキャンダルに巻き込まれていくコプランドだったが、またしてもペールエールの瞳の男に出会ってしまう。

白泉社が今年の4月に創刊した白泉社My文庫の第二期シリーズの中の一冊。折り込みのチラシによると、このMy文庫は「愛と牙のあるミステリー」をキャッチコピーに、キャラ萌え読者からマニアまで、割と納得できるラインナップになっているとのこと。既に突っ込みどころ満載だが「割と」って何だよ「割と」って。ちょっと適当過ぎないか。ライトノベルのミステリ叢書って近頃創刊が続いている。角川や富士見のはどっちかというと男子向きなんだろうけど、こちらはイラストのノリから見ても女の子向けのレーベルっぽい。後発ってこともあるが作家の供給が続くかどうかが今後の発展の鍵だな。

うちのサイトでリンクさせてもらっている、花月堂の如月香さんのデビュー作。イギリス、とりわけロンドンを愛好するこの方ならではのロンドン愛に満ちあふれた作品。空気の匂いやら光線のゆらぎ具合まで、こだわりをもって描いているのがよくわかる。レーベルから見て、普通にソフトやおい路線なのかと思っていたのだが(失礼過ぎ)、ちゃんとヒロインがヒロインとして機能していて、いい意味で裏切られた。

不幸な生い立ちから心を閉ざして生きてきた少女が、事件をきっかけに人間として成長し、新たに人生を自分の手で切り開いていく……。というような筋書きがストーリーの骨子なのだと思うのだが、それにしては雑駁とした要素が多すぎる。混乱するだけで、コプランドの視点そのものがいらないように思えるし、ましてや後半で出て来る変態医師は、口絵にまでなっているくらいだからおそらくお気に入りキャラなのだと思うがかなり余計。続編は出るのかな。雰囲気は楽しめたので、出るのなら読んでみたい。[2002/05]

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