春の魔術 [田中芳樹] ★★☆ 講談社 講談社ノベルズ (\760) [Amazon]

突然姿を消した来夢を追って、耕平はまたしても悪縁の地、黄昏荘園を目指し旅立つことになる。旅の途中で耕平は小田切亜弓と再会、行動を共にするようになる。次から次へと襲い掛かる魔物たち。ようやくにして黄昏荘園にたどり着いた二人だったが、更なる怪異が襲う。耕平は来夢を救い出すことができるのか。シリーズ完結編。
「夏の魔術」シリーズの最終巻。第一作の『夏の魔術』が刊行されたのはなんと1988年。14年前かよ!第二作の『窓辺には夜の歌』が1990年。第三作の『白い迷宮』が1994年。徐々に刊行ペースが空いてきて、この後、なんと版元が徳間から講談社に変わってしまう。2000年から2001年にかけて全部加筆修正の上再出版。これが完結編が出る布石なのだろうと思っていたのだが、さらに待つこと一年。やっと出たよ。待たせすぎ。
一作目の『夏の魔術』は田中芳樹作品の中でもっとも好きな作品の一つだった。悲劇的な生い立ちにもめげずに頑張る来夢ちゃん萌え(おぃ)、というのは置いておいても、オーソドックスなゴシックホラーの中ににじみ出る抒情性、逝く夏への憧憬、と、個人的な嗜好のツボ押されまくりで、あまり再読をしない自分なのに珍しく読み返しを何度もしてしまった作品なのである。
で、8年振りに刊行された本作なのであるが、残念ながら盛時の勢いはもうこの作家には残されていないことがはっきりとわかり正直落胆させられた。あまりに希薄な物語性に愕然。移動→戦う→移動→戦うの安易な繰り返し。敵キャラクターの存在も印象が弱い。確立された主人公たちのキャラターに頼りきったキャラ萌え本であるとしか思えない。このシリーズ、完結しない方が良かったのかもしれないぞ。[2002/10]
散りしかたみに [近藤史恵] ★★★ 角川書店 角川文庫 (\457) [Amazon]

歌舞伎座。「本朝廿四考」の公演の度に必ず舞い落ちる桜の花びら。女形、瀬川小菊は師に命じられこの事態の調査に乗り出す。しかし探偵の今泉文吾は思わせぶりな態度を示すばかりで一向に真相を明らかにしようとしない。一人で調査を続ける小菊だったが、梨園の輝かしい栄光の陰に潜む、陰惨な悲劇を知ることになる。
1993年に『凍える島』でデビューした近藤史恵は、1994年に『ねむりねずみ』を上梓。これが探偵今泉文吾モノの第一作で梨園で起きた事件を題材にしている。本書はそのシリーズの第三作で1998年に角川書店から単行本にて刊行された作品の文庫版。こちらは2001年刊。ちなみに第二作『ガーデン』は本書より時系列的に後の作品になる。刊行順に読むべきか悩むところだ。
なんだよこれ三作目じゃん!メインは東京創元社から出ているので順番としては『ねむりねずみ』から読むべき。角川のリストを見るとこの本しか掲載されてなかったので、すっかりこれが最初のエピソードなのかと思い込んでしまった。こういう紛らわしいことはやめて欲しい……。なにかネタバレされてたらどうしよう。
こういう全てわかったフリをしながら、事件を静観しておいて、結局事態をより深刻な悲劇に陥らせてしまう名探偵って許しがたいと思うのだが、最初からこいつが動いちゃうと物語が成立しなくなっちゃうから駄目?叙述系の引っ掛けは面白かった。主人公が女形というのは珍しいが、こういう職業だと、メンタリティもやっぱりノンセクシャルになってくるのだろうか。ちと感情移入しずらいぞ。
歌舞伎の世界という特殊な環境を舞台としたこのシリーズ。この世界を知らなくてもそれなりには楽しめるだろうが、知っていればもっとよりよく堪能出来るだろう。偶然にも同じ演目を扱った北森鴻の『狂乱廿四孝』を読んでいたので助かった。解説を読んで作者がどれだけ神経を使ってこの作品を書いているのがわかり、読み手としてとても情けない気持ちになった。[2002/10]
宝島 上 グインサーガ外伝17 [栗本薫] ★★☆ 早川書房 ハヤカワ文庫 (\540) [Amazon]

伝説の海賊クルドの財宝を追い求めて、イシュトヴァーンは仲間を率いて遥かなる南洋へと旅立った。南ライジア島までやってきた彼らは島へと上陸。そこで財宝についての重要な情報を知ることになる。しかしこの島一帯は凶悪な海賊たちが群れ集う危険きわまりない場所であった。海千山千の海賊たちを相手に若き日のイシュトヴァーンが戦いを挑む。
外伝17巻。初の上下巻組。とはいえ、異常に長いモノローグと、セリフメインで進行する筋運びの故なので、別段物語が長くなったわけではない様子。全盛期のこの作者であればきれいに一冊でまとめていただろう。これで20歳?とは思えないほど、イシュトヴァーンがうらわかく、はかなげなのがとにかく気持ち悪い。偶然たどり着いた島で、偶然宝の場所を知っている老婆に遭遇。地元の海賊に難癖をつけられると、偶然ナイスミドルな海賊の親分に助けられ、手がかりとなる海賊の生き残りを訪ねると、偶然その海賊は殺されたばかりで……、とまあ、ご都合主義な展開が続く。下巻って読まなきゃ駄目?
ちなみにこの外伝に関してはイラストが末弥純でなく、丹野忍が担当している。本編とあわせてのハイペース刊行に末弥氏が力尽きたのではないかと想像。ややお疲れ気味の最近の末弥氏に比べると、さすがに気合が入っていてよく描けている。画風もわりと合ってるんじゃなかろうか。本編も丹野氏になってしまうのかな。[2002/10]
EDGE [とみなが貴和] ★★★☆ 講談社 講談社X文庫ホワイトハート (\570) [Amazon]

超高層建築物だけを連続して狙う爆破事件が発生。「黄昏の爆弾魔」と名づけられた犯人は巧妙な手口で、有効な手がかりをほとんど残さない。捜査に行き詰った警視庁は天才プロファイラー大滝錬摩を数年ぶりに召還する。事件現場に残された数少ない遺留品から、意外な犯人像を指摘する錬摩。しかし連続爆破事件は思いもよらぬ方向へと発展していく。
本書は『EDGE』シリーズの一作目で1999年の作品。2000年に二作目 『EDGE2〜三月の誘拐者〜』、2001年に三作目『EDGE3〜毒の夏〜』が刊行されている。デビュー作は1998年刊行の『セレーネ・セイレーン』(以上、いずれも講談社X文庫ホワイトハート)。その他の作品としては2002年刊行、角川書店スニーカー・ミステリ倶楽部『夏休みは命がけ!』がある。本業はあくまでも会社員らしいので年1冊ペースとライトノベル系の作家としては寡作なとみなが貴和。まあ、この世界で売れ続けるのはきわめてしんどいことだから、賢明といえば賢明な判断。
ネットでここ数年ずっと評判が良くて探していたとみなが貴和。ようやく一冊購入することが出来た。錬摩の性別が最初は男性?と思わせるそぶりで、やはりホワイトハートだよとげんなりしていたのだが、実は女性とわかって一安心。これで俄然読む気になってきた。プロファイリングと言いながら、その過程に超自然的な要素が入っているのがこの作品の特徴。
過去の事件で障害者となってしまった宗一郎の存在が錬摩には常に重くのしかかってきており、作中でもかなりの頁数を彼に関する心理的葛藤の描写に費やしている。同様に重病人の母親を抱える犯人とのコントラストがきれいに決まって、これで作品世界の奥行きがぐっと深くなった。未だ明かされない過去の秘密がたくさんありそうなので、続きもぜひ探して読んでみたい。[2002/10] ⇒次巻
不安な童話 [恩田陸] ★★★ 祥伝社 祥伝社文庫 (\552) [Amazon]

「あなたは母の生まれ変わりです」二十五年前に変死した天才画家高槻倫子の遺作展でその息子秒に告げられた万由子。秒の頼みもあり、万由子は倫子の遺作となった作品を縁の人々に手渡す作業に同行することとなる。その過程で浮かび上がってくる、倫子の壮絶な人間関係と愛憎のもつれ。倫子は何者かに殺されたのか?そして万由子は本当にその生まれ変わりなのか?
1994年に祥伝社ノンノベルより書き下ろし作品として刊行され、1999年に祥伝社文庫に収録された作品。ちなみに2002年に新潮社より新潮文庫版も刊行されている。恩田陸の第三作。
万由子は過去視ともいえる超常能力を持っている。すでにスーパーナチュラルな要素が入ってるんだから、生まれ変わりくらいあるよね。と、読者に思わせておいて実は、現実的なオチが最後には待っているという作品。エキセントリックな女性画家が謎めいたメッセージを託して残した遺作を、彼女を殺したかもしれない人々に二十五年過ぎてから手渡していくという趣向は面白いと思うのだが、最後にもたらされた真相が、受け入れるにはあまりに唐突というか、そんなの聞いてないよと脱力したくなる内容なのが×。[2002/10]
木曜組曲 [恩田陸] ★★★☆ 徳間書店 徳間文庫 (\495) [Amazon] ※書影無し
作家重松時子が謎めいた死を遂げて四年。耽美派小説界の巨匠であった彼女を偲ぶため、その居館であったうぐいす館に毎年集う女たちがいた。ノンフィクションライター、純文学作家、売れっ子ミステリ作家、編集プロダクション経営者、ベテラン編集者。時子の臨終に居合わせた五人が、その死の真相をめぐり対決する。
「問題小説」に98年から99年にかけて掲載されたものが1999年に徳間書店より単行本化。本書はその文庫版。2002年10月からの映画公開(篠原哲雄監督)に先駆けての発売となった。
クローズドな環境で少人数の登場人物を動かすのが恩田陸は殊更に上手い作家なのだと思う。『六番目の小夜子』や『麦の海に沈む果実』では学校が、『球形の季節』では谷津という町が、『黒と茶の幻想』ではY島が舞台だった。限定された逃げ場の無い環境で、普段は隠している感情や秘密が、そして欲望が剥き出しになっていく。この辺りの心理描写は抜群に巧い。
本作は謎の死を遂げた重松時子が住んでいた「うぐいす館」という屋敷の内部だけで、ほとんどのストーリーが展開していく。登場人物もわずかに五人と、ある意味ではもっとも恩田陸らしいタイプの作品と云えるのかもしれない。時子の死後、無難に毎年の集いを済ませていた彼女たちに、謎の人物から突きつけられた告発。静かな湖面に投げ入れられた礫のように、その問いかけは彼女たち五人の心中に波紋を広げていく。
目まぐるしく入れ替わる告発者と被告発者。あたかも舞台劇を見ているかのようで、スポットライトがカチャッと切り替わったのが読み手に伝わってくる。一癖もふた癖もあるような個性的な登場人物たちは、それぞれに自分だけの切り札と弱みを持ち、互いの手札を読みあい、心中を探りあう。二泊三日のうぐいす館での出来事を緩急織り交ぜつつ、テンポ良くラストまで緊張感を持続させえたのは見事だと思う。ちゃんとラストにオチもつけてるしね。再読してみて珍しく微妙に評価アップ。映画化もいいけど、舞台化も是非見てみたい。[2002/10]
地球平面委員会 [浦賀和宏] ★★★ 幻冬舎 幻冬舎文庫 (\495) [Amazon]

「あなたも信じてみませんか。地球が平面であることを」およそありえない主張を大真面目に展開する地球平面委員会。大学に入学したばかりの「僕」は美人委員長、宮里真希の熱烈な勧誘を受ける。真希に魅力を感じながらも勧誘をかわし続ける「僕」だったが、その周りで次々と奇妙な事件が続発する。放火、盗難、そして遂には殺人事件が。地球平面委員会とは何なのか。
書き下ろし作品。浦賀和宏の十一作目。幻冬舎からは『彼女は存在しない』に続いて二作目。けっこういいペースで新刊を出している。
一瞬、清涼院流水かと見まごうようなタイトルに、書店では伸ばしかけた手を引っ込めた。いや、これは浦賀和宏の本だと思って購入してみたものの、頁をめくってみると、巻頭言には『コズミック』@清涼院流水からの引用が。果てしなく不安な気持ちで読み始めることになったのだが、案の定たちの悪い、全編ネタでした、というような内容の物語だった。しかもこの話、続きそう!次を買うべきかどうか悩むところだな。[2002/10]
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