2002年11月

ペースは上がらず5冊に終わる。探していた『天夢航海』をやっと読めたのが収穫かな。
佐藤友哉はなぜか、まだ他の作品を読みたい欲望が募ってきてる。何故だ。

書籍名
作家名
出版社
価格
コメント
お薦め度
天夢航海 谷山由紀 朝日ソノラマ \490
連作短編集。ネットの評判は伊達じゃなかった。
★★★☆
宝島 下 
グインサーガ外伝17 
栗本薫 早川書房 \540
別になくてもいい作品だった。
★★☆
フリッカー式 
鏡公彦にうってつけの殺人
佐藤友哉 講談社 \880
ヲタ男子向け。
★★☆
掌の中の小鳥 加納朋子 東京創元社 \540
今回も和みます。
★★★☆
樒/榁 殊能将之 講談社 \700
あの名探偵が登場。
★★★

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天夢航海
[谷山由紀] ★★★☆ 朝日ソノラマ ソノラマ文庫 (\490) [Amazon] ※書影無し

『天夢界紀行』それは故郷を離れ、望郷の念に駆られつつ地上での生活を送る天夢界人たちの物語。自分を判ってくれる人のいる本当の世界から、いつか迎えが来るかもしれない、そんな思いを抱きながら『天夢界紀行』を読みふける少女たち。孤独な女子校生あさみは、ある日ついに天夢界へのチケットを手に入れるのだが。

『コンビネーション』に続く谷山由紀の第二作。1997年作品。とある古書店に置かれていた『天夢界紀行』という物語に惹かれて集まってきた、五人の少女たちのエピソードを綴った連作短編集。ネットで評判がよかったので探していたのだが、結局これが一番最後になってしまった。

前作に引き続き連作短編という形式を取っている。この作者にとっては得意のスタイルなのだろう。『天夢界紀行』の筋立てを読むと、ゼナ・ヘンーダースンの「ピープルシリーズ」を想起させられるが、直接的には『天夢界紀行』は語られず、各編の主役を務める少女たちの心の動きを追うことに、より力点を置いた作りになっている。

少女たちの事情はさまざまで、転校と両親の離婚から周囲に溶け込めなくなった少女、優等生として評価されながらも常に自分に自信を持てずにいる少女、許されない恋情に苦しむ少女等など、どの主人公もその年代ならではの問題を抱え、ある時、救いを求めて天夢界への憧れを抱くようになっていく。各編の主人公たちの天夢界への距離の取り方がさまざまで面白い。学園小説風なものから、ちょっとしたホラー寄りのものまでと、内容も幅広い。最後の一編ではこれまでの登場人物が全て集まり、謎に包まれた『天夢界紀行』の謎を追うのだが、その秘密はとうとう明かされないまま幕を下ろす。余韻を残した終わらせ方は○。もう少しこの世界について知りたいところなのだが、続編の予定は無いのだろうか。[2002/11]

ついでに…… 『こんなに緑の森の中』@谷山由紀 <<三作目。

宝島 下 グインサーガ外伝17 [栗本薫] ★★☆ 早川書房 ハヤカワ文庫 (\540) [Amazon]

宝島 (下)―グイン・サーガ外伝(17)

伝説の海賊クルドの財宝を求めて遥かなる南洋へと旅立ったイシュトヴァーン一行。しかし凶悪な海賊たちの襲撃を受け、船は燃やされ、仲間たちを連れ去られてしまう。なんとか逃げ延びたイシュトヴァーンは、対立する海賊団のリーダー、<<黒い公爵>>ラドゥ・グレイの庇護を受けることを選んだ。しかし苦難の末にたどり着いた「宝島」では思いもよらぬ惨劇が待ち構えているのだった。

外伝17巻。上下巻組の下巻の方。外伝18巻にはならず、あくまでも17巻の下巻ということらしい。あとで数えるときに混乱しそうだな。ラドゥ・グレイの寵童となったイシュトヴァーン。上巻に引き続き、儚げでお美しく、かつての彼を知るものとしてはあまりに衝撃的。あまりにご都合主義だったこれまでの経緯に、いちおうの言い訳は施されているのだが、この巻でも、偶然重要アイテムを持って逃げてきてしまったり、地震に巻き込まれてふと気が付くと偶然海岸に出ていて、偶然逃げる船まで近くに用意されていたりと、何もやってることは変わっていないので説得力は皆無である。

それはそれはあっさりと序盤で死んでしまうラン。実はここが一番の山場だったりして。ひたすらラドゥとの会話のみで進行するストーリー。受動的に流されるままクルドの島を目指すイシュトヴァーン、やる気無さ過ぎ。この儚げな美少年のどこがどう間違えば、スタフォロス砦の陽気な赤い傭兵になるのか不思議でたまらない。[2002/11]

フリッカー式 鏡公彦にうってつけの殺人
[佐藤友哉] 
★★☆ 講談社 講談社ノベルズ (\880) [Amazon]

フリッカー式―鏡公彦にうってつけの殺人 (講談社ノベルス)

妹が死んだ。自殺だった。そんな時、公彦の前に現れた男は一本のビデオテープを差し出した。テープには凄惨な妹のレイプシーンが録画されていた。そして男の手渡したメモには犯人の娘たちの正確な行動予定が……。一方、公彦の幼馴染明日美には、不思議な能力があった、話題の連続殺人犯、突き刺しジャックと視界を共有することができるのだ。それも殺人の瞬間のみ……。二人の事件が一つになるとき、意外な真相が明らかになる。

第21回のメフィスト賞受賞作品。数々の色物作家を送り出してきたこの賞だが、とうとう極めつけを送り出してしまったというべきか。ミステリ界へのヲタク属性の流入というのは避けられない流れなんだろう。高里椎奈の受賞とその後の活躍ははヲタ腐女子層がミステリの受け皿として無視できない数になってきていることを示しているのだろうし、ヲタ男子層を相手にしても、十分勝負になるって考えたんだろうな>講談社。しっかり続編も出てるし。

マルチがどうとかCCさくらがどうとか、本編には何の関係も無いところでヲタネタを連発。一般人を光速で置き去りにしていくのだが、臆面も無くエロゲーのテキストのような内輪受けネタを書けるのも十代作家ならではといったところか。十年経って本人読んだら、羞恥のあまり自殺しそうなくらいイタイ文章だぞ。主人公の唾棄すべき壊れようだけは素晴らしかったので、続きも読んでしまいそうだ。[2002/11] ⇒次巻

掌の中の小鳥 [加納朋子] ★★★☆ 東京創元社 創元推理文庫 (\540) [Amazon]

掌の中の小鳥 (創元推理文庫)

久しぶりにかつての想い人の消息を知らされた僕は、その思わぬ境遇に心を揺さぶられる。学生時代に彼女が取ったある行動にはどんな意味があったのか。回想の中から浮かび上がる意外な真実を描く表題作をはじめ、とあるパーティ会場で出会った、魅力的な女性、紗英をめぐるさまざまな事件の顛末を描く、連作短編集。

1995年に刊行された同名作品の文庫版。文庫版の初版は2001年だから文庫化まで6年かかったことになる。相変わらず創元は文庫化が遅い。2年で文庫落ちさせるところもあるのにこの違いは何なのだろう。本書では五編の短編を収録しているが、最初の三篇までは創元推理に1993年〜1994年にかけて掲載された作品。そして残りの二編が書き下ろし。

『ななつのこ』『魔法飛行』とキレのいい連作短編をリリースしてきただけあって、やはりこのスタイルは加納朋子には一番しっくり来るようだ。前二作の主人公がうら若い女性だったのに対して、本作ではそれよりは多少年のいった男性になっており、その分、以前感じていたような、ベタベタに甘ったるいスィートな展開は控え目になっている。その分純粋にミステリとしての各編の味わいを素直に楽しむことが出来た。それにしても主人公は羨ましい。[2002/11]

樒/榁 [殊能将之] ★★★ 講談社 講談社ノベルズ (\700) [Amazon]

樒・榁 (講談社ノベルス)

香川県の山深い温泉地へとやってきた「とある」名探偵。久々にゆっくりと骨休みでもと思っていたその思惑は見事に外れ、またしても宿で起こった殺人事件に巻き込まれる。密室の中で怪死を遂げた被害者。近隣の山中には天狗伝説を、今なお受け継ぐ小祠が残されており、被害者はそのご神体で天狗の斧に執心だったというのだが、果たして事件と伝説はどのような関係があるのだろうか。

講談社ノベルズ20周年記念企画「密室本」の一冊。歴代メフィスト賞受賞作家による、密室をテーマとした競作シリーズ。今回は古本で購入してしまったので、非密室本だな。殊能将之は第13回のメフィスト賞受賞作家。今にして思えば、デビュー作はメフィスト賞的にいくと、全然普通の話だったよなあ(かなりの褒め言葉)。

殊能作品なので、探偵と言えば、当然石動戯作が登場するのかと思っていると、ここでひねりが入っていて、前作『鏡の中は日曜日』で登場した水城将臣一行が登場して意表を衝かれる。もっとも驚かされたのはここまで。全体が二部構成になっていて、前半を水城が、後半では石動が事件を捌く。この事件の舞台は同じ場所なのだが、時間軸がずらされていて、この点が趣向といえば、趣向なのだが、本当にそれだけだったりするので、期待し過ぎていると肩透かしを食わされる。常に、新鮮な仕掛けを取り入れてくるこの作者としてはやや物足りないが、この薄さではこんなもんか。タイトルは、ちと無理矢理過ぎ。本編に全然関係ないじゃん。[2002/11]

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