2003年1月

★★★★が3冊と久々に充実した月になった。
読書ペースもようやく戻ってきたようなので、今年はコンスタントに月10冊は読んでいきたいところだ。

書籍名
作家名
出版社
価格
コメント
お薦め度
夏のロケット 川端裕人 文藝春秋 \1,762
密かに名作なのではないかと。
★★★★

ファントムの夜明け

浦賀和宏 幻冬舎 \1,600
だんだん普通になってきた。
★★★

鵺姫異聞

岩本隆雄 朝日ソノラマ \600
風呂敷広げすぎ。
★★★

ロケットガール

野尻抱介 富士見書房 \620
密かに名作。
★★★☆
ロミオとロミオは永遠に 恩田陸 早川書房 \1,800
バロムクロスは少々マイナーだと思うのだが。
★★★☆

永遠の森 博物館惑星

菅浩江 早川書房 \1,900
これこそまさに美しい……。
★★★★

Hyper Hybrid
Organization 01-02

高畑京一郎 メディア
ワークス
\550
完結はいつになることやら。
★★★

競漕海域

佐藤茂 新潮社 \1,400
異世界ファンタジー。今月一番かも。
★★★★
リアル鬼ごっこ 山田悠介 文芸社 \1,000
全部読んだ自分を褒めてやりたい。

ハッピーバースディ

新井素子 角川書店 \1,600
気持ち悪い(褒めている)。
★★★☆

MTBツーリング全技術

久里徳泰 山海堂 \1,600
少し古めだけど役に立つ。
★★★

青葉の頃は終わった

近藤史恵 光文社 \800
このキャラたちは好きになれない。
★★★

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夏のロケット [川端裕人] ★★★★ 文藝春秋 (\1,762)

高校時代を天文部で過ごし、仲間たちと共に手作りロケットの打ち上げに没頭した過去を持つ高野。しかし別々の大学に進み、そして就職という時の流れを経ていくうちに、次第にかつての情熱は失われていく。慌しくも平凡な日々を送る高野だったが、高校時代の旧友たちが本当にロケットを打ち上げようとしていることを知り衝撃を受ける。だが、その打ち上げ計画には、高野には知らされない暗部が隠されていた。

第15回のサントリーミステリー大賞の優秀作品賞受賞作。ちなみに大賞は結城五郎の『心室細動』。この賞って確か大賞取るとドラマ化されるから、一般層的には知名度あるのかもしれんけど、ミステリモノ的にはイマイチ魅力に乏しい賞のような気がする。この賞出身で大化けした作家もいないし。

って、悪口はさておき、本作はロケットモノである。そんなジャンルあるのかと言われそうだがある(断言)。宇宙事業といえば、日本では宇宙開発事業団か、宇宙科学研究所の独壇場で、企業やまして一個人がどうこうできる状況ではない。それに対して一石を投じたのが本作。巨額の資金と技術力が必要とされてきたロケット開発を、僅か5人でなんとかしてしまおう発想がイカしてる。ローコスト、少人数、既存の技術の使いまわしでロケット打ち上げの準備が着々と進められていくのは爽快だ。

理論の日高、職人の清水、プロデュースの北見、スポンサーの氷川、そしてスポークスマンとしての高野。5人の天文部の面々は個性豊かに描き出されている。高校を卒業して十数年が経ち、ロケットに賭ける思いも決して純粋なものだけではない。それぞれが理想と打算の狭間で打ち上げに執念を燃やしていく過程がなんとも感動的。

ロケット技術が時としてはミサイル技術と同義であることが折に触れて語られており、物語の中に暗い蔭を落とす。高野のロシア行きのエピソードはやや唐突で強引に思えないでもなかったが、この技術の持つ負の側面を描き出すにはやはり欠かせないところだったのだろうか。物語は一抹のほろ苦さを残して幕が引かれる。本作を単純なハッピーエンドで終わらせなかったところに作者の強いこだわりを感じる。軍事技術と紙一重である宇宙開発の危うさは、人類が自戒としてこれからも認識し続けなくてはならないことなのだろう。[2003/01]

ついでに…… 
『ロケットガール』@野尻抱介
 <<ロケット小説の源流がここに
『なつのロケット』@あさりよしとお 
 <<こっちは小学生が頑張ってる。

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ファントムの夜明け [浦賀和宏] ★★★ 幻冬舎 (\1,600)

久々にかつての恋人、健吾の部屋を訪れた真美はそこで微かな違和感を覚える。この部屋は真美にとっては辛い記憶だけが残る場所だった。しかし健吾は部屋におらず、その後消息が不明であることが知らされる。奇妙な違和感はその後も続き、真美はそれが自らの持つ過去認知能力によるものだということに気づく。身の回りにあふれる死の記憶に怯える真美。健吾はまだ生きているのだろうか。

2002年作品。書き下ろし。幻冬舎からは3冊目。サイコメトラー真美ちゃんシリーズの第1作目(っていうか続きそうな気がする)。『クロスファイア』の主人公がダメダメになったような感じ?もっとしゃきっとしてくれ。肩つかんでガシガシ揺さぶりたくなるような流され型のヒロインがいただけない。

あそこまで怪しい気配に満ち満ちているのに、健吾の部屋に無理やり入ろうとしない段階で、既にネタが割れているように思えるのだが、考えすぎ?本筋の健吾の件と、後半で出てくるシリアルキラーとの対決のバランスが悪いのもいかがなものかと。能力を活かしての悪人退治は次作以降でやって欲しかった。浦賀和宏、量こなせるのはいいんだけど、その分近頃では作風がライトに寄ってきてしまっているのが、安藤シリーズのファンとしては寂しい。[2003/01]

鵺姫異聞 [岩本隆雄] ★★★ 朝日ソノラマ ソノラマ文庫 (\600)

滅び行く地球生態系を守るための一大プロジェクト『進化計画』の拠点、巨大人工島のパトロール隊員として勤務する田中隆は、警備中に怪しげな老人に出会う。老人の残した奇妙な珠に触れた隆は謎の光に包まれ、戦国時代の日本へとタイムスリップしてしまう。そこで隆は更に深刻な宇宙そのものの危機について知らされる。宇宙を救う鍵は、鵺姫にまつわる伝承にあるようなのだが……。

岩本隆雄6作目。『星虫』の系譜に連なる作品で、『鵺姫真話』と表裏をなす一編。『星虫』で氷室友美のクラスメイトとして登場した田中隆が今回の主人公。とか書きながらも、全然記憶にねえ〜>こいつ。該当部分だけ読み返してみたけど、少ししか出番が無かったので納得。覚えていないのも無理はない。

話広げすぎ。これに尽きるのではないかと。地球環境の変動で人類の存亡がって話はまだわかるけど、突然なんだかわけわからん生命体が出てきて、宇宙の危機がどうこう言われても萎えるだけだってば。こういうオールマイティな存在を持ち出すのは反則。隆とさなのロマンスが弱いのも残念。二人の心情描写をもっとしっかり書き込んでいれば、ラストの隆の選択はさぞや感動的なものになっただろうに。[2003/01]

ロケットガール [野尻抱介] ★★★☆ 富士見書房 富士見ファンタジア文庫 (\620)

女子高生森田ゆかりは、父の消息を求めて訪れたアクシオ島で、妙な成り行きから宇宙開発組織「ソロモン宇宙協会」に勤務する羽目に陥ってしまう。単なるアルバイトと高をくくっていたゆかりだったが、協会幹部は彼女を人類初の女子高生宇宙飛行士にすべく暗躍を始めていた。過酷な訓練、次から次へと訪れるハプニング。ゆかりは果たして宇宙へと旅立てるのか。

ドラゴンマガジンの1994年4月号から11月号にかけて連載された作品を文庫化したもの。イラストは山内則康。時代が時代だから仕方ないんだが、セラムンの某キャラを髣髴とさせるキャラクターに、セクシーポーズさせるのはやめてくれぇ。富士見の読者層を考えれば狙うべきポイントなんだろうけど。

しかし萌え絵なイラストに騙されてはいけないのがこの作品。宇宙開発事業団でもなく、宇宙科学研究所でもない第三の機関が、安価な技術とプラスアルファのひらめきで国産ロケットを宇宙にまで届かせようという熱い物語が本作には秘められているのだ。全編通してハチャメチャな行け行けドンドン的な軽いノリなのだが、その根底には何が何でも宇宙に行くという強い思いがシンプルに貫かれていて、ふと気がつくと感動している瞬間があって自分でも驚いた。シリーズ作品がまだ二作あるので是非読んでみようと思っている。[2003/01] ⇒次巻

ついでに…… 
『夏のロケット』@川端裕人
 <<更に熱いロケット小説を
作品の背景事情は作家本人のサイトが詳しい

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ロミオとロミオは永遠に [恩田陸] ★★★☆ 早川書房 (\1,800) [Amazon]

ロミオとロミオは永遠に

地球環境の汚染が進み、産業廃棄物処理のため日本人だけが取り残された世界。ここで生き抜くためのベストな方法は、エリート養成校大東京学園を総代で卒業すること。過酷な選抜試験をくぐり抜け、新入生として学園へ足を踏み入れたアキラとシゲルだったが、想像を絶するスパルタ教育がそこで待ちかまえていた。異様ともいえる学園生活の中で、二人は学園の秘密に気付くのだが……。

早川書房「SFマガジン」の1999年3月号から2000年6月号にかけて掲載されたものを大幅に加筆修正。ハヤカワSFシリーズJコレクションの一冊として刊行されている。上下二段組で総計500頁弱という、ものすごい分厚さに圧倒されるのだが、読み始めているとやはり恩田作品。テンポ良く話が進むのでとても読みやすい。勢いに乗ってしまえばあっという間に読めてしまうだろう。10代以下置いてけぼりのサブカルチャー描写も、ストライクゾーンど真ん中世代なので素直に楽しませてもらった。

恩田作品的には『ドミノ』が一番近いだろうか。ノリと勢いで荒唐無稽が現実をねじ伏せていくタイプ。今回の作品世界はかつてなくハードな設定である筈なのだがシリアス度は低い。ジャンルを無理矢理分類するならば、昔風?に言うところの学園伝奇モノか。となると、平井和正や夢枕獏、菊地秀行あたりを想起せずにはいられないところだが、迫真のバイオレンスもお色気シーンも本作には無縁である。かくも軽い仕上がりになるのはこの作家故なのか。せめて勧善懲悪は徹底して欲しかったところ。タダノにしてもリュウガサキにしてもあれで終わりでは納得がいかない。カタルシスの乏しさはいかんともしがたいものがあった。やっぱりラスボスが欲しかったな。[2003/01]

やはり恩田陸はサブカル好きではあるけど、ヲタでは無いのだなと寂しく読み返してみた初冬の夜。もちろんその方が一般受けするからいいんだろうけど、突っ込みが甘いよと嘆きたくなることもしばしば。もっとハチャメチャに突き抜けて欲しかったなあ。[2003/11]

永遠の森 博物館惑星 [菅浩江] ★★★★ 早川書房 (\1,900)

「アフロディーテ」は地球軌道上に浮かぶ、人類史上最大の博物館。そこにはあらゆる年代、あらゆる場所の音楽、美術品、動植物が所蔵されている。あまりに膨大な収蔵物に対応するため、「アフロディーテ」の学芸員たちは自らに改造を加え、直接脳からデータペースコンピュータに接続する機能を持たされていた。学芸員・田代孝弘の元へ持ち込まれる様々なトラブルを描く連作短編集。

2000年作品。1993年から1998年にかけて、早川書房「SFマガジン」に単発で掲載されていた作品群に書き下ろし(「この子はだあれ」)を加えて、単行本として刊行された作品。第54回日本推理作家協会賞の長編および連作短編集部門を受賞。また、早川書房刊の「SFが読みたい!2001年版」で国内編第1位を受賞している。

「雨の檻」の頃から菅浩江は短編の方が実は上手なんじゃないかと思ってはいたのだが、その真骨頂が発揮されたのが本作。9編の作品群にはいずれもSF的な趣向が凝らされており、それでいて全編を通じて美とはなんなのか、美しいと感じる人の心の動きは何なのかといった問いかけが一貫して問い続けられ、物語を引き締めている。主人公とその妻の描写がやや少なすぎるように思えたのが少々惜しいところか。二人の関係がもつれていく部分をもう少し膨らませて書いてくれていたら、最終シーンでの余韻は更に奥深いものになったに違いない。

ミステリ的にも読める「天上の調べ聞きうる者」「この子はだあれ」、芸道の持つ底知れぬ闇の深さを垣間見せてくれる「夏衣の雪」「享ける形の手」など、いずれも力作揃いではあるのだが、表題作の「永遠の森」とラストの「ラブ・ソング」を個人的には推したい。現実では起こりえない、SFならではの身震いがする程の美しい光景を読み手にイメージさせるのがこの作家は本当に巧い。[2003/01]

Hyper Hybrid Organization 01-02
[高畑京一郎] 
★★★ メディアワークス 電撃文庫 (\550)

改造人間ガーディアンに殺された恋人の敵を討つために、秘密結社ユニコーンにその身を投じた貴久。ガーディアンを倒すには自らも改造人間となるしかない。悪の組織ユニコーンの一員となった貴久を待っていたのは過酷な訓練の日々だった。次々と脱落していく訓練生たち。貴久は無事に卒業試験を通過することができるのか。

シリーズ2作目。前作を読んだ時に、次が出るのが三年後なんてことにならないようにって書いていたのだが、待つこと1年4ヶ月!ライトノベル作家がこんなことでいいのか。こんなペースで、完結がいつになるのかと思うと気が遠くなるな。

本巻の特徴としてはつなぎの話、ってことで良いのではないかと。圧倒的に強かったガーディアンといきなり対等に渡り合うわけにも行かないので、ここは地道にレベルアップをば。で、ついでに新キャラも登場させときましょうって巻。丁寧でいいけどね。特筆すべきは、とうとう最後まで女性キャラが出てこなかったことだろう。表紙、口絵、本文イラストに至るまで男キャラのみという汗臭さ。悪の秘密結社も大変である。続巻はせめて年内には読ませて欲しいぞ。[2003/01] ⇒次巻

競漕海域 [佐藤茂] ★★★★ 新潮社 (\1,400)

伝説の大洪水によって地上のほとんどは海中に沈んだ。残された人々は僅かな陸地部分に住み着き、広大な海を生活の糧として新たな歴史を刻み始めていた。この世界ではポッドを最も速く駆ることができる者が王となる。父親を知らずに育った少年駿風は、両親譲りの快速ポッドを操り、次第のその才能を開花させていく。

第9回の日本ファンタジーノベル大賞、優秀賞受賞作品。ちなみにこの年の大賞受賞作品は『ベイスボイルブック』@井村恭一。

ポッドとは平たく言うとカヌーみたいなものなのだが、実は雌雄のある生命体で生殖して増え子孫を残す。この世界ではポッドと個人の関係が1対ものとして設定されており、男女が子をなす場合は、それと共にポッド同士も交尾をして子をもうける。ポッドには地域によって特徴的な血統があり、荒波に強かったり、直進性に優れていたりと多種多様。この世界では競漕に勝った者が王になれるので、強いポッドを作り出すために、より良い血統を求めて貴族たちは外婚を繰り返す。この設定だけでも秀逸。

総じて言ってしまえば、少年の成長譚なんだけど、『十二国紀』クラスの練り込まれた設定を持つ架空世界に『後宮小説』的な王朝モノの猥雑さがブレンドされ、加えてスピード感に溢れた競漕シーンの数々が独自の魅力を醸し出す。この世界から去りがたく、読み終えるのが惜しいと思えた久々の作品だった。続編とまでは言わないが、この世界を使ってもう一作書いて欲しいところだが、この作者は今なにやってるんだ?[2003/01]

リアル鬼ごっこ [山田悠介]  文芸社 (\1,000)

時は遙か30世紀。とある王国では1億人の人口のうち500万人までが「佐藤姓」で占められていた。自らも「佐藤姓」であった王は、自分以外のすべての佐藤を抹殺したいと欲し、空前絶後のリアル鬼ごっこの開催を宣言する。不運にも王と同じ姓に生まれついてしまった500万人の佐藤さんたちに地獄の1週間が訪れようとしていた。

☆1つは装丁とタイトルの分ってことで。まるでなっていない日本語の数々や、稚拙で穴だらけの設定に愕然。出版社や作者に還元されるのは許せないので、何があっても本書は新品では購入しないように。でも憤りやもどかしさや脱力感を共有して欲しい、というよりも、被害者仲間を増やしたいので古本屋で見かけた際には是非とも購入して欲しい。読み終わった後は焼くなり捨てるなりご自由に。

文芸社は協力出版という独自の形態での出版事業を広く展開している。平たく言うと素人の持ち込み原稿でも金さえ払えば本にしてくれるというありがたい事業だ。HPを見る限りでは原稿が無くても構わないらしい。この手の本が文芸社からは月に何十冊も刊行されている。この会社にとって第一の顧客はまず書き手なのだろう。その先にある読者という存在はそもそもサービスすべき対象としては想定されていないように思える。

ここまでレベルの低い作品が世に出ることは通常あり得ない。断定は避けたいところだが、本作は協力出版の形態で刊行された作品なのではないだろうか。協力出版だとほとんど編集の直しは入らないらしい。だとすれば、文章以前の謎の文字列を書き並べることしかできない人物が作家として世に送り出されてしまったことにも多少は納得がいく。

自己満足的に1000部なり2000部なり刷ってそれで終わっていれば、たいした問題にもならなかったのだろうが、なまじ売れてしまったところで、欲が出たのかコストをかけてプロモーションをして、ベストセラーにまで持ち上げてしまった文芸社の罪は重いだろう。出版社としての見識を疑わざるを得ない。[2003/01]

ついでに…… 「リアル鬼ごっこ」リンク!

Yahoo!Books/amazon/esBooks/本の森 <<被害者の声
文芸社の紹介ページ/本人インタビュー <<厚顔無恥なひとたち
山田悠介の部屋/山田悠介の本 <<ある意味君も被害者だ
この原作を映画にしろ!! <<わたしも見てみたいです

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ハッピーバースディ [新井素子] ★★★☆ 角川書店 (\1,600)

あきらの人生は黄金の時を迎えていた。最高の伴侶を得、作家としても信じられないほど幸運なスタートを切ることができた。しかし夢見心地のあきらの前に姿無き脅迫者が!「いい気になるなよ」と記された匿名の投書。そして繰り返されるイタズラ電話。警察に相談してもとりあってもらえず、彼女の精神は追いつめられ次第に平衡を失っていく。

書き下ろし作品で、新井素子としては31冊目の作品。前作『チグリスとユーフラテス』以来3年ぶりの新作となる。壮大なSF作品から一転して今回はサイコホラーへ。『おしまいの日』にテイストとしては近いかな。こういった女性心理を扱った気持ち悪い話(褒めてる)はこの作家得意だ。

狙ってやってるんだろうけど、独特の新井素子文体が徐々に壊れていく主人公の狂気を助長しているかのようで気持ち悪さが倍増。読んでいて非常に精神的に疲れた。強依存体質にこの文体はよく馴染む。脅迫者を逆恨みして復讐に転じたあきらが、いつしか執筆行為の中に自我を埋没させていく辺りが非常に怖い。惜しむらくは脅迫者が救済されて終わってしまったこと。こんな奴に救いなんて無くて良かったのに。[2003/01]

MTBツーリング全技術 [久里徳泰] ★★★ 山海堂 (\1,600)

自転車で旅に出よう。進化した自転車MTB(マウンテンバイク)の出現は従来の自転車旅行の概念を塗り替えた。過酷な条件のダートコースから、超長距離の高速走行まで、幅広く対応できるMTBでのツーリングノウハウを紹介。自転車の選び方から、パーツ、グッズの解説、海外まで視野に入れたツーリングプランの作成方法について概説。

著者は自転車旅行のスペシャリストで北南米大陸縦断、チベット高原走破など数多くのツーリング実績を持つ。1997年の発行なのでパーツやグッズの選定で、現在から見ると疑問符を投げかけたくなる点がいくつかあるのはまあ仕方の無いところか。これだけ高性能速乾シャツが出回ってきている昨今だと、さすがに夏場でももう綿シャツは着ないんじゃないかなあ。

視点が海外寄りに過ぎるのが残念。海外まで行って自転車で走ろうという人種は、今考えても希少種な筈なので、どちらかというと国内でのツーリングに重きを置いて説明して欲しかった。そりゃ、治安が良くてどこに行ってもコンビニがある日本では、それほど深く考えなくてもいいのかもしれないけどね。それでも各種の自転車搬送方法は興味深く読んだ。北海道や九州みたいな遠距離に出かけるときには役に立つ知識かもしれない。[2003/01]

ついでに…… 
『MTBカスタムメイキング』@吉村洋三 <<まず車体のメンテから

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青葉の頃は終わった [近藤史恵] ★★★ 光文社 カッパノベルズ (\800)

瞳子が死んだ。自殺だったのだという。学生時代のアイドルの死に動揺するかつての仲間たち。法子という恋人がいながらも、密かに瞳子に想いを寄せていた弦の元には「私のことを殺さないで」と記されたハガキが届く。彼女は殺されたのか、それともこれは遺言なのか。事件の真相を探る弦に意外な真相がもたらされる。

季刊「ジャーロ」(光文社刊)の2001年秋号〜2002年夏号に連載された作品。カッパノベルズにしてはライトノベルテイストな装丁に驚きを感じる。講談社ノベルズの影響なのだろうか。

真の主人公とも言えるヒロインは既に死亡していて、彼女を取り巻く旧友たちの視点からその在りし日の人間像を描写していく。本人を直接描かないことで、逆にその個性が浮き彫りにされていくというタイプの作品。評価がイマイチなのはこの浮世離れ&モラトリアム謳歌型のヒロイン&その周辺の連中がどうしても好きになれなかったから。近藤作品はやはり肌に合わないのだろうか。[2003/01]

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