2003年3月

15冊と今月も好調を維持。舞城王太郎はいい感じで突き抜けていて今月最大の収穫。
新本で買ってもいい気になってきた。

書籍名
作家名
出版社
価格
コメント
お薦め度
マリア様がみてる
いとしき歳月 前編
今野緒雪 集英社 \438
薔薇さま(涙)。
★★★☆
マリア様がみてる
いとしき歳月 後編
\438

ユダヤ人とローマ帝国

大澤武男 講談社 \680
アウグスティヌスがこんなにひどい人だったとは。
★★★☆

ランブルフィッシュ
5 凶天使襲来編

三雲岳斗 角川書店 \590
次は集団戦だ。
★★★
マリア様がみてる
チェリーブロッサム
今野緒雪 集英社 \476
遂に志摩子の秘密が!
★★★

グッドラック 戦闘妖精・雪風

神林長平 早川書房 \1,800
哲学的な深み。
★★★☆

少年名探偵虹北恭助の冒険

はやみね
かおる
講談社 \840
たまには毒の無いミステリを。
★★★
ねじの回転 恩田陸 集英社 \1,600
安藤大尉がいいです。
★★★☆

マリア様がみてる
レイニーブルー

今野緒雪 集英社 \438
続いちゃう。
★★★

煙か土か食い物

舞城王太郎 講談社 \1,000
家族愛って素晴らしい。
★★★☆
暗闇の中で子供 舞城王太郎 講談社 \1,200
この一族何故かモテモテだコンチキチョー。
★★★☆

「クロック城」殺人事件

北山猛邦 講談社 \800
こういう一発芸もいい。
★★★

マリア様がみてる
パラソルをさして

今野緒雪 集英社 \438
紅薔薇さま(旧)の登場が嬉しい。
★★★☆

リクルートという奇跡

藤原和博 文藝春秋 \1,700
金持ってる会社はいいなあ。
★★★
MISSING 本多孝好 双葉社 \1,700
喪失がテーマ。
★★★☆

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マリア様がみてる いとしき歳月 前編・後編
[今野緒雪] 
★★★☆ 集英社 コバルト文庫 (各\438)

卒業シーズンを迎えたリリアン女学園。またしても黄薔薇さまの様子がおかしい!複数の男性との交際現場をフォーカスされた黄薔薇さま。果たしてその行動の真意は?「黄薔薇まっしぐら」。山百合会始まって以来のお別れ会の顛末を描く「いと忙し日日」。学園を去りゆく薔薇さまたちが後輩たちに託す想いを綴る「will」他、卒業にまつわる6つのエピソードを収録。

シリーズ六作目。表紙絵は前編が黄薔薇さまで、後編は薔薇さま三人勢揃いの図(←これすごいイイ!)。前後編となってはいるが『ウァレンティーヌスの贈り物』同様、複数の短編作品が収録されたもので、タイトル名と被る作品は存在しない。前作がヴァレンタインネタ短編集とするならば、今回は卒業ネタ短編集。長編にしないでショートストーリーをつないで物語を作っていくのが「マリみて」の基本姿勢のようだ。読みやすさと、取っつきやすさという側面では優れた方法か。一度大長編「マリみて」ってのを読んでみたいんだけど。

なんてご託は実はどうでも良くて、薔薇さまたちが遂に卒業。もう涙なくしては読めないぞこの巻は。薔薇さま視点が巧みに切り替わる「いつしか年も」の卒業式シーンは秀逸。この後の続巻を読むと判るのだが、このシリーズ、実は最初の段階では祥子が既に紅薔薇さま(つまり三年生)という設定で、蓉子、聖、利江子の三人はそもそも設定されていなかった。いわば後付けで加わったキャラクターたちなのだが、ここに至ってこの三人の存在感の大きさといったらどうだろう。この作品世界が、永遠に学年がループするサザエさん時空だったら良かったのに(切望)。[2003/03] ⇒次巻

ユダヤ人とローマ帝国
[大澤武男] ★★★☆ 講談社 講談社現代新書 (\680) [Amazon]

ユダヤ人とローマ帝国

第二次大戦中、ナチス・ドイツの大弾圧により悲劇的な運命をたどったユダヤ民族。この大虐殺の淵源は遙か紀元前に遡ることが出来た。ユダヤ民族のなりたちから独立国家の建国、そしてその崩壊、更にローマ帝国による被支配の歴史を通観。帝国内でのキリスト教の台頭により、次第に追いつめられていくユダヤ人の姿を描く。

ユダヤ民族への弾圧は今世紀に入ってからのことではなく、中世から近代に至るまで延々と続いてきたことは史実として知ってはいた。しかしキリスト教がユダヤ教を母胎として発生した宗教でありながら、どうしてこれほどまでに両者が対立するようになったのかは、今ひとつピンときていなかった。それだけに本書の存在は有り難かった。初期キリスト教会がユダヤ民族に対して行った、「生かさず」されど「殺さず」の施策の数々は非常に衝撃的。

ユダヤ民族がその王国を滅ぼされたのはなんと紀元前の話だ。国を失い、奴隷にされ各地に逃散しながらも民族的な同一性を保ちつつ、二千年以上も後に遂に自らの王国を取り戻しイスラエルを建国する。こんな数奇な歴史を持つ民族は史上他には存在しないだろう。現代でのイスラエルの存在は紛争の火種として、世界を焦臭くさせているのだが、この民族の歴史を考えると問題の解決はどう考えても容易ではないだろう。本書を読んで痛切にそれを感じた。[2003/03]

ランブルフィッシュ 5 凶天使襲来編
[三雲岳斗] 
★★★☆ 角川書店 スニーカー文庫 (\590) [Amazon]

ランブルフィッシュ〈5〉凶天使襲来編

校内模擬トーナメントを終えた恵里谷闘専に新たな戦いの舞台が与えられた。アメリカの名門校フェニックスから最強の闘騎手たち、レイステル小隊が送り込まれてきたのだ。しかも彼らの乗機は理想筐体プロトシグリッドをベースにしたダークシグリッド。圧倒的なパワーを見せつける彼らを前にして、エース藤真蒼威を欠く恵里谷の面々に対抗策はあるのか。

シリーズ5作目。コミック版も順調なようで、着々とメディアミックス化が進行中なランブルフィッシュ。メカあり、美少女あり、美少年あり、SF的な仕掛けもてんこ盛りと三雲岳斗の代表作に育ちそうな予感。アニメ化の話くらい水面下で進んでそうな勢いだ。

1on1の校内戦に続いて、集団戦闘の対外試合がスタート。今回は顔見せってことで、お約束的に敵陣営の強大さをアピール。紹介だけで1冊使い切る辺りは丁寧な仕事と言えなくもない。登場キャラクターは増えに増えて、紹介ページだけでも18人!更に外人部隊4名が加わるわけで、勢い群像劇の様相も呈してきた。この先がとても楽しみだ。[2003/03] ⇒次巻

マリア様がみてる チェリーブロッサム [今野緒雪] ★★★ 集英社 コバルト文庫 (\476)

新年度を迎えたリリアン女学園。志望校を受験出来ず、やむなくリリアンに入学した二条乃梨子は憂鬱な学園生活を送っていた。乃梨子の趣味は仏像鑑賞。カトリック系の学風にそれが馴染むわけもなく……。しかし上級生藤堂志摩子との出会いが彼女を変えていく。「銀杏の中の桜」。そしてこの事件を祐巳たちの視点から描いた「BGN(バックグラウンドノイズ)」の二編を収録。

ウェーン。薔薇さまたちの居ないリリアンなんて……。と、泣き言を言っていても仕方ないので先に進めよう。もう紅薔薇さまは祥子だからな。最初に収録されている「銀杏の中の桜」は本シリーズの原点とも言える作品で、発表順からいくとこれが一番始めに出ている。新キャラ視点でいきなり始まるし、邪悪な縦ロール女は出てくるし、三薔薇さま(まとめる)も居ないしと、文庫から入った読者は戸惑うこと必至だ。

二編が収録されているものの、基本的には同じエピソードを乃梨子サイド、祐巳サイドの二つの視点から描いているだけなので、まとめて一つのお話と考えても差し支えないだろう。さんざん引っ張ってきた志摩子の秘密が遂に明らかになるのだが、ガックリ力が抜けたのはわたしだけではあるまいて。旧白薔薇さまみたいに重い過去を背負わせるのはどうかとは思うけど、それにしても真相が軽すぎる。それから意図してやっているんだろうとは思うけど、瞳子の存在は相当うざったい。これは慣れるまで時間がかかりそうだ。[2003/03] ⇒次巻

グッドラック 戦闘妖精・雪風 [神林長平] ★★★☆ 早川書房 (\1,800)

謎の知性体<ジャム>とのコンタクトから生還した深井零だったが、その意識は戻らぬまま徒に時は流れていく。撃墜された筈の雪風は自らのデータを遊軍機に転送、新たな機体を手に入れFAF(フェアリー空軍)に帰還していた。三ヶ月後、無人のまま発進した雪風は「ジャムはそこにいる」というメッセージを発するや、自軍機に対して攻撃を開始する。

戦闘妖精・雪風シリーズの二作目。「SFマガジン」の1992年8月号から1999年2月号までに12回に渡って掲載された作品を加筆修正の上で単行本化したもの。

連載開始から完結までに7年。一作目である『戦闘妖精・雪風』からはなんと15年も経過している。この歳月の経過が作風に変化をもたらしているようだ。孤独な戦闘機乗りの悲哀を描いてエンターテイメント性の強かった前作。それに対して本作は、人類と機械知性との関わり方を突き詰めて思索していき、文学的な域にまで作品性を高めている。前作のノリが好きだった人間にはこの変貌はしんどい。最近の神林作品らしいといえばらしい話ではあるのだが。客観的に見れば作品の完成度は明らかに本作の方が上ではあるのだけれど。[2003/03]

少年名探偵虹北恭助の冒険
[はやみねかおる] ★★★ 講談社 講談社ノベルズ (\840)

虹北商店街は地味ながらも、古き良き人情が今なお残るちょっといい感じの商店街だ。この街の名探偵は虹北恭助(小学六年生)。幼馴染みの野村響子ちゃんと共に虹北恭助が数々の不思議な事件を解き明かす。駄菓子屋さんのお菓子がいつの間にか増えているのは何故?「虹北みすてり商店街」。どんな願いでも叶えてくれる謎のビルディングの秘密とは?「祈願成就」等、五つのエピソードを収録。

「メフィスト」の1999年5月号から2000年の5月号にかけて掲載された4編に、書き下ろし1編を加えて講談社ノベルズにて刊行したのが本作。はやみねかおるは現職の小学校教師兼児童向け推理小説作家で、講談社の青い鳥文庫から出ている『夢水清志郎シリーズ』があまりに有名(らしい)。全然知らなかったがこのシリーズは相当売れているようだ。ってことで、これだけ売れている作家を児童向け叢書だけで頑張らせておくのは惜しいってことで、晴れて講談社ノベルズでの登板に至ったのではないかと推定。

子供たちの活字離れを少しでも食い止めようという趣旨で書かれているだけあって、語り口はソフトで、筋立ても明快で判りやすく非常に取っつきやすい。目的は似ているのに霧舎のあれと比べてなんと健全に感じることか。恭助の言動が時折、子供離れして感じる(佐々木さんを問いつめる所ね)が難点ながら、総じて素直に楽しめた。商店街のほのぼのムードが◎だ。[2003/03]

ねじの回転 [恩田陸] ★★★☆ 集英社 (\1,600)

昭和11年2月26日。陸軍の急進派将校たちに率いられた1,400人の兵士が参謀本部、陸軍省等を占拠。世に云う226事件の始まりである。しかしこの事件は近未来の国連によって監視されていた。後世に都合の良い歴史を作るため、「不一致」の度に修正され「再生」され直す226事件。事件の首謀者たちは未来からの干渉に反発し、自らの意志で歴史のやり直しを計ろうとするのだが……。

集英社「小説すばる」に2000年11月号から2002年1月号にかけて連載されていた作品を単行本化したもの。最近の恩田陸の傾向である超長編化の例に漏れず、444頁の大ボリュームではあるが、二段組みにはなっていないのでロミロミに比べるとやや少ない。リーダビリティには優れているので読み始めればラストまでは一気であろう。『劫尽童女』『ロミオとロミオは永遠に』と2002年はエスエフ作品の刊行が相次いだわけだが、その末尾を飾ったのが本作。出来としてはこれが一番だと思う。

未来からの干渉を受け、執拗に歴史の改変を強いられる過去世界。持ち込まれた再生装置はアナログな芳香を放ち、昭和初期という時代設定と不思議に調和していて、なんとはなしに高野史緒の『ムジカ・マキーナ』『カント・アンジェリコ』を想起させられた。レトロフューチャーなミスマッチ感がまず興味を引いた。この「シンデレラの靴」は絵で見てみたいなあ。

それにしても恩田作品のキャラクターとして石原寛爾や安藤輝三大尉に出会えようとは思わなかった。敗北の運命を知りながら、敢えてなお分の悪い賭に打って出ようとする男たちの執念や葛藤が実によく描かれていてこの点は見事だった。終盤一気に畳み過ぎたきらいはあるけど、時間エスエフとしての切れ具合はまあ及第点。主人公が終盤で何故あのような行動を取るに至ったかが、書き込み不足に思えてやや減点。実在の登場人物たちの存在感が重すぎて、国連組はやや押され気味だったかな。[2003/03]

ついでに……
『蒲生邸事件』@宮部みゆき
 <<時間エスエフでしかも226事件モノとネタかぶりまくり
『マイナスゼロ』@広瀬正 
 <<こちらも時間エスエフで戦前の日本が舞台。

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マリア様がみてる レイニーブルー [今野緒雪] ★★★ 集英社 コバルト文庫 (\438)

初夏を迎えたリリアン女学園。公認の仲にはなったものの、乃梨子との姉妹の誓いにはためらいを持つ志摩子。そんなある日、祥子が薔薇の館に乃梨子を呼び出す「ロザリオの滴」。剣道部への入部を宣言した由乃。大反対する令。新たな危機の勃発か?「黄薔薇注意報」。やっとの思いで取り付けた祥子との遊園地デート権。しかし相次ぐドタキャンに祐巳の心は揺れる。その背後には瞳子の陰が「レイニーブルー」。三薔薇それぞれの六月を描いた三編を収録。

シリーズ八作目。表紙は憂い顔の祐巳。タイトルからも想像がつくように、今回はアンニュイな展開。それぞれの薔薇姉妹に焦点をあてて、その関係を深化させる巻となっている。といっても、白薔薇編は姉妹(スール)関係正式成立編、黄薔薇編は雨降って地固まる編と、最終的には気恥ずかしい程のラブラブなエンディングを迎えるので、それほどブルーではなかったりする。

問題は本巻だけでは決着がつかなかった紅薔薇姉妹。行動がどこか余所余所しい祥子。暗躍する邪悪な縦ロール女。この頁数でどうやって決着付けるんだよと思ってたら、なんてことはない、次巻へ持ち越しなのな。いずれにしてもソフトとは言え、各編とも百合度の高い話だった。マリみてに(疑似)恋愛小説よりも、学園小説の部分をより多く期待している人間に取ってはやや乗れなかった巻かな。[2003/03] ⇒次巻

煙か土か食い物 [舞城王太郎] ★★★☆ 講談社 講談社ノベルズ (\1,000)

アメリカはサンディエゴの救命外科医、奈津川四郎は故郷からの一報を受け、急遽日本へ帰国する。母親が連続主婦殴打生き埋め事件の新たな被害者となったのだ。持ち前の行動力と人脈をフル活用し、事件の調査に乗り出す四郎。隠された意外な事実が明らかになる反面で新たな謎が増えていく。度重なる凶行の背景には奈津川家にまつわる、陰惨な家族の物語が隠されていた。

第19回のメフィスト賞受賞作品。講談社ノベルズにしては珍しく段組無し。文字の級数も一回り大きい。どうしてだろう。

いちおうミステリに分類されそうな話ではあるのだが、凝った仕掛けや謎解きも、名探偵の登場さえも、本作では些事に過ぎない。主人公奈津川四郎の自分語りが超高速で全編を駆け抜け、怒濤の勢いでラストまでなだれ込む。一種、アンチミステリな趣きを感じないでもないのだが、実はそれすらもどうでも良くて、奈津川家の凄絶な家族史を描写する上での飾りにしかしていないように思える。スピード感溢れる文章は独特のリズムがあり非常に魅力がある。奈津川家シリーズはまだ続きそうなのでこの先が楽しみだ。[2003/03] ⇒次巻

暗闇の中で子供 [舞城王太郎] ★★★☆ 講談社 講談社ノベルズ (\1,200)

連続主婦殴打生き埋め事件から程なく。奈津川家の三男坊にしてミステリ作家の三郎は奇妙な行動を取るユリオという少女に出会う。終息した筈の生き埋め事件の経過をなぞるように、マネキンを埋め続けるユリオ。彼女を保護した時から三郎の受難の日々が始まる。突然の襲撃。忽然と姿を消した昏睡状態の母親。相次ぐ怪事件は失踪中の兄、二郎が起こしたものなのか。

『煙か土か食い物』で第19回のメフィスト賞を受賞した舞城王太郎の第二作。前作の主人公四郎の兄、奈津川三郎が今回は主役を務める。引き続いて講談社ノベルズではあまり見られない段組無しの構成。このおかげでページ数がいたずらに増えているのは間違いの無いところ。異常に改行を入れようとしない舞城文体に合わせた措置と考えられなくもないけど、実際のところはどうなのだろうか。

ろくでもない人間しか居ないのではないかと思われる奈津川家。直感に優れ、旺盛な行動力を持っていた四郎と違って、三郎のキャラクターは内向的。破天荒なふるまいを見せながらも強引に真相に迫っていった四郎と違って、三郎は自分の中での思索に籠もりがち。ともすればその思索は妄想の世界へとどっぶりと浸かっていくので、次第にこの話、なにがなんだかわけが判らなくなってくる。

結局楓の存在はなんだったんだろう。最初に出てくる妊娠話も謎だが、終盤近くになっての結婚話からの流れは唐突に本編のトーンが転調したようで、まるで別の話のようだった。最後に出てきた奴は誰なんだろうとか、そもそもあんな風になっちゃって三郎大丈夫なのかよ(大丈夫なわけねえよ)とか、謎は尽きない。続きが出れば判るのか?このまま放置プレイの刑に処せられそうな気がしてならないのだが、エネルギッシュで圧倒的な物語の奔流に浸れただけでも満足か。[2003/03]

「クロック城」殺人事件 [北山猛邦] ★★★ 講談社 講談社ノベルズ (\800)

終末の時を迎えようとしている近未来の日本。探偵南深騎は少女瑠華の依頼を受け、「クロック城」へと赴く。過去・現在・未来を示す3つの大時計を壁面に持つこの城では、瑠華の父、黒鴣博士の元、奇怪な研究が続けられていた。城の幽霊退治を任された深騎は、その内部を探索する中で殺人事件に遭遇する。二つの密室の中で発見された二つの首無し死体。いかにして犯行は行われたのか。

第24回のメフィスト賞受賞作品。古本で購入したので、最初は気付かなかったが、どうやら本作は「読者への挑戦」付きの袋とじ加工が施されていた模様。この話はとにかくトリックが肝。うっかりページをめくった時に208頁のトリック解説図が見えてしまったらすべてが台無しなので、そのための配慮なのではないかと思われる。

このトリックをやるためなのであれば、哀しい程にチープな近未来描写は全く不要だったと思うのだが、作者ならではのこだわりなのだろうか。主人公カップルとは別に、天巳とりえという似たような役割を持つペアを設定しているのも謎。メイントリックの一発芸はそれなりのインパクトがあり楽しめただけに、これら夾雑物の存在がとても惜しまれる。[2003/03]

マリア様がみてる パラソルをさして
[今野緒雪] 
★★★☆ 集英社 コバルト文庫 (\438)

梅雨時のリリアン女学園。かねてから暗雲の立ちこめていた祥子と祐巳の間に決定的な時が訪れる。不安に暮れる祐巳を置いて、祥子は瞳子と共に迎えの車に乗って去ってしまう。打ちひしがれ、雨の中を立ちつくす祐巳はかつての白薔薇さま、佐藤聖に助けられひとときの安らぎを得る。しかし依然として祥子とは音信不通のまま時が過ぎていく。果たして二人の仲は元に戻るのか。

シリーズ九作目。前作のラストエピソード「レイニーブルー」のそのまま続編となっている。ひょっとしてまるまる一冊1エピソードってこれが始めてかな。脇役が強すぎてなにかと食われがちなメインカップル。やっとのことで面目躍如といったところか。旧白薔薇さまだけでなく、旧紅薔薇さままで登場し、旧薔薇さまファンとしてはとても嬉しい

ぼーっとしているだけに思われがちな祐巳が意外にも今回は頑張った。瞳子憎しで燃え上がるのかと思っていたのに、祐巳×瞳子という対立構造を深化させるのではなく、あくまでも祐巳の内面を成長させる形で展開していくとは。祥子は結局の所被保護者タイプのお姫様キャラだから、今回のようなケースだと祐巳の方が成長して保護してあげないと収まりがつかないんだよな。はかなくも敗れ去った形になってしまった蓉子さまがなんだか切ない。それにしてもこの話、祥子視点の話ってないんだね。[2003/03] ⇒次巻

リクルートという奇跡 [藤原和博] ★★★ 文藝春秋 (\1,700)

リクルートは自己決定できるサラリーマンを生み出した日本で最初の会社である。名も無きベンチャー企業として始まり、瞬く間に情報産業の雄の地位にまでのし上がったリクルート。88年のリクルート事件。92年のダイエー買収などの苦難を乗り越え、なおもリクルートらしさを失わない理由は何なのか。一貫して最前線に立ち続けた元幹部による実名手記。

筆者は東京大学経済学部卒。当時無名のリクルートにあえて入社し、いきなり売り上げトップの営業マンに。以後幹部コースを歩み続け、数々の看板雑誌の立ち上げに関与。96年からは一年契約の半サラリーマン、フェロー社員に。2001年に現社長河野栄子に退陣要求を突きつけ翌年退社。2003年4月からは都内初の民間採用の公立中学校長として活躍している。

仕事の都合で読んでみた。経歴を見ただけでため息が出そうなキャラクターの筆者なのだが、有名なリクルート事件の舞台裏をすべて実名の人物を出して描いているだけに、下世話な意味でこの点は非常に面白く読めた。バブル期の絶好調のリクルートの屋台骨を支えた人物の書いた文章でありながら、自慢話に終始していない点も好感が持てる。まあ、この人のようは生き方はそうそう出来ないと思うけど。[2003/03]

MISSING [本多孝好] ★★★☆ 双葉社 (\1,700)

恋人に死なれ、故郷の海で自殺を図った私は死にきれず浜へ打ち上げられる。そこで出会った少年は彼女の死について意外な真相を解き明かす「眠りの海」。目の前で事故死した妹を悼み、いつまでも妹として振る舞い続ける少女。その行動には隠されたもう一つの理由が……「祈灯」。老人ホームの祖母からの意外な依頼。老人は何故、女子高生を尾行させるのか「蝉の証」他、喪失にまつわる計五編の短編を収録。

冒頭に出てくる「眠りの海」は1994年の第16回小説推理新人賞受賞作。残りの四編についても全て「小説推理」に掲載された作品。1999年になってようやく単行本化でこれが最初の本になる。寡作だこの作家。2000年版のこのミステリーがすごい!では国内部門で10位にランクイン。地味な表紙ながらも口コミで広がり売れ続け、最近出た文庫版(デザインはこっちの方がオススメ)も売れ行き好調の様子。

日常の謎系と無理矢理分類出来ないでもないけど、北村薫や加納朋子のそれにあるようなウェット感は少なめ。乾いた筆致。主人公視点の一人称で物語は進行するのだが、更にその上から見下ろしたような距離感を文章に感じる。決定的な事件は既に起こってしまった後であり、主人公はそれをもはやどうすることも出来ないという現実が、いずれの作品にも共通してあるせいかもしれない。ベストを一つあげるならやはり「瑠璃」で。この手のいまは亡き……系には弱いので。[2003/04]

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