歌の降る星 センチメンタル・センシティブシリーズ
[菅浩江] ★★★ 角川書店 角川スニーカー文庫 (\430)
ナツノと亜美はセンシティブ(超能力者)。能力者センターを辞め気ままなジャンク屋暮らしを楽しんでいた二人だったが、巨大企業シンシア・コンツェルンの研究島で事故が発生。不本意ながらも救助に向かう羽目になってしまう。現地では実験用のアンドロイドが暴走中。その場はなんなく治めたものの、それはより大きな事件の前兆でしかなかった。
1990年作品。菅浩江としては三作目の長編作品。超能力者であるナツノと亜美の冒険を描いた作品で、この作家にしては珍しいコミカル路線のシリーズ。主人公二人のキャラクターから『ダーティペア』@高千穂遙を想起してしまうのは仕方の無いところか。気になるのは30代以降の読者だけかもしれないけど。
慣れていないのか、得意でないのか、コメディタッチは向いてないんじゃなかろうか。会話がぎごちなく、ギャグシーンもストンストンとテンポ良くはまってくれないので読んでいてシンドイ。しかし初期作品でありながらも後々の菅作品に出てくるような、エスエフでしか出来ないような美しい情景を現出させる手腕は既に健在で、終盤の「歌の降る星」の描写はお見事。[2003/05] ⇒次巻
エナメルを塗った魂の比重 鏡稜子ときせかえ密室
[佐藤友哉] ★★★☆ 講談社 講談社ノベルズ (\1,050) [Amazon]
微妙なバランスで均衡を保っていた2年B組だったが、転校生須川綾香が現れたことで状況は激変する。コスプレに自らの存在意義を仮託する少女。人肉以外の食べ物を受け付けない少女。際限ない虐めから抜け出すことの出来ない少女。そして唯我独尊少女鏡稜子。密室の中で発見された男子生徒は如何にして殺害されたのか。続々と現れる「予言者」たちが事態を更に混乱させていく。
メフィスト賞受賞の『フリッカー式』に続く佐藤友哉の第二作。前作で登場した鏡公彦の姉である稜子が今回の主人公。時間軸はやや過去に戻っていて稜子の高校時代のエピソードとなっている。ヲタネタが微妙に古くなっているのはちゃんと考えてるってことか。トルーパーは当時ですら古いと思うのだけど、これは好みの問題か。
ヲタク臭さがハナについて、どうにも気にくわなかった前作に比べ、はじめからこういうテイストなのだと割り切って読んだ今回、意外に楽しく読めてしまったからなんともはやである。スゴイ理屈でリアルにおばさん化してしまう須川綾香だとか、突然出てくる政界からの刺客だとか、終盤の壮絶な畳み方は真面目に読んでいたらきっと怒りたくなること必定。それだけに水泡に帰すとか、骨折り損のくたびれもうけなんて言葉が好きな向きには良作なのではないかと。鏡家シリーズは更に続くようなのだが、果たして行き着く先はどこなのか。新たなる不毛の時空を切り開く佐藤友哉。読者に更なる徒労感を味あわせて欲しい。[2003/05] ⇒次巻
うたかたの楽園 センチメンタル・センシティブシリーズ
[菅浩江] ★★★ 角川書店 角川スニーカー文庫 (\470)
南の島ロータス・イーターを訪れたナツノと亜美。楽園として人工的に整備されたこの島では誰もが長閑な時を過ごしていた。快適な休暇となる筈が、偶然滞在していた能力者センターの恩師ゲオルグが誘拐されたことで事態は一変する。現地で知り合った新聞記者マックスと共に事件を追う二人は、この島に隠された恐るべき秘密を知ることになる。
1991年作品。センチメンタル・センシティブシリーズの第二作。菅浩江としては四作目の長編作品。この作品、イラストで損しているような気がする。テイストの合う合わないはあるにしても、口絵の見開き分はあまりに粗雑に過ぎるなあ。内容的には前作に比べてややパワーダウン。亜美に「水」を飲ませる展開は無理矢理過ぎ。甘々な恋愛路線も苦手だ。[2003/05]
架空の王国 [高野史緒] ★★★☆ 中央公論社 (\2,200)
ヨーロッパの小国ボーヴァル。首都の王立サンルイ大学を受験するためこの国を訪れた瑠花だったが、担当教授のトゥーリエが謎の死を遂げる。その死をきっかけとして、瑠花は次期王太子ルメイエールの聖別を巡る陰謀に巻き込まれていく。ボーヴァルに隠された恐るべき秘密とは何なのか。瑠花に託された<ゼッカーソン文書二十八番>がその鍵を握る。
1997年作品。『ムジカ・マキーナ』『カント・アンジェリコ』に続く高野史緒の三作目。仮想西欧史+音楽への溢れんばかりの愛が前二作のコンセプトだっとすると、今回本作で注ぎ込まれているのは史学への愛。さすがは西洋史専攻。虚実取り混ぜながら、まるで見てきたかのような嘘が巧みに描かれていく。舞台となるボーヴァルはフランス、ドイツ、スイスに囲まれた小国。『ムジカ・マキーナ』に登場したサンクレールのパイプオルガンは、この国の首都サンルイのステラ・マリス大聖堂にある。さりげない絡め方だが、続けて読んできた読者にはちょっぴり嬉しい仕様となっている。
主人公の女の子が年齢の割には頭良すぎたり、出てくる男性キャラが片っ端からこの子に好意的だったり、そもそもなんで日本人でなきゃならないのかと、突っ込み所は豊富にありながらも、緻密に設定されたボーヴァル王国の書き込まれぶりが素晴らしい。華麗なる架空の王国を現出せしめた筆力は評価すべきだろう。[2003/05]
吹け、南の風1 星戦の熾天使 [秋山完] ★★★☆ 朝日ソノラマ ソノラマ文庫 (\476)
<<連邦>>所属の商船を襲う謎の船籍不明艦。海賊鼠小僧と名乗るその船は神出鬼没にして大胆不敵。通商路に次々とダメージを与えていく。一方、回廊星域の独裁国家ムエルト帝国はトランクィル廃帝政体の示威行動を受け窮地に陥る。<<連邦>>大統領第三息女ジルーネは麾下の艦隊を率い、局面の打開に打って出るのだが……。
『ペリペティアの福音』「光響祭」(『天象儀の星』収録』)の8〜9年後のエピソードで、秋山未来史の一翼を担う作品。2001年12月の刊行。最終巻の第三巻が2003年4月にようやく発売されたのでようやく読み始めることが出来た。積読されること二年半。こんなことならもっと早くから読んでおけば良かった。
秋山完の遅筆ぶりはもはや致し方ないものとは諦めながらも、あまりに刊行速度が遅いので以前に出てきた登場人物が再登場しても、記憶から抜け落ちてしまっていてさっぱり誰が誰だか思い浮かばないのがもどかしい(読者の記憶力の問題も大だが)。超ヒロイン・ジルーネお嬢様はさすがに忘れないにしても、コムカタやフロプトは完全に忘却の彼方だった。ごめんな。
ジルーネ配下の圧倒的な軍事力に対して、正体を現すことすら禁じられている不正規部隊がいかに立ち向かっていくのか。古典的なシチュエーションでありながら、秋山ガジェット満載のエスエフ設定に、弾けすぎの感すらある砕けたサブキャラの魅力も相まって、実に燃える話に仕上がっている。第一巻としてはなかなかいい引きだ。[2003/05] ⇒次巻
吹け、南の風2 星海の襲撃者 [秋山完] ★★★☆ 朝日ソノラマ ソノラマ文庫 (\457)
トランクィル廃帝政体の秘密工作船<フリーゲンデ>は商船<ゼンタ>号に襲撃をかけた。楽勝かと思われた筈の戦いは思わぬ逆襲を受け予想外の展開を迎える。船体を固定され逃走手段を失った<フリーゲンデ>に<<連邦>>の狼狩り戦隊が迫る。<ゼンタ>号に潜入したコムカタは自分がかつてこの船の乗組員であったことを思い出すが……
シリーズ二巻目。後に「無邪気な戦争(シリーウォーズ)」と呼ばれた大戦争の、前哨戦「ザントヴィーケ事件」の顛末を描く。2002年4月刊行。一巻が出てから4ヶ月だから、ここまでは素晴らしく快調なペースだったのだ。ここまでは。秋には3巻が読めると思っていたのになあ。秋山完という作家を甘く見てはいかん。
重度の健忘症に重要任務を帯びた特務艦の艦長が勤まるのかどうか、激しく疑問で仕方がないのだが、放置プレイかと思われていたコムカタにようやくスポットが当たる。きっとこのキャラ、普段は昼行灯なんだけどピンチに陥ると大活躍なタイプだな。<ゼンタ>号の女艦長ティダの変装ぶりは演技とかメイクとかいうレベルを超えてるような気がしないでもないけど、この子も何か裏がありそう。最終巻の三巻は既に捕獲済みなので速やかに次へ進みたい。[2003/05] ⇒次巻
「瑠璃城」殺人事件 [北山猛邦] ★★★☆ 講談社 講談社ノベルズ (\740)
ここは「最果ての図書館」。訪れる人も少ない極北の地で君代は樹徒と名乗る男に出会う。樹徒と君代は転生を繰り返しその度に互いを殺し合う運命にあるのだと云う。始まりは13世紀のフランス「瑠璃城」。そこでは六人もの騎士が謎の死を遂げ、あり得ない場所で死体が発見される。そして20世紀初頭、第一次大戦中に起きた不可解な兵士の死。事件は時を超えて連鎖していく。
「クロック城」殺人事件に次ぐ、北山猛邦の二作目。主人公カップル、マリィとレインの800年に渡る数奇な運命を描く。現代・13世紀フランス・20世紀初頭(第一世界大戦中の独仏国境地帯)の3つの時代が交互に描写され、最後に全てが収斂していく形式を取っている。君代はともかく、樹徒に歌未歌はないだろうよ。相変わらず読んでいて気恥ずかしくなるようなネーミングセンスなのだが、これも作風なのかね。前作に比べると無駄な人物や余計な描写が減って、読みやすくなっている。この辺りの成長ぶりは微妙に嬉しい。
北山猛邦は西洋の城が何故か大好きなのだが、大きな舞台装置ならではの無茶なトリックが楽しい。この種のネタがいつまで続くか、それがこの作家がミステリ業界にいつまでいられるかどうかの分かれ目になりそう。仄かな余韻を残す印象的なラストはメロドラマ好きな自分としては大いに◎。悲運のカップルのわりには泣きが弱いなあと思っていたら最後にしてやられた。[2003/05]
吹け、南の風3 開戦への序曲 [秋山完] ★★★☆ 朝日ソノラマ ソノラマ文庫 (\800)
<フリーゲンデ>と<ゼンタ>号の睨み合いは膠着状態に陥り、業を煮やしたロストウは<ゼンタ>号もろとも<フリーゲンデ>を撃沈する決断を下す。高速巡洋艦四隻の全力集中射撃が迫る中、コムカタとティダは驚くべき対応を見せる。一方、緊張高まるムエルト星系では<<連邦>>勢力が新たな蠢動をはじめようとしていた。
後の世に「無邪気な戦争(シリーウォーズ)」と呼ばれることになる大戦争の、前哨戦「ザントヴィーケ事件」の顛末を描いたシリーズの三巻目。やっと最終巻だ。2003年4月刊。よもや一年も待つことになろうとは。一巻(253p)、ニ巻(223p)が厚さ1センチも無かった状態だったのに、今回は厚さ2センチ強(610p)。三冊並べてみると著しくバランスを欠いていて脱力する。
しかしどれだけ待たされようと、面白ければ全て許されるのがこの世界。待っただけの甲斐はあった。戦闘シーンは圧巻であまりに素敵過ぎる。圧倒的な敵勢力を相手に貧弱な武装を駆使してボロボロになりながら頑張る話萌えな向きにはたまらんだろうよこれ。是非映像で見てみたいのだが、どこかアニメ化してくれないだろうか。順調にシリーズが続いていきさえすれば、銀英伝を喰えるレベルまで育つと思うのだけど。
で、ティダ=フレンとわかった瞬間にもう泣きそうだったんだけど、涙腺弱すぎだろうか。『ペリペティアの福音』を読んできた人間には感涙ものだろう。表紙絵を見たときには誰こいつ?という感じでピンと来なかったのだが、ジルーネお嬢様との対立軸にフレンを持ってこようとは。「シリーウォーズ」編が早くも楽しみになってきたけど、未だ書かれていない、中間エピソード「葡萄園のフレン」がまずは先か。次の新刊は何年後だろうか。[2003/05]
とんち探偵一休さん 金閣寺に密室
[鯨統一郎] ★★★ 祥伝社 ノンノベル (\857)
足利三代将軍義満は応永15年(1408年)謎の死を遂げる。密室状態の金閣寺最上層の内部で縊死状態で発見されたのだ。権力の絶頂を極め、天皇位にまで野望を燃やしていた義満が何故このような死を選んだのか。父親の死に納得できない足利義嗣は事件の真相解明を建仁寺の小坊主一休に託す。
2000年作品。『邪馬台国はどこですか?』『隕石誘拐 −宮澤賢治の迷宮−』に次ぐ、鯨統一郎の三作目。既に二十作近くに著書を増やしているこの作家なのだが、読むのはデビュー作の『邪馬台国〜』以来。史実の陰に潜む意外な真相を垣間見る楽しみは本作でも健在。室町時代を舞台にした小説はそう多くはないので、その意味でも面白く読むことが出来た。
アニメの一休さん(古過ぎ)を観ていた世代なら、ビジュアル付きで一休や新右衛門さん、将軍さまが脳裏に浮かんでくるのでとても世界に入りやすいだろう。しかしながらミステリとしては非常に平凡。密室トリックのオチもそれはないんじゃないかと。六郎太と静に森女が語って聞かせる構成もどうしてこのような形を取ったのか必要性がわからない。[2003/05]
スバル星人 [大原まり子] ★★★ プランニングハウス ファンタジーの森 (\840)
少女マンガ家箱崎美夜子(ミャコ)は世田谷区の一隅で運命の出会いをした。謎の宇宙人、スバル星人と瞬く間に意気投合したミャコ。その日から彼女の人生は一変していく。他の人間には見えることが無いスバル星人は、箱崎家とその周辺の世界に少しずつ影響を及ぼしていく。彼が地球へやってきた目的は何なのか。
1988年に角川書店より上梓されていた作品を加筆修正の上、プランニングハウスより1998年に復刻したのが本書。ちなみにプランニングハウスは2000年3月に倒産。同じく少女マンガ家箱崎美夜子を主人公とした『処女少女マンガ家の念力』(1985年角川書店/現在では早川書房より刊行)『青海豹の魔法の日曜日』(1987年角川書店)の続編ともいえる作品なのだが、何故か出版社が分かれてしまっている。
CGの表紙絵が怖い。角川文庫版の岡崎京子の表紙絵が気に入っていただけにちと残念だ。のほほんとした多幸感がたまらなく心地よい作品で、読み終えるとこちらも幸せな気分に浸れてしまう不思議な一冊。今となっては80年代風俗を知ることの出来る貴重なエスエフ作品でもある。出来れば箱崎美夜子のシリーズは続けて欲しかったのだが、今更は続きは出ないよなあ。バブル後の箱崎家が見たいよ。[2003/03]
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