2003年8月

今月は半分近くを旅行先で読了。旅先で買って旅先で読み切るのがスタイルとして好きだ。
もっとも京極堂の新刊は徒に荷重を増やしただけだったけど(笑)。読み終えるまで二週間もかかったぞ。

書籍名
作家名
出版社
価格
コメント
お薦め度
九十九十九 舞城王太郎 講談社 \1,500
エロエロだ。
★★★☆

裏庭

梨木香歩 新潮社 \590
出来はいいが、好悪が分かれそうな作品。
★★★

イリヤの空 UFOの夏
その4

秋山瑞人 メディア
ワークス
\570
メロメロ感想だ。心して読め(笑)。
★★★★

クロノス・ジョウンターの伝説

梶尾真治 朝日ソノラマ \600
時間メロドラマ。
★★★☆

魔宮の攻防
グインサーガ91

栗本薫 早川書房 \540
アモン喋り過ぎ。
★★☆
ランブルフィッシュ
6 亡霊殲滅編 上
三雲岳斗 角川書店 \495
レイステルちゃんがイイ。
★★★

美しい日本の掲示板

鈴木淳史 洋泉社 \720
この語り口なんとかしろ。
★★★

蛇行する川のほとり3

恩田陸 中央公論新社 \476
着地がきれいに決まる。
★★★☆

Twelve Y.O.

福井晴敏 講談社 \1,500
夏生由梨タンが萌えどころ。
★★★☆
陰摩羅鬼の瑕 京極夏彦 講談社 \1,500
リサイクルって大事。
★★★☆
袋綴じ事件 石崎幸二 講談社 \700
袋綴じ関係ないじゃん。
★★★
火星年代記 レイ
・ブラッドベリ
早川書房 \380
「ロケットの夏」からして既に素晴らし過ぎ。
★★★★

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九十九十九 [舞城王太郎] ★★★☆ 講談社 講談社ノベルズ (\1,500) [Amazon]

九十九十九

探偵九十九十九。彼は生まれ落ちた瞬間から、そのあまりの美貌故に人々を呪縛し続ける。誘拐され、育ての母に殺されかけた十九は流転の末に西暁町の加藤家に引き取られる。そこで出会った双子の兄妹セシルとセリカもまた十九の引力に引かれ運命をねじ曲げられていく。二人の母、順子の死は、延々と続く殺人劇のプロローグに過ぎなかった。

清涼院流水のJDCコラボレートな作品群の一つ。九十九十九(つくも・じゅうく)はこのシリーズに出てくる超絶的な美貌の名探偵。ではあるのだけれど、『コズミック』を壁に投げつけた自分としてはそんなことは、別にどうでもいいや。

殺人が起きたり、現場が密室だったり、探偵が出てきたりはする。数限りなく人が死んで、血がどびゃーっと出たりもして、いい感じにギミック満載の館も出てくる。けれども、なにせ舞城王太郎だから、実際のところ事件の真相解明はあくまでもおまけ。ついで。余録。別冊付録に過ぎない。彷徨を続けながら自分探しを続ける、壮絶な魂の遍歴を描いた「生きていくわたし」を素直な気持ちで受け止めるしかない。濃厚なメタメタ感に打ちのめされながら、わけわからんまま読了。でもこれでいいんだろうと思う。[2003/08]

裏庭 [梨木香歩] ★★★ 新潮社 新潮文庫 (\590) [Amazon]

裏庭

バーンズ屋敷は戦前からある謎めいた洋館。とあるイギリス人一家が所有していたこの建物は、地元の子供たちの隠れ家であり秘密基地であり、そして格好の遊び場でもあった。共稼ぎの両親と心のすれ違いが続く照美は、久しぶりに訪れたバーンズ屋敷で、誘われるようにして一枚の大鏡の前にたどり着く。そこは禁断の「裏庭」の入口だった。

第一回の児童文学ファンタジー大賞受賞作品。1996年に理論社より刊行。児童文学のレーベルで順調に版を重ね、2001年に新潮文庫版が刊行されている。作者は1959年生まれ。ファンタジー小説の書き方としてはこういう入り方もあるわけだ。

ありがちなオチに終わらない硬質な印象を受ける作品。よくある少女の自分探しストーリーではあるのだが、その背後には母、祖母と続く女たちの思いが連綿と込められており、作品の雰囲気は終始重苦しいものに包まれている。一回り成長し、大人びて裏庭から戻った照美を、母親の幸江は素直に受け止めることが出来ない。時を経て、ふたたび裏庭に戻ったレイチェルと丈次はそれで幸せだったのか。癒しの中に垣間見える底知れない残酷さがなんとも後味が悪いというか、それが魅力というべきなのか。『西の魔女が死んだ』のカタルシスを本書に求めると痛い目に遭うだろう。[2003/08]

イリヤの空 UFOの夏 その4
[秋山瑞人] 
★★★★ メディアワークス 電撃文庫 (\570) [Amazon]

イリヤの空、UFOの夏〈その4〉

伊里野との逃避行が始まった。追っ手を逃れ束の間の安息を得た二人に訪れた悲劇を描く「夏休みふたたび」。崩壊しつつある伊里野の精神。背後に迫る追跡者の影。絶望的な状況の中で浅羽が下した決断「最後の道」。消えた伊里野。語られる謎。平穏な日常がふたたび始まるかに思えたその時、運命の日がやってくる「南の島」。シリーズ最終作。

『電撃HP』20号〜24号に連載された4話にエピローグ分を書き下ろしで追加。4冊目の本巻が最終巻となる。

いくらなんでも伊里野の重要性を考えると、榎本が絡んでいたとは言え、軍の追跡って甘すぎない?結局こいつって何だったんだよ。水前寺の放置プレイはいかがなものかと?それからエピローグは蛇足なんじゃない?……と、突っ込みたいところはいくつかあるけど、まあいいや。秋山瑞人はその紡ぎ出す物語の叙情性、ダイナミズムに妙があるわけで、細かい部分の整合性を売りにするタイプの作家じゃないからな。

少年という存在は程度の差こそあれ、いつも世界と戦っていたりするものだと思う。それは教師だったり、親だったり、いかんともしがたい生活環境だったりと様々なわけだけれども、多くの場合、勝者となるのは世界の方で、少年の方でも勝つのは向こうだろうって心の奥底では判っている。それでも戦ってる自分ってのは誇らしいし、なんだか格好いい気分になれる。自己満足にも浸れるじゃん。負けるとわかっていても、立たなくてはならない時ってのはある。ましてや惚れた女のためだっていうのなら尚更のこと。そんな流れで、若さと勢いで飛び出した浅羽は、この世の地獄を見ることになる。

なんだかわけわからんけど、もの凄い機密を抱えた女の子を連れて、軍組織相手に逃げを打たなきゃならん浅羽。好きな女と二人っきり。それでも欲望抑えて頑張ってる。でも道ばたで拾ったエロ本に釣られてうっかりハァハァしてると、肝心の彼女はゴミカスのようなおっさんに襲われちゃって、挙げ句の果てに持ち金盗まれてトンズラこかれる浅羽。うろたえるあまりに誰よりも大切な伊里野を自らの言動で精神崩壊させてしまう浅羽。ガクガクブルブル震えながら、もう辞めてもいいんだぞと大人に肩を叩かれるのを待っている浅羽。秋山瑞人は人間を決して万能に描かない。いつもにも増して登場人物たちへの仕打ちは容赦がない。

では、以下各編ごとにコメント。「夏休みふたたび」。4巻の半分をこの章に費やしている。その先に崩壊が予見出来るだけに、序盤のほのぼの描写が既に読んでいてシンドイ。瞬間訪れた平和な日々と無惨に打ち砕かれた希望。地に足が着いていない二人に突きつけられた現実はあまりに過酷。浅羽の底知れぬ不安と焦燥、伊里野の無条件の信頼が哀しいまでに噛み合わない。

続いて「最後の道」。この巻のメイン所というか、全巻を通じてもクライマックスと言える勘所のエピソード。精神を退行させていく伊里野と、それをなすすべもなく見守るしかない浅羽。対照的な両者の描かれ方が残酷ながらも美しい。晩夏の浜辺で精も根も尽き果てようとしていた浅羽が、伊里野の最後の一言で忘れかけていた自分の気持ちを取り戻すシーンはもう共に慟哭するしか……。

最終エピソード「南の島」。「最後の道」で決着はもう既についている。浅羽的な気持ちの整理は終わっているわけで、あとは大団円に雪崩れ込むだけだ。秋山作品は基本的に予定調和で幕を閉じる。ただラストで高く跳ぶために、主人公は一度地を這うがごとく落ちるところまで落ちなくてはならない。浅羽の見た地獄は、伊里野が高く高く跳ぶために必要なことだったのだろう。息を飲むしかないようなラストシーンには絶句。ここでタイトルが被ってきた読者は多いんじゃないだろうか。上手い。

伊里野のいない日常世界へと回帰していく浅羽。晶穂も戻ってきているし、なんだかモテモテの予感。ちょっとスッキリし過ぎなんじゃねえかと思わないでもないんだけれど、無様で無力な自分を知った分だけ、確実に成長を遂げているのだろうとポジティブに解釈。というわけで秋山瑞人よ。次は『EGファイナル』だ。なんとかしてくれ。[2003/08]

クロノス・ジョウンターの伝説
[梶尾真治] ★★★☆ 朝日ソノラマ ソノラマ文庫 (\600) [Amazon] ※書影無し

過去への旅を可能にする超発明、クロノス・ジョウンターにまつわる物語。想い人の命を救うため、自らの危険をも厭わず時間旅行への執念を燃やす「吹原和彦の軌跡」。訪問先の過去世界で芽生えた仄かな恋情に苦悩する「布川輝良の軌跡」。死別した初恋の人を想い続ける女性に、ある日訪れた奇跡を描く「鈴谷樹里の軌跡」。他1編を収録。

1994年に朝日ソノラマより刊行。この段階では最初の二編のみ。続いて1999年にソノラマ文庫NEXTとして復刊した際に三編目が追加され、ソノラマ文庫版の本書では徳間デュアル文庫のアンソロジー『少女の空間』に書き下ろされていた外伝「朋恵の夢想時間」が追加されている。

とにかくメロメロだ。手も握っていないような女のために、愚直なまでに時間旅行を繰り返す男。自らの人生を棒に振ってなおかつ、やっとの思いで救い出した彼女にはもう会うことが出来ない。いかにもカジシンらしいメロドラマな展開である。時間をテーマにしたエスエフではあるが、時間だとかタイムマシンがどうこうなんてことはこの作品集の中では副次物に過ぎない。惚れた男(女)のために何でもする。たまたまそのための道具がクロノス・ジョウンターだったというだけのこと。たまにはこれくらい甘々な話もいいんじゃないかと。[2003/08]

ついでに…… 
『ライオンハート』@恩田陸  <<時間メロドラマ恩田陸版。

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魔宮の攻防 グインサーガ91
[栗本薫] 
★★☆ 早川書房 ハヤカワ文庫 (\540) [Amazon]

魔宮の攻防―グイン・サーガ(91)

パロの王都クリスタルへ突入をはたしたケイロニア軍は、豹頭王グインの指揮のもと、王宮への快進撃をつづけていた。さままな魔道をしりぞけ、ついにクリスタル・パレスにたどりついたグインのまえに、かわりはてたレムス王があらわれる。魔王子アモンとの訣別を宣言するレムスは、プライドを捨ててグインに助力を乞うのだが……。

グインサーガ91巻。語れば語るほどキャラクターがバカに見えてくるのが、この作家の特徴なのだが、いちおうそれなりの重みと威圧感とを持って登場した中ボスキャラアモンが、ペラペラペラペラよく喋ること喋ること。どんどん安いキャラに成り下がっていってるんだけど、これでいいのか?だいたいなんで、パロを異種生命体であるこんな奴に預けたのか、ヤンダルの考えもわけわからん。もうどうやってもレムスをパロ中興の祖に持ち上げ治すのは無理だと思うんだけど、力業でなんとかしちゃうのかな。[2003/08] ⇒次巻

ランブルフィッシュ 6 亡霊殲滅編 上
[三雲岳斗] 
★★★ 角川書店 スニーカー文庫 (\495) [Amazon]

ランブルフィッシュ〈6〉亡霊殲滅編(上)

前哨戦では、フェニックス闘専の留学生に手ひどくやられてしまった恵里谷の面々。新装備カドゥケウスを手にしたガンヒルダだったが、あまりの高出力に機体が耐えきれず暴発。瞳子たちの苦闘の日々が続く。再戦に向けて盛り上がるD班だったが、その一方では、毎夜霧と共に現れる謎のRFが次々と他班の実習機を破壊し続けていた。

シリーズ6作目は上下巻構成に。すぐにレイステル小隊とのSR戦に進むのかと思いきや、1エピソード間に挟んできた。わりと手堅いな。さすがは人気シリーズ。その分外人新キャラ四人組の内面を掘り下げられるからいいは思うけど。なにせ冒頭の登場人物紹介だけで24人も登場(実際はもっと居る)。こんなにキャラクターが多いのに適度に見せ場を与えながら、うまく話を回しているわけで、これはなかなか巧い。下巻は翌月発売。どうせなら同時に出して欲しかった……。[2003/08] ⇒次巻

美しい日本の掲示板 [鈴木淳史] ★★★ 洋泉社 新書y (\720) [Amazon]

美しい日本の掲示板―インターネット掲示板の文化論

最早身近な存在となった電子掲示板システム。パソコン通信時代から、現在に至るまでの成り立ちを俯瞰。個人レベルの小規模なものから、ポータルサイト系、2ちゃんねる級の巨大掲示板まで、それぞれの特徴を解説。とかく新しいメディアと思われがちな電子掲示板が、実は日本人古来の感覚に根ざしたコミュニケーションシステムであることを説く。

筆者は1970年生まれの売文業(って書いてある)。著作にはクラシック音楽に関しての辛口評論が多い模様。まるで違う分野のインターネット文化論を、何故ぶちあげようと思ったのかは謎。

この手の本にありがちなのが、ターゲットの絞り込みが不明確なこと。ネット初心者向けに書いているのか、ある程度詳しい人間向けに書いているのかがどうも判然としない。意図して書いていると思われる砕けた文体も、単純に読んでいて腹が立つのでもうやめよう。マイナスにしかなってないぞ。普通に書けよ普通に。

ほぼ同世代なのでニフティのパソコン通信時代や、草の根BBS(もう死語だなこれ)についての記載は懐かしく追体験。もう15年以上前の話になるのか……。2ちゃんねるが作り出したかに見える、「名無しの文化」が、遙か以前の落首、連句の発展進化であると見なす考え方は面白い。海外にはこれほどまでに匿名を当たり前とする掲示板文化はないらしいからね。[2003/08]

蛇行する川のほとり 3 [恩田陸] ★★★☆ 中央公論新社 (\476) [Amazon]

蛇行する川のほとり〈3〉

あまりに唐突に訪れた香澄の事故死。毬子の入院。それでも夏の日々は続いていく。真魚子は芳野に乞われ、主の居ない館で残された時間を過ごすことになる。真実を隠したまま逝った香澄。彼女の母親の死にはどんな秘密があったのか。互いの心中を探り合う四人。芳野が解き明かす真相は、彼らの夏を終わらせる。

書き下ろしミステリー三部作の最終巻。1巻が2002年12月。2巻が2003年の4月。そして本巻は2003年8月と四ヶ月おきの刊行。きっちりスケジュール通りに発売されたのはめでたい。ちゃんと完結してるし。『上と外』みたいに延びた挙げ句に、巻数が増えちゃったりしたらどうしようかと思ってた。

1巻:毬子視点⇒2巻:芳野視点と続いて、ラストではなんと真魚子視点。部外者の引いた視点で見つめ直すことで物語が確定されるこのパターンは『三月は深き紅の淵を』の第三章や、『球形の季節』のみのりの存在に通じるものがある。当局者に関与出来ない第三者=物語に関与出来ない読者の立場なのかも、と邪推してみたりして。

ミステリとしての謎解き編は極めてオーソドックスな解決。方法はともかく、犯人はそれしかないだろうし。とまれ、恩田陸作品なので、ミステリとしてどうこう突っ込んでも意味がない。70年代フィルターのかかった一夏の物語。自分は他人とは違うのだという矜持を当たり前のように持ち得た少女の時間。はかなげで、ゆらぎ、かぎろう瞬間のきらめきをサクっと切り取って見せてくれたのがこのお話なのではないかと。香澄の母が死して永遠に夫を支配したように、香澄自身も自らの死によって、残された人々を呪縛し続けるのだろう。永遠の少女として。[2003/08]

Twelve Y.O. [福井晴敏] ★★★☆ 講談社 (\1,500) [Amazon]

Twelve Y.O.

謎の電子テロリスト"トゥエルブ"。禁断のコンピュータウィルスを駆使し、日本政府、自衛隊、米国国防総省をも手玉に取る男の正体とは?落ちこぼれ自衛官の平はかつての上司、東馬との再会から諜報戦の濁流に呑み込まれていく。沖縄の米軍基地に狙いを定めた"トゥエルブ"の真の狙いとは何なのか。日米がひた隠しにしてきた歴史の暗部が白日の下に晒されようとしていた。

第44回江戸川乱歩賞受賞作品。ちなみに同時受賞は池井戸潤の『果つる底なき』。『亡国のイージス』でブレイクした福井晴敏だが、その先駆とも言える作品が本作。

ホントは出来る男がうらぶれて駄目人間化しているところで一念発起して大活躍という、判りやすくてツボを抑えた展開が◎。元上司で天才テロリストの上馬修一や、美少女コマンドー(死語)ウルマ、女の情念ドロドロの夏生由梨などなど、何れもキャラが立っていて実によく書けている。ただ、全編に見られる表現の青臭さが目立ちすぎるのが減点ポイントかな。終盤にかけての躍動感溢れる盛り上がりぶりは見事。『亡国のイージス』を早く見つけてこなくては。[2003/08] ⇒次巻

陰摩羅鬼の瑕 [京極夏彦] ★★★☆ 講談社 講談社ノベルズ (\1,500) [Amazon]

陰摩羅鬼の瑕(おんもらきのきず)

信州白樺湖畔に佇む洋館「鳥の城」。当主の由良昴允は五度目の婚礼を目前にしており、館内では緊張が高まっていた。過去四回、昴允の花嫁はその初夜が明けると共に殺害されており、そして未だその犯人は捕まっていないのだ。事件を未然に防ぐべく召還された探偵、榎木津礼二郎と付添人の関口巽。しかし彼らの目の前で、またしても事件は起きた。

京極堂シリーズの八作目。意外にもこのサイトで京極作品扱うの初めてなのな。七作目の『塗仏の宴 宴の始末』が1998年9月刊行だから、5年振りのシリーズ再開か。久しぶりに味わう関クンの鬱々とした自虐ぶりが懐かしい。絶対に付き合いたくないタイプの男だ。京極はもちろんのこと、榎木津、木場も再登場。このシリーズはキャラ萌え小説としての側面も重要なので、基本キャラはしっかりと押さえてきている。惜しむらくは女性陣の出番が皆無なのが残念。敦子ちゃんは元気なんだろうか。

以下、『姑獲鳥の夏』のネタバレも含むので未読の人注意。

結局のところこの話、所原点回帰なのか、中古アイディアの拡大再生産なのか、第一作『姑獲鳥の夏』のパターンを意図的に踏襲してきている。認識のずれを逆手に取ったオチと、それを納得させるための膨大な蘊蓄。最初に榎木津のネタバレが入るところまで同じ。これを良しと出来るかどうかが評価の分かれ目だと思う。京極ファンなら、この雰囲気が味わえるだけで満足かもしれんけど。同じネタ何度も使わなくてもいいじゃんと、萎える気持ちがあるのも確か。『姑獲鳥の夏』を読んでいれば、真相は早々に判ってしまうわけで、それでも最後まで読ませる筆力はさすがだけどね。[2003/08] ⇒次巻

袋綴じ事件 [石崎幸二] ★★★ 講談社 講談社ノベルズ (\700) [Amazon]

袋綴じ事件

ミリアとユリは友人、深月仁美の求めに応じ八丈島へと旅立つ。例によって例のごとく、ついでながら石崎も同行。離婚により別居中の仁美の父親、新堂剣蔵を訪ねることが目的だ。しかし到着するや否や、八丈島を台風が直撃。滞在先の別荘は「嵐の山荘」状態となってしまう。その夜、施錠された部屋の内部で、剣蔵が襲撃を受ける。犯人はどのような手段で目的を果たしたのだろうか。

ミリア&ユリシリーズ第四弾。講談社ノベルス創刊20周年記念「密室本」のラインナップ中の一冊。不本意ながら、このシリーズの不毛な会話にも慣れてきてしまった。人としてミステリ読みとして、順応性の高さを誇っていいことかもしれない(違う)。

「密室本」はその名の通り、本文の部分がまるごと袋綴じ状態になっている。それだけに本書のタイトルは実に人を食ったネーミングになっているわけだが、作中作の『玄円館殺人事件』と本筋との関連づけがあまりに強引過ぎる。逆に何かあるんじゃないかと、勘繰ってしまった程だが、単に消化し切れていないだけ。「それだけかよ!」と突っ込んでしまった人、他にも居ないか?[2003/08]

火星年代記
[レイ・ブラッドベリ] ★★★★ 早川書房 ハヤカワ文庫 (\380) [Amazon] ※書影無し

人類は遂に火星へに到達した。しかし火星は無人の大地では無かった。地球からの探検隊は火星人の妨害によって次々と消息を絶っていく。それでも続々と来襲する地球人の大集団に、いつしか火星人たちは駆逐されていった。植民星となった火星だが、新天地に見えたこの地もまた、地球社会の縮図でしかなかった。地球に異変が訪れた時、火星に新たな変化が訪れようとしていた。

1950年作品。ブラッドベリ30歳の時の作品。半世紀以上前の作品とは思えないな。本作は火星到着の1999年(!)から、新たな火星人の誕生を見る2026年までの27年間を、26編のショートストーリーで綴る連作短編の形式を取っている。複数のエピソードに登場する人物もいるけれど、全編を通した主人公は存在しない。あえて云うならば、火星そのものが主役というべきところだろう。

『クリスタル・サイレンス』に引き続き、火星大接近記念ということで再読。初読はなんと1985年。18年振りか。第二次大戦後の社会情勢を色濃く反映した社会批判が、今でも違和感なく読めてしまうところに人類の進歩の無さを痛感させられる。こうしたアイロニカルな社会批判が嫌みにならず、全編に横溢する詩情と打ち消し合うことなく共生出来ていることころが名作の名作たる所以か。「百万年ピクニック」のラストを完全に忘れていた自分の記憶力の無さに心から感謝。もう一回この感動を味わえるとは。[2003/08]

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