殺しも鯖もMで始まる
[浅暮三文] ★★★ 講談社 講談社ノベルズ (\740) [Amazon]

村上の爺さんと、その愛犬ゴンが掘り出した死体は浅草の寄席芸人、魚屋黒妖斎だった。掘削された痕跡の全く残らない地中の空洞で彼は餓死していたのだ。自殺?殺人?それとも事故なのか。北海道警の刑事加藤は、黒妖斎の弟子たちに容疑の目を向ける。捜査の過程で訪れた雪の山荘で、加藤は第二の事件に巻き込まれるのだが……。
講談社ノベルス創刊20周年記念「密室本」のラインナップ中の一冊。浅暮三文、六作目の作品。『ダブ(エ)ストン街道』しか読んでいないので、それだけで判断してしまうのも強引かとは思うけど、ミステリ体質じゃないだろこの人。それでもメフィスト賞受賞作家なので、密室をテーマに一冊書き下ろししなきゃならん、ってことで送り出されたのが本書。
密室+ダイイングメッセージという形は古式ゆかしきミステリの流れなのだが、やっぱり浅暮流は健在。読者の気合いを受け流すネタの応酬と、脱力系キャラ樫山青年の存在で、独特の味を醸し出すことに成功?トリック的にはけっこう真面目にミステリ書いてるのに、どうしてにこんなに軽いトーンにしてしまうんだろう。[2003/09]

16世紀フランス、パリ。資産家の御曹司ドニ・クルパンは親の七光りで夜警隊長になってはみたものの、慣れない仕事に孤軍奮闘。事をし損じては元家庭教師の学僧ミシェルに泣きつく始末。パリの巷に巻き起こる様々な難題をドニとミシェルが解決していく。相次ぐ事件の背後にはどうやら共通の人物の陰が見え隠れしているのだが……。
2000年作品。佐藤賢一の七作目の作品。不勉強にして知らなかったのだが、ドニ・クルパンは16世紀フランスきっての大人物であったらしい。功成り名遂げた盛年期でなく、箸にも棒にも引っかからなかった青年期に光を当てたのが本作。パリの学生街カルチェ・ラタンの誇る天才ミシェルとの交流を通して、ドニが一人前の男に成長していくさまを描く。
本編は連作短編とも取れる形式となっていて、小イベントをクリアしながら、次第にラスボスが判明。全ての伏線がしっかり消化されて大団円を迎えるという構成。一編あたりの文章量が少なく、ヘタレな主人公が非常にユーモラスに描かれていることもあって、歴史嫌いな向きでも入りやすい造りになっている。フランシスコ・ザビエルや、イグナティウス・ロヨラ、カルヴァンといった歴史上の有名人が登場し、いずれも人間味豊かに描かれている点も親しみやすくて◎。同時代を生きた人物を、思いもよらぬ組み合わせで登場させるのは、山田風太郎の明治モノを彷彿とさせられる手法だ。
神とは、信仰とは何なのか、そんな深遠なテーマを表向きは漂わせながらも、やっぱりサトケン作品。最後は愛である。キリスト教の教義はサッパリ判らなくても、非モテ系主人公が悪戦苦闘の末に嫁さんを獲得するまでの物語は素直に楽しめる。マルトさんはちょっと都合のいい女に過ぎるんじゃねえかと、茶々入れしたくもなるけど、ハッピーエンドには替えられない。[2003/09]
ビートのディシプリン SIDE2
[上遠野浩平] ★★★ メディアワークス (\610) [Amazon]

重傷を負ったピート・ビートは反統和機構組織<ダイアモンズ>の合成人間パールによって救われる。しかし統和機構からの刺客、バーゲン・ワーゲンの襲撃が迫る。奇しくも行動を共にすることになった人間戦闘兵器ジィドと共に反撃に転ずるビート。だが、その脳裏には忘れられない過去の残滓が蘇ろうとしていた。
ブギーポップシリーズと表裏一体をなす姉妹編。外伝的作品とも位置付けられるビートのディシプリンの続編。腕っ節ではなく、知恵と度胸で難局を次々と乗り越えていく統和機構の合成人間ビート君の活躍を描く。前巻が2002年3月刊だから、1年5ヶ月ぶりの新刊。こんなに間空けちゃったら、前の話忘れちゃうんだけど……。
今回はつなぎの巻らしく、意外に重要人物というか、実は最強キャラなのかもしれないビートの過去について詳述。モ・マーダーとか、スプーキーEとか、懐かしいけどもう覚えてないよ。何だったっけかこいつら。完結したら全部読み返すことにして、次は何ヶ月後になるかわからん続編を待つことにしよう(いいのかそれで)。[2003/09] ⇒次巻
クリスマス・テロル [佐藤友哉] ★★★ 講談社 講談社ノベルス (\760) [Amazon]

女子中学生小林冬子に突如訪れた衝動。なにかに突き動かされるかのように乗り込んだ貨物船で行き着いた先は人口僅か500人の小島だった。熊谷と名乗る男に使役される身となった冬子は、不気味な小屋の住人の監視を命じられる。毎日何をするでもなく、パソコンに向かって作業を続ける男。退屈な観測者としての日々が続くが、ある日忽然と男は消失してしまう。男はいったいどこに消えたのか。
講談社ノベルス創刊20周年記念「密室本」のラインナップ中の一冊。なんだか、最近このシリーズばっかり読んでるような気がする。佐藤友哉としては四作目の作品。
笹井一個の表紙絵がもう激烈に素晴らしい。『フリッカー式』を新装版で出したくなる気持ちは判る。だって、こっちの方が欲しいもん。滲み出る寂寞感と疾走する絶望感の表出。荒涼とした心象風景が目に見える形で、どうだこりゃーとばかりに切り出されていてもの凄いインパクト。講談社よ、画集とか出してくれないかな。個展でもいい。よく拾ってきたなこの人。
本編は、なんていうか、その、つまり。別にどうでもいいや。未完成品を世に出しちゃイカンでしょ>友哉クン。途中で面倒くさくなっちゃった?ここまで見苦しい言い訳を作中でするんなら、いっそこれで絶筆してくれた方が格好良いと思うんだけど、普通にまだ書いてるしなあ。それともミステリとして読むのが間違いで、私小説として読み解くべきだったのだろうか。[2003/09]
赤ちゃんをさがせ
[青井夏海] ★★★☆ 東京創元社 創元推理文庫 (\640) [Amazon]

陽奈は出張専門の新米助産婦。先輩の聡子について歩く見習いの立場だ。二人が行く先々で遭遇する不思議な事件の数々。三人の妊婦が本妻として名乗りを上げる、とある資産家の跡継ぎ争いの顛末を描く「お母さんをさがせ」。女子高生妊婦の巻き起こす大騒動「お父さんをさがせ」。相次ぐ依頼キャンセルの背後には聡子の分かれた夫の陰が「赤ちゃんをさがせ」。三編のエピソードを収録。
青井夏海の二作目。2001年に単行本版が上梓されており、2003年に刊行された文庫版が本書。ちなみにこの作家の処女作は1994年の『スタジアム 虹の事件簿』だが、これは自費出版作品。実質的なデビューはこれが創元推理文庫に収録された2001年と考えて差し支えないだろう。
二人の助産婦が経験した事件をベテラン助産婦明楽先生が解き明かすという、安楽椅子探偵モノ。創元お得意の日常の謎系。妊婦とミステリというと、松尾由美の『バルーンタウンの殺人』が想起させられるが、あちらは近未来社会でのエスエフ仕立ての作品であるのに対し、こちらはあくまでも現代社会の枠内での物語。一般人がなかなか知ることが出来ない助産婦業界ネタが新鮮でいい感じ。これは発想の勝利。全編に漂うほのぼのとしたトーンも好印象だ。[2003/09]
ランブルフィッシュ 7 亡霊殲滅編 下
[三雲岳斗] ★★★ 角川書店 スニーカー文庫 (\533) [Amazon]

正体不明の亡霊RFの暗躍によって次々と撃破されていく恵里谷の実験機たち。事態を見かねたエリート集団A班が遂に立ち上がる。SR仕様に改造されたペゼリィを駆るのは貴城史。激闘の火蓋が切って落とされる。だが、フェニックス闘専のRFウリエルの乱入で事態はより複雑な展開に。圧倒的なパワーを誇る亡霊RFに対して、恵里谷側に勝機はあるのか。
シリーズ7作目は前巻との上下巻構成。でも翌月刊行するくらいだったら二冊同時に出せばいいのに。1on1がメインだったこれまでの展開から、集団戦へと移行していく話の流れに合わせた中間エピソードとなっている。
あっさり超兵器を開発してのけたり、リアルタイムでプログラム書き換えたり、挙げ句の果てにはハード的な制約を中国拳法で打開しちゃったりと、高校生にしてはこいつらスーパー過ぎねえか、というツッコミがそろそろ必要かも。インフレ化していく敵RFに対して、そこそこのリアリティを保ちながらレベルアップを図るのはタイヘン。次回からはようやく対フェニックスのSR戦。中盤のヤマと言ったところかな。[2003/09] ⇒次巻
世界の果ての庭 ショートストーリーズ
[西崎憲] ★★★★ 新潮社 (\1,300) [Amazon]

作家のリコはパーティ会場でアメリカ人の研究者スマイスに出会う。幼い日に失踪した母は若くなる病気に罹って帰ってきた。明治の作家渋谷緑童の描く江戸の物語。江戸時代末期の国学者たち。奇妙な世界へ迷い込んだ脱走兵のたどった不思議な運命。幾編ものショートストーリーの連なりが紡ぎ出す幻想の世界。
第14回日本ファンタジーノベル大賞の大賞受賞作品。ちなみに優秀賞作品は『戒』@小山歩。副題のショートストーリーズが応募時のタイトル。刊行時に現在のタイトルに改題されている。作者は1955年生まれ。音楽制作と翻訳を生業としている。
リコという女性を起点として枝分かれしていく物語は縦横に枝葉を広げていく。本作は55章にも及ぶ短編の集合体となっている。長いエピソードでも10ページ程度。短いものは1ページにも満たない。連作短編の類かと思って読み進めていると、一向に収束する気配のない進展に当惑させられる。この作品では一度分岐した物語は二度と元の幹に戻ることは無いのだ。
美しい器に盛りつけられた懐石料理のような(食ったこと無いけど)、枯淡の味わいを感じさせる作品群。描き出されるのは端正で静謐な世界だ。広がり、拡散していく物語は、たびたび引き合いに出される「庭」という存在を、物語の連なりで表現した一つの試みではなかっただろうか。[2003/09]

カザリとヨーコは一卵性の双生児。妹のカザリを溺愛する母。遂に訪れた破局の日を描く「カザリとヨーコ」。人造人間の私が知る世界の真実「陽だまりの詩」。父と母の不仲に悩む幼き日々の葛藤「SO-far そ・ふぁー」。義弟の死を巡る謎解き「Closet」。毎日送られる恋人の死体写真にまつわる陰惨な秘密を描く表題作他、10編の作品を収録。
「小説すばる」「青春と読書」「異形コレクション」「ミステリアンソロジーII殺人鬼の放課後」に掲載された諸作品群に書き下ろしの「落ちる飛行機の中で」を加えた短編集。真っ赤な表紙は多分に『GOTH』を意識している予感。「ZOO」と「乙一」は字面をわざと揃えているのだろう。
例によって各編にコメント、と思ったけど10編は多いので適当に分類してまとめコメントでお茶を濁したい。
「カザリとヨーコ」「SO-far そ・ふぁー」は乙一お得意の少年or少女が主人公な作品。DVやら家庭内不和を絡めるのがわりと好き。虐待されてもへこたれないヨーコの不思議な前向きさ加減はいい感じ。不幸な人物が持ち合わせている奇妙に明るい諦観は乙一作品の特徴かもしれない。
「ZOO」「SEVEN ROOMS」は『GOTH』寄りの猟奇サスペンス。暗黒系乙一(通称黒乙一)の暗部が最も尖鋭化した部分がこの手の話。「SEVEN ROOMS」はスニーカー文庫収録作品なのによく角川が出してくれたなと思う。「冷たい森の白い家」「神の言葉」は微妙に分類しかねたけど、これも黒乙一の系譜に属する作品かな。ナンセンス系だったり童話めいた世界観が乙一的なトーンに良くマッチする。
「Closet」は黒乙一というには狂気が足りない、グレーゾーンのお話。ミステリとしてのオチは必ずつけてやろうという乙一らしいサービス精神が出ている。「血液を探せ!」「落ちる飛行機の中で」は乙一しか書かないようなヘンな話。それなりに面白いんだけど残念ながら特に印象に残らない。「陽だまりの詩」はハートウォームな和み系エスエフ。この本では珍しい癒し系乙一(通称白乙一)。
というわけで、グログロの黒乙一から、心温まる白乙一、そしてその中間作品までと幅広く網羅。統一感は無いのが難点だけど、いろいろ読めて楽しいという見方もある。文庫落ちしたら乙一入門者が読むにはいいかなと思う。[2003/09]
まひるの月を追いかけて [恩田陸] ★★★☆ 文藝春秋 (\1,600) [Amazon]

異母兄、研吾の恋人、君原優佳利の切り出した用件は意外なものだった。失踪した研吾の行方を共に捜して欲しいというのだ。結婚するものとばかり思っていた二人に何があったのか。優佳利の求めに応じて奈良を訪れた静。日常の時空から乖離した古都で、静は思いも寄らぬ事態に巻き込まれていく。
「オール讀物」の2001年7月号から2002年8月号にかけて6回に渡り掲載された作品を単行本化したもの。恩田陸22作目の作品。
『三月は深き紅の淵を』の1エピソード「出雲夜想曲」『黒と茶の幻想』の流れを汲む紀行モノだ。『月の裏側』やかなり苦しいけど『不安な童話』も無理矢理範疇に入れられるかな。日常の時間とは異なる旅時間のずれ、異邦人な心持ち、この不思議な感覚を描かせるとやはり巧い。「旅の始まりに感じるザラザラした憂鬱と幸福」とは言い得て至言だと思う。凡人がうまく言えない概念を、目に見える言葉にして表現する能力はいつもながら秀逸。恩田陸の描く旅の情景は本当にその場所に自分も立ってみたくなる。
雑誌連載作品ということもあるのだろうが、毎回毎回のラストの引きが凄い。全盛期の少年ジャンプ作品並だ。地味な主人公が視点の静かなトーンで推移しながらも、二転三転するジェットコースターストーリーというのはミスマッチして面白いのだが、これは少々やりすぎの感もあって、ややもすると話を安っぽく見せてしまっているのは勿体ない。なんだか火サスみたい。妙子の死はさすがにやりすぎだと思う。
雰囲気はいつもにも増して良し。変転し続けるストーリー展開も面白い。低温体質キャラの主人公静も相当好みの性格。で、ありながら★4個つけられないのは男性登場人物、というか研吾のキャラが気にくわないせいね。こういう困った君は周囲に迷惑かけずに静かに消えていって欲しい。想いの力は人の心を呪縛し続ける。強く相手を想いながらも、誰も幸せになれない。暗澹たる結末そのものはわりと好みの終わり方。このやりきれなさは奈良らしくていい(根拠の無い決めつけ)んだけど。[2003/09]
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