蜜の森の凍える女神
[関田涙] ★★★ 講談社 講談社ノベルズ (\840) [Amazon]
姉とその友人と共に高原の別荘を訪れた「僕」。しかし三人は吹雪に追われ避難してきた大学生の一行を館に招き入れる羽目になる。吹雪に閉じこめられた山荘内で、座興として始められた探偵ゲームだったが、翌朝本物の刺殺死体が発見され事態は急変を遂げる。疑心暗鬼の空気が立ちこめる中、女子高生名探偵の推理が冴え渡る。
第28回のメフィスト賞受賞作品。女子高生名探偵ヴィッキーシリーズの第一作。メフィスト系では久々にまともな本格モノだ。
「読者への挑戦」付きなのだが、不真面目なミステリ読みなので、真相を考える素振りすらせずにラストまで読了。地の文章の硬さを中学生の「僕」が書いたせいにしてしまうのはいいアイデア。新人作家はこの手を使うといいんじゃないだろうか。ヴィッキーちゃんの豪腕恐るべしである。真相そのものはありきたりだけど、「僕」の個人的事情はまるで予想出来なかったのでそれなりに満足。思わせぶりに描いてきた、五十年前に死んだ絵描きとの絡みがイマイチ弱いのが惜しまれる。[2003/11] ⇒続巻
マリア様がみてる レディ、GO!
[今野緒雪] ★★★☆ 集英社 コバルト文庫 (\438) [Amazon]
体育祭を目前にしたリリアン女学園。強豪チームの盛り上がりを余所に、今ひとつ盛り上がりに欠ける二年松組。それもその筈、このクラスの生徒はスポーツがどうも苦手らしい。成り行きからリレーの選手に立候補してしまった由乃。ボーっとしているうちに借り物競走に出ることになってしまった祐巳。遂に体育祭の当日を迎えることになるのだが……。
マリみて十三作目。なんて長閑なマリみて世界。劇的な展開などある筈もなく、まったりとしたリリアン時空がたゆたう。キャラが確立してないと、この手の話はつまらないだけなのだが、この点はさすがですな。表紙は体操服バージョンの祐巳と由乃。二人とも表情に性格が出ていてなかなかよろしい。
水面下で密やかに進行する妹争いが今後の焦点かな。ここに来て、瞳子の猛プッシュが目立つわけだが(祐巳は全然気付いてないけど)、ビジュアル可愛かったので自分的には可南子ちゃんを次のロサ・キネンシス・アン・ブゥトンに推したい。どこまで引っ張るんだろうか、年内には決着着けて欲しいぞ。[2003/11] ⇒続巻
虚空の逆マトリクス [森博嗣] ★★★ 講談社 講談社ノベルズ (\780) [Amazon]
リアルとバーチャルが等価で結ばれつつあるネットワーク社会で起きた殺人事件。その意外な真相を描く「トロイの木馬」。毎日バス停に佇む老女にまつわる悲劇を描く「赤いドレスのメアリィ」。やけに饒舌な運転手が持つ意外な秘密「話好きのタクシードライバ」。犀川と萌絵が解き明かす誘拐事件の謎「いつ入れ替わった?」。全7編を収録した短編集。
「メフィスト」を初めとして「小説推理」「小説新潮」「別冊文藝春秋」等に発表されていた作品をまとめたもの。一番需要が高そうな、犀川センセと萌絵ちゃんのラブラブ模様を読むまでには、関係ない話を六作読まないといけないので少々忍耐が必要。全体的に印象弱め。特に回文ほのぼのミステリは、性に合わなかったせいもあるけどかなり退屈。
どうでもいいツッコミながら、森博嗣はもの凄いペースで作品を出しているわけだが、本業は大丈夫なのだろうか。[2003/11]
Hyper Hybrid Organization 01-03
[高畑京一朗] ★★★ メディアワークス 電撃文庫 (\550) [Amazon] ※書影無し
訓練所の厳しい試練を通過し、晴れて秘密結社ユニコーンの一員となった山口貴久。これまでの学生生活と、悪の組織の工作員、ふたつの顔を使い分ける毎日が始まる。本部に招集された貴久は、懐かしい人々と再会を遂げるのだが、心休まる暇もなく初出撃の命が下る。そこでは予想だにしなかった非情な試練が待ちかまえていた。
シリーズ三作目。相変わらず刊行ペースが遅いばかりでなく展開も驚くほど遅い。その分丁寧に書き込まれていると考えることも出来るわけだが、完結するのが10年後なんてのは勘弁して欲しいな。牧野修だったら、ここまでの流れをきっと50頁かけずに書き終えているに違いあるまい。
前巻は女性キャラの登場が皆無という、ライトノベル的にあり得ない展開だったのを反省してか、お色気ムンムン系から、健気な美少女系までやや過剰なくらいにラインナップを揃えてきた。主人公が堅物クンだから進展はそうそうないんだろうけど、ちょっと嬉しい。ちょい役なんだろうけど看護婦の子(メガネの方)は是非再登場して欲しいな。[2003/11]
クビキリサイクル 青色サヴァンと戯言遣い
[西尾維新] ★★★☆ 講談社 講談社ノベルズ (\980) [Amazon]

絶海の中に浮かぶ島、鴉の濡れ羽島に集められた天才たち。女主人、赤神イリアが招待した五人の女性たちは、絵画、料理、科学、占術、工学、それぞれの分野で冠絶した実績をあげてきた紛れもない超人揃いだった。技術屋、玖渚友の付き添い人としてこの島へやってきた「ぼく」は、陰惨な連続殺人に巻き込まれる。次々と殺害されていく天才たち。「ぼく」は友を守ることが出来るのか。
第23回のメフィスト賞受賞作品。作者はなんと1981年生まれ。立命館大学に在学中に本作を上梓している。若くしてデビューする作家なんて、昨今珍しくもなんともないわけだが、80年代生まれと聞くとやっぱりショック。そのうち平成生まれの作家なんてのも出てきちゃうんだろうなあ。年は取りたくないものだ。
戯言シリーズの一作目。のっけから連発される「ふぃーん」とか「うにー」だとか「僕様ちゃん」なんて言葉に耐えられるかどうかがまず、この話を読み進められるかどうかの試金石。ロクに風呂にも入らない頭が脂でベタベタになってる不思議な生き物を愛せるかどうかが、この物語を愛せるかどうかの分かれ目。ここでスイッチを切り替えて、積極的にキャラ萌えしてく方向に頭をもっていかないと辛いだろう。
オチとして使われている死体の利用方法は、さすがに無理があるんじゃないのと、ツッコミを激しく入れたくもなるのだが、このぽよよんとした世界観なら許してもいいか。ラストで二度、三度と話をひっくり返して読者を最後まで楽しませようとするもてなしの心は◎。続きも揃えちゃったからガンガン読むよ。[2003/11] ⇒続巻
衝撃的な発売から一年余。あの『2典』がバージョンアップして帰ってきた。収録語数は2000語を突破。独自の文法体系。独りよがりに過ぎる意味の取り違え。芸術の域にまで達することもあるアスキーアート。難解且つ、あまりに意味不明な2ちゃん用語を2ちゃんねらーが自らの言葉で詳説。一般人には尚更わからない、深遠な領域にまで到達することに成功している(嘘)。
待望の続巻である。ネット用語というのはただでさえ、スラングが混じりやすい。ましてやネタ大歓迎の2ちゃんねるなだけに、元々の語義からは想像もつかない意味が付与されてしまう事も多い。そして驚くべきは、生まれては消えていく新語の消費スピードだろう。使われる言葉は受け継がれ、使われない言葉は消えていく。通常の言葉が長い年月をかけて深化していくところを、2ちゃんの中ではものの一晩でそれを行ってしまう。
それだけに、市民権を得て生き残り、本書に収録されるまでに至った数々の2ちゃん用語からは、厳しい淘汰をかいくぐってきた言葉だけが持つ力強さを感じることが出来る。と、いっても一年後には残ってない言葉かもしれないのだが。続編が出ると言うことは、売れていると言うことだろうから、勢いが続く限り年一回は刊行して欲しい。いずれは、消えた言葉リストなんてのも巻末に付くと面白いと思う。最後に一つだけ苦言。校正くらいちゃんとやってくれ。誤字だらけだよ。[2003/11]
四季 夏 [森博嗣] ★★★ 講談社 講談社ノベルズ (\800) [Amazon]
13歳になった真賀田四季。圧倒的な才能は徐々に世に知られ出し、早熟な天才の力を求めてさまざまな人々が群れ集まるようになる。実の叔父である、新藤清二への思いを募らせていく四季だったが、二人で訪れた遊園地で彼女は突如誘拐されてしまう。意外な誘拐犯の正体は?妃真加島での惨劇に至る真実が今明らかになる。
「犀川&萌絵シリーズ」及び「Vシリーズ」に登場する天才科学者真賀田四季博士の少女時代のお話。四部作の二巻目。予想通り二巻目は「夏」である。このまま「秋」「冬」と続くのではないかと想像。保呂草クンや、瀬在丸さん、林警部に七香女史の不倫カップル、ちょい役ながらへっくんも登場。既存作品のファンを喜ばせてくれる。この四季シリーズは、既存2シリーズ間のミッシングリンク的なエピソードになるのだろう。
真の天才だ!神に最も近い人間だ!と、四季の持ち上げ方がやりすぎの感があってやや萎える。天才様ってのは実際こういうもんなの?で、もう少し時間をかけるかと思っていたけれど、早くも妃真加島編に突入。展開早いな。ひょっとして「秋」や「冬」では『すべてがFになる』と『有限と微少のパン』間の潜伏期間まで描いてくれるのだろうか。森博嗣は執筆ペース早いから、年明け早々には次が読めそうだな。[2003/11] ⇒次巻
クレオパトラの夢 [恩田陸] ★★★☆ 双葉社 (\1,400) [Amazon]
北の街、H市を訪れた神原恵弥。不倫の果てに東京を去った、双子の妹、和見を連れ戻すことが目的だった。しかし到着早々、和見の不倫相手の大学教授は、既に死亡していることが判明する。それは事故なのか、殺人なのか。謎の組織による追跡。失踪した和見。そして恵弥の真の目的、クレオパトラとは何なのか。
「小説推理」2002年7月号、9月号、11月号、2003年1月号、5月号、7月号に連載された作品を加筆修正の上、単行本化したもの。神原恵弥が登場する作品としては他に『MAZE』がある。装丁は表紙を透明にしてしまった『MAZE』程は凝っていないが、ある程度それを意識した造りになっていて、同系統のデザインで暖色系の配色となっている。
恩田陸旅情サスペンスシリーズ北海道編である。H市(函館)と札幌が舞台。冬の街を舞台に繰り広げられるスパイアクション。『MAZE』の内容を半分忘れていた自分としては、神原恵弥がそういうキャラであるということをすっかり忘れていたがために、途中まで作品の性質が把握出来なかった。防衛庁が出てくるに至って、ああ、そういう話なのかとようやく得心しつつも激しくずっこけた。なんだか似合わないなあ。
凍てつく北の夜。静まりかえった街。旅情豊かに描かれる函館の情景は関東人としてはいたく刺激される部分。茫漠とした北の大地の描写は、兄妹でありながら、いつしか遠い関係になってしまった恵弥と和見の姿を想起させられる。作品内容に合わせて舞台を選んでいるのか、舞台に合わせて作品内容を合わせているのかわからんけど、いつもながら上手い。やっぱり北海道は冬に行かなきゃダメだな。[2003/11]
乙女軍曹ピュセル・アン・フラジャーイル
[牧野修] ★★★☆ 朝日ソノラマ ソノラマ文庫 (\533) [Amazon] ※書影無し
宇宙標準暦10414年。自らの生み出した擬人種の反乱により、人類は絶滅の危機に瀕していた。惑星ドンレミの敬虔な少女ピュセルはある日神の啓示を受け目覚める。滅び行く人類を救うため、ピュセルは惑星オルレアンを目指して旅立つ。立ちはだかるのは敵の最精鋭、巳組の羊頭狗肉兄弟。果たして少女は世界を救うことが出来るのだろうか。
2003年作品。書き下ろし。ピュセル(la Pucelle)とはフランス語で乙女の意味で、かのジャンヌ・ダルクの別称でもある。惑星ドンレミの少女が、王を探しあて、惑星オルレアンに向かうわけで、どう考えてもこれは牧野修的なジャンヌ伝なのであろうと推測。手垢のついたこのネタをいかに換骨奪胎しのけるかが見所なわけだ。
さすがは鬼畜牧野。自ら剣を取り戦うピュセル。屍山血河の中で燦然と輝く少女の聖性が美しい。超スピーディな展開(人死にすぎ)と、胡散臭げなSFギミック(記述式無限選択航法万歳!)、知性ゼロな敵キャラの存在(兄貴〜)も素晴らしく、なかなかの佳作に仕上がっている。イラストが羽住都なのも正解だ。
でも、改造されて人ではなくなるヒロイン。自在に変形する犬型の生命体。人類によって生み出されたボスキャラ。実はこれ『新造人間キャシャーン』のパロディでもあったりして。[2003/11]
義元謀殺 上・下 [鈴木英治] ★★★☆ 角川春樹事務所 (各\1,900) [Amazon:上巻/下巻]
天下に最も近い男。駿遠三の太守、今川義元を暗殺せよ。織田家の武将、簗田弥次右衛門の密命を受けた忍者、山路甚平は一党を率いて駿府へと乗り込む。今川家家臣を襲う凄惨な皆殺し劇。しかしそれは義元謀殺に向けての遠大な計画の序章に過ぎなかった。家中きっての遣い手、多賀宗十郎は周到に張り巡らされた陰謀の真相を見抜くことが出来るのだろうか。
第一回角川春樹小説賞の特別賞受賞作品。2000年刊行。著者は1960年生まれ。早々と二回目で休止状態になってしまっている角川春樹小説賞出身というのは、作家業の振り出しとしてはどうなんだろう。少々気の毒な気もする。ここ以外からも何冊か作品を出しているので、それなりに作家としては続いている模様。
戦国時代を描いた作品は数多くあれど、今川視点の物語は珍しい。日本史上屈指の有名人織田信長の引き立て役に甘んじてしまった史実もあり、文弱、やる気無し、公家大名とイメージ散々な今川家。それでもこれほどの大名家なのだから、骨のある武将が当然居てもいい筈。というわけで登場するのが主人公の多賀宗十郎。剣の達人で、領民思いで、女にもモテモテ。腐敗臭漂う家中にあって、孤軍奮闘するその姿が格好良い。
それにしても、今川義元って桶狭間の合戦で討ち死にするわけだから、そもそも謀殺ってどういうことなのよ、なんていう疑問が読み手には当然浮かんでくると思うのだが、徐々に明らかにされていく恐ろしく手の込んだ謀略の数々には驚かされること必至だ。時代小説でありながら、ミステリ的な楽しみ方も出来る。幾重にも張り巡らされた罠を全て切り抜け、義元を守り抜いたかに見えた主人公。しかし全ては義元を桶狭間へ誘い込むための壮大な陥穽であったと知れた時の心地よさが格別。
マイナス点としては、あまりに計画が複雑過ぎて、普通に考えたら成功確率がほとんど無さそうなこと。催眠術の存在も都合良すぎ。加兵衛の正体はバレバレなんだけど、爽やかナイスガイなのでこれは許す。宗十郎との対決シーンが最後に用意されていなかったのは返す返すも残念。
ともあれ、800頁超の長さを感じさせない、エンタメ性の高い作品に仕上がっていることは間違いの無いところなので、デビュー作としては十分過ぎる出来。他の作品も手に入ったら読んでみようと思う。[2003/11]
七人の迷える騎士
[関田涙] ★★★ 講談社 講談社ノベルズ (\1,000) [Amazon]
更衣室に仕掛けられた奇妙な密室。子猫の死体と奇怪な暗号文は何者かの残した警告なのか。果たして、一年後に起きた連続殺人事件は、平和な校内を争乱の坩堝に叩き込む。白雪姫の見立て通りに進んでいく殺人。犯人、スノウ・ホワイトの目的は何なのか。美少女名探偵ヴィッキーの名推理が冴え渡る。
ヴィッキーちゃんシリーズ第二弾。今回も挑戦状つき。相変わらず理屈で読んでないので、トリック関連はサッパリ判らないながらも、ジェンダーに関するネタが頻繁に出てき過ぎるのでなんとなくオチの予想がついてしまう。もうちょっとさりげなく伏線を織り交ぜられるようになると、この人はもっと良くなると思う。
でも、一番最初の更衣室の事件があまりにひねり過ぎなのではないかと。この時点ではヴィッキーの探偵スキルは世に知られていなかったわけで、誰にも気付いてもらえないままスルーされていた可能性が高いんだけど。それでも良かったのか>犯人。[2003/11] ⇒続巻
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