
19世紀半ば、アヘン戦争の後に築かれた香港の九龍城塞。イギリスによる香港支配。日本軍による占領期間を経て、その城壁は破壊されてしまったが、戦後その一画は様々な人々が住み着き無法地帯と化していく。2.6ヘクタールの敷地内に、300棟以上のビルが林立し、最盛期には5万人が暮らしていたとされる、混沌の地「九龍城」の最後の姿を捉えた写真集。
1997年刊行。九龍城一帯は香港の中国返還に伴い、1993年より解体が始まり住民も強制立ち退きの処分を受けてしまう。本格的な解体の前に無人の九龍城に入り撮影されたのが本書に掲載されている写真の数々。九龍城探検隊は建築設計、都市開発等に携わる人々を中心に構成された日本人グループ。監修を、同グループの一員でもある、慶応の文学部教授、可児弘明が務めている。
法的規制なんてものを全く無視して、手当たり次第にビルを建てまくり、それを無理矢理連結し、壊しては造り、上下左右あらゆる方向に無秩序に貪欲に浸食し続けて完成したまさに魔窟と呼ぶに相応しいその姿が圧巻。一般住居はもとより、工場、ストリップ小屋、もぐりの病院、幼稚園、教会まで、およそ考えつくたいていの施設はこの中に全て揃っていると言っても過言では無い。九龍城の断面図をイラスト化したマップがこれまたよく出来ていて面白い。惜しむらくは、写真がもうちょっと欲しかった。全体で40頁しか無いんだよこの本。[2004/03]
チェックメイト 前編・後編 ブラックキャットIV
[新井素子] ★★★ 集英社 コバルト文庫 (\495/\514) [Amazon:上巻/下巻]
怪盗ブラックキャットの引き起こした"海の涙"強奪事件は、微妙な波紋を世界に及ぼしていた。キャットの挑戦を受け、ついにあの男が日本に降り立とうとしていた。なんとかして千秋だけは巻き込みたくないと画策するキャットと明拓だったが、二人の懸念を余所に、究極のトラブルメーカー山崎ひろふみを巻き込みつつ、事態は混迷の度合いを増していく。
ブラックキャットシリーズ最終作。2003年作品(奥付は2004年だけど、店舗に出たのは2003年の年末だった)。2巻から3巻が出るまでに9年。そしてこの最終巻を待つこと更に9年。1巻が出たのが1984年だから、なんと完結に至るまでに19年。コバルト文庫的にも、ライトノベル的にも、いや一般的な小説としても、およそあり得ない状況だ。最初からの読者がもうキャットの歳を越えてるんだが、どうしてくれるよこの憤りを。千秋的な被保護者の目線で読み始めていたのに、シリーズ通して読み終わってみればキャットや明拓よりも更に上の目線で物語を俯瞰している感じ。歳は取りたくないな。
他作品に比べて、特に強いテーマやメッセージが込められているわけでもなく、気軽にサクっと読み切ってしまうタイプ。ジャンル分けも困難なまさに「お話」と呼ぶしか無いような作品。ここまでのほほんと進んできた作品だけに、ラストでいきなりシビアな展開にはならないだろうと予想はしていたけど、あまりにおざなりな追走劇に萎えたのは事実。国際組織がそんな適当に重要事項を処理しちゃいかんだろ。なんてツッコミ入れるのも野暮なんだろうなあ。ちゃんと完結したことは評価してあげないといかんのだろうけど。[2004/03]
ヒトクイマジカル 殺戮奇術の匂宮兄妹
[西尾維新] ★★★ 講談社 講談社ノベルズ (\1,200) [Amazon]

春日井さんが街で拾ってきた行き倒れの美少女の名は匂宮理澄。職業、名探偵。殺し名第一位「匂宮」との出会いが戯言使いこと"いーちゃん"に新たなる運命をもたらすことになる。不死を研究し続ける木賀峰助教授と、その実験体である円朽葉。高額の報酬に誘われて雇われの身となった戯言遣いを襲う凄惨な悲劇と苛烈なる惨劇。
シリーズ五作目。リバーシブルな表紙カバーがネタバレでありながら、ひっかけにもなっているところがウリ。折り返しがやけに長いから何かと思ったよ。デフォルト状態が拘束衣というインパクト十分の新キャラ匂宮兄妹が登場。いつものことながら、この作家はキャラを立てるのがメチャクチャ巧い。
でも、そんなことはどうでもいいんですよー!姫ちゃんにあんなことするなんて、どういうことですか!!あんた鬼ですか!血も涙も無いですか!うわーんですよ。花も実もあるうら若き乙女相手に、情けは人のためならず、急いては事をし損じるですか!意外に難しい姫ちゃん文体で書いてるの疲れちゃったけど、とにかく読者的には怒り爆発ですよ!
全国100万人(推定)の姫ちゃんファンの激怒と慟哭を誘ったに違いない今回。ここまで読み手の感情を釣り出せれれば作者的には大成功なんだろうね。これほどのキャラを惜しげもなく切ってくるとは、西尾維新はやっぱり侮れない。真の敵?の登場を華々しく演出するには実に効果的。これで一通りシリーズ読み終わってしまったので(外伝はあるけど)、あとは新刊を待つのみか、いーちゃんの抱える秘密が何なのかもの凄く気になる。[2004/03] ⇒次巻
四季 冬 [森博嗣] ★★★ 講談社 講談社ノベルズ (\800) [Amazon]

天才として生まれ、幼い頃より神童として崇められてきた真賀田四季博士。各務亜樹良、保呂草との出会い。十代での妊娠。そして妃真加島での惨劇。両親の殺害から長きに渡る幽閉生活。犀川と萌絵との邂逅を経て、自由の身となった彼女のその後の足取り。常人からあまりに隔絶した超人が最後にたどり着いた境地とは。シリーズ完結編。
「犀川&萌絵シリーズ」及び「Vシリーズ」に登場する天才科学者真賀田四季博士の物語。四部作の最終巻。
結論から書こう。凡人には天才はわからない。「秋」までは、従来シリーズのファンサービスとして、人気キャラをてんこ盛りで再登場させ、読み手を喜ばせてくれた森センセなのだが、最終作の本巻ではうって変わって、エンタメ性を一切放棄。意味不明な散文詩を書き連ねることに終始。これって、余程のマニアでないとついていけないのでは?ネットの情報を斜め読みするところでは、どうやら他シリーズにリンクしているらしいのだが、読んでいないこちらが悪いのか。美しく物語は閉じているのだが、読み手には疑問符だけが残った作品。しんどかった。[2004/03] ⇒春/夏/秋
失はれる物語 [乙一] ★★★☆ 角川書店 (\1,500) [Amazon]

空想上の携帯電話で出会った二人の物語を描く「Calling You」。交通事故により、全身麻痺となってしまった男の運命「失はれる物語」。他人の受けた傷を自らに写すことが出来る不思議な少年の話「傷」。不可解な死を遂げた女子大生。高校生の僕がたどり着いた意外な真実とは……「マリアの指」他、六編を収録した短編集。
2002年刊行。既刊である『きみにしか聞こえない』『さみしさの周波数』『失踪HOLIDAY』の中から五作品を抜粋、更に書き下ろしを一編(「マリアの指」)を加えて、単行本化したのが本書。
表側は白地に水色の文字でタイトルを表記。水滴を模したビニールコートが各所に散りばめられており、水滴と重なった部分は色を滲ませる加工が施されている。そして裏面はリストの「3つの演奏会用練習曲〜『ため息』」の冒頭部分が刷り込まれているのだが、水滴と重なった部分は透けて見えるという念の入った工夫が凝らされている。旧作を無理矢理まとめてハードカバーで出そうなんていう試みだから、出来るだけ豪華な装丁にしたいという心づもりはあったのだろうけどヤリスギ。ファンなら買っとけ的な、豪華愛蔵版としては文句のつけようの無い出来になっている。
ハートウォーミング寄りの作品を集めた白乙一の作品集。『GOTH』の横に並べると違和感バリバリである。他の五編は既読なので感想を省略するとして、「マリアの指」だけ書いておこう。どういうわけか、この作品だけ系統としては、黒乙一が入った猟奇趣味の作品。最後にスパイスを効かせようとしたのか、それとも『GOTH』から入った非ライトノベルユーザーへの配慮なのか気になるところ。判りやすいオチの話ではありながらも、人間の後ろ暗い情熱への憧憬と嫌悪が渾然一体となっていて、いかにもこの作家らしい作品になっている。[2004/03]
池袋ウエストゲートパーク
[石田衣良] ★★★☆ 文藝春秋 文春文庫 (\543) [Amazon]

正体不明の首絞め魔"ストラングラー"。仲間を殺された真島誠が、友人たちの手を借りて次第に犯人を追いつめていく表題作。中学時代の友人と共に失踪したヤクザの娘を探す「エキサイタブルボーイ」。出稼ぎイラン人と麻薬密売人を巡る冒険を描く「オアシスの恋人」。街を二分した一大抗争の顛末を綴る「サンシャイン通り内戦」。四編の連作短編集。
1998年に単行本として刊行された作品の文庫版。表題作は1997年のオール讀物推理小説新人賞の受賞作品。2000年に演出/堤幸彦、脚本/宮藤官九郎の豪華コンビでテレビドラマ化されヒット。これで一気に知名度が上がった模様。
ハードボイルド風味の作品でありながら、主人公を少年以上、オトナ未満の微妙な年代に設定していること。これがまず成功。本作は青春小説でありながら、マコトの成長物語の側面も併せ持っている。そして舞台に選んだのが、新宿でも渋谷でも六本木でも無く、意外にも手つかずのままだった池袋。これがまた新鮮でいい感じ。とても良くバランスが取れた作品という印象を受けた。仄かな抒情すら感じさせる残酷な結末が美しい。[2004/03] ⇒次巻
秘密結社でいこう!
[伊豆平成] ★★☆ 角川書店 角川スニーカー文庫 (\495) [Amazon]

叔父の死により、悪の秘密結社<UNCLET>を相続することになってしまった主人公。しかし、直後に本部は自爆装置が働いて爆発炎上。残った幹部四人は曰く付きの問題児ばかりだった。アンドロイドの秘書、半獣人の戦闘指揮官、改造人間、車椅子のマッドサイエンティスト、人間ですらない不定形生物……。世界征服に向けての不毛な戦いが始まろうとしていた。
ゲームタイトルのノベライズであった『快刀乱麻』シリーズ、オリジナル新作の『PATORONE』シリーズに続く、伊豆平成の新シリーズは秘密結社モノ。『PATORONE』に比べると設定はライトなものになっていて、本来のスニーカーの読者には入りやすいのかもしれない。それでいて、お約束な戦隊モノ的パロディが豊富に盛り込まれているので、オールドな読者にも喜ばれそう。とはいえ、先が見えすぎる展開、ドタバタに終始する内容の軽さは、マイナスポイント。主人公のキャラも『快刀乱麻』の人と被ってるし。期待していたわりにはイマイチ。[2004/03]
少年計数機 池袋ウエストゲートパークII
[石田衣良] ★★★ 文藝春秋 文春文庫 (\514) [Amazon]

ただひたすら数を数え続ける少年ヒロキ。女優の母とヤクザの父を持つ彼にまつわるやるせない誘拐事件の一部始終を描く表題作。ストーカーに付きまとわれる、インターネットの覗き部屋の売れっ子アスミの物語「妖精の部屋」。バイクひったくり犯を巡る奇妙な老人たちとの出会いを綴る「銀十字」。連続風俗店襲撃事件、その意外な結末「水のなかの目」。計四編を収録。
2000年6月に単行本が刊行されており、本書はその文庫版。最後の一編だけが書き下ろしで、それ以外は「オール讀物」への掲載作品。池袋ウエストゲートパークと題された、真島誠シリーズの第二弾。
性転換したかつての女友達や、特殊な障害を抱える小学生、昔気質の老人二人組、女子高生監禁殺人事件犯と、世相を反映させたかのようにユニークな登場人物たちが数多く登場し飽きさせない。しかし、マコト君がそろそろスーパーな存在になりすぎているきらいがあって、あまりにご都合主義に物語が展開してしまうのは勘弁して欲しかった。重要人物が軒並みマコトを信頼してくれたり、偶然調べていた事件が、実は事件の真相に迫っていたなんてのは、ちょっと調子良すぎだ。これで☆一個マイナスで。[2004/03]
零崎双識の人間試験
[西尾維新] ★★★ 講談社 講談社ノベルズ (\1,300) [Amazon]

平凡な女子高生だった筈の無桐伊織に、秘められた才能が開花する。それは"殺し名"第三位、零崎の血族に連なる資格、殺人鬼の素質の顕現であった。そんな彼女の元へ、零崎に敵対すべく現れた早蕨の三兄弟が立ちはだかる。長兄、零崎双識は大鋏"自殺志願(マインドレンデル"を引っさげ彼らに対峙する。闇の一族同士の凄惨な暗闘に伊織は巻き込まれていく。
戯言遣いシリーズの外伝作品。講談社BOOK倶楽部に2002年12月から2003年5月にかけて連載されていたものを加筆修正の上ノベルズ化したもの。おまけでCD-ROMが同梱されており、本作に因んだスクリーンセイバー、アイコン、壁紙のデータが収録されている。っていうか、これいらないだろ。本書より遙かに分厚い『クビシメロマンチスト』が\980。それと比べても\300以上も高いじゃん。講談社、最近この手のおまけ商法大好きのようだけど、限度をわきまえて欲しい。せめてCD無し版を出して欲しかった。
今回はミステリ的な要素は極力取っ払って、少年マンガ的な対戦型格闘をメインに据えた構成になっている。零崎一族は、当面双識以外は役立たずなので、早蕨家VS双識の構図で物語は進んでいく。『クビツリハイスクール』でも楽しませてもらったことだけど、ケレン味に溢れた戦闘シーンの数々は、この作家とは相性が良いようで、持ち前のテンポの良い語り口と相まって、それぞれの対戦がなかなかに魅せる展開になっている。いーちゃんの出てこない戯言シリーズなんて許せない!やっぱりあのぐだぐだした語りがないと気分が出ない!と、最初はやや構えて読み始めたけど杞憂に終わったようだ。三人称でもちゃんと描けるね。[2004/03] ⇒次巻
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