暮葉家は江戸で代々続く富貴の家柄。しかしかつての大身代は七代に渡って蕩尽され、現当主左近に至ってはその日の酒にも事欠くありさま。とうとう一文無しになり、世をはかなんで死を選ばんとしたその時、蓬莱酔八仙人の一人鉄拐李に救われ、酒仙への道を歩むことになる。その行く手には、邪悪な<魔酒>を広めんとする悪徳業者三島業造が立ちはだかるのだが。
第五回の日本ファンタジーノベル大賞の優秀賞受賞作品。この年のファンタジーノベル大賞は当たり年で、大賞は佐藤哲也の『イラハイ』。選外の最終候補作で小野不由美の『東亰異聞』、恩田陸の『球形の季節』が出ている。
豊富な教養に裏打ちされた小気味よくも洒脱な物語。酒仙となった左近が、世界を救うために悪役の三島豪造と対決するというメインストーリーはあるのだが、そんなことは実はどうでもよかったりする。古今東西の極上の銘酒を極上の肴を味わいながら、呑んで呑んで呑みまくる事。この物語では何よりも増してこの部分に重きを置いている。読んでいるだけでほんのりアルコールが回ってきそうな、読み手の酔覚を激しく刺激する一冊。下戸のわたしでもこれだけ、美味しそうなのだから、酒飲みだったらきっとこれは堪らないはず。[2004/04]
マリア様がみてる チャオソレッラ!
[今野緒雪] ★★☆ 集英社 コバルト文庫 (\419) [Amazon]

リリアン女学園の二年生にとって、待ちに待った修学旅行の日がやってきた。それぞれのスールとの別れを惜しむ間もなく、慌ただしくイタリアへと旅立った、祐巳、由乃、志摩子の三人の薔薇たち。しかし、出発早々空港で前ロサ=ギガンティアを目撃したとの噂が飛び交い、旅のスタートは波乱含みに!?三人をイタリアで待っていた意外な人物とは……。
マリみて十五作目。こういう言い訳めいたあとがき読んでしまうと、生身の作者が透けてみえてしまって幻滅しますですな。
巻を追うごとにストーリーがもの凄い勢いで希薄になっていくわけなのだが、これもまたキャラクター小説の一つの到達点ということか!(半分切れ気味)。お上品にイタリア各地を観光してまわられるリリアンの少女たちの旅の徒然を、淡々と追い続ける202ページ。予想通り、ロサ=カニーナが出てきてくれたことが唯一の救いか。イタリアに取材旅行に行っちゃった喜びを、取り急ぎマリ見てにしてみました、、ってくらいの内容。いつになったら妹選び編に突入するのだろうか。[2004/04] ⇒次巻
こちら郵政省特配課
[小川一水] ★★★ 朝日ソノラマ ソノラマ文庫 (\530) [Amazon] ※書影無し
民間業者との熾烈なシェア争いに一石を投ずべく、郵政省は画期的なサービスを開始した。法に抵触しない限り、どんな荷物でも採算度外視かつ最速で配達する。かくて、新設された特配課には一癖も二癖もありそうな人物ばかりが集められた。フェラーリから、航空機、専用新幹線に至るまで、最強の装備を駆使して郵政業務に邁進する課員たちの活躍を描く。
1999年作品。2003年に『第六大陸』でブレイクした感のある(読んでないけど)小川一水。それじゃあということで、まずは古本で手に入った本作から読んでみよう。
苦屈折気味だけどやるときはやる主人公に、美人だけど滅法気の強いヒロイン、昼行灯っぽいけど実はやり手の上司、曰くありげな偉い人たちと、判りやすいキャラクター配置に、適度にケレン味の効いたありえない郵政省描写が加わって、それなりに楽しめる作品構成にはなっている。が、設定も内容もありがち過ぎて、だから何?という域は超えていない。うーん、普通だ。こんなものなのか。もう二三冊読んでみるか。[2004/04] ⇒次巻
消えた女官 マルガ離宮殺人事件 グインサーガ外伝18 アルドナリス王子の事件簿1
[栗本薫] ★★☆ 早川書房 早川文庫 (\560) [Amazon]

マルガの湖畔でひっそりとくらすナリスとディーンの兄弟。しかしふたりのしずかな生活をおびやかす事件が発生する。なぞめいた口承とともに、つぎつぎと姿を消していく女官たち。彼女たちは水蛇神リーガのいかりに触れてしまったのか。事件の解明にのりだしたナリス王子の大活躍を描く。シリーズ外伝作品。
やっと死んでくれたかと思ったナリナリだが、多くの読者の予想通り外伝で復活。しかも「アルド・ナリス王子の事件簿1」だってよ。これでどうでもいい、ナリナリサーガが延々と続けられるシステムが完成したわけだ。印象批判ならぬ、印象推理で「……と思うんだよねリギア」ってなくらいのノリで、イマイチ適当な論拠のまま強引にラストまで持って行かれる。ミステリと言ってしまうにはあまりにミステリに申し訳ない一冊。事件簿2がすぐにでも出そうで嫌だなあ。[2004/04] ⇒次巻
黄昏の百合の骨 [恩田陸] ★★★☆ 講談社 (\1,700) [Amazon]

「自分が死んでも、水野理瀬が半年以上ここに住まない限り家は処分してはならない」そう言い残して逝った祖母。かくして白百合荘を訪れた理瀬だったが、"魔女の館と近隣に噂されるこの館では奇怪な事件が続発していた。この家に隠された秘密とは何なのか。先客の二人の叔母、梨南子と梨耶子。そして遅れてやってきた二人の従兄弟、亘と稔。五人の想いが錯綜する中で事件は起こった。
2004年刊行。「メフィスト」誌2002年5月号から2003年9月号にかけて連載されていた作品を単行本化したもの。『麦の海に沈む果実』に登場していた水野理瀬が登場し、再度主役を務める。本書だけ読んでも十分読める内容になってはいるが、『麦〜』は読了してから本書に臨みたい。更にそのルーツともなっている『三月は深き紅の淵を』も出来れば読んでおきたい。全三部作の予定で、最終巻と思われる三作目のタイトルは『薔薇のなかの蛇』。
限定された時と場所で繰り広げられる虚々実々の心理ゲームは恩田作品の基本パターンだが、本書では理瀬の祖母が残した白百合荘という館での一連の騒動が物語られている。比較的キャラクター先行の作品が少ないこの作家にとって、珍しくキャラが立った作品。二人の叔母や、友人の朋子との駆け引きや暗闘がなかなか毒々しくて良い感じ。綺麗で強い、でもかよわくないヒロイン像ってのは実にいいと思う。
良くも悪くも学園という名の檻で守られていた理瀬が、現実の世界へと足を踏み入れたわけで、むき出しの悪意や欲望と対峙してみせるその姿は美しくもあるが、切なくもある。少女という属性を喪失し、無垢なもの純粋なものと訣別し、「一族」の一員として生きていく厳しい選択を自ら選び取ったその理由は何なのか、多くは未だ語られていないのでそれは今後の展開に期待したい。[2004/04]
帝都東京・隠された地下網の秘密[2]
[秋葉俊] ★★★ (\1,600) [Amazon] ※書影無し
東京の地下に潜む戦慄すべき秘密を白日の下に晒けだした前作から一年余。更なる驚愕の真実が明らかになろうとしていた。江戸時代にまで遡り、地下網の淵源をひもときつつ、明治から昭和にかけて行われた極秘事業の全容を暴き出す。パリ、満州、そして東京。1-8計画に隠された真実とは?政府がひた隠しにするその秘密とは何なのか。
前作は思いの外売れたようでなんと第二弾である。もう徹底的にネタ路線で今回は突き進むことに筆者は決意を固めたようで、徹頭徹尾胡散臭さ満点である。このケレン味がたまらない。MMRのキバヤシクンも真っ青なオープニングトーク「あなたは、ジャーナリストが決して入ってはならないところに、足を踏みいれてしまった」は掴みとしてはまずまずの部類だろう。
限りなく嘘くさいけど、ひょっとしたらそんなことがあってもおかしくないかも。という微妙なラインで筆を止めていた前作に比べると、いくらなんでもそりゃ無理なのではという畏るべき「真実」が本巻では次々と判明していく。家康の時代から大規模な地下網が東京にあったって言うのはどう考えても無理っぽいし、地下鉄のコース取りが、ダイヤモンド型になるのは、満州の某都市の影響云々というのも眉が唾でべとべとになりそうな話だ。ネタとして読む分には十分面白いので、この際だから講談社はこの作品のマンガ化を是非薦めて欲しい。もちろん掲載誌は週刊マガジンで。[2004/04]
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