2004年8月

おおっ、久しぶりの20冊。全てはトリブラのおかげ。
感想書くのが大変だったよ……。

書籍名
作家名
出版社
価格
コメント
お薦め度
新魔導物語1
アルルとおとぎの国
山本剛 角川書店 \544
ほんわか。
★★☆

新魔導物語2
ルルーと愛の日々

山本剛 角川書店 \520
ルルー派には嬉しい一冊。
★★☆

新魔導物語3
シェゾと悪の華

山本剛 角川書店 \480
スマン、シェゾってよくわからん。
★★☆

響ヶ丘ラジカルシスターズ

井上剛 朝日ソノラマ \552
ちょっと中途半端。
★★★

冷たい校舎の時は止まる 下

辻村深月 講談社 \820
学園モノの秀作に。
★★★★
猫語の教科書 ポール・ギャリコ 筑摩書房 \580
古き良き時代のネコ飼い向け。
★★★

ランブルフィッシュ
あんぷらぐど

三雲岳斗 角川書店 \590
初の短編集。
★★★

UNKNOWN

古処誠二 講談社 \740
あんのんと読みます。
★★★

飛蝗の農場

ジェレミー ・ドロンフィールド 東京創元社 \1,060
飛蝗にもっと活躍の場を!
★★★☆

トリニティブラッド
Rage Against the Moons
フロム・ジ・エンパイア

吉田直 角川書店 \514
ご冥福をお祈りします。
★★★
トリニティブラッド
Reborn on the Mars
嘆きの星
吉田直 角川書店 \514
ブダ・ペスト萌えで。
★★★

トリニティブラッド
Reborn on the Mars II
熱砂の天使

吉田直 角川書店 \533
異端審問官のイメージが。
★★★

トリニティブラッド
Rage Against the Moons II
サイレント・ノイズ

吉田直 角川書店 \514
RAMの方が口絵が多くて得した気分。
★★★

トリニティブラッド
Reborn on the Mars III
夜の女皇

吉田直 角川書店 \571
セスというネーミングも分かりやすすぎる。
★★★

トリニティブラッド
Rage Against the Moons III
ノウ・フェイス

吉田直 角川書店 \514
パウラちゃん萌えで。
★★★
トリニティブラッド
Reborn on the Mars IV
聖女の烙印
吉田直 角川書店 \571
エステル野望への第一歩。
★★★

トリニティブラッド
Rage Against the Moons IV
ジャッジメント・ディ

吉田直 角川書店 \533
パウラちゃんのスーツ姿に萌えておくべき。
★★★

トリニティブラッド
Reborn on the Mars V
薔薇の玉座

吉田直 角川書店 \571
カイン登場。
★★★

トリニティブラッド
Reborn on the Mars VI
茨の宝冠

吉田直 角川書店 \590
エステル、位人臣を極める。
★★★

トリニティブラッド
Rage Against the Moons V
バード・ケージ

吉田直 角川書店 \571
ケンプファーの正体が笑える。
★★★

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新魔導物語1 アルルとおとぎの国
[山本剛] 
★★☆ 角川書店 スニーカー文庫 (\544) [Amazon] ※書影無し

4歳の誕生日を迎えたアルル。彼女の父親はガイコツ魔導師との戦いで不帰の人に。落ち込むアルルを慰めようと、一計を案じた彼女の祖母は古い物語の書かれた本をプレゼントする。高名な南の賢者から貸し出されたというその本には不思議な力が!いつしか本の中の世界、「おとぎの国」へと彷徨いこんでしまうアルルだったが……。

1996年刊行。ノベライズ第二シリーズの一作目。第二シリーズはオリジナルのゲームの『魔導物語ARS』に準じていて、4歳のアルル(A)、16歳のルルー(R)、14歳のシェゾ(S)をそれぞれ主人公にしている。一作目の本編は主人公が4歳のアルルってことで、童話タッチのですます調で物語が進行していく。無理矢理な展開も、この世界観ならありかな。[2004/08] ⇒次巻

新魔導物語2 ルルーと愛の日々
[山本剛] 
★★☆ 角川書店 スニーカー文庫 (\520) [Amazon] ※書影無し

愛しのサタン様の訪問を目前に控えて準備に余念が無いルルー。しかし、ある朝目覚めると何故か彼女は子供の姿に!どうやら吸血伯爵から送られたベッドに原因があるらしいことを突き止めたルルーは単身伯爵の城へと乗り込む。しかし、途中で出会ったシェゾから突然の愛の告白を受けその心は乱れる。果たして元の体に戻ることは出来るのだろうか。

1997年刊行。第二シリーズの二作目。これまでアルルの陰として虐げられてきたルルーを主人公とした作品。なのでアルルの出番は控え目。個性的なキャラクターの多い作品だから、こういうのもアリだろう。せっかく子供サイズになってしまったのだから、どうせならそれで最後まで話を引っ張ればいいのにと思ったけど、途中であっさりその問題は解決してしまって肩透かし。とにかく全編ルルー尽くしなので、ファンとしては嬉しい一冊かもしれない。[2004/08] ⇒次巻

新魔導物語3 シェゾと悪の華
[山本剛] 
★★☆ 角川書店 スニーカー文庫 (\480) [Amazon] ※書影無し

悪の魔導師シェゾ・ウィグィィの物語。幼い日、迷い込んだ廃都ラーナの遺跡で彼は古の大魔導師ルーンロードに出会い"悪"への道を踏み出すことになる。闇の剣を手にしたシェゾだったが、剣は主の元を離れて行方不明に。動転した彼は剣を求めて彷徨うのだが、そのときルルーの元にもう一人のシェゾが現れる!一体シェゾに何が起こったのか。

1997年刊行。第二シリーズの三作目。主人公が主人公だけに、本作は比較的シリアスノリで、やや凝った構成になっている。で、ゴメン。ARSやってないのでどうもシェゾ・ウィグイイに詳しくなかったりして。「お前が欲しぃぃ」とか言いながらアルルに迫ってくる変態さんというイメージしか無いんだけど。こうして本が出るくらいなのだから、きっとそれなりにファンがついていたのだろうと想像。ともあれ、これで第二シリーズ完結。だがこのシリーズ、まだまだ続くのだ。[2004/08]

響ヶ丘ラジカルシスターズ
[井上剛] ★★★ 朝日ソノラマ ソノラマ文庫 (\552) [Amazon] ※書影無し

響ヶ丘音楽学校は天下に鳴り響く名門校。ヒビキジェンヌへの道を目指して全国から数多くの優れた少女たちが集う。まどか、由宇、忍の三人は入学一年目の予科生。彼女たちはふとしたことから、学園創設者が残したメッセージを発見する。それは響ヶ丘に訪れる危機を予言するものだった。舞台上の女子禁制を掲げる急進派集団「征服座」の暗躍に三人は巻き込まれていく。

2004年刊行。作者は京都在住のサラリーマン兼業作家。著作に『マーブル騒動記』『死なないで』がある。

あらすじを読めば判ると思うが、響ヶ丘=宝塚であることは明白なので(あとがきにも書いてある)、よって、その筋に詳しい人が読めば宝塚のパロディ小説としてそれなりに楽しめるのかもしれない。が、関東圏の男性で、なおかつその方面に詳しく無い人間としては、その点正しく読めているのかどうかは大いに不安が残るところだ。

敵対組織の「征服座」の描き方が、シリアスなのかギャグ混じりなのか徹底しきれないところがあって、この物語の性質がなかなか読み切れず中途半端になってしまったのがまず残念。超自然現象が出てくるわけでもなく、スーパーな女子高生という設定でもない普通の女の子三人がオトナ相手に戦うってのも、かなり無理がある。もっとギャグ路線に世界観を振ってしまえば、それでも納得出来たのだけれど。[2004/08]

冷たい校舎の時は止まる 下
[辻村深月] 
★★★★ 講談社 講談社ノベルズ (\820) [Amazon]

冷たい校舎の時は止まる 下

冬の校舎に取り残された8人の高校生。四人の姿が消え、残された鷹野、菅原、景子、深月の四人は衝撃に打ち震える。彼らをこの場所に召還したのは一体誰なのか。文化祭のあの日、自ら命を絶ったのは誰なのか。やがて景子が消え、菅原が消息を絶つ。深月と共に残された鷹野に、驚くべき真実が明らかにされる。

第31回のメフィスト賞受賞作品。上・中・下の3分冊で6月〜8月にかけて連続刊行されている。本編はその最終巻。上巻ではややもたついていた感があったけど、中巻で登場人物の掘り下げが始まり、なかなかいい流れになってきていた。

下巻では残された四人のうち、まず景子編がスタート。プライドの高さ故に素直に人を好きと言えない不器用さんを描いて、これがわりとよく書けてる。メインでない登場人物の生徒会長君がいい味を出している。

続いて菅原編。これがどうして、ってくらい長い。景子編の40頁弱に比べてなんと80頁強。倍だ。でも、その分すごくいい話。どうして菅原がこんなお気軽君に育ってしまったのか、中学時代の哀しいエピソードが丁寧に描き込まれていて好感度アップ。本当は、この不自然な長さも疑わないといけないところなのだが、読みの甘い読者はあっさりこれを見過ごしてその先へ。

そして予想もしていなかった「読者への挑戦」がいきなり登場。えええ、この話って論理的に考えて予想が付くものなのだろうか、提示された回答は、そりゃないだろうと激しくツッコミたくなるような意外過ぎるオチ。呆気にとられている読者を放置して、謎解き編は進んでいくわけだが、ここで妙に長すぎた菅原編の意味が明らかになり、これで無理矢理ながらも、感動的な力業で綺麗に物語が収束していく。伏線に全然気付かなかったのはわたしだけ?最後に全ての感動を持ち逃げしてしまったサカキ君には感服した。

超自然現象を逆手に取ってのなんでもアリがこの作品の特徴なのだが、そうそう何度もこんな手法が使えるとは思えない、今後どのような作品を書いていくのか、しばらくこの作者は追いかけてみようかと思う。過ぎ去りし学生時代に対しての、慈愛に満ちた目線は◎。いたずらにベタベタしてないところは、作者自身が若いせいかな。[2004/08]

ついでに…… 
『六番目の小夜子』@恩田陸  <<かなり近い読後感。

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猫語の教科書 [ポール・ギャリコ] ★★★ 筑摩書房 ちくま文庫 (\580) [Amazon]

猫語の教科書

見知らぬ「誰か」から届けられた匿名の原稿。それはネコによるネコのための生活マニュアルだった。暗号のような文章には、快適なネコライフを獲得するための驚くべきノウハウが詰め込まれていた。捨て猫が人間家庭に入り込む方法。居心地の良い場所の獲得法、欲しい食べ物を提供させるテクニック。あなたの家のネコも実はこんなことを考えているのかも。

ポール・ギャリコは1889年生まれのアメリカ人で1976年に没している。エンタテイメント系の作家として知られ代表作は『ポセイドン・アドベンチャー』他。23匹ものネコと暮らす無類のネコ好きであったらしい(cf.ポール・ギャリコ書誌情報サイト)。執筆年次は記載されていなかったが、1976年に逝去している作家だから、1950〜1960年頃の話だろうか。

本書はネコのツィツァの書いた原稿を、筆者が翻訳するスタイルを取っている。ネコ好きな人間たちのデレデレぶりを、ネコの目線から捉えなおしたところがポイント。が、動物を擬人化してどうこう語らせる話はあまり好きでは無いので、正直かなり引きながら読んだ。なお、本書でツィツァが批判している、頭の固い飼い主としては、人間の食べ物をネコに与えるのは断固として反対しておきたい。塩分の強い人間の食べ物ばかり食べさせていると寿命が縮んじゃうぞ。[2004/08]

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どうせなら…… 
『うちの猫はおりこうさん?』@ジョエル・ドゥハッス  <<こちらの方が実用的かと

ランブルフィッシュ あんぷらぐど
[三雲岳斗] 
★★★ 角川書店 スニーカー文庫 (\590) [Amazon]

ランブルフィッシュ あんぷらぐど

恵里谷の編入試験に現れた奇妙な男たち、物語の始まりの断章「邂逅編」。試合直前合宿に出掛けたD班の面々はありがちな展開で肝試しに突入。瞳子と沙樹が山中で遭遇した恐怖の体験「納涼編」。先輩カップルの仲を取り持とうと悪戦苦闘する「哀愁編」。クロミアの王女エレクトラ姫の来日とそれにまつわる大騒動を描く「旋風王女編」等、六編を収録した短編集。

「ザ・スニーカー」誌に掲載された四作品に書き下ろし二作「残像編」「志村瞳子のいちばん長い日」を追加したシリーズ初の短編集。

とにかく登場キャラクターの多い作品なので、いくらでもこうした枝エピソードは書いていけるだろう。惜しむらくは瞳子や沙樹がメインの話が多すぎたこと。本編でこいつらは既に主役なのだから、この手の短編集くらいもっと脇役を活躍させて欲しかった。祭理メインの深見家のドタバタ話を個人的には希望。本編はまだ続きそうだから、もう一冊くらいはこの手のおまけエピソードは書いてくれそうな気がする。[2004/08]

UNKNOWN [古処誠二] ★★★ 講談社 講談社ノベルズ (\740) [Amazon]

UNKNOWN

進入不可能の筈の隊長室に仕掛けられた盗聴器。国防の最前線、自衛隊の基地内で起きた不祥事に、幹部たちは防諜のエキスパート・防衛部調査班に犯人探しを依頼する。侵入者の目的は?そして盗聴の意図は?現場を訪れた朝香二尉は野上三曹と共に事件の捜査に乗り出す。解き明かされた真実は、あまりに意外なものだったのだが……。

2000年刊行。第14回のメフィスト賞受賞作品。メフィスト賞にしては珍しく、自衛隊が舞台と社会派な趣き。物語は最初から最後まで徹頭徹尾男臭い基地内での描写が続く。これだけ女っ気の無い硬派な作品も珍しいだろう。が、それでいて硬い雰囲気にならないのは主人公の朝香の飄々たる性格設定によるところが大きいかな。リーダビリティはなかなかに良好。

社会派(これってもう死語かな)っぽい、ノリで始めておきながら、事件そのものの解決は本格風味で片をつけるところにセンスを感じた。個人的趣味から言わせてもらえば、もう少し話にカタルシスを求めたい。必要でありながら酬われることのない、自衛隊という過酷な現場で働く男たちの矜持と不安。閉鎖的な環境の中での彼らの心理的葛藤が、もっと描き込まれていたら、より奥の深い内容になったのではないかと、ちょっとだけ惜しく思えた。[2004/08]

飛蝗の農場
[ジェレミー・ドロンフィールド] ★★★☆ 東京創元社 創元推理文庫 (\1,060) [Amazon]

飛蝗の農場

イギリス。ヨークシャーで農場を経営するキャロルの元に現れた一人の男。見るからにみすぼらしく怪しい風体に、動揺したキャロルは発砲、男に怪我を負わせてしまう。負傷した男はやがて意識を取り戻すが、それまでの記憶を全て無くしていることが判明する。やがて二人の奇妙な共同生活が始まるが、それは大いなる恐怖の始まりだった。

1998年作品。日本での刊行は2002年。「このミステリーがすごい!」2003年版海外部門で一位を獲得している作品。

荒野の農場で一人暮らしをするキャロルと、正体不明の流れ者スティーブン。二人のやりとりと平行して、スティーブンと思われる男のかつての逃避行の模様が交互に語られていく。名を変え、職を変え、住処を変え逃亡を続けるスティーブン。しかしどこに逃げても執拗に追いすがってくる正体不明の追跡者「汚水溝の渉猟者」。果てなき逃亡の日々は、遂には現時点でのキャロルとの生活にまでたどり着き、ラストのカタストロフへと雪崩れ込む。

妄想なのか現実なのか、一向に落ち着くことのない暗澹としたスティーブンの逃亡の日々が読者を惑わせる。やがてキャロルのトラウマとなっている、連続殺人事件との関連が明かされ、事件の概要が見え始めてくるのだが、最後の最後まで物語の着地点は見えない。自分的には「汚水溝の渉猟者」=スティーブンの脳内妄想だと思っていたのだが、まるで大ハズレ。この結末は意外だった。後味の悪いエンディングだが、この話のトーンには相応しい幕の引き方だと思う。[2004/08]

トリニティブラッド Rage Against the Moons フロム・ジ・エンパイア
[吉田直] 
★★★ 角川書店 スニーカー文庫 (\514) [Amazon]

トリニティブラッド Rage Against the Moons フロム・ジ・エンパイア

未曾有の大災厄により崩壊した文明社会。僅かに残された人類は、突如出現した吸血鬼と呼ばれる異種知性体との抗争に明け暮れていた。一見無害な好青年、教皇庁の巡回神父アベル・ナイトロードの真の姿は派遣執行官"クルースニク"。人類圏を脅かす数々の陰謀に彼は巻き込まれていく。ヨーロッパ各地で繰り広げられる数々の死闘を描く。

作者の吉田直は1969年生まれ。第二回のスニーカー大賞受賞者でデビューは1997年。残念ながら2004年7月15日に病気のため逝去している。本作は氏の出世作であるトリニティ・ブラッドRage Against the Moons(略称RAM)の一冊目。「ザ・スニーカー」に掲載されていた三つの短編に書き下ろし一編を加えた構成となっている。

このシリーズはRAMの系統とは別に、Reborn on the Mars(略称ROM)の系統がある。RAMは雑誌発表の短編がメイン。一方のROMは書き下ろし主体でRAMよりも数年先の話を描く大河長編型(それでも一巻ごとに一応の決着は付くけど)となっている。従ってRAMの一巻である本書はもっとも初期のお話ということで、キャラクター紹介中心の顔見せ興行的なエピソードが続く。

普段はおちゃらけ君だけど、やる時はやりますよ型の昼行灯主人公ってのは、ありがち過ぎる設定だけど、うすらぼんやり⇒ピンチ⇒実は凄腕の執行官、って流れはカタルシスを手軽に醸し出す手法としては便利なのだろう。それにしても、イラストの格好良さとギャップがありすぎ。中世的な世界配置と、高度文明社会の遺産が混在する世界にはそれなりに魅力的。メディチ家だとか、ローゼンクロイツだとか借り物感漂うネーミングは少々脱力してしまうけどね。[2004/08] ⇒次巻

トリニティブラッド Reborn on the Mars 嘆きの星
[吉田直] 
★★★ 角川書店 スニーカー文庫 (\514) [Amazon]

トリニティブラッド Reborn on the Mars 嘆きの星

大災厄によって滅び去った高度文明。数百年の後、異種生命体・吸血鬼との暗闘が続く中、人類はそれでも新たな文明を築きつつあった。辺境の街イシュトヴァーンへ派遣された巡回神父アベル・ナイトロード。そしてロストテクノロジー「嘆きの星」を使い、人類抹殺を目論む吸血侯爵ジュラの野望。アベルはその陰謀を阻止することが出来るのだろうか。

2001年刊行。Reborn on the Mars(通称ROM)の一冊目。Rage Against the Moons(略称RAM)シリーズの数年後の設定。RAMは短編×4本の構成だが、こちらは長編×1本という構成になっている。あとがき曰く「歴史を語るのがROM」なのだそうだ。メインストーリーはROM。バックグラウンド説明用の枝エピソードがRAMという区分と考えて良いのかな。

ROMシリーズのヒロイン、エステルちゃんが登場。教会で育てられた孤児のエステルが、アベルの助けを借りながら、故郷の街イシュトヴァーンの安寧を脅かす吸血侯爵ジュラと対決するというお話。あらかじめRAM1を読んでおくと人間関係が判りやすいのだが、反面ネタバレになってしまう部分もあるので、どちらから先に読むかは判断に苦しむところだ。

吸血鬼=悪なのではないという、後々にまでつながってくる基本コンセプトが早くも提示されていて、この作品が良い人間VS悪い吸血鬼なんていう、単純な勧善懲悪ストーリーで無いことが判る。作品世界に深みをもたらす意味ではなかなか良い設定。どことなく『ヘルシング』で、そこはかとなく『トライガン』の香りが漂ってくるのはとりあえず気にしないでおこう。[2004/08] ⇒次巻

トリニティブラッド Reborn on the Mars II 熱砂の天使
[吉田直] 
★★★ 角川書店 スニーカー文庫 (\533) [Amazon]

トリニティブラッド Reborn on the Mars II 熱砂の天使

枢機卿ミラノ公カテリーナと共にカルタゴの地へと降り立ったアベルとエステル。そこへミラノ公への会見を求める、真人類帝国の勅使メンフィス伯イオンが現れる。吸血鬼の支配する異人種国家から初めて人類にさし向けられた交渉の窓口。しかしイオンは謎の人物に命を狙われ会見は阻止されてしまう。教皇庁は異端審問局をカルタゴに派遣。事態は俄に緊迫の度合いを増していく。

Reborn on the Mars(ROM)の二巻目。故郷を解放して教皇庁の人となったエステルはアベルのお供でカルタゴへ。一応の主役はアベルなのだろうが、このキャラクターとにかく反則級に強い上に世界の秘密の半分を背負ってしまっているため、なかなか動かすのが難しい。ってことで物語を牽引していくのは今後彼女の役割になっていく。

トリブラシリーズには巻頭にワールドマップが掲載されていて、遠未来のヨーロッパ世界が図示されている。イタリアの部分は教皇庁領で、フランスはフランク王国、ドイツがゲルマニクス王国で、スペインはヒスパニア王国と、安易過ぎるだろそれってノリのネーミングがかなり萎える。でもその分、判りやすいから仕方ないのかな。名前聞いてすぐに、場所の見当がつくからな。

ちなみに、異端審問局長のブラザー・ペテロがビジュアル的に『FSS』の誰かに激似であることは、あんまり突っ込んではいけないことなのだろうか。性格はともかく、顔や髪型はヤバイくらいに似ている。「聖騎士の聖衣」もどこかのゲームで聞いたような気が……。いや、そもそも不殺を貫く主人公アベルの諸々の設定が『トライガン』の誰かに酷似しているのも禁断の問いか?[2004/08] ⇒次巻

トリニティブラッド Rage Against the Moons II サイレント・ノイズ
[吉田直] 
★★★ 角川書店 スニーカー文庫 (\514) [Amazon] ※書影無し

アルビオンで発見された子供の吸血鬼。その謎を追ってアベルはとある島を訪れる「ネバーランド」。バルセロナで相次ぐ連続テロ事件。その背後に隠された恐るべき陰謀「サイレント・ノイズ」。薔薇十字騎士団の次なる破壊目標はローマ。目前に迫った危機をアベルは防ぐことが出来るのか「オーヴァーカウント」。他一編を収録。

Rage Against the Moons(RAM)の二巻目。四編のエピソードを収録。最初の三編は雑誌「ザ・スニーカー」の掲載作品。最後の一編のみ書き下ろし。RAMの基本構造として最初の三編は、独立しながらも一応のつながりをもった連作短編になっていて、最後の一編だけ独立したエピソード「ユーグ編」になっている。「ユーグ編」は今後RAMの四編目をずっと追いかけていくと話がつながる仕掛け。

新しい派遣執行官"ダンディ・ライオン"ことレオン・ガルシア・デ・アストゥリアス神父は獄中から登場。ケレン味があってなかなか良い。いきなり登場した美人シスター、ノエルをあっさり一回こっきりの使い切りにする気前のよさもグッド。とにかくバタバタと無惨に人間が死んでいくのも、いかにもこの手の活劇小説らしい。ツボをしっかりと心得た筆の運びには安心が持てる。[2004/08] ⇒次巻

トリニティブラッド Reborn on the Mars III 夜の女皇
[吉田直] 
★★★ 角川書店 スニーカー文庫 (\571) [Amazon] ※書影無し

勅使イオンへの返礼として、真人類帝国を訪れたアベルとエステル。紆余曲折の末に、首都ビザンチウムにたどり着いた一行だったが、頼りにしていたモルドヴァ公は何者かに殺害され、しかもその嫌疑はイオンに向けられてしまう。一転して逃亡者となった彼らに更なる衝撃が!襲撃者の真の目的は女皇ヴラディカ暗殺だったのだ。

Reborn on the Mars(ROM)の三冊目。アベル君とエステルちゃんの世界不思議発見の旅は真人類帝国へ。秘かにビザンティン帝国が大好きで、首都コンスタンティノープルは大々好きな自分としては非常にツボだった一冊。ビザンチウムの街の描写を読んでいるだけで幸せな気分に。借り物感漂うこのシリーズも、ちょっとだけ許せる気になってきた。

良い点なのか悪い点なのか微妙なところだけど、トリブラってプロットがもの凄く判りやすい。裏切るだろうなって奴は間違いなく裏切ってるし、本当は生きてるんでしょってキャラはやっぱり生きてる。この人、実は※※なんでしょ、って想像も当たり前過ぎるくらいにその通りだったりして、出来ることならもう少し読者の期待を裏切るような捻りが本当は欲しいところ。

お話的には、やはりアベルがまともに動くと話が進めにくいと見えて、エステル、それにイオンの二人が物語を牽引。読み手に近い登場人物の目線で話を進行させるのは正解かな。ラストに真の敵である「01」の存在が仄めかされて、ますます『トライガン』な雰囲気が濃厚に。ひょっとして開き直ってきたのか。俄然、盛り上がらなきゃならないところなんだろうけど、ちょっと引いた。[2004/08] ⇒次巻

トリニティブラッド Rage Against the Moons III ノウ・フェイス
[吉田直] 
★★★ 角川書店 スニーカー文庫 (\514) [Amazon]

トリニティブラッド Rage Against the Moons III ノウ・フェイス

新教皇庁についての重要な情報を握る人物を保護するためケルンを訪れたアベルの災難を描く「ミッドナイト・ラン」。自らの理想のために教皇庁を裏切った派遣執行官ヴァーツラフ・ハベルの物語「ジューダス・プリースト」「ノウ・フェイス」。一族の仇を追い求めるユーグの彷徨を描く「ガンズ・アンド・ソードズ」の四編を収録した短編集。

Rage Against the Moons(RAM)の三冊目。短編で構成されているRAMシリーズなのだが、こうして巻を重ねてみると、エピソードは時系列的に連続していることがよく判る。RAM1(顔見せ)⇒RAM2(新教皇庁誕生)⇒RAM3(新教皇庁崩壊)といった流れ。四編目のユーグ編も刊行順で話がつながっている点は同様。

今回の個人的なイチオシは「死の淑女」こと異端審問局副局長のシスター・パウラちゃん。なにもそんな露出派手なコスチュームで戦わなくても……。全然地味じゃないところがポイント大。ダメダメに描かれてきた、傀儡教皇のアレッサンドロ君が頑張る気を見せているところもなかなか良ろしいのではないかと。[2004/08] ⇒次巻

トリニティブラッド Reborn on the Mars IV 聖女の烙印
[吉田直] 
★★★ 角川書店 スニーカー文庫 (\571) [Amazon]

トリニティブラッド Reborn on the Mars IV 聖女の烙印

真人類帝国からの帰還を果たしたエステルは、久々に故郷の地イシュトヴァーンを訪れる。そこで待っていたのは作られた「救世主」への圧倒的な賞賛だった。しかし聖女に祭り上げられた彼女に、帝国の暗殺者バビロン伯シェラザードの魔の手が迫る。なんとか危地を脱したエステルだったが、それは大いなる陰謀の序章に過ぎなかった。

Reborn on the Mars(ROM)の四冊目。一年ぶりに故郷に帰ってきたエステルちゃんが、ピンチに次ぐピンチを乗り越えて頑張るお話。完全に扱い的に主人公だなこのキャラ。前巻のイラストで謎の痣も体にあったし、未だ伏せられている出生の秘密はそのうち明らかになってくるのだろう。ペテロ君の存在感が大きすぎるのもあってか、いちおう主役の筈のアベルの出番はやや少なめ。

この巻に限ったことでは無いのだが、「〜していなければ〜だったであろう」という言い回しが全編通じて異常に多くて気になった。あまりに多すぎ。もう少し表現の仕方考えてみようよ。それから身内に陰謀家が多すぎるのもパターン化してきたな。中途半端に偉い奴は間違いなく裏切ると思っていい。明快でいいといえばそれまでだけど。[2004/08] ⇒次巻

トリニティブラッド Rage Against the Moons IV ジャッジメント・ディ
[吉田直] 
★★★ 角川書店 スニーカー文庫 (\533) [Amazon]

トリニティブラッド Rage Against the Moons IV ジャッジメント・ディ

新教皇庁への内通の疑いをかけられた枢機卿カテリーナ・スフォルツァ。異端審問にかけられた彼女を救うためアベルたちは奮闘する「レディ・ギルティ」。北方の地エストニアへと落ち延びた新教皇庁の残党たち。彼らの持つ"智天使"を追い求め派遣執行官たちの戦いは続く「ブレイヴ・ハート」「ジャッジメント・ディ」。そして一族の仇を追い求めるユーグの彷徨を描く「ハウル・オン・ジ・エッジ」。四編を収録。

Rage Against the Moons(RAM)の四冊目。アルフォンソ・デステの反乱に始まる、新教皇庁ネタは思っていたよりも長く続いていて、RAMシリーズのメインストーリーとも言うべきエピソードになっている。どうせ教皇虜囚までやってくれたのだから、本格的な教会分裂とか、宗教改革ネタまでやってくれると世界史ファンとしては嬉しかったのだけど、デステ君レベルの小物にそれを期待するのは無理か。

ユーグ編はそろそろ大詰め。仇の正体は最初からバレバレなんだけど、裏切られる前に気付けよ。いい加減彼には楽になって欲しい。次の巻当たりで、ラスボス対決なのではないかと予想。[2004/08] ⇒次巻

トリニティブラッド Reborn on the Mars V 薔薇の玉座
[吉田直] 
★★★ 角川書店 スニーカー文庫 (\571) [Amazon]

トリニティブラッド Reborn on the Mars V 薔薇の玉座

教皇アレッサンドロXVIII世に同行しアルビオン王国を訪れたエステル。永きに渡り王国に君臨した女帝ブリジットII世の危篤を受けて、宮廷では王位継承を巡る焦臭い暗闘が始まろうとしていた。到着早々、テロに巻き込まれたエステルは、王都ロンディニウムを彷徨う中で、自らの出生の秘密を知ることになる。その驚くべき真実とは。

Reborn on the Mars(ROM)の五冊目。いよいよエステルちゃんの出生の秘密が明らかに。これだけ引っ張ったんだから、さぞかし高貴な身の上なんだろうと思っていたけど、やっぱり王女様だったか。腹違いの姉の名前が、メアリ・スペンサーで人呼んでブラッディ・メアリ(メアリI世とメアリ・スチュワートがかけてあるのではと推測)だったりするあたり、姉妹の王位継承争いの結果を暗示しているわけで、これまた歴史好きならニヤリとしそうなネーミング。

で、シリーズ全編を通じての最終ボスかと思われるカイン君も登場。ますますトライガンの香りが……。こちらもあまりに判りやすいネーミングで逆に衝撃を受ける。そりゃ、アベルのライバルなんだからカインとくるのは当然といえば当然なのだが、ストレート過ぎてビックリした。主役のアベルが悪魔スタイル、仇役のカインが天使スタイルなんてビジュアル設定は、対照の妙は面白かったかな。アベル死んじゃったけど(笑)。[2004/08] ⇒次巻

トリニティブラッド Reborn on the Mars VI 茨の宝冠
[吉田直] 
★★★ 角川書店 スニーカー文庫 (\590) [Amazon]

トリニティブラッド Reborn on the Mars VI 茨の宝冠

メアリ・スペンサーは王位を得るために吸血鬼たちの潜むゲットーを急襲する。薔薇十字騎士団の謀略により、出生に纏わる秘密を公表され、アルビオン王女であることが明らかとなったエステル。女王の死は目前に迫り、メアリは遂にエステルの暗殺を決意する。大混乱に陥ったロンディニウム。そんな最中、アベルの眠る棺の前にカインが現れる。

Reborn on the Mars(ROM)の六冊目。前巻の「薔薇の王座」とは連続したエピソードとなっていて二冊でワンセット。剣を持つ姉メアリと王冠を受け王錫を手にする妹エステル。二冊並べてみるとなかなかに意味深なカバーデザインがイカス。帯によるとシリーズ100万部突破なんだとか。ここまで売れていたとは凄いな。

異母姉妹の王位争いに、超本筋のアベルとカインの死闘、この2エピソードだけでも大変なのに、薔薇十字騎士団が暗躍してたり、吸血鬼兄妹の話も書かなきゃいけないし、アレッサンドロ君の成長描写も入れなきゃならない、ってことで過剰に要素を盛り込みすぎて、話がやや冗長になってしまったのが惜しまれる。これだけの人間関係がもつれあった群像劇を描き切るには、まだ残念ながら力量がついてきていないか。[2004/08] ⇒次巻

トリニティブラッド Rage Against the Moons V バード・ケージ
[吉田直] 
★★★ 角川書店 スニーカー文庫 (\571) [Amazon]

トリニティブラッド Rage Against the Moons V ハード・ケージ

ボヘミア公女と派遣執行官レオンのローマでの逃避行を描いた「ロマン・ホリディ」。枢機卿カテリーナの屋敷に現れた突然の襲撃者。アベルは彼女を守りきれるのか「バード・ケージ」。"魔導士"と"人形使い"、薔薇十字騎士団の二人の魔人が乗り込んだ客船で起きたとある事件を描く「ラジオ・ヘッド」。最後の敵にたどり着いたユーグ、その凄絶な死闘を描く「ブロークン・ソード」。四編を収録。

Rage Against the Moons(RAM)の五冊目。作者の吉田直は2004年7月15日に急逝しており、生前に刊行された最後の作品となっている。作者としては無念だろう。無数にツッコミ所がある作品ではあるけれど、100万部も売れば立派過ぎる程に勝ち組。これから終盤の盛り上がりに入ろうとしているところだっただけに読者としても残念でならない。

今回は比較的つながりの薄い四編を収録。それぞれ別の話の補完&伏線バラ撒きエピソードになっているのではと予想。ユーグ編は遂に完結している。RAMは雑誌掲載作品で文庫未収録作が若干あるような気がするので、もうちょっとだけ続巻が出るのかも。ROM本編については、ある程度のおおまかなプロットくらいは出来ていただろうけど、別の誰かに書かせるわけにもいかないだろうし(そんなことが出来るのは田中芳樹だけ)。やっぱり未完のままで終わるのだろうか。コミック版なんてどうなるんだろう。[2004/08] ⇒次巻

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