2005年02月

早くも月10冊のノルマ達成ならず。今月のベストはやっぱり『太陽の塔』かな。
『屋根の日本史』も面白かった。
読んだ数は少ないながらも、わりと充実した月だった。

書籍名
作家名
出版社
価格
コメント
お薦め度
むくどり通信 池澤夏樹 朝日新聞社 \556
リアルタイムで読んでないときついか。
★★★

太陽の塔

森見登美彦 新潮社 \1,300
太陽の塔を見に行きたくなる。
★★★☆
禁涙境事件 上遠野浩平 講談社 \920
残酷号のビジュアルは最高。
★★★
ネコソギラジカル 上
十三階段
西尾維新 講談社 \1,080
哀川さんその例えはちょっと……。
★★★☆

屋根の日本史

原田多加司 中央公論新社 \800
桔木の工夫に感動した。
★★★☆

岩手県ポラン町字七つ森へ

文:和順高雄
写真:中里和人
偕成社 \1,942
ひんやりとした岩手の空気を感じる。
★★★☆

しずるさんと底無し密室たち

上遠野浩平 富士見書房 \540
さっと読み流そう。
★★★
プレシャスライアー 菅浩江 光文社 \819
印象に残らず。
★★★

これだけは知っておきたい
個人情報保護

岡村久道
鈴木正朝
日本経済
新聞社 
\500
とりあえず基本だけでも。
★★★

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むくどり通信
[池澤夏樹] ★★★ 朝日新聞社 朝日文芸文庫 (\556) [Amazon] ※書影無し

日本最?端へのこだわり。旅先での豊富なエピソードの数々。時には遠路を旅してきたグレープフルーツに思いを馳せたり、行儀良く並んだ高層ビル屋上のクレーンに着目してみたり、ある時はお気に入りのミステリや映画について語ってみたりもする。日本各地を旅してきた著者ならではの視点で綴られた日々の記録。

週刊朝日の1993年1/1・8合併号から12/31号にかけて連載されたエッセイを単行本化したものが1994年に刊行されており [Amazon] 本書はその文庫版。こちらは1997年刊行。なかなか一般人は経験出来ない旅先でのエピソードは面白い、その分日常的な部分のエピソードは特にこれといった感興も湧かず、わりかし普通で印象に残らない。まあ、書かれてから10年経ってしまっているので、ネタとしての鮮度が劣化してしまっているせいもあるんだろうけど。[2005/02]

太陽の塔 [森見登美彦] ★★★☆ 新潮社 (\1,300) [Amazon]

太陽の塔

京都大学農学部。わけあって五回生在籍中の森本は今日も「水尾さん研究」のために対象者の尾行を続けていた。彼の貧乏アパートには、その独特の人柄に惹かれるのか、一癖も二癖もあるような奇人変人ばかりが集まってくる。理不尽極まりないクリスマスファシズムに立ち向かうべく、一致団結した彼らは年末の四条河原町へと繰り出していくのだが……。

第15回の日本ファンタジーノベル大賞大賞受賞作品。2003年刊行。作者は現役の京大生。ちなみに優秀賞は渡辺球の『象の棲む街』 [Amazon]

ネガティブオーラを纏いながら疾走する青春小説の傑作。ともすればほとばしりそうになる怨嗟と呪詛を生真面目な硬い文体で抑え込み、それでも悶々と漏れ出てくる暗黒の波動。基本的にはバカな話なんだけど、最後までこの文体で描ききった力はスゴイ。頭がいいんだろうけど、どことなく、いやかなり変、ってノリのキャラクターたちが嫌になるくらい活き活きと書けている。

この奇人変人たちの存在だけでも十分ファンタジーなのだけれど、断片的に登場する太陽の塔に纏わる挿話が素敵過ぎるアクセントになっていて実に効いている。今すぐ京都に行って叡山電車に乗りたくなるくらい。かくも幻想的で切ない、静謐なエンディングがこの話に待っていようとは想像も出来なかったよ。[2005/02]

ついでに…… 
『NHKにようこそ!』@滝本竜彦<<森本がヲタだったらこうなる。

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禁涙境事件 [上遠野浩平] ★★★ 講談社 講談社ノベルズ (\920) [Amazon]

禁涙境事件

全ての魔力を1/4にしてしまう不可解な装置"十字線"。いつしか禁涙境と呼ばれるようになったこの街は、その力故にあらゆる勢力からの支配を逃れ、中立地帯として繁栄を続けてきた。しかし遂に終わりの日は訪れる。"十字線"の異常は魔人残酷号の来訪を呼ぶ。仮面の戦地調停士が告げる事件の驚くべき真相とは。

2005年刊行。シリーズ第4弾。シリーズ名は「事件シリーズ」で決まりらしい。ダセー。続きが出るのは二年ぶりか。これだけ間が空いてしまうと、登場人物や諸設定をまるごと忘れてしまうので、各巻のあらすじと主要登場人物の紹介くらいつけて欲しい。懐かしの人々がこぞって出演しているわりには、どんなキャラクターだったのかサッパリ覚えて無くて損した気分になる。

何故かは知らねど、魔法がほとんど使えない禁涙境。現代社会に例えてみると電気が使えないようなものだから確かに特殊な場所ではあるのだろう。そんな街で起きたいくつかの迷宮入り事件を振り返りながら、その繁栄と滅亡を綴っていく都市年代記。禁涙境の崩壊後から物語は始まり、過去と現代を行き来しつつストーリーは進行していく。

禁涙境を無から作ってきた人々の若き日々が描かれる、活躍し、ある者は命を失い、残された者も年老いていく。都市国家の興亡の記録として読める楽しさがまずあって、これはなかなか良い。しかしながらいつものことだけど、ミステリ的なオチがあまりに貧弱。魅力的な謎にトホホな結末ってのは毎回萎えるんだよな。いっそのこと謎解き要素無しにして、ファンタジー路線一本でやった方がこの作品成功するんじゃないだろうか。

シリーズ作品としては、これまで明かされなかったEDの出自の秘密が明らかになり、少しだけに前に進んだ形か。次回作は『残酷号事件』ってことなので、時系列的につながったエピソードになるのだろうか。とにかく、読者が設定を忘れる前には出して欲しい。[2005/02]

ネコソギラジカル 上 十三階段
[西尾維新] 
★★★☆  講談社 講談社ノベルズ (\1,080) [Amazon]

ネコソギラジカル 上 十三階段

「狐面の男」こと西東天からの宣戦布告を受けたいーちゃんこと戯言遣い。匂宮兄妹との死闘の傷も癒えぬ中で、十三階段一人目の男、奇野頼知の来訪を受けることになる。冴えない雑魚キャラに見えた奇野だったが、その意外な特殊能力はいーちゃんを窮地に陥れる。終焉に向けて加速していく物語世界。そのたどり着く先にあるものは。

2005年刊行。戯言シリーズ最終三部作の第一弾。表紙は哀川さんらしいのだが、イラストレータの竹の画風はちょっぴり変わったようで一瞬誰だか判らなかった。本編中のキャラクター挿絵もシャープな部分がなくなって、全体的にまるまっちいタッチになっている。賛否両論あろうところだろうが、自分としては前の方が好き。

いーちゃんを待ち受ける十三階段の面々。奇妙奇天烈なネーミングと、メチャクチャな特殊能力(まだ判明してないけど)に山田風太郎『甲賀忍法帖』 [Amazon] の伊賀甲賀十人衆を見知ったときと同種の高揚感を禁じ得なかったと言ったら褒めすぎだろうか。判りやすくスタンド遣いに例えてみようかと思ったけど、最近のジョジョ読んでないのでやめとく(笑)。

今回の萌えポイントとしては闇口崩子なのだろうが、あまりに直球勝負過ぎてやや萎え。ここまで目立ってしまった段階で既に次あたりで死亡確定のような気が。妹系キャラは姫ちゃん以外認めないぞ。それから哀川さんの登場シーンは格好良く描けていて燃えるところ。ホンモノかどうか怪しいけど。あとはやっぱり貴宮むいみかな。地味ながらも美味しいポジショニングだ。

まだまだ序盤。終わりの始まりでしかないので、本格的なバトルは次巻移行。長いこと寸止め状態で伏せられたままの主人公の秘密についても依然謎のまま。未解決のネタは沢山あると思うんだけど、いくつかはそのまま放置されそうな気もする。このシリーズに限っては、きっちり伏線回収して風呂敷を畳みきってくれるよりも、その場その場の「絵」としての完成度を優先させて欲しいなと思う今日この頃。夏頃までには完結して欲しいな。[2005/02] ⇒次巻

屋根の日本史 [原田多加司] ★★★☆ 中央公論社 中公新書 (\800) [Amazon]

屋根の日本史

寺社仏閣や城郭、著名な日本建築を目にしたときまず最初に印象に残るのは巨大な屋根だろう。独特な発達を遂げた日本の屋根。縄文期の竪穴式住居に始まり、大陸からの仏教伝来を受けた古代寺院の建立。平安時代の寝殿造りから戦国期の城郭建築、そして様々なバリエーションを持つに至った江戸期まで。現役の屋根職人が語る屋根の通史。

2004年刊行。筆者は1951年生まれ。地方銀行勤務から実家の檜皮葺師への道に入り十代目原田真光を襲名。国宝、重文級の建築物の修復を数多く手がけてきた屋根職人のエキスパート。

これまでほとんど知られていなかった日本建築の「屋根」にスポットを当て、古代から現代まで、著名な建築物の構造を解説しながらその歴史を紐解いていく。専門用語が多く、素人としては意味を理解しながら読み進めるのが正直シンドかったのだが、その労苦に見合った内容の充実度。用語は難解だが、文章は一般人でも判るように図説入りで丁寧書いてくれているのが嬉しい。何気なく見ている屋根瓦の下に、見事なまでの力学的な工夫が凝らされており、勾配の絶妙なバランスを保つためには名人の技の限りが傾注されていることが本書を読むとよくわかる。これからは観光の時には真っ先に屋根を見ようと思う。[2005/02]

ついでに…… 
『大工道具の歴史』
[Amazon] @村松貞次郎<<こちらは道具の方の歴史。

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岩手県ポラン町字七つ森へ
[文:和順高雄/写真:中里和人] ★★★☆ 偕成社 (\1,942) [Amazon]

岩手県ポラン町字七つ森へ

宮沢賢治の描く不思議な世界には独特の神秘的な雰囲気がある。そのイメージの源流を辿ると岩手県の豊かな自然風土に行き着く。賢治の著作を追いかけながら、その精髄(エキス)を探していく。山河や森の草木、小さな花々から動物たち。美しい写真と共に綴る、瑞々しい岩手の四季折々を切り取ったイーハトーヴ紀行。

1995年刊行。筆者は1952年生まれ。詩人にしてフリーライター。写真を担当しているのは中里和人。非常に写真のボリュームが多く。ほぼ半分が写真。しかもカラーなのでこの価格も納得がいく。

文章は少々賢治賛美が過ぎるようで、読んでいていささか鼻につくのだが、ファン向けに書かれた本なのだから仕方がないか。イギリス海岸や早池峰山、五輪峠や人首集落と作品世界と密接なつながりを持つ場所が写真付きで紹介されているのだが、「この作品の舞台はここ!」みたいな短絡的な結び付け方はしておらず、現実と作品世界の位相を見据えた上での考察になっているので押しつけがましくないところは◎。中里和人の写真も底知れぬ暗さを持つ宮沢賢治世界とほどよく馴染んでいて違和感は無かった。[2005/02]

しずるさんと底無し密室たち
[上遠野浩平] ★★★ 富士見書房 富士見ミステリー文庫 (\540) [Amazon]

しずるさんと底無し密室たち

密室とはどんなものでもごまかせると思いこんだ人間のつまらない錯覚に過ぎない。しずるさんはそんな風に断言する。吸血植物によって作られた密室。七人を皆殺しにした呪いのカードに秘められた密室。密室が作り出した死者のドッペルゲンガー。空を飛んだ怪人の密室。病棟という名の密室で、今日もしずるさんの思索は続いている……。

2004年刊行。富士見書房「ドラゴンマガジン」増刊の「ファンタジアバトルロイヤル」2003年8月、2004年2月、8月号に掲載された短編3作に、書き下ろし短編を1作。更に掌編の「はりねずみチクタ、船にのる」を加筆して文庫化したもの。前作 [Amazon] が出たのが2003年の6月だからおよそ一年半ぶりのシリーズ続編。

一見、ありえないように思える奇怪な謎の数々を安楽椅子美少女探偵がもの凄い勢いで解決していく連作短編集。どことなくブギーポップな世界とつながっていそうなしずるさんシリーズ。怪しすぎる病棟に隔離された寝たきりのしずるさんの病名が気になるところ。とはいえ、本編では立ち入った別シリーズへのクロスオーバーは無し。謎そのものはそこそこ魅力的なのだが、いかんせん解決が美しくない。すべてはごまかしなのだというしずるさん的主張に従うと、美しい謎ってのはそもそもこの世界では許容されないのだろうか。身も蓋もないショボイ真相にはがっかり。[2005/02]

プレシャス・ライアー [菅浩江] ★★★ 光文社 カッパノベルス (\819) [Amazon]

プレシャス・ライアー

従兄弟、禎一郎の依頼により、バーチャル空間での「捜し物」の探索に明け暮れる詳子。日常世界とバーチャル空間の融合が進む近未来。<ソルト>と呼ばれる正体不明の存在から突然攻撃を受けた詳子は不思議な事件に巻き込まれていく。事態を解決するために乗り込んだアンダーグラウンドゾーン<オメガ・エンド・ファイナル>。そこでは驚くべき出来事が彼女を待ちかまえていた。

2003年刊行。「週刊アスキー」の2002年7月2日号から11月19日号にかけて連載されていた作品を加筆修正したもの。

作者本人も書いているけど、バーチャルリアリティなんて題材で勝負をかけるのはさすがに今時シンドイでしょ。最新のトレンド(らしい)、量子コンピュータネタを織り込んでエスエフらしさは醸し出せてはいるけれど、どこかで見たような感は終始拭いきれず。数少ない見せ場、<オメガ・エンド・ファイナル>での電子戦はまあ楽しめたかな、ってくらい。ヒロインはじめ、登場人物たちの個性が弱いのもきつい。[2005/02]

これだけは知っておきたい個人情報保護
[岡村久道/鈴木正朝] ★★★ 日本経済新聞社 (\500) [Amazon]

これだけは知っておきたい個人情報保護

近年頻発する各社での個人情報の流失事件。それは中小の企業だけでなく、大手企業各社でも流失トラブルは発生しており、いまや決して対岸の火事とはいえない状況となっている。法的に定義された個人情報とは何を指しているのか。法案の趣旨、目的は何なのか。目前に迫った個人情報保護法の施行。これだけは覚えておきたい基本事項をコンパクトに紹介。

2005年4月からの個人情報保護法の施行に先立ち刊行されたガイドブック。筆者の岡村久道はこの手のジャンルに詳しい弁護士で、もう一人の鈴木正朝はニフティのセキュリティ推進室の課長らしい。

私事で恐縮だが、先月からこの方、個人情報保護法対策で泣きそうな日々を送っている。とりあえず基本の基本だけでも把握しておこうということで購入したのが本書。法案の概要。守るべき個人情報とは具体的に何を指すのか。個人情報取得の際には何をすればいいのか。という「これだけは知っておきたい」ことが簡潔にまとめられており、今更ではあるけれど、急場の役には立ちそうな一冊。

もちろん実際の業務では様々なケースバイケースが出てくるので、法務担当者との連動が必須になってくるのだけれども、付け焼き刃程度でも全く知らないよりはマシ。個人情報保護法への対応は最初に一回だけやれば終わりというものでは無く、商売を続けていく以上は永遠につきまとう問題。法務セクションのみならず、末端の担当レベルにまでその高いセキュリティ意識が浸透していないとどこでボロが出てくるか判らない非常に怖ろしい問題なので、知識ゼロの人間向けの啓蒙用としてはオススメかな。[2005/02]

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