松浦純菜の静かな世界
[浦賀和宏] ★★★☆ 講談社 講談社ノベルズ (\880) [Amazon]

幼い頃に両親を亡くし、そして残された妹までも犯罪に巻き込まれ、ただひとり残された八木剛士。醜い容姿と侮られやすい性格が災いし、その高校生活は呪詛と怨嗟に充ち満ちていた。連続女子高生殺人事件が発生し、突然目の前に現れた少女は自らを松浦純菜と名乗った。剛士につきまとう純菜の目的は何なのか。そして連続殺人犯の正体は。
2005年刊行。前作の『透明人間』 [Amazon] が2003年の10月だから丸一年以上新刊が出ていなかったことになる。久しぶりの浦賀作品。安藤クン(さん)は出てこないので、そっち系が駄目な人も安心して読めるぞ。
八木クンの醸し出すネガティブ波動が最高。まわりはみんな馬鹿でカス!なんでオレだけこんな目に!いいことなんて起こりっこ無い!調子のいいことを言う奴には必ず裏があるに違いない!10代ならではマイナスのオーラを惜しげもなくまき散らすその勇姿に共感を覚える読者は決して少なくは無い筈だ(その逆も多いだろうけど)。ガンプラ好きなところもポイントが高い。
そんなダメダメクンが殺人事件に巻き込まれ、なにやら胡散臭げな少女、松浦純菜と共に連続殺人犯の謎を追うのが本作。謎解き部分は、あまりひねっていないので比較的判りやすい。魅力的な謎の提示とその解明よりも、人物描写をしっかりやる方に今回は重点を置いているように思える。ラストで明かされる松浦純菜の"静かな世界"は、伏線が丁寧に貼ってあるので意外感は無いのだが、孤独な世界を生きてきた二人が初めて互いを認め合うシーンとして、なかなかのカタルシスを感じさせてくれた。たぶんこの話、続きが出そうだね。[2005/05] ⇒次巻
塚田新一が大川公園で発見した切断された女性の腕。それは日本を震撼させた猟奇殺人事件の始まりだった。メディアを巧みに利用し捜査陣を翻弄する犯人。娘を奪われた家族たちを嘲笑うかのように残虐な犯行が続く。そして過熱する報道合戦は被害者たちの生活を破壊していく。そしてある日、事件は思いも寄らぬ展開を遂げることに……。
2001年刊行。1998年の『理由』 [Amazon] 以来久々に登場した宮部みゆきの現代ミステリ作品。2002年版『このミステリーがすごい!』で国内部門1位。上下巻構成で二段組み1,400ページ余の超大作。一瞬たじろぐ程の分厚さだが、これが実は読み始めると止まらない。おかげでゴールデンウィークをまるまる二日、この作品のために潰してしまった。
本作は三部構成になっていて、第一部は被害者側の視点から。第二部では一転して犯人側の視点で。そして第三部は再び被害者側からの視点で描かれている。明確な主人公を設定せずに複数の人物を掘り下げていくことで、複雑な展開を遂げていく事件の輪郭を浮き彫りにしていく趣向で、個性豊かな登場人物群を見事に書き分ける剛腕はさすが宮部みゆき。社会派ミステリを書かせたらもはや当代一といっても過言では無いだろう。
惜しむらくは、ラスボスがあまりにショボかったこと。第三部での犯人の場当たり的な行動はあんまりといえばあんまり。所詮はこの程度で馬脚を現すほどの器量の人間ということなのだろうけど、終盤の詰めが少々安っぽく感じられたのは残念。滋子があの発言をしなきゃ、ラストの怒濤の展開は無いわけなのだろうけど、立場的にあんたそんなこと公開の場で言っちゃマズイでしょ。まあ、最後の最後で明らかになる「模倣犯」の意味にゾクゾクするような興奮を覚えたのは事実なので作劇上致し方無しってところだろうか。ちなみにこの作品、映画化 [Amazon] されているようだけど、評判的にはカスらしいので放置が正解かと。どうせなら2クールくらい使ってドラマ化して欲しいな。[2005/05]

高度成長期からバブル期を経て、そして現在。終身雇用、年功序列は崩壊し、加速するリストラは採用抑制を招き、若年層の失業率はかつてない数字を記録している。晩婚少子高齢化と家族のあり方も大きく変容し始め、日本人を取り巻く環境は急速にリスク化、二極化している。勝ち組と負け組の格差は広がり希望は失われていく。
2004年刊行。筆者は1957年生まれ。東京学芸大の教授で専門は家族社会学と感情社会学。『パラサイトシングルの時代』 [Amazon] を書いた人と言った方が判りやすいか。
サブタイトルが凄い。"「負け組」の絶望感が日本を引き裂く"ときた。豊富な統計データを元に、職業、家族、教育それぞれの現場で勝ち組と負け組に二極化していく日本社会の現状を示し、"努力しても酬われないこと"による希望格差社会がいずれこの国を押しつぶすとの暗澹たる未来を予見した一冊。リスク化と二極化。二つの視点から、いかにしてこの国が希望格差社会へと変貌していったのかを解き明かしていく。
若年層の高失業率。ニートの顕在化。高推移する離婚率と非嫡出率。虐待の増加。こうして数字を突きつけられてみると、いずれも目を覆わんばかりの惨状で、厳しい現状を見ようとしてこなかった人間に取っては衝撃は大きい。サブタイトルの派手な煽りはブラフでは無かったよ。現在の立ち位置見つめ直し、より過酷なものになるであろう未来に対しての備えを取るための問題提起としては良書なのではないかと思う。
とはいえ、学者さんが書いた本なのでデータを取りそろえての現状分析にほとんどの頁数が割かれていて、ではどうすればいいのかという部分についての試案ははなはだ心許ない。分不相応な高望みを諦めさせるための職業カウンセリングの導入、コミュニケーション能力を向上させるための公的支援と言われても今ひとつピンと来ない。これほどの問題にそうそう簡単に解決策が出てくるとも思えないから、致し方のないところではあるのだろうけど。
学歴社会は一定の時間をかけてゆるやかに身の程をわきまえさせ、分相応な階層に人間を流し込むためのに社会的な装置だったという指摘は、身も蓋もない言い方だけど確かにその通りで、ものすごく腑に落ちた。[2005/05]
キル・ゾーン ジャングル戦線 異常あり
[須賀しのぶ] ★★★ 集英社 コバルト文庫 (\390) [Amazon]

23世紀。月面都市の植民地となった地球ではレジスタンスの蜂起により、大動乱の時代を迎えていた。治安部隊の女性兵士キャッスルは最前線の地ボルネオで今日も過酷な戦いの日々を送っていた。捕虜となった仲間を取り戻すため、救出部隊の派遣を求めるキャッスル。しかし与えられた兵士は一癖も二癖もありそうな問題児ばかりだった……。
1995年刊行。須賀しのぶは1972年生まれ。1994年の上期コバルト読者大賞を受賞。『惑星童話』 [Amazon] でデビューし、本作が二作目となる。表紙の赤毛クンを少年兵だと思っていたのは決してわたしだけではあるまい。隣に書かれている金髪優男クンとの戦場ラブラブ物語が展開されるものとばかり思っていたのに(勘違い)。って、これ10年も前の話なのか。さすがにこの年代じゃ、まだコバルトもそこまで思い切ってないか。
23世紀とは思えない旧態然とした戦場描写が萎え所だけどそこはあえてスルーで。男勝り(でも美人)の分隊長キャッスルに、何でもそつなくこなす副長格のエイゼン、とにかく騒がしい元気少年ラファエルに、地味に脇を固めるシドーとアブドゥルと、主要登場人物のキャラ立ちはまあ及第点。皆さんそれなりに訳ありぽいけど、初巻ということで各キャラの掘り下げはこれからに期待。既にシリーズ10数冊を確保してあるのでガンガン次に読み進む予定。[2005/05] ⇒次巻
舞姫打鈴 銀葉亭茶話 [金蓮花] ★★★ 集英社 コバルト文庫 (\388) [Amazon]

銀葉亭は仙界の外れに静かに佇む茶店。主の李氏の人柄と、供される茶の見事さに惹かれ神仙たちは折りに寄せてはこの店を訪れる。今日の客は雪華公主。かつては新羅の公主として生を受け、今では処女雪を統べる風精としての日々を送っている。彼女が語るのは遠き昔の哀しい恋の物語。新羅の英雄金庚信と名も無き踊り娘天官。二人を襲った運命の激流とは。
1994年刊行。作者は東京生まれの東京育ちの在日朝鮮人三世。第23回コバルト・ノベル大賞を受賞。本書が最初の作品となる。7世紀中葉。百済や高句麗と覇を競っていた時代の新羅が舞台。金庚信も実在の人物。作者の出自を活かしてのことなのだろうが、朝鮮文化をベースにしたファンタジーはこれまで読んだことが無かっただけに非常に新鮮に感じた。
銀葉亭の主、李氏が聞き手となり、訪問者の雪華公主の打ち明け話を聞く形で物語は展開していく。李氏自身にも秘められたな過去の秘密がありそうなのだがそれとなく仄めかす程度で明らかにはならない。それは何れ後々の巻で描かれることになるのだろう。お話し的には非常に判りやすい純愛輪廻浪漫譚。あまりにストレートな剛速球一本勝負の純愛路線なので、すれからしのひねくれ読者では受け止めきれなかった。たぶん、相応の年代で読んでいれば感動出来たんじゃないかと思う。最後に出てくるイラストが激しく衝撃度大なのだけど、ここで笑ってしまう人は瑞々しい感受性の無い枯れた人間ということで。[2005/05] ⇒次巻
戦場のネメシス キル・ゾーン
[須賀しのぶ] ★★★ 集英社 コバルト文庫 (\388) [Amazon]

捕虜奪還作戦から無事帰還したキャッスルの隊に新たな兵士が補充された。その中の一人、スワンプ・ラットは無気力で日夜酒に溺れる問題兵。しかしその正体は……。幼き日を共に過ごし、最悪の形で別れてきた忘れ得ぬ男が何故ここに現れたのか。新たな作戦の開始が告げられキャッスルは動揺を隠せないまま任務に赴く。
1995年刊行。キル・ゾーンシリーズの2作目。早くもキャッスルの過去が明らかになる。かつての想い人との再会。そして永遠の別離。オーソドックスな筋運びだけど、スワンプ・ラットが最後にキャッスルを守って死亡!みたいな、お約束な展開にしなかったのはまだ救いか。スワンプ・ラット(ケヴィン)の想いが、ラファエルに引き継がれていく一連の流れはなかなかにいいシーン。この作品もともとはラファエルが主人公で、というプランもあったようだから、少年の成長物語としての側面も今後はしっかりフォローしていくのではないかと期待。[2005/05] ⇒次巻
破壊天使 キル・ゾーン [須賀しのぶ] ★★★ 集英社 コバルト文庫 (\437) [Amazon]

激戦から帰還したキャッスルたちを待っていたのは、基地内での薬物蔓延だった。凶悪な麻薬「エクスプレス」により政府軍は戦力を骨抜きにされてしまう。そして計ったかのようにレジスタンスの猛反撃が始まる。火星都市からの援助を受けたレジスタンスは各地で猛烈な攻勢に打って出る。255基地に残されたキャッスルたちにも危機が迫る。その時ラファエルは……。
1996年刊行。キル・ゾーンシリーズの3作目。23世紀である必要がまったく感じられなかったこの作品もようやく、未来世界らしい展開に突入。いきなりラファエルの意外な正体が明らかになるわけだけど、反則なまでに強すぎ。ナイフで刺されたら痛いんだぞとか、弾が心臓に当たったら死んじゃうんだぞみたいな、当たり前の戦場モノの常識が一気に崩壊。今後は一般人そっちのけで超人たちの戦いに移行していってしまうのだろうか。死に対しての緊張感が一気に無くなってしまった。[2005/05] ⇒次巻
密林 キル・ゾーン [須賀しのぶ] ★★★ 集英社 コバルト文庫 (\437) [Amazon]

ボルネオ島の治安部隊は壊滅した。火星からの工作員マックスの知略がレジスタンスを大躍進させたのだ。九死に一生を得て255基地から撤退したキャッスルたちは、島からの脱出を目指し、非武装地帯クチンへの逃亡を図る。密林の中で繰り広げられる追走劇。正体不明の狙撃兵により次々と倒れていく隊員たち。彼らは生き延びることが出来るのか。
1996年刊行。キル・ゾーンシリーズの4作目。いきなり爆発したラファエルの力はとりあえず封印されてしまい、いつもの戦場サバイバルが再びスタート。このまま一般人置き去りで、どんどん戦闘がハイパー化していったらどうしようかと思っていただけに、少し安心した。何事もバランスは大事。後半は大人の分別を発揮してエイゼンが俄然やる気を見せる。いろいろ隠された事情がありそうだけど、その辺の種明かしは次巻あたりかな。[2005/05] ⇒次巻
嘘 キル・ゾーン [須賀しのぶ] ★★★ 集英社 コバルト文庫 (\438) [Amazon]

孤独な密林行からの奇跡的な生還を果たしたキャッスルたち。しかし軍本部は彼女たちに今なおボルネオ島に人質として捕らえられている基地司令官の救出を命じる。しかし片足を失ったエイゼンは治療のため作戦には同行出来ない。そしてキャッスルはエイゼンが隠し続けてきた、ある秘密を知ってしまう。思いかけない裏切りの事実に衝撃が走る!
1996年刊行。キル・ゾーンシリーズの5作目。ペース早いなこの人。新兵時代から常に自分の傍に居てくれたエイゼンが実は父親が金で雇ったボディガードだったという、驚愕の急展開に揺れる乙女心なキャッスル曹長のよろめきっぷりを堪能する巻ではないかと。ラファエルの謎についても少しずつ謎が解明され始め、敵方のマックス君との絡み共々続きが気になるところ。[2005/05] ⇒次巻
赤と黒 キル・ゾーン [須賀しのぶ] ★★★ 集英社 コバルト文庫 (\400) [Amazon]

新たな義足をつけたエイゼンが前線に復帰した。複雑な心境で迎えるキャッスルは、ラファエルの死という衝撃から立ち直ることが出来ない。ボルネオ島を奪還された政府軍は一大攻勢を仕掛ける。しかしその作戦は既にレジスタンス側に察知されていた。猛反撃を受け壊滅状態に陥る政府軍。キャッスルたちのジョホールバル基地にも危機が迫る。
1996年刊行。キル・ゾーンシリーズの6作目。決定的な破局の後、それでも戻ってきたエイゼン。ラファエルを見殺しにしてきたダメージから未だ快復出来ないキャッスル。この二人の絡みが今回の見物か。囚われの王子様状態のラファエルVSマックス君の対決も白熱中で、第二人格?サリエルによって彼のとてつもない超能力が明らかになる。ここまで、出来ちゃったらもう武器を取って戦争しなくても良いのでは、というくらいの反則技。今後は超人バトルに急速にシフトしていく予感。[2005/05] ⇒次巻
罠 キル・ゾーン [須賀しのぶ] ★★★ 集英社 コバルト文庫 (\438) [Amazon]

奇跡的な生還を遂げたラファエル。しかし瀕死の筈の体には傷一つ無く、いかにして基地までたどり着いたのかも不明。異常な事態に対して、基地内の空気は冷ややかなものだった。そんな最中、キャッスルたちに叙勲の話が持ち上がる。仲間たちと別れ首都アクラへと召還された彼女だったが、それは周到に計画された罠だった。
1997年刊行。キル・ゾーンシリーズの7作目。ジャングル編が完全に終了して、物語のステージは地球政府の首都アクラへと変わる。今度は市街戦か。エイゼンの過去についてようやく詳しい事情が明らかになっていくのだが、まだまだ明かされない事実が多いようでキャッスルの兄の死にどう関係していたのかが気にかかる。[2005/05] ⇒次巻
罪 キル・ゾーン [須賀しのぶ] ★★★ 集英社 コバルト文庫 (\419) [Amazon]

キャッスルの失踪!驚愕の事実にエイゼンとラファエルは即座に行動を開始した。しかし軍を抜け、アクラへ向かった彼らはその動きを読まれ囚われの身となってしまう。一方、マックスに拉致されたキャッスルは体内に爆弾を埋め込まれてしまう。キャッスルの父、参謀次長オブライエンはマックスとの取引で、ラファエルを引き渡そうとするのだが……。
1997年刊行。キル・ゾーンシリーズの8作目。何故かこの巻だけカラー口絵付き。価格はいつもとあまり変わらないのでお買い得だ。キル・ゾーンシリーズの最初の作品とも言える、短編「バディ・システム」のおまけ付き。94年の「COBALT」10月号に掲載された同名タイトルをベースに書き下ろしたもの。
影の存在であったキャッスルの父親がようやく出てくるわけだが、なんともつかみ所が無いというか、まだまだカードを見せてくれないと言うか判断の付かないキャラクター。このままだと単なる小物にしか見えない。キャッスルの体内に爆弾が埋め込まれ、マックスの生命反応とリンクというギミックは古典的ながらも、お話しを盛り上げるにはなかなか良い仕掛けなのではないかと。何気にエイゼンが銃殺されちゃうんだけど、これで死んだと思っている読者はいないだろうね。[2005/05] ⇒次巻
別れの日 キル・ゾーン [須賀しのぶ] ★★★ 集英社 コバルト文庫 (\476) [Amazon]

オブライエンとの取引でマックスはラファエルの身柄を確保することに成功する。虜囚となったことを悟ったサリエルだったが、キャッスルへの害意に気付いたラファエルによって同調を解かれてしまう。未だMP本部に収監されているシドーたちを救うため、単身救出に向かうラファエル。遂にユーベルメンシュの恐るべき力が覚醒しようとしていた。
1997年刊行。キル・ゾーンシリーズの9作目。地球編ともいうべき第一部のラストを飾る一冊。インフレ化する超能力バトルについてこられなくなった一般人キャラの皆さんはここでお別れ。ここいらで抜けておいた方が間違いなく長生き出来るだろう。単なる美形敵キャラだと思っていたマックス君が意外にもお茶目ないじられキャラであることが判ってきて、ちょっと楽しみが増えてきた。これで全体の半分くらいか?あと10冊くらいは続くのかな。[2005/05] ⇒次巻
グッドモーニング・ボルネオ キル・ゾーン
[須賀しのぶ] ★★★ 集英社 コバルト文庫 (\400) [Amazon]

ボルネオ島。コタキナバル基地。鬼のキャッスル分隊に配属された新兵ラファエルは、日々過酷な訓練に明け暮れていた。訓練後のある日、武器庫で出会った女性伍長ティナは、彼の目の前で突然倒れてしまう。彼女は妊娠中であることが判明するのだが、頑なに父親の名前を言おうとしない。パイロットのリグ中尉がどうやらお相手のようなのだが……。
1997年刊行。キル・ゾーンシリーズの10作目。第二部が始まるのかと思ったら、いきなりジャングル編に逆戻り。どうやらこれだけ「COBALT」連載の作品だったらしい。『キル・ゾーン』と『戦場のネメシス』の間に挟まるエピソード。正直、順番的にどうなのよって感がなきにしもあらず。
地上部隊とそれを支援する攻撃機の位置づけがイマイチよく判らないんだけど、コバルト文庫なんだからそこは突っ込んじゃダメ。まるで23世紀っぽく無いんですけどってツッコミも無しで。この話のオチで、作者のハッピーエンド主義が見て取れて、ああ、いい人なんだと今後の展開にちょっと安心。本編も悲劇的な終わり方はしないのではないかと予想。[2005/05] ⇒次巻
異分子 キル・ゾーン [須賀しのぶ] ★★★ 集英社 コバルト文庫 (\457) [Amazon]

火星の国家保安部によって連れ去られてしまったラファエル。彼を追って、マックスと共にキャッスル、エイゼンは地球を後にする。コロニーE(エルディア)までたどり着いた一行だったが、火星の工作員の活動によって、月面都市からの駐留部隊とコロニーの自衛軍とで抗争が勃発。彼らは不審人物として捕らえられてしまう。
1998年刊行。キル・ゾーンシリーズの11作目。ようやく第二部がスタート。マックスとの呉越同舟ぶりが楽しい。爆弾を埋め込まれたキャッスルと、生殺与奪の鍵を握るマックス。この仕掛けが将来的にどこでどう効果的に使われるかに期待したい。一方で火星元首のユージィン君がようやく登場。なかなか黒そうなキャラクターでこれも今後に期待。[2005/05] ⇒次巻
『恐怖の報酬』日記 [恩田陸] ★★★ 講談社 (\1,400) [Amazon]

根っからの飛行機嫌いを標榜し、海外旅行を頑なに避け続けてきた筆者だったが、イギリス・アイルランドへの取材旅行の日がとうとうやってきてしまう。噴き上げるエンジンの爆音。めくるめく浮遊感。揺れまくる客室内。長時間の拘束。言語に絶する恐怖体験を踏み越えて降り立った異国の地で彼女が感じ、見たものとは。
2005年刊行。恩田陸初のエッセイ作品。「IN☆POCKET」誌に2004年1月から10月にかけて連載されていた作品を単行本化したもの。装丁はダイヤモンドビッグ社の有名な旅行ガイド『地球の歩き方』 [Amazon] を多分にパロった仕様となっている。でも、恩田作品のブックデザインにしてはこれって少々ダサイのでは?という気が。
飛行機嫌いで有名だった恩田陸が、決死の思いでタラップを登り、イギリスとアイルランドに行って帰ってきた苦難の日々の記録。やっぱりこの人酒飲んでばかりだなとか、小説もそうだったけど本人も人間観察がシビアだなとか、これまで表に出なかったこの作家のリアルな部分が多少なりともわかったような気がするので、ファンが読むのであればかなり楽しめる。旅行で一番楽しいのは出掛けるまでの準備の時間。恐怖に震えながらも仕事を片づけ、旅行鞄を選び、持参する書籍を厳選する一連の行為に旅へのワクワク感が醸し出されていて微笑ましく読んでしまった。[2005/05]

獅見朋家の男には鬣(たてがみ)がある。中学生の成雄の背にもとうとう鬣が生える時がやってきた。学校をサボリ、奇人の書家杉美圃モヒ寛と山野を駆け回る日々を送る成雄だったが、一頭の馬が目の前に現れたその日から平穏な生活は音を立てて崩れていく。謎の襲撃者によって重傷を負ったモヒ寛。異界への入口は眼前に迫っていた。
2003年刊行。「群像」誌の2003年7月号に掲載された作品を単行本化したもの。
舞城作品の例に漏れず、今回も福井県西暁が舞台。山野を縦横に駆け回る闊達な少年成雄と孤高の変人モヒ寛。学校教育から離れた自然のフィールドで伸び伸びと育っていく主人公の姿を時にはダイナミックに、ある時はリリカルに叙情性豊かに綴っていく成長物語。って、嘘。いや、でも最初はあまりに展開が長閑なので、ひょっとしてこのままのノリで最後までいくのか?舞城作品なのに誰も死んでないし、そもそも全然エロくない。ただならぬ違和感を覚えながら読み進めていたのだが、瀕死のモヒ寛が発見された辺りから事態は急変。読み手は怒濤の勢いで異界に引きずり込まれていく。この疾走感はやっぱり舞城ならではだね。
しかし舞台となる異世界が『千と千尋の神隠し』 [Amazon] の出来の悪い戯画を見せられているようで正直かなり萎えた。いくらでもオリジナルな魔界を創造することが出来たであろうに、わざわざ誰もが知っているような有名作品からネタを引っ張ってこなくてもいいのに。執筆時期的に「千と千尋」ブームの頃だったのかね。せっかくの異界往還譚が安っぽくなってしまったのはあまりにも惜しい。
インパラは転ばない
[池澤夏樹] ★★★☆ 新潮社 新潮文庫 (\350) [Amazon] ※書影無し
人間は二本足で歩くことが出来るようになったけれども、そのために失ったものも数多い。四本足で歩くインパラは転ばないが、二本足出歩く人間はいつも転ぶ心配をしなくてはならない。異国の地で出会った事件の数々。イスラエルのジャンボパフェ。コロンボ空港の不思議な詐欺師。豊富な実体験を元に示される別の断面から見た世界の様相。
1990年に単行本版 [Amazon] が刊行されており、「Classy」誌に連載されていたエッセイが24編を収録。本書は1995年刊行された文庫版だが、新たに「カナディアン」誌「旅」誌などに掲載された18編が追加されている。一編あたり4頁前後と読みやすい。掲載紙の都合なのか『むくどり通信』同様に較べると旅行関連の記事が多い。パッケージツアーでは到底体験出来ないであろう海外でのエピソードは今回も魅力的。思わず自分も旅に出掛けたくなるけど、チキン野郎の自分にはこんな旅は出来そうにないような気が……。[2005/05]
ランブルフィッシュ 9 大会開幕奇襲編
[三雲岳斗] ★★★☆ 角川書店 スニーカー文庫 (\552) [Amazon]

フェニックス闘専とのSR戦が遂に始まろうとしていた。それぞれの思いを胸にテンションを高めていく恵里谷の面々。部隊の指揮を執る深見祭理は思いも寄らぬ奇策に打って出る。ガンヒルダに搭乗している筈の沙樹はトイレに監禁され、そしてパートナーの瞳子は沙気の双子の姉によって拉致されてしまう。二人の不在を余所に戦いの火蓋は切って落とされるのだが……。
シリーズ9作目。間に外伝が挟まったので少し間隔が空いた。メチャクチャ登場人物の多い作品なのでキャラクターの名前をついつい忘れてしまうのが悩みの種。人物紹介だけで見開き4頁使ってるけどまるで足りてないよ。
ようやくにしてSR編の決戦モードに突入。それでもいきなり戦闘シーンにはならないのはいつものパターンで、丹念に個々のキャラの作り込みをやり、枝エピソードの積み重ねを怠らないあたりが素晴らしい。今回もいくつものエピソードが並行して進行。まりあ絡みのネタはお約束ながらもツボな話で少し泣けた。要クンのお話しもなるほどそっちに振ってきたかとちょっと感心。こうなると忍の話があまり出てこないのが気にかかる。
で、SR戦闘に突入すると一気呵成の怒濤の展開。緩急の付け方がやっぱり上手い。祭理の大博打が奏功して攻めて攻めて攻めまくる恵里谷チーム。しかし一瞬の優位は僅かな齟齬から破綻してと、これ以上ないくらいの豪快な引きで次巻に続く。こんどは何ヶ月待てばいいんだろうか。[2005/05] ⇒次巻
ヤフー、アップル、アクセンチュア、ヒューレットパッカード、アメリカン・エキスプレス、モルガン・スタンレー。名だたる企業で採用されているハワード・ゴールドマンが開発した「すごい会議」のやり方。若くして単身アメリカに渡りシリコンバレーでのITビジネスで成功を収めた筆者がその理論と実践を自らの体験に即して紹介する。
2005年刊行。筆者は1964年生まれ。28歳でアメリカに渡りインターネット上でのマーケティング会社GAZOOBAを設立。2001年に同社を売却し一定の成功を収めて日本に帰国。アメリカ滞在時にハワード・ゴールドマンから学んだ「すごい会議」のやり方を精力的に各方面に伝承中。国内でもニッセン、リクルート、本田技研、富士ゼロックス、キヤノン販売など大手企業への導入実績が多数ある。
流行りのコーチング技術についての実践本。あちこちで話題になっていたので購入。本編は2パートに分かれていて、前半では筆者自らの体験に基づいて本理論の導入ケースを紹介、後半はそのエッセンスを抽出して汎用的に使えるようにまとめたインストールマニュアル。基本的に疑り深い人なので眉にツバをべとべとつけながら読んでみた。やる気を出させること。そして高いモチベーションを持続させて、いかにして成果に結びつけるか、この手のハウトゥ本のテーマは程度の大小はあってもこの基本線からはズレない。本書もその点では類書と変わらない。
本書の興味深い点は上記の成果を引き出すための細かな技術論を提案している点。「書いてから発表する」「うまくいっていることを三つ書く」「自分自身の問題点を挙げる」と、それほど奇抜な事は書いていないのだが、このシステムを踏まえて会議を進めていくと自然と問題点が浮き彫りになり、具体的な対応を取らせるに至る道筋が見えてくるようになっている。難しいことは一つとして書いていないし、提案されていることにそれぞれ理にかなった説明があるので、これは頭の固い人間でも比較的素直に受け入れられそう。
あとはこの「すごい会議」を実際の現場に導入してやりきるだけの意志の力が現場のリーダーにあるかどうか。こればかりは本をいくら読んでもどうにもならないので、各人の自覚次第か。ただ、うまくいかない状況が目の前にあって、なんとかしたいという意志はあるけれどどうすればいいか判らない……、みたいな人間にとっては有力な指針となりうるであろう一冊。オススメ。[2005/05]
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