
現実とは異なる歴史を歩んだ近未来の日本。米中に支配されスラム化が進む東京。臨時雇いを転々としながらその日暮らしを続ける英治はある晩仲間たちと共に地見屋の屋台を襲撃する。襲われたハルは人知れず材料を集め爆発物を作ろうとしている男だった。いつしかコンビで稼ぐようになった英治とハル。彼らは世にも奇妙な動物、象の噂を聞きつける。
2003年刊行。第15回日本ファンタジーノベル大賞優秀賞受賞作。 ちなみに大賞受賞は『太陽の塔』@森見登見彦。8つの章に別れているが章ごとに主人公が変わり視点も変わる。連作短編というほどに密接なつながりは無く、象というテーマを軸に緩くつながっているという感じ。蔓延する貧困。激発する犯罪。伝染病の恐怖。希望の見えない暗澹たる時代を生きる人々を描く異色ファンタジー。
描かれている未来世界の救いの無さが徹底している。不味そうな食べ物。最悪の労働環境。生まれる子供は皆奇形児ばかり。読んでいてうんざりしてしまうくらい。生々しいイメージを喚起する描写力はデビュー作にしては立派なものだと思う。食うか食われるか、弱肉強食の世界を生き抜いていく登場人物たちの逞しさ、したたかさも強烈に印象に残った。終盤の展開が強引に過ぎたのが難点と言えば難点か。美しい着地点ではあると思うけど。[2005/09]

中世の時代にも巨額の負債を背負い破産する者たちは存在した。彼らは何故莫大な借財を抱えることになったのか。自己破産のような救済措置が無かった時代に、破産者たちはどのような法的処理を受けたのか。債権者たちはいかにして債務を取り立てることが出来たのか。具体的な事例を元に中世期の金融システムを解き明かしていく。
2005年刊行。筆者は北海道大学大学院の助教授。専攻は日本中世史。
15世紀前半。室町幕府六代将軍足利義教の治世に作成された裁判記録「御前落居記録」中の判例を元にした考察。実際に起きた訴訟事件を読み解きながら中世の金融システムについて考証を巡らしていく。本人の承諾が無ければ質草を流せないという慣習法の存在や、所領を債権者に貸与し年貢をもって返済に充てるなんて借り手有利の判例が興味深い。しかしこの時代の金貸しって僧侶ばっかりなのは驚きだった。
日本史リブレットは山川出版社が1998年から刊行している叢書。既刊が50数冊程出ている。ラインナップを見る限りでは魅力的なテーマが多いので、あと何冊か購入してみるつもり。かなり平易に書いてくれてはいるが、ある程度の歴史知識がある人間向けに書かれているので少々敷居は高いかな。もっとも歴史好き出なければ手にも取らないだろうけど。[2005/09]
蜃気楼の旅人 グインサーガ98
[栗本薫] ★★★ 早川書房 ハヤカワ文庫 (\540) [Amazon]

記憶をうしないノスフェラスを放浪していたグインはセムとラゴンの民に助けられる。てあつい看護で肉体的には復調のきざしを見せはじめたグイン。しかしいぜんとして、なぜじぶんがここにいるのか、じぶんがなにものであるのか、肝心の記憶は一向にもどらず、グインは焦燥の念にかられる。ノスフェラスへの別離を決意したグインにラゴンの勇者ドードーが立ちはだかる。
2004年刊行。シリーズ98冊目。表紙絵からも判るとおり、ノスフェラスといえばこいつら、ってことでザザとウーラが合流。原始レベルまで退行していたグインの身の回りがいきなり便利になった。辺境編であれだけ危険だったノスフェラスは何だったんだと。しかしザコ敵をバッタバッタと切り伏せていくグインはやはり格好良いな。ラストの急展開はちょっと驚き。なんでこんなところにいるんだよ>>イシュトヴァーン。[2005/09] ⇒次巻
ルードの恩讐 グインサーガ99
[栗本薫] ★★☆ 早川書房 ハヤカワ文庫 (\540) [Amazon]

ルードの森で再会をはたした豹頭王グインとゴーラの覇王イシュトヴァーン。モンゴールの反乱軍への処遇をめぐり二人のあいだにあらたな対立の火種がうまれる。これまでの記憶を無くしていることをしられたくないグインは陣営からの脱出を計画するが、反乱軍の首領ハラスの存在があしかせとなってしまう。一計を案じたグインはザザとウーラにとある作戦を指示するのだが。
2005年刊行。シリーズ99冊目。長年の目標であった100巻まであと1巻。遂にリーチ。とはいいながらも内容的にはいつものダラダラが帰ってきた。普通に行動も出来るし判断も出来るけど肝心なことは思い出せません、なんて非常に都合のいい記憶喪失状態に陥り中のグイン。だからってわけは無いんだろうけど、執拗なまでに繰り返される回想という名のページ稼ぎが読み手をとことん退屈させる。何度この話やってるんだか、もういい加減勘弁して欲しい。[2005/09] ⇒次巻
豹頭王の試練 グインサーガ100
[栗本薫] ★★☆ 早川書房 ハヤカワ文庫 (\540) [Amazon]

モンゴール反乱軍の首領ハラスを逃亡させ、みずからもゴーラ軍からの脱出をはかったグインだったが、反乱軍はみなごろしに、ゆいいつ命をながらえたハラスもグインの行動をしばるための人質になってしまう。イシュトヴァーン王の虜囚として捕縛され、イシュタールへ移送されることになったグイン。妄嫉に囚われたイシュトヴァーンによる凄惨な拷問が始まろうとしていた。
2005年刊行。遂に100巻達成。中坊時代から読んできた身としては感慨深いものがあるけれども、肝心の本編がここまで品質が劣化してしまうとは20数年前には思いもしなかったよ。100冊も読んでしまったので惰性で最後まで読むけどね。
肝心の本編だけど、何度も何度もグインに見捨てられてすっかり「捨てられた子供」状態のイシュトヴァーン。暗い情念の炎を燃やしながらねちねちとグインをいびり倒す気が滅入るような内容。しかも展開が異様に遅いので読んでいて疲れること必至。再度逃亡を図ったグイン(ザコ敵は相変わらずアッサリ殺す)を助けたのはなんと意外なあの人でした!って流れはまあ良かったかな。[2005/09] ⇒次巻
北の豹、南の鷹 グインサーガ101
[栗本薫] ★★★ 早川書房 ハヤカワ文庫 (\540) [Amazon]

イシュトヴァーンの虜囚となっていたグインはすきをみて逃亡。ルードの森をさまようが、ゾンビの大群にかこまれ窮地におちいる。精根つきはてていたグインを救ったのはかつてのアルゴスの黒太子スカールその人であった。ようやくにしてルードの森を抜けた一行だったが、イシュトヴァーン軍の追っ手は目前にせまっていた。
2005年刊行。シリーズ101冊目。遂に邂逅を果たしたグインとスカール。長らく引っ張ってきた星船問題だけど、変態星人アモンとの不毛な戦いの中で流されてしまった感が強くて、グイン独力での解決が済んでしまったように思うのだけどまだその先があるのだろうか?そもそもスカールって自らの寿命や、部の民の命を犠牲にしてまでノスフェラスに行った意味ってあったの?という疑問が常につきまとうわけだが、グインの記憶喪失にかこつけてこの問題は生ぬるくスルー。このまま放置されないことを祈りたい。
イシュトヴァーンに追いつかれてからの展開はちょっぴり燃えた。戦闘シーンだとそれなりには盛り上がるな。グインとスカールの二人を相手にしなきゃならなかったイシュトヴァーンは可哀想だ。[2005/09] ⇒次巻
火の山 グインサーガ102 [栗本薫] ★★☆ 早川書房 ハヤカワ文庫 (\540) [Amazon]

イシュトヴァーンに瀕死の重傷を負わせ、かろうじて死地をいきのびたグインとスカール。ユラ山地へと進路をとったかれらだったが、とつぜんの山火事がそのゆくてをはばむ。闇の魔導師グラチウスはことばたくみに救済の手をさしのべようとするが、グインは敢然とそれをこばむ。いちめんに広がった猛火はついにかれらを押し包もうとするのだが……。
2005年刊行。シリーズ102冊目。場つなぎエピソード。イシュトヴァーンのうなされシーンは無駄に長過ぎるし、山火事シーンの描写もありえないくらいに冗長。こんなの1/4の文章量で書けてしまいそう。これだけの山火事を起こしておきながら、単なるグラチウスの罠シリーズの一つにしか過ぎなかったってオチも萎える。[2005/09] ⇒次巻
ベルカ、吠えないのか? [古川日出男] ★★★☆ 文藝春秋 (\1,714) [Amazon]

第二次大戦中、日本軍の撤退に伴いアリューシャン諸島キスカ島に置き去りにされた四頭のイヌ。米軍の進駐を受けた島で、彼らはそれぞれの新たな運命を生きることになる。あるものは軍用犬としての進化を遂げ、あるものはロシアの凍土で橇を引く。繁殖し増え続けていくイヌたち。彼らの子孫は世界の大地を駆け抜けていく。
2005年刊行。古川日出男としては11作目。恩田陸『ユージニア』と共に直木賞にノミネートされた作品。残念ながらいずれも落選したけど。戦時下に置き去りにされた四頭のイヌのその後を描く章と、現代のロシアの物語が交互に描かれていく。イヌに着目して描かれた古川版異色の現代史。
「ベルカ」とは史上初めて宇宙から生還したつがいのライカ犬の片割れの名前。以後、英雄犬として軍用犬の繁殖に使われ同名の子孫が本編でも登場する。島、犬、置き去りとかいうキーワードから、『南極物語』 [Amazon] みたいな感動系をイメージしがちだけど、そこはやはり古川日出男、一筋縄ではいかない。予想を思いっきり裏切ってくれる。
家畜として無惨に使い捨てられていくイヌ。戦場に送り込まれたり、繁殖犬として使い捨てられたりと、数奇な運命を辿っていく彼らの生き様を、湿っぽくならずに、それでいて不思議に暖かみを感じさせる文体で綴っていく。描写対象との距離感の取り方が絶妙。イヌを変に擬人化させたりして、過剰な人間の想いを託したりしていないところも好印象。三冊しか読んでいないけど未だこの作家の奥行きが読めない。[2005/09]
紅玉の火蜥蜴 [秋月涼介] ★★★ 講談社 講談社ノベルズ (\980) [Amazon]

悪夢の爆弾魔、見えざる左手切断魔、数々の未解決犯罪の影に怯えるこの街に新たな犯罪者が降臨した。相次ぐ連続放火殺人事件。鴻薙冴葉警視によって"金属の火蜥蜴"と名付けられた放火犯は警察の厳重な警戒をものともせずに犯行を重ねていく。増え続ける出火ポイント。殺害された被害者たちに共通する要素とはいったい……。
第20回のメフィスト賞受賞作品『月長石の魔犬』に続くシリーズ第二作。秋月涼介としては三作目の作品。2004年刊行。前作とはうってかわってライトノベルテイストな装丁。本文内にも挿画が入った。内容や想定読者を考えると賢明な判断か。連続放火殺人を追うミッシングリンクモノの変形。この事件と平行して悪夢の爆弾魔さんや見えざる左手切断魔さんが暗躍していたりするので、この巻から読み始めるのは避けた方が無難。
「母親を火事で亡くした人物」というのが大量に出て来て、いくらなんでも無理がありすぎだろうと思ったけど、それなりの理由がラストで開示されるので、まあお話しとしては出来ないこともないかと、いちおうの納得。しかしあの犯人があれだけの規模の着火装置を独力で作って仕掛けて回れるかね……。
この街は連続殺人犯のメッカ。絶対に住みたくねえ(笑)。未だ正体不明の悪夢の爆弾魔。次あたりで少しは顔を出してくれるだろうか。地味に伏線も撒いているようだし、風桜クンはやっぱり怪しいね。[2005/09]
ジャングル・フィーバー キル・ゾーンリミックス
[須賀しのぶ・梶原にき] ★★★ 集英社 コバルト文庫 (\533) [Amazon]

コタキナバル基地。新兵のラファエルとシドーが駆り出された小隊対抗のバスケットボール試合に仕組まれた恐るべき罠の顛末を描く表題作。スクリバ大佐の元から脱走したキャロラインの行方は?「大脱走」。火星で孤独な日々を送っていたマックスに近づいてきた一人の少女。果たしてその目的は?「アナスタシア」。中短編4編+αの番外編。
1999年刊行。キル・ゾーンシリーズの16作目。雑誌「コバルト」掲載の短編数本に書き下ろし数編を加えて文庫化。短編あり、マンガあり、設定資料集ありのサービスパック。
ジャングル編の2エピソードはお気楽なショートストーリー。中編の「アナスタシア」はキル・ゾーン本編ではあまり描かれてこなかった火星側の事情を垣間見ることが出来る一品。マンガ部分は実際にイラストを書いている梶原にきが担当しているので読んでいて違和感無し。キャッスルが沢山出てくるのでファンとしては嬉しい。
そろそろ終盤。が、さすがに古本で揃えるのがシンドクなってきた。長編コミックでもよくある話だけど、後半の巻に行くほど揃えるのが難しい。全然置いて無いんだよな。残り四冊ってところまで来てるんだけど、さてどうするか……[2005/09] ⇒次巻

1992年のデビューから14年。30作を越える数多くの小説作品を発表してきた恩田陸。彼女は作家業の傍らに年間200冊もの本を読み、映画、演劇方面へのチェックも怠らない。そんな恩田陸が14年の間に各種媒体に書き綴ってきた膨大エッセイ群113編を一挙収録。その生い立ちや、創作スタイルをも垣間見ることが出来るファン必携の一冊。
2005年刊行。売れっ子作家でありながら尋常で無い本ヲタ。それでいて映画や演劇にも造詣が深いとなるとそりゃ書かせる方はほっとかないだろうな、ってことでファンとしては追いかけるのが到底不可能な状態になっていたエッセイ群がやっとまとめて読めることに!その数なんと113編ということで非常に読み応えのある内容になっている。読むのに一月かかっちゃったよ。
これまであまり明らかにされてこなかった個人的な経歴が判ったことが何よりも嬉しい。転居歴としては、松本(小学校低学年)⇒富山(小学校高学年)⇒仙台(中1〜2)⇒水戸(高校卒業まで)⇒梅ヶ丘(大学二年まで)⇒高田馬場(大学後半〜社会人初期)⇒神田川のほとり(〜現在)ってことでいいのかな。 具体的な地名が判ってくると、あの物語のあのシーンはここから取っているのかな、なんて妄想も出てきたりして楽しい。
しかし、全体のかなりの量を占める本ネタの数々には圧倒される。当然のことながらお奨めになっている作品は読んでみたくなるのだけれど、どうせなら巻末に言及作品リストもつけて欲しかった。やっぱり自分でリスト作るしかないのかな……。[2005/09]
七姫物語 [高野和] ★★★☆ メディアワークス 電撃文庫 (\550) [Amazon]

戦乱の時代を迎えたとある王国。先王の娘を騙って偽姫が各地で名乗りを上げる。七つの都市に七人の姫。野心家の武将テン・フォウその軍師トエル・タウによって、9歳の少女カラスミは七宮カセンの姫として担ぎ出されていた。カラスミが12歳になった時、近隣の都市ツヅミはカセンへの侵攻を開始。遂に戦乱の火蓋が切って落とされる。
第9回電撃ゲーム小説大賞金賞受賞作。2003年刊行。架空王朝ファンタジー。って、ファンタジーというと語弊があるか、魔法だの神々なんてのは出てこないので、雰囲気的には『十二国紀』 [Amazon] から超自然的な要素とお説教部分を省略、そいでもって『後宮小説』 [Amazon] の茶目っ気と王朝浪漫をプラスしたような感じ。
物語は終始、孤児であるカラスミを中心に展開。政治だの戦争だのって部分は直接はあまり出てこない。その辺りまで本気で書いてしまうとこの分量では到底終わらないだろうから正解といえば正解か。主人公の真っ直ぐな性格がとにかく愛らしく、本作の最大の魅力。あくまでも偽姫として立つ事を決意する六節の最後のシーンは、実に素敵に格好良く決まって鳥肌モノ。決めるべきところをしっかり決められるのは良い書き手。
謎の衣装役さんの存在とか、早くも姿を現しているラスボス?黒曜姫とか、テン・フォウとトエル・タウの狙いは何なのかとか、楽しみな要素が目白押しで続きが愉しみ。この作家、ラノベ畑の人にしては珍しく遅筆でこのシリーズ実はまだ三冊しか出ていない。各巻ごとに一姫ずつ片付けていくようだけど、完結は当分先になるのかな。[2005/9] ⇒次巻
氷菓 [米澤穂信] ★★★★ 角川書店 スニーカー文庫 (\457) [Amazon]

高校に入学した折木奉太郎は姉の薦めで廃部寸前であった古典部へと入部する。一人で部室を独占出来ると意気込んでいた奉太郎だったが、もう一人の新入部員千反田えるの登場によって彼の高校生活は大きく進路修正を強いられることになる。古典部の文集「氷菓」。そのタイトルに込められた意味とは。三十三年前に起きた、ある悲劇とは一体……。
第五回角川学園小説大賞奨励賞受賞作。2001年刊行。 当初はスニーカーのミステリー倶楽部から出ていたけどそちらは絶版。現在は角川文庫から新装版が出ている。最初の頃は売れなかったんだろうなあ。 もっとも、今回のカバーも決して売れそうなイメージは感じられないイマイチな装丁。ちょっと気の毒だ。 (※ちなみに2005年10月現在Amazonの書影はスニーカー版のまま)。
余談ながらスニーカーのミステリー倶楽部は位置づけが微妙な気がする。ラノベ読者をミステリの世界に呼び入れたいんだと思うけど、イラストを無くしたのは冒険に過ぎた。これだとラノベ読者は手を出しにくいだろう。逆にミステリ読みはそもそもスニーカーだからと食指を動かさないし。
で、本編だ。省エネ型無気力少年の主人公が、ヒロイン(天然お嬢様キャラ)の無邪気な好奇心に引きずられて、やむをえず学園の謎に立ち向かっていく連作短編集。登場する謎は事件とも言えないような無いささやかな出来事ばかり。東京創元社から出ているいわゆる日常の謎系に近いテイスト。メインの四人のキャラ立ちが良く、各編とも程よい短さなのでサクサクと読み終えてしまった。
それぞれの章で小テーマを解決しながら、全編を通じて設定されている大テーマに最終的には迫っていくんだけど、いかにも青春ミステリというべきビターエンドなオチに感心。タイトル名に込められた意味も良かったけど、学園祭の異称の元ネタには泣きそうになった。ちっとも気付かなかったよ。 [2005/09] ⇒次巻
愚者のエンドロール
[米澤穂信] ★★★☆ 角川書店 スニーカー文庫 (\533) [Amazon]

文化祭を目前にして脚本担当が病気でダウン。二年F組の制作したビデオ映画は未完のまま残された。廃屋の密室で片腕を切断されて殺害された少年。彼を誰がどのようにして殺したのか。映画の結末を見つけて欲しいという世にも奇妙な依頼に巻き込まれていく古典部の面々。関係者からの聞き取りを続け行く中で、脚本家の意図が少しずつ明らかになっていくのだが……。
2002年刊行。『氷菓』に続く米澤穂信の古典部シリーズ第二作。こちらも当初はスニーカー文庫のミステリ倶楽部枠で出て、現在は角川文庫版に切り替わっている。 こちらも見た目はスニーカー版の方がいいなあ。 (※ちなみに2005年10月現在Amazonの書影はスニーカー版のまま)。
連作短編形式を取っていた前作とうって変わって今回は長編作品に。少し読んでみると判るけど、『毒入りチョコレート事件』 [Amazon] なんだなこの話。現実に起きた事件ではなくあくまでも創作のオチを推理するという設定が、このタイプの話をとてもやりやすくしてくれている。未完の創作物であればいくらでも結末が用意出来るわけで、これはなかなかに素晴らしい着想。渋いな。渋すぎる。青春ミステリとしてのせつなさ成分は前作よりも減ってしまったけど、ミステリとしてのマニア度は格段にアップ。しっかり黒幕が居たりするところもサービス精神旺盛でよろしいのではないかと。折木(姉)はいったい何者なのだろうか。[2005/09] ⇒次巻
火事と密室と、雨男のものがたり
[浦賀和宏] ★★★ 講談社 講談社ノベルズ (\950) [Amazon]

八木剛士のまわりで相次いで発生する放火事件。首吊り死体として発見された女子高生。二つの事件には関連があるのか?松浦純菜に引きずられるようにして、事件に介入していく剛士だったが、調査を進めていくうちにある男の存在が浮かび上がってくる。不登校を続ける引き籠もりの少年が隠し持っていた驚くべき力とは。そして事件の真相は……。
奇跡の男八木クンシリーズの第二作目。 2005年刊行。今回から本文内にもイラストが入った。劇画タッチとでもいうべきか、対象読者を考えると微妙な絵柄選択。純菜のイラストはどうもイメージと合ってないんだけど。八木クンのビジュアルを見せないのは自主規制なのだろうか。どれくらい不細工なのか見てみたかった気もする。
前作でいちおう純奈といい感じで終わった八木クンだが、やはり生まれもっての非モテ力に引きずられて、ネガティブな方向にどんどん妄想がドライブしていくところがいかにも悩めるワカモノって感じで良く書けている。そうだ、世の中はそんなにうまくはいかないものなのだ。ハッピーエンドで終わっても人生は続いていく。
で、新たなネガティブクンとしてヒキヲタの南部クンが登場。彼の持つ驚くべき特殊能力は瞠目に値する。スゴイ。もしかすると、これから先こんな連中がわらわらと仲間に増えていくんだろうか。次はアキバ系キモヲタクンか、ゴスロリ系腐女子サンの登場を希望しておこう。
全編を八木&南部のネガティブパワーが埋め尽くしているせいか、推理小説としての濃度はかなり抑えめ。ミステリ的な仕掛けや謎を描くのは二の次で、学校ヒエラルキーの底辺を彷徨う少年たちの鬱屈した想いを赤裸々に綴りまくるのがどちらかというとメイン。颯爽としてないし読後感も良くないけど、こんな青春ミステリもあっていいと思う。少なくとも安藤クンよりは遙かに感情移入出来るぞ。[2005/09] ⇒次巻
レベリオン 彼女のいない教室
[三雲岳斗] ★★★ メディアワークス 電撃文庫 (\670) [Amazon]

恭介の監視役を突然解任された香澄は統合計画局の本部に召喚されていた。幽閉に近い待遇に反発を覚える彼女だったが、そこで出会った最後のレベリオン原種紫焔から驚くべき真実を告げられる。一方、香澄に去られた恭介の元には新たな監視者皆瀬梨夏が現れる。激化していく戦いの中で、彼らは第二段階レベリオンへの進化を遂げていく。
2002年刊行。レベリオンシリーズの四作目。次巻が最終巻らしく、ラストに向けての謎解き&ラスボス登場への布石編。アメリカに戻った香澄に告げられるレベリオン事件の真相。いかにもご都合主義的な高齢者キャラが登場して解説。ついでに秘技の伝授までしてくれるのは話が少々話がうますぎやしないか。
これまで一緒に行動していた恭介と香澄が初めて離ればなれになるわけだけど、恭介の思い人がそもそも香澄では無いので、この点どうも盛り上がりに欠けるのが残念。これをきっかけに香澄への想いに気付いたって流れでもないしな。見所としてはアーレン・ヴィルトールの最期だけど、ラス前に死んでしまうのはちょっとショック。しかも死に損だし。[2205/09] ⇒次巻
クドリャフカの順番 「十文字」事件
[米澤穂信] ★★★☆ 角川書店 (\1,600) [Amazon]

文化祭に突入した神山高校。しかし古典部では大問題が発生していた。大量に作りすぎてしまった文集をいかに捌くのか。その数200部。四人の部員たちが奔走する最中、学園内では奇妙な連続盗難事件が発生していた。事件を解決して古典部の知名度を上げ、文集の完売を目指すのだ。無理難題を突きつけられた奉太郎がたどり着いた結論とは。
2005年刊行。『氷菓』『愚者のエンドロール』に続く米澤穂信の古典部シリーズ第三作。三年振りのシリーズ再開だが、評価が上がったのか文庫ではなくソフトカバー版での刊行。入手が困難であった既刊二作も角川文庫版として再文庫化されている。
一言で言ってしまうと文化祭小説(そんなジャンルがあるのかは知らないけど)。『イリヤの空 UFOの夏』や『ビューティフルドリーマー』 [Amazon]の文化祭シーンを思い出してもらえると判りやすい。メインエピソードの「十文字事件」も当然しっかりと描かれているけれども、サブエピソードのお料理バトルだとか、漫研内部での麻耶花の奮闘や、ワラシベ長者化していく奉太郎、一向に実を結ばない千反田えるの営業行脚なんて話の何れもが面白くて目が離せない。文化祭ならではの非日常の高揚感が見事に表現されていて、文化部出身者的にはノスタルジーに浸れること必至。 とても楽しく読ませてもらった。読み終えるのが惜しかったくらいだ。
で、当然のことながらミステリ部分も丁寧に作り込まれている。今回も某有名作品を本歌取りした構成になっていて、ミステリ好きとしては嬉しい仕掛け。相変わらずの誰も死なないミステリ。一抹の寂しさの残る幕の引き方も良かったと思う。僅かに惜しい点をあげるとすればもう少し犯人側の気持ちに頁を割いて欲しかったことだろうか。一人称で書いているから難しい部分もあるけど。[2005/09] ⇒次巻
ニンギョウがニンギョウ
[西尾維新] ★★ 講談社 講談社ノベルズ (\1,500) [Amazon]

十七番目の妹が死んだ。五年ぶり四回目の自殺だった。妹が死んだからには映画を見なくてはならない。奇妙な衝動に突き動かされた私の彷徨を描く「ニンギョウのタマシイ」。腐敗した右足を治癒すべく、五番目の妹と共に人体交換屋に出掛けた私のお話し「タマシイの住むコドモ」他、計四編の物語を収録した短編集。
2005年刊行。「メフィスト」に掲載された3編に書き下ろし1編を追加。講談社ノベルズ初の箱装とはいえ150頁足らずで\1,500はぼったくりに近い。戯言人気に寄りかかった、売り切り商売に思えてならない。
とうとうやってしまったか、若気の至り小説。自殺しては蘇る妹。世話焼きだったり、一度も会ったことがなかったり、老婆だったりと、挙げ句の果てには熊だったりと、さまざまな特性を持つ二十数人の妹たちとの交流を通して、家族の絆とは、人間存在とは何かを問いかける問題作(適当)。10年経って読んだら、作者自身羞恥のあまり原稿燃やしかねないような話。 舞城みたいにブンガクな方向へ行きたかったのか、それとも編集側がそうさせたかったのか、売る事を考えたら、既存路線でもうしばらく引っ張った方がいいんじゃないの?>講談社の人。[2005/09]
θは遊んでくれたよ [森博嗣] ★★★ 講談社 講談社ノベルズ (\900) [Amazon]

高所から飛び降りて自殺した男性の額には「θ」の文字が印されていた。そして、その後相次いで発見された転落遺体にはいずれも「θ」の文字が体に書き込まれていた。あくまでも自殺?それともこれは連続殺人事件なのか。そして「θ」には何の意味があるのか。旧友反町愛から事件についての情報を得た西之園萌絵は得意の推理を巡らしていく。
2005年刊行。Gシリーズ(なんでG?)の二作目。
前作よりはマシだが、やっぱりヌルイ。 大人になったと言ってしまえばそれまでだけど、萌絵の弾け具合が著しくダウン。その分物語の牽引役がいなくて全体的な魅力も低下。犀川先生の登場回数が増えるのは従来のファンとしては嬉しいんだけど、その分謎解き役の海月クンの存在感が薄くなってしまうのも問題か。懐かしい人の名前も出てきているけど、結局の所これってやっぱり真賀田センセ方面の話につながっているわけ?そっち方面は苦手なので正直勘弁して欲しい。[2005/09] ⇒次巻
ミナミノミナミノ [秋山瑞人] ★★★☆ メディアワークス 電撃文庫 (\530) [Amazon]

夏休み。叔母の口車に乗せられて孤島、岬島に一人で向かうことになってしまった武田正時。島は定期便すらない僻地だったが、訪れた正時は島民たちの熱烈な歓迎を受ける。そこで出会った少女春留は、見た目のかわいらしさとうらはらに、周囲とうち解けることがない気むずかしい性格の持ち主だった。次第に島の生活に慣れていく正時であったが、島には信じられない秘密が隠されていた。
2005年刊行。『イリヤの空 UFOの夏』で一山あてた秋山瑞人の最新作。 って、また夏のボーイミーツガールものなのか。平凡な少年に、ちょっと(すごく)わけありの女の子という組み合わせはどうしても「イリヤ」を思い出してしまう。しかもイラストレータも駒都えーじと来ているので二匹目のドジョウ狙いがありありと透けて見えて、志的にはこれってどうなのよとツッコミを入れたくなってしまう。
とはいえ、そんな事情を取っ払って読んでみるとそれでも面白いのが秋山瑞人作品。転校を繰り返してきたせいか、世慣れていて異文化への順応が早い主人公。いささかとっつきにくいヒロインともアッサリ仲良くなって……と思わせておいて、いざヒロインの秘密が明らかになるやいなや、ドン引きの腰砕け状態。悩める青少年の葛藤を描かせるとやはり巧いなこの作家は。次の巻は出来るだけ早めにって後書きで書いてあったけど、もう10月。完結まで何年もかかるのは許して欲しいんだけど。[2005/09]
「ギロチン城」殺人事件
[北山猛邦] ★★★ 講談社 講談社ノベルズ (\840) [Amazon]

「Help」という文字を書き記す自動人形。そして残されていた女性の写真。それは助けを求める呼びかけなのか。自称探偵の幕辺と、学生の頼科は不気味な噂が残る「ギロチン城」へと乗り込む。そこは数多くの処刑具を蒐集していた古物商道桐久一郎が謎の死を遂げた場所だった。強引に城内への進入を試みた幕辺と頼科は、道桐家の奇妙な人々に出会うことになる。
2005年刊行。「城」シリーズの四作目。探偵役の二人にヒロインが危機を伝える方法はものすごく到達確率が低そう。万が一の可能性に賭けたという見方も出来るとは思うけど……。根本的なトリックも含めて大小の無理が各所に見受けられるのはこの作家の基本属性なので、そこを突っ込むのは無粋と言えるのかも知れないが。
豪快な物理トリックを何よりも愛する北村猛邦だが、今回の仕掛けは少々複雑に過ぎていて、いつもの見た瞬間腑に落ちるような明解なものでなかったのが惜しまれる(解説用のFLASHを配って欲しい!)。登場人物のネーミングすらトリック構築の中に組み込んでしまう思い切りの良さはさすがだと思ったけど。[2005/09]
|