2005年11月

『ネコソギ』の最終巻が出て遂に戯言シリーズが完結。西尾維新の今後が気になる。
間違っても『ニンギョウガニンギョウ』の方向にはいかないでね。

書籍名
作家名
出版社
価格
コメント
お薦め度
錦繍打鈴 銀葉亭茶話 金蓮花 集英社 \409
王道を行く薄幸ヒロイン。
★★★

銀珠綺譚 銀葉亭茶話

金蓮花 集英社 \450
いくらなんでも虎の絵まで表紙に入れなくても(笑)。
★★★

春期限定いちごタルト事件

米澤穂信 東京創元社 \580
小山内さん萌え。
★★★☆

七姫物語
第二章 世界のかたち

高野和 メディア
ワークス
\570
早くもインターミッション。
★★★

歪んだ創世記

積木鏡介 講談社 \780
クの人まで出すのはヤリスギ。
★★★☆
わが名はレッド シェイマス
・スミス
早川書房 \680
もう一頑張り欲しかった。
★★★

トリニティブラッド
Canon 神学大全

吉田直
角川スニーカー
文庫編集部編
角川書店 \656
これでホントに最後。
★★★

ネコソギラジカル 下
青色サヴァンと戯言遣い

西尾維新 講談社 \1,080
非通知の人のシリーズともちょびっとリンク。
★★★☆
メモリアノイズの流転現象 上遠野浩平 祥伝社 \638
今回は判りやすい。
★★★

ネクロポリス 上

恩田陸 朝日新聞社 \1,800
ガッチやってみたい。
★★★☆

ネクロポリス 下

\1,800

湖畔のマリニア
グインサーガ104

栗本薫 早川書房 \540
懐かしい人が復活。
★★★
七姫物語
第三章 姫影交差
高野和 メディア
ワークス
\590
まだまだ先は長そう。
★★★☆

ぼくのミステリな日常

若竹七海 東京創元社 \660
秀作。良くできてる。
★★★☆

陽気なギャングが地球を回す

伊坂幸太郎 祥伝社 \838
上手いが軽い。
★★★☆

裏山の宇宙船

笹本祐一 朝日ソノラマ \1,100
盛り上がらず。
★★★

前の月←  HomePage  →次の月

錦繍打鈴 銀葉亭茶話 [金蓮花] ★★★ 集英社 コバルト文庫 (\409) [Amazon]

錦繍打鈴(たりょん)

百年の歳月が流れ、かつて蝶々姫・明蘭と呼ばれていた少女は人界に転生した。新たな名は呉楓蘭。彼女は漢城の茶商人の娘として生まれ、美しく成長していた。金楓英との再会を果たした楓蘭だったが恋を忘れていた彼女は、楓英の気持ちを受け止めることが出来ず宮廷への出仕を決意してしまう。謀略渦巻く後宮で楓蘭を待っていたのは過酷な運命だった

1996年刊行。朝鮮文化をベースにしたファンタジー。銀葉亭シリーズの四作目。薄幸の美少女蝶々姫を主人公とした作品としては二作目。

今回もメロメロ。おいおい、そんなことしている暇があるんならくっついちゃえよお前らという読者のツッコミを余所に、今回も不幸街道まっしぐらのヒロイン。悲劇的な結末に雪崩れ込んでいくわけだけど、楓の人サイドの視点が無いので、むざむざヒロインを死なせちゃってるように見えてかなり情けない>>楓の人。蝶々姫シリーズはあと一冊続く模様。[2005/11] ⇒次巻

銀珠綺譚 銀葉亭茶話 [金蓮花] ★★★ 集英社 コバルト文庫 (\450) [Amazon]

銀珠(うんじゅ)綺譚―銀葉亭茶話

生まれながらにして耳朶に銀の珠を持つ少女尹珠娜は<<銀珠の巫女>>と呼ばれ、その力と美貌故に両親に売られ巫女の館に引き取られていた。彼女こそはかつての蝶々姫、明蘭が三度人界に転生した姿だった。しかし虎に食われる運命「虎食八宇」の定めが珠娜を待っていた。楓英たちは救出に赴くが、果たして運命は変えることが出来るのだろうか。

1998年刊行。朝鮮文化をベースにしたファンタジー。銀葉亭シリーズの五作目。薄幸の美少女蝶々姫を主人公とした作品としては三作目。前の巻から二年も待たされたわけで、リアルタイムで読んでいた読者にとっては待望の続編だった筈。

二度目の転生先でもまたしても悲惨な運命に翻弄にされるヒロイン。ここまでやると立派だ。それにしても夜伽を命じられても、自動的に相手の男が昏倒してしまう貞操防御システムってのは都合良すぎ(笑)。煮え切らない金楓英が頑張って、ようやくハッピーエンドになってくれたので、ずっと見守っていた読者としては、やっと安心出来たのではなかろうか。これで蝶々姫のお話は一段落で次からは新展開らしい。そろそろ銀葉亭の主のお話になるのかな。[2005/11] ⇒次巻

春期限定いちごタルト事件
[米澤穂信] ★★★☆ 東京創元社 創元社推理文庫 (\580) [Amazon]

春期限定いちごタルト事件

諸般の事情から地味な高校生活を指向する小鳩君と小佐内さん。しかし彼らの前には何故か不思議な事件ばかりが舞い込んでくる。それは無くなったポシェットの行方だったり、残された一枚の絵の謎解きだったり、美味しいココアの入れ方の探求だったりと様々だ。そして盗まれた小佐内さんの自転車。事件は意外な展開を遂げていくことになる。

2004年刊行。スニーカー文庫でデビューした米澤穂信が東京創元社向けに書いた書き下ろし新シリーズ。『氷菓』と同じスタイルの連作短編形式。日常の謎系。小知恵が回りすぎてウザイ奴になってしまった小鳩君と、執念深さが度を過ぎて危険な少女になってしまった小佐内さん。高校でこそは目立たない小市民として無難に生活をしていこうと互恵関係を締結した二人の物語。

やっぱり高校生探偵モノで攻めてきた米澤穂信。ちびっ子で甘いモノ大好き。地味で目立たない女の子をあくまでも演じ続けようとする小佐内さんがかわいい(表紙のイラストもイイ!)。いったい中学時代の彼女に何があったのか、小鳩君はどうでもいいので、続編では是非小佐内さんの過去について切り込んで欲しいな。将来的には古典部との対決編もあると嬉しい。千反田えるVS小佐内さん、夢の対決ではないか(ホータローはどうでもいい)[2005/11] ⇒次巻

七姫物語 第二章 世界のかたち
[高野和] 
★★★ メディアワークス 電撃文庫 (\570) [Amazon]

七姫物語(2) 世界のかたち

勇猛な武将テンと知謀に優れたトエ。大望を抱く二人によって偽姫として担ぎ出された孤児カラスミ。四宮琥珀姫を戴くツヅミを下し、七宮カセンには束の間の平和が訪れる。冬の足音が近づくカセンの街では冬祭りの支度が進められていた。かつての敵将キリハを陣営内に引き入れようとするトウだったが、キリハの回答は思いがけないものだった……。

第9回電撃ゲーム小説大賞金賞受賞作であった前作の続編。架空王朝ファンタジーというよりは、架空王朝戦記モノと呼んだ方がニュアンス的にはしっくり来るな。2004年1月刊行。前作が2003年2月刊行だから一年も次回作が出ていなかったことになる。ちなみに第三巻は2005年の5月刊。筆遅っ。ラノベ作家としては致命的なんだが大丈夫なのかこれ。

今回は大きな動きは無く繋ぎに徹した嵐の前の静けさ編。ひたひたと押し寄せてくる冬。寒々とした白い世界を哀しくも美しく綴る筆致が素晴らしい。第二巻でこんな最終回のようなテンションで大丈夫なのかと思わないでもないけど綺麗に書けてるからいいか。しかし主人公の年齢を考えると、この悟りっぷりはちょっと異常かもしれない。不幸な未来を暗示しているようで少々不安。単なる天然ちゃんならいいんだけど。

いい感じの敵キャラも登場して今後に期待大。脂がのっていたころの田中芳樹作品を彷彿とさせられる。全七姫のビジュアルも登場してワクワク感が高まってくる。個人的には三宮ナツメ姫萌えで。不安要素としては展開が遅すぎる点か、一巻ごとに一姫(一都市)づつ片づいていくのかと思ったら全然話が進展していなくて驚いた。これは長い話になりそうだ。遅筆であることも含め、ちゃんと終われるのかは未知数。[2005/11] ⇒次巻

歪んだ創世記 [積木鏡介] ★★★☆ 講談社 講談社ノベルズ (\780) [Amazon]

歪んだ創世記

目覚めると私はその部屋に居た。全ての記憶を失って。そして片手には手斧を握りしめて。部屋には同じように記憶を失った女が一人。どうやら私たちは婚約者同士であるらしい。階下には三体の惨殺死体。この地は絶海の孤島のようだ。姿を見せぬ殺人鬼は未だ島内を徘徊しているのか。そして私の記憶は何故失われてしまったのか。

第6回メフィスト賞受賞作。1998年刊行。積木鏡介は本作を含めて四作を講談社ノベルズから送り出しているのだが、何故かいずれも文庫化されていない。不思議だ。大人の事情という奴があるのだろうか。

で、本作だけど、ミステリ界の一芸入試、いかにもメフィスト賞ならではというタイプの作品。素人っぽい書き出しに萎え、読みにくい文章に閉口しながらとにかくも読み進めていくと、およそありえない展開が読者を待っている。ベースとなる物語を前後入れ替えるっていうのもなかなか出来ない着想だと思うけど、更に突き抜けて別次元からの介入者という視点を入れてくるというのは相当にアクロバチックな試み。文章がベタで損しているけどこの奇想だけは評価せねばなるまい。背表紙まで使ってのメタな構成の徹底振りには感心した。

わが名はレッド
[シェイマス・スミス] ★★★ 早川書房 ハヤカワ文庫 (\680) [Amazon] ※書影無し

犯罪社会に生きる男レッド・ドック。悲惨な幼少期を過ごし、心身に癒しがたい傷を負わされた彼は、自らにその境遇を課した者たちに復讐を開始する。嬰児誘拐を手始めに、出生記録の捏造、関係医師の殺害とレッドは遠大な計画を着々と進めていく。しかし連続殺人犯「切り裂きピカソ」の登場によりその筋書きはおおきく狂わされていく。

2002年刊行。作者はベルファスト生まれのアイルランド人。2002年の「このミス」海外部門で第三位に入っている作品。処女作の『Mr.クイン』 [Amazon] に続く第二作。

復讐譚を暗黒小説で。というコンセプトが面白い。本作には正義の主人公が悲壮感を漂わせながら仇敵を倒すとなんてありがちな流れは微塵も存在しない。根っからの悪党が愉悦感に充ち満ちながら次々と復讐を果たしていくストーリー展開には新鮮さを感じた。それでいて単なる復讐譚に終わらせず、もう一人の犯罪者ピカソを絡ませてくるあたりの変化球のキレの良さにも感心。ラストが少々アッサリし過ぎているのが難点と言えば難点か。簡単に妥協しすぎだろ>>主人公。あっけなく死んじゃうところもいかがなものかと。決して長くはない分量の中で頑張って居るんだけど、もう少し終盤の描写にページ数を割いても良かったのではないかと思う。[2005/11]

トリニティブラッド Canon 神学大全
[吉田直・角川スニーカー文庫編集部編] 
★★★ 角川書店 スニーカー文庫 (\656) [Amazon]

トリニティ・ブラッド Canon 神学大全

十二冊の既刊をもって作者死去により未完に終わったトリニティ・ブラッドシリーズ。文庫未収録の作品三作を収録。そして作者秘蔵の未公開メモ・設定資料をベースに、描かれることの無かった物語の「始まり」と「終わり」を考察。更に緻密な世界設定を用語集の形で補完する。ファン待望のシリーズ集大成アイテム。

2005年刊行。作者である吉田直が昨年急死したことにより、未完のままで終わることになってしまったトリニティ・ブラッドの文庫未収録作品、諸設定などを全収録した一冊。

第一部は「正典」として短編「ガンメタル・ハウンド」「ヒューマン・ファクター」の二作と、絶筆となった「極光の牙」の冒頭部を収録している。ちなみに「極光の牙」の冒頭部は「ザ・スニーカー」2004年12月号の付録として発行された小冊子と内容は同じ。

第二部は語られることの無いままに終わってしまった物語の前史と、今後の物語展開についての解説。口絵部分にはこの設定を元にしたTHORES柴本の書き下ろしイラストが掲載されているのだが、カテリーナが何故か薔薇十字騎士団に入団していたり、教皇アレッサンドロスXVIII世が死んじゃっていたりして衝撃度大。このイラストだけでもかなりの価値がある。

で、第三部は用語集。さすがに十二冊も続いた話ともなるとボリュームが違う。この部分だけでなんと200頁もある。こんなのを見せられてしまうと、未完であることが本当に惜しまれてくる。合掌。[2005/11]

ネコソギラジカル 下 青色サヴァンと戯言遣い
[西尾維新] 
★★★☆ 講談社 講談社ノベルズ (\1,080) [Amazon]

ネコソギラジカル(下)青色サヴァンと戯言遣い

「狐面の男」こと西東天の突然の撤退宣言に呆然する戯言遣いだったが、宴九段によってもたらされた情報は更なる衝撃を秘めたものだった。玖渚友の命はいつ終わってもおかしくないのだと云う……。時を同じくして失踪した面影真心の行方は何処に!?全ての事態を解決するためにいーちゃんが選択した答えとは。最終決戦の時は近づいていた。

2005年刊行。戯言シリーズ最終三部作の第三弾。遂にこれでシリーズ完結。今回の表紙はウェディングドレス姿の玖渚友。ここに至ってシリーズ一作目の『クビキリサイクル』とサブタイトルが同じになっていて、ああ最後は友の話に回帰していくんだなと俄然、終わりへの期待が盛り上がる。裏表紙の髪が黒くて右目だけ青い友ってのがこれまた意味深で、一瞬幸せそうに見えるんだけど、目を閉じているいーちゃんは実は死んでるんじゃないのかとか、読む前から妄想が広がること広がること。ちょっと勿体なくてしばらく(数時間だけだが)読めなかったな。

このサブタイトルからして、<<仲間>>を含めた友サイドの話になるのかと想像していたのだが、予想はおおきく外れて引き続き狐さんとのバトルが続くことに。確かにそうしないと真心や哀川さんの使い所が難しくなっていただろうから仕方ないか。いーちゃんの変わろうとする意志のトリガーとして友の存在は機能したけど、その後友はストーリーには関わらない。もっと本編に絡んで欲しかった気もするけど、第十七章での友との対話シーンはこのシリーズでも一二を争う名場面だと思うので良しとしておこう。

ということでやっぱり最後は哀川さんだった。自分は赤い人偽物説を唱えていたけど違ってた。けっきょく偽哀川さんの人は使い切れなかった伏線の一つってことだったのかね。中盤まで影が薄かったあたり怪しいと思っていたんだけど。その分終盤の活躍ぶりはジャンプマンガの主人公ですかあなたは、と突っ込みたくなるほどで八面六臂の胸のすくような暴れ振り。燃えと萌えを両立させられるヒロインは哀川さんしかいないだろう。真心との最終決戦は絵で見たかった。

で、大方の予想通り数多の伏線は投げっぱなし。妹は結局どうなったんだとか、いーちゃんは友に昔何をしたんだとか全部スルー。やっぱりそう来たか。 一歩前に進む決意をしたいーちゃんを描いてみせることで成長物語としては相応の結末なのだが、小さくまとまってしまった感が強くて少々落胆。絵に描いたようなハッピーエンドも読み手としては嬉しいけど、ここに至るまでに積み上げられた屍の山を考えると単純には喜べないんだよな。

巫女子ちゃんと姫ちゃんを生かして返して欲しかった。と、最後に無理難題を。でも、自分的な最愛のキャラクターは春日井さんなんだけど(笑)。彼女の出番も最後に欲しかったな。[2005/11]

メモリアノイズの流転現象
[上遠野浩平] ★★★ 祥伝社 ノン・ノベル (\638) [Amazon]

メモリアノイズの流転現象

杜名賀家に届けられた予告状。それは怪盗ペイパーカットによるものだった。サーカム保険からは調査員として伊佐俊一と千条雅人が派遣される。そして杜名賀家の長女に纏わる離婚問題の調査で現地を訪れていた私立探偵・早見壬敦は、ペイパーカットを巡る騒動に巻き込まれていく。二十年前に起きた惨劇の秘密が白日の下にさらけ出されたとき、怪盗の真の狙いが明らかになる。

2005年刊行。ソウルドロップシリーズ第2弾。いつの間にか「ソウルドロップ奇音緑」なんて副題がついていた。「ブギーポップ」や「しずるさん」と同様の世界観をベースにした作品。「生命と同等の価値のある物を盗む」怪盗ペイパーカットの物語。 但し上遠野作品の例に漏れず主人公?の出番は少なめ。今回物語を牽引するのは新キャラの早見壬敦。

相変わらずペイパーカットの人は何がしたいのかよく判らないのだが、メインとなるストーリーは比較的明快。前作に較べるとかなり判りやすい。実働部隊の壬敦クンにツンデレお嬢様の東澱奈緒瀬、そして毎回尻ぬぐいをさせられているサーカムコンビとキャラ立ちもしっかりしていてなかなかよろしいのでは無いかと。特にオートマティック名探偵千条雅人はバカバカしくも素敵な存在。抱えているシリーズがどんどん増えていて、収束させる気も無いように見える上遠野浩平だけど、このシリーズはどれくらいやる気があるのだろうか。[2005/11]

ネクロポリス 上・下 [恩田陸] ★★★☆ 朝日新聞社 (各\1,800) [Amazon:上巻/下巻]

ネクロポリス 上 ネクロポリス 下

聖地アナザーヒル。「ヒガン」と呼ばれる一定期間、そこでは懐かしき死者との再会を果たすことが出来る。ジュンイチロウ・イトウは縁者のつてを頼りこの地への立ち入りを許される。下界では連続殺人犯血塗れジャックが跳梁跋扈。事件解決のため被害者たちの出現が待ち望まれていた。しかしアナザーヒルでは新たな殺人死体が発見され、ジュンイチロウたちは混乱に巻き込まれていく……。

2005年刊行。「小説トリッパー」の2001年冬季号から2005年春季号にかけて連載されていた作品を大幅に加筆修正の上で単行本化したもの。上下巻構成で総ページ数785ページは恩田作品中最長らしい。黒茶より長いのか。

最近の恩田陸作品、特に単行本装丁の手間のかけようは半端ではない状況になっており、各社競ってデザインに工夫を凝らしている。本書はその中で最強レベル。半透明のカバーを取ると表1部分にアナザーヒルの昼、表4部分にアナザーヒルの夜がカラーで描かれており、これは上下巻をつなげると続きの一枚絵になる趣向。更に表2見開きと表3見開き部分にもカラーイラストが配されている。ブックデザインを担当する人間はやりがいもあるだろうけど大変そうだ。もっとも見た目は綺麗である反面、表紙部分の強度が心許なく、うっかりすると折り曲げてしまいそうになるので少々不安。図書館配置分なんかはベコベコになりそうだな。

現実の世界とは少し違った歴史を辿ったパラレルな世界での物語。日本はイギリスの信託統治時代を経て独立していて、混血も進み、両国は密接なつながりを持ったまま現代に至っている。それ故にアナザーヒルの文化は奇妙な日英混淆を遂げている。入口にはどーんと大鳥居が待ちかまえているし、ヒガンに備えるお稲荷さんは何故かプレーンオムレツだったりする。独特の民俗風習が面白い。ちょっとトンデモ混じりだったりもするけど、この奇抜な発想の数々は買いだ。

アナザーヒルに着くまではとっつきが悪くて読むのに三日もかけてしまった。カタカナ名前の多さも理由の一つだったかもしれない。ハナ、マリコ、リンデの区別がなかなかつかなくて往生した。が、いざアナザーヒル入りしてからはノンストップ。大鳥居に吊り下げられた死体。第二の殺人事件。初めての「お客さん」の登場。戦慄のガッチ(←これ秀逸!)。連載小説だけあって各章ごとのラストの引きが強いこと強いこと。

血塗れジャック事件に、失踪した叔父の謎、いくつかの事件が並行して描かれ、さらには黒婦人の失踪や、アナザーヒルそのものの変容とどんどん物語の風呂敷が広がっていくので恩田ファンとしては、果たしてこの話はまともな着地点を見出すことが出来るのかと非常に不安になっていくのだが、意外にもと書くと失礼だけど、物語はきっちりとした収束を遂げていく。

とはいえ終盤のカタルシスに欠けるところは疵といえば疵。主人公、ラインマン、博士の三人で決死の思いでパーティ組んで出掛けたわりには待っていたのはショボイオチ。読み手としてはとてつもなく怖ろしいものが出てくる覚悟でワクワクしながら待ちかまえていただけに、脳内に思い描いていた恐怖の残像の分だけ損した気分にさせられてしまった。欲を言えばキリがないのだが、アナザーヒルの世界観がとても魅力的であっただけにこれは惜しいかなと。この世界を使って別の話をいつか書いてくれることを期待したい。[2005/11]

ついでに……

『航路』@コニー・ウィリス<<これも一つのアナザーヒル。

▲トップに戻る▲

湖畔のマリニア グインサーガ104
[栗本薫] 
★★★ 早川書房 ハヤカワ文庫 (\540) [Amazon]

湖畔のマリニア グイン・サーガ(104)

ユラ山系の大火をにげのびたグインはイェライシャのはからいでマリウスと再会をはたすことができた。二人はケイロニアの捜索隊を避けパロへの進路をとる。自由開拓民の村が点在する程度の人影もまばらな辺境の地で、彼らは謎の軍勢を目撃する。正体不明の銀仮面の正体は。そして訪れた村では思わぬ出会いが二人をまっていたのであった。

2005年刊行。シリーズ104巻目。第一章は例によって回想の名を借りた総集編。グインの記憶喪失ってのは上手い理由付けだけど、こう毎回やられるのは耐え難い苦痛。表紙の船に乗っている女は誰だろうと思っていたら、なんとまあ懐かしい人の再登場。相変わらずのキョドりっぷりで早くもマリウスの毒牙にかかりそう。しかしこの作者の書くエロは品が無いね。タブロイド紙のエロ小説よりも非道い。

で、そんなことよりも今回のキモは何と言っても謎の銀仮面の登場だろう。放置プレイされること幾星霜。何十巻ぶりの再登場だこれ。ゴーラの赤い獅子よ復活おめでとう。良かったな思い出して貰えて。使い捨てにされずに活躍させて貰えることを切に祈る。山中鹿之助的なマゾキャラになっちゃいそうな予感もあるけど。

第二世代が出てきたり、懐かしの人々の再登場もあって、今回はちょっと面白かった。あとはとにかくもっと展開を早く![2005/11] ⇒次巻

七姫物語 第三章 姫影交差
[高野和] 
★★★☆ メディアワークス 電撃文庫 (\590) [Amazon]

七姫物語〈第3章〉姫影交差

冬が明け、かねてから不穏な状態にあった三宮ナツメと七宮カセンの間には一触即発の危険な空気が漂い始める。紛争の中心地は四宮ツヅミ。戦いに敗れ、琥珀姫は流され、今ではカセンの影響下にあるこの街に各都市の軍勢が続々と集結を始めていた。そして遂に空澄姫と常磐姫もまたツヅミへと向かう。果たしてテンとトエが巡らした策略は奏功するのか。

2005年刊行。シリーズ三作目。ホントに年一冊なのかよ。ペース遅っ。早くも中原の大国からの使者とか出てきているけど、そんなに風呂敷広げて大丈夫なのか>>作者。10年経っても終わらない予感がしてきた。次が読めるのは来年か。

三作目にしてお姫様勢揃い(一人既に脱落してるけど)。作者としてはこれやりたくてたまらなかったシーンだろうな。とても映像的で華麗な場面。ワクワクしてくるねえ。敵対するかに見えた常磐姫陣営は一転して同盟関係に。常磐姫ファンとしてはちょっと嬉しい。合従連衡はこの手のお話の王道だよな。やっぱり。ようやく衣装役さんのビジュアルが登場したけど相変わらず謎キャラ。 実はラスボスとかいうオチを期待。[2005/11] ⇒次巻

ぼくのミステリな日常
[若竹七海] ★★★☆ 東京創元社 創元推理文庫 (\660) [Amazon]

ぼくのミステリな日常

社内報の編集を任された若竹七海は誌面上での小説連載を思いつく。学生時代の先輩佐竹からある人物を作者として紹介されるが、条件は完全な匿名。名前も性別も年齢も不明の匿名作家から毎月一回送られてくる原稿は意外にも評判を呼び、思いも寄らぬ波紋を周囲に投げかけていく。十二編の連載作品が指し示す真実に若竹は愕然とするのだが……。

1991年に東京創元社の「黄金の13」(←懐かしい!)で刊行されていた作品を1996年に文庫化したもの。若竹七海のデビュー作。 以前から名前は知っていながらも不思議と縁がなくて読んでいなかった若竹七海。ようやく読むことが出来た。

創元社系の連作短編だから、間違いなくなんらかの仕掛けが施されているのは間違いがない。スレた読者としては当然あれこれ疑いながら読み進める。社内報の目次が毎月掲載されていたり、あからさまに怪しい伏線が随所に仕掛けられている。が、その割には作者の試みたトリックはまるで見抜けず。我ながら情けないけどラストでは二重三重の罠が見事に決まって感服した。 十二の短編作品一つ一つも本格仕立ての話から、怪談風味のものや、叙述トリックまでと幅広く労を惜しまぬ全力投球ぶりが素晴らしい。どうしてもっと早く読まなかったんだろう。[2005/11]

陽気なギャングが地球を回す
[伊坂幸太郎] ★★★☆ 祥伝社 ノン・ノベル (\838) [Amazon]

陽気なギャングが地球を回す

どんな嘘でも見抜いてしまう成瀬。長広舌をふるわせたら並ぶ者のない響野。天才的なスリ師の久遠。正確無比の体内時計を持つ雪子。四人は抜群のコンビネーションでこれまでに何度も銀行強盗を成功させてきた。しかし今回は状況が違っていた。現金輸送車襲撃犯と遭遇した彼らは、強奪した現金を持ち去られてしまったのだ。どこで計画は漏れたのか。リーダーの成瀬は逆襲のチャンスをうかがい始める。

2003年刊行。今をときめきかけている伊坂幸太郎。今更ながらようやく一冊読了。2004年版の「このミス」国内部門第6位に入った作品。

文章が達者で読みやすい。第一印象としてはライトでポップな東野圭吾、もしくは真保裕一ってところだろうか。キャラの立った四人が実にあっけらかんと銀行襲撃を繰り返していくところがまず驚き。しかも家族がそのことを容認していることにもビックリ。こんなにお手軽でいいのか。なんともゲーム感覚な銀行強盗ストーリー。上手に書けてはいるんだけど、どうせならもうすこし読者をドキドキハラハラさせて欲しかった。予定調和的に収まるべき所に物語が収束していくのが予想出来てしまって物足りない。ラスボスがちょっと安っぽすぎ。もう少し緊迫感を![2005/11]

裏山の宇宙船 [笹本祐一] ★★☆ 朝日ソノラマ ソノラマ文庫 (\1,100) [Amazon]

裏山の宇宙船

女子高生佐貫文は困っていた。部長を務めている民俗伝承研究会は部員三名と風前の灯。来る文化祭で確固たる成果をあげなくては存続もままならない。悩んだ末に町の伝承「天人伝説」の検証を目論むが部員たちの士気は上がらない。夏休みが目前に迫ったある日、文の自宅の裏山が折からの豪雨で崩壊。斜面から姿を現したのは黒光りする謎の物体だった。

2005年刊行。1994年に文庫本上下巻組 [Amazon:上巻/下巻] で出ていた作品のノベルズ新装版。ソノラマノベルスの一冊としてリリース。 ド田舎の弱小文化部が裏山に埋もれていた宇宙船を発見。掘り起こしてなんちゃらかんちゃらという一夏の冒険モノ。

かわいいヒロインに夏休み、田舎、宇宙船と素敵な要素を多数取り揃えているわりにはいまいちな仕上がり。宇宙船の発掘は淡々と進み、敵対勢力や大きな困難があるわけでもなく終始テンションが上がらないのが問題か。頁数が多いわりには恋愛要素も皆無だし。序盤元気の良かったヒロインが、中盤以降はメガネクンに主導権を奪われ失速してしまうのも痛い。全般的にキャラが薄いかな。[2005/11]

ついでに……

『星虫』@岩本隆雄<<どうせならこれくらいやって欲しい。

▲トップに戻る▲

前の月←  HomePage  →次の月