
西暦20XX年。九州南部。存在すら知られていなかった有史以前の活火山加久藤カルデラが長い沈黙を破り破局的大噴火を起こす。その予兆を感じ取っていた政府は火山学者の黒木らを擁しその対応に乗り出していたが、噴火はあまりにも早く起きてしまい全ての対応は後手後手になってしまう。噴火を間近で体験した黒木は迫り来る火砕流を逃れ妻の待つ日南市を目指す。
2002年刊行。第26回メフィスト賞受賞作。通常のメフィスト賞作品はノベルズで出るのが常だけれど、そこそこレベルの高い作品の場合いきなりハードカバーで勝負を賭けてくることがある。本作はそんな作品のうちの一つ。作者は1954年生まれで本業は医師。この作品が処女作となる。
30万年前に大噴火を起こし、以後沈黙を守ってきた霧島山系の加久藤火山が再度の破局的噴火を起こしたらという設定で描かれる災害小説。20年くらい前までは火山の噴火といえばドロドロとした灼熱の溶岩流がのっそりと流れてくるイメージが強かったんだけど、そのイメージは1991年に起きた雲仙で火砕流災害の大惨事によって大きく塗り替えられていた。しかしその認識すら甘かったことをこの作品では思い知らされた。
ちなみに火砕流とは溶岩が粉砕されて高温ガスと一体化したもので、地面との摩擦が少ないので時速100キロを越える事もあるらしい。雲仙のケースはまともに観測された世界最初の火砕流なのだそうだ。確かにこれでは近くで起きたら逃げようが無い。本作では更に、この火砕流によって引き起こされる火砕サージ(熱風)の存在を紹介。火砕流本体に先立ってやってくる数百度の熱風は山も越えるし海だって渡ってしまう。火口から100キロ先でも生きていられないかもしれないという怖ろしいものなのだ。うわ、マジ怖っ。
科学的視点をベースにした災害小説といえばやはり往年の名作『日本沈没』 [Amazon] を想起せずにはいられないけど、久々にその後継とも言える作品が出てきた。南九州は噴火から数時間でほぼ壊滅。瞬く間に数百万人が死亡。そしてこれほどの規模の噴火は当然日本全体にも影響をもたらし、大量の降灰とそれによる洪水で日本は再起不能に近い大ダメージを受けてしまう。未曾有の大災害の中で少しでもより良い対策をと奮起していく政治家や官僚の姿は、いささか出来すぎの感はあって胡散臭さはどうしても残るけど小説の中でくらい頑張って貰わないとな。総理大臣がバリバリ活躍する小説って、こんなテーマでもなきゃ書けないだろう。処女作ならではの文章の硬さや、展開の強引さ(総理の終盤の対米政策とか)はあるけど、災害小説としてはよく書けていると思う。
ちなみに本書には読者の理解を助けるために現地の地図が挟み込まれているが、どうせならばGoogle mapを併用しながら読み進めることをオススメしたい。間違いなく面白さがアップする。ちなみにリンク先は今回の噴火ポイント周辺。[2005/12]
白い花の舞い散る時間 〜ガールズレビュー〜
[友桐夏] ★★★☆ 集英社 コバルト文庫 (\552) [Amazon]

学習塾の公式サイト「教室」で知り合ったアイリス、シャドウ、ララ、ミスティー、ミズキの五人。意気投合した彼女たちは夏休みの五日間を人里離れた古い洋館「ムラサキカン」で過ごすことを決めた。匿名性を守るためにハンドル名は使わずに新たなニックネームが振り分けられていくが、集まったのは四人だけ。次々と起こる奇妙な事件に四人の緊張は高まっていく。
2005年刊行。2005年度のロマン大賞佳作入選作品。ラノベ系書評サイト各所で話題になっていたので購入。 作者の友桐夏は過去に別名義での「Cobalt」誌投稿経験はあるようだけど実質これが処女作。
うちのサイトは原則、感想はネタバレアリなんだけど、今回は微妙に恩田陸作品のネタバレもあるから未読の人は要注意。
ぶっちゃけると恩田陸の『麦の海に沈む果実』『蛇行する川のほとり』『木曜組曲』『ネバーランド』『Q&A』を全部足して10で割ったくらいの作品。雰囲気的には『蛇行〜』が一番近いかな。頭が良くて品のいいな女の子たちがとある館で過ごした五日間。 料理やお菓子、お茶が美味しそうだったり、本筋から離れた雅やかな会話を丁々発止と愉しむあたりは『木曜組曲』っぽい。
五人の筈が四人。でも集まったのは四人だけ。一体誰が誰なのか。そして来ていないのは誰なのか。 女四人の心理劇って路線で突っ走っても面白かったんじゃないかと思う。ところが中盤を過ぎた辺りでまず最初の驚愕展開。いきなり話が生々しくなるので、ちょっとこれは好き嫌いが分かれるところだろう。実は新興宗教団体の跡目争いのドロドロ話で、集まった四人が揃いも揃って関係者でした、ってオチはこうしたタイプの話が苦手な人間はドン引きになっちゃうかもしれない。
そしてこの作品のスゴイところは終盤で更なるサプライズが用意されていること。ミステリだと思って読んでいたら実はサイキックホラーだった(ポルナレフAAはry)。主人公が暗黒化するのは『麦の海〜』でもあったオチだけど、超自然的な要素まで出てくるのは物語の根幹を揺るがしかねない大冒険なわけで、これは新人だからこそ出来る勇気だよな。正直この要素は無くても作品としては成立させられたと思うだけに勿体なく思えた。[2005/12]
春待ちの姫君たち [友桐夏] ★★★☆ 集英社 コバルト文庫 (\495) [Amazon]

赤音と春来は親友同士。春来のファーストネームを呼ぶことが出来るのは赤音だけ。固く結ばれた友情だったが、クラスのリーダー的存在の少女舞がその間に入り込もうとしたことで二人の関係は不安定なものになっていく。舞を拒んだことで周囲から孤立していく赤音。エスカレートする級友たちからの嫌がらせにいつしか赤音の心は壊れていく。
2005年刊行。『白い花の舞い散る時間』に続く第二作。前作が応募作品だったとはいえ僅か三ヶ月で新作とはペース早いな。今回もリリカルミステリーとの副題がついているが前作とのつながりは無し。完全に独立した作品。 ボリューム的にはややおとなしめだが、今回も様々な仕掛けとたくらみに満ちた作品となっている。
読み手をひっかけようとする二重三重の仕掛けは本作でもよく書けている。前作ほど唐突な展開の飛躍も無いのでまとまりとしてはこっちの方がいいと思う。いじめにあって心を壊していく少女の繊細な心理描写がウリの一つなんだけど、30代読者にはそれがもはや届かないのが我ながら寂しい。10代の頃に読んでいればきちんと共感出来た筈(たぶん)。美しい言葉、心に響く台詞が次第に自分には響かなくなっていくのは感受性の摩耗という奴なのだろうか。[2005/12]
天槍の下のバシレイス1・2 まれびとの棺 上・下
[伊都工平] ★★★ メディアワークス 電撃文庫 (各\610) [Amazon:1巻/2巻] ※1巻は書影無し

塔(メテクシス)と呼ばれる巨大構造物が突如出現。周囲は広大な無人地帯となり日本は東西に分断されてしまう。東日本は福島に遷都した日本政府に実効支配され、西日本は複数の共同体により分割統治されていた。2018年。15歳の川中島敦樹は東日本軍の特殊観測隊に選抜され塔周辺部への潜入を敢行する。しかしあえなく部隊は全滅。唯一生き残った敦樹は西日本へと逃れ新たな生活を始めることになる。
2004年刊行「電撃hp」のvol28〜31に連載されていた作品に追加短編三本。更に最終章の書き下ろしが追記されたもの。上下巻構成でカバーを並べると一枚絵になる仕様になっている。何故か1巻だけ書影が無いAmazonって酷い。ちなみにあとがきによれば連載時のタイトルは『西方世界剣魔攻防緑』であったそうで、これは間違いなく今の方がカッコイイので変えて正解。意味判らないけど。
謎の異世界生命体に侵略された日本。学校に通いながら軍事活動に従事する少年少女。なんとなく『ガンパレード・マーチ』 [Amazon] っぽい世界観。生活水準が1960年代レベルまで退行してしまったという設定なんだけど、いまひとつ生かし切れていない感じ。オーバーテクノロジーな兵器群を縦横に駆使しながら、日常生活に戻れば不便な60年代生活ってギャップは面白く書けばいい効果が出ると思うんだけどなあ。この辺は今後に期待。
主人公が女の子でビックリ。そいでもってパートナーはメガネっ娘と来た。♀×♀なのかよ。素直にどっちかを男にしておいた方が、話が作りやすかったような気がする。感情移入しにくくない?敦樹も佐里もかわいいだけに勿体ない。瑚澄遊智のイラストは非常によろしくて◎。『頭蓋骨のホーリーグレイル』 [Amazon] の人だよね。
気になるのは刊行間隔。もう一年以上続きが出ていないようだけど、これってまだ続きは読めるのかな?[2005/12]
末枯れの花守り [菅浩江] ★★★ 角川書店 角川文庫 (\514) [Amazon]

植えた朝顔に愛した男への思いを託す今日子。曼珠沙華と共に遠い日の約束を待ち続ける少年。天才演劇少女万里美の心中に秘めた鬱屈とは。名前負けし続ける人生に絶望した百合依が望んだ運命とその結末。出征して帰らぬ人となった夫を未だ慕い続けるフサ。女たちの情念の隙間に忍び込もうとする闇の力。五編の連作短編集。
97年にスニーカー・ブックスとして刊行されていた作品 [Amazon] の文庫版。2002年刊行。
女たちの凝った想いが引き寄せてしまう魔。永遠という言葉を誘いに、その心を花の中に封じ込めてしまう二人の姫。その企てを阻まんとする花守り、青葉時実とその主従たち。幻想的で美しくもはかない夜の世界。心の裏側の深奥を綴る『夜陰譚』の系譜の作品。本当は続編が出る筈だったのかもしれないけど、時実主従たちの立ち位置が微妙。メインで扱うには謎が多すぎだし、脇役で収めるには目立ちすぎているという。なんとも中途半端な形になってしまったのは頂けない。幻想的なイメージを喚起させる描写力はいつもながら素晴らしいと思うんだけど。[2005/12]

古書店「無窮堂」はその筋では知られた老舗だった。真志喜は業界の重鎮であった祖父の死後その跡を継ぐ。店に出入りする同業者、瀬名垣は幼い頃からの親友同士だったが、一つの事件をきっかけとして二人の関係はぎごちないものとなっていく。とある冬、瀬名垣は真志喜に地方蒐集家コレクションの共同買い付けを持ちかけるが、それは二人の関係に新たな展開をもたらす事になる。
2001年に単行本として出ていた作品に書き下ろし一編を追加して文庫化したもの。2005年刊行。三浦しをんは1976年生まれで2000年に『格闘する者に○』 [Amazon] でデビュー。本作は小説としては二作目になる。
たまにはメフィスト系でもラノベ界でないところから、読んだことがない作家をチョイスしてみようってことで三浦しをんにチャレンジしてみた。何の前知識も無く読み始めて、まずその濃密なボーイズラブ的な雰囲気に狼狽。ジャンル的にダメとかどうこうって話じゃなくて心の準備が出来てなかったのでまず驚いてしまった。こういう話書く人なの?
お話としては古本屋カップル(♂×♂)の萌えストーリー。瀬名垣(やや無頼系)は真志喜(細身美青年系)に少年時代での負い目があり、互いにしこりを持ったまま成人。古本買い出しの旅がその二人の関係に新たな進展をもたらす、という展開。瀬名垣が真志喜の頭をくしゃっと撫でてみたり、部屋の布団が二組並べてるのを見て真志喜が顔を赤らめたり、その方面に免疫が無い人には辛いかもしれない。古本についての蘊蓄は面白かったので、どうせならそっち方面で愉しませてくれた方が、自分的には好みだった。

生徒数7,000人を越える超マンモス校木ノ花学園。城崎修は高等部に進学するや、本格推理委員会なる怪しげな活動に無理矢理参加させられてしまう。メンバーは学園一の才媛桜森鈴音。空手部エースの楠木菜摘。ムダに動物的勘が鋭い木下椎を加えた計四名。理事長木ノ花あざみは彼らに旧校舎の音楽室で噂される怪談の謎を解く事を命じる。
2004年刊行。ボイルドエッグズという著作権エージェント団体が主催した新人賞の第一回受賞作品。三浦しをんや滝本竜彦なんかもボイルドエッグズの所属だった筈。
美人の秀才委員長に武闘派スポーツ少女、元気系の幼馴染みに猛烈にブラコンな妹までついてくるという、なにこのギャルゲーと突っ込みたくもなる学園ハーレムミステリ。少々設定的にあざとすぎて萎え。悪い話じゃないんだけどなあ。少年時代のトラウマで自らの推理力を封印してきた主人公が、いろいろあって頑張ろうという気になるまでの経過が感動的(たぶん)に描かれている。でも最後のオチはちょっぴり泣ける。しかしあざみ先生が主人公の個人的事情を知りすぎているのはいくらなんでも不自然だろと思った。[2005/12]
犯罪は「この場所」で起こる
[小宮信夫] ★★★ 光文社 光文社新書 (\720) [Amazon]

我が国のこれまでの犯罪対策は犯罪者の人格や劣悪な環境に原因を求め、それをいかにして取り除くかに終始してきた。しかしこれらの施策は大きな効果をあげるには至っていない。昨今欧米で注目されている「犯罪機会論」に着目し、どのような場所が犯罪を呼び起こすのかを検証し、具体的な防犯プランの数々を紹介していく。
2005年刊行。筆者は立正大の助教授で専攻は犯罪心理学。
世界的に見て安全とされてきた日本でも犯罪発生率は年々上昇の一途を辿っている。生活スタイルの欧米化による個人主義は加速し、地域や社会のコミュニティが解体に向うことで犯罪抑止力は低下していく。犯罪者個人だけに焦点を当てた対策ではもはや限界があるとして、筆者は「犯罪機会論」の視点から新たな提案を投げかけていく。
簡単に言ってしまうと誰かが見ているかもしれない、逃げられないかもしれない、逮捕されてしまうかもしれないという環境を作り出すことで、潜在的な犯罪者が犯行を思いとどまらせようとするもの。学校では登下校時以外には校門を閉めたり、監視カメラを設置してみたり、公園ならば外からも見えやすいように樹林をカットしたり、外壁を格子状に買えてみるといった具合。とはいえ一部でやっているだけでは「それなら他の街で」ということになりかねないので、地域ぐるみでの取り組みが大事になってくる。
興味深い施策がいくつか提案されているのだが、とりわけ地域安全マップは印象に残った。子供、親、教師、地域住民が協力して自ら作る安全マップは確かに効果がありそうだ。特に子供自身をマップの作成に関わせるのは妙案。児童1名につき1枚のオリジナル地図を作るというのは学校や親としては相当な手間になるだろうが、それだけの意義はあるのではないかと思う。[2005/12]
塔の断章 [乾くるみ] ★★★ 講談社 講談社ノベルズ (\740) [Amazon]

小説「機械の森」をゲーム化するために結成されたプロジェクトチームが湖畔の古い別荘で一夜を過ごすことになる。翌朝、チームのマスコット的存在であった十河香織が死体となって発見され彼らは驚愕に打ちひしがれる。これは自殺それとも他殺なのか。ゲームディレクターの天童と、原作者の辰巳は香織の死の真相を探るべく調査を開始する。
1999年刊行。乾くるみの三作目。
作者自ら、ジグソーパズルを組み立てるようなつもりで、と巻頭で書いているんだけど「断章」の名の通り、時間軸が前後した断片的な文章が最初から最後まで続き非常に読みにくい。そんな構成にせざるを得なかったのはもちろん理由があるわけだが、こんな手口が二度も続いてバレずに済むとは思えない。オチにも意外性は無く淡々と読了。この乾くるみはイマイチ。[2005/12]
これは王国のかぎ
[荻原規子] ★★★ 中央公論新社 C-NOVELS (\900) [Amazon]

親友に想い人を奪われ、失意の中で眠りに就いたあたし。目覚めるとそこはアラビアンナイトの世界。チグリス川の岸辺で出会ったターバンを巻いた青年はあたしはジンなのだという。人智を越えた不思議な力を手に入れたあたしは、知らず知らずのうちに王国の跡目争いに巻き込まれていく。あたしは無事に元の世界に帰ることができるのだろうか。
1993年に理論社から刊行されていた同名作品 [Amazon] を1999年にC・NOVELSで再刊したもの。
現実世界で精神に傷を負った少女が、異世界での試練を通して成長し、再び現実の世界へ還っていくというタイプの巻き込まれ型異世界冒険譚。なにせ一人称が「あたし」なので、過剰な自分語りを最初はちょっと警戒したのだけれども、この子はけっこう淡泊。夢だと割り切っているからなのかもしれないが、ありえない状況をあっさりと受け入れているところが特徴的。この手の作品はえてして説教臭さが鼻についたりもするんだけど、本作に関してはその点は控え目。それほど深刻な話にはならないのでアッサリと読める。続編『樹上のゆりかご』 [Amazon] が出ているようなので機会があればそちらもチェックしておきたい。[2005/12]
葉桜の季節に君を想うということ
[歌野晶午] ★★★☆ 文藝春秋 (\1,857) [Amazon]

<何でもやってやろう屋>の成瀬将虎は後輩のキヨシからの紹介で、白金の資産家久高愛子からの依頼を受けることになる。マルチ商法に騙された挙げ句に死んでいった父親について調べて欲しいのだという。元探偵の経験を活かして事件の謎に迫っていく成瀬。そんな最中、彼は駅で投身自殺しようとしていた女性を救う。それは運命の女、麻宮さくらとの出会いだった。
2003年刊行。2003年のミステリ界に君臨した名作(たぶん)。「このミス」「本格ミステリベスト10」でダブル1位。「週刊文春ミステリーベスト10」でも2位だった。歌野晶午としては15作目の作品。デビュー15年目だけど年一作ペースか。これまで作風的には地味な作家だったけどこの作品で遅まきながらブレイク。こういう話を書くとは思わなかったな。タイトルはスゴイ格好良い。
メインとなるマルチ商法絡みのエピソードを主軸に、成瀬の若き日のヤクザ見習い時代の話や、運命の女麻宮さくらとの交際話等々、複数のエピソードが断片的に並行して進行。なんちゃって私立探偵の活躍を描いていく。あからさまに叙述トリックではあることは判るんだけど、その真相はあまりに強烈過ぎて想像すらしなかった。いや、想像なんかしたくないというレベルか。そのオチは気持ち悪いにも程があるだろう。ここまで読み手を唖然とさせた筆力は買うが、萎え具合も半端でない。主人公カップルキモ過ぎ。別の意味で再読を阻む作品だなこれは。怖ろしくて二度は読めないよ。[2005/12]
マリア様がみてる 未来の白地図
[今野緒雪] ★★★ 集英社 コバルト文庫 (\438) [Amazon]

クリスマスを迎えようとしているリリアン女学園。突然の柏木からの電話は瞳子の失踪を告げるものだった。なんらかのトラブルを抱えているらしい瞳子だったが、祐巳はその内面を踏み込んでいくことを躊躇ってしまう。山百合会でのクリスマスパーティに、祐巳は瞳子を招くことを思いつく。しかしそこでは思わぬハプニングが待ち受けていた。
2005年刊行。マリみて20作目。クリスマスのリリアン女学園では紅、黄ともに妹探しがいよいよ佳境に。黄色はともかくとして、次代のロサ=キネンシスはやっぱりドリル娘なのか。可南子ちゃんファンとしてはガッカリ。なんでこいつ選ぶかなあ。ドリル娘は間違いなくツンデレ少女なので、次かその次くらいで陥落する予感。
おまけでついている短編は珍しい令視点のお話。地味にハートウォーム。そろそろ祥子視点の話も読みたい。進路問題もようやく話題にのぼるようになってきた。しかしこの子たちもあと三ヶ月で卒業か。祐巳が三年になってもこの話は続くのだろうか。ロサ=キネンシスとしてリリアンに君臨している祐巳ってのは想像がつかないね。[2005/12] ⇒次巻
ラグナロク洞 <<あかずの扉>>研究会影郎沼へ
[霧舎巧] ★★★ 講談社 講談社ノベルズ (\940) [Amazon]

中央アルプスの山間の村を襲った悲劇。不思議な伝説の残る影郎村を訪れた<<あかずの扉>>研究会の面々。土砂崩れによって彼らは洞窟の中に取り残されてしまう。唯一残された外界への出口、エレベータの内部には女子高生が瀕死の状態で横たわっていた。彼女がいまわの際に残したダイイングメッセージにはいったいどんな意味があるのだろうか?
2000年刊行。あかずの扉研究会シリーズの第三作目。ダイイングメッセージ+ミッシングリンク+嵐の山荘モノ。本格要素てんこもり。マニアさんが頑張って書いた話。饒舌なダイイングメッセージ講座もついてくる。本格読みしか相手にしていないんだろうけど、わかる人にしか判らないネタが多すぎ。 マニアによるマニアのための作品。
この人の作品にこんなツッコミが無粋であることは百も承知だけど、ホントに今回も登場キャラクターの薄っぺらさが目についた。名前無しで記号でもいいんじゃないかと思うくらい肉付け無し。内容が荒唐無稽だけに、まともにキャラクター造形なんてしてられねえよということなのもしれないけどいささか酷すぎる。事件のそもそもの発端にしてもちょっとトンデモ度が過ぎるよな。[2005/12] ⇒次巻
マリオネット園 <<あかずの扉>>研究会首吊塔へ
[霧舎巧] ★★★ 講談社 講談社ノベルズ (\840) [Amazon]

川崎市の埋め立て地区に建造され、いまでは廃墟となっているテーマパーク、マリオネット園。唯一残された建造物である首吊塔には怪しげな噂が飛び交い、自殺の名所として知られていた。謎の人物によって塔へと呼び出された<<あかずの扉>>研究会の面々は、ここでまたしても凄惨な連続殺人劇を目の当たりにする。真犯人の仕掛けた罠に彼らは気付くことが出来るのだろうか。
2001年刊行。あかずの扉研究会シリーズの第四作目。この作品の後、霧舎巧の創作意欲は霧舎学園の方向に走ってしまったようで、本シリーズに関してはしばらく続きが出ていない。由井ちゃんファンとしては寂しい状況だろう。
犯人バレバレ。分かり易すぎ。仕掛けに凝りすぎているのもいかがなものかと。この犯罪の成功確率ものすごく低くないか? 斜路になっているからと言ってあんなものがゴロゴロと転がり落ちてくるとは到底思えない。前半のクイズ大会はちょっぴり面白かったけど、あの段階で犯人の想定がついちゃうよね。[2005/12]
推定少女
[桜庭一樹] ★★★☆ エンターブレイン ファミ通文庫 [Amazon] ※書影無し
義父とのトラブルから家を飛び出した巣籠カナは、街のダストシュートで拳銃を握りしめたまま眠る全裸の美少女に出会う。白雪と名付けられた謎の少女は瞬く間にカナと意気投合。二人は一路東京を目指すが、それからというもの不思議な人影にカナは付きまとわれる。謎の追っ手からの逃避行。果たして二人は逃げ切ることが出来るのだろうか。
2004年刊行。今をときめく桜庭一樹の出世作の一つ。この作家の最近の受けっぷりを見ていて、セルフプロモーションが上手い人だなと漠然とした印象を持っていた(褒めてる)。本作は女性作家による女の子のためのセカイ系。ありそうで無かった隙間を突いてきた嗅覚というかマーケティング能力はいいセンスしているなと思う。
一人称が「ぼく」の女の子が主人公。自分がオンナであることを認めたくない。ましてやオトナになった自分なんてイメージすることさえ出来ない。そんな少女の彷徨と成長の物語。思春期ならではの少女の心のゆらぎを上手く捉えているように見えるのだけれども、大人目線からのメッセージが時折混ざり込んでくるのには違和感を覚えた。その思考パターンは少女っぽくないだろうっていう感じ。リアルなティーンの子たちがどう評価しているのかが気になるところ。
最後に、イラストの使い回しし過ぎ。予算の都合なのかスケジュールの都合なのかわからんけどこれは酷い。ファミ通文庫っていつもこんな感じなのだろうか。[2005/12]

強豪横手中との非公式試合は意外な結果に終わった。天才スラッガー門脇を三振に討ち取ったまでは良かったが、その後の打者に連打され巧は途中降板となってしまう。完膚無きまでに敗れ去った新田東中。キャッチャーとして自らの能力の限界に絶望した豪は巧を避け始める。監督の戸村は苦悩の末に新たな捕手として吉貞を指名する。
2005年刊行。シリーズ四作目。教育画劇より2001年に刊行されていた単行本 [Amazon] の文庫版。文庫化に際して短編「空を仰いで」が書き下ろしで追加されている。文庫版は年末に出るのが最近のお約束となっている。全六巻なので、再来年まで待たないと最後まで読めないのか。文庫派としてはシンドイね。
今回は名門校との試合でメタメタに打ちのめされ、初めての挫折を迎えたバッテリーの苦悩と再起を描く。スポーツモノにありがちな天才と向き合う凡人の葛藤ネタだ。巧も豪も葛藤してはいるんだけど、苦悩の内容がやっぱり違うところが面白い。豪の悩みについても根本的なところが判っていない巧はやっぱり天才。萌えどころが多いのでその筋の方にはたまらないだろう。相手校にも天才凡人カップルを登場させることで物語の深みが増しているのはいいんだが、瑞垣クンは姫さん姫さん煩いぞ。その入れ込みようはちょっとキモい。[2005/12] ⇒次巻

1874年の秋。イギリス。テムズ河畔にそびえるミルバンク監獄には様々な罪を犯した女たちが収監されていた。悪名高き刑務所を慰問に訪れたマーガレット・プライアは不思議な女囚に出逢った。19歳でありながら独特の雰囲気を身に纏い、他人を決して寄せ付けようとしないシライアにマーガレットは次第に魅せられていく。彼女の持つ恐るべき秘密とは。
2003年刊行。オリジナルは1999年にイギリスで出版されている。作者のサラ・ウォーターズはヴィクトリア期のイギリスを舞台とした作品を得意としており本作がデビュー二作目。このミス2004年版海外部門第一位。週刊文春の2003年傑作ミステリーベスト10でも第一位と2003年の翻訳ミステリ界を席巻した作品。
サラ・ウォーターズは初体験だったので、どのような話を書く作家なのかまるで予想がつかなかった。ゴシックホラーなのか、サイコサスペンスなのか、はたまた正統派ミステリなのか、どこに連れて行かれるか判らない不安はたまらなく心地よかった。知らない作家を読む楽しみを久々に堪能出来た。翻訳モノはもう少し読む量増やさないとダメだな。
非常にゆったりとしたペースで物語は進行していく。人間関係がなかなか掴みにくかったり、過去の経緯が伏せられていたりと、しばらくは読んでいてもどかしい思いをさせられる。これで500頁近い大長編なので、気が短い読み手には向かないかもしれない。最初の200頁くらいは根性が必要。
しかしヴィクトリア朝大好きな人間なので自分的にはまったく問題なし。陰々滅々としたミルバンク監獄の描写も素晴らしいし、19世紀末の人々の暮らしぶりが丹念に書き込まれているのも楽しい。そして霧と工場排煙に煙る街ロンドンがこれまたカッコイイ!メイドさんのいる生活が素晴らしいこともよく判った(違)。うちにも蒸気で服を暖めておいてくれるメイドさんが欲しいぞ。
この作品、とてもスローな滑り出しなんだけど、終盤が近づくにつれて展開の速度がもの凄い勢いで上がっていく。で、散々じらされた挙げ句に実はこの話、ラブロマンスでしたという何ですかそれという超絶展開がやってくる。絶句するところなのだが、騙されてちょっと感動しちゃったのは内緒。まあ、もちろんそんなわけはなくて、寒々とした酷い暗転が最後には用意されている。ラスボスを読み切れなかった自分としては大ショック。絶対看守が親玉だと思っていたのに更に裏の裏を突いてこようとは……。「この世に不思議なものなどない」のだということをつくづく思い知らされた一冊だった。[2005/12]
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