2006年01月

書籍名
作家名
出版社
価格
コメント
お薦め度
扉は閉ざされたまま 石持浅海 祥伝社 \838
今年最初の一冊。
★★★☆

プリンセスの義勇海賊

秋山完 朝日ソノラマ \1,000
久々の新刊だが。
★★★

龍安寺石庭を推理する

宮元健次 集英社 \640
龍安寺の石庭っていいよね。
★★★

キノの旅 V

時雨沢恵一 メディア
ワークス
\510
金太郎飴のような安定感。
★★★
亡国のイージス 福井晴敏 講談社 \2,300
∀ガンダムを今度は読みたい。
★★★★

「かまやつ女」の時代

三浦展 牧野出版 \1.300
最近流行りの格差社会の本。
★★★

ねむる保健室
羽鳥中学十三不思議

浩祥まきこ 集英社 \552
詰め込みすぎか。
★★★

月の扉

石持浅海 光文社 \819
動機が……。
★★★☆
風の騎士
グインサーガ105
栗本薫 早川書房 \540
包帯の人がレントの白薔薇(死語)だと思ってた人は自分だけ?
★★★

西の善き魔女1
セラフィールドの少女

荻原規子 中央公論
新社
\900
博士は結局どこへ?
★★★

西の善き魔女2
秘密の花園

\800
801小説が流行る女子修道院って……。

西の善き魔女3
薔薇の名前

\800
フィリエル我が儘すぎ。
西の善き魔女4
世界のかなたの森
\800
ユーシスが普通に強くてビックリだ。

西の善き魔女5
闇の左手

\850
レアンドラとアデイルの姉妹ってけっこう好きだ。
キノの旅 VI 時雨沢恵一 メディア
ワークス
\530
感想書くのが難しくなってきた。
★★★

エンド・ゲーム 常野物語

恩田陸 集英社 \1,500
まさにエンド・ゲーム。
★★★

前の月←  HomePage  →次の月

扉は閉ざされたまま [石持浅海] ★★★☆ 祥伝社 ノンノベル (\838) [Amazon]

扉は閉ざされたまま

成城の豪邸を改造した高級ペンションに集った七人の同窓生。そこで伏見亮輔は後輩の新山を殺害する。密室の構築にも成功し、自殺に見せかけた偽装工作は完璧に見えた。誰もが不審を抱くことなく事態は進行するかに見えたが、唯一、碓氷優佳だけが事の成り行きに疑念を抱く。優佳の追求は精緻に組み上げられていた亮輔の犯罪計画を突き崩していく。

2006年刊行。石持浅海は2002年に『アイルランドの薔薇』でデビューして、以後年一冊ペースで良作を配給(というイメージ)。本作が五作目となる。このミス2006年版国内部門第二位の作品。最近講談社系に偏っていたので、新規作家開拓の一環として購入。ホントは『アイルランドの薔薇』から読みたかったけど、手に入らなかったのでまずは本作から。

最初から犯人はわかっていて、探偵役が次第に犯人を追いつめていく刑事コロンボや古畑任三郎形式のミステリ。普通、殺人事件となるとまず死体を発見して、それから皆で一試案ってのがお決まりだけど、本作では最後の最後まで死体は出てこない。殺人現場のドアはラストまで開かず。開かないドアを前にして、犯人と探偵役が知能戦を繰り広げる。これはありそうで無かったパターンで新鮮。

しかし、正直この動機はありえねえんじゃないかと突っ込みたくもなるけど、優佳ちゃんかわいいんだから別にいいのかもと、妙な納得をしてしまう自分。最初からある程度事態を読んで、自分にもっとも望ましい結論に誘導した優佳の冷静で冷たい人ぶりが素敵だった。現場に居たのがコロンボや古畑任三郎じゃなくて良かったね>>伏見クン。[2006/01]

プリンセスの義勇海賊
[秋山完] ★★★ 朝日ソノラマ ソノラマノベルス (\1,000) [Amazon]

プリンセスの義勇海賊(シュバリエ)

弱小国フリースラントの王女レイティアは短期留学の地、惑星ノーアトゥーンで婚約者を誘拐されてしまう。敵は大国ヴァルラントのトゥリア駐留軍を乗っ取った執政官スカーリア。小国故に自国をあてに出来ない王女が頼ったのは伝説の義勇海賊だった。しかし海賊の正体は零細企業ジャンパール星間運輸(株)。強大な艦隊を持つスカーリアに対して勝機はあるのだろうか。

2005年刊行。二年半新作が出ていなかった秋山完。超久しぶりの新刊。かの名作『ペリペティアの福音』に先立つこと数十年前のお話。トゥオネラ号とか懐かしい単語もちらほら。

謀略に巻き込まれたお姫様が、零細の弱小企業を頼って逆襲を試みるという物語。秋山完的ボーイミーツガールストーリー。弱小勢力が強大な敵に立ち向かっていくお得意のパターンを今回も踏襲していくのだけど、いつもに較べてカタルシスに欠けるというかひねりが足りなくてのめり込めない。敵のキャラ立ちが弱いのも痛かったかな。長い間待ったわりにはイマイチで残念。[2006/01]

龍安寺石庭を推理する
[宮元健次] ★★★ 集英社 集英社新書 (\640) [Amazon]

龍安寺石庭を推理する

日本を代表する庭園として世界にも知られている龍安寺石庭。しかしその成立については未だに定説が無い。一本の樹木も無く池泉の類も無い、白砂と庭石だけで構成された奇異な庭園はいったい誰がいつ、何のために、どのようにして作庭したのか。これまでに語られてきた諸説を検討しながら、新たな視点からのアプローチを試みる

2001年刊行。筆者は龍谷大学文化学部の講師で専攻は庭園史と庭園デザイン。日本の建築や庭園における西欧様式の影響についての著作がいくつかあり、本書でも西欧手法の強い影響が龍安寺石庭に及んでいたのではないか、との大胆な仮説を元に持論を展開している。

実は西洋庭園でした説は確かに面白い考え方だとは思うが、都合のいい証拠だけを集めてきたようで胡散臭い。素人としては突っ込みようが無いんだけど、それに倍するくらいの反証は軽く出てきそうに思える。同じ謎を追った、明石散人の『龍安寺石庭の謎―スペース・ガーデン』 [Amazon] とまるで違う結論になっているのは興味深いね。

キノの旅 V [時雨沢恵一] ★★★ メディアワークス 電撃文庫 (\510) [Amazon]

キノの旅〈5〉the Beautiful World

キノとエルメスの旅は続いている。その国では恐るべき事が許されていた。「人を殺すことができる国」でキノが見たものは。辺境の地で"あるもの"を売るために店を出す男を描く「店の話」。廃墟の街を訪れたキノが出逢う七人の男たち。彼らとの死闘の顛末を描く「英雄たちの国」。他十編を収録した連作短編集。

2002年刊行。シリーズ五作目。

相変わらずキノは容赦なくメチャクチャ強いし、師匠の正体はまだよく判らないし、師匠の連れは何者なのか謎のままだし、数合わせのようにシズと陸の話も入ってるしと、特に可もなく不可もなく、適正な作品水準を保ちつつ静かにまったりと進行。シズや陸みたいな例外はあるにしても、同じキャラを二度使えないのは書き手としては難しいんだろうな。[2006/01] ⇒次巻

亡国のイージス [福井晴敏] ★★★★ 講談社 (\2,300) [Amazon]

亡国のイージス

海上自衛隊のミサイル護衛艦いそかぜでは不可解な事故が相次いでいた。乗組員の中に工作員が潜入している。その事実は幹部たちを震撼させる。米軍基地での未曾有の大惨事。北朝鮮に奪われた秘密兵器。最新鋭の装備を満載したハイテク艦が国家間紛争の舞台となったとき、安穏と平和を甘受してきた日本政府は厳しい決断を迫られることになる。

1999年刊行。第2回大藪春彦賞、第18回日本冒険小説協会大賞日本軍大賞、第53回日本推理作家協会賞長篇を受賞。「このミス」2000年版でも国内三位にランクイン。福井晴敏はこれでブレイクした。デビュー作にして乱歩賞受賞作の『Twelve Y.O.』の続編なので出来ればこちらを読んでからの方が話が分かりやすい。前作キャラも少しだけ出番があるので知っていると嬉しい。

600頁で二段組み。登場人物一覧が別紙で入っている。これが30人以上も居たりする。最初の100頁くらいはストーリー進行もゆっくりとしていてなかなかペースに乗れなかった。大長編だけに序盤はキャラクターの紹介と、自衛艦という特殊な舞台を説明することに枚数をかけたのだろう。

テンポがガラリと変わるのは第三章。読者にこれまで信じ込ませてきた前提を綺麗にひっくり返して見せて、そこから豪快なシフトアップ。これまでのスローペースは何だったのと言いたくなるようなたたみかけるような急展開。相変わらず表現の青臭さが鼻につくんだけど、これはもう福井晴敏の作風と解するしかないのかもしれない。父と子、自衛隊、日本とアメリカ、人間としての生き甲斐とは等々、物語の軸が複数あって、その全てを丹念にケアしてきっちり書き切っているところが素晴らしい。これが二作目だが、全作よりも着実に上手くなっている。[2006/01]

「かまやつ女」の時代 [三浦展] ★★★ 牧野出版 (\1.300) [Amazon]

「かまやつ女」の時代―女性格差社会の到来

だらっとした服装。スカートは履かない。髪型はもっさり。一昔前のオッサン風スタイルの20歳前後の女の子「かまやつ女」が増えている。彼女たちの心情は、ゆるく、頑張らない、マイペース、のんびり、ゆっくり。オンナでることを誇示せず、上昇志向を持たない「かまやつ女」の増加は格差社会の本格化を暗示するものなのだろうか。

2005年刊行。筆者の三浦展は1958年生まれ。『ファスト風土化する日本』 [Amazon] 『下流社会』 [Amazon] などの著作で知られ、昨今流行りの格差社会モノの論客の一人。

タイトルの「かまやつ女」とは筆者の命名。今時かまやつひろし知ってる若い子はいないんじゃないかと思うけど、オッサンたちに読ませる本だからいいのか。生まれたときから中流で、自分の能力も程ほど。オンナを露骨にアピールするのもちょっと……。お金が無くても、自分らしさを出しながらまったり生きられればそれでいいじゃん。ってのが「かまやつ女」たちの考え方。そんな女の子が最近増えているのではというのが筆者の主張。

対極的存在として才色兼備の上昇志向女を「六条女」(六条華が引き合いに出されているけどこれもセンス古いよな)と名付け、女性の間にも当世お馴染みの合い言葉グローバル化が進行しているのではないかと説き、。格差社会は確実に進行しているのだと警鐘を鳴らしてみる。

筆者は元はファッション畑の人らしく、ファッション誌を引き合いに出した説明が頻出するのだが、ゴメン、そっち系詳しくないので正直ついていけなかった。もう少し詳しい注釈が欲しかった。それから統計結果はちゃんと表で書いてあるのに、〜が何%、〜は何%ってわざわざ文章でも全部書いているのが意味不明。ページ稼ぎなのか?着想のポイントは面白いけどベースとなる統計データが少なすぎるのも気になった。[2006/01]

ついでに…… 
『希望格差社会』@山田昌弘<<こっちの方がまだ読める。

▲トップに戻る▲

ねむる保健室 羽鳥中学十三不思議
[浩祥まきこ] 
★★☆ 集英社 コバルト文庫 (\552) [Amazon]

ねむる保健室―羽鳥中学十三不思議

日向なぎは諸般の事情でちょっと不思議な能力を持つようになってしまった女の子。彼女が転校した羽鳥中学は怪奇現象の宝庫。転校初日から人で無いものの声を聞いてしまったなぎは早速トラブルに巻き込まれていく。旧校舎の保健室に呼び寄せられ、眠ったまま目を覚まそうとしない幾人もの生徒たち。委員長、もーちゃんと共に旧校舎へ乗り込んだなぎが見たものは!

1999年刊行。浩祥まきこ四作目の作品。現時点ではこれ以降、新刊は出てない模様。数多くの怪奇現象で知られる中学校に、少々込み入った事情の女の子が転校してきてというストーリー。ホラー的な題材を扱っているが、浩祥まきこ作品なのでホラーテイストはさほど強くなく、どこかしらほのぼのとした柔らかで優しいトーンに包まれた作品になっている。

転校初日の物語ってのは展開的に強引過ぎる。人間関係もへったくれも出来ていない段階でここまで話を進めるのは無理があるんじゃないかと。委員長が抱えている極めてデリケートな個人的事情を、ほとんど初対面に近いなぎたちが知ってしまうのは違和感があるなあ。なぎの正体にしても少々訳あり要素が多すぎて、一冊に詰め込むのは厳しかったように思う。ホントは二巻、三巻と続けたかったんだろうな。[2006/01]

月の扉 [石持浅海] ★★★☆ 光文社 カッパノベルス (\819) [Amazon]

月の扉

那覇空港。国際会議を目前に控え、厳戒態勢が取られていたその場所で事件は起きた。幼児を人質に機内に立てこもった三人のハイジャック犯たち。彼らの要求は、不当に逮捕されている「師匠」こと石嶺孝志をこの場に連れてくることだった。機内の制圧に成功した三人だったが、やがて密室の筈のトイレから乗客の死体が発見されたことで、事態は思わぬ方向に……。

2003年刊行。石持浅海二作目の作品。2004年版の「このミス」で国内8位に入っている。

ハイジャックサスペンスと期待させておいて、実は密室殺人の謎もやっちゃいますという、とても欲張りな作品。犯人の三人はハイジャックを成功させるのに精一杯なので、降って湧いたような密室殺人には構っている暇がない。ってことで、殺人事件の方は手近にいた乗客に探偵役を外注してしまう。この発想はなかなか面白い。

先日読んだ『扉は閉ざされたまま』でも感じたけど、この作家は閉鎖環境下での物語の筋運びが上手。複数の謎を小出しにしながら読み手の興味を巧くつないでいる。一度読み始めると止まらない。300頁弱と適度な分量でしっかり完結しているのも、重厚長大化の傾向がある昨今のミステリ界にあってはかえって新鮮で好感が持てる。

難ありとすれば、強引というかありえなさ過ぎる三人の犯行動機だろうな。これはこれで美して悪くはないけど。一抹の奇跡の可能性を残してぼかし目に終わったラストと共に好みの分かれるところだろう。[2006/01]

風の騎士 グインサーガ105 [栗本薫] ★★★ 早川書房 ハヤカワ文庫 (\540) [Amazon]

風の騎士―グイン・サーガ〈105〉

かつてのアムネリスの侍女フロリーはローラと名を変え、辺境のミロク教徒たちの村で息子と二人、息をひそめるように暮らしていた。グインとマリウスの訪問はそんな彼女の平穏な生活に終止符をつげるものだったのか。イシュトヴァーンの落とし胤スーティに仮面の男、風の騎士の魔の手がのびる。そこで絶対絶命の彼女たちを救ったのは意外な人物だった。

2005年刊行。表紙の白馬にまたがる女はアムネリスで正解?で、背景で陰々滅々としている仮面の人だけど、今回新たに謎の包帯仮面が登場(<<あんた出番多すぎ)。瞬間読者を迷わせるもあっさりネタバレ。登場して二冊目なんだからもう少し引っ張ってもよかったのに。

風の騎士の中の人はもちろん誰もが予想していた通りゴーラの明石市もとい、赤獅子のアストリアス。壮絶な放置プレイからの復活はいいとしても、相変わらず弱そう。ダリウス大公や、タルーみたいな小物臭が濃厚に漂っていて、グインやイシュトヴァー相手にまともに戦えるとはとても思えない。昔のキャラがガンガン死んでいるのでこいつには長生きして欲しいな。ロクな死に方させてもらえないだろうし。[2006/01] ⇒次巻

西の善き魔女1 セラフィールドの少女
[荻原規子] 
★★★ 中央公論新社 C-NOVELS (\900) [Amazon] ※書影無し

女王生誕祝祭日。辺境の地セラフィールドの少女フィリエルは、ルアルゴー伯爵の舞踏会に出席することを初めて許された。偏屈な父親から届けられたのは母の形見の首飾り。ルアルゴーの屋敷に足を踏み入れたフィリエルの人生はその時から一変する。首飾りに隠された驚くべき秘密とは。恋と策略と戦いの日々がいま始まろうとしていた。

1997年刊行。言わずとしれた有名作品で、荻原規子の出世作。ノベルズから始まって愛蔵版 [Amazon]、文庫版 [Amazon] と続いてコミック化 [Amazon] もされて遂にはアニメ化もされるらしい。正伝5巻+外伝3巻の全8巻。ただし、文庫版では正伝と外伝の別がなくなっていて作品内での時系列順に巻の順番が入れ替わっている。ノベルズでは正伝1〜5⇒外伝1〜3と続くのが、文庫版では正伝1〜4⇒外伝2正伝5外伝1外伝3の順番で刊行されている。知らないとかなり紛らわしい。

田舎に生まれた女の子が実は高貴なお生まれでしたという王道的なストーリー展開。第一巻では伯爵家に引き取られて上流社会への第一歩を踏み出すところまで。なんとなくアードレー家に引き取られた『キャンディ・キャンディ』 [Amazon] を思い出すなあ(古い)。ピンチになると度胸が据わって大胆な行動をも厭わないフィリエルの性格は主人公としてはうってつけだ。

そして彼女には幼馴染みの少年ルーンが居るのだけれども、まだこの時点では互いに兄弟としての意識が強くて恋心が生まれるまでには至っていない。ルーンは黙して語らずなミステリアスなキャラクター設定。静けさの中に押し隠した激情は『嵐が丘』 [Amazon] のヒースクリフをなんとなく想像させられて(周り荒野だし)これからが楽しみだ。物語はフィリエルとルーンの二人を軸として展開していく。

舞台となるのは代々女王が治める女系国家グラール。女王はいるけど王様はいないのだ。中世ヨーロッパ風の異世界ファンタジーな世界設定だが魔法の類は出てこない。科学の知識は王家に独占されていて一般には禁忌のものとされている。とこのあたりは後々重要になってきそうな予感。設定はかなり練り込んで作ってあるようだ。[2006/01] ⇒次巻

西の善き魔女2 秘密の花園
[荻原規子] 
★★★ 中央公論社 C-NOVELS (\800) [Amazon] ※書影無し

フィリエルはルアルゴー伯爵の手によってトーラス女子修道院の付属学校へと送り込まれる。厳格な規律で知られる全寮制の学院は乙女の花園。しかしその内実は一部の特権階級の子女たちによって支配された過酷なピラミッド社会だった。生徒会からの嫌がらせを受けながらも健気に耐えるフィリエルだったが、思いもよらぬ人物が転校生として現れる。

1997年刊行。シリーズ二作目。あれ、イラストが変わっていると思ったら一冊目は新装版を買ってしまっていたらしい。よく見ると出版社名も違う!この頃はまだ中央公論社だ(新装版では中央公論新社)。イラストはノベルズの1巻〜4巻までが牛島慶子で、5巻がきがわ琳、外伝の1巻〜2巻が朝比奈涼子、ってどう考えてもイラスト変わりすぎ。酷いなこれは。中央公論社は1999年に経営危機に陥り、読売新聞社が設立した中央公論新社に営業権を譲渡している。これが4巻と5巻の間の出来事なのでなにか影響があったのかもしれない。で、外伝3巻で更にイラストが変わって桃川春日子に。さすがにこれではマズイと思ったのかこの時点で表紙絵、イラストが桃川春日子に全て差し変わった新装版が刊行された。現在出回っているのはこちらだろう。ちなみに桃川春日子はコミック版も描いているようだ。更に付け加えると、文庫版、愛蔵版はこれまた絵が違うんだけど手元に無いので判らない。ゴメン。

王位継承争いに巻き込まれていくフィリエル。が、なにはともあれまずは行儀作法の勉強からということで全寮制のお嬢様養成学校に放り込まれる。『キャンディ・キャンディ』的に言うと聖ポール学院みたいなもんか。あっちは共学だけど。上級生の苛めに耐えて逆襲に打って出るという、とても気持ちの良い展開ではあるけれども、ルーネットの転校はいくらなんでも無理が有りすぎ。アデイルの同人話も羽目を外しすぎのように思える。作者的にはこの二巻が一番楽しんで書いているように見えるけどね。[2006/01] ⇒次巻

西の善き魔女3 薔薇の名前
[荻原規子] 
★★★ 中央公論新社 C-NOVELS (\800) [Amazon] ※書影無し

フィリエルは遂に首都メイアンジュリーへと足を踏み入れた。ルアルゴー伯の庇護を受け、王宮ハイラグリオンでの社交界へのデビューを飾った彼女は周囲の注目を浴びる。王位への野心を抱くリイズ公爵の急接近は何を意味するのか。一方、王立研究所の一員となったルーンも権力を巡る血なまぐさい陰謀に巻き込まれていく。

1998年刊行。シリーズ三作目。

宮廷編に突入。胡散臭い公爵は寄ってくるし、伯爵の息子にはプロポーズされるしでいきなりモテモテ。フィリエルは現女王の次女の娘という設定。彼女の母親は女王の意に染まぬ結婚をしていてその際に継承権を剥奪されている。従ってフィリエルは女王の血は引いているものの現時点では女王にはなることが出来ない人間なのだが、係累になっておいて損は無しということでいろいろな人間が近づいてくるわけだ。

実際に王位を争っているのはフィリエルにとって従兄弟にあたる現女王の長女の娘二人。それがレアンドラとアデイルの姉妹なんだけど、光と影、動と静、改革と保守って様相で対照的な存在として描かれていて面白い。これまで描かれてこなかった女系国家グラールの秘密も少しずつ明らかになってきているが、未だ多くの謎を秘めた世界の構造もとても魅力的だ。

ようやく恋愛の形を取り始めたフィリエルとルーンの仲はこの巻で怒濤の急展開。盛り上がるかに見せておいて、一気に悲劇的な展開へともっていくストーリーテリングの冴えは見事。最後にフィリエルが取った選択は、ちょっと男の読者には理解出来ない恋する乙女ならではの決断で、好き嫌いが分かれるんじゃないだろうか。まあ、この程度で驚いているようではこの先は読めないわけだけど。[2006/01] ⇒次巻

西の善き魔女4 世界のかなたの森
[荻原規子] 
★★★ 中央公論新社 C-NOVELS (\800) [Amazon] ※書影無し

南方の小国カドウェルからの要請に応じ、グラールは伝統に従い竜騎士団を派遣する。一隊を率いるユーシスを追って南へと向かうフィリエル。ユニコーンを駆り過酷な竜との戦いに身を投じて行くユーシスたちだったが、危機に陥ったフィリエルを救ったのは行方をくらましていたルーンその人だった。深刻化していく事態を打開するため、二人は南のはての壁を目指すが……。

1998年刊行。シリーズ四作目。

野暮と承知でツッコムけど、フィリエルがユーシスを追ってカドウェルに行くのはどう考えても無理があるだろ。ルーンの消息についてもっと明確な指針があるのならまだしも。しかも危険地帯を10代の女の子が二人で旅出来てしまうのもご都合主義に過ぎる。大事な物語の転換点なのだから、もう少ししっかりした構成にして欲しかった。

ちらほら見え隠れしていたこの世界の秘密が次第に明らかになっていく。フィリエルはとうとう瞬間移動までやっちゃったからなあ。ファンタジー仕立ての作品が一気にエスエフ寄りになってきた。謎の吟遊詩人も登場してくるけど、詳細は明かされず。詳しくは次の五巻でということなのだろう。東の帝国ブリギオンの活発な動きとあいまってかなり盛り上がる展開になってきた。[2006/01] ⇒次巻

西の善き魔女5 闇の左手
[荻原規子] 
★★★ 中央公論新社 C-NOVELS (\850) [Amazon] ※書影無し

東の帝国ブリギオンの南方からの侵攻。思いもよらぬ事態に竜騎士ユーシスは驚愕する。このグラール存亡の危機にかけつけたのは意外な人物だった。一方、本国のハイラグリオンでは大僧正メニエールが王位簒奪の野望を企てていた。これほどまでの事態に至っても女王コンスタンスは人々の前に姿を現さない。業を煮やしたフィリエルは遂に女王宮の奥深くに単身乗り込んでいく。

1999年刊行。シリーズ第五巻。ノベルズ版ではこれが本伝の最終巻。文庫版では間に外伝の一巻が入るので第六巻にあたる。

東の大国は攻めてくるわ、大僧正が王位を狙い始めるわ、これまで出ても来なかった女王コンスタンスがやっと登場してくるわで盛りだくさんの、ジェットコースター的展開が堪能できる第五巻。もう少し枚数をかけた方が良かったような気もするけど、それなりに伏線は引いてあったのでこれはこれでアリかな。

このシリーズでは明確な悪人というものが存在しない(小物のリイズ公爵なんてのは居たけど)。女王にしてもレアンドラやアデイルにしてもそれぞれの立場の違いや、主義主張があって、ある程度私情は捨てて高貴なもの故の義務を果たそうとしている。そんな中でまるで空気を読まずに私情混じりに状況を引っかき回すフィリエルの存在感が他を圧倒している。個人的にはあまり好きじゃないキャラクターだけど、とても魅力的な存在であることは明らか。何が何でも想いを遂げようとする彼女の強い意志は西魔女の最大のウリだと思う。

お話的にはいちおう円満解決?隠者って何なのかしらって疑問は残るけど、どうやらこの話、外伝三冊も読まないと全ての謎は明かされないらしいので、それは後の楽しみにしておこう。主要キャラクターが誰も死ななかったのでホッとした。いい人フラグが立ち過ぎていたユーシスの身を密かに案じていたのだった。外伝ではアデイルとくっついて欲しいけど、そんな話はあるのだろうかな。[2006/01] ⇒外伝1

キノの旅 VI [時雨沢恵一] ★★★ メディアワークス 電撃文庫 (\530) [Amazon]

キノの旅〈6〉

キノとエルメスは旅を続けている。刑期を終えて出てきた男と旅に出る女。その真の目的とはいったい?「彼女の旅」。空前の規模で豪勢な花火大会を毎年続けている国。その裏に隠された秘密「花火の国」。ありとあらゆる危険を事前に排除している国の謎「安全な国」。自分を買ってくれと懇願する少女の悲劇を描く「祝福のつもり」他八編を収録した連作短編集。

大きな展開があったわけでもないしシリーズ六冊目ともなると正直感想を書くのが難しい。師匠の人の経歴が少しずつ判ってきているけど、キノとの邂逅はこの先あったりするんだろうか。シズとの絡みもちょっと期待したい。

このシリーズの傾向として、感動系の作品を最後に持ってくることが多いようにだけど、今回の「祝福のつもり」は直球勝負過ぎてイマイチ。先も読めてしまった。好きだったのはラスト一つ手前の「旅の途中」。ストーリーのキレよりも、叙情的な絵としての美しさを追求してみた作品。こういう作品が入っていると全体が引き締まっていいね。[2006/01] ⇒次巻

エンド・ゲーム 常野物語 [恩田陸] ★★★ 集英社 (\1,500) [Amazon]

エンド・ゲーム―常野物語

母が倒れた。暎子はついに「裏返されて」しまったのか。時子は現地へと向かうが暎子は昏々と眠り続けたまま目覚めようとしない。長年の禁忌を破り、一族への助けを求めることにした時子の前に火浦と名乗る男が現れる。「洗濯屋」の力を持つ火浦は不可解な提案を持ちかける。封印された記憶が蘇る時ゲームの終わりが始まる。

2006年刊行。「小説すばる」に2004年から2005年にかけて連載されていた作品をまとめたもの。『光の帝国』『蒲公英草紙』に続く常野物語シリーズの三作目。『光の帝国』収録の「オセロ・ゲーム」の後日譚が本作。

連作短編集であった『光の帝国』の中でもっとも緊迫感が高くて異彩を放っていたのが「オセロ・ゲーム」だった。「裏返された」夫の失踪後、一人で娘の時子を守ってきた暎子。タフでクールな闘う女ぶりが格好良くて強く印象に残っていた。この短編の続きを執筆することは当初から公言されていて待ちに待った続編、ではあった。って、ここまで全部過去形。

最近の恩田作品の傾向として中盤までの雰囲気は最高。魅力的な謎、一癖も二癖もありそうな濃い登場人物たち、この盛り上がりにどうカタを付けるのよと読み手を期待させておいて最後に失速というパターンが続いている。サッカー的に言うと、中盤で神懸かり的なパスワークを見せておきながら、ゴール前にフォワードが誰もあがってないような感じ(笑)。

その流れは残念ながら本作でも変わっていなかった。手に汗握る戦慄の「裏返し」バトルの果てに、傷つきながらも娘を守りきり夫を奪い返す暎子!みたいな、分かり易いカタルシスはまったく得ることが出来ず。しかもタチの悪いことにもはやゲーム自体が虚構でしたというシリーズの前提自体を揺るがしかねない酷く衝撃的な結末が提示される。少なくとも「オセロ・ゲーム」を書いた当時にはこんな展開は考えていなかったと思うんだけど、どういう心境の変化なのだろうか。闘う女としての暎子に魅力を感じてきた読者としてこのショックは大きい。

この先、常野物語はまだ続いていくのだろうけど、「光の帝国」で感じたような心が温かくなるような明快な感動はもう得ることが出来ないのかもしれない。[2006/01]

前の月←  HomePage  →次の月