2006年02月

書籍名
作家名
出版社
価格
コメント
お薦め度
やさしい雨 浩祥まきこ 集英社 \476
愛すべき佳作。
★★★

感傷戦士
センチメンタルエニュオ
五月香ロケーションPART1

森雅裕 講談社 \640
やっぱり古さは否めない。
★★★

ハイウイング・ストロール

小川一水 朝日ソノラマ \629
設定がストライク過ぎる。
★★★☆
夏草の記憶 トマス・H・クック 文藝春秋 \667
60年代アメリカの情景が蘇る(って、オレ日本人だけど)
★★★★

遠い約束

光原百合 東京創元社 \560

解説の西澤保彦は蘊蓄こねすぎ。

★★★

銀盤カレイドスコープ Vol.1
ショート・プログラム
:Road to dream

海原零 集英社 \571

100億$の女登場。

★★★☆

銀盤カレイドスコープ Vol.2
フリー・プログラム
:Winner takes all?

\571

あの衣装選択は規定的に許されるだろうか。

★★★☆

銀盤カレイドスコープ Vol.3
ペア・プログラム
:So shy too-too princess

\590
いきなりペア転向は無いだろ。
★★★☆
銀盤カレイドスコープ Vol.4
リトル・プログラム
:Big sister but siste
\571
今回はヨーコがメイン。
★★★

銀盤カレイドスコープ Vol.5
ルーキー・プログラム
:Candy candy all my rules

\533
アイスショウ見てみたくなるね。
★★★

銀盤カレイドスコープ Vol.6
ダブル・プログラム
:A long, wrong time ago

\629
燃える展開。
★★★☆
スクランブル 若竹七海 集英社 \476
各章のタイトルが卵料理。
★★★

セリヌンティウスの舟

石持浅海 光文社 \762
あなたたちは気高すぎます。
★★★

西の善き魔女外伝1
金の糸紡げば

荻原規子
中央公論
新社
\850
フィリエルその発想は非道いよ。
★★★

われはフランソワ

山之口洋 新潮社 \1,800
詩人にして大泥棒。
★★★☆

アクアリウムの夜

稲生平太郎 角川書店 \600
幻想小説でジュブナイル。
★★★☆

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やさしい雨 [浩祥まきこ] ★★★ 集英社 コバルト文庫 (\476) [Amazon]

やさしい雨

佐田東高校では珍しい高校三年次での転校生を迎えていた。転校生の名は月島律。クラスメイトと馴染もうともせず、孤高の日々を過ごす彼女にはある秘密があった。クラスメイトの片瀬歩と松崎龍昇はなにかにつけて律に近づこうとするが容易にはその壁は破れない。挫折し、心を閉ざしてしまった少女の再生の日々を綴る表題作他、二編を収録した連作短編集。

1998年刊行。浩祥まきこの三作目の作品。とても90年代後半に出たとは思えないクラシカルなカバーデザインがいまとなっては新鮮に見える。

選手生命を絶たれたスポーツ選手や、いじめにあって登校拒否になってしまった女の子たちの癒しと成長の物語。傷ついた少女たちへの暖かく柔らかなまなざしと、心に染みる語り口。たぶんワカモノ年代で読んでいればもっと感情移入して読めたと思う。二作目の『ごむにんげん』 [Amazon] (コバルトとは思えないスゴイタイトルだ)をまだ読んでないので断言は出来ないけど、彼女の作品の中ではこれが一番いいかな。[2006/02]

感傷戦士(センチメンタルエニュオ) 五月香ロケーションPART1
[森雅裕] 
★★★ 講談社 講談社ノベルズ (\640) [Amazon] ※書影無し

自衛官梨羽一輝は演習の最中にひとりの少女に出逢った。飛騨忍軍の末裔の母親と、台湾の少数民族虎飛族の父親との間に生まれた彼女は超人的な身体能力を有していた。五月香(めいか)と名付けられ、梨羽の家族として引き取られた彼女だったが、十八歳を迎えたときに運命の日が訪れる。自衛隊内部での勢力争いに巻き込まれた五月香は過酷な戦いの世界へと身を投じていく。

1986年刊行。古っ。20年も前かよ。古本屋で何年も前に見つけて、長らく積読箱に入りっぱなしだったのを引っ張り出して読んでみた。80年代とはいえイラストが酷いな、これ。とても18歳の女の子には見えないよ。書影が出ないのが残念でならない。

森雅裕は乱歩賞出身の作家。世渡りが下手な人で片っ端から出版社と喧嘩しちゃうもんだから、どんどん本が出せなくなってしまった可哀想な人。これで売れる話が書ける人なら、どこでもやっていけるんだろうけど、どう見ても売れ筋から離れた通好みの話ばかり書いてしまうのが素敵なところ。

いくつかある森作品の系統の中で、本書は武闘派美少女系に属するお話。類書としては『流星刀の女たち』 [Amazon] とか『平成兜割り』 [Amazon] あたり。この人の書く武闘派ヒロインたちは半端でない超硬派なので、そんじょそこらの男とは恋に落ちない。強いのはいいんだけど、とりつくシマがないくらい隙がないので完全無欠過ぎて愛せない。次のPART2で完結の筈なんだけど、もう少し人間らしいところを見せて欲しいな。古い本なので果たして見つかるかどうかが不安だけど。[2006/02]

ハイウイング・ストロール
[小川一水] ★★★☆ 朝日ソノラマ ソノラマ文庫 (\629) [Amazon] ※書影無し

重素の厚い雲に覆われ、一部の高地以外には居住することができなくなってしまった未来の地球。15歳の落ちこぼれ少年リオは強引なスカウトを受け、空に棲む浮獣を狩る翔窩(ショーカ)の一員となる。相棒のジェシカは年上の美人。しかも凄腕。厳しい実戦の日々をくぐり抜けていくうちに成長していくリオ。二人は次第にこの世界の秘密に近づいていく。

2004年刊行。空を飛ぶ巨大生命体浮獣を狩ることで生計を立てる翔窩(ショーカ)たちの物語。すごいぞ、この話。主人公は15歳で身長155センチ。一方のヒロインは20歳で身長175センチ(そいでもって巨乳)。駄目な人は全く駄目かもしれないけど、指向性が合う人間なら萌え死にしそうな垂涎ものの設定だと思う。自分的にはモロにストライクゾーン。

浮獣を狩るための見習いに抜擢された主人公が、パートナーのヒロインに日々、叱られて、怒鳴られて、鍛えられながら立派な青年に成長していくまでを描く。翔窩は複座型の飛行機に乗り込んで出撃していくんだけど、前席は操縦と主火器を担当。後席は通信やら副武装を担当する。狭いコクピットに背中合わせで座るので、後席は当然前が見えず、勘と経験と背中越しに伝わってくる前席の人間の微妙な動きだけが頼り。童貞の15のガキをピチピチの20のねーちゃんと同じ飛行機に乗せるなんて設定がエロ過ぎます(って、オレは興奮し過ぎ)。

最初はショボイ機体。ショボイ武装。だから弱い敵しか出ないところでチマチマ稼ぐ。お金が貯まって、錬度が上がったら装備を強化して、河岸を変えて更にレベルアップ。ちょっと手に余る敵が出てきたら同業者とパーティ組んでみたりと、それなにかのゲームですかと突っ込みたくなる程のRPG的な展開。ゲーム世代には分かり易くていいけど、せっかく凝った設定にしてある世界観が安っぽく見えてしまって勿体ないな。

それから後半の展開が詰め込みすぎであることも惜しいポイント。主人公の挫折⇒成長という流れと、この世界が抱える秘密、この二つを終盤で同時に描き切るには枚数が足りなかった。もう一冊くらいあって良かった。ソノラマって続きが出しにくいのだろうか。スニーカーや電撃なら絶対続きが出せていると思うんだけど。[2006/02]

夏草の記憶 [トマス・H・クック] ★★★★ 文藝春秋 文春文庫 (\667) [Amazon]

夏草の記憶

1960年代初頭。アメリカ南部の田舎町チョクトー。優等生だが内気で奥手のベン・ウェイドは北部からの転校生ケリー・トロイに夢中になる。勝ち気で美人。正義感が強くて聡明なケリーは瞬く間に学園の人気者となりベンには手の届かない存在となってしまう……。しかし惨劇は起きた。輝かしい人生を送る筈だった彼女の未来を奪ったのは誰なのか。追憶の中から蘇る事件の真相。

1999年刊行。トマス・H・クックは1947年生まれのアメリカ人作家。本作が12作目。原著は1995年の刊行。2000年版「このミス」海外部門で第三位に入った作品。60年代、アメリカ南部の田舎町を舞台とした回想型の青春ミステリ。30年後、真相に気付いてしまった主人公が当時の回想を交えながら、事件が起きたゼロ時間へと近づいていく構成になっている。

魅力的な転校生のハートを射止めようと悪戦苦闘する少年時代の主人公がとにかく良く書けている。頭はいいんだけど、でも全然モテない田舎の優等生クン。高校生年代ならではの、純粋な恋愛感情が瑞々しく描かれてしばしばいたたまれない気持ちにさせられた。初デート後の高揚感とか、触れようとしてさりげなくかわされたときの絶望感とか、こういうのあったよなあ。ヒロインの運命が最初から判っているだけにこのときめきも切ない。

主人公の心理描写が巧みで、ヒロインも実に魅力的に描かれているんだけど、この作者、主人公を取り巻く同級生たちについても描写に相当な手間をかけている。最初は周辺人物の描写に頁数を割き過ぎなのではとも思ったが、この部分が実はしっかり伏線にもなっていて読み終わってから巧いなと感心した。青春を謳歌していた彼らがその後どのような人生を送ったのか、30年の歳月が人間をどのように変えてしまったのかが容赦なく描かれていて、誰にでも時間だけは等しく平等に訪れるものだという残酷な事実を改めて思い知らされた。

現在と過去を行きつ戻りつしながら、ゆっくりと事件の核心へと物語は進んでいく。失われた青春の象徴としてのケリーの存在感は圧倒的で、それだけに現在での彼女の不在という事実が突きつけてくる喪失感は計り知れないものがあった。あまりに主人公の悔恨の思いが強いので、ある程度結末は予想が出来ていて、17歳で想い人を死なせてしまうのはトラウマだよなあ、30年かけてベンは罰されてきたんだなあ、なんてつらつらと考えていたのだが、なんとラスト3頁で信じがたい衝撃が訪れる。酷い。惨すぎるよ。こんな壮絶なオチが待っていようとは想像もしていなかった。罪の自覚があったとはいえよくこれに直面する気になったな。久しぶりに背筋がゾッとした。トマス・H・クック恐るべし。「記憶」シリーズは評判が良いようなので続けて読んでみるつもり。

遠い約束 [光原百合] ★★★ 東京創元社 創元推理文庫 (\560) [Amazon]

遠い約束

吉野桜子はこの春、晴れて浪速大学に合格。念願のミステリ研究会への入会を果たした。彼女を待ちかまえていたのは一癖も二癖もありそうな個性的な三人の先輩たち。同好の士たちとのミステリ談義を日々満喫する彼女だったが、唯一の心残りは今は亡き大叔父との幼い日の約束。大叔父が残した謎めいた遺言に隠された真の意味とは……。

2001年刊行。光原百合は1964年生まれ。デビュー作は1989年の詩集『道』 [Amazon] 。その後絵本や翻訳の作品を数冊出している。ミステリ作品の執筆は当時から行っていたようで、ミステリとしての第一作は1998年の『時計を忘れて森へいこう』 [Amazon] 。本作はそれに続く二作目のミステリ作品。文庫書き下ろし。表紙イラストはマンガ家の野間美由紀が担当していて非常に目を引くデザインになっている。でも、いかにもマンガチックな表紙なので敬遠してしまう人がいるんじゃないかと思う。

ミステリ愛好家の女の子が大学のミス研に入会。重度のミスヲタの三人の先輩と共に数々の謎を解き明かしていく連作短編集。創元社らしいささやかな日常の謎系なお話。テーマも消えた指輪の探索や、季節外れの暑中見舞いの謎だったりとライトテイスト。中心となるのは死んだ大叔父の遺言をめぐる暗号解読で、これはちょっといい話でしんみり。

全編を通じてにミステリへの愛が溢れていて少々気恥ずかしくならないでもないけど、作者としては自分の学生時代へのオマージュ的意味合いが過分に込められている感じで、作家として一度は書いておきたかった作品なんだろうなと推定。派手さは無いが地味に良作。[2006/02]

銀盤カレイドスコープ Vol.1 ショート・プログラム:Road to dream
[海原零] 
★★★☆ 集英社 スーパーダッシュ文庫 (\571) [Amazon]

銀盤カレイドスコープ〈vol.1〉ショート・プログラム:Road to dream

桜野タズサは16歳。天賦の才と美貌に恵まれ、フィギュアスケート界でオリンピック代表の座を争うまでに成長を遂げていた。しかしタズサには本番に弱いという致命的な欠点が!そして生来の性格の悪さが災いしてマスコミと世論をも敵にしてしまう。そんな彼女に何故か幽霊が取り憑いてしまう。彼の名はピート。奇妙な同居生活が始まる中、代表選考会の日が近づいていた。

2003年刊行。集英社の第二回スーパーダッシュ小説新人賞の大賞受賞作品。ライトノベル界初?のフィギュアスケートの世界を舞台にしたスポ根小説。熱血系。かなり売れてしまったようでコミック化 [Amazon] アニメ化(アニメの方、絵変わり過ぎ)もされている。

才能はあるのに性格が最悪のヒロイン、タズサの天上天下唯我独尊ぶりが徹底していてとても気持ちがいい。キャラ立ちとしては最高レベル。怪我や病気で過去何度も五輪への切符を逃し続けてきたライバルが土壇場の演技で転倒。この瞬間に大衆の面前でガッツポーズを決められるヒロインってのは凄すぎるよ。日本人離れした性格設定が◎。いいよいいよ。

最近脚光を浴びるようになってきたとはいえ、まだまだマイナースポーツの域を出ない競技だけにどれだけ分かり易く書けるかってのも大事な要素なのだけど、フィギュアが全然判らない読者相手に、あたかも目の前で滑っているかのように説得力のある「絵」を文章で表現出来ているのがこれまた素晴らしい。演技者の気迫と、観客の興奮がこちらにも伝わってくる程の熱さは、作者にフィギュアへの愛があるからこそ表現出来たんだろう。これは続きが楽しみだ。[2006/02] ⇒次巻

銀盤カレイドスコープ Vol.2 フリー・プログラム:Winner takes all?
[海原零] 
★★★☆ 集英社 スーパーダッシュ文庫 (\571) [Amazon]

銀盤カレイドスコープ〈vol.2〉フリー・プログラム:Winner takes all?

オリンピック日本代表の座をつかんだ桜野タズサはショートプログラムに続いて、フリープログラムの改編にも手を付ける。幽霊のピートと共に居られるのは、奇しくもフリープログラムが行われる日まで。遂に決戦の地トリノへと乗り込んだタズサは善戦し、最終組に残るが、フリーの滑走順は大ラス。しかも女帝リアの直後。かつてないプレッシャーがのしかかる。

2003年刊行。シリーズ二作目。現実を先取りして早くもトリノ五輪編。この時点で既に2006年だったのか。

タズサの霊媒生活もこの巻でオシマイ。ピートと一緒にいられるのがフリーの演技の日までってのはどうみてもご都合主義に過ぎる設定だよなあ。でも、それで盛り上がるのならばまあいいか。オリンピック編に突入で世界の強豪が続々と登場。彼女たちがメチャクチャ格好いい。リアルタイムでオリンピックを見ている時期にこの物語を読めたのは幸せだった。

この作品では場内アナウンスを[]の記号で囲って表している。演技の前に[オン、ジ、アイス。リプレゼンティング、ジャパン。タズサ・サクラノ]なんて感じで入るんだけど、その瞬間から作品のテンションがグッと高まって、スケーターたちが作り出す世界に切り替わる。それはそれはゾクゾクするような魔法の瞬間で演出効果としては抜群。計算して書いているのだとしたらセンスいいな。

フリープログラム最終グループ。誰もがノーミスで大技を決めまくる中で、最終滑走がヒロイン。しかも直前に滑るのは無敵の女王リア。猛烈に燃える展開ですなあ。もはや自らの半身ともいえる存在になっていたピートとの別れという意味合いでも涙無くしては読めない見事なクライマックス。このラストダンスには燃えた。

幕引きはややあっさり目。既刊が六冊まで出ている状況で読んでいるので、ピート無き後の世界選手権でいきなり銀を取ってしまったのは驚いた。半身を失った喪失感とか葛藤って無いのか?きっと出た当時は二巻で完結させるつもりだったんだろう。これで終わっていれば美しかったのに。[2006/02] ⇒次巻

銀盤カレイドスコープ Vol.3 ペア・プログラム:So shy too-too princess
[海原零] 
★★★☆ 集英社 スーパーダッシュ文庫 (\590) [Amazon]

銀盤カレイドスコープ〈vol.3〉ペア・プログラム:So shy too‐too princess

トリノオリンピック後の世界選手権で二位。世界のトップスケーターへの仲間入りを果たした桜野タズサは単身アメリカへ渡る。友人シンディの怪我をきっかけに、一年間だけのペアへの転向を決意したタズサだったが、パートナー、オスカーとの呼吸が簡単に合うはずもなく苦境に陥る。日本代表として世界選手権への出場を目指す二人に活路は開けるのか。

2004年刊行。シリーズ三作目。どう読んでも二巻で内容的に綺麗に完結してしまっていただけに、果たしてどう続きを書くのかと思っていたらこんな変化球で勝負してきた。ピートを失った後の落ち込みとか、挫折とかそういう浪花節的なエピソードを期待していたのでちょっと肩透かし。タズサはそんなに弱いキャラクターじゃないってことか。

とはいっても、世界選手権で二位に入ってこれからがまさに上り調子って時にペアに転向するスケーターっているのか?唐突感は拭いきれないけど、男っ気の無いヒロインにも恋愛経験をってことなのかもしれない。が、かねてからの才能と美貌に加えて、世界的名声と経済力まで備えてしまったタズサはもはや無敵状態。ラノベ界でもかつて無いヒールなヒロインとして成長を遂げている。これじゃそこいらの男は寄ってこれないだろうなあ。でもラストシーンはちょっぴり切ない。

余談ながらオリンピック中継でペアのフィギュアを見たけど、シングルとはまったくの別競技で驚いた。素人としてはこっちの方が分かり易いかも。ラストの神展開も凄かった。事実は小説より奇なりとは良く言ったもんだ。[2006/02] ⇒次巻

銀盤カレイドスコープ Vol.4 リトル・プログラム:Big sister but sister
[海原零] 
★★★ 集英社 スーパーダッシュ文庫 (\571) [Amazon]

銀盤カレイドスコープ (Vol.4)

桜野ヨーコは12歳。ノービスクラスのフィギュアスケーターだ。そこそこに才能はある筈なのに何故かトップに立てず、宿敵の神尾来夢との差は広がるばかり。世界的スケーター桜野タズサの妹であるが故にマスコミの注目も集まり辛い日々が続く。そんなある日、来夢がタズサにレッスンを願い出る。それを快諾するタズサ。激しく傷ついたヨーコはリンクを去ることを決意するのだが……。

2005年刊行。シリーズ四作目。今回はタズサの妹のヨーコが主人公。偉大すぎる姉を持ち、自身もフィギュアスケーターであるヨーコの葛藤の日々を描く。舞台は再び日本に。タズサも結局戻ってきてるし。けっきょくタズサがアメリカに行ったのはペアをやらせるためだけだったんじゃないか?

主人公が変わったことで、この巻ではヨーコ視点の一人称で物語は進行していく。ローティーン向けの少女マンガを読んでいるかのようなテイスト。偉大すぎる姉の存在に滅入ったり、スケーターとして壁にぶつかって苦しみ、ちょっと気になる異性にはときめいてみたりもする。オーソドックスな展開ながらも巧くまとめているとは思うけど、どうしてもタズサに較べるとキャラクターのパワーが弱いので物足りなく感じてしまう。妹の目から見たタズサってのは面白かったけどね。[2006/02] ⇒次巻

銀盤カレイドスコープ Vol.5 ルーキー・プログラム:Candy candy all my rules
[海原零] 
★★★ 集英社 スーパーダッシュ文庫 (\571) [Amazon]

銀盤カレイドスコープ〈vol.5〉ルーキー・プログラム:Candy candy all my rules

フィギュアスケーターにしてアイドル。女子フィギュアジュニアクラスの世界チャンピオン、キャンドル・アカデミアが来日する。過密日程に嫌気が差した彼女は逃亡を企て、そこで桜野タズサに出会う。二人はたちまちのうちに意気投合。キャンドルが引き合わせた兄のロック歌手エアー・ウッドはタズサに一目惚れしてしまうのだが……。

2005年刊行。シリーズ五作目。今回は15歳のジュニアスケーター、キャンドル・アカデミアが登場。タズサ視点とキャンドル視点が切り替わりながらの展開となっている。

新たなタズサの恋人候補として、世界的ロックスター様が登場。でも、どうみてもやられキャラ。カリスマシンガーならもっとオーラ出てても良さそうなもんだけどなあ。扱い的にも中途半端でうまく使い切れなかった感がある。使い方がイマイチだったな。

圧巻はラストのタズサVSキャンドルのサシ勝負。我慢して我慢して最後に完膚無きまでに叩きのめすという、明快で分かり易いプロレス的なカタルシスの溢れるストーリー展開。よくあるプロットではあるものの、読者に取っては馴染みの無いフィギュア界が舞台なのでけっこう新鮮に感じる。読み手が期待するお約束的なお話のツボ(友情・努力・勝利!みたいな)は外さないのもポイント高いな。[2006/02] ⇒次巻

銀盤カレイドスコープ Vol.6 ダブル・プログラム:A long, wrong time ago
[海原零] 
★★★☆ 集英社 スーパーダッシュ文庫 (\571) [Amazon]

銀盤カレイドスコープ〈vol.6〉

2009年。ニューヨークでの世界選手権。バンクーバー冬季五輪を翌年に控え、前哨戦とも言える戦いの場にトップスケーターたちが結集する。今や世界的なスケーターとなった桜野タズサだったが、彼女に対して激烈なライバル心を燃やす二人の女がいた。至藤響子とドミニク・ミラー。二人はそれぞれの想いを胸に秘め決戦の場に臨む。

シリーズ六作目。2005年刊行。これが最新作だ。かつてトリノへの切符を争った至藤響子と、海外でのライバル、犬猿の仲であるドミニク・ミラー。この二人が今回の主人公。二人の生い立ちから現在に至るまでを丁寧に描写。家庭的に恵まれない中で育った二人が、フィギュアを生きる拠り所として、至純な想いを研ぎ澄ませていく過程が感動的でとにかく泣けた。響子もドミニクも良い奴じゃん。

後半は2009年の世界選手権。この世界だともう次の年はバンクーバー五輪なのね。やっと世界のトップスケーターたちの戦いを見ることが出来るのだ。4巻、5巻が地味な展開だっただけに期待は高まる。そして作者はその期待を裏切らない。主要スケーター6人のショートとフリー、それぞれの演技構成をちゃんと考えてしっかり描写しているこの作者は尊敬に値する。生半可な手間じゃなかっただろうに。

二人の視点から、超絶的なスケーターになりつつある桜野タズサが描かれる。これほどまでにフィギュアに打ち込んできた響子とドミニクが、完璧な演技をしても今のタズサには勝てない。冷酷な形で見せつけられる天賦の才。敵地ニューヨークで二度の転倒。それにもめげることなく自分の演技をやり遂げたタズサの姿には鳥肌が立った。相変わらず盛り上げ方が巧い。こんなタズサでも、まるで歯が立たない女帝リアなんてラスボスまで用意されているんだから奥が深い。

次の第七巻はバンクーバー五輪編らしく、これがラストになるようだ。響子とドミニクをここまで持ち上げたんだから、次は女帝リアにもっと頁数を割いて欲しいところ。最低でも上下巻の二冊くらい欲しいな。[2006/02] ⇒次巻

スクランブル [若竹七海] ★★★ 集英社 集英社文庫 (\476) [Amazon]

スクランブル

1980年。高校生だったあたしたち。学校で殺されて死んだ一人の少女……。彼女は何故死ななくてはならなかったのか。事件は未解決のまま十五年が過ぎ、それぞれの人生を送り久々に再会した6人の仲間たちはある真相にたどり着く。あの時、あの場所でいったいなにが起きていたのか。そして犯人は誰だったのか。

1997年に刊行された単行本 [Amazon] の文庫版。2000年刊。とある名門女子校で起きた殺人事件。文芸部の六人の少女たちの学園生活を綴りながら事件の真相に迫っていく。六人ごとに章が分けられていて章ごとに視点が切り変わる構成になっている。若竹七海は1963年生まれで、1980年には登場人物たちと同じ17歳だった。多分に自身の高校時代へのオマージュでもあるのだろう。女子校育ちらしい作者の経験が反映されていて青春ミステリとしても秀作。

登場人物が文芸部なので1980年代の小説がたくさん出てくる。『コインロッカー・ベイビーズ』 [Amazon] 『優しい密室』 [Amazon] 『窓際のトットちゃん』 [Amazon] どれもとても懐かしい。作者よりはちょっと若いけど(笑)、80年代に高校生をやっていた本好き人間の自分としては共振度の高い作品だった。ちゃんとアニヲタの子も居てガンダム見ていたりするところも「らしく」て良いな。[2006/02]

セリヌンティウスの舟
[石持浅海] ★★★ 光文社 カッパノベルス (\762) [Amazon]

セリヌンティウスの舟

ダイビング仲間だった六人は嵐の海で遭難しかけ、急死に一生を得て生還した。生命の危機を共に乗り越えることで固い絆で結ばれた彼らは、それから折に触れて行動を共にするようになる。しかし仲間の一人、米村美月はダイビングの後の飲み会の夜に服毒自殺を遂げる。彼女は何故死を選んだのか。そしてどうして毒薬の瓶の蓋は閉まっていたのか。残された五人は疑心暗鬼に陥る。

石持浅海の最新作。これが六作目。限定された環境下で進行するミステリは珍しくもなんともないけど、相変わらずこの作家は変化球を投げてくる。既に自殺してしまった仲間の死について、残された五人が延々ああでもないこうでもないと議論をめぐらす「だけ」の作品。

『扉は閉ざされたまま』『月の扉』でも思ったけど、この人の書く話は動機が気持ち悪い。これがもう全然理解出来ない。今回の真相もなんなのよそれ、って感じの読後感の悪さ。机上の空論というか、作品として成立させるために無理矢理論議しているようで、現実味が薄いのもマイナス。嵐の海から生還するくらいの体験が無いと共感出来ないのかもしれない。気高さのカケラも無い読者でゴメンナサイ。[2006/02]

西の善き魔女外伝1 金の糸紡げば
[荻原規子] ★★★ 中央公論新社 C-NOVELS (\850) [Amazon]

西の善き魔女外伝〈1〉金の糸紡げば

さいはての地セラフィールド。荒れ野にそびえる天文台と傍らの小さな家。無愛想な父と、親切なホーリー夫婦。八歳の少女フィリエルにとってはそれが世界の全てだった。しかし一人の少年の存在が彼女の平穏な日々を脅かしていく。ホーリーの旦那さんが連れてきた少年ルーンはとんでも無い変わり者だった。すれ違い続ける幼い二人。セラフィールドの一年が静かに過ぎていく。

2000年刊行。『西の善き魔女』シリーズ一冊目の外伝。フィリエルとルーンの子供時代を描く。時系列的にはこれが一番最初のお話だろう。本編よりも更に前。フィリエル八歳の物語。なんとなく『嵐が丘』風味。キャサリンとヒースクリフをちょっとはイメージしているのだろうか。荒れ野セラフィールドの自然描写が美しく、ほんとうの物語が始まる前の静かで豊かな時間がゆったりと流れている感じが巧く書けている。

もっともフィリエルは子供の頃から酷い女だったようで、お前少しも脳みそ使って考えてないだろう!というしかない衝動的な行動には頭を抱えそうになった。この年でこれなら確かにこの後の武勇伝の数々も成るほどなと頷ける。本編で描かれることが少なかったディー博士の出番が多いのが見所といえば見所。この人、これから再登場の可能性はあるのだろうか。[2006/06] ⇒外伝2

われはフランソワ [山之口洋] ★★★☆ 新潮社 (\1,800) [Amazon]

われはフランソワ

15世紀初頭。フランス。ジャンヌ・ダルクが焼かれた年に生まれた私生児フランソワ。彼はサン=ブノア教会の司祭によって育てられパリ大学に入学する。しかし酒と賭博と喧嘩、そして女色で身を持ち崩し、自堕落な日々の果てに殺人の罪まで犯してしまう。官憲から逃れるためにパリを去ったフランソワは盗賊団に身を投じ更なる転落の人生を歩んでゆく。

2001年刊行。『オルガニスト』で第10回日本ファンタジーノベル大賞の大賞を受賞した山之口洋の三作目の作品。表現に職業差別(屠殺業とかのくだりか?)があったということで発売早々に回収。改訂版に差し替えられているのだが、奥付にそれについての表記はない。なんでも背表紙で見分けがつくらしく「旧版なら6角の星一つ、改訂版は十字の星が4つついている」のだそうだ(ネタ元/猟奇の鉄人)。とするとうちにあるのは旧版か。ちなみに選外ではあるが第125回直木賞の候補作にもなっている。この時直木賞を取ったのは藤田宜永の『愛の領分』 [Amazon]

フランス文学史上最高の抒情詩人フランソワ・ヴィヨンの半生を描いた作品。持って生まれた低きに流れる自堕落な性格が災いして、もの凄い勢いで駄目な方へ駄目な方へと身を持ち崩していくフランソワ君。堪え性もないし、正直でも誠実でもない、ろくでもないことばかりしでかすダメ人間だけど、詩人としては超一流(だったらしい)っていうギャップが面白い。自分はまったくこちらの方面には知識が無いのだが、実際のヴィヨンの詩が作中の各所に挿入されていて、とても楽しく読むことが出来た。野卑だけど品がある。原詩で読むとまた雰囲気違うんだろうなあ。[2006/02]

ついでに…… 
『カルチェ・ラタン』@佐藤賢一<<パリ大学にはこんな人たちもいた。

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アクアリウムの夜
[稲生平太郎] ★★★☆ 角川書店 スニーカー文庫 (\600) [Amazon]

アクアリウムの夜

高校生広田義夫は悪友の高橋の誘いに乗り、公園の野外劇場で<カメラ・オブスキュラ>を体験する。そこで二人はありえないものを見てしまう。水族館の地下へと続く階段、それは白昼夢だったのか。こっくりさんの啓示を受け<霊界ラジオ>にのめり込んでいく高橋は、次第に現実の世界から乖離していく。水族館には果たして何があるのか。

1990年に書肆風の薔薇(なにそれ?)のロサ・ミスティカ叢書から出ていた作品 [Amazon] をスニーカー文庫のスニーカー・ミステリ倶楽部枠で2002年に再刊したもの。作者の稲生平太郎は1954年生まれ。幻想文学、オカルト方面に造詣の深い評論家。唯一書いた小説ということで、一部方面では伝説の名作だったらしい(2006年に第二長編『アムネジア』 [Amazon] が出ているのでもう唯一では無いが)。ちなみに2002年NHK-FMでラジオドラマ化されている。

狂気に蝕まれていく親友。古くから続く一族。戦前に猖獗を極めた新興宗教とその教祖。チベットの地底に隠された秘密。少女たちの連続失踪事件。そして水族館に閉じこめられている「なにか」。該博な知識を誇る作者だけに、ホラーやオカルトのガジェットがふんだんに作中に盛り込まれていて、そっち方面が好きな人間ならニヤリとすること請け合い。これは読んでいてワクワクした。

古い城下町で暮らす高校生たちの一年間の物語としても秀逸で、地方都市の春夏秋冬が叙情性豊かに描かれていて、恩田陸の『六番目の小夜子』や菊地秀行の『インベーダーサマー』に少し近い読後感かな。切なくも狂おしく、電波ゆんゆん気味にダークに閉じていく幕の引き方は賛否が分かれるところかもしれないけど自分的にはこれで大正解。全ての謎が解かれず終わるのも正しい選択だったと思う。しばらくしたらもう一回読んでみよう。[2006/02]

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