
田舎町チャタムの私立校に赴任してきたのは美貌の美術教師ミス・チャニングだった。校長である父と共に彼女を出迎えた15歳のヘンリーは一瞬で彼女に魅了される。しかし、彼女は学園の妻子ある男性教師リードと不倫の恋に墜ちる。ヘンリーは二人の恋愛を神聖なものとして崇拝するが、もつれにもつれた愛憎の連鎖は悲劇的な結末をもたらすことになる。
1998年刊行。1997年度のアメリカ探偵作家クラブ賞(エドガー賞)を受賞。日本では1999年版のこのミス海外部門で第二位に入った作品。日本では2003年にNHKでドラマ化されている。美術教師役は鈴木京香。あ、これはなかなかのハマリ役かも。アビゲイルが室井滋というチョイスもなかなかではないかと。DVDは出ていないのが残念。見てみたかったな。
1920年代。アメリカの田舎町が舞台。クックお得意の記憶の中の事件。老境を迎えた主人公が少年の日の悪夢、半世紀前に起きたチャタム校事件を振り返っていく筋書きとなっている。セピアトーンの回想スタイルが今回もいい感じ。ミステリの枠を越えてブンガクの世界に半分入っている。端々の文章表現がとても美しい。
過去と現在のクロスオーヴァーぶりは本当に玄人芸。余人には真似しがたい達人の境地に達している。人生を達観してしまった老人のヘンリーと、初々しい希望に溢れた少年時代のヘンリー。この二人のギャップを描くことで、時の流れが人間にもたらす哀しみを見事に浮き彫りにしてしまう。巧い。巧すぎる。筆致の冴えにはただただ溜息。
視点は少年ヘンリーにあるので、ミス・チャニングやリード、そしてその妻のアビゲイルが実際にはどんな気持ちでいたのかは一切判らない。言動から推測するしかない。あくまでもヘンリーにはそう思えた、という観点で物語は構成されていて、読み手による解釈の幅を広げている所も素晴らしい。誰が死んで、誰が罰を受けてという外面的に出てくる事象の裏に、どれ程の心の闇が横たわっていたのか。少年らしい潔癖さがどれほどの惨劇をもたらしたのか。全てが終わってしまった事件であるだけに、やるせなさが募るばかり。
父親であるアーサーの高潔な人柄が唯一の救いかな。旧弊に縛られた古いタイプの人間なのだけど、篤実にして実直。人生終盤での挫折に直面して、なおも人としての矜持を失わない尊敬に値する人柄。泣ける。実は犯人なのではと疑ってしまったダメな読者をお許し下さい。まあ、これほどの父親が経営していた学校を廃校に追い込んでしまったのだから、主人公の絶望ぶりも伺えるというものか。[2006/06]
藩と日本人 [武光誠] ★★★ PHP PHP新書 (\657) [Amazon]

均質化が進む日本社会の中でも、未だその地域ならではのお国柄は残っている。特定の地域にだけ見られる特異な慣習、気質、ことば。そのルーツはどこにあるのか。戦国時代を経て、織豊政権〜江戸期に成立した藩にスポットを当て、現在にまで残るお国柄はいかなる歴史的背景を受けて成立したのかを紹介していく。
1999年刊行。筆者は明治学院大の教授。日本古代史、日本思想史が専攻。
薩摩や長州、加賀に仙台等々、お国柄が色濃く残るのは、やはり同一氏族が広大な領土を長期間支配し続けた地域に多い。早くから集権化が進み土豪の力が弱かった畿内地方、江戸期に至っても国人(地域豪族)たちの力が強かった薩摩や東北地方。一口に藩といっても、その成立はさまざまで、鉢植えのように支配大名が変わった地域と、一貫して同じ一族が支配した地域とではお国柄は違って当たり前なのだろう。その地域に住んでいないとこうしたローカルな歴史は知る機会が少ないので、どうせならもう少したくさんの地域についても触れて欲しかった。誌面スペース的に限界があったのだろうけど、この点は少々残念。自分的には会津編もやって欲しかったな。[2006/06]

熊本県熊本市を中心に発生した死者の復活現象。何事もなかったかのように生前そのままの姿で家族の前に姿を現す死者たち。怖れ、戸惑いながらも、人々はいつしか黄泉がえりを受け入れていく。彼らはどうして再びこの世に現れることが出来たのか。彼らは本当に人間なのか。幾多もの悲喜こもごもを巻き起こしつつ、運命の日は近づいていた……。
2002年刊行。ハートウォーミングなエスエフを書かせたら当代随一の梶尾真治が地元熊本を舞台に書き上げたのが本作。草薙(字違う)クンの映画で有名になったから、一般的にはカジシンの出世作と呼ぶことが出来そうだ。もっとも映画版 [Amazon] の方は全然違う話らしいので、原作と同じモノを求めて見るとショックを受けるらしいので注意が必要。
偶然熊本には昨年訪れていたので、非常に親近感を持って読み進めることが出来た。実在する地名がバシバシでてくるし、有名スポットも頻出する。東京に住んでいるとこうした地方都市での暮らしって憧れる。熊本弁もいい感じ。淡々と黄泉がえりを受け入れている熊本の人たちはちょっと変なのだが、ま、そこでギャーギャー騒ぐとホラーになっちゃうからなあ、終始コメディタッチでホラーやエスエフの要素を極力抑えたのは、一般読者の受けを考えると正しい選択だったのかもしれない。
いつもながらカジシンは群像劇を書くのが巧い。登場人物が多い分、ひとりひとりの描写が薄くなってしまうのは致し方の無いところか。かりそめの命を終えた、黄泉がえりたちが家族に別れを告げ旅立っていくシーンはこのお話の一番の泣き所。オッサン作家のロマン炸裂で非常に恥ずかしい展開でありながらも、王道的展開はやっぱり泣いてしまう。マーチン絡みのエピソードは、ありきたりながらやっぱり感動的なシーンなのだった。とりえあえず映画も見てみるかな。[2006/06]
ゴールキーパー論 [増島みどり] ★★★ 講談社 講談社現代新書 (\680) [Amazon]

ただひとり手を使うことを許された特異なポジション"ゴールキーパー"。サッカー、アイスホッケー、ホッケー、ハンドボール、水球。それぞれの第一人者へのインタビューを通して、守備のエキスパートについての考察を深めていく。彼らはどのようにしてその道を選び、いかにして現在の地位にまで登り詰めたのか。技術論、精神論両面からのアプローチ。
2001年刊行。筆者は1961年生まれ。日刊スポーツの記者を経てフリーに。サッカー関係の著作が有名かな。本書は、これまであまり陽が当たらないでいたポジション、ゴールキーパーに焦点を絞ったインタビュー集&考察。サッカーならまだしも、ホッケーや水球みたいなマイナー競技プレーヤーの生の声が聞けることはそうそう無いので、この点とても意欲的な企画だと思う。
前半に筆者本人の考察、そして後半にインタビューの二本立て構成なのだが、最初の考察部分が結局後半のインタビューを受けての内容になっているので、ネタが被り過ぎなのが気になった。もう一工夫欲しいところだ。サッカーのキーパーですら、Jリーグが始まる少し前までまともな育成プログラムが無かったとか、シュートが早過ぎて動いている暇なんか無いアイスホッケーの世界では最初の構えが命なんだとか、理想的な泳法を持つ水球GKは立ち泳ぎの際に綺麗な渦巻きが出来るとか、興味深い事がいろいろ書かれていて面白い。共通しているのは、どのGKも攻める姿勢を忘れていないこと。国内ナンバーワンクラスレベルまで極めた人間がたどり着くのはやはり同じ境地なのだろうか。[2006/06]
ゆらぎの森のシエラ
[菅浩江] ★★★ 朝日ソノラマ ソノラマ文庫 (\440) [Amazon] ※書影無し
世界は危機に瀕していた。霧に閉ざされ作物は育たず。異形の魔物たちに命を脅かされる。辺境の地キヌーヌ。村はずれの森に一人で暮らす少女シエラが居た。シエラは喋ることも出来ず、手にしたものを片っ端から口にしてしまう下手物喰い。村人たちから疎まれる存在でしかなかった彼女だったが"金目"と呼ばれる男との出会いが劇的な変化をもたらす。
1989年刊行。まだソノラマ文庫が緑背の頃だ。菅浩江の第一長編作品。かれこれ10年以上、長らく探し続けてきたのだけれども、沿線のBookoffでようやく発見することが出来た。しかも美品。こういうことがあるから古本屋通いはやめられない。これで菅浩江の初期作品はほぼコンプリート。残りは『氷結の魂』 [Amazon] だけだな。
ファンタジーの殻を被ったエスエフという、いかにも菅浩江らしいテイストの物語。処女作らしく硬い。ぎごちなさが多々残る作品。表現したい世界観、エスエフ的な仕掛けをとにかく全部書かなきゃ説明しなきゃ、って作者の思いだけが強くて、登場人物の台詞がぎごちないこと硬いこと。台詞が説明的に過ぎるし、作品世界の中の人たちに喋っているというより、読者に対して説明しているのがバレバレ。登場人物も多すぎで、シエラと金目、リュクティとバナード、ラチータとロウゼル、三組ものカップルを描くには力不足は否めない。もう少し絞り込んでも良かったかなと思う。詰め込みすぎで消化不良になってしまっているのが残念。処女作ならではの全力投球ぶりは清々しく感じ取れたけどね。[2006/06]
黄昏の伶人 竜の眠る海 [金蓮花] ★★★ 集英社 コバルト文庫 (\514) [Amazon]

行方しれずだったジェイとの再開を果たし、一路オディロカナへの帰途を辿っていたリューイたち一行だったが、彼らの乗る船は突然のベタ凪に遭遇し身動きが取れなくなってしまう。ふいに出現した伝説の舟幽霊シレニアーナはリューイに口づけるや忽然と消え去る。水と食料を失い、パニックに陥る乗員たち。奇妙な陸影を発見したリューイたちは小舟に乗り上陸を試みるのだが……。
1998年刊行。「竜の眠る海」シリーズ三作目。以前から感じていたのだが、イラストの付け方が明らかに変。今回のヒロインの初登場シーンなのに、描いているのはリューイとジェイの男二人のみ。いやまあ、対象読者需要を考えれば、女イラネは当然の措置なんだろうけど、違和感あるなあ。露骨過ぎる。
今回の攫われ役はリューイ君。やはり魔力を持つだけに、魔界のものには魅入られやすい体質なのか。 リューイを巡っての、ジェイとゾーイとのバチバチの三角関係バトルが楽しめるのかと思ったけど、期待した程のバトルは無しで肩透かし。ゾーイ君はけっこう理性的。女好きだし、わりとノーマルなのかもしれない。[2006/06] ⇒次巻
俺が近所の公園でリフティングしていたら
[矢田容生] ★★★☆ 小学館 (\1,300) [Amazon]

埼玉南高校のサッカー部に所属する樋口広樹は、時折才能の片鱗を覗かせることはあったにせよ、無名の一高校生に過ぎなかった。あの日、公園でモニカに出会うまでは……。フル代表との練習試合に駆り出された埼玉南は思わぬ善戦を見せる。樋口はユース代表に大抜擢されオランダで開催されるワールドユースに臨む。運命のアルゼンチン戦、二点を先行された日本はピッチに樋口を送り込む。
2006年刊行。2chの国内サッカー板に連載されていた作品を加筆修正の上で商業出版化したもの。本書の3頁に掲載されている>>1は「U-名無しさん」、つまり匿名の誰かの書き込みで、矢田容生が書いた物ではない。小学館サイトの本人メッセージによると、この>>1に刺激を受けて矢田容生はこの物語を書く気になったのだそうだ。
無名の高校生樋口クンが、ハーフでナイスバディの女の子モニカちゃん(サッカーの天才)に出会い、一気にサッカー選手としての才能を開花させていく絵に描いたようなサクセスストーリー。いきなりフル代表との練習試合から始まるあたり、つかみとしてはバッチリ。これが処女作なのでハッキリ言って文章力は今一歩の部分が多かったりもするのだけど、実名の選手を使っているだけあって、展開が判りやすい。「加地にパス」って書いたら、何も書かなくても右に出したって判るしね。これは大きなアドバンテージ。
方針として選手名は実名。監督、スタッフ陣は変名という形式を取っている。五輪代表監督の名は「小熊」(笑)。「サンキュー樋口!」なんて言っちゃう。ここまで似せるなら大熊って素直に書けばいいのに。東京のメンツとしては土肥ちゃん、増嶋、梶山、ついでに加地さんあたりが登場。土肥ちゃんのみちょっとだけ台詞がある。
ユース代表に呼ばれて、そのままワールドユースに出場。スーパーサブとして八面六臂の大活躍。メッシと互角の勝負をしちゃう主人公。ありえないと判っていながらも、思わず引き込まれる面白さ。サッカーへの熱烈な愛情が文章の未熟さを補ってあまりあるといった感じ。とにかく熱い。燃えそうな程に熱い。2006年のワールドカップ、特にブラジル戦を見る前にこの作品を読むことが出来たのは幸せだったと思う。現実は……(以下略
難を言うならば、物語を盛り上げるのに、人の生き死にを使うのは勘弁して欲しかった。そんなことをしなくても十分面白かったのに。その方がラストが盛り上がったのは事実だろうけど。あれは酷すぎる。どんなショボイスポーツマンガでも、今更そんな手垢のついたような手は使わないだろう。これで凡百の感動モノの域にまで墜してしまっている。というか、ありえねーだろその展開は(感情入りすぎ)。[2006/06]

天童玲美は都立K高校の三年生。控え目な性格で成績も平凡。そんな玲美が10月にもなって志望校を変更する。何が何でも私学最難関校馳田学院に合格しなくては。姉はどうして死んだのか。その真相が馳田にはある。一途に猛勉強を始める彼女だったが、そう簡単に成績は上がらない。最後にたどり着いた結論はカンニング!不可能に挑む玲美と仲間たち。果たして結果は如何に。
2006年刊行。黒田研二を読むのは処女作の『ウェディングドレス』以来。実は西島大介の表紙絵につられて購入。この人の絵はとてもキュート。素晴らしい。今が旬この人をイラストレータに持ってきただけで売上は一割は違うんじゃないだろうか。
交通事故死した姉の死には疑惑が?事件の謎に迫るため、私学の雄、馳田学院への合格を目指すヒロイン&仲間たちのお話。ICカードでの入校チェックで部外者は立ち入れず。問題の人物は敷地内にある寮で生活していて一切学外に出ない。って、そんな大学無いだろう。研究室レベルでならまだしも、学校全体がってのは設定に無理ありすぎ。対外交流出来ないじゃん。動機も無理矢理過ぎて、とにかく力技感が目立つ作品。地味で大人しい女の子にカンニングをさせるにはこれくらいのアクロバットが必要だったのだろうか。
カンニングのテクニックもハイテク寄りの作戦で、期待していたよりもひねりが無い。学生にそんなの作れないだろうというツッコミをかわすには、物語のテイストが真面目過ぎるんだよな。そいでもって、事件の真相が想像を絶してつまらない。真相が判明するきっかけも偶然便りのお粗末さ。ご都合主義にも程がある。期待して買っただけに残念。[2006/06]
ザレゴトディクショナル
[西尾維新] ★★★ 講談社 講談社ノベルズ (\1,080) [Amazon]

第23回のメフィスト賞を受賞した『クビキリサイクル』が刊行されたのが2002年2月。「戯言シリーズ」と題されたシリーズは順調に重ね、通算して九冊目、2005年11月の『ネコソギラジカル(下) 青色サヴァンと戯言遣い』をもって完結した。しかし描かれなかった秘密、明らかにされなかった舞台裏はあまりに多い。作者自らの筆によりこれらの謎を「ある程度」全面公開。全460項目。渾身の15万文字書き下ろしの用語辞典集。
2006年刊行。戯言シリーズの全9冊の用語集兼ガイドブック。零崎シリーズについては多少言及はされてはいるものの、戯言シリーズとは別の存在ということで適用除外となっている。イラストレータ竹による四コママンガ付き。何故か袋綴じ形式になっていて、読みにくく、手先の不器用な人や、気の短い人には不評(って、オレだよオレ)。もともとは2006年9月発売予定の『<戯言シリーズ>限定コンプリートBOX(仮称)』に同梱されるものだったらしいが、本体の編集の遅れから、この部分は別売りになったようだ。
辞典というよりは、創作裏話集。でも、あんまり突っ込んだ解説は無し。謎なものはあくまでも謎のまま。いーちゃんの本名も、いーちゃんの妹も、いーちゃんが友に何をしたのかも、七々見奈波は結局何だったのかも全部謎。シリーズ最大の謎と思われるx/yについても説明は無し。秘密は秘密のままにしておいた方が美しいだろうから、これはこれで正解だと思う。
ファンしか買わないような本であるわりには作り込みのレベルは低い。まず、イラストはもっと盛大に入れて欲しかった。少なくとも既刊で絵があったキャラクターについては、紹介ページにセットでイラストをつけるくらいのことはすべきだろう。講談社の事だから、イラスト集かなにかをこの後で出すつもりで、そのための出し惜しみなのか?と、下世話な邪推もしたくなってくる。表紙も手を抜きすぎで、袋とじにかけるコストがあったらもう少し見栄えに気を配るべきではないかと思う。そしてキャラクター相関図も欲しかった。所属部署や対立関係ごとに図にして見せてくれると判りやすかったのに……。この後には超マニアファン向けの「コンプリートBOX」が控えているわけだが、価格(\5,800)に見合った出来なのかどうかは非常に怪しいところ。箱にこの値段はねえだろ。[2006/06]
撲殺天使ドクロちゃん7
[おかゆまさき] ★★★ メディアワークス 電撃文庫 (\510) [Amazon] ※書影無し

今年も聖ゲルニカ学園に夏がやってきた。チグリス・ユーフラテス公園での写生大会の惨劇を描く「ようこそ校外授業、写生大会だよ!ドクロちゃん」。サバトちゃんに夢の新居をプレゼントする「大改築!快適ビフォーアフターだよ!ドクロちゃん!」。南の島での冒険行「おーりとーりっ!南の島だよ!ドクロちゃん!(島来編・世界報編)」。計四編を収録したシリーズ最新作。
2006年刊行。シリーズ七作目。ほぼ南の島編。南さんのためにあったような巻。静希ちゃんより絶対に南さんの方がいいよね。片っ端から周りの女の子のフラグを立てまくっていくサクラ君の力は凄いと思うよ。ドクロちゃんは相変わらずの暴走ぶりで、ひょっとして笑う所なのか?という部分でも、読み手、作者の予想さえも超えて、もはや笑うに笑えないところまで物語を破壊してしまう。完全にアンコントラブルな存在になっているんだけど、こ、これでいいのか?
コミック化、アニメ化とひととおり済んで、メディアミックス的にはあがりの位置にまでたどり着いてしまった感があるこのシリーズ。もともとストーリーがあるわけではない内容だけに、この先の方向性が気になるところ。愛すべき永遠のワンパターン小説として、人気を維持していけるかどうかは作者と編集者の力にかかっている。作者的には他の作品を書いてみるつもりはないのかなあ。[2006/06] ⇒次巻
アイオーン
[高野史緒] ★★★☆ 早川書房 ハヤカワSFコレクションJシリーズ (\1,900) [Amazon]

キリスト紀元121*年。フランス、トゥールーズ。医師のファビアンはアルフォンスと名乗る科学者に出会う。先進的な思想を持つアルフォンスに惹かれるファビアンだったが、キリスト教万能の時代にあって、その思想はあまりに異端であり過ぎた。コンスタンティノープル、ローマと世界各地を旅してゆくファビアンは、やがて世界の真の姿を見ることになる。
2002年刊行。高野史緒の六作目。ベストSF2002の国内部門で13位に入った作品。「SFマガジン」に1999年から2002年にかけて散発的に掲載された作品五編に書き下ろし一編、そしてプロローグとエピローグを加筆したのが本書。滅亡したローマ帝国は現代文明に匹敵する高度な科学文明を持っていたとする設定で、ローマの残した核汚染の中、暗黒の中世を生きていく人々の姿を描いた連作小説集。
高野史緒は素敵な設定を考えさせたら日本エスエフ界屈指の存在なんじゃないかと思われる作家の一人。絶対王政期のヨーロッパで電話線を使ったハッキングバトルが繰り広げられた『カント・アンジェリコ』、19世紀のウィーンに自動音楽機械をもたらした『ムジカ・マキーナ』。どちらも歴史フェチには燃え死にしそうな程魅力的な設定だった。本作でも期待は高まるところだが、作者は期待を裏切らない。
この世界では、ローマ時代の負の遺産として、放射能がそこいら中に残っているので一般民衆は不具者だらけ。古代文明の遺産は教皇庁(なぜかグノーシス主義)が隠匿。よく見える星が実は人工衛星だったり、実は東方世界にはまだ科学力が残っていたりして、、と萌える設定が盛りだくさん。虚と実の織り交ぜ方の見事さはさすがと言うしかない。
取り上げている歴史的事件のチョイスがこれまたマニアックで、始まりは13世紀初頭のトゥールーズから。シモン=ド=モンフォールに包囲されているトゥールーズって、それはまさかアルビジョワ十字軍!いきなり通好みな事件から始めるあたりセンスを感じずには居られない。自分的な歴史上最愛都市の一つ、コンスタンティノープルが出てくるのもポイントの高いところ。ラテン帝国とかボードワン1世とか出てくるわけですよ!そして彷徨を続けるファビアンが、生涯の最後でアヴィニョン!でどのような運命を受け入れたのか。これは世界史好き(特に中世キリスト教史)にはたまらないオチ。素敵だ。素敵過ぎる。
世界史愛好家としての視点からばかり書いてしまったが、もちろん世界史的な知識が無くても十分楽しめる作品ではある。けれども独特の世界観があるので、その中に入り込めるまでは少々しんどいかもしれない。一番最初の「エクス・オペレ・オペラート」は多少苦しくても頑張って読み切って欲しい。とっつきの悪さはあると思うけど、これが読めればあとは一気にいけると思う。
デジタルな事象をアナログ的に表現するのが大好きなのも高野史緒作品の特徴の一つで、今回は匿名チャットと匿名掲示板を中世のローマで再現している。なりすましや自作自演のアナログな表現には笑った。こんな公会議なら出てみたいけど、こんな枢機卿ばかりのバチカンは嫌だろうな(笑)。ローマ編の「S.P.Q.R.」は必見だ。[2006/06]

北は択捉島から南は沖ノ鳥島まで。東は南鳥島から西は与那国島まで。日本の排他的経済水域(EEZ)は約447万平方キロにも及ぶ。世界第六位の広大な水域は、どのようにして成立したのか。そしてその国境を日本はいかにして守っているのか。北方領土や、竹島、尖閣諸島でいま何が起きているのか。現地リポートを交えながら読み解いていく。
2005年刊行。筆者は1962年生まれ。日本財団(日本船舶振興会)の現役の海洋船舶部長。
日本は島国なので国境は海の上にしかない。国土は狭いのに、この国の排他的経済水域の広さは世界で6番目にもなるらしい。筆者は広大な排他的経済水域を支えている、国境の島々を訪れその実情をつぶさに紹介していく。
ここ数年領土問題が報じられることが多くなってきただけにタイムリーな一冊。沖ノ鳥島訪問記はとても興味深く読んだ。確かにこれは島というよりは岩だ。コンクリートの護岸とチタン製のネットで厳重に保護されていた。これが失われると水域と共に膨大な権益を日本は失うことになる。どことなく滑稽に見えるのだけれどもこれは必要なことなのだろう。
なにぶん、この筆者は日本財団の人なので、右寄りテイストが強めなのは致し方の無いところではあるが、島国なのに国民や政府の海への意識が低いという指摘は確かにその通りかと納得。海上保安庁については少々興味が出てきたので、もう少しこっち方面の本を探してみて読んでみるつもり。[2006/06]
銀座ママが教える「できる男」と「できない男」の見分け方
[ますいさくら] ★★☆ PHP PHP文庫 (\495) [Amazon]

「できる男」と「できない男」はここが違う!ちょっとした着こなしのセンス。女性に対しての気配り。時と場合に応じた的確な判断。志の持ち方から、部下に対しての態度まで。見た目、遊び方、お金の使い方、性格の4つの視点から導き出した65の「できる男の法則」とは!?銀座の名物ママが長年の経験を元に綴る。
2003年刊行。2001年に出た単行本 [Amazon] の文庫版。筆者は県会議員の娘に生まれながらも、諸々の事情で家を出て、なぜか大卒⇒丸紅⇒銀座ホステスと数奇な運命を辿り、自分の店を持てるまでに成り上がった人。うわっ、同い年やん。
そもそも銀座に飲みに行ったりしない人種が読んで、なんらかのシンパシーを得ることができるのかどうかは微妙なところだが、書いてあることは普遍的なことばかりなので、斜に構えずサラっと読んで、出来そうなところがあれば(かなりハードルは高い)取り入れてみるというくらいで良いのではないかと。何がイケてる行動で、何がNGなアクションなのかは多少は参考になるかな。[2006/06]
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