
今多コンツェルン会長今多義親の専属運転手梶田信夫が事故死する。自転車との接触によるものだったが依然犯人は不明。遺された梶田の娘二人は、父の無念を晴らすべく、今多に相談を持ちかける。今多は、義理の息子である広報部の杉村三郎にこの件を委ねる。杉村は事件を調べていくうちに、梶田の過去にまつわるとある秘密にたどりつく。
2003年に実業之日本社から刊行されていた単行本 [Amazon] のノベルズ版。2005年刊行。
主人公の妻は、大企業今多コンツェルンの会長義規が、かつて愛人に産ませた子。彼女と結婚するために、彼は絵本編集者の職を捨て、会長直下の閑職で半ば飼い殺されながら生きることを決意する。というのが、本編以前の基本設定。本来であればごくごく普通の人間の彼なのだけれども、分不相応な妻を娶るために、少し背伸びをして無理をしながら生きている。
この主人公に限らないけど、宮部作品はキャラクターの作り込みがホントに巧くて惚れ惚れする。特に奇を衒った設定を用意するわけではなく、ごく普通の人間をちょっとだけ特殊な環境に放り込んでみて、その結果として生じてくる歪みを浮き彫りにしていく手腕が職人芸なんだよなあ。単なるハートウォーミングな人情話かと思わせておいて、やっぱり宮部作品なりの「毒」は健在。この苦い結末は賛否両論別れそうだ。大作では無い、地味な長編でここまで読み手を惹き付けるのだから凄い。最近続編 [Amazon] が出たらしいので、こちらも何れ手に入り次第読むつもり。[2006/08]
新耳袋コレクション
[木原浩勝/中山市朗 恩田陸・編] ★★★☆ メディアファクトリー (\590) [Amazon]

新耳袋。それは1990年から2005年まで、足かけ十五年の歳月を費やして蒐集された全十夜、九百九十の物語。丹念な取材に基づき"実話"だけを拾い集めた現代の怪談集である。昨年完結した新耳袋を、作家恩田陸が独自の視点から解体・再構築を試みる。選び抜かれた九十九話で送る新コレクション。新たな恐怖がここに始まる。
「新耳袋」は名前は聞いていたけど実際に読むのは初めて。実話を蒐集した現代の怪異譚集だ。ちなみにオリジナルの「耳袋」 [Amazon] は江戸時代の奉行根岸鎮衛が集めた怪談集なのだそうだ。本書は2006年刊行。全十巻で完結した「新耳袋」九百九十話の中から、作家恩田陸が九十九編をセレクトしている。こういうリサイクル商売もアリなのね。メディアファクトリーの編集者は頭が良い。
百話までやらないのは、やはり怖ろしいものを招いてしまうから?一編は長くても数ページ。短いものは数行で終わってしまうので、サクサク読める。その気になれば一晩で読めてしまえそう。あえてそういうスタイルにしているんだろう。もともとの語り手のトーンを活かしたいのか、文章は決して上手くない。このたどたどしさが逆に良いのだろう。
今回は恩田陸セレクトってことで、怪談というよりは、不思議な話が多い。体験者の経験を綴るだけで、どうしてそうなったのかは一切語られない。怪異の数々は説明がつかない事ばかりなのだが、その背景に人間のどす暗い怨念が透けて見えるのが怖ろしい。余分な情報が無いだけに、読者自身であれこれ想像してしまい、より恐怖をよりエスカレートさせてしまうのだ。食器棚の話とか、縁の下の櫓の話とか、秘密の地下室の話とかマジで怖かったよ。[2006/08]
路地 Wandering Back Alleys [中里和人] ★★★ 清流出版 (\2,400) [Amazon]

夕暮れ。人ならぬものたちが跋扈し始める時間、逢魔が時。光と陰が織りなす奇怪な空間がそこには現出していた。迷路のように入り組んだ路地。路傍にうち捨てられた懐かしき遺構。今でも人間の生活の匂いが息づく小径。北は北海道函館から、南は沖縄那覇まで。昭和の香りが色濃く残る路地の数々をフレームに収めた写真集。
写真家中里和人の写真集。2004年刊行。今回は日本各地の"路地"にこだわってみた。と、いいながら、動植物みたいにこれ路地じゃないじゃんという写真も多くて、まとまりに欠けるのが難点。生活感のあるノスタルジー溢れる光景をフレームの中に抉り出す力は、いつもながら素晴らしい。こういう写真を見ていると、旅立ちたくなって、居ても立ってもいられなくなる。手っ取り早く行けるのは向島界隈かな。[2006/08]
ゲッベルスの贈り物 [藤岡真] ★★★ 東京創元社 創元推理文庫 (\700) [Amazon]

人気絶頂のトップアイドル<ドミノ>。しかし彼女に会った者は一人としていない。制作会社のプロデューサー藤岡はビデオ上の存在でしか無かった<ドミノ>の捜索を命じられる。僅かな手がかりを元に真実に迫っていく藤岡。それはやがて、第二次大戦中、Uボートと共に沈んだ軍事機密"ゲッベルスの贈り物"へとつながる大事件に発展していく。
1993年に角川から単行本 [Amazon] が出て、そのまましばらく埋もれていた作品。知る人ぞ知る傑作と噂だけが一人歩きしていたのだが、2001年に東京創元社から本書が出て、ようやく世に知られるようになった。作者は1951年生まれなのでけっこうなオッサン(失礼)。現役の博報堂社員で、CMディレクターもやっていたことがあるらしい。道理で本編中のテレビ業界ネタが生き生きとしているわけだ。
戦前に日本の技術将校がUボートで持ち込もうとしたゲッベルスの贈り物とは何なのか?国際謀略から始まって、有名人の連続自殺事件、謎のアイドル<ドミノ>の正体探し等など、多数の要素を惜しげもなく盛り込んだ贅沢な作品。詰め込みすぎて、やや消化不良気味なのが惜しい。発表年代のせいなのか、作者の年齢のせいなのかは断じがたいけど、どうしても内容に古さを感じてしまうのも残念な部分。携帯電話の普及がミステリ界に与えた影響の大きさは計り知れないのものがあるのだなと、なんとなく思ってみたりもして。[2006/08]
τになるまで待って [森博嗣] ★★☆ 講談社 講談社ノベルズ (\900) [Amazon]

超能力者神居静哉の別荘"伽羅離館"を訪れた山吹早月とその仲間たち。探偵赤柳の依頼で、とある人物の資料調査を行うことが目的だった。車が入れない山間に建てられ、外界から隔絶された"伽羅離館"。神居静哉の示した超能力は本当に真実の力なのか。館の中に閉じこめられてしまった彼らは、驚くべき密室殺人の謎に直面することになる。
Gシリーズ三作目。2005年刊行。本格的にこのシリーズやばくね?短編レベルのネタを水増しして、辛うじて枚数稼いでいるだけなのではないかと。導入部があって、事件が起きて、さあ、という段階でもうオシマイ。省エネタイプの構成だが、売れっ子森博嗣でないとこんなやり方許されないだろう。
新キャラ三人に魅力が無いのは、やはり作者自身の愛が無いからなのか、こんなキャラの薄い連中を出し続けるくらいなら、とっと犀川センセを初めから出せよと詰め寄りたくもなる。まあ、犀川センセを最初から出しちゃうと、あっという間に事件解決になっちゃうから、仕方ないんだろうけど……。ミステリ部分がダメダメなのだから、せめてキャラクター小説としての体裁くらい整えておいて欲しかった。
長期シリーズの探偵モノでは、インフレ化していく探偵能力に対して、それに見合った敵(謎)を用意し続けなくてはならないという難しさがあるから、大変なのは判るにしても、さすがにこれは劣化が酷すぎる。で、結局犯人は??シリーズを全部通して読まなきゃだめなのかしらん。けっきょくのところ、またしても真賀田四季に集約されていきそうなのも、ちょっとウンザリ。自キャラ萌えは程ほどにね。[2006/08] ⇒次巻
要塞学園 上・下 デビル17 3-4
[豪屋大介] ★★★☆ 富士見書房 富士見ファンタジア文庫 (\580・\700) [Amazon:上/下]
人ならぬものによって惨殺された女子高生。その秘密を探るべく、私立新聖高校へ潜入調査に赴いた黒江徹だったが、謎の特殊部隊によってパートナーのフェンリルを奪われてしまう。学園では三人の依頼主が徹を待ちかまえていたが、彼女たちは果たして敵なのか味方なのか。事件の背後には禁忌の超技術"ユニットEX"の影がちらつく。
デビル17シリーズ三作目。2004年刊行。麗しのフェンリルちゃんを奪われた主人公が、彼女を奪回すべく、とある学園に潜入して頑張る話。既に人間の域を超えた化け物になってしまっている黒江クン。段々仕草が堂に入ってきていて、とても17歳には思えない。一巻の頃はキョドリ気味だった表情も、すっかり悪党面。力を行使することに躊躇を覚えなくなってきている。
例によって、学園中の美少女が片っ端からわらわら寄ってくるのだけど、いくら向こうの意志からだとはいえ、妙な合成フェロモン出しているのは主人公なわけで、薬物洗脳によるレイプと変わらないのではと、いい加減読んでいて気持ちが悪くなってくる。とはいっても、鬼畜になりきれないのがこのキャラのズルイところで、一度モノにした相手(男女問わず)は命を賭して守るツンデレさんだったりもする(こいつ不死身だけど)。
理想的な学園に思えた楽園の最期。最終章のタイトルは素敵なセンス。酒田君と安来さんはこの作品では例外的な普通(違うけど)の人だっただけに、死なすには惜しいキャラだった。初恋の少女を手にかけ、母親を死なせ、そして親友を殺さなくてはならなかった黒江徹。人ならぬ力を持ってしまった、超越者故の哀しみなんてものを仄かに漂わせてしまうあたり、なかなかにあなどれない筆力だと感心させらえることしきりなのだった。[2006/08]
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