2007年1月

書籍名
作家名
出版社
価格
コメント
お薦め度
マルドゥック・ヴェロシティ 3 冲方丁 早川書房 \680
カジノシーンが無くても面白かったぞ。
★★★☆

中庭の出来事

恩田陸 新潮社 \1,700
わかったような、わからないような。
★★★☆
石の猿 ジェフリー
・ディーヴァー
文藝春秋 \1,900
ちょっと雰囲気変えてきた。
★★★☆

九杯目には早すぎる

蒼井上鷹 双葉社 \800
短編集。
★★★

ぼくのキャノン

池上永一 文藝春秋 \1,524

沖縄に行きたくなる。

★★★

タイスの魔剣士
グインサーガ111

栗本薫 早川書房 \540
しばらくは天下一武闘会らしい。
★★☆

背信者 キル・ゾーン

須賀しのぶ 集英社 \476
残り三冊。
★★★
罰 キル・ゾーン 須賀しのぶ 集英社 \476
展開急だなあ。
★★★

叛逆 キル・ゾーン

須賀しのぶ 集英社 \476
もの凄い勢いで人員整理中。
★★★

地上より永遠に キル・ゾーン

須賀しのぶ 集英社 \533
さて、次は流血女神伝だな。
★★★

刀語 第一話 絶刀・鉋

西尾維新 講談社 \980
竹のイラストはテイストがまた変わったね。
★★★
蠱猫 人工憑霊蠱猫01 化野燐 講談社 \880
地味かな。
★★★

朽ちていった命

NHK東海村
臨海事故
調査班
新潮社 \438
慄然とさせられる。
★★★☆

逆さに咲いた薔薇

氷川透 光文社 \800
久しぶり。
★★★

若者殺しの時代

堀井憲一郎 講談社 \700
あとがきのフォローもちょっと苦しい。
★★★☆

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マルドゥック・ヴェロシティ 3
[冲方丁] ★★★☆ 早川書房 ハヤカワ文庫 (\680) [Amazon]

マルドゥック・ヴェロシティ 3

クリストファーは誘拐され、ナタリアは姿を消した。遂に全面対決の時を迎えた「09」と「カトル・カール」。全ては周到に仕組まれた罠なのか。巨大な陥穽に落ち込んでしまったボイルドたちは次第に追いつめられていく。次々に命を落としていく「09」のメンバーたち。残されたボイルドが選択した驚愕すべき決断とは。ウフコックとの訣別の時が近づいていた。

2006年刊行。名作『マルドゥック・スクランブル』の前日譚。三冊毎週刊行の中の最終巻。さあ、遂にラストである。のっけから「09」VS「カトル・カール」の壮絶な集団バトルで燃える。読み手のテンションを否応なく高めておいて、もの凄い勢いで人員整理。崩壊していく「09」。ああ、この情け容赦の無い皆殺し劇はさすが冲方丁。予想されていた結末とはいえ寂しい。いくらでも読者の涙を搾り取れそうなシーンでも、この作家はクールな描写に徹する。これはあくまでもクールでタフな男ボイルドの物語なのだから、もったいないけど、らしいと言えばらしい展開。それでもオセロットの最期には泣けたけどね。

ラストは「スクランブル」を読んでいないと意味不明かもしれない。これ単体で読ませることを考えると余計だった。「スクランブル」の後から書いた前日譚なので、どうしても後付け感が漂ってしまうのが惜しい。ボイルドってこんなキャラだったっけ?あの人物が生きている以上、ボイルドが安易に死を望むとはちょっと考えがたいんだけど。

絢爛たる異形のものたちの戦いがあまりに楽しすぎるので、ついつい忘れがちになるけど、本筋としてのミステリ部分の構成も非常に良く練られていた。流行りのSF的なガジェットの取り込み方もバランスが取れていて良かったと思う。賛否両論あると思うけど、ありえないくらいの体言止めの超絶多用文体も、途中から気にならなくなったし(笑)。もう少し普通の文体で書いても良かったと思うけどね。

アニメの世界でも活躍がめざましく、最近どっちが本業か判らなくなっている冲方丁だけど、自分的にはもっと小説を書いて欲しいぞ。[2007/01]

中庭の出来事 [恩田陸] ★★★☆ 新潮社 (\1,700) [Amazon]

中庭の出来事

ホテルの中庭で死んだ脚本家。容疑者は三人の女優。どうやって犯人は被害者に毒を飲ませたのか。高層ビルの低層階にあるパティオで死んでいた女子大生。食い違う目撃証言。夜の闇の中を歩いていく二人の男。彼らが目指す場所は何処なのか?そして自室で撲殺された脚本家。ここにも三人の女優たち。恩田陸が紡ぎ出した物語の迷宮。真実はどこにあるのか。

2006年刊行。携帯サイトの「新潮ケータイ文庫」にて2003年5月から2004年2月にかけて連載されていた作品を単行本化したもの。すぐにでも書籍化されるものと思っていたら、けっこう待たされた。

マトリョーシカにしてクラインの壷で、そいでもってエッシャーの騙し絵のような手の込んだ作品。何重にも入れ子になったメタ要素満載の内容で、携帯で読んでいたときはサッパリ内容が判らなかった。実質二度目の挑戦だけど、それでも意味不明箇所多数。内と外の構造を誰か表にまとめて欲しい。読んでいて脳がクラクラしてきた。

いつもながら細かな「謎」が数多く封じ込められていて、ファンとしては嬉しい。情けないことに作品の構造の根元的な部分までは読み込めてないのだが読後感は悪くない。それなりに決着はついているようにみえる。『ユージニア』『Q&A』で感じた未消化感も無く、『エンド・ゲーム』『ネクロポリス』で幻滅させられた終盤での失速も無し。藪の中系ではわりと手堅くまとめられた方だろうか。しばらくしたらもう一回読んでみよう。[2007/01]

石の猿 [ジェフリー・ディーヴァー] ★★★☆ 文藝春秋 (\1,900) [Amazon]

石の猿

不法移民とは既にこの世に生亡きものたちなり。中国からの不法移民者を満載した福州竜丸は、アメリカ本土を目前にして沈没した。それは逮捕を怖れた、蛇頭の殺し屋"ゴースト"によるものだった。僅かに生き延びた移民たちを次々と手にかけていくゴースト。リンカーン・ライムとその仲間たちは、その行方を追って奔走するのだが……。

2003年刊行。オリジナルの米国版は2001年に刊行されている。首より上しか動かすことが出来ない、半身不随の天才科学捜査官リンカーン・ライムシリーズの第四弾。かなり前から確保してあったのに、ずいぶん読むのに手間取ってしまった。正月に一気読み。二段組みを500頁弱を一日で読ませるリーダビリティの高さはいつもながら驚かされる。

今度のターゲットは中国マフィア蛇頭のボス。舞台はニューヨークに戻ってきているのだが、これまでとは違ってチャイナタウンを中心に物語は展開していく。オリエンタルなムードが新鮮だ。あまり世の中的には知られていない、中国の人民弾圧についていろいろ言及されていて、どうして中国人たちが命を賭けてまでしてアメリカに渡ろうとするのかが事細かに描かれている。自らの命を賭して家族を救わんとする爺さんに燃えるところなんだろうけど、中国人って現代でもこんなに父親の権威が高いのか?事実であるのなら驚きである。

独自の人生観に基づき、淡々と移民達を殺していくゴーストと、お得意の科学捜査と明晰な頭脳でぐいぐい敵を追い込んでいくライムの灰色の脳細胞。この対決が実にスリリングで手に汗握る。パートナーにして、実働捜査官のサックスは今回も大活躍。でもヘリで空輸されながら、ダイビングして難破船にまで潜入するのはスーパーウーマンにも程があるんじゃないかと。それからソニー・リーは死亡フラグ立てすぎ(笑)。いくらなんでもあからさま過ぎ。哀しむところなんだろうけど、思わず笑ってしまった。ソニー・リーよすまぬ。

で、ちっとも犯人が誰か判らなかったのは、ひとえにわたしの読みが甘いから。すっかり騙された。ヒントは沢山あったのになあ。この作者、相変わらずサービス精神旺盛で、最後の最後まで読者を楽しませてくれた。しかし犯人、余計な口封じなんかしないで、最初から逃げていれば助かったのに。って、突っ込むのは野暮なところか。それじゃ話にならないんだけどさ。[2007/01]

九杯目には早すぎる [蒼井上鷹] ★★★ 双葉社 双葉ノベルズ (\800) [Amazon]

九杯目には早すぎる

尾行していた男は寿司屋で奇矯な振る舞いに打って出た。丼に放り込んだ寿司に茶碗蒸しを投げ入れ盛大にかき混ぜ始めたのだ。果たしてその意味とは「大松鮨の奇妙な脚」。冴えない老人と知り合ったばかりに悲劇的災難に見舞われる男の話「タン・バタン」。東京郊外のとあるバー。この店で起きた奇妙な事件の顛末を描く表題作他、全9編を収録した短編集。

2005年刊行。蒼井上鷹は「小説推理」新人賞出身の人。「あおいうえたか」と読む。なにかのアナグラムだろうか?それとも50音順で、書店棚の先頭に並べてもらうための工夫かな。「小説推理」掲載作5編に書き下ろし4編を加えて上梓したのが本書。これが処女作となる。収録作は短編あり、ショートショートありといろいろ趣向が凝らされて飽きない構成になっている。

セコイ人物によるショボイ犯罪が共通したテーマとなっていて、せせこましい動機や惨めな末路にどんよりさせられる。卑近な話なので、感情移入しやすいのかもしれないが、こんな連中にシンパシーは感じたくないよなあ。ミステリ的な切れ味としてはどうなんだろう。本格マインドが乏しい自分にはちょっと判断がつきにくい。起承転結の結でくるりと、物語の構造をひっくり返してしまう技はなかなかに巧。第二作も確保してあるので、これから読むよ。[2007/01]

ぼくのキャノン [池上永一] ★★★ 文藝春秋 (\1,524) [Amazon]

ぼくのキャノン

沖縄のとある村落。この地には未だ旧日本軍のカノン砲が残され、人々の信仰を集めていた。戦後まもなくから始まるマカト婆による神権政治は数々の危難を乗り越え、未だ健在であった。秘密結社「寿隊」「男衆」。天才的盗人チヨ。そして闇の暗殺者樹王。独自の政権を築き上げてきたマカト婆であったが、村には決して知られてはならない恐るべき秘密があった。

2003年刊行。池上永一六作目の作品。今回もお得意のオキナワファンタジー。舞台としてはいちおう現代の日本のようだけど、戦時中に残されたキャノン砲を「キャノン様」として信仰の対象にし、敵対者は「寿隊」の色仕掛けで骨抜きにし、それでもなびかぬとみれば暗殺者樹王の力で命を奪う。『レキオス』のハチャメチャぶりに較べるとややおとなしめだが、それでも設定はかなりぶっ飛んでいる。

コミカルな部分とシリアスな部分の匙加減が微妙。というか、今回はコミカル部分が軽すぎて「オキナワ」の歴史的重さと釣り合いが取れていない。バランスとしてどうかと思った。 終盤明らかになる、オキナワ戦の惨禍と、戦後村が生きるために踏みにじってきたもの。重いテーマなんだけど、それを何も知らない小学生の純粋な想いだけで背負わせてしまうのは、美しくはあるのだけど無理矢理感が漂う。ちょっと絵空事なんじゃないかと。

実力行使に出てきた敵に対して、キャノン様が取った手段はやっぱり実力行使。この作家的に、自衛のための武力の行使はありってことなんだろうな。[2007/01]

タイスの魔剣士 グインサーガ111
[栗本薫] 
★★☆ 早川書房 ハヤカワ文庫 (\540) [Amazon]

タイスの魔剣士―グイン・サーガ〈111〉

タイス伯爵タイ・ソンの招きを受けた一行は、幸か不幸か伯爵に気にいられ、マリウスは愛妾の一人に、グインやリギアたちはお抱えの剣闘士にされてしまう。その力量をはかるため、闘技場へとおくりこまれたグインだったが、圧倒的な技量ゆえにつぎつぎと勝ち進んでしまう羽目に。最後にあらわれたのはタイスきっての魔剣士マーロール。はたして勝負のゆくえは……。

111巻目。2006年刊行。天下一舞踏会編が始まった(違。どう考えてもグインが負ける筈はないので緊張感は無いよね。ちょっとでもハラハラさせたいならスイランとか、リギアの様子も見せてくれ。このままガンダルが出てくるまで武闘会モードで引っ張るのかなあ。それにしてもマリウスの男妾ぶりは水際立ちすぎ。これが歳月というものなのか。[2007/01] ⇒次巻

背信者 キル・ゾーン [須賀しのぶ] ★★★ 集英社 コバルト文庫 (\476) [Amazon]

背信者―キル・ゾーン

サリエルと同調したマックスの攻撃を受け、火星国家元首ユージィンは瀕死の重傷を負わされる。マックスは逃亡し、ラファエルは元首襲撃の犯人なのではとの疑いを囁かれながらも、任地である地球へと赴く。火星に残されたキャッスルは、ユージィンの呼び出しを受け病床の彼を見舞うのだが、ここで彼女の心に思わぬ変化が……。

2000年刊行。シリーズ17作目。ずっと古本で追いかけているのだけど、この巻が長らくみつからず一年以上も読むのを中断していたのだった。この後のラスト三冊は既に確保済なので、やっと最後まで読めるぞ。

さて、いきなりユージィン(婚約者の父)にメロメロになっちゃうキャッスル。ちょっ、不自然過ぎるでしょ。もう少しまともな伏線張っとけよ。久々に読んだから、ビックリしちゃったよ。そんな流れあったっけ?さらに衝撃を受けたのは、あっさり死んでしまったメイエさん。ええっ!けっこう重要キャラだったのに。終盤入って、人員整理モードって事なのかよ。[2007/01] ⇒次巻

 キル・ゾーン [須賀しのぶ] ★★★ 集英社 コバルト文庫 (\476) [Amazon]

罰―キル・ゾーン

火星軍に身を投じたキャッスルに与えられた任務は、皮肉にも憎んでも憎み足りない父・オブライエンの保護だった。地球へと旅立つ前夜、キャッスルの下へユージィンがお忍びで来訪する。一方、既に地球へと降り立っていたラファエルは、ユーベルメンシュの特殊部隊を指揮し、圧倒的な戦功をあげつつあった。戦況は次第に火星軍有利に傾いていく。

2000年刊行。シリーズ18作目。おいおい、キャッスルさんそれは無いでしょうという、いきなりな急展開でビックリ。コバルトなのにここまでやっていいのか。でもそんなに直接的なシーンは無かったから、昨今の少女マンガに較べれば全然緩いか。それにしても、もうちょっと周到に伏線を貼ってからやって欲しかった。

シドークン、グッドリーさんたちの地球組が火星組と合流。少しは、葛藤があるのかと思ったら、意外にあっさりとした扱いで肩透かし。かつての友軍が、今や敵同士というナイスな状況設定を活かせばいいのにと思ったぞ。少々終わりを急いでる感じ。物語的にはマックスさまのご臨終の巻。美しくご退場ってところか?残り二冊。そろそろ人員整理モードだな。[2007/01] ⇒次巻

叛逆 キル・ゾーン [須賀しのぶ] ★★★ 集英社 コバルト文庫 (\476) [Amazon]

キル・ゾーン 叛逆

マックスの一命を賭した襲撃により、月の総帥ロスマイヤーは暗殺されてしまう。最高権力者を失った月側勢力はその力を失い、パワーバランスは一気に火星側へと傾き始める。しかし火星元首ユージィンはあくまでも徹底抗戦を主張。終わることのない不毛な抗争が続いていた。連日の激戦はラファエル率いるユーベルメンシュたちにも激しい損耗を強いていくのだが……。

2001年刊行。シリーズ19作目。ラスト直前。主要キャラのスーパー化が進みすぎて、まるで死ぬ気がしない。やっぱりジャングル編の方が緊迫感あったねえ。しかしキャッスルの貴種流離譚ぶりは、やりすぎ(笑)。実は月の女王様だったか。レジーナ(女王の意)・キャッスルの名前は伊達では無かったというわけだ。もの凄い成り上がり人生である。ユージィンにはヘルが取り憑いて、急展開。さすがに「ブルー・ブラッド」 [Amazon] 読んでないとついていけない感じ。ヘルって誰だよ。読む順番を間違えたかな。[2007/01] ⇒次巻

地上より永遠に キル・ゾーン
[須賀しのぶ] 
★★★ 集英社 コバルト文庫 (\533) [Amazon]

地上より永遠に―キル・ゾーン

ヘルに精神を支配されたユージィンの専横により火星・月間の戦いは泥沼化の様相を呈していく。キャッスルは自分との醜聞を公開することでその暴走を止めようとする。一方、情報部長官ヴィクトールは、ユージィンとの積年の対立に決着をつけるべく、最後の賭けに打って出ようとしていた。ラファエルもまた、最後の戦いを挑もうとするのだが……。

2001年刊行。シリーズ20作目。遂に最終巻である。いやしかし、この人員整理ぶりは非道い。ユーベルの皆さん殺されまくり。絶対これ急ぎ過ぎだってば。結局、「ブルーブラッド」の物語に「キルゾーン」は飲み込まれてしまった。ラファエルとキャッスルの恋愛話よりも、ユージィンとヴィクトールの愛憎を描くことに、作者的には重きを置いてしまったようだ。最初の頃のノリが好きだった人間には寂しい。

エイゼンに過去との訣別をさせてあげたのは辛うじて評価出来るけど。キャッスルとエイゼンとの関係は、もっと突き詰めて書いて欲しかった。きちんと完結させられたことは評価すべきだと思うけど、初期の頃のテンションを長編作品で最後まで維持するのはやはり難しい事なのだろうね。[2007/01]

刀語 第一話 絶刀・鉋 [西尾維新] ★★★ 講談社 講談社BOX (\980) [Amazon]

刀語 第一話 絶刀・鉋

丹後沖に浮かぶ小島、不承島。彼の地を訪れたのは美貌の奇策士とがめ。伝説の刀鍛冶四季崎記紀が残した十二本の刀を全て集めることが彼女の目的であった。とがめは虚刀流、七代当主鑢七花に協力を依頼する。そこへ真庭忍軍十二頭領が一人、真庭蝙蝠が襲いかかる。手にするは絶刀・鉋。初陣を迎えた七花はその襲撃を退けることが出来るのだろうか。

2007年刊行。昨年創刊された講談社BOXからのリリース。講談社BOXはラインナップ的にも売り方的にも、事実上講談社が手がけるライトノベルレーベルと見て間違いないだろう。箱装とはいえカラー頁は最初だけだし、本文は少ないしで、なんだかもの凄い割高感。文庫で売ったらせいぜい\600〜\700だろうから、体の良い上代釣り上げ工作だよな。見事な殿様商売である。買っちゃう時点で、もう負けなんだけどさ。

で、本書は西尾維新が手がける12ヶ月連続刊行"大河小説"の第一巻。刀を使わない剣士、虚刀流第七代当主鑢(やすり)七花が、幕府の奇策士とがめと共に、伝説の刀鍛冶四季崎記紀が残した十二本の銘刀を探して歩く物語。隆慶一郎の『鬼麿斬人剣』[Amazon] っぽい設定。十二本の刀、十二人の剣士との対戦型格闘小説というスタイルは山田風太郎的なテイストも強く感じる。戯言シリーズで培った、超人同士の異能バトルを今度は伝奇小説の世界観で実現してみようということなのだろう。

西尾維新作品にしては珍しい、ごちゃごちゃ考えない、心のねじまがっていない(というか有り体言うとバカ)タイプの主人公がかなり新鮮。こいつはいつまで裸なんだろう。とがめは、どう考えても子荻ちゃんとキャラ被ってるんじゃないのかと。戯言で活躍させられなかった分、こっちで使い倒そうということなのかね。自キャラ萌えは作家として危険な兆候なので今後要経過観察である。

時代考証とか、正史と違う!とか突っ込んじゃ駄目。そんな言葉遣いしないだろ、なんてことも指摘するだけ野暮。手っ取り早く、剣で戦える時代設定だけ借りてきたって雰囲気。まあ、この辺は本編が面白ければどうでもいいや。まだ序盤なのでキャラ立ちが弱い分、剣劇シーンがイマイチ燃えないのは難点かな。それからメイド蝙蝠は喋りすぎで、なおかつ説明しすぎ。中学生の書いた小説みたいでちょっと萎えた。とりあえず一巻を買っちゃったから最後まで付き合うので今後に期待。[2007/01] ⇒次巻

蠱猫 人工憑霊蠱猫01 [化野燐] ★★★ 講談社 講談社ノベルズ (\880) [Amazon]

蠱猫―人工憑霊蠱猫〈01〉

義父の死により、忘れていたはずの故郷へと帰った小夜子。祖父が創設した美袋学園の、図書館司書として勤務することになった彼女だったが、古い土蔵の地下で発見したのは奇怪な古文書の数々だった。祖父、そして義父が研究していた"存在"とは一体何だったのか。その背後では封じられた力の行方を巡り、どす黒い陰謀が蠢いていた。

2005年刊行。本作が処女作となる。化野燐は1964年生まれと、講談社ノベルズの作家としては失礼ながらかなり高齢な方だろう。昔は40歳を過ぎてからのデビューも珍しく無かったけど、昨今の作家は早成だからねえ。この人は「幻想文学」でデビュー。「怪」「幽」で評論の仕事もしていたらしい。妖怪に強い人なのか?このシリーズはラノベっぽい表紙なので以前から注目していたのだ。

蓋を開けてみれば、昨今流行りの戦う図書館司書モノ(違。祖父の作った大学に帰ってきた図書館司書のヒロイン。妖怪マニアだった祖父の蔵書を調べていたら、なんだかわけのわからん妖怪?に憑依されちゃってさあ大変。妖怪を実体化させるという謎の稀覯書を狙う悪の一団と戦う羽目になり、なんとワーキャットに獣化までしてしまう。清楚で地味なヒロインが、蠱猫に変化して戦うという設定はそれなりに支持を集めそうな予感。

この物語には、実はもう一人、うすらぼんやり系の男主人公が居て中盤以降はこの青年の視点に切り替わる。ヒロインの獣化が発生した直後にそんな展開になってしまうので、謎は説明されないし、彼女の内面描写もスルーされるしでかなりストレスが溜まる。しかもこの問題、なんと最後まで読んでも解決されないのだ。続きを読めってことなんだろうけど、消化不良のまま放置されるのは楽しくない。

このシリーズけっこう人気があるのか、続編は既に五巻まで出ている。あまり気合いは入らないけど見かけたら買う、くらいの気持ちで追いかけていくつもり。[2007/01]

朽ちていった命
[NHK「東海村臨海事故」調査班] ★★★☆ 新潮社 新潮文庫 (\438) [Amazon]

朽ちていった命―被曝治療83日間の記録

杜撰きわまりない管理の果てにその事故は起きた。1999年。茨城県東海村JCO。前代未聞の臨界事故により、数多くの職員が大量の放射線を受け被爆する。事故の渦中に居た作業員の被爆量は限界値の二万倍を越えていた。最新鋭の医療設備。国内最高水準の医師、スタッフが集められるが、手探りでの治療の日々は苦難と絶望の連続だった。

2006年刊行。2002年に刊行された『東海村臨界事故 被爆治療83日間の記録』 [Amazon] を改題の上で文庫化したもの。

今振り返ってみても、あり得ない程の酷い事故、というよりは人災だったと思う。東海村の臨界事故は世紀末の日本をまさに震撼させた。個人的な事になるが、父方の祖母が東海村の近くに住んでいて、自分はちょうどこの日祖母宅を訪問する予定だった。夕方に上野駅に行ってみたら常磐線は止まっていて構内は騒然としていた。祖母に電話してみると(なかなか繋がらない)、なんだかよくわかんないけど絶対に来ちゃ駄目だとの返答で、その時点ではまったく訳がわからず、帰宅してテレビを見て衝撃を受けた事をいまでも覚えている。

本書はこの事故で被爆したJCO職員83日間の治療記録。あくまでも放射線障害とその治療についてのドキュメントで、臨界事故そのものについての言及は控え目。この点については『あの日、東海村でなにが起こったか―ルポ・JCO臨界事故 』 [Amazon] 『青い閃光―ドキュメント東海臨界事故 』 [Amazon] あたりが参考になるかと思う(まだ読んでないけど)。

致死量を遙かに超える中性子線を受けた瞬間に体内の染色体は崩壊してしまう。染色体が崩壊した細胞は再生しない。細胞が再生しないから、皮膚はボロボロで次第に体液が滲み出てくるし、腸壁もグダグダになって水分も栄養も吸収しなくなる。免疫組織も壊滅状態で、最後は無理矢理生かされているだけの存在と成り果てる。被爆時点では、なんら変わりなく会話していた患者が、想像を超えた速さで容態を悪化させていくさまは悪夢としか言いようが無い。人類初の稀少なケースであるが故に、言い方は悪いけど金に糸目付けずにモルモットにされていた感があって、本人や家族の心中を察するとやるせない気持ちにさせられる。今回のノウハウが生かされるような日が来ないことを切に祈りたい。[2007/01]

逆さに咲いた薔薇 [氷川透] ★★★ 光文社 カッパノベルス (\800) [Amazon]

逆さに咲いた薔薇

若い女性をターゲットとした連続殺人事件が発生。被害者は一様に赤い靴下を履かされ、そして足の小指を切断されていた。同一犯による凶行が疑われるが、しかし彼女たちをつなぐ線は見えてこない。警視庁捜査一課の新人刑事椎名梨枝は、変わり者の友人祐天寺美帆の助けを借り、事件の謎に迫っていく。果たして犯人の目的は何なのか。

2004年刊行。おっ、氷川透久しぶり。読むのは処女作の『真っ暗な夜明け』以来だ。もともとはメフィスト賞出身の人だけど、最近は双葉社でも書いていたのか。本書が八作目の作品になる。昨年は一冊も新刊を出していないようなのでちょっと気がかり。

なぜか本庁の捜査一課に配属されてしまった新人女性刑事が、電波入ってる天然ちゃんを探偵役に、事件の謎に挑むお話。けっこう、簡単に犯人が判っちゃうんですけど(中谷美紀風に)。まさかそんな筈はと思って読んでいたら、ホントにそのまんまでガックリ。そもそもタイトルからしてネタバレのような気がするぞ。それから、犯人の思考パターンがパターンが逝っちゃってるのはいいとして、わざわざもう一人別に居る必要がよくわからない。最後の活劇要員なのか?読み手に気を持たせたわりにはうまく使い切れなかったね。[2007/01]

若者殺しの時代 [堀井憲一郎] ★★★☆ 講談社 講談社現代新書 (\700) [Amazon]

若者殺しの時代

1983年にクリスマスは「発明」された。1987年にディズニーランドが開園。若者達から富を収奪するシステムが着々と整備されていく。1991年にはトレンディードラマが一世を風靡。そして携帯電話の登場は人間のライフスタイルを根底から変えてしまった。若者であることが決して得にはならない時代はどのようにして到来したのか。数々の流行事例を追いながら読み解いていく。

2006年刊行。筆者は1958年生まれのコラムニスト。思いっきりバブルを謳歌出来た世代だな。テレビやラジオにも時々顔を出している人物らしい。文藝春秋誌に連載されていた「ホリィのずんずん調査」なる企画をベースに再構成されたの本書。

いっぱいのかけそば、クリスマス、ディズニーランド、トレンディドラマ、マンガ、ノストラダムス、携帯電話、一世を風靡したキーワードを軸に当時の世相を振り返っていく構成となっている。頼りになるのは当時の「anan」や「Popeye」などの若者向け雑誌。これらを片っ端から調査してどの段階で、クリスマスが聖なる恋人達の祭典になったのかを真面目に検証してみたりする。バカバカしいけどけっこう読み物として面白い。歴代月9ドラマを見て、携帯電話の普及度合いを調べる企画も興味深かった。ちなみに最初に月9ドラマで携帯電話を使ったのは石田純一。肩掛け型の巨大な車載電話だったらしい(笑)。

戦後、初めて「若者」としてふるまうことを許された団塊世代。彼らがいつまでも「若者」であろうとし続けたが故に、それより下の世代は「若者」にすらなれない奇妙な存在になってしまったという読みなんだけど、なんでもかんでも団塊のせいにしてしまうのはいかがなものかと……。常に利益を上げて成長しつづけなくては、喰っていけないという資本主義的な強迫観念は自分らの世代にもあるから、これからも不毛な焼き畑農法的な大量生産大量消費の時代は続いていきそう。まあ、少し下の超氷河期世代、さらにそのしたのゆとり世代に入るとどうなるかわかんないけど(これって偏見?)。

一つの体制、一つの時代が続くのは、時代を切り開いた第一世代が死に絶えるまで(60年〜75年)。戦後60年を経たこの国は、そろそろ、新しい時代に移行していくのではないか。でもこの先の未来は絶望的なものになりそうだ、うまく逃げてくれ、と筆者は最後に締めくくっている。でも、逃げろって言われても、逃げ場は無いよなあ。[2007/01]

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