2007年2月

書籍名
作家名
出版社
価格
コメント
お薦め度
死の記憶 トマス・H・クック 文藝春秋 \714
やるせない鬱展開。
★★★☆

二枚舌は極楽へ行く

蒼井上鷹 双葉社 \819
地味だが貴重な存在なのでは。
★★★

刀語 第二話 斬刀・鈍

西尾維新 講談社 \1,100
値段高すぎ。
★★★

戦う司書と追想の魔女

山形石雄 集英社 \619
ヤバイ、面白くなってきた。
★★★☆
暗黒館の殺人 上 綾辻行人 講談社 \1,500

ダリアの祝福はマジで受けたくないw

★★★
暗黒館の殺人 下 \1,500

フォーマイダーリン

野村美月 エンター
ブレイン
\640
明るく元気に。
★★★

下流志向

内田樹 講談社 \1,400
もうちょっと調べてから書こうよ。
★★★

重力ピエロ

伊坂幸太郎 新潮社 \629
相性の問題なのか。
★★★
サウンドトラック 古川日出男 集英社 \1,900
相変わらずこの人は地下迷宮大好きなんだねw
★★★☆

灼眼のシャナ

高橋弥七郎 メディア
ワークス
\590
フラグの立ち方がメチャ直球勝負。
★★★

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死の記憶 [トマス・H・クック] ★★★☆ 文藝春秋 文春文庫 (\714) [Amazon]

死の記憶

ウィリアム・ファリスは妻と長男、そして長女の三名を射殺、そして逃亡した。次男のスティーヴだけが運良く難を逃れる。35年後。家庭を持ち一児の父となった彼の元へ、美貌のノンフィクションライター、レベッカが現れる。ウィリアムの事件について取材を受けるスティーヴ。封じ込められていた記憶が甦るとき、事件の驚くべき真相が明らかになる。

1999年刊行。オリジナルは1993年にアメリカにて刊行されていて原題はまさにそのまんまな『Mortal Momory』。

事件は1960年代のアメリカで起きている。主人公の父親は、別に粗暴でもなければ、自堕落な性格でもなく、周囲との痴情のもつれの可能性も、他の犯罪に巻き込まれた形跡も無し。良き父親であった筈の彼はいかにしてそのような凶行に手を染めてしまったのか。35年経って、かつての父と同じような年齢に至った主人公が回想のうちに、真相に迫っていくという構成。いつもながらの「記憶」シリーズである。

事件は既に起きてしまっており、その事実は揺るがしようもない。幼き日の主人公の精神に穿たれた暗黒は、いつしか平和な現在をも蝕んでいく。実の父親に家族を皆殺しにされた心の虚無は、癒やされることは無く、主人公の家族観は次第に歪められていく。かつて父が破壊した家族と、そしていま現在自らが築きあげた家庭。時を隔てた二つの家族の対比の妙。運命に絡み取られ転落していく主人公の姿がやるせない程にリアル。

中年期に入って、ある程度人生の先が見えてしまった男が抱え込みそうな心の闇を、嫌になるくらい的確にえぐり取って見せつけてくるクックの手腕の見事さに感服。平穏なままに朽ちていくことへの不安と戸惑い。静かな湖面につい一石を投じてみたくなる気持ち。あるある。よくあるぞそれは。相変わらずエグイよこの作家は。十年前に読んでいたら正直ピンと来ない作品だったかもしれない。年取ってから読んだ方が、しっくりくる作品ってのはやっぱりあるんだねえ。[2007/01]

二枚舌は極楽へ行く [蒼井上鷹] ★★★ 双葉社 双葉ノベルズ (\819) [Amazon]

二枚舌は極楽へ行く

飲まされたのは毒入り野菜ジュース。犯行を自供しなければ死あるのみ。誰が彼女を殺したのか「野菜ジュースにソースを二滴」。天坂りくの元へ転がり込んできた大金。事件の鍵は孫の孝子が握っていそうなのだが「青空に黒雲ひとつ」。殺された弟が、死の直前に遺した戦慄すべき名演奏。その死の真相とはいったい「ラスト・セッション」他、計十二編を収録した短編集。

蒼井上鷹の二作目。2006年刊行。「小説推理」掲載の9作に、書き下ろし3作を加えて上梓したのが本書。

それぞれが独立した短編作品だけど、微妙にキャラクターや事件がクロスオーバーしていて、工夫のあとが見られてなかなか宜しい。今回もセコイ連中によるセコイ犯罪をペーソス溢れる筆致で描く。こういう地味な話って意外と書き手がいないから、実は貴重なのかもしれない。笑える系の物語が多い中で「ラスト・セッション」だけは珍しくメロウタッチのちょっといい話系ミステリ。こういうのも書けるのか。そろそろ長編も読んでみたいな。[2007/01]

刀語 第二話 斬刀・鈍 [西尾維新] ★★★ 講談社 講談社BOX (\1,100) [Amazon]

刀語 第二話 斬刀・鈍

伝説の刀工、四季崎記紀の残した十二本の変体刀を蒐集すべく、旅を続ける七花ととがめ。次なる目的地は因幡砂漠にそびえ立つ下酷城。ここに二本目の刀、斬刀・鈍があるのだと云う。待ちかまえるは神速の居合いの使い手宇練銀閣!見ることすら適わない、光の速さの剣技を前にして、七花が選んだ意外な戦法とは……。

2007年刊行。12ヶ月連続刊行の大河小説。第二作目。まず何がビックリしたかって、前の巻より頁数が減っているのに、値段が上がっていること!何じゃそりゃ(怒)。売れれば何をしてもいいってことなのか。講談社のこの体質は本当にどうにかならないのだろうか。立ち上げたばかりのレーベル。唯一にして最大の稼ぎ頭が西尾維新なんだから、ここで売上立てておきたい気持ちは判るけど、メインの読者のお財布状態をもうちょっと考慮してあげるべきなんじゃないのかと。

これで内容が面白ければ我慢も出来るけど、いかんせん薄い。薄すぎる。詰まらないとは言わないけど、長い話の1エピソードだけ切り取ってはい\1,100ねって言われても困る。戯言シリーズだったらせいぜいこれで全体の1/4くらいのボリュームでしょ。まにわにさんとか、白鷺クンとか、「ちぇりお!」とかさ、キャラの立て方は上手いと思うのに売り方が売り方なので、損をしている感じ。

それから突っ込むのは野暮だと思いつつも、着物着て、日本刀振り回している小説で、「光速」だの「保険」みたいな単語を見せられると萎える。もうちょっと世界観作りには気を使った方がいいんじゃね?意外とこういう細部の積み重ねは大事だぞ。以上、想定ユーザー外の高齢読者の意見でした。[2007/01] ⇒次巻

戦う司書と追想の魔女
[山形石雄] ★★★☆ 集英社 スーパーダッシュ文庫 (\619) [Amazon]

戦う司書と追想の魔女

アロウ沖船舶強襲事件。代行就任前のハミュッツがここで犯した裏切り行為とは。理想に燃える若き武装司書ヴォルケンはその背信行為を糾弾し事件を法廷に持ち込む。唯一の参考人オリビアを伴い逃亡を続けるヴォルケンは、果たして追っ手から逃げ切ることが出来るのか。暗躍を続ける神溺教団。そしてハミュッツをして恐怖せしめる存在。その正体とは?

2006年刊行。シリーズ五作目。相変わらずペース早いね。立派立派。正義感溢れる若手武装司書ヴォルケン君がハミュッツに対して叛乱を起こすお話。どう見てもこの若者は捨て駒キャラです。本当に(ry。ヴォルケン君はまあ、踏み台ということで(笑)、メインはレナスちゃん。モッカニア母として複製された彼女にそんなもの凄い秘密があろうとは。偶然にしては、無理矢理過ぎるのでそれなりな仕掛けがあるものと想像したい。

一作目の『戦う司書と恋する爆弾』を素敵だと思ったのは、ひたむきなまでに真っ直ぐなキャラクターたちの思いの真摯さに打たれたから。三作目以降、少々その真っ直ぐさに翳りが見えてきていて不安に思っていたのだけど、どうしてどうして、いいじゃんか今回は。モニカ(オリビア)の秘めた想いの強さに痺れる。「肉」の皆さんは今回も大活躍。しゃーロットのあれなんてバレバレだったけど感動したぞ。世界最強のハミュッツをも退けるモニカ(戦闘力なんて無いのに!)。そして自動人形ユックユックが履行する魔法権利の美しさときたらもう。これは泣けた。久々に戦慄を覚えたシーンだった。

驚くべき事に、物語は収束の方向に向かっている。この調子で最後まで上手く書き切れれば、かなりの名作として終われそうな予感。広げた風呂敷をきちんと畳める能力が問われるところ(ラノベ書きにはこれが無い人多いけどね)。期待しちゃうぞ。編集部の人は無理して、引き延ば工作なんかしたりしちゃだめだぞ。[2007/01] ⇒次巻

暗黒館の殺人 上・下
[綾辻行人] 
★★★ 講談社 講談社ノベルズ (各\1,500) [Amazon:/]

暗黒館の殺人 (上) 暗黒館の殺人 (下)

九州山地の奥深く。人界から隔絶された山間の湖、影見湖。その湖面に浮かぶ小島に建てられた異形の館、暗黒館。古くからの名家浦登家の一族が代々住まうとされるこの館にはどのような秘密があるのか。内も外もなにもかもが黒一色に塗りつぶされた館の中で進行していく殺人劇。館に招かれた大学生、中也がそこで知った驚愕の真実とは。

2004年刊行。1992年の「黒猫館の殺人」 [Amazon] 以来、12年振りに刊行された館シリーズ。辛うじて中村青司は覚えていたけど、鹿谷門実とか江南孝明って誰だったっけ。あまりに久しぶりなので基本設定全部忘れちゃったよ。

さすがに超久々の新作ってことだけあって館のギミックが凝りに凝っている。なんてったって東西南北都合四つ。暗黒館は四つもの館の集合体となっているのだ。広いよ、これは広すぎる。冒頭の見取り図頁を見ているだけで気が遠くなってくる。こんなの絶対構造把握出来ないって。

長い。とにかく長すぎる。珍しくエンジンがかからず、上下巻1300頁を読み切るのに四ヶ月もかかってしまった。読むのが早い自分にとって、これはかなり珍しい事態である。無論これにはもちろん理由がある。ただでさえ長い話なのに、主人公の中也、昔出てきた江南クン、それからどっかの田舎の子供、それぞれの視点がクロスオーバーしてとっても読みにくい構造になっているのだ。いいまわしそのものもやたらに回りくどく、展開の遅さと、過剰なまでに繰り返される思わせぶりなヒキの数々に何度めげそうになったことか。核心に近づくか!と思わせておいて、いやいやまだまだと出し惜しみする。真相に触れそうになると邪魔が入ったり、「うんちょっとそれはあとで話すよ」「それはまだ言えないな」とか言ってお茶を濁したり、こんな展開が一回や二回じゃないんだぜ。さすがにこれは酷いと思った。

これでラストまで読んで面白くなかったら許さん。って思って最後まで読んだわけだが、終わってみればこの話、いつの間にか本格ミステリからホラーの領域に重心が移っていてげんなり。館シリーズじゃなくて、囁きシリーズの新作として出していれば、だいぶ印象が変わったのかもしれない。ホラーとしては悪くないのだ。長命、不死を求め続ける一族の悲劇。惑いの檻に潜むあの人。エキセントリックな美人シャム双生児。鬼丸老の存在とかキャラ的には最高だったしね。雰囲気作りは申し分無かったが。期待が大きかった分、裏切られてしまった印象だけが強く残ってしまったのかもしれない。

館シリーズの重要キャラが総登場なのでファンは嬉しい筈。誰が出てきて、誰が出てきてないなってことを考えていくとある程度先が読めてしまうけど、なまじ前の巻の刊行から時間が空いている分目くらましになっていて逆に良かったのかもしれない。しかしこういう話を書いてしまうと、続きが書きにくそうだけど、今後このシリーズどうしていくつもりなのだろうか。[2007/02] ⇒次巻

フォーマイダーリン
[野村美月] ★★★ エンターブレイン ファミ通文庫 (\640) [Amazon]

フォーマイダーリン!―月夜は無邪気に竜退治

リリカ・アーヴィングは16歳。田舎のハニーベル村から、彼女がはるばる王都へと上京してきたのは、憧れのユリウス・コールリッジに再会するためだった。しかし超絶美形にして騎士団の花形であるユリウスを狙う姫君たちが都にはいっぱい!せめて圧倒的な美貌を身につけねばと、魔法美容師の見習いになってはみたものの、その先には数々の苦難が待ちかまえているのであった。

2002年刊行。野村美月二作目。クールビューティな幼馴染みに振り向いてもらうために、魔法美容師を目指すことに決めた、元気一杯少女リリカちゃんのお話。

なんだかとらえどころのない不思議小説だったデビュー作に較べるとかなり判りやすい展開。素手でドラゴンにうおおおお!って飛びかかっていくようなトホホちゃんの物語なので、緊迫感とかリアリティとか、世界としての整合性とか求めちゃだめ。ほんわかまったりファンタジーとして、暢気に鑑賞すべし。 仄かに漂うミステリなテイストが今後の野村美月的には重要になっていくんじゃないかと適当に予想しとく。[2007/02]

※なぜか初期のファミ通文庫は書影の解像度が低いのしかAmazonには入ってないみたい。書影がの画像が小さいけど許されたし。

下流志向 [内田樹] ★★★ 講談社 (\1,400) [Amazon]

下流志向──学ばない子どもたち、働かない若者たち

格差社会という言葉を日常的に聞くようになってしまった現代の日本。リスク社会は大量の弱者を生産し続ける。その中で、若者たちの学びからの逃走、労働からの逃走は深刻な社会問題となっている。彼らはどうして自らの不利となるであろう選択を積極的にしてしまうのか。教育、労働の現場で起こりつつある驚くべき変化についての問題提起の一冊。

2007年刊行。2005年の6月に行われた講演をベースに、加筆修正の上で単行本に書き起こしたもの。筆者は1950年生まれ。東大卒で専攻はフランス現代思想。映画論。武道論。現在は神戸女学院の教授。

とかく下流という言葉が世に溢れている昨今だけど、近頃の若い連中って、自ら「学ばない」「働かない」を合理的な判断の結果として選び取っているのではないか?と筆者は問いかける。

昔の日本では、子供はまず家庭内でのちょっとした労働をすることで、なんらかの報酬なり感謝なりが与えられ、家族の成員の一人として認められてきた。一方、現代の子供は家庭内で仕事を与えられない。子供が最初にする社会的行為は、親や祖父母からもらった小遣いを遣うことになってしまった。子供であっても、消費の現場では「顧客」として尊重される。消費行動は等価交換。同じ価値の対価をすぐさま自分にもたらしてくれる。生まれながらにして消費者として育ってきた現代の子供はすぐさま自らが尊重されなければ我慢が出来なくなっている。行動と同時に同等の対価が得られないことに納得がいかない。 子供が「勉強」をしなくなったのは、勉強をいくらしても等価での見返りがすぐさま自分に返ってこないから。

「勉強」とはそもそも判らないからするわけで、学習の効果が将来が自分にどのようなプラスをもたらすかは本来判らなくて当然。どうして勉強をしなくちゃいけないの?という子供からの問いに、功利的な理由で回答を返しちゃだめ。そんな問いはありえないと却下すべき。子ども達は未熟な自分内の判断基準だけで、それが得か損かを判断し、駄目だと思ったら自信満々でそれを排除する。

資本主義社会ではそもそも「労働」は等価交換にならない。でなくては経営者は利益をため込むことが出来ないし、経済も回っていかない。労働とは本質的にオーバーアチーブ。ニートと呼ばれることを選択した人たちは、このからくりに気付いてしまった人たち。自分を等価交換出来ないシステムに身を投じる必要性を感じない。結果的にマイナスになる判断でも、自ら選んだことだという自尊感情がそのマイナスを帳消しにしてしまう。かくして日本では社会的弱者が、自らの社会的立場を自らの意志で脆弱化させていくという世界史上でも稀な現象が生じている。

ええと要約するとだいたいこんな感じ。こないだ読んだ『下流社会』とか『他人を見下す若者たち』なんかに較べると、一見まだマシな論考に見えるんだけど、うーん、頭のいい人が理屈をこね回している感じ。「等価交換」の理論を考えついちゃったオレって頭よくね?って本気で思ってそう。まずその着想ありきで語ってはいないか。本業じゃないにしても、やはり印象批判の域を出てない。もうちょっと現場に出てフィールドワークしようよ。統計とか調査とかした上で判断しないと危険過ぎる。

この筆者にしてみれば、つまるところ「自己責任」ってことなのか。個人の責に帰すのも当然はあると思うけど、社会的な情勢についてもっと掘り下げて考えてみるべきなのではないかと突っ込まずには居られなかった。最後の質疑応答なんて完全に自己満足の世界。ところどころで良いことも言ってるんだけどねえ。この人、自分が大好きなんだろうなあ。第四章でだいぶ印象が悪くなってしまった。[2007/02]

重力ピエロ [伊坂幸太郎] ★★★ 新潮社 新潮文庫 (\629) [Amazon]

重力ピエロ

連続放火事件と、それを予告するかのように出現する謎のグラフィックアート。両者には関連があるのか。遺伝子の法則性にリンクした暗号。そしてそこに込められた意味とは?泉水と春の兄弟はいつしか事件に巻き込まれていく。執拗に犯人を追い求める春。犯行の背景には彼ら家族に纏わる暗い過去が横たわっていた。

2006年刊行。2003年に刊行された単行本 [Amazon] を文庫化したもの。単行本化に際して改稿が行われている模様。2004年版のこのミス国内部門第三位の作品。

うーん、何が駄目なんだろう。正直に書いてしまおう。実は伊坂幸太郎作品にまるで馴染めないわたし。考え抜かれた構成は巧みで感嘆させられるし、感動的な話をベタベタさせずに描く洒脱な文体も魅力的。でも、駄目なんだよなあ。ベタベタしないのが自分的に合わないのだろうか。街に例えると伊坂幸太郎は表参道とか代官山みたいなイメージなのよ(ちなみに恩田陸は仙台とか水戸w)。洗練されすぎてる。

オシャレなトークを続けるこの兄弟。ちょっと怖くないか?特に弟の方は拙いだろう。真剣に怖い。お前自首しなきゃ駄目だろ。兄貴の方も何許しちゃってるんだよ。大義の前に犯罪行為が正当化されてしまう気持ち悪さ。宮部みゆきの『クロスファイア』 [Amazon] を読んだ後の読後感の悪さに近いか。

とりあえず、どうして馴染めないのかが判るまで、もうしばらく追いかけてみる予定。リーダビリティは悪くないからね。[2007/02]

サウンドトラック [古川日出男] ★★★☆ 集英社 (\1,900) [Amazon]

サウンドトラック

父を失ったトウタと母に死なれたヒツジコ。小笠原の孤島で兄妹として育った二人は数奇な運命を経てやがて東京へ流れ着く。2009年の東京。そこはヒートアイランド現象が極限にまで達した亜熱帯の街へと変貌していた。流入が止まらない外国人労働者たち。治外法権化していく神楽坂。高まり行くナショナリズム。再会を果たした二人が目にした新しい東京の姿とは……。

2003年刊行。いやホントにもう古川日出男作品の展開の読めなさ加減は異常。

セイリング中の海難事故で父を亡くしたトウタと、入水する母親に抱かれ海中に投げ込まれながらも急死に一生を得たヒツジコ。未就学児の彼ら二人が絶海の孤島で体験する過酷なサバイバル生活……、って、こんなスゴイ設定なのに、全然そういう話にならない(笑)。もっと引っ張るかと思っていたらこんなのは全然序章。

そして文明社会に「発見」され、養親の元、小笠原本島での生活を始めるトウタとヒツジコ。しかし野生の中で育った二人の存在は、周囲との軋轢を生んでしまう……。って流れで、成る程、これは野生なる存在である無垢なる子供たちと、現代文明の相克みたいな話になるのかと思わせておいて、そんな話にもまるでならない。こんなのは単なる前置きに過ぎなかった。

物語が動き始めるのは二人が東京にやって来てから。第三の人物レニが登場してからだ。2009年の東京の姿がやけにリアル。温暖化や外国人労働者なんて旬な話題をこの時点で取り入れているとはさすがの先見の明。イスラム街と化した神楽坂なんて一瞬本気で信じかけてしまい、検索までしてしまったよ。昨今の大久保界隈の変貌を見ると、それくらい十分ありそうな話だしなあ。

灼熱の東京。煮えたぎるリビドー。暴走する民族主義。ありそうな気がするパワフルでとびきりカオスな近未来。途方もない量のエネルギーが内包された作品で、どこに連れて行かれるのか、なにがどうなっているのか判らないけど、ページを繰る手が止められないと言う不思議な物語だった。この作品、前半部分は「小説すばる」掲載の三編をベースにリミックスしたもので、後半部分は書き下ろしと、かなり変わった成り立ちのうえに完成したようで、先行きの予想の出来なさは、こうした成立事情にも原因がありそうだ。各エピソード間の継ぎ目の部分にはどうしても違和感を覚えてしまうし、決して完成度が高いとはお世辞にも言えない仕上がりなのdが、その膨大な熱量の前にはただひれ伏すしかない、そんな感じの怪物作品。なかなかこういう話は書けないと思うぞ。[2007/02]

灼眼のシャナ [高橋弥七郎] ★★★ メディアワークス 電撃文庫 (\590) [Amazon]

灼眼のシャナ

その瞬間、高校生坂井悠二のごくごく至って平穏な日常は崩壊した。人間存在を灯に変え、その力を吸収してしまう謎の存在フリアグネ。それを宿敵として追い求める灼眼、炎髪の少女シャナ。自らの存在がもはや生命の「残り灯」でしか無いと知ったとき、悠二の脳裏によぎる思いとは。シャナとフリアグネの決戦の日は近づきつつあった。

2002年刊行。ふとしたはずみで仕事で読む羽目に。通産で300万部以上売れている人気シリーズ。アニメ化もされている。なんだかよくわかんないけど、謎の世界からすっごい美少女(属性:ツンデレ)がやってきて、異形のものたちとの戦いに巻き込まれた挙げ句に日常生活をずたずたにされてしまった可哀想な少年坂井悠二クンの物語。

第一巻の本巻はヒロインシャナと主人公悠二の信頼関係築くよ編。とにかく、基本に忠実。判りやすい伏線を判りやすい展開で回収。次巻以降へのヒキも適度に散りばめつつ、それ相応にカタルシスの感じられるエンディングで幕引き。新鮮さは無いけど、キャラの立て方はしっかりしている。やるべきことをきちんと丁寧にやっているが故に生じる気持ちよさというのはあるので、平凡ながらこれは大事なことなのではないかと思う。

世界構造とか、数々の伏線は未だ伏せられたままなので、これは今後おいおい判ってくるのだろう。っていうか、続きも読まなきゃ駄目か?[2007/02]

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