
舟小屋とは漁労に出られない冬期に、漁船を陸に揚げ長期保管するための小屋のことを指す。太平洋岸にはほとんど見られず日本海沿岸に多く残る。日本海特有の豪雪、干満の少なさ、そして沿岸部開発の遅れなどが主な原因とされている。貴重な民俗遺産でありながら、これまで注目されることがなかったその存在にスポットを当てていく。
2007年刊行。表紙を見て速攻購入確定。もしかしてと思ったら、やはり写真は中里和人だった。日本海沿岸に点在する舟小屋の紹介本。今でも舟小屋の残る13集落のカラー写真+神崎宣武、中村茂樹、畔柳昭雄、渡邉裕之による舟小屋コラムが中間部のモノクロページに入る構成となっている。
筒石、寺家(じけ)、麦ヶ浦、奥原、長尾(なご)、岩車、三方五湖、成生、田井、水ヶ浦、伊根、新井崎(にいざき)、隠岐。言葉の響きを想像し、字面を眺めているだけでもワクワクする。まだまだ知らない土地がこの国は沢山あるのだ。地域ならではの独自の発展を遂げた舟小屋の数々が素晴らしい。程度の差はあるにしても、いずれもまだ「生きている」小屋である点に注目。五能線沿線を旅した時に、たくさん漁師小屋を見たけど、ほとんどが廃屋同然だっただけにこの生活感は嬉しい。
圧巻は230軒もの舟小屋が湾口をびっしり埋め尽くす伊根。おおおおおおお。行きteeeeeeeeeeeeeee。素敵過ぎるなこれは。成生の連棟式舟小屋「シチケンブン」(七棟の舟小屋が連結されている)も身震いがしそうな程の素敵物件。舟小屋の残っている土地は、いずれも交通の便が悪くて、鉄道旅主体の自分だとなかなか訪れる機会が無いんだよなあ。体力のあるうちに自転車でも担いで遠征すべきだろうか。[2007/04]
強救戦艦メデューシン 上・下
[小川一水] ★★★ 朝日ソノラマ ソノラマ文庫 (\476/\552) [Amazon:上/下] ※上巻書影無し

フレナーダ民権国とココン協治国との戦いは十六年目に突入していた。当初優位に戦いを進めていたフレナーダであったが、広範な島嶼部に散らばるココン人たちのゲリラ戦術に手を焼き、いつしか戦線は停滞。厭戦ムードが高まる国内事情を打開すべく、フレナーダは艦隊病院団を新設するという奇策に打って出る。かくして就役した強救戦艦メデューシンとその乗組員たちは幾多もの困難に直面していく。
上巻が2002年、下巻が2003年に刊行。小川一水お得意の架空世界モノ。全六章構成で、各編だけを取ってみてもいちおう読める体裁になっている。
国民の士気を鼓舞するため、なんて美名の元に建造された強救戦艦メデューシン。この空飛ぶ戦艦は医療部隊を満載していて、どんな最前線でもたちどころに訪れて、瞬く間に傷病兵を治してしまう。しかも載せているのは美人のナースばっかり。とはいえ、当然そんなのは絵に描いた餅みたいな話で、実際の現場では極度の医師不足で、ヒロインたちナースの皆さんが見よう見まねで診察してオペまでこなさなくてはならないという酷い状態になっている。
最前線を転戦させられ、挙げ句の果てに友軍の弾よけにされてしまい、文句を言ったら更なる激戦地へ飛ばされちゃう。さすがに切れたヒロインたちが、この状況をなんとかしなきゃ!といろいろ頑張るお話。絶望的な状況で孤軍奮闘する頑張る女の子の物語としては程ほどの出来。ヒロインが優等生過ぎるところが個人的には頂けない。
装甲車を乗り回し、医師のまねごとをするばかりか、病原菌の研究特定、治療法の発見までこなしてしまうのはいくらなんでもスーパーウーマンに過ぎるんじゃないかと。まあ、格好の良さ優先ってことらしい。あとがきで作者も言い訳してるし。明確な敵が最後までハッキリしないので、なんだかもやもやしたものを相手に孤軍奮闘している感じがもどかしくもあり、それで良かったような気もする。さすがに一国の政府相手に、年端もいかない女の子達が対等に戦っちゃうのは不自然だと判断したのかね。[2007/04]
密室の鍵貸します [東川篤哉] ★★★ 光文社 カッパノベルズ (\800) [Amazon]

烏賊川市立大学映画学科の四年生戸川流平は人生始まって以来の窮地に立たされる。別れたばかりの彼女が殺害され有力な容疑者として流平の名前が挙がる。しかしその犯行当時、流平は完全密室の中で大学の先輩の死体を発見していたのだ。動転のあまり現場を逃げ出してしまった流平に警察の追っ手が迫る。果たして真相は如何に??
2002年刊行。「光文社のメフィスト賞」的な存在の「カッパワン登龍門」枠からの初選出作品。石持浅海と同期なのねこの人。短編のキャリアは1996年からあって、本作が最初の長編作品となっている。
なにせ密室モノだから紛れもない本格ミステリなんだけど、カッパノベルズはこういうのが好きなのか、重厚感や古色蒼然たる本格の雰囲気は皆無。ユーモアペーソス溢れるライトなテイストとなっている。比較的一般読者の多い(ような気がする)、カッパノベルズ読者のせいなのだろうか。講談社だとあんまりこういうの無いよな。石崎とか蘇部くらい?
お間抜けな主人公に、間抜けな探偵役、饒舌な警部に、元ヤンキーの部下刑事。類型的だけどキャラの書き分け頑張ってますっていう作者の"配慮"が透けて見えてしまう当たりは新人故ってところか。しかし、トリックはともかくとして、あの犯人(その1の方)はあんまりなんじゃないかと。こういう立ち位置の人を犯人にしちゃうのは反則なのでは?意外云々以前に拍子抜けした。そりゃないだろうと思うなあ。バカミスなんだけど、端々までしっかり考えて作ってあるところは好感。また見つけたら読んでみよう。[2007/04]
刀語 第四話 薄刀・針 [西尾維新] ★★★ 講談社 講談社BOX (\1,100) [Amazon]

鑢七花ととがめの"刀"集めは四本目に突入。決戦の場は巌流島。薄刀・針を操るのは日本最強を謳われる墜剣士・錆白兵。幕府奇策士であったとがめを裏切り、公然と公儀に対して反旗を翻したこの男の真意は何処にあるのか?かつてない強敵の登場に奮い立つ七花。果たして"日本最強"相手に虚刀流の奥義は通用するのか!?
2007年刊行。十二ヶ月連続。月イチ刊行の四冊目。
そろそろマンネリ打破ってことで、いきなりもの凄い妙手を繰り出して来た。まるまるねーちゃんの話かよ。日本最強とか呼ばれていた錆白兵の立場もどうかと思うが、ねーちゃんの強さアピールのためだけに登場して、それぞれ瞬殺されたまにわに虫組の皆さんがホントに可哀想。ま、こいつらコスチュームからしてダメダメ感が漂うトホホ振りだったから、仕方ないか。
とはいえ、これで邪魔モノでしかなかったまにわにの連中を三人も片付けることが出来たから、今までに描けなかった過去の因縁話や、物語の幅を広げられるような枝エピソードを盛り込む余力が出来てくるのではないかと期待したい。もっとも、このまま進むとラスボスは普通にねーちゃんで決まりってことになってしまいそうだけど……。[2007/04] ⇒次巻

再び春がやってくる。かつて巧と豪を完膚無きまでに叩きのめした、強豪横手二中との再戦の日が近づく。唯我独尊を貫く巧。そしてその突出した才能を危ぶむ海音寺。ある決意を固めた豪。横手の天才スラッガー門脇は再戦にかつてない執念を燃やし、その気持ちの強さに戸惑う瑞垣。そして遂に試合の日がやってくる……。
2007年刊行。シリーズ六作目。最終巻。教育画劇より2005年に刊行されていた単行本 [Amazon] の文庫版。児童文学のレーベルから出て、角川で文庫化。累計800万部超らしい。更にコミック版も出て、ついには映画化まで達成。いまや売れっ子作家の仲間入りだから驚きである。とはいえ、作品のクオリティの高さを考えれば確かにこれだけ売れたのも納得。世に出るべくして出てきた作品だと思う。最初から六冊を一気に出さずに、半年、一年と間隔を空けて出していったのも戦略として成功だった。
スタート時に小学生だった巧たちも四月からは中学二年に。子供が成長するのは早い(年寄り目線)。このペースじゃ絶対に最後まで試合終わらないだろう、って思っていたら案の定。ま、この話、試合を書くつもりはハナから無いのは判っていたけど、それでも門脇との勝負は最後までみたかった。書かないのが粋と判っていてもね。
春に始まり春に終わる。去年も今年も桜は咲いているけれど、同じ桜は一つとしてない。かつて一人で走っていた巧の傍らには豪がいて、仲間たちが居る。あまりに卓越した才能は、友人たちが併走し続けることを長くは許さないかもしれないけれども、それでも今は共に走ろうとする。少年たち(そして大人たちも)の成長物語を、綺麗事にせず描ききった筆力は素晴らしい。
でもこれで終わりかと思ったら続編の『ラスト・イニング』 [Amazon] が出ているらしい。しかも瑞垣視点!うーん、なんだか粘着質な語りになりそうでちょっと引き気味だけど、いずれ読んでみるつもり。綺麗に終わっている話だから、あまり続編商売で儲けるのは辞めて欲しいけどなあ。[2007/04]
マリア様がみてる あなたを探しに
[今野緒雪] ★★★ 集英社 コバルト文庫 (\419) [Amazon]

恒例となった「次期薔薇さまのお宝探し大会」は遂に終了。志摩子の白いカードはとうとう未発見のまま終わり不在者チャンス扱いに。由乃の黄色いカードはまたしても宿敵田沼ちさとの手に。そして祐巳の赤いカードを手にするのは"姉"の祥子なのか、はたまた終了間際に飛び込んできた"妹"候補瞳子なのか。赤薔薇スール問題遂に決着!
2007年刊行。マリみて24作目。
ようやくにして祐巳のスール問題が解決。長かった。長かったよホントに。末期「ドラゴンボール」か「北斗の拳」並の引っ張りようだった。正直もはやどうでもいい感じ。もう二月も半ば。あっという間に祥子たちが卒業してしまうではないか。次からは薔薇さま卒業編かな。もっとも去年の薔薇さまたちに較べると泣き要素が少なくてイマイチ感興が湧かない。二人とも進路決まってるしなあ。
この先、果たして祐巳たちの三年生編があるのかどうかが気がかり。ブームが一段落付いたとはいえ、ドル箱シリーズだろうから、集英社的には切りたく無いだろうけど。最上級生になった祐巳たちも見てみたい気はするけど。この手の学園モノって、結局主人公が一年の時が一番面白いんだよなあ。 [2007/04] ⇒次巻

「格差社会」この言葉が人口に膾炙するようになって久しい。バブル崩壊から90年代の停滞期にかけて、この国ではいったいどのような事態が進行していたのか。構造改革のもたらしたもの。機能しない所得分配システム。機会の不平等。格差が拡大していく社会。果たして有効な処方箋はあるのか。経済学の第一人者が示す現状と打開策。
2006年刊行。筆者は京大大学院の教授。2005年度の日本経済学会の会長。1998年に格差社会論の嚆矢とも呼べる『日本の経済格差』 [Amazon] を上梓している。格差社会系の著作多し。
他と比べるのもどうかと思うけど、印象批判に終始し、そもそも文章の書き方からしてなってない三浦展の『下流社会』なんぞに較べるとナンボかマシな格差社会概論。入門書として入るには宜しいんじゃないかと。非常に判りやすい。その分、この手の本を何冊か読んできた人間にとっては少々物足りないかもしれないが。
先進国の中で、富の再分配システムがこれほどまでに機能していないのは日本と米国くらいなのだそうだ。高所得者にひたすら有利に改訂されてきた相続税と所得税の優遇措置にはひたすら萎える。でも、結局再分配がうまくいっている北欧諸国はどうしてるかっていうと、税金がものすごく高いんだな。現状をどうやって打開するのかとなると、つまるところ対策は税金を上げるしかないという話になる。累進度が下がる一方の所得税負担はいい加減元に戻すべきだと思うけど、いまの政府がそんな政策を断行できるとは思えない。やっぱり近い将来の消費税率アップは確実だろうなあ。[2007/04]
ブルースカイ [桜庭一樹] ★★★ 早川書房 ハヤカワ文庫 (\680) [Amazon]

1627年ドイツ。レンスの街では凶作が続き疫病が蔓延する。人心は荒廃し、やがて魔女狩りの嵐が吹き荒れていく。少女マリーはある日<アンチ・キリスト>に出会う。2022年シンガポール。そこでは男性の能動性が失われ、女性優位の社会が築かれていた。CGグラフィッカーのディッキーは奇妙な"少女"に出会う。そして2007年鹿児島。この地で物語の始まりと終わりが提示される。
2005年刊行。文庫書き下ろし。現代文明を席巻している「少女」というクリーチャーについての考察。
残念ながらこれはどう考えても構成ミスだろう。構想倒れというか、バランス間違えちゃたか、途中で力尽きちゃったか。全体の半分が第一部ってあたりからして、計算間違えてる。マリーちゃんの魔女狩り話を書くのに夢中になりすぎて、肝心要の第三部が全体の1/4しかない。 物語構造の謎も投げっぱなしで未回収だし、将来的には無かったことにされそうな作品だね。[2007/04]
世界でいちばん醜い子供
[浦賀和宏] ★★★ 講談社 講談社ノベルズ (\860) [Amazon]

八木剛士と絶交した松浦純菜だったが、次第にその存在の大きさに気付かされ虚しい日々を送っていた。鬱屈した生活を続けていた彼女の元へ驚くべき内容の手紙が届けられる。平穏な人生を奪った、忌まわしき轢き逃げ事件の犯人の手がかりが得られる!?復讐を誓い意気あがる純菜であったが、事態は思わぬ展開を遂げていく……。
2007年刊行。不死身の男八木剛士シリーズの六作目。四作目『八木剛士 史上最大の事件』における謎の金髪美少女の登場で、ヒロイン純菜と八木クンの関係は危機を迎えてしまう。前巻の五作目『さよなら純菜、そして不死の怪物』では、純菜を失い自暴自棄に陥る八木剛士側の暗黒面をあますところなく描写。うってかわって本作では純菜サイドの内面のもやもやを描写してみましたよという趣向。
こうして純菜の一人称語りに切り替わってみると、けっこうこの子も年相応にアホなので、これまでの神秘的がイメージはかなりいい意味で裏切られる。ま、それにしてもアホ過ぎると思うけど。いちおうシリーズ序盤から引っ張っていた純菜轢き逃げ事件の謎がついに明らかになるわけだが、あまりにもショボイオチでショック。わざわざ一巻使って盛り上げるようなレベルの話じゃなかったような。
八木クンの格好の良さに嫉妬。しかし純菜の特殊機能は笑うべき所?このお話どうやって決着付けるつもりなのかなあ。[2007/04] ⇒次巻
|