2007年5月

書籍名
作家名
出版社
価格
コメント
お薦め度
戦う司書と荒縄の姫君 山形石雄 集英社 \619
大規模攻防戦。
★★★☆

信長軍の司令官

谷口克広 中央公論新社 \780
楽しいなあ。
★★★☆

刀語 第五話 賊刀・鎧

西尾維新 講談社 \1,100
そろそろ頑張らないと。
★★★

京都人は変わらない

村田吉弘 光文社 \680
京都すごい。
★★★
天帝のはしたなき果実 古野まほろ 講談社 \1,600
ホントにはしたない主人公。
★★★★

J・S・バッハ

礒山雅 講談社 \720

バッハは素晴らしい〜♪ありきなので、その前提でよろしく。

★★★

楽園ヴァイオリン

友桐夏 集英社 \514
誰か他の作品との関係をまとめてくれ。
★★★
図書館危機 有川浩 メディア
ワークス
\1,600
茨城県が大変なことに。
★★★☆

朝日のようにさわやかに

恩田陸 新潮社 \1,400
いろいろ読めてオトクではある。
★★★

天使のベースボール2

野村美月 エンター
ブレイン
\640
太宰君それはちょっと。
★★☆

ハンニバルライジング 上

トマス・ハリス 新潮社 \514
あーあ、やっちゃった。
★★☆

ハンニバルライジング 下

\514

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戦う司書と荒縄の姫君
[山形石雄] ★★★☆ 集英社 スーパーダッシュ文庫 (\619) [Amazon]

戦う司書と荒縄の姫君

武装司書たちの活躍で神溺教団は壊滅寸前に追い込まれていた。筈、だった。大国イスモ共和国はにわかにバントーラ図書館に対して戦線を布告。圧倒的な物量をもって侵攻を開始する。それは神溺教団の陰謀なのか。全ての武装司書たちが結集し決死の攻防戦が始まる。憎悪をたぎらせて前線へ殺到するイスモ国軍。その理由とはいったい?

2007年刊行。シリーズ六作目。前半(らしい)の総まとめとも言うべき一大決戦エピソード。世界中を敵に回しての総力戦が燃える。世界中の軍隊VS武装司書の皆さんたちのド派手バトルの数々は見所十分。ちょい役なのに美形な司書兄妹とか、クジラ使いのデブとか、いきなり出てきたわりにはキャラ立ちすぎ。ホントは一巻使って話作りたかったんだろうなあ。このバトルシーンはなんだか映像で見てみたくなってきた。そこそこ人気もあるみたいだし、アニメ化してもいいんじゃね?コーエイに「武装司書無双」を作ってもらってもいい!

前から思っていたけど、この作家の思いきりの良さに感服。いや、ホントに素晴らしい。自キャラに溺れがちな作家が多い中でこの判断は立派。死なすべきキャラクターを適切な時点で、きちんと死なせることが出来るのは才能だと思うよ。しかしこのシリーズ、表紙を飾るキャラの死亡率が極めて高いことであることが改めて実証されたな(笑)。お亡くなりになった武装司書の皆さんに合掌。

ラスト。楽園管理者のアレでナニな展開はビックリ。これで終盤なのかと思っていたら、どうやらもうしばらく続くらしい。バンドラーさんとかそっち系の因縁話の方向に進むのかな。毎回毎回死に損なっているハミュッツさんのお話がそろそろ読みたいところだけど、急に注目されだしたら死亡フラグ確実なので、しばらくは無理だろうか。六冊買ってここまでハズレ無し。当面は買い続ける予定。

最後にツッコミ。しかしながら、ミレポックちゃんの「思考共有」が無かったら、いくら武装司書とはいえ速攻で負けていたような気が……。[2007/05] ⇒次巻

信長軍の司令官 [谷口克広] ★★★☆ 中央公論新社 中公新書 (\780) [Amazon]

信長軍の司令官―部将たちの出世競争

数々の戦いを繰り広げてきた織田信長とその家臣団。甲斐の武田。越後の上杉。西の毛利。そして頑強な抵抗を続ける本願寺を初めとした宗教勢力軍。信長はこれら四方の敵に対し、優秀な家臣を抜擢し方面軍を与え各個に対処させる策を取った。苛烈な競争社会を勝ち抜き「信長軍の司令官」となった武将とはどのような人物だったのか。信長軍の拡大と変容の経緯を辿る。

2005年刊行。筆者は1943年生まれの戦国史研究家。戦国ヲタは読んでおけという一冊。面白いぞ。尾張の小大名時代から、京都上洛時、伊勢攻め、浅倉浅井戦、本願寺攻め、そして本能寺直前まで。驚くほどのスピードで巨大化した信長軍の変遷にスポットを当てる

信長配下の有力指揮官といえば、柴田勝家、明智光秀、羽柴秀吉、滝川一益なんてあたりがパッと出てくる。彼らは織田家の中では出世の頂点を極めた連中だけど、当然勝ち組がいれば負け組が存在する。柴田勝家に次ぐナンバー2だったのに、本願寺を攻め落とせなくてクビになった佐久間信盛。信長の若い頃から家老だったのに戦では用いられず、挙げ句に追放されてしまう林通勝。織田家が小さい頃は武功をあげていたけど、組織が大きくなるにつれて器の小ささを露呈してしまい中堅幹部で出世が止まってしまった丹羽長秀。信長のドラスティックなまでの能力主義に驚かされる。

マイナーどころでは、軍団司令官として出世コースに乗っていたのに本願寺攻めで討ち死にしてしまう塙直政(しかも死後は所領没収)。馬廻りの地位から大抜擢され加賀半国をまかされたものの、チャンスを生かせず更迭される梁田広正。戦国時代好きとしてはこういう地味なエピソードを知ることが出来るのは嬉しい。しかしいくらチャンスとはいえ、一揆王国加賀に単身残された梁田広正ってのは本当に可哀想。結局、加賀は柴田勝家が五年かけてやっと平定出来たくらいの難治の地なんだから。こうして人知れず消えていった武将がこの時代星の数ほど存在していたのだろう。

巻末には織田家武将リスト付き。これをwikipediaで検索しているだけで一晩楽しめる。久々に「信長の野望」をプレイしたくなってきたぞ(「天下統一II」でも可)。[2007/05]

刀語 第五話 賊刀・鎧 [西尾維新] ★★★ 講談社 講談社BOX (\1,100) [Amazon]

刀語 第五話 賊刀・鎧(ゾクトウ・ヨロイ)

日本最強の錆白兵の挑戦を退け、無事に薄刀・針を手中に収めたとがめと七花。余勢を駆って五本目の変体刀を求めた二人は、九州薩摩の地へと足を踏み入れる。目指すは賊刀・鎧。最強無比の防御力を誇るこの刀を所持するのは鎧海賊団船長・校倉必。あらゆる攻撃を跳ね返す「鎧」に対して、七花はいかにして勝負を挑むのか。

2007年刊行。十二ヶ月連続の大河小説。シリーズ五作目。

えーと、ひょっとして刀語のシリーズって実はラブコメ??バカップルのラブラブ漫遊記を読むのは正直勘弁なのだけど。この作品は女性キャラが少ないせいもあって、全ての萌えギミックがとがめに集中している。混浴してみたり、足踏みマッサージでふみふみされたり、「ちぇりお!」で悶絶してみたりと盛りだくさん。いくらなんでも程度ってものがあるだろ。あざとすぎる。とがめがストライクゾーンに入らないとシンドイねえ。

序盤にちょこっと新キャラ否定姫が登場。毎月一冊。300枚という制約があるので、なかなか新キャラは出しにくいのだろうけど、そろそろレギュラークラスの女性キャラが欲しいところ。正直いまのままだと価格分の魅力は無いよこの話。[2007/05] ⇒次巻

京都人は変わらない [村田吉弘] ★★★ 光文社 光文社新書 (\680) [Amazon]

京都人は変わらない

お茶漬けを出されたら帰らなくてはならない。閉鎖的で外来者に対して心を開かない。言動にウラオモテがある。とかく色眼鏡で見られがちな京都人だが、それは果たしてどこまでが本当で、どこまでが嘘なのか。京都人にして日本料理界きっての論客である筆者が解き明かす京都人の流儀と作法。その考え方の根底にあるものとは……。

2002年刊行。筆者は1956年生まれ。京都の料亭菊乃井の三代目主人。メディアには良く出ている人らしい。有名人……、なのだと思う。地上波は最近あまり見ないのでよくわからん。料理の「鉄人」に(挑戦する方でなく)と請われたくらいだからそれなりの人なのだろう。京都生まれ、京都育ちの筆者が説く京都人論。

半分くらいは京都の話というよりは料理屋の話で、自分一代でなく、子々孫々にまで商売を続けていくことの大事さを説く。定住して長いこと同じ所で商売をし続けているからこそ出てくる発想だと思う。長大な流れの中の自分という相対化が生まれながらにして出来ている感じ。しかしこれは老舗の客商売をやっている家に生まれた人間だから言えることであって、普通の現代京都人にも当てはまるのかは疑問。その辺、普通の人の意見も聞いてみたいな。[2007/05]

天帝のはしたなき果実
[古野まほろ] ★★★★ 講談社 講談社ノベルズ (\1,600) [Amazon]

天帝のはしたなき果実

頸草館高校二年の古野まほろは吹奏楽部所属。冬のアンサンブル・コンテストに出場すべく仲間たちと共に金管八重奏曲「天帝のはしたなき果実」の練習に余念がない。学園には戦前から伝えられた数々の焦臭い噂が残されており、まほろたちもいつしかその亡霊の陰に脅かされていく。そして遂に最初の殺人が!頸草館高校に隠された驚くべき秘密とはいったい?

2007年刊行。第35回メフィスト賞受賞作。故人となった新本格の父宇山日出臣が最後に推した一冊がこれ。金帯に宇山日出臣の「薦」付きとは歴代メフィスト作家の中でもかなり優遇されている方だろう。確かにこれは愛すべき地雷。もの凄い厨房小説だった。とりあえず知ってる限りの衒学趣味を、力の限りつぎ込みましたという壮大なゴテゴテ装飾の大伽藍。全817頁中、半分くらいはたぶんいらない(笑)。

この話いきなりメインキャラ八人の合奏(tutti)シーンから始まる。音楽モノだから、最初にtuttiから始めたいのは判らないでもないのだけど、正直書き方が下手なので最初は誰が誰だか判らない。なにしろ八人登場して、それぞれがそれぞれの関係性で違う呼び名で呼ばれる(名字で呼んだりあだ名で呼んだり)ものだから読み手の頭は混乱するばかり。

ってことで、これから本書を読むあなたのためにメインキャラクター紹介をば。これを頭に入れておけば多少は冒頭のシーンが読みやすくなる筈。ちなみに最後の「」は楽器の愛称だ(笑)。

古野まほろ/ホルン 1st/主人公。「流星丸」
穴井戸栄子/ホルン 2nd/姉御系。ガノタ。
上之巣由香里/ホルン 3rd/唯一の下級生。歌わせると天才(Sop)
峰葉詩織/トランペット 1st/いちおうヒロイン。ツンデレ。「カーリー」
修野まり/トランペット 2nd/公爵令嬢。「朝顔」
切間玄/トロンボーン 1st/ブランド好き。「MS-06R-2」
志度一馬/トロンボーン 2nd/乙女
柏木/チューバ/吹奏楽部部長。主人公ラブ。「ラムセス」
奥平/生徒会長で伯爵令息
瀬尾/吹奏楽部顧問@堕天使w

この作品、いろいろぶっ飛んでいるのだけど、まず何が凄いって、まず全編に溢れる病的なまでのルビルビルビ。その中のいくつかを紹介。

臨機延長⇒フェルマータ 白風浅蜊⇒ボンゴレビアンコ
易利薩伯⇒エリザベス 自転車⇒ファールラート
矮小⇒トリビアル 不沈客船⇒タイタニック
露茶沸器⇒サモヴァール 無間地獄⇒タルタロス
普門館⇒ぜんこく 御伽噺の王子様⇒モン・ブランス・シャルマン

万事がこんな感じなので、編集者と校正者は気が狂いそうになったに違いない。最初のうちは読んでいて苛々するけど、そのうち脳内でスルー出来るようになるので頑張って読み進めるように。

戦争には負けたけど、何故か大日本帝国は存続しているパラレルな世界設定。華族制度や軍隊も存続。それでいて、今の日本にあるようなオタク文化はちゃっかり併存している。舞台は城下町姫山(姫路みたいなものか?)。県庁所在地ではないけど、県第二の都市って程度の規模の街。元藩校で地域一番校頸草館高校(会津高校とか、修猷館みたいなイメージ?)が物語の舞台。

出てくる連中はどいつもこいつも異常な程にハイスペック。美人美男揃いで語学堪能。どうでもいい雑学にも異常なほどに精通。部室で使ってる食器はウェッジウッドだし、ゼニアやサンローランを日常着に使用。普通に登場人物たちは、ガンダムネタや銀英伝ネタで会話するので一部のオタ読者は大喜び(オレだオレ)。公爵様の書庫には「ネクロノミコン」も置いてあるし、彼女の家に泊まった帰りには和歌を詠み合う後朝ごっこ付きだ。なかなかここまで痛い設定は作れない。この話に音楽部活モノの側面がなかったら途中で挫折していたかもしれない。

で、実はこの話、吹奏楽部の話なんですな。異常なまでの装飾物でゴチャゴチャしているけど、簡単にまとめると、本筋は金管八重奏曲「天帝のはしたなき果実」で全国大会を目指す吹奏楽部員たちの物語。ちなみに去年はダメ金で全国は行けなかったらしい。そんなジャンルがあるのかはなんとも言えないけど、けっこう本作は音楽部活モノとしてなかなか秀逸なのだ。曲の出来ていく過程とか、合わなくてダメダメな状態とか、なにかの瞬間に神が降りて来ちゃう一瞬とか、経験者的に前のめりに頷きたくなるシーンが多数。本番直前のテンションが高揚していく時期の描写はちょっと泣けた。でも思いあまって「勝ちて帰れ@アイーダ」を歌っちゃう由香里ちゃんは痛すぎだけどね。

というわけで、いろいろ痛い部分はあるにせよ青春小説としてはアリ。問題はミステリとしての部分。以下本編のネタバレに進むので、本気でこの話を読んでみたい人は要注意。それから『虚無への供物』 [Amazon] を読んでない人もちょっとだけネタバレしちゃうから気を付けて欲しい。

首無し死体に、ギミックたっぷりの校内施設。徘徊する殺人ピエロ。日本軍の隠したロマノフ王朝の遺産。そして十数年前にも起きていた首無し殺人。ホントにもうケレン味大杉でお腹一杯という感じ。第三の供物(死体)が発生するのはコンクール本選の真っ最中。神レベルの演奏が出来てしまった主人公達は、コンクールを台無しにしたく無いがために警察への通報を拒否。死体を前にして各自を告発しあうという不毛な推理合戦モードに突入する。ありえない!とは一瞬思ったけどインスパイアード・バイ『虚無への供物』ってことならこれもアリなのか。現実性よりもミステリとして、オマージュとしての体裁を優先させたということ。

そして唖然呆然の驚愕の最終章。ラスボスの予想はついていたけど、ここでいきなりスーパーナチュラルな展開に移行するのはいくらなんでもはっちゃけ過ぎなんじゃないかと。予想の斜め上を行きすぎて、もはや笑うしか無い状態。なんと最終章は伝奇小説だった。ラスボスの人はあらゆる意味で素敵過ぎるので、あの結末は惜しい。しかし主人公があの人物を死なせた理由がわからない。ラスボスを庇うため?どう考えてもこいつは最低の男なんじゃなかろうか?全キャラにモテモテな部分も含めてこいつだけは好きになれなかった。

ミステリとライトノベルの不気味な混淆作品としては希有な仕上がり。バカミス成分も含有。あれもこれもと作者の私的愛玩物を際限なく放り込んで錬成したら、こんな化け物が出来ちゃいましたというお話。読み手は選ぶ作品であることは間違いない。まさにメフィスト賞向き。一部の人には思いっきり刺さると思う。[2007/05] ⇒次巻

ついでに…… 
『ブラバン』@津原泰水 <<まともな吹奏楽部小説ならこちらで。但しR35指定。

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J・S・バッハ [礒山雅] ★★★ 講談社 講談社現代新書 (\720) [Amazon]

J・S・バッハ

名前は誰もが知っていながら、ヨハン・セバスチャン・バッハは意外に聞かれていない。取っつきにくい。親しみやすさに欠ける。曲が多すぎてどれから聞いて良いか判らない。しかし果たしてそれは本当なのか?日本におけるバッハ研究の泰斗である筆者が、明解な言葉で判りやすく解き明かすバッハ入門の書。

日本でバッハ研究者といえばまずは礒山雅の名前が出てくる。1946年生まれで東大文学部卒。現在は国立音大の教授。編纂に携わった『バッハ辞典』 [Amazon] は素晴らしいクオリティでバッハ好きたるもの必携の一冊だったりする。その割りには入門書である本書を今の今まで買わなかったのはひとえに自らの手抜きを恥じ入るばかり。申し訳ない。いつでも古本で買えると思って買わずにいたのだった。

1990年刊行で、現在二十五刷。二十年近く前の著作なのでどうしても古さは感じてしまう。写真のアーノンクールが若い!昨今のバッハ事情から始めて、バッハ一族について、その経済観念、日々の生活、信仰について、楽譜に込められた数と象徴、演奏論、そして最後に聞いておくべき20曲、と比較的とりとめのない構成になっている。盛りだくさんというよりは、出来る限りいろいろ詰め込んでみましたという結果なのかもしれない。

200ページ少々しかないから仕方無いけど、それぞれの記事が短めで食い足りない感は強い。編年体で、生まれてから死ぬまでのバイオグラフィーを簡単でもいいから書いておいて欲しかった。あと年表も欲しい。最後の名曲紹介も少なすぎた。

余談ながら、名指しの上に写真まで出されて晒されて酷評されてるミュンヒンガーは可哀想。礒山センセ的には古学的なアプローチは是としながらも、それでもリヒター様には適わないというお考えの模様。自分的にも古楽スタイルの演奏は大好きだけど、リヒターは確かに別格かなと思う。[2007/05]

楽園ヴァイオリン [友桐夏] ★★★ 集英社 コバルト文庫 (\514) [Amazon]

楽園ヴァイオリン―クラシックノート

天才ヴァイオリン少女として名を馳せていた盟は、とある人物の薦めにより「特別な塾」の入塾試験を受ける決意をする。音楽枠は僅かに二名。彼女は試験会場で巴という少女に出会う。彼女のヴァイオリンはとても褒められたものではなかった。しかし、合格を決めた盟は「塾」で巴に再会する。あの出来で?何故?そこには何者かの意志が介在しているのか……。

2007年刊行。友桐夏の四作目。コバルトとしてはマイナーな作家の部類なので、いついなくなることかと少々心配していたけど、無事に新作が出てくれてホッとした。第一楽章は雑誌「コバルト」の掲載作品に加筆修正したもの。残り三話は書き下ろし。『白い花の舞い散る時間』『盤上の四重奏』に連なる系譜の作品。

しかし今回も地味なお話だ。いちおう連作短編形式っぽいスタイルで、各エピソードごとに提示された謎をヒロインの盟とその仲間(敵かもしれないけど)たちが解き明かしていく展開を取る。プライドが高くて、本人的には頭がいいつもりでいるわりに、実はけっこうマヌケな主人公がちょっと素敵。でも、そのマヌケさをあえて萌え萌えと描かない姿勢は正解。

終盤は既存シリーズと絡めたミステリアスな展開で、この作品だけ単独で読んでいるとわけがわからないかも。終わり方もぼやけた感じで消化不良。単品としての出来はイマイチなので、作家としてのブレイクを願うファンとしては微妙な一作。そろそろ、コバルト以外の出版社からの作品が出ても良い頃合いだろうと信じたい。鼻が利く出版社は絶対声かけてると思う。本人的には不本意な喩えだろうが、「きちんと終われる恩田陸」という評判はけっこう合ってるかも。学園モノ限定ではあるが。寡作のせいもあるけど、一定水準はいつも保っている。[2007/05]

図書館危機 [有川浩] ★★★☆ メディアワークス (\1,600) [Amazon]

図書館危機

メディア良化法に対抗すべく組織された図書隊は、今日も「狩られる本」を守り続けている。抜群の身体能力を評価され女子として初めての特殊部隊入りを果たした笠原郁も、在籍二年目に突入。憧れの王子様の正体を知らされ動揺、昇任試験で思わぬ才能を発揮、そして特殊部隊入りを両親に告白できず苦悩したりと悪戦苦闘の日々は続く。里帰りとなった茨城県展警備は過酷な任務となるのだが……。

2007年刊行。シリーズ三作目。いまが旬の有川浩。あいかわらず筆が早い。前巻は王子様の正体バレで終了。地獄の引き(温帯用語)でいざ続巻へ。ラブコメ成分はさらにアップしていて、バカップルへの道を歩み始めたヒロインと堂上教官。古典的な純愛路線の王道を突き進んでいる。エリート手塚と、才色兼備柴崎の仲も微妙に進展中。けっこうあっさり折れちゃうのね>>柴崎。

今回の出版問題ネタは言葉狩り。短い頁数で頑張ってるとは思うけど、なんだか上手くいきすぎる展開で、出来すぎた話になりすぎているのが懸案点。過剰な自主規制による無駄な言葉狩りは実際問題かなり酷い状態になっているので、こうしたエンタメ系の小説で問題提起してくこと事態は良いことだと思うけどね。

前巻が地味でドロドロな内輪の内紛ネタだったのとうってかわって、今回はラストに派手なドンパチ有り。見せ場も十分あって、上手く書けているけど、なんだかそれが欠点に思えてしまうのが難点。茨城県図書隊のダメダメ加減に郁が喝を入れる話とか、玄田と折口の話とか、読み手がそうなって欲しいと思う展開を完璧なタイミングで用意してくれるんだけど、あまりに手際が良すぎて物足りない。意外性に欠けるのが疵ってのは、欲張りすぎかしらん。

余談ながらヒロインは水戸第一高校出身だった(笑)。恩田陸の後輩なんですね。意外にも頭良かったのか。[2007/05] ⇒次巻

朝日のようにさわやかに [恩田陸] ★★★ 新潮社 (\1,400) [Amazon]

朝日のようにさわやかに

湿原の学園に訪れたとある怪事件"笑いカワセミ"の謎を巡る一幕「水晶の夜、翡翠の朝」。ビルの入り口に置かれた雛人形、それに隠された秘密とは「あなたと夜と音楽と」。駅の売店の老人から託された恐るべき真実「冷凍みかん」。薄暗い四畳半に立てこもった五人の少女。彼女たちの運命は「卒業」。他計14編を収録した短編集。

2007年刊行。『図書室の海』に続く恩田陸の第二短編集。これが何冊目の作品なのかは、もはやファンですらすぐには判らない。今年に到ってはほぼ毎月なにかしら作品が出ている状態だったりして。こんなに作品が出るとは、10年前には想像も出来なかったよ。数出過ぎ。

本書は各誌に発表された短編作品14編を一冊にまとめて上梓したもの。自分の場合既読は1/3くらい。短編集は必ず新潮社から出す、ってルールでもあるのだろうか。収録作品の初出を見る限りでは別に新潮社に偏っているわけじゃないんだけど。学園モノからホラー、ミステリ、ショートショート、児童向け作品まで幅広いジャンルの作品を収録している。しかし、この本から恩田陸に入ってくれとはちょっとお願いしにくい。正直なところ短編ではまだ恩田陸の本領は発揮し切れてないと思う。その短編でやってみたかった「スタイル」を提示するに留まってしまい、恩田陸独自の個性が出せていない。それぞれの作品の質は決して低くないと思うのだけど。

以下各編ごとに短評……。

「水晶の夜、翡翠の朝」、2002年作品。角川スニーカー文庫『殺人鬼の放課後』収録。『麦の海に沈む果実』の外伝的作品。ヨハンファンは必読だろう。麦海系はもっとお話の裾野を広げて欲しいのでこうした短編での取り組みは大歓迎。

「ご案内」、読売新聞2006年4月8日夕刊掲載。珍しいショートショート作品。読売掲載時の町田久美の日本画もどうせなら見たかったな。

「あなたと夜と音楽と」、2001年作品。『「ABC」殺人事件』収録。会話文のみで構成された作品。さすがに細かな部分の描写は難しくて()文でト書きを入れて補っているあたりに苦労がしのばれる。

「冷凍みかん」、1999年作品。異形コレクション『GOD』 [Amazon] 収録。星新一的なブラックさと往年の日本エスエフっぽい香り。バカバカしい話ながらも、収録作品中これが一番好きだ。

「赤い毬」、2005年作品。紀伊国屋書店の季刊誌「i feel」収録。不思議な建築物ネタは『禁じられた楽園』『エンドゲーム』でもあったね。恩田陸的に好きな話なのかもしれない。凄みを漂わせる不思議空間を瞬時に構築出来る力はさすが。

「深夜の食欲」、1999年作品。異形コレクション『グランドホテル』 [Amazon] 収録。宮沢賢治の「注文の多い料理店」 [Amazon] を換骨奪胎したようなお話。「ヘイスティングス」のネーミングセンスがナイスである。

「いいわけ」、2004年作品。「小説現代」2004年8月号収録。元ネタはカミュの『異邦人』 [Amazon] 。これもショートショート作品。

「一千一秒殺人事件」、2004年作品。『怪談集 花月夜綺譚』 [Amazon] 収録。稲垣足歩風ジャパネスクホラー。本人もあとがきで反省しているけど、失速パターンの恩田陸。このオチはいかがなものかと。

「おはなしのつづき」、2005年作品。「飛ぶ教室」第二号収録。初めての児童文学として執筆された作品。全体的な長さの制約もあってか、当初の狙いは果たせていない気がする。

「邂逅について」、2004年作品。中井英夫へのオマージュ本『凶鳥の黒影』 [Amazon] 収録。一枚の絵から引き出された幻想について。絵を見てから何十年も経つのにこれだけ書けるんだから、そうとう吸引力のある絵だったろう。

「淋しいお城」、2006年作品。「小説現代」2006年4月号収録。いつになったら出るのか判らない講談社「ミステリーランド」作品の予告編的なお話らしい。ロアルト・ダール的な意地悪さと不条理感の詰まった一編。

「楽園を終われて」、2006年作品。「yomyom」2006年Vol.1収録。登場人物たちに近い年代なので少々身につまされる内容の作品。ワカモノ読者は、オジサンオバサンになってからもう一回読んでみような。

「卒業」、2006年作品。電子書籍サイト「Timebook Town」2006年7月7日配信。20枚でスプラッタホラーを描くとこうなるという見本。これ、ちゃんと一本長編で書いてくれないかな。

「朝日のようにさわやかに」、2006年作品。サントリーの情報誌「サントリークォータリー」2006年Winter収録。ウイントン・マルサリスは凄いよなというお話(違。

ほんとに短評で申し訳ない。もともと恩田陸は短編はあまり書かない作家なので、次にこの手の短編集が読めるのは果たしていつになることやら。[2007/05]

天使のベースボール2
[野村美月] ★★☆ エンターブレイン ファミ通文庫 (\640) [Amazon]

天使のベースボール〈2〉

資産家の家庭に生まれ、何不自由なく育ち、あとは許嫁と結婚するだけ。そんな人生の絶頂期に実家が破産。許嫁にも捨てられて、生活のために教師として生きることを選んだ琴宮まりあ。しかし赴任した翔之原高校は野獣群れ集う男子校。しかも野球部顧問に担ぎ出されたまりあを部員たちのセクハラ攻撃が襲う。貞操の危機から果たして彼女は逃れることが出来るのか。

2003年刊行。シリーズ二作目。没落お嬢様が、野獣の群れ集う男子校野球部に放り込まれて、あんなことやこんなことやでセクハラされまくりながら健気に頑張るお話の続編。

太宰君はいくらなんでも、今回はやりすぎ。それはもはや性犯罪だって。でも、許しちゃうヒロインは度量広すぎ。裏ヒロイン(違)の樋口百合夫(愛称リリィ)が実は、真の萌えキャラなのではと思い始めた今日この頃。ちなみに、野球は更にどうでもよくなっている(笑)。ヒロインのイラストの出来が魅力の80%を占めている印象。[2007/05]

ハンニバルライジング 上・下
[トマス・ハリス] 
★★☆ 新潮社 新潮文庫 (各\514) [Amazon:/]

ハンニバル・ライジング 上巻 ハンニバル・ライジング 下巻

1941年リトアニア。ドイツ軍の侵攻は目前に迫っていた。レクター家は戦禍を逃れるために山中のロッジへと避難する。戦局は移り変わり、やがてソビエト軍の大反抗が開始される。蹂躙される東部戦線。一家にもたらされたのは悲惨な運命だった。家族を虐殺されたハンニバル少年は施設に引き取られ孤独な日々を過ごす。そこへいちはやく海外へと亡命していた叔父夫婦からの援助の手がさしのべられるのだが……。

2007年刊行。オリジナルは2006年刊。『レッド・ドラゴン』『羊たちの沈黙』 [Amazon] 『ハンニバル』で有名な人肉屍食殺人鬼ハンニバルさんの幼少期のお話。あんな変態に育ってしまったレクターさんだけど、それにはそれなりの理由があったんだよという補足エピソード。

※ちなみに『羊たちの沈黙は読んだのが昔すぎて感想が無い。あしからず。

読み終わってまず最初に確認したのは、ホントにハリスがこれを書いているのかどうか。映画のノベライズかと思った。それくらい内容があまりに軽くて薄い。単なるキャラクター小説なんじゃないかと。書かなきゃ良かったのにというまさに「蛇足」の一冊。必要無いだろこれ。

物語は第二次大戦直前からスタート。リトアニアの貴族の子息として生まれたハンニバル少年だったけど、ドイツ軍の侵攻と数年後のソ連軍の来襲。そして現地の対独協力者たちの蛮行で彼の家族は皆殺しに。その時のトラウマが実は……、という展開なのだけど。一番大事な筈の少年時代の描写がとにかく少ない。悲惨過ぎる記憶である故にハンニバル自身が封印してしまったって言い訳は判るんだけど、大事な根っ子の部分なんだから、ここはしっかり描いておくべきだろう。その後の殺人鬼としてのふるまいがあまりに堂々とし過ぎていて違和感。何、この手際の良さ!

そしてもっと気になったのは紫夫人の件。孤児となったハンニバル少年は叔父夫婦の元へ引き取られるんだけど、叔父の奥さんは元駐仏日本大使の娘だかなんだかで、色気ムンムンの和風美女。どうやらハリスはこのキャラに萌え萌えしてしまったみたい。変質者の殺人衝動の淵源に日本文化を持ち込んでくれるなと声を大にして叫びたい。前触れもなくやってくる日本文化披瀝のオンパレードにアメリカ人読者はさぞや引きまくったに違いない。だいたい与謝野晶子の和歌って世界的に有名なのか? [2007/05]

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