2007年7月

書籍名
作家名
出版社
価格
コメント
お薦め度
刀語 第七話 悪刀・鐚 西尾維新 講談社 \1,100
もっと出来ると思うのだけど。
★★★
ケータイで稼ぐ
アフィリエイト
佐野正弘 技術評論社 \1,480
安く作ったな、と。
★★☆
マリア様がみてる
フレームオブマインド
今野緒雪 集英社 \476
マリみての短編はやはりいい。
★★★
キリスト教と音楽 金沢正剛 音楽之友社 \2,000
専門書というよりは雑学エッセイ。
★★★
闘王
グインサーガ112
栗本薫 早川書房 \540
タイス編は当分続きそう。
★★☆
もう一つの王国
グインサーガ113
栗本薫 早川書房 \540
地下迷宮とか引っ張らなくていいから。
★★☆
紅鶴城の幽霊
グインサーガ114
栗本薫 早川書房 \540
フロリーちゃん受難の巻。
★★☆
ウルチモ・トルッコ
犯人はあなただ
深水黎一郎 講談社 \950
「ウルチモ・トルッコ」は「究極のトリック」の意味らしい。
★★★
バロック音楽
名曲鑑賞事典
礒山雅 講談社 \960
入門用に一冊。
★★★☆
熊を殺すと雨が降る 遠藤ケイ 筑摩書房 \900
密度の濃い一冊。良書。
★★★★
"文学少女"と
死にたがりの道化
野村美月 エンター
ブレイン
\560
ついに来たか。続編も読まないと。
★★★★
邪魅の雫 京極夏彦 講談社
\1,600
京極堂はあの恰好で東海道線に乗って来たのだろうか。
★★★☆

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刀語 第七話 悪刀・鐚 [西尾維新] ★★★ 講談社 講談社BOX (\1,100) [Amazon]

刀語 第七話 悪刀・鐚 (アクトウ・ビタ) (講談社BOX)

陸奥・死霊山の神衛隊を全滅させて悪刀・鐚を手に入れた鑢七実は聖地・清涼院護剣寺を目指す。一方、七本目の変体刀を手に入れるべく奇策士とがめと、鑢七花の一行も四国入りを果たす。真の最強を巡って、ついに姉弟対決が実現する。圧倒的な天賦の才を誇る七実に対して、七花の勝ち目はあるのか。そしてとがめが授けた奇策とは。

2007年刊行。12ヶ月連続刊行の七冊目。中盤の山場、VSねーちゃん戦である。正直この話竹イラストは合ってないんじゃないかと思い始めた(いまさら)今日この頃。とがめもそうだが、ねーちゃんとかこのタッチじゃ萌えも燃えもしないでしょ。昔の絵柄ならまだいけたと思うのだが。戦闘シーンを描くにはこの画風は可愛らし過ぎるのだ。

最強の鑢七実には、やはり最強ならではの足枷が設定されていてというのは、昔ながらの薄命最強キャラ(トキとか志々雄真実とか)の王道をきちんと踏まえていてなかなか宜しい。しかし薄命キャラ故の儚さの描き方をちょっと、方向間違えちゃったかなと。全然同情する気になれないのは、読み手である自分が薄情すぎるのか、感性が摩耗しすぎてしまったのか。肉親を手にかける一大イベントのわりには盛り上がりが今ひとつ。もう少し七実のキャラクター描写に厚みがあればきちんと良いお話として消化出来たのではないかと思えるだけに残念。 ⇒次巻

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ケータイで稼ぐアフィリエイト
[佐野正弘] ★★☆ 技術評論社 (\1,480) [Amazon]

ケータイで稼ぐ アフィリエイト

アフィリエイトはいまやパソコンからケータイの時代に!パソコンサイトとの違いは何なのか。ケータイ用アフィリエイトはどのようにして始めれば良いのか。便利なASP、アクセスアップの秘訣、覚えておきたい基本事項の数々。携帯インターネットの現状を詳らかにしながら、より実践的なノウハウを提供していく。

べ、別にケータイでアフィやろうなんて思って無いんだからね! 仕事の絡みで読んだ本。2006年刊行。

先月読んだ『モバイルSEM』でも触れたけど公式サイト主体で始まったモバイルサイトは、圧倒的に品質面では公式の方が上。ただ、絶対的なサイト数が少ないので一般サイト(いわゆる勝手サイト)でも、的を射たサービスを展開出来ればけっこういい商売が出来る可能性は確かにある。

というわけで、これからケータイでアフィリエイトやる人のためのハウトゥ本なのだけど、どんなレベルのユーザを想定しているのかがよくわからない。こんな薄い本で、基本的なHTMLの書き方とか触りだけ書いても仕方ないのではないかと……。初心者には意味不明だし、熟練者にはそもそも不要の知識だろう。各種ASPの使い方にしても一貫性が無く、都合のいいところだけつまみ食いしたという印象が強い。旬なネタでちょっと小遣い稼いでおこうかな的な、ライターの片手間作業本。仕事で読むにしても、これは選択を誤った。[2007/07]

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マリア様がみてる フレームオブマインド
[今野緒雪] 
★★★ 集英社 コバルト文庫 (\476) [Amazon]

マリア様がみてる フレームオブマインド (コバルト文庫 こ 7-54)

賑やかなバレンタインイベントが終わり、つかの間の平穏を迎えたリリアン女学園。部室を三年生に占拠され、教室で写真の整理をしていた蔦子を祐巳は薔薇の館へと誘う「フレームオブマインド」。黄薔薇革命がもたらした意外な波紋「三つ葉のクローバー」。江利子と令の馴れ初めを描いた「黄色い糸」。計10編を収録した短編集。

マリみて25作目。今回は短編集。2007年刊行。

やはりマリみての良さは短編作品にアリというのは間違いないないなと確信した。主人公どころか、メインキャラですら無かった一般ピープル少女たちの心の軌跡を一枚の写真に切り取って見せました的な美しい短編作品集。蔦子さん大活躍でメガネ少女ラブの人にはお勧め。外の人から見ると、実はこの一年間の祐巳の成長ってのは凄かったのねというのが垣間見えておもしろい。[2007/07] ⇒次巻

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キリスト教と音楽 [金沢正剛] ★★★ 音楽之友社 (\2,000) [Amazon]

キリスト教と音楽

世界に広く浸透し、国際的なスタンダードとなった西洋音楽。その根底に流れるキリスト教の影響の強さは計り知れない。キリスト教はいかにして音楽をその教えの中に取り込み、人々はどのようにしてそれを受容していったのか。日本人には実感として理解しにくいヨーロッパにおける「常識」をわかりやすい言葉で紹介していく。

2007年刊行。筆者は1934年生まれ。ICUの名誉教授。不勉強にして存じ上げなかったのだが、その筋では高名な方らしい。各媒体に発表したエッセイや解説文を元に単行本化したもの。

様々な媒体に掲載されていた雑文を集大成化した内容だけに、とりとめが無さ過ぎるのが難といえば難。とはいえ、アヴェマリアを歌うのはカトリックだけとか、イギリスのミサ曲にはキリエが無いとか、そもそもオルガンはキリスト教徒の敵だったとか、興味深い題材のエッセイがたくさん収録されていて楽しい。非信者には判りにくい、キリスト教の諸行事、年間スケジュールなどにも言及しているのでその点はありがたい。が、年間行事は出来れば時系列一覧でまとめてくれるともっと有り難かった。ついでに関連曲もつけて欲しかったと思うのは贅沢だろうか。[2007/07]

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闘王 グインサーガ112 [栗本薫] ★★☆ 早川書房 ハヤカワ文庫 (\540) [Amazon]

闘王―グイン・サーガ 112

タイス四剣士中最強を謳われる白のマーロールとの戦いが始まる。妖しげな剣技を繰り出してくるマーロールにグインは苦戦を強いられる。意に反してタイス伯爵お抱えの剣闘士として名を馳せてしまったグインは思わぬ展開に頭を抱えることになる。友誼を通じたドーエンを頼り、脱出計画を実行に移したものの、意外な人物の裏切りで状況はさらに悪化していく。

2007年刊行。112巻目。いつまで続くのタイス編。タイトルからしてガンダルさんが出てくるのかと思ったらハズレ。「闘王」とはガンダルを指すのではなく、強い闘技者に与えられる尊称のようなものらしい。スイランの正体バレ。ま、想定内ってことで。こんなタイミングで裏切ってくれたおかげで、さらにグダグダとタイス編が続いてしまうわけで、大いに反省して欲しいところ>>スイラン君。

余談ながら、マーロールの必殺技はビジュアルを想像するとかなり間抜けで恥ずかしい気がするのだが、余計なお世話か。[2007/07] ⇒次巻

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もう一つの王国 グインサーガ113
[栗本薫] 
★★☆ 早川書房 ハヤカワ文庫 (\540) [Amazon]

もう一つの王国 グイン・サーガ 113

タイスの四剣士すべてを打ち倒し、闘王の名を手に入れたグインだったが、逃亡計画は失敗に終わり、ふたたびタイス伯の手に落ちてしまう。年に一度の水神祭は近づき、公都ルーアンからはタリク大公一行が到着する。そこでグインは無敵の剣闘士ガンダルの偉容を初めて目にすることになる。果たして二人の対決は実現することになるのだろうか。

2007年刊行。113巻。ますますもってグダグダ展開のタイス編。すっかりダースベイダーなビジュアルのガンダルさんが登場して、これで天下一舞踏会編に雪崩れ込むかと思いきや、斜め上の展開に。どう考えてもこれ本筋じゃないだろ。こういう話は外伝でやれってば。ネタ的にもゾルーディアの話と被っているような気がする。っていうかこの話50頁くらいで書けるだろ。どうも、タイスのお下品世界が温帯の嗜好とマッチしてしまった予感。書きやすいのかもね。[2007/07] ⇒次巻

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紅鶴城の幽霊 グインサーガ114
[栗本薫] 
★★☆ 早川書房 ハヤカワ文庫 (\540) [Amazon]

紅鶴城の幽霊 グイン・サーガ 114

辛うじてタイス伯による処刑を免れたグインは、脱出の手がかりを求めて紅鶴城の地下へと潜入する。幾百年もの凄惨な歴史が積み重なった城内には不気味な幽霊たちが蠢く。広大な地下迷宮へと乗り出したグインは、そこで思いも寄らぬ人物との再会を果たす。一方、城内に残されてたフロリーには未曾有の大ピンチが訪れる。

2007年刊行。114巻。そろそろ勘弁して下さいタイス編。いい加減、回想シーンで頁を無駄遣いするのやめて〜。このペースだとあと5冊はタイスに長居しそうな勢いだ。

今回はフロリーちゃんの男運が悪すぎる話。アムネリスとの疑似レズ体験からスタートして、ゴーラ王の愛人(+庶長子を出産)、パロ第一王位継承権者から求愛を受け、ケイロニア王にも庇護を受け、いままたクム大公にも懸想されるというとんでもない傾国の美女っぷり。この手の巻き込まれ型クネクネ女子って温帯的に好きなキャラクターなんだろうなあ。読んでいてイライラしてしまうのは術中にハマっているのかも。[2007/07] ⇒次巻

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ウルチモ・トルッコ 犯人はあなただ
[深水黎一郎] 
★★★ 講談社 講談社ノベルズ (\950) [Amazon]

ウルチモ・トルッコ 犯人はあなただ !

作家である「私」の元へある日一通の手紙が届けられる。それはミステリー界最後の不可能トリックを用いた「意外な犯人」ネタを高額で買い取って欲しいとの申し出であった。手紙の主は香坂誠一と名乗り、再三にわたり取引を要請してくるようになる。「読者が犯人」。想像を絶した不可能トリックは本当に存在するのか。「私」はその秘密を知り驚愕するのだが。

2007年刊行。第36回のメフィスト賞受賞作品。既にサブタイトルにネタばれが書いてある。「犯人はあなただ」と。カバーを見ると判ると思うけど、表1部分が鏡のようになっていてぼんやりと自分の顔が映るようになっている。なかなかに凝った装丁だ。ミステリ界の一芸入試メフィスト賞の受賞作に相応しいと言えば相応しいタイプの作品だろう。

ネタはすでに割れているので、いかにして超絶不可能トリック「読者が犯人」を実現させているかに興味は移る。作家のモノローグ。とある人物からの手紙。そしてその人物からの覚書。意味不明な文章が次々に出てきて、正直かなり読みづらいのだが、当然それらは全て意味があること。きちんと仕掛けの一部になっている。それがおもしろいのかと問われると微妙なところではあるが、ここは我慢して最後まで読むべき。これが島田荘司だったら、社会派ネタを縦横に織り込んでハンカチ一枚みっしり泣ける話に仕上げてくるんだろうけど、新人ではこれが限界か。

で、問題のオチだが、書き手が後だしジャンケンで「実はこれが〜で」みたいな、それまで明らかにしていなかった新事実を持ち出してくるのはアンフェアなんじゃなかろうか。かなり萎えた。書きようによってはもう少しうまく処理出来たような気もするけど、なんだかペテンにかけられたかのような読後感の悪さがつきまとうのが勿体ない。[2007/07]

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バロック音楽名曲鑑賞事典
[礒山雅] ★★★☆ 講談社 講談社学術文庫 (\960) [Amazon]

バロック音楽名曲鑑賞事典 (講談社学術文庫)

17世紀初頭から18世紀半ばにかけてヨーロッパで花開いたバロック音楽。モンテヴェルディ、シュッツ、ヴァン・エイク、リュリ、ブクステフーデ、コレッリ、パーセル、シャルパンティエ、ヴィヴァルディ、ヘンデル、そして大バッハへ。西洋音楽研究の第一人者が、数多の名曲の中から100曲を厳選。名演、名盤と共に紹介していく。

2007年刊行。そっち方面(ってどこだよ)の泰斗であらせられる磯山センセご推薦のバロック音楽名曲集ベスト100。かつては知る人ぞ知るって状態のマイナージャンルであったバロック音楽も昨今の古楽ブームで演奏される機会が増え、入手出来るCD、DVDも格段増えてきた。それだけに、何から聞けばいいのかは初心者には重大な問題。ってことで、本書のような企画本が刊行されたようだ。

全100曲1/4がバッハなのは仕方のないところか?それでも沢山あるの超有名バッハ作品からよりすぐってこれだからなあ。次いでモンテヴェルディとヘンデルが5〜6曲ずつ。以下、テレマン、ヴィヴァルディといった状態。知らない作曲家がたくさんでてくるので、門外漢としてはかなり楽しい。ゲドロンの『死すべき者よ』とかヴァン・エイクのリコーダー作品とかは是非聞いてみたい。シュッツの『十字架上の七つの言葉』はさっそくHMVで発注した(名曲だった!)。ヘンデルのオペラ作品もなんだか楽しそうなので聞いてみたくなった。こちらはリアルで見てみたい。あとでチェックしてみよう。

お勧め演奏やCD、DVDの紹介が入っているのだけど、記載が文末にあったり、話の途中で触れていたりとマチマチで使いにくい。あとこの手のCDは国内盤は出ていないことが多いのだから、作曲者や演奏者の原語表記は是非徹底して欲しかった。実用性を考えるとこの点は非常に残念。[2007/07]

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熊を殺すと雨が降る [遠藤ケイ] ★★★★ 筑摩書房 ちくま文庫 (\900) [Amazon]

熊を殺すと雨が降る―失われゆく山の民俗 (ちくま文庫)

過酷を極めた山での生活。木を伐り、炭を焼き、山獣を狩り、魚を捕り、山菜を摘む。山岳地帯で暮らす人々には生きていくための様々なノウハウが受け継がれていた。極限までに研ぎ澄まされた現実主義と、山の神々への敬意と畏れ。急速に失われつつある山の民俗にスポットを当て、文明に冒された現代人に警鐘を鳴らす一冊。

1992年に岩波書店から『山に暮らす』 [Amazon] として刊行され、後に2002年に山と渓谷社から『熊を殺すと雨が降る』 [Amazon] のタイトルで再刊。本書はその文庫版となる。2007年刊行。

四章構成に分かれていて、最初の一章が林業従事者の業態をまとめた「山の仕事」。まずこれがものすごい。木を一本伐るにしても、伐ってよい木なのか、いかにして切り倒すべきなのか、どのようにして山から下ろすのか。判断すべきことは山ほどあり、それらにはマニュアルや手引書があるわけでなく、経験と勘がすべて。木を伐採する杣。木材に加工する木挽き。そして1トンにもなろうかという木材をただ一人で下界に下す究極の重労働木馬(キンマ)。昭和のつい最近まで当たり前に存在していた山の光景が非常に衝撃的だ。とりわけ、人力を使わず、人工的に貯めこんだ水の力で大量の木材を一気に下界に落とす「鉄砲」という技術の凄まじさには圧倒された。現在こうした技術はどれくらい残されているのだろうか。

第二章は「山の猟法」。熊撃ちからはじめて、鹿、猪など、野生獣を狩るためのさまざまなノウハウを紹介。おもしろかったのは「わらだ猟」。野兎は飛来物を見ると猛禽類と勘違いして雪に潜る性質があり、これを応用して丸く編んだ巻き藁を投げて、野兎を潜らせ捕獲するもの。

第三章は「山の漁法」。一つの漁場で狩り尽くさない。絶妙のバランスを保った、自然との間の取り方に感銘を受け、知恵と技術が渾然一体となった漁法の数々に驚かされる。手掴み漁なんて、もはや神の領域だあろう。山椒の実を煮詰めて川に流す毒流し漁。巨石をハンマーで叩いて衝撃波で魚を失神させる石がち漁。凍結した川を割り砕き、半冬眠状態の魚を根こそぎ捕えるザイボリ漁等など、いずれも失われつつある技術なのだそうで、人間の知恵の奥深さにただただ驚嘆。

第四章は「山の食事」。基本的になんでも食べる。兎は丸々一匹骨まですりつぶして全部食べるし、魚も山菜も虫だって食べる。耕作できる平らな土地がそもそも存在しない山岳地で、いかにして人間は日々の糧を得ていたかという話。結局のところ平地に比べて過酷な環境であることは間違いないわけで、奇麗ごとではない生きるために食べることの重さを強烈に感じさせられた。

イラストが豊富。文章も平易でわかりやすく、現代人が想像しにくい山の暮らしを臨場感、色彩感覚豊かに示してみせてくれた労作。これは文庫にして末永く残すべき本だと思う。

結局のところこれほどまでに多様な知恵が出てくるのは、そこまで考え抜かなければ生きていけなかった、山の暮らしがそれだけ過酷であったことの裏返しな訳で、この国が豊かになっていくのと反比例して山の技術が失われていくのは宿命としてやむを得ないことなのかもしれない。山の暮らしを離れてなお、自然に対しての敬意を持ち続けることは難しい。現代人が忘れがちな、自然の中で生かされている自分という認識を思い起こさせてくれた良書であった。[2007/07]

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"文学少女"と死にたがりの道化
[野村美月] ★★★★ エンターブレイン ファミ通文庫 (\560) [Amazon]

“文学少女”と死にたがりの道化 (ファミ通文庫)

井上心葉は中学生時代に作家としてデビューし地獄を味わった経験を持つ。いまは一介の高校生として平穏な日々を過ごしていた筈、だった。物語を食べる"文学少女"天野遠子との出会いが彼の人生を変えていく。心ならずも文芸部の一員となった心葉の前に、「どうかあたしの恋をかなえてください!」そんな奇妙な依頼が持ち込まれるのだが……。

2006年刊行。野村美月の出世作。っていうか、このシリーズからいきなり進化してないかこの作家。『天使のベースボール』みたいなお気楽作品を書いていた人と同じとは思えない。250ページしか無い話によくぞここまで込み入ったプロットを盛り込めたものだと感心した。『フォーマイダーリン』でミステリ要素アリの作品をすでに書いていたけど、そっち系の素養もあるねこの人。この作品、ミステリとしても悪くない。

物語を「食べる」文芸部の不思議な先輩天野遠子。中学生にして覆面「美少女」純文作家としてもてはやされ一度は筆を折った井上心葉クン。この二人を中心に物語は展開していく。「文学少女」シリーズなので、古今の有名作品が頻出する。本読み的にはニマニマしながら読めて楽しい。そして今回のメインディッシュは太宰治の『人間失格』。生きることに絶望した少年少女たちの茫漠たる魂の彷徨。そしてその赦しと再生を描く。

『人間失格』は本読みが一度はハマる通過儀礼のような作品だけに、そっち系の人間には刺さりやすいかもしれない。他人の感情が理解出来ない竹田さん。10年前に弓道部で起きた悲劇。そして最愛の少女に目の前で投身自殺された主人公。未だ癒しがたい傷を抱えて苦悩する彼らに対して、文学少女天野遠子の「ものすごい説得」が感動的に響いてしまうのは太宰の力を借りているとはいえ、そこまでの構成が良くできているが故だろう。遠子先輩の「ねぇ!太宰は『人間失格』だけじゃないのよ」の台詞は、他の太宰作品を多少なりとも読んでいると猛烈に泣けてしまう可能性大である。

そうそう。本編の内容も良かったけど、イラストにも恵まれたのは成功要因かな。一年を経ずして既に六刷。けっこう売れているようで喜ばしい。[2007/07] ⇒次巻

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邪魅の雫 [京極夏彦] ★★★☆ 講談社 講談社ノベルズ (\1,600) [Amazon]

邪魅の雫 (講談社ノベルス)

昭和28年夏。江戸川、大磯、平塚。それぞれの場所で発見された毒殺死体。一見何の関係もないかに見えた事件を警察は、何故か一連の事件として捜査を開始する。その背後に隠された秘密とは。国家警察の懸命の捜査を嘲笑うかのように被害者は増え続ける。事態は混迷の度合いを深めていく。京極道が明らかにした事件の驚くべき真相とはいったい?

2006年刊行。『陰摩羅鬼の瑕』以来、久しぶりの京極堂。でも、今回は三年で次が出た。前回に比べれば早い方か。例によって長くて総ページ数817。読むのにかなり時間がかかってしまった。

これまでの警察関係者勢揃い。なんだか今回は警察小説っぽい。警察関係者の描写にかなりのボリュームを割いている。残念ながら初期の京極作品は読んだのがかなり以前になってしまうので、ほとんどのキャラクターを忘れてしまっているのがもどかしい。

最後の殺人に至るまでの盛り上げ方はさすがに職業作家ならではの手練手管というか、お見事と褒めるしかない畳みかけるような怒涛の急展開。読み手を引きつける吸引力はたいしたもの。しかしながら、京極堂の出番はなんだか取ってつけた感が強くて、無理やり出てきたイメージが強い。この人が最後に出ないと締まらないのはわかるけど。最強キャラ故に最初から出すことが出来ないジレンマにハマってしまっているのだろうか。関口の登場もどう見ても余計というか、ファンサービスだよね。

京極作品の長大さは、極めて特殊な条件でしか発生しえない犯罪に対して納得感を持たせるため、「ああ、それなら仕方がない」と読み手に得心させるため、という側面が強かったと思うのだけど、今回は凶器が毒ってこともあってかその意味合いは薄め。単に長い(笑)。なかなか真相が明らかにされないので少々忍耐が必要かもしれない。[2007/07]

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