2007年8月

書籍名
作家名
出版社
価格
コメント
お薦め度
"文学少女"と
飢え渇く幽霊
野村美月 エンター
ブレイン
\600
琴吹サンのツンデレぶりが典型的過ぎる件w
★★★☆
累犯障害者 山本譲司 新潮社 \1,400
格差社会の不可視化されている最底辺にスポット。
★★★★
刀語 第八話 微刀・釵 西尾維新 講談社 \1,100
とがめはショートカットバージョンの方がイイ!
★★★
なぜ株式投資は
もうからないのか
保田隆明 ソフトバンク
クリエイティブ
\700
軽めの内容。
★★★
"文学少女"と
繋がれた愚者
野村美月 エンター
ブレイン
\600
そろそろ琴吹さんのことも思い出してあげてくださいね。
★★★★
しゃばけ 畠中恵 新潮社 \1,500
江戸モノを手軽に。
★★★☆
犬はどこだ 米澤穂信 東京創元社 \1,600
初の非学生主人公作品。
★★★☆
信長の棺 加藤廣 日本経済
新聞社
\1,900
男のロマン?
★★★
λには歯がない 森博嗣 講談社 \880
センセそろそろヤバイです。
★★☆
"文学少女"と
穢名の天使
野村美月 エンター
ブレイン
\600
聞いた時点で判れよというツッコミは無しで。
★★★★
安達ヶ原の鬼密室 歌野晶午 講談社 \752
くどい。くどすぎる。
★★★

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"文学少女"と飢え渇く幽霊
[野村美月] ★★★☆ エンターブレイン ファミ通文庫 (\600) [Amazon]

”文学少女”と飢え渇く幽霊 (ファミ通文庫)

遠子先輩が設置した恋の相談ポストに奇妙な紙片が投げ込まれた。それは「憎い」「助けて」「幽霊が」「怖い」といった断片的なメッセージと、意味不明な数字が羅列された不可思議な文字列群だった。投函した人物の正体を探るため、心葉は遠子先輩と共に調査に乗り出す。そこで出会った犯人は自らを「もう死んでるの」と称する謎めいた少女だった……。

2006年刊行。シリーズ二作目。さあて、今回の名作は……。裕福な家に貰われてきた身寄りのない野性児。その少年と共に育つ令嬢。憎からず思っていた二人だったが、女は資産家の妻に。絶望して出奔する少年は、十数年後実業家として故郷へ帰還。自分を裏切った女への復讐を開始する男……。って、それはバレバレでしょ。

ということで、今回のバックグラウンドストーリーはエミリー・ブロンテの『嵐が丘』 [Amazon] 。当然のことながら先にこちらを読んでおいた方が楽しめるので、余裕がある人はまず『嵐が丘』から入ってみることをオススメする。ただ、判り易過ぎる位に『嵐が丘』なので元ネタ知ってる人には本筋はバレバレ。元ネタが割れた瞬間にこの話の構造も見通せてしまうのだけど、そこはさすがに野村美月。単なるコピーで終わらせない仕掛けが施されているのでご安心を。

とにかく狂おしいまでに愛こそ全てなお話。前作以上に元ネタの話の魅力に依っている部分が大きいのだけど、それでも感動的なお話にきちんと仕上がっているのは立派。暗号の部分はすぐに回答に飛びつかないで、ちゃんと自分で解読してみると慟哭度が限りなくアップするので暇な人はお試しを。

惜しむらくは麻貴先輩の関わり方が不自然過ぎることだろうか。手記の書き手は彼女だったわけだけど、どことなく上から目線を感じてしまい好感がもてないのもマイナス。しかし、麻貴先輩は遠子の憑き物落とし能力をどこで知ったのだろうか?ここいら辺は今後のテーマかな。[2007/08] ⇒次巻

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累犯障害者 [山本譲司] ★★★★ 新潮社 (\1,400) [Amazon]

累犯障害者

衆議員議員山本譲司は秘書給与流用事件で実刑判決を受ける。獄中で彼が直面したのは、刑務所内に占める障害者率の驚くべき高さだった。「これまで生きてきたなかで、ここが一番暮らしやかった」そう語る彼らのような存在はいかにして生み出されてくるのか。決してマスコミが報道しない現代日本の究極の不条理を告発する。

2006年刊行。雑誌「新潮45」に発表された三編に書き下ろし四編を加えて単行本化したもの。

筆者の山本譲司は「♪みちのく一人旅〜」の人ではなくて、何年か前に秘書給与流用問題で逮捕された元国会議員の人。執行猶予ではなく、本当に服役していたのか。まずその点が驚き。逮捕前後の頃は評判は散々だったけど(カツラ疑惑とかあった!)、刑務所での生活からはそれなりに得るものがあったようで、当時の体験をつづった『獄窓記』 [Amazon] はけっこう話題になったようだ。本書は獄中での体験を元に、新たな取材を行い書き下ろした第二弾となる。

筆者は服役中、障害者の受刑者と同じセクションに割り当てられていて、所内に占める障害者率のあまりの高さにショックを受けたのだという。ちなみに所内では障害者に向けた特別な更生プログラムは一切存在しないのだそうだ。本書ではタブー視されて報道されないできた障害者の犯罪について鋭く切り込んでいく。

2004年の統計ではこの年の受刑者3万人余のうち、知的障害者と認定されるレベル(知能指数69以下)が、実に22%!測定不能者を加えると30%弱もの数に上っていることが明らかにされている。有名な事件では下関駅が全焼した放火事件、少し前のレッサーパンダ通り魔事件。これらはいずれも知的障害者の犯罪だったが、いずれも犯人が特定されてからは報道はトーンダウン。これらの犯罪が障害者によるものであったことはほとんど知られていない。

本書ではマスコミの勝手な自主規制から世に知られることが無かった、障害者による犯罪についてのルポルタージュ。その内容はとにかく衝撃的だ。身元引受人が居ない知的障害者を率先して引き取り、養子縁組までして障害者年金にたかる暴力団組織。親子揃って売春婦の知的障害者。ろうあ者だけで組織された暴力団。ろうあ者のろうあ者に対する犯罪。同時代の日本で起きていることとはとても思えず絶句する。

犯罪を犯した障害者は福祉の手が一番伸びにくい部分で、刑務所を出たとしても結局のところ、ホームレスになるかヤクザになるか、閉鎖病棟に送られるしかないというのが寒々とした現状だ。結局のところどうすればいいのかという問いには、本書でも回答は出せていない。そもそも問題そのものが不可視になっている状況が、よりいっそう問題の解決を困難にしているように思える。その意味では本書が上梓されたことは、非常に意義のあることだったと思う。[2007/08]

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刀語 第八話 微刀・釵 [西尾維新] ★★★ 講談社 講談社BOX (\1,100) [Amazon]

刀語 第8話 (8) (講談社BOX) (講談社BOX)

伝説の名刀、四季崎記紀の変体刀を七本まで蒐集した奇策士とがめと鑢七花。二人は幕府監察所総監督否定姫の情報に基づき一級災害指定地、江戸は不要湖を訪れる。あえて変体刀の情報をリークした否定姫の真意は如何に。人間の存在を許さない人外魔境の地、不要湖では恐るべき強敵が待ちかまえていた。自動人形日和号VS虚刀流。とがめはいかなる奇策を七花に授けたのか。

2007年刊行。シリーズ八作目。月一冊の全十二巻構成。次から終盤だな。

江戸不要湖編。って、全然江戸らしくねええ。通史はまったく気にせず書いているからあたりまえなのだが、実際の地勢的な特徴までもが華麗なまでにスルーされていて、現実感がまるで感じられない。狙ってやってるんだろうけど、世界設定がハリボテ的な書き割り世界で少々引き気味。

否定姫のビジュアルはけっこういい感じ。やっとキャラが立ってきたかしら。尾張幕府の人たちは腑抜けしかいないのか。出自不明の二人しか出てこない政府組織ってどうなのよ。あいかわらずまにわにの皆さんはかませ犬として見事に機能。ここまで徹底していると安心する。

で、ようやく七花の人間的成長にスポットがあたってきた。このキャラクターの成長のベクトルが今後の物語のキーポイントになる筈。というか、それくらいしか盛り上がれる部分が無いような……。あとは否定姫の正体くらいか?これはおそらく四季崎記紀つながりなのではないかと邪推。順調にいけば年内には完結だな。[2007/08] ⇒次巻

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なぜ株式投資はもうからないのか
[保田隆明] ★★★ ソフトバンククリエイティブ ソフトバンク新書 (\700) [Amazon]

なぜ株式投資はもうからないのか [ソフトバンク新書]

「貯蓄から投資へ」業界のみならず政界からもこのような声がきかれるようになった昨今。一連の証券不祥事問題、バブル期の低迷を経て、現在の証券業界の現状はどのようになっているのか。個人投資家が弁えておくべきリスクとは。機関投資家とはいかなる存在なのか。そしてweb2.0時代の株式投資はどうあるべきなのか。初心者向けに明快に論じた入門書。

2007年刊。筆者はリーマンブラザーズ⇒UBSを経て、現在は独立。経済関係の評論で適度に有名な人。本人サイトはここ

庶民向けにかかれた株式投資の入門書。まず最初に株式投資は機関投資家や、富裕層たちのためのものであり、一般人は資金的にも情報的にも、待遇的にも明らかに不利であることを懇々と説明。証券会社がしきりに一般人に株式投資をさせようとするのは、結局のところ負け組を確保しておきたいためなのだそうだ。

そして、新興市場がとにかくヤバイ点についても強調。ま、確かにジャスダックはまだしも、マザーズやヘラクレス(もっと酷いアンビシャス)とか、昔だったらありえない財務状態で上場出来ているから、こんなのを信用しちゃいかんというのはよくわかる。新興市場はライブドア問題で信用ゼロになってしまったのも痛かったかな。

多少なりとも株式が判っている人には何を今更な知識だけど、超素人にはそれなりに意味があるのではないかと。生半可な知識で手を出すなら辞めた方が無難。やるにしても自分の資産を考慮した上で投資上限を定め、火傷しすぎないように注意すべき。という、当たり前ではあるけれども、常識的なアドバイスがなされている。

ちなみに自分的には、あまり短期での売買には興味が無くて、中期的なスパンで見て定期預金より利回りが良ければそれでいいんじゃないの?ってスタンス。ボロ負けしている人を何人も見ているから、チキン体質の自分としてはとても怖くて手が出せない。[2007/08]

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"文学少女"と繋がれた愚者
[野村美月] ★★★★ エンターブレイン ファミ通文庫 (\600) [Amazon]

“文学少女”と繋がれた愚者 (ファミ通文庫)

ある日遠子先輩が図書室から借りた本には無惨な切り抜きが!"文学少女"の沽券にかけて事件の追及に乗り出した彼女に、またしても心葉は巻き込まれ、成り行きから文化祭の演劇に出演する羽目になってしまう。そこで心葉はクラスメイト芥川の心中に隠された、凄惨な過去を知ることになる。芥川をそこまで追い詰めたものは一体何だったのか。

2007年刊行。シリーズ三作目。野村美月の凄いと思う点の一つは筆が速いこと。デビュー五年で著作二十点越えは立派。そして"文学少女"シリーズのクオリティで四ヶ月に一冊新作を書けるのは瞠目に値する。現在、絶好調なのではないだろうか。

有名文学作品を下敷きに、物語が展開していく本シリーズ。今回のお代は『友情』 [Amazon] @武者小路実篤。恋か友情か、どちらも選ぶことが出来ず煩悶する若き魂の苦悩と狂気。作中人物たちがハマリ混んだ精神の迷宮が『友情』の物語世界と見事にマッチ。前回の「飢え渇く幽霊」ではベースとなった作品に頼りすぎているかなという気がしたのだが、今回は『友情』の土台の上に、この物語オリジナルの展開をしっかりと積み上げることが出来た。『友情』とのシンクロ度の高さは抜群で、よくここまで練り込んだものだと思う。

一介の高校生が抱えるにはいささか重すぎる過去を背負った主人公と芥川クン。それぞれが自らの過去に引きずられながらも向かい合い、これまで頑なに拒み続けてきた、他者との交流の道を再度選び取るまでの展開が猛烈に感動的。いやしかし、ライトノベル界の憑き物落としこと、天野遠子先輩の慈母のごとき優しさが神がかっていて戦慄すら覚える今日この頃。

これらの一連の展開を、きわめて冷静な観察者として見つめ続ける竹田さんの存在がこれまた素敵なアクセントで素晴らしい。竹田さんの物語もまたまだ終わっていない。彼女の存在が主人公に与える心理的プレッシャーのなんという強さか。既刊のキャラクターを有効利用することで、作品世界の奥行きをぐっと広げてみせたテクニックに脱帽だ。彼女の登場シーンでは鳥肌が立った。

これほどまでに本編を堪能させておきながら、ラストにはものスゴイ引きが残されていた!なんじゃそりゃ!!四巻目まで買っておいて良かったぞ。先が気になって仕方がない。[2007/08] ⇒次巻

ついでに…… 
ちょいネタになっている芥川龍之介の『蜜柑』は横須賀出身のわたしとしては是非読んで欲しい秀作。青空文庫に収録されているのでこちらで読める。原稿用紙10枚程度の掌編なのですぐ読めてしまう筈。予備知識無しにどうぞ。

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しゃばけ [畠中恵] ★★★☆ 新潮社 (\1,500) [Amazon]

しゃばけ

江戸の大店長崎屋の若旦那は生来の蒲柳の質で、十七歳のいまに至るまで生死の淵をさまようこと幾たびか。両親はただ一人の跡取りを甘やかし放題。そんな若旦那が、出先で人殺しの現場に遭遇してしまう。下手人の姿を見てしまった若旦那は、それ以来不可解な事件に巻き込まれていく。事件の背後には人智を越えたとある秘密が隠されていたのだが……。

2001年刊行。第13回の日本ファンタジーノベル大賞の優秀賞受賞作品。ちなみに大賞は『クロニカ』 [Amazon] @粕谷知世。畠中恵1959年生まれ。ここ数年のファンタジーノベル大賞出身の作家の中では出世頭だろう。本シリーズは好評を博しシリーズ化されており、現時点で既に六作目まで刊行されている。また他社から出ている他作品を合わせると著作数は十作を超えている。漫画家のキャリアもあるようで、作家になるまでにはいろいろな下積みをしている模様。

「しゃばけ」は漢字で書くと「娑婆気」。俗世間における名誉・利得などのさまざまな欲望にとらわれる心のこと。病弱きわまりなり孫のためにと、祖父が遊び相手として雇い入れた二人の小僧、佐助と仁吉は妖怪の犬神と白沢が人に変化したものだった。幼い頃から妖怪に囲まれて育った若旦那が、彼らの力を借りながら江戸の街で起こる不思議な事件に巻き込まれていくという筋書き。

冒頭のシーンがなかなかに美しい。江戸時代の夜が持つ底知れぬ深さ。濃密さをさりげなくも、印象深く表現した冒頭部の描写がなかなか良い感じ。ぬばたまの闇の底からたちのぼる猛烈な血の匂い。ツカミとしてはばっちり。病弱ながらも才気煥発な若旦那と、荒事が大好きなガテン系の佐助に色男だけど怒らせると怖い仁吉。キャラクターの配置もツボを押さえていて手堅い。江戸時代の風俗描写も巧みで、さすがにシリーズが六作目まで続くのも納得のできばえ。続きも探してみよう。[2007/08]

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犬はどこだ [米澤穂信] ★★★☆ 東京創元社 ミステリ・フロンティア (\1,600) [Amazon]

犬はどこだ (ミステリ・フロンティア)

都会での生活に敗れ、紺屋は故郷で犬探しの事務所を立ち上げる。しかし持ち込まれたのは失踪した女性の捜索と村の古文書の解読だった。押しかけパートナーとなったハンぺーと共に調査を開始する紺屋。一見、なんの関係もないように見えた二つの出来事は思わぬところでリンクしていた。真相にたどり着いた紺屋が見たものとは……。

2005年刊行。2006年版「このミス」国内部門第八位にランクインした作品。米澤穂信の六作目。例によって古本で購入したら、偶然にもサイン本だった。ラッキー。

主人公が学生でない初めての作品。主人公25歳は米澤作品中最年長だ。理論派(やる気無し、訳あり)の主人公と、行動派(やる気アリ)のハンぺー。二人の視点で交互に物語は描かれていく。フリーターだけど、古き良き時代の探偵スタイルに憧れるハンぺーはなかなかに良いキャラクターだった。

別々の事件に思えた二つの出来事が実は……、というのはよくあるパターンながらも、主客を見事にひっくり返してみせる終盤の神展開に唸らされる。二人の視点の切り替えで物語を進行させておきながら、最終的には主人公の視点に物語は収斂してしまうので、ハンぺーサイドの物語が置き去りにされてしまうのが難と言えば難だろうか。

ネット上のトラブルを扱った部分で、当事者がその筋の専門職でありながらも技術的に脇が甘い部分が散見されていて、読んでいて首をひねる部分があったのだが、それが実は周到な罠であることが終盤に判明し感服。ある意味、凄絶なまでの負の信頼関係が無ければ成立しなかった仕掛け。行間に漂うあの人の執念を丹念に読んでいくとかなり怖い。

それにしても<GEN>さんに主人公は心許しすぎ(笑)。この部分だけ、ちょっと突拍子もなさ過ぎて非常に違和感を覚えた。守秘義務守れよ。[2007/08]

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信長の棺 [加藤廣] ★★★ 日本経済新聞社 (\1,900) [Amazon]

信長の棺

天正10年6月2日。京都本能寺に滞在していた織田信長は、明智光秀の謀反により命を落とす。光秀は何故信長を討ったのか。そして毛利軍と対峙していた羽柴秀吉は、奇跡的な中国大返しを何故成功させることが出来たのか。謎を解く鍵は本能寺から消えた信長の遺骸にあった!信長の遺臣太田牛一は歴史の闇に潜む、禁断の秘密に迫っていく。

2005年刊行。作者は1930年生まれ。東大法卒。中小企業金融公庫⇒山一証券⇒フリー。経済書の著作はけっこうあるらしい。本作が作家デビュー作。昔はいろいろな経歴を経てから、中年以降に作家デビューってパターンは多かったと思うのだけど、なんだかこういう人は久しぶり。それでもこれほどまでの高齢デビューは珍しいか。デビュー時で75歳だ!歴史小説の書き手は慢性的に欠乏傾向なので、この人には長生きしていただきたい。

小泉首相も読んでいる本としてちょっと話題になった作品。本能寺の変にまつわる数々の異聞を取り込んだ歴史ミステリ。主人公は信長についての一級史料『信長公記』を著した実在の人物である太田牛一。熱狂的な信長信者で歴史家でもある牛一をナビゲータにしたのはなかなか面白い。ちなみに2006年11月にテレビでドラマスペシャルとしても放映されている。この時牛一役は松本幸四郎だった。

手っ取り早くまとめると「サラリーマン夢のリタイア生活」。二大英雄に仕え、戦国の乱世をそれなりに生き抜いて、悠々自適の生活に。社会的にも評価され、知的水準は高く、金には困らず、コネも沢山ある。家族や親類縁者の束縛もなく、体は健康で、娘のように若い女も言い寄ってくる。当然夜の生活もまだまだ現役。男としてはあこがれの老後であろう。うがった見方なのかもしれないが、この作品が売れたのはこうしたキャラクター設定の勝利もあったのではないかと思う。

では、肝心の本編について。信長の死後は秀吉に仕え、老齢に入り無事に引退することが出来た主人公が、旧主信長の死について真相を求め各地を訪ね歩く展開となっている。信長の遺骸が何処に?という謎の設定は面白いのだが、真相に至るまでの筋運びが杜撰過ぎる。何の根拠もない白日夢を謎ときの手がかりにされてビックリ。おいおい君は歴史家でしょうに!どうせフィクションなんだから、嘘でもいいから架空の証言なり、史料なりを創作してしまえば良かったのに。最終的な回答に至る展開も、嫁さんの実家に挨拶に行ったら、真相を知っている人が偶然にも親戚でしたって、脱力するしかないような結末。そりゃないだろう。

ここまでして期待させておいた信長の死の真相についても正直期待外れ。それってそんなに大事な事だったのだろうか。秀吉の出生の秘密とか、桶狭間合戦の真相とかも聞いたよう話で意外性も無し。『信長公記』のバージョン違いが誕生する経緯の描写はなかなか面白いと思ったので、見てきたような嘘をつく歴史ミステリとして、まったくダメかというとそうでもないのだ。このシリーズ、秀吉編、光秀編と続くようなので古本前提で、いちおう追いかけては見るつもり。巻き返しに期待。[2007/08]

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λには歯がない [森博嗣] ★★☆ 講談社 講談社ノベルズ (\880) [Amazon]

λに歯がない (講談社ノベルス)

四人の男が銃殺体となって発見される。舞台は密室状態の研究所。彼らのポケットには「λには歯がない」と記されたカードが。そして全ての死体からは本当に歯が抜かれていた。被害者はいずれも身元不定。犯人は何処に消え失せたのか。そして殺害方法は?事件の調査に乗り出した西之園萌絵は、思わぬ事態に直面することになるのだが……。

2006年刊行。Gシリーズの五作目。相変わらず劣化モードが止まらない森センセ。今回も酷い。

魅力的な謎を提示しておきながら、解決のショボイことショボイこと。ネタが貧相なら貧相なりに、構成で工夫して盛り上げればいのに、その努力すらもしていないところが腹が立つ。Gシリーズからの新キャラは相変わらず魅力に乏しく、存在価値を感じられない。最初から萌絵ちゃんと犀川先生だけで良かったんじゃないのかと。まだVシリーズの連中の方がキャラ立ってたよ。[2007/08] ⇒次巻

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"文学少女"と穢名の天使
[野村美月] ★★★★ エンターブレイン ファミ通文庫 (\600) [Amazon]

“文学少女”と穢名の天使 (ファミ通文庫 の 2-6-4)

実は受験生だった天野遠子先輩は休部宣言を発動して雲隠れ。一人残された井上心葉は、琴吹ななせと共に音楽教師毬谷の手伝いをすることになる。突如として現れた下級生臣志朗の言葉に心葉は衝撃を受ける。「偽善者め」と罵る臣の心中は?そして失踪したななせの親友夕歌の行方は何処に。事件の背後に見え隠れする"天使"とはいったい……。

2007年刊行。シリーズ四作目。今回のお題は『オペラ座の怪人』 [Amazon] @ガストン・ルルー。ミステリ読みとしては非常に恥ずかしい話ながら、この話をルルーが書いていることを知らなくて情けない限り。不勉強を反省。だって、ミュージカルの方が有名すぎるじゃん(言い訳)。

前作のスゴイ引きのあとだから、当然あの人の話になるのかと思わせておいて、実は琴吹さんのお話だった。焦らすねえ。とはいいながらもメインヒロインはそのお友達の夕歌ちゃん。夕歌本人は最後まで登場せず、周囲の人間の目線からそのキャラクターを浮き彫りにしていく「不在の在」的テクニックを用いている。宮部みゆきの『火車』 [Amazon] や恩田陸の『ユージニア』みたいな感じ。

しかしオペラ歌手を目指す夕歌の物語を、ミュージカル作品としてあまりに有名な『オペラ座の怪人』と絡めて描こうとしたのは正直あまりうまくいっていない印象を受けた。しかも劇中で演じられているのは『トゥーランドット』だし。なんだかチグハグ。どうせならそのものずばりで『椿姫』で良かったんじゃないかと思うけど、作品の知名度の関係で見送ったのだろうか。

文学少女天野遠子は今回受験に専念のため、やや出番は少なめだ。それだけに終盤の絡みが少々強引だったか。毎回憑き物落とし役として登場する天野先輩だけど、今回を憑き物を落とされるべきメインヒロインがそもそも不在。浄化されるべきヒロインを最後まで登場させないことは大きな賭けだったと思うのだけど、その不在故に夕歌の運命の持つ悲劇性が更に際立つという離れ業に昇華していてビックリ。やるなあ。構造的に多少強引な部分はあったにせよ、伏線の設定と回収が丁寧になされているのでトータルで見てみると悪くない仕上がりだったと思う。

さて、ここまで脇役に甘んじてきた琴吹さんが、遂に物語の表舞台に!あまりに直球ストレートなツンデレキャラだったので、実はなにか裏があるんじゃないのって、下衆に勘ぐっていたわたしだったのだけど、ホントに健全でいい子だったのでちょっと安心。とりあえず琴吹さんは長年の片思いが通じて良かったね。この先は茨の道の予感だけど。[2007/08] ⇒次巻

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安達ヶ原の鬼密室 [歌野晶午] ★★★ 講談社 講談社文庫 (\752) [Amazon]

安達ヶ原の鬼密室

少年の日に見た惨劇が一人の男の人生を変えてしまった。太平洋戦争中、幼い梶原兵吾は道に迷い鬼屋敷と呼ばれる一軒家に迷い込む。屋敷には老婆が一人。突然の鬼の出現に兵吾はショックを受けるが老婆は見間違いだと取り合わない。そこへ逃亡中の米兵を追跡する松永伍長の一隊が訪れる。それは七人が惨殺される安達ヶ原の鬼密室事件の始まりだった。

2003年刊行。2000年にノベルズで出ていた作品 [Amazon] の文庫版。他シリーズで登場する探偵八神一彦(未読)が登場。うーん、これは読む順番を間違えてしまったかも。

無性に密室モノが読みたくなって購入。おもちゃを空井戸に落として困ってしまった子供の話。留学先のアメリカで猟奇殺人に巻き込まれる女子高生の話。戦時中、謎めいた屋敷に迷い込んだ少年が連続密室殺人に遭遇する話。サラ金会社の社長が別荘で愛人と殺害された話。以上四つの物語が収録されている。それぞれの物語は独立していて、内容や、登場人物の被りは無し。共通するのはトリックが同じだったということ。四つの話でそれぞれ幹となるトリックが共通なわけで、ミステリとしての難易度はかなり低い。バレバレだろそれは。くどすぎる。

タイトルに惹かれて購入したので、まず最初に「こうへいくん」の話が始まったときには驚いた。正直「安達ヶ原の鬼密室」以外のエピソードは別になくても良かったのではないかと思うが、それだと作品がボリュームが足りなかったのだろうか。長編一本を書けるだけのネタでは無かったということかな。[2007/08]

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