2007年10月

書籍名
作家名
出版社
価格
コメント
お薦め度
グレイ・チェンバー 小川一水 集英社 \762
いかにもな初期作品。
★★☆
刹那の魔女の冒険 関田涙 講談社 \1,200
実験失敗って感じ。
★★★
刀語 第十話 誠刀・銓 西尾維新 講談社 \1,100
ペンギンちゃんの安否が気になる。
★★★
蘆屋家の崩壊 津原泰水 集英社 \1,500
豆腐がとても美味そうだよ。
★★★☆
マリア様がみてる
薔薇の花かんむり
今野緒雪 集英社 \438
さて三年生編はあるのか?
★★★
天帝のつかわせる御矢 古野まほろ 講談社 \1,540
ところで二条警視正は無事なのでしょうか??
★★★☆
グラン・ヴァカンス
廃園の天使I
飛浩隆 早川書房 \1,600
大原まり子や神林長平の初期作品に似た雰囲気を感じる。
★★★☆
天帝の愛でたまう孤島 古野まほろ 講談社 \1,540
修野さんに命令されたい。
★★★☆
あだたら卓球場
決闘ラブソング
野村美月 エンター
ブレイン
\640
合唱王国福島。
★★★
悪魔の涙 ジェフリー・
ディーヴァー
文藝春秋 \848
スピーディな展開。
★★★☆
神宮の森卓球場でサヨナラ 野村美月 エンター
ブレイン
\640
"文学少女"を読む前に。
★★★☆
ユーゴスラヴィア現代史 柴宣弘 岩波書店 \660
複雑な歴史的経緯をコンパクトにまとめた。
★★★☆
不気味で素朴な
囲われた世界
西尾維新 講談社 \850
イラストが既にネタバレな件。
★★★
インシテミル 米澤穂信 文藝春秋 \1,600
西島大介の表紙絵は必要あったのかな。正直微妙。
★★★☆
復活の地 I 小川一水 早川書房 \720
熱いぞ今回も。
★★★★

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グレイ・チェンバー
[小川一水] ★★☆ 集英社 ジャンプジェイブックス (\762) [Amazon]

グレイ・チェンバー (ジャンプ・ジェイ・ブックス)

雫森高校三年一組の教室に突如として出現した謎の生命体ネイバー。級長の如月そよぎは辛うじて侵入者を撃退するが、それは悪夢の日々の始まりを意味していた。絶えることのないネイバーたちの襲来に、三年一組はクラス総力での攻防を強いられることになる。敵の力は強まる一方。次第に疲弊していくクラスメイトたち。戦いの果てに待つものは!?

2000年刊行。小川一水初期の作品。ジャンプジェイブックスでは、河出智紀名義で1996年10月に『まずは一報ポプラパレスより』 [Amazon] を上梓していて実質的にはこれがこの作家の処女作。続いて『まずは一報ポプラパレスより2』 [Amazon] が1998年の4月に出ておりこれが河出智紀名義では最後の作品になる。その後朝日ソノラマから小川一水名義で『アース・ガード』 [Amazon] が刊行され以後はこのペンネームで活動していくことになる。

タイトルの「グレイ・チェンバー」とは直訳すれば灰色の入れ物。転じて学校、教室を意味している。味気ない灰色の学園生活も、ふとしたことから輝け得る日常に転化させることが出来る。いかにもジャンプレーベルらしい、友情・努力・勝利の三原則に忠実な内容で、可もなく不可もなし。際立ったところの無い、これといって褒めるべきところが見つからない作品。いかにも言われて書きました的なサービスシーンまであって、駆け出し作家の苦悩が忍ばれる。装丁のセンスも最悪でかなり可哀想。小川作品全部集めようとしている人間でもなければ、この作品はスルーでいいと思う。[2007/10]

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刹那の魔女の冒険 [関田涙] ★★★ 講談社 講談社ノベルズ (\1,200) [Amazon]

刹那の魔女の冒険 (講談社ノベルス)

人気小説『ヴィッキーの隠れ家』の続編が十年ぶりに発売される。自らのニックネームの由来となった作品の復活に心躍らせるヴィッキー。しかし刊行記念サイン会の場で惨劇は起きた。作者関田涙は無惨な惨殺死体となり果て、あろうことか刊行されていた本の内容が消えてしまう。事件を解く鍵は物語世界の中に?二人のヴィッキーの対決はいったい何をもたらすのか。

2004年刊行。女子高生名探偵ヴィッキーちゃんシリーズの三作目。本作は異なる二通りの読み方が出来るように書かれている。

(1)指定された章のみを読む
(2)最初から最後まで全部読む

片方の読み方をしてしまうと、もう片方の読み方では二度と読めなくなる。いきなり重大な決断を迫られることになる。これは難しい選択だ。購入から三年悩んだ末に(笑)、結局最初から最後まで全部通して読むことにした。

本作では漢数字の章と、算用数字の章が交互に綴られていく形式になっている。漢数字の章は既刊二作『蜜の森の凍える女神』『七人の迷える騎士』に似た設定の殺人事件を翻案したかのような内容。でも内容もトリックも違っている。そして算用数字の章は作家関田涙殺人事件についての真相解明編。作品の造りがメタ構造になっている旨は最初に提示されていて、それぞれの章の記述が作品全体の中でどのような意味合いを持つのか、その場面がどの階層に属しているのか(2)の読み方を選択した場合、そんなことも考えながら内容を捉えていく必要がある。って、面倒くせー。

現実世界ではあり得ない殺され方をした、関田涙の死の真相を追い求め、虚構の世界へ乗り込むヴィッキーちゃんと主人公。書かれた世界に書いた側が乗り込むのはまだ理解出来るにしても、書かれた側が、書いた側に干渉出来るのはあり得ないのでは?訪問先の虚構世界はなんちゃってファンタジー世界なので、これまで普通のミステリ作品だと思ってこのシリーズを読んできた人間にとってはものすごい違和感。非常に読みにくい。虚構世界にもヴィッキーちゃんが居て、元のヴィッキーとの区別がこれまた実に紛らわしい。意図的にやっているのだろうけど、単にリーダビリティを下げているだけのように思える。

結果的に本作はこの作家自らのデビュー作ヴィッキーちゃんシリーズを、自身で葬る結果に終わっている。勇気ある決断だと思うが、かけた手間と志の高さのわりには内容が伴わなかったのが哀しい。[2007/10]

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刀語 第十話 誠刀・銓 [西尾維新] ★★★ 講談社 講談社BOX (\1,100) [Amazon]

刀語 (第10話) (講談社BOX)

虚刀流の遣い手鑢七花と、奇策士とがめは陸奥百刑場に居た。そこはかつて、大乱を企てた謀反人飛騨鷹比等最期の地であった。鷹比等の忘れ形見とがめの胸中を複雑な想いがよぎる。十本目の変体刀誠刀・銓を守護するのは仙人彼我木輪廻。かつてない「意識」の戦いを強いる難敵に七花は苦戦する。そして誠刀の探索を一任されたとがめもまた、自らの内なる敵と戦うことになる。

2007年刊行。シリーズ10作目。全十二冊。毎月刊行。遂に大詰め。うーん、でも盛り上がらない。

四季崎さんと否定姫の関係とか、飛騨鷹比等と鑢六枝との関係とか、なんとなく見えてきて物語の構造が判りやすくなってきた。残り二冊だからそろそろ風呂敷を畳みにかからないと。今回、彼我木輪廻から示唆された「戦わないことで勝利と同等の価値を得ることが出来る」とはなにかの伏線なのか。正直あんまり盛り上がっていないのだけど、ここまで読んでしまったから最後まで付き合わなくては。いい意味で期待を裏切ってくれることを祈りたい。[2007/10] ⇒次巻

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蘆屋家の崩壊 [津原泰水] ★★★☆ 集英社 (\1,500) [Amazon]

蘆屋家の崩壊

大学時代の同級生泰有離子の家を訪れたおれと伯爵。十年ぶりの再会は思わぬ事件を引き起こして……。中世の陰陽師蘆屋道満から続く旧家蘆屋家の崩壊を描いた表題作をはじめ、ふとしたきっかで出会った女に追い回される恐怖「猫背の女」、不幸ばかりが続く群馬の寒村にまつわる因縁話「ケルベロス」、計七編を収録した怪奇短編集。

1999年刊行。津原泰水は元「津原やすみ」。講談社X文庫ティーンズハートで30冊程度の著作がある。元は少女小説家としてスタート。1989年の『星からきたボーイフレンド』 [Amazon] が処女作。1964年生まれ。ずっと女性だと思っていたけど、男性だった。作品を読んだら一目瞭然なのだが、十年近く勘違いをしていた。1996年に少女小説の執筆からは手を引いており、津原泰水名義では1997年の『妖都』 [Amazon] が最初の作品となっている。以後は主にホラー小説の分野で活躍中。

表題作はポオの『アッシャー家の崩壊』 [Amazon] が元ネタ。『蘆屋家の崩壊』のタイトルセンスが自分好みで、津原泰水はけっこう前から気になっていたのであった。本作は30歳を過ぎて定職につかずぶらぶらしている猿渡(作者がモチーフか)と、怪奇小説作家の通称伯爵(同じく怪奇作家の井上雅彦がモデルか)の二人が体験する不思議な出来事を綴ったホラー短編集となっている。

結論から言うと、なんでもっと早く読まなかったんだろうと大後悔。民俗要素を盛り込んだ和テイストのホラー群はいずれも趣向を凝らした力作揃いで、貪るように最後まで読み終えてしまった。陰のあるヒロインたち、読み手の五感を喚起してやまない湿り気たっぷりの文章、自虐混じりの主人公の語り口も悪くない。あまり作品が多い人ではないようなので、これから一気にそろえていこうかと思う。

ちなみに脳内補完イメージは冬目景でずっと読んでいた。これ彼女の絵で漫画化したらイケるような気がする(まあ、無理だろうけど)。[2007/10]

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マリア様がみてる 薔薇の花かんむり
[今野緒雪] 
★★★ 集英社 コバルト文庫 (\438) [Amazon]

マリア様がみてる 薔薇の花かんむり (コバルト文庫 こ 7-55)

これまで語られることの無かった瞳子の秘密を知り、祐巳は改めてスールの約束を交わすことを心に誓う。しかしロザリオの授受を果たすべく、いさんで登校したものの、なかなかタイミングがつかめず思うように物事は進まない。一方、リリアン女子大への進学を決めている筈の祥子が、何故かこのタイミングで猛勉強を開始。果たしてその真相は??

2007年刊行。マリみて26作目。祐巳の妹探しエピソードは前々巻で決着が付いていたとはいえ、今回で完全に終了。ま、エピローグみたいなもんやね。祥子の前でのロザリオ授受にしんみり。うーん、しかし蓉子さまから連綿と受け継がれてきた、ロサ・キネンシスの誇りがよりにもよってドリル女に(アンチドリルなわたし)。改めて紅薔薇姉妹勢揃いの表紙絵を見て感無量である。乃梨子ちゃんの涙にもしんみり。

演劇部部長にようやく名前とビジュアルが用意されていた!瞳子を巡る対決シーンも、まったく引かない堂々たる祐巳の姿に惚れ惚れ。立場が人を育てるの好例ですな。高城典(つかさ)さんの出番が今後もありますように。なむなむ。このままかませ犬で終わらせないで欲しいぞ。

そして三年生を送る会へ。愛すべき静かなる平穏な日常。三年生と過ごせる最後の時間が淡々と綴られていくまったり感は実に素晴らしい。さて、事ここに至って祥子が企てているのはいったい何なのか。今更外部進学の可能性を示唆してきたのはフェイクと個人的には予想したい。微妙な引きを残しつつ次回へ続く。このままだと祐巳たちの三年生編もアリなのかな。[2007/10] ⇒次巻

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天帝のつかわせる御矢
[古野まほろ] ★★★☆ 講談社 講談社ノベルズ (\1,540) [Amazon]

天帝のつかわせる御矢

古野まほろは満州帝国帝都新京に居た。戦況の悪化に伴い、日本へ帰国することになった彼に超特急あじあ神武号の乗車券が用意される。旧友柏木との再会。その悦びに浸る間もなく、彼にはとある使命が課せられる。伝説の間諜「使者」と接触せよとの修野嬢の命令が意図するものは何か?時を置かずして発生した列車内での密室殺人にまほろたちは巻き込まれていく。

2007年刊行。シリーズ二作目。前巻のお話の結果として、満州送りとなってしまった我らが破廉恥主人公古野まほろ君が、日本へ戻ってくるまでのお話。異常なまでのルビの多用。一般人置いてけぼりのオタク用語の濫用。ほとんど壊れている主人公。終盤での超絶展開。とにかくあらゆる意味で濃かったあのお話の続編が早くも登場である。今回は超豪華列車殺人事件だ。

まず、ここで設定について確認(笑)。1990年代のお話のようだけど、この物語は通常とは異なる歴史を経ている。満州国は東西に分かれながらも未だ健在で、西はロシア寄り。東(満州帝国)は日本寄りか?東西満州は交戦状態にあり、西が優勢で東の首都新京は陥落寸前の模様。そして沿海州には旧ロシア帝国の流れを汲む沿海州帝国が存在している。

樺太から間宮トンネルを通じて北海道へと鉄道路線が貫通しており、一方朝鮮半島とは対馬トンネルを通じて九州へと鉄道が貫通している。かくしてここに環大東亜特別急行が成立。かつての満鉄を彷彿とさせる環鉄は強大な権力を有しており、沿線の司法権すら所有している。環鉄の誇る超々豪華列車特別急行「あじあ」号が今回の舞台。ちなみにこの区間は新幹線も走ってるぞ。鉄な人にはちょっと嬉しい。あじあ号は9両編成で、客室は僅かに12室。採算度外視、環鉄のフラッグシップ的存在のようだ。しかしこの作者の設定オタクぶりは相変わらず凄い。

乗客は、皇族、閣僚、他国の爵位所有者、富豪令嬢、軍人、ジャーナリスト等々。基本セレブしか乗れない列車なので、庶民の主人公は著しく浮いている。既存キャラからは、頸草館高校吹奏楽部部長柏木君が登場。やっぱり常識人が一人はいないと話が進まない。前巻でファーストキスまで体験済の二人。主人公の柏木君への猛烈な愛の波動が心底気持ち悪い。恐るべしは両刀遣いである。

ミステリ的には、豪華列車での密室殺人を扱ったものとなっている。前巻の過剰装飾に比べると、意外にあっさりしていて楽に読める。オタクネタもちょっとだけ成分控えめ。同世代のキャラクターが激減して、青春小説としての要素が薄れていることも大きいかな。その分ミステリ部分に集中出来たのか、ミステリ作品としては前作よりもこちらの方が出来が良い。

今回も長い(600頁)だけあって、鉄道ミステリの要素をふんだんに取り込んでいて興味深い。豪華列車の殺人事件として忘れてはならないクリスティの『オリエント急行の殺人』 [Amazon] にきっちりと敬意を表しつつも、当然違う展開を用意。終盤の推理合戦は健在でこれがとても面白い。特に瀬見仁美紗嬢の展開した鉄道ミステリならではの推理は、大仕掛け過ぎてさすがに無理だと思うが、鉄オタ的には驚喜しそうな魅惑のトリックだった。

全体の90%は至ってまっとう。真摯にそしてロジカルに紡がれた本格ミステリ作品に仕上がっている。主人公のキャラクターが特殊過ぎるので読者を選ぶかもしれないけど、ミステリとして決して悪くはない出来だと思う。が、それも由香里ちゃんが登場するまでの話……。ああ、由香里ちゃん酷すぎる。一人死んでは地味にちまちま推理してって真面目に検証しながら話を進めてきたのが全て水泡に!この子が出てきた途端に阿鼻叫喚の地獄絵図が現出。瞬く間に死体の山が量産されていくのだけど、でもそれがイイ!前巻ラストの究極展開を見てきた読者は、いつ彼女が出てくるかとワクワクしながら待ち続けていただけに、期待を裏切らない暴虐ぶりに大満足。やはりこのシリーズはこうでなくてはなるまい。

終盤。伝奇小説モードに切り替わってからのめくるめく展開は相変わらずお見事。超人VS一般人ということで、どう考えても分が悪い柏木だったけどよく頑張った。親友が死にそうなのに、相変わらずリビドー全開で欲情している主人公も外道に徹していて良きかな良きかな。探偵行為が大好きな主人公に、それならば心ゆくまで探偵役を堪能させてあげましょう。好みの女の子もサービスでつけちゃうわ(はーと)。という由香里ちゃんの悪意てんこ盛りのお膳立てが痺れる。地味に積み重ねてきた探偵行為を完膚無きまでにたたき壊してみせるのは、これもアンチミステリ見せ方の一つなのかと感心してみたりして。[2007/10] ⇒次巻

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グラン・ヴァカンス 廃園の天使I
[飛浩隆] 
★★★☆ 早川書房 ハヤカワSFシリーズJコレクション (\1,600) [Amazon]

グラン・ヴァカンス―廃園の天使〈1〉 (ハヤカワSFシリーズ Jコレクション)

仮想空間上に作られたリゾート地<夏の区界>。訪問者たちは高額な対価を支払い、空白のロール(役割)を買い、仮想体験を楽しむ。仮想空間上の人口知能は彼らに奉仕するために存在していた。しかしある時から訪問者が途絶。一千年の長い年月。同じような夏の日々を繰り返し生き続ける人工知能たち。しかし永劫に続くかに思えた日々に終わりの時がやってくる。

2002年作品。ベストSF2002国内部門第二位の作品。取っつきが悪くてなかなか読めずにいたら、文庫落ち [Amazon] するわ、続編 [Amazon] は出てしまうわで、焦ってようやく読了した次第。

作者の飛浩隆は1960年生まれ。作家としてのキャリアは1982年からあるようだがほとんどが「SFマガジン」に掲載された中短編群。1992年から2002年までは一作も発表されておらず、これまで刊行作品はゼロ。知る人ぞ知るという類の伝説の作家だった。書籍として世に出るのは本作が最初の作品ということになる。これほどの才能がいままで日の目を見ずにいたとは恐ろしい。

永遠に続くかに思えた「夏休み(グラン・ヴァカンス)」の終焉を描いた物語。遺棄された仮想リゾート。夏休みの終わり。少年と少女の禁断の恋。なんだかもうあまりにツボ過ぎるガジェットの数々で、気付くとこの世界に強く惹きつけられてしまっている自分を発見。世界の過半を喪失しながらも絶望的な闘いを続けるAIたち。千年の夏が終わる瞬間。美しいものが、無惨に踏みにじられていく物語はなぜかくも魅力的なのだろう。

で、廃園に訪れた「天使」とはいったい何者なのか。侵略者ランゴーニすらも畏怖させる存在の正体とは?この物語の舞台が仮想世界であったことを考えると、比較的容易に想像が付くけど、安易なメタ展開にはして欲しくないところ。十年沈黙していた作家の割には、次回作は早かった。読者としてはありがたい。さっそく探してみるつもり。[2007/10]

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天帝の愛でたまう孤島
[古野まほろ] ★★★☆ 講談社 講談社ノベルズ (\1,540) [Amazon]

天帝の愛でたまう孤島 (講談社ノベルス フJ- 3)

絶海の孤島天愛島。頸草館高校吹奏楽部有志と生徒会による一団は、夏休みのひとときを過ごすためこの地を訪れていた。この島には隠れキリシタンによる莫大な財宝が眠ると噂されており、その在りかは古来より伝えられてきた祈歌にあるのだと云う。滞在初日。館とコテージに分かれて夜を過ごした彼らだったが、早くもその夜に異変は起きた。

2007年刊行。シリーズ三作目。このボリューム(今回も600頁超)なのに前作からの刊行間隔が僅か四ヶ月とは恐ろしい。背表紙の著者挨拶に「三部作が夢でした」とあるが、これでひとまず完結なのだろうか?ちっとも終わってないんだけど。高校生編は終わりってことなのかな。次回作まではしばらく時間が空くらしいので、破廉恥迷探偵まほろ君の活躍ともこれでしばしのお別れとなる模様。

今回のお題はクローズドサークル。南海の孤島天愛島が舞台となる。修野さんと栄子ちゃんが購入した天愛島。高校生で島所有って、そんなところに突っ込む人はもうこのシリーズを読んでいないだろうからその点はスルーで。天愛島はかつては津軽伯爵家の所有物。津軽家の断絶により修野子爵家に売却話が回ってきたらしい。

天愛島には外洋を航行出来る船舶が停泊できる港湾部。本館である天愛館部分。そして砂洲に作られたコテージ棟が存在する。この島には野生のマングローブ林が密生しており、それぞれの地域間は船舶でしか移動出来ない。河川には獰猛なピラニアが生息しており泳いでの移動も不可。もちろん徒歩での移動は不可という設定になっている。

過去二作では往年の名作へのオマージュ色を濃厚に押し出してきたこのシリーズ。館モノの今回は『そして誰もいなくなった』 [Amazon] や『十角館の殺人』 [Amazon] 『孤島パズル』 [Amazon] などなど、いにしえのクローズドサークルネタが続々と登場。ミステリオタとしてなたまらん展開だ。クローズドサークル下におかれた登場人物が、過去の名作群から今後の展開を類推するのは別に珍しいケースでは無いけれど、クリスティクラスの古典ならまだしも、綾辻や有栖川みたいな新本格期の作家まで引っ張り出されてくると、読んでいる自分も年を取ったなという気持ちにさせられる。「十角館」の登場からもう二十年も経ってしまったか。

序盤にかなり判りやすい伏線があるので、事件の動機部分についてはわりとバレバレ。だが、ミステリとしての構造は非常に精緻に組まれていて感心した。普通にミステリ作品として読んだら三作中このお話が一番読めるのではないかと思う。普通の人は一巻で挫折すると思うけど。ただ終盤の推理合戦が無かったのはかなり残念。期待していたのに。

密室殺人の謎解きについては満足のゆく解決を示したものの、埋蔵金や、天愛島そのものについての解決はあまりに急ぎすぎ。予想通りのトンデモ展開は、このシリーズだから許容範囲内なのだけど、ちょっと詰め込みすぎだったかな。なんだかとても勿体なかった。個人的にはそんなことよりも、由香里ちゃんの出番が無かったことの方が遙かに罪は重いけどね。

しかし毎回毎回、相も変わらず最後の最後になって全ての努力を踏みにじられ愚弄される探偵役が悲惨。至高界から探偵存在を嘲け笑うアンチミステリなふるまいは今回も健在なのであった。まほろをあんな役どころでしか使えないのであれば、そもそもこの島に連れてこなければ良かったと思うのだけど、それじゃ物語が始まらないんだろうね。[2007/10]

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あだたら卓球場決闘ラブソング
[野村美月] ★★★ エンタープレイン ファミ通文庫 (\640) [Amazon]

あだたら卓球場決闘ラブソング (ファミ通文庫)

紗恵の紹介でビアガーデンでのアルバイトをはじめた朝香。そこで出会った顔も性格も「フツー」の男山田に彼女はかつてないときめきを感じてしまう。それはもしてして恋?彼氏イナイ歴=年齢の朝香に遂に人生の春が訪れたのか。なんとかファーストデートにこぎつけたものの、事態は思わぬ方向に……。平凡そのものに見えた山田には想像を絶する秘密が!?

2003年刊行。卓球場シリーズの三作目。世界の危機を卓球で救う!書いている自分自身わけが判らない不思議設定のこの作品。毎回ありえないと思うのだが、独特のほんわかパワーでなぜか納得させられてしまう。今回はこれまで脇役に甘んじていた主人公(変な文章だ)が大活躍する。選ばれし戦士となり、人型のまま巨大化しつつパンツ丸みえで巨大ロボットと戦うという悶絶展開。相変わらずぶっ飛んでるなあ。

「あだたら」ってタイトルについているくらいだから今回は福島県が舞台となっている。ちなみに作者は福島出身。知る人ぞ知る話だが福島県はものすごく合唱が盛んな地域で全国最強クラスの団体を数多く輩出している。今回は作中に郡山の花かつみ女学院(=安積黎明高校)が登場。安積黎明高校は合唱界のPL学園とも言うべき超名門校で全日本合唱コンクール全国大会で27年連続で金賞というすさまじい記録を持っている。作中では福島県の合唱強豪校の皆さんが「静かな湖畔」を輪唱するなか最強魔神が復活。こんな脱力展開は普通の作家は絶対考えつかない。地元の人か、合唱ヲタしか判らないノリだと思うのだけど、個人的には笑い死にしそうになってしまったので評価ポイント☆一個分追加である。ヒロインの名前が浅香なのは、今にして思えば「安積(あさか)」とかけているわけか。

もちろんそんなマニアックな隠し味には気付かなくても、本作は十分楽しめる。女の子集団ならではの気安さ。楽しさ。理解しあえる部分。初めてのデートにかける女の子の意気込みの愛らしさなんかは読んでいて非常に微笑ましい。惜しい点を挙げるとすると、楓ちゃんのキャラが弱すぎる点だろうか。RHSVOのメンバーが多すぎる分、新キャラはどうしても扱いが弱くなってしまうのが残念。[2007/10] ⇒次巻

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悪魔の涙 [ジェフリー・ディーヴァー] ★★★☆ 文藝春秋 文春文庫 (\848) [Amazon]

悪魔の涙 (文春文庫)

大晦日のワシントンDC。無差別発砲事件を引き起こし、市民の命と引き替えに2,000万ドルを要求する犯人。しかし主犯と思われた男は交通事故であえなく死亡してしまう。野放しとなった実行犯を逮捕すべく、FBI捜査官マーガレットは、文書検査士パーカーを召喚する。四時間ごとに繰り返される乱射事件。二人はタイムリミットまでに実行犯を捕らえることが出来るのか。

2000年刊行。オリジナルの米国版は1999年刊行。リンカーン・ライムものではないディーヴァー作品を読むのは初めて。と思っていたらちょい役でライムは登場していた。ファンとしては嬉しいサプライズだろう。

タイムリミットは真夜中の0時。僅かな手がかりを元に犯人を追い詰めていくサスペンス作品。タイトルとなっている「悪魔の涙」とは筆記体の「i」の点の部分が涙滴状になっている特異な犯人の筆跡を指している。文書鑑定のプロフェッショナルである主人公の活躍は神がかっていて、少々ご都合的展開に過ぎるのではと思える部分も多々あるものの、テンポの良い展開で楽しく読めた。

ツッコミどころとしては、前科まである主犯の人物が、容易にそのような立場を得られてしまうのは無理があるのではという点(アメリカでは有りなのか?)。それから物語の経過時間が短か過ぎるので、主人公とヒロインの間に恋愛感情が芽生えるのがいくらなんでも早すぎるのではというところか。

それから、この作家はどんでん返しは三回以上やらなきゃダメ!って信条でもあるのか、終盤の過剰なまでの驚愕展開の連続には圧倒されるのだけど、毎回こういうパターンばかりだと、そろそろ飽きを感じてしまうのがスレた読み手の嫌らしいところ。何作か読んでいると、残りのページ数で予測出来てしまうんだよね。[2007/10]

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神宮の森卓球場でサヨナラ
[野村美月] ★★★☆ エンタープレイン ファミ通文庫 (\640) [Amazon]

神宮の森卓球場でサヨナラ (ファミ通文庫)

とうとう四年生になってしまったRHSVOの面々。卒論の口頭試問で久しぶりに集まった彼女たちだったがそこで思わぬ噂を聞かされる。華代ちゃんのフィアンセである葛城先生が謎の金髪美人と交際中?真相を確かめるべく尾行を開始した朝香たちだったが、あっさりと密会現場を目撃。謎の美女の正体は?そして伝えられた哀しい事実とは。

2003年刊行。シリーズ四作目。巫女装束姿のヒロインが卓球で世界の危機を救うトンデモストーリーの完結編。最後はこれといった強敵も登場せず。一冊まるまるかけてのエピローグ編。贅沢な終わり方である。

幸せな学生時代の終焉を暖かな目線で描く。妬みも無く嫉みも無い、そんないいことばかりの女子集団なんて存在するのかよと思うけど、まあ、それはそれで美しいファンタジーだと思って読めば◎。マイナス感情の出てこない話なので、暗黒系が好きな人には物足りないかな。幸せな学生時代を送った人に、もしくは幸せな学生時代を過ごせなかった人に読んで欲しい一冊(どっちだよ)。ああ、何だか目から暖かい水が流れてきたよ。"文学少女"シリーズ以前の、野村美月最高傑作という評判は伊達ではなかった。これどれくらい作者の実体験が入って居るんだろうね。[2007/10]

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ユーゴスラヴィア現代史
[柴宣弘] ★★★☆ 岩波書店 岩波新書 (\660) [Amazon]

ユーゴスラヴィア現代史 (岩波新書)

ユーゴスラヴィア内戦は冷戦終結後最悪の地域紛争となった。カリスマ的な指導者チトーを擁し、七つの国境、六つの共和国、五つの民族、四つの言語、三つの宗教、二つの文字、一つの国家と称され、複雑な構造を持っていた多民族国家はいかにして崩壊の途を辿ったのか。中世以降の歴史的経緯を踏まえながら読み解いていく。

1996年刊行。筆者は早大卒で現在は東大大学院の教授。先行は東欧地域研究。バルカン近現代史。出たばかりの頃に買って一回読んだもののほとんど内容を忘れていた。諸般の事情で再読。

まずは、備志録も兼ねてざっと要約。

中世から近代までハプスブルク帝国領土であったスロヴェニアとクロアチア。オスマン=トルコ領であったセルビア、モンテネグロ、マケドニア。そして両帝国の中間地帯であったボスニア・ヘルツェゴビナ。民族的にはスロヴェニア人、クロアチア人、セルビア人、マケドニア人、モンテネグロ人、アルバニア人、ハンガリー人、ドイツ人、トルコ人、ムスリム人などが混在。長い年月をかけて居住地域が混在。混血も進んでいたらしい。紛争の火種は何百年も前から用意されていた。

ハプスブルク、オスマン=トルコの帝政が揺らいでいく中で独立の機運が高まりまずはセルビアが独立。ハプスブルク帝国との摩擦が高まり、サラエヴォ事件が勃発⇒第一次世界大戦へ。この戦争ででセルビア人の29%(125万人)が死亡。 しかしハプスブルク帝国が第一次大戦で敗れたこともあり、王政ユーゴスラヴィアが誕生。この時の王はセルビア王アレクサンダル。クロアチアは一時独立を宣言するも国際情勢を鑑みて断念する。これが俗に言う第一のユーゴ。中心はセルビアだったが、圧倒的な力で建国にこぎつけたわけではなく、政治的な妥協の産物だった。

第二次大戦が始まるとドイツ軍が進駐しユーゴを分割占領してしまう。ナチス主導でのクロアチア独立国が誕生する。ドイツは国家支配に民族間対立を利用。クロアチア内部のセルビア人をクロアチア人の民族組織ウスタシャが組織的に虐殺(一説によると75万人が死亡)。これが後々に禍根を残すことになる。

民族が混在するユーゴ内で、当時唯一横断的な組織となり得たのが共産党だった。チトーを主導としたパルチザン組織が活躍しソビエト軍の力を借りながらもドイツ軍を駆逐。こうして第二のユーゴが誕生する。この時点で六つの共和国、二つの自治州からなる連邦国家だった。各国の権利は強大で、ユーゴはとても緩い連邦制だった。依然政府の主力はセルビア人ながらも、大統領のチトー存命中はギリギリバランスが保たれていた。逆に最大の人口を持ちながら、その力を抑制されてきたセルビア人には潜在的なストレスが溜まっていた。

ソ連が解体され東欧諸国の解放が進む中で、ユーゴは経済的に非常に遅れた地域となってしまう。チトーの死をきっかけにユーゴ崩壊が進む。 最初はセルビア内のコソヴォ自治州内でのアルバニア人の反乱から(1981年)。コソヴォはユーゴ内で最貧の地域で、この時点では民族間問題よりも、経済問題が主だった。

1987年。セルビアの大統領にミロシェビッチが就任。ユーゴ国内は長年、北部(スロヴェニア、クロアチア)の方が南部(セルビア、モンテネグロ、マケドニア)よりも経済水準が高く、ミロシェビッチはセルビア主導による連邦制の強化(緩い連邦制の廃止)で、セルビアの優位性を高めようとした。

これに対してスロヴェニア、クロアチアは危機感を強め、1991年に独立を宣言。ユーゴからの分離を企図。独自の軍事組織を構築し始める。各国にはセルビア人主体のユーゴ連邦軍が駐留しており、これがそれぞれの国の武装勢力と衝突。かくしてユーゴ内戦が本格化する。

スロヴェニアは比較的国内のスロヴェニア人比率が高く(91%)、小規模な十日間戦争を経て独立を確保。クロアチアは人口のクロアチア人比率は78%。国内少数(12%)のセルビア人はクロアチアの独立に反発。第二次大戦時の虐殺の記憶が蘇り内乱がエスカレートする。ボスニア内戦はこのクロアチアでの民族問題が飛び火。もともとハプスブルク、オスマン両帝国の狭間の地域で民族の混合が進んでいた地域で、更にムスリム人という第三の民族の存在もあり情勢は更に悪化。それぞれの民族が強制収容所を作り虐殺を展開する最悪の状態に入っていく。

セルビア、モンテネグロは1992年に新ユーゴスラヴィアの建国を宣言。 そして国連やNATOによる介入が始まる。セルビア、クロアチア両陣営による、世界各国に対するプロパガンダ作戦がスタート。クロアチアのプロパガンダの方が成功しセルビア悪玉論が強まる。1995年NATOによるボスニア空爆開始。総計3,000回を越える出撃。ボスニアは内部にセルビア人共和国を抱え込むことで辛うじて和平が成立する。

とても要約が長くなってしまったが、だいたいこんなところか。1996年時点での刊行なので、実はまだこの内戦の全貌を書き切れていない。当時はまだ辛うじてセルビア、モンテネグロによる新ユーゴスラヴィアが存在していたが、2006年に解体され完全にユーゴスラヴィアという名の国は消滅している。そしてコソヴォ問題は現在でも解決していない。その後10年の状況についてはwikipedeiaの関連項目を半日かけて読みふけることでようやく理解。現代史は難しい……。

一口にユーゴ内戦といっても、地域によって内戦の原因が違い、戦っている民族も異なり、理解するのがかなり難しい。半世紀もの期間、便宜上とはいえ同じユーゴスラヴィア人として暮らしてきた隣人同士が、どうしてこのような憎悪をたぎらせた最悪の内戦状態に陥ってしまったのかは、日本人には正直理解しがたいものがある。やはり地続きで別の国がある世界という状況はものは緊張度が違うのだろうか。

この地域の特徴が俯瞰出来る良書だと思う。限られた誌面でコンパクトに判りやすく説明されている。ただ、NATOや米国の関与の影響についてはもっと書いて欲しかった。ユーゴ関連本は90年代前半に出たモノはたくさんあるのだけど、90年代後半の状況を書いてくれている本が少ないようなので、現在良い本が無いか物色中。ちなみにクロアチア側のプロパガンダを請け負っていたのはアメリカの広告代理店らしく、こちらについては 『ドキュメント戦争広告代理店』 [Amazon] が、詳しいらしいので、これから読んでみる予定。既に確保済だ。[2007/10]

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不気味で素朴な囲われた世界
[西尾維新] ★★★ 講談社 講談社ノベルズ (\850) [Amazon]

不気味で素朴な囲われた世界 (講談社ノベルス ニJ- 20)

上総園学園に入学した串中弔士は、校内随一の奇人、病院坂迷路に出会う。静かなる人払い令の異名を持つ彼女の周囲からはいつしか人が消えていくのだと云う。その魅力に惹かれ迷路の元へ通い詰める弔士。校内に暗然たる影響力を持つ奇人三人衆との交流はいつしか危険なものへと変貌していく。そして起きた殺人事件。時計塔に隠された秘密とは……。

2007年刊行。『きみとぼくの壊れた世界』の続編というか、姉妹編。世界観を共有した作品。こちらはノベルズ版だが、同時に講談社BOX版 [Amazon] も出ている。紛らわしいけど内容は同じ。違いはイラストの有無。それからあとがきが違うのだとか(未確認)。いつものことながら講談社の考えることはあざとい。前作最萌キャラ病院坂黒猫がなかなか出てこず、ファン的にガッカリだったのだが、ラストで登場してくれていちおうは満足。次は黒猫さまメインで書いて欲しいぞ。

西尾作品にはよくあることだが、相変わらず鼻持ちならないような壊れたキャラしか出てこない。特に主人公は最悪で身近にいたら絶対殴っているだろう。冷めていたり、ひねくれているだけならまだしも卑怯属性が付与されているのが最低。こんな12歳の子供がいたらホントに嫌だろうな。ま、それだけ読者に嫌悪感を与えることに成功しているのだから、そこは作者の狙い通りってところか。

とにかくキャラ立てが命。超天然の姉。身内でも常に敬語な主人公。絶対に嘘しかしゃべらないろり先輩。そして最初から最後まで一言もしゃべらない病院坂迷路!毎回毎回変人を考えるのも大変だ。しかしながらキャラ立てに神経遣いすぎて、本筋が見失われがちなのはいかがなものかと。会話を省いたらほとんど内容が残らないのではなかろうか。

結局一言もしゃべらなかった病院坂黒猫のキャラ造形については正直うまく機能しなかったかなという印象が強い。極端に無口な替わりに表情が豊かなのはいいとしても、いくらなんでも物語の謎解きまで表情だけで表現するのは無理だろ。実はこの人存在なんかしてなくて、主人公の妄想脳内キャラなのか?って叙述トリックも疑ったのだけど、さすがにそれは考えすぎだった模様。陰薄かったね。[2007/10]

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インシテミル [米澤穂信] ★★★☆ 文藝春秋 (\1,600) [Amazon]

インシテミル

時給11万2千円の超高額報酬に惹かれてやってきた12人の男女。謎の男に招じ入れられたのは奇怪な地下施設暗鬼館だった。先が見えない曲線だらけの通路。鍵のかからない12の個室。それぞれに与えられた異なる凶器。主催者は彼らに何をさせたいのか。そして告げられる恐るべきルール。戦慄の七日間がいま始まろうとしていた。

2007年刊行。書き下ろし作品。学生モノが多いこの作家にしては珍しい一般?ミステリ作品。こういう本格ネタのお話も書けるのね。

期間は一週間。衣食住は保障される。他人を殺害すると報酬2倍(効果は累積する)。殺害されると報酬1.2倍。事件を解決すると報酬3倍(効果は累積する)。そんなルールが設定され、参加者たちに殺し合いが強いられる。連れてこられたのは経済的に追い詰められた状態にある人間たち。なにせ時給11万2千円の破格な報酬が更に二倍三倍になるわけで、この特集状況下で人間は一体どうなるの?というお話。

面白いのは「解決」は当事者間での多数決で正否が判断されること。必ずしも正解である必要はなく、場の空気を読むことが大事。そして参加者のほとんどがミステリに通底しているわけではなく、ミステリオタク的な解釈は逆に身の危険を招くということ。今時クローズドサークルモノをやろうとすると、こういう変化球が要求されてしまうのか。ミステリファンとしてはとしては楽しく読めた一冊。どう考えても続きがありそうなので<明鏡庭>事件を早く![2007/10]

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復活の地 I [小川一水] ★★★★ 早川書房 ハヤカワ文庫 (\720) [Amazon]

復活の地 1 (ハヤカワ文庫 JA)

念願の惑星統一を果たし、宇宙進出を目前に控えていたレンカ帝国を未曾有の大地震が襲う。首都トレンカは一瞬にして壊滅的打撃を受け、国会開催中の議事堂は崩壊。皇族、政府閣僚、有力官僚たちの大多数が死亡してしまう。偶然首都に帰還していた植民地総督府の官僚セイオは、生き残りの官僚中、自身が最高位であることを知らされ愕然とする。

2004年刊行。ベストSF2004国内部門第三位の作品。小川版『日本沈没』 [Amazon] で『首都消失』 [Amazon] とも言える災害復興シミュレーション小説。関西大震災、関東大震災からネタを拾っているっぽい。かつて真保裕一は公務員を主人公とした小役人シリーズの書き手として知られたが、SF界でもっとも公務員を主人公に使っているのが小川一水だろう。今回は現場の人間ではなく、キャリア官僚(帝国高等文官)を主人公に据えている点が新しい。

空前の大惨事の後、困難な大都市復興事業に挑戦していく人々の戦いを描いた熱い熱い物語。主人公の想定モデルは関東大震災後の帝都復興院総裁だった後藤新平あたりではないかと思われる。ここまで私心の無い、公僕としての生を全うしようとする堅物人間はフィクションの中にしか存在し無さそうだが、理想の公務員を描こうとする心意気を買いたい。

高皇を最上位とする君主制の国家体制といい、再三政治に横やりを入れる強大な陸軍、労役のために強制連行された被征服民族ジャルーダ人の存在、虎視眈々と進出の機会を狙う星間列強等々、トレンカを取り巻く状況は戦前の日本の状況に極めて近い形に擬せられていて、非常に判りやすい反面、少々パクリ過ぎなのかなと冷めてしまう瞬間もあり、ちょっと加減が難しい。

第一巻の見所は主人公セイオが、僻地に飛ばされていたが故に、唯一難を逃れた第四皇女ハルハナミア内親王スミルに面会するシーン。皇族相手でもタメ口という傲岸無比なこの男が、膝を屈して摂政位への就任を請う下り。これ、作品の冒頭部分の場面なのだけれども、その後の大震災の惨状やセイオの性格が判ってくるにつれて、いかに血を吐くような魂の叫びであったかが実感出来てくるのだ。これを最初に持ってきたのは大正解だった。

既に全三冊読了してしまっているのだけど、まだ書き足りないので巻ごとに感想を分けることにした。次回は政界やら軍部とのドロドロとした足の引っ張り合い編だ。[2007/10] ⇒次巻

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