復活の地 II [小川一水] ★★★★ 早川書房 ハヤカワ文庫 (\720) [Amazon]
レンカ帝国首都トレンカは未曾有の大震災により一夜にして灰燼に帰した。帝国摂政位に就いた内親王スミルは、植民地総督府の一官僚に過ぎなかったセイオを復興院の総裁に大抜擢する。中長期的な視野を持ち、壮大な首都復興計画を推し進めるセイオだったが、強引過ぎるやり方は政府首脳や軍部、そして市民すらも敵に回してしまう。
2004年刊行。エスエフ仕立ての大都市災害復興シミュレーション小説の第二巻。前巻からの二ヶ月後の刊行。ちなみに最終の第三巻はこの二ヶ月後に出ているので、もともと書き終えていたものを、適当な間隔を空けて刊行していたっぽい。
空前絶後の被害を出したトレンカでも、喉もと過ぎればなんとやらで、緊急時が過ぎれば日常のドロドロとした足の引っ張り合いが戻ってくる。皇権を廃した民主政府を作りたい首相サイテン。陸軍の発言力を高めたいグレイバン。御輿として担がれているだけで権力からは遠ざけられているスミル。これに星間列強諸国の蠢動や、被征服民族ジャルーダ人たちの思惑まで絡んでくる。様々な陣営の利害が複雑に絡み合う中、主人公セイオが理想の都市再生事業に邁進しようとして、そして頓挫するまでが今回のお話。
やはり小川一水は2003年〜04年あたりから化けはじめたね。込み入った状況が上手く書けている。一見、悪者に見えがちなサイテンやグレイバンにも彼らなりの大義があることをきちんと書いているのは好印象。お飾りの摂政位につけられていたヒロインスミルが、様々な事件を通じて次第に成長していくところも見所なのではないかと。[2007/11] ⇒次巻
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復活の地 III [小川一水] ★★★★ 早川書房 ハヤカワ文庫 (\720) [Amazon]
地方都市で起きた余震に巻き込まれセイオとスミルは消息不明に。その間隙を狙ったサイテンによって政府中枢の権力を掌握されてしまう。復興院を解体され、権力者の地位を追われたセイオに驚くべき知らせがもたらされる。100日後に再度の大震災が発生するというのだ。星間列強の侵攻を怖れ、積極的な対応を取ろうとしない政府。予期された災害に対して彼らが取るべき手段とは。
2004年刊行。大都市災害復興シミュレーション小説の最終巻。今回明らかにされる震災の真の理由はいかにもエスエフ的。旧世界のオーバーテクノロジーが残した重力兵器と来たか。確実に予期できる大地震なんて設定はこうでもしないと難しいのだろうけどね。復興院を骨抜きにされ、権力基盤を失った主人公が、再度起きるとされる大災害に対していかに立ち向かうのか。見事なまでに燃える展開を最後に持ってくる手腕はたいしたもの。
連絡体制が寸断され、ありとあらゆるイレギュラーな事態が同時多発的に発生する状況下では、従来の縦型組織は機能しない。冗長性を持った横型のフラットな組織をいかにして構築できるか。関西大震災などの最新の震災体験をベースに、今できるモアベターな震災対策とは何なのか。市民ベースでの下からの連携。異なる組織同士の日常的な交流。きれい事に過ぎる部分は多々あるにしても、壮大なテーマに対して答えを出そうとする姿勢は立派。
目の前で生死の危機を迎えつつある市民よりも、十年百年先の国家の安泰を優先しようとしたサイテンの考え方は、結果として裏目に出てしまったとはいえ政治家の判断としては決して悪とは言い切れない。お話としては悪者扱いの側面が強くなってしまったけど、もう少し彼の存在には救済措置を残して欲しかったところ。重いテーマなので今回はあまり突っ込んで書いていないのだけど、立憲君主制と民主制の是々非々については、また別の作品で書いてくれることを期待したい。
物語としてのカタルシスの訴求も当然は忘れてはいない。一年前の震災で役立たずだったトレンカ都令シンルージの大活躍。星間列強の侵攻に備えるため災害対応そっちのけで前線に出される陸軍兵士たち。遂に伝家の宝刀を抜いて親政を宣言するスミル。そして最大の見せ場は、スミルの危機を知りながら公僕の立場を遵守するあまり、持ち場を離れようとしないセイオが部下にぶん殴られるシーンか(笑)。巻の後半は熱すぎる展開がてんこ盛りで一瞬たりとも目が離せない。熱いなあ。熱すぎる。泣かしどころは無数に設定されていて、涙腺の弱い人間は相当泣かされること請け合い。ホントにこの人上手くなったね。[2007/11]
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主婦長谷部麻美の人生は平凡ながらも満足の出来るものの筈だった。しかし彼女は焦燥に駆られるかのように複数の男たちの体を貪りつつづける。下半身に感じる執拗な掻痒感は性病によるものなのか。そして男の一人が変死を遂げる。全身をブルーベリー状の出来物で覆われた無惨な最後だった。麻美は次第に精神を狂気に蝕まれていく。
2005年刊行。第32回メフィスト賞受賞作品。初出は携帯サイト「THE NEWS」の小説コーナー('05年1月〜3月)。刊行されているのが2005年4月なので上記の携帯サイトでの掲載と、講談社への持ち込みの前後関係は不明。ちなみに「THE NEWS」はニュースサイトなのでケータイ小説を配信しているサイトとは異なる。携帯での連載作品なので、一章あたりの分量が短く会話が多用されているきらいはあるにしても、いわゆるケータイ小説の類とは一線を画す内容となっている。って、ケータイ小説を蔑み過ぎかな。
ごくフツウの主婦が性感染症により特殊な寄生虫に蝕まれ、肉体的にも精神的にも、社会的にも壊れていく物語。焦燥感たっぷり。終始追い詰められているかのような、ねっとりとした文体が特徴的。寄生虫描写のエグさには命を賭けていて、この気持ち悪さは特筆に値する。カバーデザインまで徹底していて、寄生虫に冒された人皮を想起させるような「ツブツブ」がカバー上に表現されている。内容的には貴志祐介の『天使の囀り』 [Amazon] に比較的近い読後感か。基本バイオホラーだけど、ミステリとしての仕掛けも施されていて、正直あんまり上手とは思えないが、その志は買いたい。[2007/11]
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各務原氏の逆説 [氷川透] ★★★ 徳間書店 徳間ノベルズ (\819) [Amazon]
リョウは私立秀青高校に通う高校二年生。所属する部活は軽音楽部。使用楽器はピアノ。同級生の死に疑問を抱いた彼は独自に調査を開始する。その死は自殺なのか他殺なのか。はたまた事故であったのか。調査に行き詰まったリョウは用務員の各務原氏のアドバイスを受けることになる。各務原氏による論理的な推理の帰結とはいったい……。
2004年刊行。氷川透七作目の作品。私立秀青高校軽音楽部シリーズ?ともいうべき作品で続編の『見えない人影』 [Amazon] も出ているようだ。タイトルになっている各務原氏は元商社マンのリストラ組で、何故か用務員をやっている人。28歳。ロジック派。
「チェスタトンも真っ青」とかミスオタを煽るようなコピーをつけているわりに表紙はラノベテイスト。どの層に売りたいのかがチグハグだ。200ページ前後の程ほどのボリューム。いくつか事件は起きるが、謎そのものは多くなくミステリとしても学園小説としてもいささか食い足りない。
ちなみにラストで明かされるチョイネタは、熱心な氷川ファンでないとついていけない。桑折(こおり→氷)亮(とおる book0711.html →透)というネーミングは、後の氷川透(『真っ暗な夜明け』の主人公)という仄めかしなのか。検索して調べてやっと判ったよ。[2007/11]
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神山高校伝説の秘密クラブ女郎蜘蛛の会にまつわる一幕「やるべきことなら手短に」。数学教師尾道は何故授業の進度を間違えたのか「大罪を犯す」。日本旅館に出現した首吊りの影の謎「正体見たり」。一風変わった校内放送から導かれる驚くべき仮説「心当たりのある者は」。全七編を収録した短編集。神山高校古典部の一年間の日々を綴る。
2007年刊行。古典部シリーズの四作目。ヒロイン千丹田えるの可憐さに悶え苦しむ巻である。「野生時代」「ザ・スニーカー」等の雑誌に掲載された作品を集めた短編集。最後の「遠まわりする雛」だけ書き下ろしとなる。
単独でももちろん読めるが、より味わい深く楽しむのであれば既刊三作は絶対に読んでおくべきだろう。ミステリとしては日常の謎系のお話。各編は有名ミステリ作品(or作家)へのオマージュとなっているようだけど、海外ミステリの素養が無い自分には「心あたりのある者は」が『九マイルは遠すぎる』 [Amazon] であるくらいしか判らず。少々悔しい。が、今回はミステリ色は弱め。青春小説、学園小説としての側面が強い。
緩やかな時間の流れ。日々のうつろい。田舎の一年の四季の描写が美しく読み手の心にしみてくる。神山高校のモデルは、やはり作者の原体験が投影されているのだろうか。米澤穂信は岐阜出身らしいので、ビジュアル的には『白線流し』 [Amazon] 的な光景をなんとなくイメージしてしまう(あれの撮影地は長野だけど)。この物語は主人公奉太郎の一人称視点なので、あくまでも高校一年の男子高校生の感性が捉えた形で描写されていく。ラスト「遠まわりする雛」での千反田なんて、その気になればいくらでも美しい言葉を使って飾ることが出来ただろうに、あえて抑えた表現に留めることで、いつもと違う千反田の姿に言葉を無くしている奉太郎のとまどいが上手く出せていた。結果として素朴ながらも瑞々しい表現になっていて感心した。
最後の「遠まわりする雛」は、これまでずっとこのシリーズを読んできた読者にとってはハッとさせられる一作だろう。こっち方面に切り込んできたか。タイトルもよく考えてみると意味深で、二重三重に裏読みが出来て奥深い。遠まわりするのは千反田の不器用な生き方なのか、それとも奉太郎との今後の関係の行く末を暗示しているのか。己が変わることなど無いと思っていた奉太郎に対して、躊躇いなく真摯な気持ちをぶつけてきた千反田。この先が気になる。とても気になる。
しかしながら、この話を書いているのはビターエンドの魔術師(勝手に命名)米澤穂信なので、この先がどのように話が転ぶか非常に不安。とんでもない鬱エンディングを用意しているんじゃなかろうか。ビターな展開は小鳩クンたちに任せて、こちらではベタでもいいのでハッピーな帰結を切に願うよ。[2007/11]
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刀語 第十一話 毒刀・鍍 [西尾維新] ★★☆ 講談社 講談社BOX (\1,100) [Amazon]
奇策士とがめと虚刀流の遣い手鑢七花は新・真庭の里を目指していた。それは毒刀・鍍を手にしたまま乱心、逃亡を図った真庭忍軍の長、真庭鳳凰を追いかけてのことだった。伊賀の地にて相まみえる七花と鳳凰。精神を乗っ取られた鳳凰が告げる、驚愕の真実とは。十一本目の変体刀を巡る対決が、倒すべき最後の敵の存在を指し示す。
2007年刊行。十二ヶ月連続刊行の十一作目。大詰めの筈なのだがイマイチ。
この期に及んで、ここまで出てきた刀の説明とか、まにわにの人たちの解説とかいらないだろ。これまで十冊かけてこの話を追いかけてきた読者相手にする話ではなかろう。ページ稼ぎとしか思えない。栗本薫かお前は。毎月新刊を出す労苦は大変なのだとは思うが、量産しすぎで、質が劣化しては意味が無い。単なる設定を垂れ流すなよと。
さてこれで残り一冊となったわけだが、鳳凰の人にあの男を憑依させたまま、あの男の人格で葬ってしまったけどそれでいいのか?左右田クンとのつながりやら馴れ初めも明かされてないのに。結局鳳凰の人は何がしたかったのやら。どう考えても変なので、実は生きているを予想したい。
全く盛り上がらない中、辛うじて興味をつないでくれる引きがラストに用意されている。とがめよ「この戦いが終わったら〜」は死亡フラグだってば![2007/11] ⇒次巻
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スラッシャー 廃園の殺人 [三津田信三] ★★★ 講談社 講談社ノベルズ (\860) [Amazon]
狂気のホラー作家廻数回一藍が残した廃墟庭園<魔庭>。しかし作家は奇怪な状況の中失踪。興味本位で忍び込んだ学生カップルは惨殺体となって発見される。そして数年後。この地へ怪奇ビデオ撮影のために訪れた一行を悪夢が襲う。際限の無い悪意が凝縮された庭内。解き放たれた殺人鬼。犯人の目的は何なのか。最後に残された者が知る戦慄の真相とは。
2007年刊行。三津田信三作品を読むのはこれが初めて。三津田信三は2001年にデビュー。作家本人と同姓同名の三津田信三が登場するシリーズと、作家刀城言耶が活躍するシリーズが著作の過半を占めているが、本作はそのどちらにも該当しない。シリーズ物はどうしても刊行順に読みたくなるから、手っ取り早く三津田作品を知るには本作は適しているのかもしれない。
ホラー映画を全く見ないので恥ずかしながら知らなかったのだが、ホラー映画の世界には「スラッシャーモノ」というジャンルが存在するらしい。謎の殺人鬼によって登場人物が一人ずつ順番に殺害されていくスタイルを指す。そんなのミステリの世界でも沢山あるじゃんと言いたくなるが、ミステリのそれが犯人特定、殺害方法、殺害理由などに論理的な解法が求められ、犯人捜しが物語の主体となるのに対して、ホラーの世界ではいかにして残虐な形で登場人物を殺害するかに重きが置かれ、必ずしも論理的な解法は必要とされない。『13日の金曜日』 [Amazon] が判りやすい例だろうか。狂気の作家が残した廃墟庭園に乗り込んだ撮影班が、殺人鬼にぎったぎったに殺されていくホラーミステリーとなっている。グロ描写NGな人は避けた方が賢明。
露骨に怪しい説明口調の台詞が連続したり、稚拙としか思えない表現が頻出したりと、そりゃあんた叙述トリック疑って下さいと言わんばかりでしょうと。ホラー作品のように見せながらも、ミステリとしての仕掛けはきっちりと仕込んであるのは悪くない。「映画撮影」という観点からの仕掛けも評価すべきだとは思うけど、いかんせん仕掛けの文章が稚拙過ぎて読むに耐えないのが勿体ない。
それからせっかくこういうグロ話を書くのであれば、殺害シーンはもっとディテールに凝って欲しかった。あっさり殺しすぎ。綾辻行人の『殺人鬼』 [Amazon] くらいの嫌悪感は抱かせて欲しいもの。[2007/11]
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13世紀。フランス南部オクシタニア地方。猖獗を極めたアルビジョア派異端に対して、教皇インノケンティウス三世は十字軍の結成を呼びかける。オクシタニアの中心都市トゥールーズ。有力商人の息子に生まれたエドモンの人生は激震に見舞われる。殺到する北仏諸侯たち。蹂躙されていく南部都市群。人々の運命を変えた二十年の歳月を綴る歴史小説。
2003年刊行。長い長いよの書き下ろし2,400枚。フツウの長編小説六冊分だ。出たばかりの頃に買ったのに積読すること四年。ようやく読めた。サトケンお得意のフランスモノ。今回のテーマははアルビジョア十字軍。相変わらず渋すぎるテーマチョイス。イカス。世界史愛好者なら心の琴線を揺らされるお題であろう。
十字軍と聞くと、ヨーロッパ諸侯がこぞって聖地エルサレムを取り戻しに攻めていく戦いだと考えがちだけど、アルビジョア十字軍はフランス南部オクシタニア地方にて猛威をふるっていたアルビジョア派(カタリ派)の異端を滅ぼすために組織された異色の十字軍だ。当時のフランスは形ばかりのフランス王家は存在するもののその力が及ぶのはパリ近郊のみ。それ以外の地域は完全な群雄割拠状態だった。パリを中心とした北部は耕作可能な土地が少ないため非常に貧しく、逆にトゥールーズを中心とした南部は経済的に豊かで文化レベルも高かった。異端を撲滅したい教皇側と、南部の富を奪いたいフランス王の思惑が結びつき十字軍は組織されていく。 繁栄を謳歌したオクシタニアが異端撲滅の大義名分の下に、フランス軍によって蹂躙され滅びていく四半世紀の日々をオクシタニア側から描く。
南部フランスの人々の話し言葉が、関西弁として表現されているのが、ものすごい違和感。ああ、フランスのイメージが……。いいのかこれで。これは最後まで慣れなかった。また、地名表記も北部と南部で異なり、トゥールーズは南部読みだとトロサ。カルカソンヌはカルカソナ。作中でも状況に応じて使い分けがされているので、最初はついていくのが大変だが、幸い地図と人物表がおまけで挟み込まれているので読むときは常時傍らに置いておくことをお奨めしたい。
メインの人物は四人。まずはフランス側の初期指揮官であったシモン・ド・モンフォール。あれ、って思った人は世界史通。イギリスで活躍した有名な同名人物はこの人の息子らしい。平凡な田舎領主が十字軍に担ぎ出されて、神懸かり的な勝利を重ねるうちに人格が変貌していくさまを描く。第一章は彼の視点で描かれている。
二人目はトゥールーズの有力者の息子として生まれたエドモン。最愛の妻がアルビジョア派の教えに傾倒し出家してしまい人生が暗転。復讐のためにドミニコ会の異端審問官として再登場する。異端を燃やしまくる。心躍る設定だ。第二章と第四章は彼が主役。プロローグとエピローグにも登場する。全編を通じての主人公と言えるだろう。
続いてラモン七世。薔薇色の都と呼ばれたトゥールーズを治めるトゥールーズ伯。野心家で相応の能力もありながら時の運に恵まれず。しかし、単に悲劇の人物としては描かれていなくて、狡猾にして好色。滅びの美学を知る複雑な性格の人物として描かれている。サトケンはこういうキャラの描き方が上手だな。第三章と第五章の主役。
最後はエドモンの妻ジラルダ。名歌の娘に生まれながらも夫エドモンとの関係性に悩み異端に走る。アルビジョア派の出家信者、完徳女としてエドモンを生涯悩ませる。奔放過ぎる電波行動の連続にただただ唖然。悪意がない分よけいにたちが悪い。『傭兵ピエール』 [Amazon] に出てきたジャンヌを思い出させるキャラクター。最終章は彼女の視点から描かれる。
前半は戦記モノとして展開されるが、後半はエドモンとジラルダ夫婦の切っても切れない腐れ縁のような愛情の相克を描く形に変容していく。最後まで戦記モノとして読みたかった部分もあり、ちょっと残念。終盤の戦闘シーンがあっさりしすぎているんだよなあ。最終章はアルビジョア派終焉の地モンセギュールが舞台。画像を見たけど、雰囲気ある場所なので、サトケンがここに行って霊感を授かってしまったのは納得。
妻を救いたいエドモンと、自らの信仰に殉じようとするジラルダ。というか、最後は信仰云々じゃなくて、壮大な夫婦喧嘩で終わってしまったような気もするが、まあ、これはこれでアリかな。相変わらずのサトケン節で、最後は読者の涙を絞り尽くす。やるな。でも、お前らイチャイチャするのいいけどこの時何歳だよ(笑)というツッコミは野暮かしらん。[2007/11]
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六月はイニシャルトークDE連続誘拐 私立霧舎学園ミステリ白書
[霧舎巧] ★★★ 講談社 講談社ノベルズ (\760) [Amazon]
霧舎学園は六月を迎えていた。図書委員の中込椎奈から、図書室に謎の書籍「私立霧舎学園ミステリ白書」が存在することを知らされ琴葉は衝撃を受ける。残された謎の図面とメモが意味するものは一体?正体不明の誘拐犯によって拉致されてしまった琴葉たちは、無事に監禁場所から脱出することが出来るのか。そして意外な犯人とは。
2002年刊行。霧舎学園シリーズの三作目。金田一少年や名探偵コナンみたいな話を小説でもやりたい!って趣旨で書かれた霧舎学園シリーズの三冊目。コミックから入ってきたミステリファン予備軍を小説の世界へ牽引したいという狙いが背景にはある模様。全十二冊になる筈。
前回からずいぶん間が空いてしまった。現状7冊目の「10月」分まで刊行済。最初の四冊まではいいペースで出ていたようだけど、最近では二年に一冊というスローペースに陥っている。いい加減ネタ切れなのかな?同著者の『カレイドスコープ島』のB面というか続編のようなお話になっているので、出来ればこちらも読んでおいた方がよいだろう。
三人を同時に誘拐するのはいくらなんでもリスク高すぎだろう。ここまで凝ったトリックを仕掛けなくても、他に方法あるんじゃないかと思うけど、この手のお話でそんな実現性云々を突っ込むのは無粋なんだろうなあ。誘拐モノのバリエーションとして一つの可能性を提示したことには意味があるかもしれない。しかしラブコメ部分の描写を鬱陶しいと感じてしまう自分は、そもそもこのシリーズに向いていないような気がする。[2007/11] ⇒次巻
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天涯の砦
[小川一水] ★★★☆ 早川書房 ハヤカワSFシリーズJコレクション (\1,500) [Amazon]
軌道ステーション<望天>で致命的な大事故が発生。分離した第四扇区は繋留中の月往還船<わかたけ>と共に軌道を外れ漂流を始める。ブロックの内部には奇跡的に生き残った生存者が10名。しかし事故の衝撃で通信機は故障し、外部に救援を求めることは不可能だった。大気圏への突入コースを辿る第四扇区。果たして彼らは無事に生還することが出来るのか。
2006年刊行。ベストSF2006国内部門第三位の作品。小川一水描くところの宇宙災害モノ。早々に救援活動は打ち切られ、満足な食料もなく、空気は減り続ける。周囲を取り囲むのは悪魔のような真空。宇宙空間という人間が生きていくのにおよそ不向きな劣悪な環境下で、主人公たちが生への可能性を模索していくさまを描く。
生き残りの10人はステーション及び係留中の宇宙船内にバラバラに取り残されスタートする。彼らを繋ぐ通路は破損により通行不能になっていたり、真空状態であったりと容易には合流することが出来ない。内部での連絡手段も限られており、エアダクトを通した肉声による会話がメインとなる。ブロック内には宇宙服や、各種工具、医療品、食料等の有益なアイテムが点在しているが、必ずしもそれを扱える能力を有するものの側にあるとは限らない。といった限定状況の中、有限であるアイテムと人員を駆使して、いかに脱出への道を見つけるか。定番のテーマなのでこれは作家の腕の見せ所ですな。
残された10人の職業は医師、科学者、軌道業務員、災害オペレータ、学生、子供と様々。医者は貧乏人に高額請求して顰蹙を買って逃げてきた男だし、科学者は訳ありクンで、軌道業務員は落ちこぼれ、学生三人はどいつもこいつも人格曲がり過ぎと、ひねくれものばかりが残っているのが面白い。そして内部には邪悪な意思を持った妨害者が一人。この作者の燃える設定を作り出す力はいつもながら素晴らしい。
少々主人公のキャラクターが弱いかなって気もするけど、逆に強くて賢い包容力に溢れたスーパーマンキャラだったら幻滅だったろうから、これで正解なのだと思う。能力的にも、人間性的にも決して優れているとは言えない登場人物たちが、時に協力し合い、時に反目し合いながらも、生存の道を模索していく姿は非常に読み応えがあった。小川一水、こういうお話も書けますか。もはや日本SF界には欠かせない作家に成長したな。[2007/11]
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闘鬼 グインサーガ116 [栗本薫] ★★☆ 早川書房 ハヤカワ文庫 (\540) [Amazon]
タイスの水神祭はついに大詰めをむかえていた。凄惨な戦いのすえ、女闘王の称号を得たリギア。そうそうに敗退し、逃亡の準備に余念がないブラン。そしてグイン扮する闘王グンドは順調に勝ちすすみ、不敗の大闘王ガンダルへの挑戦権を得る。大観衆の見守るなか、グインとガンダル、最強をかけた世紀の大一番の幕が切って落とされる。
2007年刊行。VSガンダル戦。退屈きわまりなかったタイス編の唯一の興味がこれ。いちおうシリーズの本当に初期の頃から最強戦士のひとりとして、名前だけは出ていたキャラだから、この戦いはそれなりに読む価値アリ。が、それ以外の三章は例によって、水神祭の描写にひたすら終始。いい加減、読者にドン引きされていることに気づいて欲しい(前の巻でも同じ事書いてたよw)。って、気付く能力があったら、そもそもこんなグダグダ展開にはなっていないのだろうけど。
ようやく次でタイス編は終わりらしい。今回出番の無かったマリウスの処置はどうするつもりなのだろうか。[2007/11] ⇒次巻
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ドキュメント戦争広告代理店 [高木徹] ★★★☆ 講談社 (\1,800) [Amazon]
ユーゴスラヴィア紛争は冷戦後最悪の内戦となった。独立間もないボスニア・ヘルツェゴビナは国際社会からの支持を勝ち取るためにアメリカのPR会社と契約を交わす。それは情報操作によるもう一つの戦争の始まりを意味していた。対セルビア戦の命運を分けた情報戦の顛末を描きながら、もはや必要不可欠の存在となりつつあるPR会社の実態について迫っていく。
2002年刊行。2000年の10月に放映されたNHKスペシャル「民族浄化〜ユーゴ・情報戦の内幕〜」をベースにしたノンフィクション。筆者はNHKのディレクターで、本作により第一回新潮ドキュメント賞、第24回講談社ノンフィクション賞をダブル受賞している。ユーゴスラヴィア内戦におけるセルビアの悪玉イメージを決定づけたのは、実際に現地で行われたことの是非や戦争の勝ち負けではなく、アメリカのPR会社の存在だったという衝撃的な内容となっている。
流すべき情報と、流してはいけない情報を取捨選択し、効果的に実力者にそれを届ける。映像映えしそうな人間をスポークスマンに仕立て上げ、服装、喋り方、話す内容に至るまで徹底的に演出しサポートしていく。政治の世界でも、興業の世界でも当たり前のようにやっているPR活動だが、それが戦争の局面においても同様の事が行われていた。言うなれば、電通みたいな会社が全社をあげて、戦争の情報戦サポートをしているような状態だろうか。
本来であれば国家機関が行うようなプロパガンダ活動を民間会社が担い、なおかつ他国の仕事も平気で受けるというのは、さすが超大国アメリカ。一昔前の共産圏だったら死刑なのでは?PR会社は形を変えた現代の死の商人でしか無いわけだが、グローバル化が進む一方の世界情勢の中で、経験豊富な専門家の需要はこれからも減ることは無いだろう。筆者曰く、日本の外務省はこの手のプロパガンダが致命的に不得手であるらしい。喜ぶべきことなのか嘆くべきなのか。[2007/11]
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リバーズ・エンド 1〜5
[橋本紡] ★★★ メディアワークス 電撃文庫 (1・4巻\530/2巻\570/3・5巻\550)
[Amazon:1巻/2巻/3巻/4巻/5巻] ※1・3巻は書影無し
携帯に突然届けられた一通のメール。それは見知らぬ少女からのメッセージだった。「あなたの町に海はありますか?」そんな言葉から拓己と唯との交流は始まる。遠く離れた町に住む、顔も知らない少女に拓己は次第に心惹かれていく。それが彼らにとって最も幸福な時間であったことを二人は知るよしもなかった……。
2001年から2003年にかけて刊行された作品。橋本紡の三作目の作品となる。自分としては初めて読む作家だ。
偶然メル友になった女の子がなんと自分の学校に転校してきたんだけど、実は秘密が……、という導入部。一巻だけ読むとわけがわからない。ヒロインの唯は一巻で早々に表舞台からは退場してしまい、二巻からはスクールと呼ばれる隔離施設が舞台になる。『最終兵器彼女』 [Amazon] なのかと思ったら頑張るのは彼氏の方でどうやらプチ『エヴァンゲリオン』 [Amazon] な話らしい。
主人公とヒロインには世界を救う力が与えられているしかし、ヒロインは序盤に起きた事件の後遺症で意識不明の寝たきり状態。責任を一身に背負わされプレッシャーに押しつぶされそうになる主人公。昏々と眠り続けるのヒロインを揺り起こして弱音を吐くあなたは、どこの碇シンジ君ですか。それ以上の行為に至らないだけシンジ君よりはマシだけど(笑)。
話が大きい割には出てくる大人は数人だけ。人類の興亡を左右するような大問題の筈なのに、社会的な背景はほとんど描かれない。敵と戦う部分も非常に概念的で判りにくい。典型的なセカイ系のお話だ。自分(&ヒロイン)⇒世界の危機が直結されていてその間にあるものについては語られることがない。世俗的な嫌なことは極力切り捨てて、自分にとって心地よい設定を考えつく限り盛り込んでみましたという中高生男子的な妄想ワールド、ここにきわまれりである。
それでも別に面白ければいいんだけど、二人が出会わされた理由、ヒロインが殺されそうになる理由、わざわざ街一つ核まで使って破壊した理由が全く不明。一巻であれだけ盛り上げたのだから、広げた風呂敷はしっかり畳んで欲しいもの。一巻と二巻以降の断絶を最後まで埋めることが出来なかった印象が強い。
二巻以降のスクールでの生活描写は悪くない。実験動物として飼われている少年少女たちの閉塞感溢れる心理描写は良かったと思う。更に盛り上げるなら、彼らの中から第二第三の犠牲者を出せば面白かったのにと考えてしまうのは冷たすぎだろうか?ほとんど寝たきりのヒロインよりも、夏海や遙たちの方が出番が多かった分キャラが立ってるんだよなあ。[2007/11] ⇒次巻
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楽団員七人を惨殺。狂気のヴァイオリニスト加賀蛍司が築いたファイアフライ館。怪奇スポット探索サークル、アキリーズクラブの面々は、館を買い取った先輩の佐世保左内に招待されこの地を訪れる。十年前の惨劇の夜そのままの状態が保存されている館内で、再び悪夢はくり返されるのか。そして館に秘められた忌むべき秘密とは……。
2004年刊行。このミス2005年版国内第11位の作品。麻耶作品だがメルカトル鮎や美袋クンは出てこない。ちなみにファイアフライとは「蛍」のこと。
三人称の視点と思われる人物を誤認させるテクニックがお見事。叙述トリックが仕掛けられていることは容易に想像がつくのだが、それがどこだか判らない。ヒントはあるのだがまったく気付かずに最後までいってしまった自分に絶望。相当にあからさまなヒントが沢山あったのに。思わずもう一回読み返したくなった。
それからもう一つ。とても使い古されたテクニックを表裏裏返して繰り出されている。作中人物には自明の事が、読み手には巧妙に判らないように伏せられているというケースはよくあるけどその逆をやってこようとは思わなかった。この仕掛けがある分だけ、犯人へたどり着くのが難しくなっている。三人称視点誤認トリックだけでも十分なインパクトがあるのに、更なる仕掛けを盛り込んできたサービス精神の旺盛さに拍手。実に贅沢な作品だと思う。
雨だれの音までもが一定のメロディになるよう調整されているファイアフライ館は素敵過ぎ。聞くだけで皆殺し衝動を呼び起こす暗黒の八重奏曲「夜奏曲」は是非一度聞いてみたいものだ。って、聞いちゃうとヤバイんだろうけど。[2007/11]