2008年1月

書籍名
作家名
出版社
価格
コメント
お薦め度
黎明に叛くもの 宇月原晴明 中央公論新社 \2,400
まあ、その信長にしてもアンドロギュノスなのでw
★★★★
"文学少女"と月花を孕く水妖 野村美月 エンター
ブレイン
\600
避暑地に三つ編みの白ワンピ少女を歩かせるのは反則過ぎ!
★★★☆
犬は勘定に入れません
あるいは、消えた
ヴィクトリア朝花瓶の謎
コニー・ウィリス 早川書房 \2,800
どう考えても主役はプリンセスアージュマンドです。
★★★★
黙過の代償 森山赳志 講談社 \1,030
これはいかがなものかと。
★★☆
まずは一報
ポプラパレスより
河出智紀 集英社 \760
小川一水デビュー作。
★★★
まずは一報
ポプラパレスより II
河出智紀 集英社 \762
地味。
★★★
僕僕先生 仁木英之 新潮社 \1,400
ツンデレ気味の僕僕ちゃんがけっこうかわいい。
★★★☆
砂糖菓子の弾丸は
撃ちぬけない
桜庭一樹 富士見書房 \500
どうでもいいけど境港市に山はあるのか?平地だらけだぞ。
★★★☆
氷結の魂 上 菅浩江 徳間書店 \757
ヴィルの決断は泣ける。
★★★☆
氷結の魂 下 \757
南方署強行犯係 狼の寓話 近藤史恵 徳間書店 \810
近藤史恵はこの手のジェンダーネタ好きだな。
★★★
シュガーな俺 平山瑞穂 世界文化社 \1,400
1日1,800カロリーで生きていくのは相当しんどそう。
★★★
近頃、気になりませんか? 新井素子 講談社 \648
さすがにネタが古い。
★★★
コールドゲーム 荻原浩 新潮社 \667
主人公が空気なのがちょっと。
★★★
ラーゼフォン 時間調律師 神林長平 徳間書店 \590
まったくの別物に。
★★☆

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黎明に叛くもの [宇月原晴明] ★★★★ 中央公論新社 (\2,400) [Amazon]

黎明に叛くもの

大永二年。京の街に野望に燃える二人の若者がいた。青年庄五郎と少年久七郎は後の世の斉藤道三、松永久秀となる。戦国の日輪足るべし、天下を二分せんと誓い合った二人は、権謀術数を駆使して時代の濁流を果敢に乗り切っていく。しかし若き天才織田信長の台頭が彼らの人生に陰を落とす。天下を取れなかった男の妄念が妖しくも美しく蠢動する。

2003年刊行。宇月原晴明三作目。美しい装丁に惚れ惚れ。このハードカバー版が出て、わずか三ヶ月後に四分冊のノベルズ版 [Amazon] が出ている。これって当初からの予定通りだったのか?ノベルズ版はC-NOVELSから出ているので、ラノベテイストなカバー絵が笑える。久秀爺さんの美爺ぶりにときめいてもらうでござる(刀語風な煽り)。現在では文庫版 [Amazon] も出ているのでこちらが一番入手が容易だろう。

2008年はこのお話からスタートである。長い、長いぜの588ページ。個人的に神認定している宇月原晴明なんだけど、勿体なくてなかなか新しい作品が読めないでいるのだった。

主人公は戦国きっての妖将松永久秀。信長をして、この老人は余人をもって替えがたい三つの偉業(将軍足利義輝弑殺、主家三好家に叛逆、東大寺大仏殿焼亡)を成し遂げたとリスペクトされていた凄い武将だったりする。物語は、生まれも定かでない松永久秀が、同じく戦国の梟雄であった美濃の蝮こと斉藤道三と、実は異教の暗殺教団の兄弟弟子であったという設定で始まる。この二人、暗殺術の奥義を全て受け継ぎ、直接戦闘はもちろん呪術、妖術の類も無敵クラス。それでいて歌舞音曲にも通じ、そしてなによりも二人とも凄絶な美少年というものすごいアリアリ設定だ。伝奇小説たるものやはりこれくらいの無理を押し通して欲しいもの。

天下を二人で分け合おうと誓って、かたや畿内の三好家、かたや美濃の土岐家にそれぞれ奉公し、もってうまれた才能で底辺から這い上がっていく。屍山血河の果てに、国持大名にまで成り上がるが、その時彼らは既に壮年に至っていた。そして尾張には若き天才、時代の寵児織田信長が現れる。久秀らは自らが戦国の世の日輪たらんと若き日を過ごすのだが、いずれ自身が日輪ではなく、数多ある星の一つでしかないことを思い知らされていく。真の日輪(信長)の登場に対し、明けの明星にたとえられた久秀が、日輪(黎明)の登場に際しても、なおも消えずに輝きを放とうとするさまがタイトルに込められた意味となっている。無性に燃える展開だよなあこれは。

兄弟子、道三は信長の登場で、あっけなく自身の限界を悟る。娘を信長に娶らせ、美濃一国の譲り状まで書いてしまう。しかし、兄道三の悟りを理解できない久秀(還暦越えた爺さん)は「兄者はオレのことだけ見ててくれなきゃ嫌嫌嫌嫌!!」とだだをこねまくる、とにかくこねてこねてこねまくる。というのが物語の要旨。いい年こいて、どんだけ道三ラブなんだよ久秀よ。

と、あらすじだけぶっこぬくと身も蓋もないお話に見えてしまうのだけど、これが宇月原晴明的伝奇フィルターを通すと、あら不思議、血湧き肉躍り、浪漫と幻想に溢れる妖かしのお伽絵巻になってしまうんだからスゴイ。金髪碧眼、少女の姿を持つ傀儡「果心」を操る久秀。これを室町末期、伝説の妖術師果心居士の伝説と被せてくる力業。そして松永久秀と言えば平蜘蛛の茶釜。この戦国超重要アイテムを、異教の記憶改竄装置として仕立て上げていく奇想が素晴らしい。

大器信長の太っ腹ぶりがこれまた良いのだ。何度叛かれても、既成観念破壊の先駆者としてリスペクトしている久秀爺さんを許してしまう信長。あの冷酷な信長が、どうして久秀だけには甘かったのか。空想の翼を広げてみるとこんなお話しになりましたというのがこの物語。換骨奪胎しまくっているけどいちおう史実ベースに、枝葉をつけた内容なので、多少なりとも戦国時代の知識があるとより楽しめるかと。なお、外伝作品『天王船』 [Amazon] が出ているらしいのでこれから確保に走る予定。こちらはノベルズ版に収録されていた短編をまとめたものらしい。[2008/01] ⇒外伝

ついでに…… 
『伊賀忍法帖』@山田風太郎 [Amazon]
 <<松永久秀の悪のカリスマぶりを堪能したい人はこちらへゴーである。

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"文学少女"と月花を孕く水妖
[野村美月] ★★★☆ エンターブレイン ファミ通文庫 (\600) [Amazon]

“文学少女”と月花を孕く水妖 (ファミ通文庫 の 2-6-6)

姫倉麻貴の別荘に拉致されてしまった遠子からの強引な誘いにより、心葉は避暑地での夏休みを過ごすことになる。古びた洋館には陰惨な記憶がいまなお残っていた。美しき"令嬢"、突然訪れた"学生"、そして池に棲む"怪物"。全ての条件が揃ったとき、八十年前の皆殺しの惨劇は再び繰り返されるのか。新たな物語を仕組んだ麻貴の狙いとはいったい……。

2007年刊行。シリーズ六作目。前巻のあとがきで次は夏の番外編だっていうから、肩の力を抜いて読めるギャグ中心の短編集だと思っていたら全然違うじゃん。本気も本気、最終の七巻へと続く、静かなるも熱く哀しい伏線孕みまくりのハードな内容だった。「天野遠子、生涯最高の夏であった」みたいなテロップが最後に入ってもおかしくないくらい。遠子先輩と心葉のもっとも美しい時間はこの夏で既に終わっていたということなのだから。

今回のお題は泉鏡花の『夜叉ヶ池』 [Amazon] 。読んだことは無いのだが、戯曲作品なので、リアルの芝居で二回見たことがあったので内容は判る。時系列的には二巻、蛍ちゃんのお話の後。

八十年前に起きた猟奇殺人事件の謎解き&憑き物落としのお話。二巻でもそうだったけど今回は本当に憑き物を落とすべき対象者が居ないところがミソ。当時の関係者は全て故人なので、解き明かされた謎のもたらした衝撃は、今を生きる人々の心に澱となって静かに降り積もっていくのみ。深読みはいくらでも出来るのだけど、メタファー大好きのこの作品としては、秋良とゆりの関係を、遠子先輩と心葉の関係に置き換えて考えると、多少なりとも前向きな気持ちになれて吉なのではないかと思われる。遠子先輩に悲劇的な未来が宿命づけられているのはもはや明らかなわけだが、ゆりの選んだ未来を重ね合わせてみたときに仄かな希望が垣間見えてくるのではと妄想したい。

しかし太文字部分の書き手が誰であるかという点が気になる。心葉であるように見えて、秋良であるように思える部分もあり難しい。両者の視点が混ざっているのか?狡猾な叙述トリックが仕掛けられている予感もしてちょっと現段階では判断が付かない状態だ。でも最後の太文字部分を読む限りでは、先輩エンドはありえない模様。この引きで、三ヶ月待たせるのは酷いよ。

余談ながら、麻貴先輩のお相手は高見沢さんに一票。流人クンだとちょっと直球過ぎるというか、彼の好みからも違っている気がするので。[2008/01]

ついでに…… 
『夜叉ヶ池』『外科室』も共に青空文庫に収録されているので興味のある方は是非。いずれもうっとりとするような美しい文章だ。

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犬は勘定に入れません あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎
[コニー・ウィリス] 
★★★★ 早川書房 (\2,800) [Amazon]

犬は勘定に入れません…あるいは、消えたヴィクトリア朝花瓶の謎

時間旅行が可能となった未来のイギリス。戦災で焼亡したコヴェントリー大聖堂の調査を続けるネッドは、責任者のミス・シュラプネルが厳命する「主教の鳥株」の捜索が思うようにいかず疲労困憊。事態をみかねたダン・ワージー教授はネッドをゆっくり休めるヴィクトリア朝の時代へと送りこむ。しかし時間旅行ボケのために、ネッドは大事な使命をすっかり忘れてしまっていて……。

2004年刊行。オリジナルの米国版は1998年に刊行されている。ヒューゴー賞・ローカス賞受賞。日本では「このミステリがすごい!2005」海外部門第九位、「SFが読みたい2005」海外部門で第三位にそれぞれランクインしている。慟哭の名作『ドゥームズデイブック』の姉妹作なので未読の人はこちらも是非読むべし。ダン・ワージー先生お久しぶりです!

ヴィクトリア朝時代のイギリス。本来死んでしまう筈のネコを、時間旅行中のヒロインが衝動的に助けてしまったことから歴史の流れに歪みが発生してしまう。出会うべきであった二人はチャンスを逃し、出会うべきでない二人が出会ってしまう。齟齬は連鎖を続け、遂には第二次大戦の帰趨をも左右することに……。物語は歴史の流れを元通りに戻そうとする主人公カップルの悪戦苦闘を中心に展開していくのだが、彼らの行為そのものが新たな歴史の齟齬となる場合もあって、事態の修正は容易にははかどらない。時空連続帯の危機が迫る中、主人公は正しい歴史を取り戻すことが出来るのか、というのがおおまかな本作の内容。

『黎明に叛くもの』を一日で読めた自分をもってしても、これを一日で読むのは無理があった。段組で540ページは伊達ではなかったよ。コニー・ウィリス作品だからというわけでは無いのだろうけど、今回も導入部での取っつきにくさには閉口させられた。ヒロインのヴェリティが出てきてからはポンポン話が進むので、それまではじっくりヴィクトリア朝のイギリスの雰囲気を味わいながら、のんびり急がずまったり読み進んだ方が良いかもしれない。

まったりと進むヴィクトリア朝の時間。貸しボート。運河。がらくた市。厳格な階級社会。降霊会とインチキ霊媒師。性に関しての話題はタブーで、独身女性は一人歩きすら許されなかった時代。素晴らしきかな大英帝国の最盛期。十分にページを割いているだけあって雰囲気作りは十分。現代から見ればおおらかに過ぎるように見えるヴィクトリア朝時代の人々がとても魅力的。読み終えるのが惜しいと思えた作品は久しぶりだ。

事態を改善するのにはどうすればいいのか、判っているのにいつも邪魔が入って目的を果たすことが出来ない。ハプニング続きで、徹底的に気を持たせるストーリーテリングの冴えっぷりがもはや職人芸。ちょっとした脱線や、些事にすぎないと思えたエピソードもきちんと本筋に絡んでくる。こういう複雑で込み入った話を書けるひとはどれくらい推敲して書いているのだろうか。キーアイテムとなる「主教の鳥株」はどこにあるのか。どうして消えたのか。そんなミステリとしての楽しみと、歴史は変えることが出来るのか、時空連続帯はいかにして平衡を保とうとするのか、エスエフとしての楽しみを共に満足させてしまう剛腕には痺れるしかない。

これまでに読んだ『ドゥームズデイブック』『航路』に較べて悲惨な箇所が微塵も無い、最初から最後まで明るく楽しい誰も死なない娯楽作品として終わったことも評価したい。このシリーズは、今後も続編があるようなので楽しみだ。訳者はやっぱり大森望だろうか?このシリーズは古典からの引用が多いので、訳すのは大変だと思うけど気長に待ってるぜ。[2008/01]

ついでに…… 
『ボートの三人男』@ジェローム・K・ジェローム [Amazon]
 <<オマージュ元はこちら。

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黙過の代償 [森山赳志] ★★☆ 講談社 講談社ノベルズ (\1,030) [Amazon]

黙過の代償

大学生の秋月昌平は瀕死の男から貸金庫の鍵を託される。「コレをダイトウリョウに渡して欲しい」そんな言葉を残して逝った男の狙いは何だったのか。最後の願いを聞き届けるべく活動を開始した昌平は、在日の暴力団員蔡翼傑に出会う。自らの預かりらぬところで、日韓の歴史の闇にうごめく謀略に巻き込まれていく昌平。事件の思わぬ真相とは!?

2005年刊行。第33回メフィスト賞受賞作。メフィスト賞には珍しい国際謀略モノ。日韓で同時発売になったらしい。久々にハズレメフィスト賞きたぞ。今年初の地雷認定本である。

今にも死にそうな男に頼まれたからって、普通の大学生が「よっしゃ!大統領に会うぞ!」って、いきなり思ってしまうところがまず無理矢理過ぎる。そしてなにかあったらこの男を頼れ!って紹介されるのが在日のヤクザなんだけど、これまた恐れることもなくホイホイ会いに行っちゃう主人公の性格がぶっ飛びすぎ。ちなみに主人公は韓国語学科の学生で、テコンドーの達人だったりする。なんだか、めちゃくちゃご都合主義のような気がするのだけど。

事件の真相はわりと早くに明らかになってしまい、終盤はグダグダ。日韓ネタなので過去の歴史事情を反映した会話が頻出するが、あまり深入りはせずにうまくかわしたイメージ。でも、この話のキモとなっている「大統領の秘密」が明らかになったらこんな程度の騒ぎではすまないのでは?このネタがあちらで判明したら確実に大暴動起きるでしょ。本人ですら知らなかったならともかく、知っていて隠していた時点でアウトだと思うぞ。

最後に、編集の人、相手は新人なんだから最低限のチェックはしてあげないといかんだろう。この話では韓国の大統領は李泰永という名前なのだが、一つのパラグラフの中で地の文の主語が「大統領」「泰永」の二つが混在している。挙げ句の果てに突然大統領が「わたし」とか一人称で語りはじめたりしてまったくの意味不明。素人のウェブ小説じゃないんだからさ。[2008/01]

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まずは一報ポプラパレスより
[河出智紀] ★★★ 集英社 ジャンプJブックス (\760) [Amazon]

まずは一報 ポプラパレスより (ジャンプジェイブックス)

デューイ=トランスはウルムスター王国の王宮長官秘書官。しかしそれは世を忍ぶ仮の姿。彼の正体は大陸の列強イウォーン帝国の情報部員だった。微妙な政治バランスの上に独立を維持してきた小国ウルムスターであったが、世界情勢は風雲急を告げる。大侵攻を前にして王女グリーナの暗殺を命じられたトランスの決断は如何に。

1996年刊行。第六回のジャンプ小説ノンフィクション大賞の大賞受賞作品。河出智紀は後の小川一水。この時21歳。実は本作がこれがデビュー作となる。奇しくも同じ回の大賞を乙一の『夏と花火と私の死体』が受賞している。この二人実は同期だったんだな。

小川一水作品としてはよくある架空王国モノ。架空世界の話だが、超科学も魔法もファンタジーも出てこない。SF臭もしない。小国にスパイとして送り込まれた主人公が、奔放なお姫様に振り回されながら頑張るお話。ウルムスター王国の設定はそれなりに考えて作っているようだけど、誌面に限界があるせいもあってか、小川一水らしい設定マニアぶりは仄かに感じる程度。同時に大賞を受賞した乙一作品『夏と花火と私の死体』の驚くべきトンデモ度に較べるとかなり地味な作品だと思う。まあ、この作家は書く度にゆっくりと練度をあげていくタイプの作家だったので、この時点では致し方無しか。[2008/01] ⇒次巻

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まずは一報ポプラパレスより II
[河出智紀] ★★★ 集英社 ジャンプJブックス (\762) [Amazon]

まずは一報ポプラパレスより〈2〉 (ジャンプジェイブックス)

大国イウォーンを裏切り弱小国ウルムスターの主席秘書官の道を選んだトランスだったが、その実情は単なる何でも屋だった。グリーナ王女の気まぐれに振り回される日々が続く。しかし列強諸国は豊富な地下資源を持つウルムスターを諦めては居なかった。襲い来たる暗殺者の影。そして騒乱の火の手は国外だけでなく、国内にも上がりつつあった。

1998年刊行。架空の王国ウルムスターシリーズの二冊目。河出智紀名義ではこれが最後の作品となる。本作が出て四ヶ月後、同年の8月にはソノラマ文庫から『アース・ガード』 [Amazon] が出ているがこれはもう小川一水名義となっている。どうしてペンネーム変えたんだろうね。

今回は中編二編。王女の酔っぱらい飛行が原因で国内の自治領ハイマーラ高原に墜落した二人が思わぬ騒動に巻き込まれるお話「あなたに木陰の思い出を」。そして隣国のナンパ王子の求婚話と刺客に狙われるトランスの苦悩を描く「Crossing Letter」。以上二編。デビュー二作目が外伝ノリの短編集というのは、ちょっと違和感がある。キャラクター的にも設定的にもよくある話で、いたって地味。これでは続きが出なかったのもうなずけてしまった。[2008/01]

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僕僕先生 [仁木英之] ★★★☆ 新潮社 (\1,400) [Amazon]

僕僕先生

唐代、玄宗皇帝の御代。県令であった父の庇護の下、王弁は働くでもなく、勉学にいそしむでもなく、日々をのんべんだらりと過ごしていた。見かねた父がいくら苦言を呈しても馬耳東風。しかし父の使いとして嫌々詣でた仙人の家で運命の出会いが待っていようとは。姓は僕、名も僕。字は野人。美少女の外見を持つ奇妙な仙人に王弁は魅せられていくのだが……。

2006年刊行。第18回日本ファンタジーノベル大賞、大賞受賞作品。何故かソフトカバーなんですけどどうして?ちなみに僕僕先生のオリジナルというか元ネタは中国の昔話集「広異記」にあるらしい。

唐代のニート主人公が、年齢はたぶん数万歳。でも外見は十代半ばの美少女仙人に首っ丈になり、次第に生きがいを見いだしていく。僕僕ちゃんの魅力があってのこととはいえ、徐々に主人公がやる気を引き出されてくる展開が面白い。僕僕先生は通常形態は美少女なのだが、一般人の前に出るときは白髪白髭の爺さんモード。他の姿にも変幻自在で、身近でお世話をしていてムラムラしまくっている主人公も、「もしかしてホントに爺さんだったら」という迷いから押し倒せない(笑)。つれないように見せて、混浴風呂に誘ったり、隙を見せまくりの僕僕ちゃんがけっこうえげつないぞ。

玄宗皇帝をはじめとして、唐代の道士司馬承禎、伝説の名馬吉良、さらには帝鴻(黄帝と同一人物説を採用)、渾沌のような超大物まで登場。この時代の中国はいろいろなファンタジー要素が盛り込めて楽しいねえ。則天武后の事績や唐王朝のなりたち、飛蝗対策など、歴史的なファクターもきっちり取り込まれていて虚実織り交ぜたごった煮感が楽しい。僕僕ちゃんの素性(哀しい過去?)を最後まで明らかにしなかったのが、ちょっとひっかかるけど、これはまあ書かない方が花ということで。[2008/01]

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砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない
[桜庭一樹] ★★★☆ 富士見書房 富士見ミステリー文庫 (\500) [Amazon]

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない (富士見ミステリー文庫)

山田なぎさは13歳。父は既に亡く、兄はニート。パートの母親の稼ぎと生活保護が頼りの生活だ。美少女転校生の海野藻屑は両親共に芸能人、何の不自由もなく見えた藻屑だったが彼女には秘密があった。藻屑の奇想天外な行動に振り回されるなぎさ。次第に友情を深めていく二人だったが、何も身を守るすべを持たない13歳の少女には哀しい運命が待ち受けていた。

2004年刊行。とうとう直木賞作家様にまでブレイクしてしまった桜庭一樹の出世作(だよね)。2007年にハードカバー版 [Amazon] も出ている。デビュー作の『ロンリネス・ガーデン』は、正直言って決して出来のいい話では無かったんだけど、『赤×ピンク』 [Amazon] 『推定少女』あたりからネットで評判になるようになって、本作で一気に突き抜けた印象がある。

舞台は鳥取県境港市。貧しい母子家庭の少女なぎさと、実父からのDVで心身共に崩壊寸前の藻屑。この二人が本作の主人公。独特の熱と推進力を持つ、リズム感の良い一人称少女語りが冴えている。妖精のような美少年ニートの兄とか、出番は少ないながら存在感を見せる人情派の先生とか、サブキャラもけっこういい。地方都市の閉塞感、13歳の少女故の無力感、桜庭作品の特徴的な形質が僅か200ページの中にコンパクトに美しく凝縮された傑作と言っていいだろう。ラスト三ページの魂を抉るような主人公の独白は忘れられない。

余談ながらどう考えてもこのイラストは無い。ここまで内容とあってないイラストって珍しいのでは?無力な「砂糖菓子」感は出ているけど、あまりに浮いている。[2008/01]

ついでに…… 
「ライトノベル畑出身、直木賞作家の系譜」 <<簡単にまとめてみた

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氷結の魂 上・下
[菅浩江] 
★★★☆ 徳間書店 徳間ノベルズ (各\757) [Amazon:/] ※書影無し

北のリアチュールは火の神ベイモットを奉ずる花と湯治の街として知られていた。しかし王女ガレイラが氷の魔王グラーダスの呪いの矢を受けてしまった日から悪夢は始まった。父母を惨殺し圧政を敷くガレイラ。事態を憂いた同盟諸国は泉の国キアンの王子ゼスを総大将に使節団を派遣する。それは気の遠くなるような大長征のはじまりだとも知らずに。

1994年作品。新書版で出て、それっきりの不憫な作品。文庫にもなっていない。徳間は一時期デュアル文庫の出始めの頃に何作か菅作品の復刊をやっているんだけど、どうしてやらなかったんだろう。初期の名作『オルディコスの三使徒』 [Amazon] 同様に是非とも復刊していただきたい。ちなみに『不屈の女神』も含めて菅浩江神様三部作になるらしい。

菅浩江的なファンタジーなるものについて、神と人について掘り下げた作品。菅作品らしく情景の描写が美しい。細かな言葉の使い方にもファンタジーとしての気配りが感じられる。本作は作者曰く、エスエフに逃げないファンタジーなのだそうだ。この点『オルディコスの三使徒』とは対照的だ。魔法に見えたモノが、実は高度に発達した超科学文明だったんですよって、オチはやり方間違えると読者が萎えるだけだからね(あ、『オルディコスの三使徒』はそれでも萎えない方の話ね)。

光と闇の対立が物語の縦糸。菅作品の神様はいつもながら実に人間くさい。愛も憎しみもその振れ幅が半端無い故に人の世にも多大なる影響を及ぼしてしまう。そして物語の横糸をは個性豊かなキャラクターたちの織りなす人間模様だろう。直情径行タイプの主人公ゼス。ゼスが大好きな火の巫女ヴィル。王女ガレイアの良心が分離したリアチェ。この三人の三角関係がまずベースにあり、老練な丞相ディーグ、陽気な商人タイドルーガ、寡黙な武人ヤシュバと渋めのキャラが脇を固める。

この物語、実は内容の過半は、延々と続く行軍シーンだったりする。目指す魔王グラーダスの居城は世界の極北に位置しており、人智を越えた寒さに同盟軍は艱難辛苦を乗り越えなくてはならない。三千人以上いた同盟軍が、最後には数百人にまで減ってしまう。そして陣営内の主要キャラクターの中に裏切り者がいるという設定が、物語のテンションを高めている。この作家の作品ならではのミスリードを誘うトリッキーな作劇が、ダレ気味になりがちな物語の中盤を盛り上げてくれていた。

で、ラスト。巫女ヴィルの献身。意外な裏切り者の正体。王女ガレイアの復活。そしてこれぞファンタジーの醍醐味とも言える華麗にして壮大な神産みのシーンは圧巻。なるほどこんなオチにしてきたか。文章に読みにくい部分があったり、全体的に詰め込みすぎの感がなきにしもあらずだけど、和製ファンタジーとしては良作。若者達の成長物語としても楽しめた。[2008/01]

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南方署強行犯係 狼の寓話
[近藤史恵] ★★★ 徳間書店 徳間ノベルズ (\810) [Amazon]

狼の寓話―南方署強行犯係 (トクマ・ノベルズ)

南方署強行犯係の新人會川圭司は赴任早々、凄惨な殺人現場に立ちくらみを起こし、挙げ句の果てに証拠品を紛失してしまう。配置転換となった會川は変人と評判の黒岩という女性刑事とコンビを組まされることになる。彼女が追う事件は一週間前に起きた殺人事件。男が殺され、妻は行方不明。やはり犯人は妻なのか。捜査に乗り出した二人の前に思わぬ展開が……。

2003年刊行。近藤史恵初の警察小説。本作がこれで16作目。けっこう書いてるなこの人。サブタイトルの「南方署強行犯係」がなんだかベタでらしくないなあ。編集側の意向なのだろうか。ダメな刑事モノみたいなタイトルだ。2005年にシリーズ二作目『黄泉路の犬』 [Amazon] も上梓されている。

警察小説とはいっても、高村薫や、柴田よしきのそれみたいに、組織のドロドロを濃厚に描いていく話にはならない。正義感溢れる若手刑事が、失敗を繰り返しながら真相に迫っていくユーモア混じりのミステリ。近藤史恵は本格畑から出てきた人なので、それなりの本格テイストは本作でも維持されている。

各章の冒頭に童話(おそらくはこれが「狼の寓話」)が入り、これが事件の真相に絡み、しては物語のテーマにリンクしてくるという趣向を取っている。近藤史恵らしい、女性作家で無いと書けない微妙なニュアンスのテーマを短いページ数の中でなんとか表現しようとしているのだけど、最後まで当事者が出てこないので、踏み込みが甘くて、テーマの重さがうまく伝わってこないのが残念。[2008/01]

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シュガーな俺 [平山瑞穂] ★★★ 世界文化社 (\1,400) [Amazon]

シュガーな俺

平凡な会社員であった片瀬は、急激な体重減少と異常な喉の渇き、倦怠感を覚え遂に内科医の診断を受ける決意をする。結果は重度の糖尿病。二週間の緊急入院。そして更なる二週間の教育入院で、片瀬は糖尿病患者としての生きるノウハウを学んでいく。しかし、それは長きにわたる闘病生活のはじまりに過ぎなかった。

2006年刊行。『ラス・マンチャス通信』『忘れないと誓ったぼくがいた』に続く三作目。帯のコピー曰く、世界初の糖尿病小説らしい。33歳の若さで糖尿病と診断されてしまった作者自身の経験に基づくオートフィクション(自身について書かれた小説)。

糖尿病と言えば、肥満体の中高年がよくかかる成人病というイメージを持っていたが、この作品の主人公は痩せ形体型。しかもまだ三十代前半だ。わたしもまったく油断出来ないではないか!本作は糖尿病の診断を受けてしまった主人公が、妻の助けを得ながら涙ぐましい節制生活を送り、幾たびかの破綻を迎えながらも糖尿病との折り合いをつけ、生きていく目処を見つけるところまで描いていく。

糖尿病の教育入院ではどんなことをするのか、経験に基づく献立メモ(コピー可)、インスリン注射の打ち方、糖尿病に関しての医療体制の実情等々、とにかく知らないことばかりなのでその点は実に面白い。小説仕立てになっているので読みやすい。糖尿病の恐ろしさがよく判る良書と言えるだろう。しかし、小説として盛り上げるためなんだろうが、浮気相手とのお色気シーンは余計なんじゃないかと。少々あざといなと感じた。このエピソードまでもが実話だったらスゴイと思うけど。[2008/01]

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近頃、気になりませんか?
[新井素子] ★★★ 講談社 講談社文庫 (\648) [Amazon]

近頃、気になりません?

仕事で忙しいダンナの健康管理とダイエットはどうすればいいの?共稼ぎ家庭で、能力ゼロのダンナに家事を仕込むには?主婦には会話をするチャンスが少ないのでは?名字についてのこだわり。臓器移植、開かずの踏切、過労死の社会問題についての考察。そして悩める若者たちへのメッセージ等々、作家新井素子が綴る和み系エッセイ集。

1994年に刊行された作品 [Amazon] の文庫版。1999年刊。主として廣済堂出版の「クロスワードクラブ」に掲載されていたエッセイの寄せ集め。一番古い記事はなんと1985年。最新の記事で1994年なので、けっこう執筆年代には幅がある。新井素子は1960年生まれなので、御年25歳から34歳までの生活体験を元にした内容となっている。つまり2007年の今読むと、もっのすごく古く感じるということね。

新井素子のエッセイは久しぶりに読んだ。印象としては、しばらく会っていない知り合いの消息を久しぶりに聞きましたという感じ。なにせファン歴四半世紀(数えてみて愕然とした)だからな。頼むからもう少し小説を沢山書いて欲しい。

ぬいぐるみ数百体が常時散乱する室内。壮絶な蔵書の数。外飼猫が持ち込む蚤。こんな部屋をハウスキーピング出来るのはある意味すごい主婦なのかもしれない。しかし、変わってないなあこの人。中学時代からやっている、友人を集めた月1のティーパーティをまだ続けていることに驚愕した。すごい。

解説が氷室冴子なのでこれまたビックリ!この人の文章読んだの何年ぶりなんだろう。もう小説書かないのかなあ。銀金 [Amazon] だけは完結させて欲しいのだけど。[2008/01]

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コールドゲーム [荻原浩] ★★★ 新潮社 新潮文庫 (\667) [Amazon]

コールドゲーム (新潮文庫)

高校三年の夏に事件は起きる。中学時代のクラスメイトたちが次々と襲撃を受け、その容疑者に虐めのターゲットであった「トロ吉」こと廣吉が浮かび上がってくる。渡辺光也は、クラスのリーダー格で虐めの首謀者でもあった亮太らと共に防衛隊を結成する。しかしトロ吉は捕まらず被害者だけが増えていく。そして復讐の手は彼ら自身にも迫ってくる。

2002年刊行作品 [Amazon] 。今回読んだのは2005年に出た文庫版。荻原浩としては七作目の作品で『明日の記憶』 [Amazon] でブレイクする前のお話。

「トロ吉」はかつて自分が虐められていた手口を踏襲した形で次々と復讐を遂げていく。主人公の立ち位置は、虐めリーダーの親友であったが故に虐めを強要されることがなく、暴力に直接荷担することはなく、かといって止めることもしなかったというポジション。事件の渦中でも、自分は直接手を下していないから、実は許されるのではないかと、防衛隊を組織しながらも一歩引いた傍観者的な心境でいる。

復讐者である「トロ吉」本人はなかなか登場しない。かつては体の弱い貧相な少年であった「トロ吉」は、大男になっている!ヘアスタイルがモヒカンになっている!バイクを乗り回している!武道の達人になっている!等々、主人公が聞き込みを続ける課程で様々な伝聞情報が入り、次第に恐怖の虚像が一人歩きしはじめる。着実に被害者が増えていく中で、このあたりのサスペンス的な描写はなかなか面白い。

虐められた被害者が妄念を募らせていくのに対して、加害者側の「俺たちそんなに悪いことしたっけ」感は酷い話だと思いながらも、でも実際世の中そんなものだろうなと思う。傍観者であった自分自身も報復の対象だと知った主人公の内面をもう少し深く掘り下げて欲しかったのが残念な部分。それから地獄の蓋が開いたかのような終盤のカタストロフィはホラーとしては面白いのだけど、あまりに仕返しの手段が酷すぎるので「トロ吉」側に同情出来なくなってしまうのが難点かな。[2008/01]

ついでに…… 
『沈黙の教室』@折原一 [Amazon]
 <<虐め逆襲モノとしてはこっちの方がオススメ。

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ラーゼフォン 時間調律師
[神林長平] 
★★☆ 徳間書店 徳間デュアル文庫 (\590) [Amazon] ※書影無し

村瀬明は永劫にも思える時間の牢獄につながれていた。数限りない人生を繰り返し、死の次の瞬間には16歳の少年として目覚める。この世界は間もなく謎の存在MUの襲撃を受け、大いなる変貌を遂げる。無限のリフレインから抜け出す鍵は<ラーゼフォン>にある。並行世界の自身からメッセージを受け取った明は行動を開始するのだが……

2002年刊行。「ラーゼフォン」 [Amazon] は2002年に放映されたアニメーション作品。本作はその世界観を用いたシェアワールドノベル。アニメーションのノベライズでは無い。ちなみにノベライズはNF文庫の方からちゃんとしたの [Amazon] が出ている。この手のメディア連動企画に神林長平クラスのベテランが出てくるのは珍しい。

彩人(アニメ本編の神名綾人相当)の息子明が主人公。叔父は如月一樹(本編だと樹に相当)。朝比奈さんとか、功刀さんとか出てくるけど、基本別のお話だと思っていい。「ラーゼフォン」素材だけ使って神林ワールドを新たに構築しましたよという作品。でも「ラーゼフォン」を知らないと意味不明で終わることは間違いなしだろう。ま、ファン向けの商品だからそれでもいいのかな。

でも、表紙、出渕裕。口絵、末弥純。本文イラスト、山田章博。と、ありえない程豪華なイラスト陣を揃えてはいるのだけど、画風は極力アニメの影響を廃しており、なんだか勿体ない。これじゃ原作ファンにも売れないだろうに。個人的には紫東遙の出てこない「ラーゼフォン」は「ラーゼフォン」では無いので、正直どうでもいい感じ。なんでこんなの作ってしまったのだろうか。[2008/01]

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