悪者見参 ユーゴスラビアサッカー戦記
[木村元彦] ★★★★ 集英社 集英社文庫 (\724) [Amazon]

かつて欧州随一の強豪であったユーゴスラヴィア代表は、相次ぐ共和国の独立で次々と有力選手を失っていく。国際制裁によるワールドカップ、欧州選手権への出場権剥奪。癒しがたい傷跡を残した血で血を洗う内戦。戦後も未だ終わらない民族抗争。そして長期化するコソボ紛争に対し、NATOは空爆による武力制裁を敢行する。
2000年に出た作品 [Amazon] の文庫版。文庫化にあたって、100ページもの追記がなされている。2001年刊行。
ユーゴ内戦の元凶とされ、セルビア(ユーゴスラヴィア)は世界中から悪者扱いされた。スロヴェニア、クロアチア、マケドニア、ボスニア・ヘルツェゴビナが独立し、ユーゴスラヴィア代表は1998年の時点ではセルビア、モンテネグロの二共和国のみで構成されるようになっていた。先日の『誇り』がドラガン・ストイコビッチ(ピクシー)に焦点を当てたものだとすれば、こちらは同時期のユーゴ代表に焦点を当てたもの。時期的には、セルビア内で、コソボ自治州への弾圧が強まり、NATOによる空爆制裁の可否が取りざたされていた頃。
この筆者の行動力には本気で呆れた。セルビアのみならず、モンテネグロ、スロヴェニア、クロアチア、マケドニアそして、紛争の只中にあったコソボ解放軍(UCK)の占領地域にまで潜入している。いつ、殺されてもおかしくないようなところだ。
日本では気軽に代表の試合は国と国との代理戦争だなどと言ってしまいがちだが、その言葉がまったく冗談にならないのがユーゴスラヴィア代表だろう。ナショナリズムがストレートにサッカーと結びついてしまった最悪のケースだ。筆者は自らの足で各地を訪れ、選手や市井の人々の声を拾い上げていく。
故郷の家族や友人が日夜空爆に曝されている中で、海外でプレイを続けなくてはならなかったユーゴの選手たち。国が別々になり故郷へ帰れなくなったミハイロビッチ。彼は地元の英雄から一転して憎悪の対象となった。世界で通用する実力を持ちながら、コソボのアルバニア人であったが故にキャリアを棒に振ったトビャルラーニ。そして内戦時に率先して銃を取り、他民族の虐殺に参加したサポーターたち。通常のテレビや新聞の報道だけでは決して知ることが出来ない貴重な証言集となっている。作中の「絶対的な悪者は生まれない。絶対的な悪者は作られるのだ」はまさに至言。[2008/04]
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空ノ鐘の響く惑星で
[渡瀬草一郎] ★★★☆ メディアワークス 電撃文庫 (\550) [Amazon]

天空に浮かぶ巨大な「御柱(ピラー)」。御柱は奇妙な力を持つ貴石を産出し人々の暮らしを潤していた。アルセイフの第四王子フェリオは、フォルナムの神殿で御柱の内部から出現した少女リセリナに出会う。負傷していた彼女を助けたフェリオだったが、リセリナは突如暴走し神殿からの逃亡を計る。その日を境として、平穏な日常は終わりを告げ、世界は混沌と激動の時代へと変貌していく。
2003年から始まって2007年に完結した渡瀬草一郎の代表作。本編12冊+外伝1冊。「このラノ」には毎回30位以内にランクインしていて2005年の第4位が最高位。古い例えで恐縮だが、「グインサーガ」 [Amazon] の最初の16巻くらいまでとか、「アルスラーン戦記」 [Amazon] みたいな架空王朝戦記モノ。ファンタジーをベースとした世界観に仄かにエスエフのスパイスが効いているところも似ている。この手のジャンルは書き手が少ないので貴重だ。
主人公はアルセイフ王国第四王子フェリオ。妾腹の子で母は既に亡く、大きな後ろ盾もないため僻遠の地、フォルナム神殿への友好大使という閑職を割り振られ本国からは捨て置かれている。権威とは縁遠く育ったので王族でありながら横柄なところが無く、素直。それでいて剣の腕前は達人級の腕前を持つ。平時であれば、そのまま田舎で朽ち果てていたかもしれない彼が、未曾有の大変事に巻き込まれ、様々な困難を乗り越え成長していく姿を描く。
「御柱」は世界に五本存在し、それぞれが風土火水、そして命の属性を強化する貴石(セレナイト)を産みだし、この世界を経済的に支える存在となっている。「御柱」には謎めいた部分が多く、一部の神殿関係者のみがその秘密を隠し持つ。いかにも科学文明の遺物っぽい「御柱」から登場した謎の少女リセリナの登場で物語は動き出す。
愛らしい少女の外見とは裏腹に超人的な身体能力を持ち、異世界からもたらされた高度な武装を所持するリセリナは暴走モードにスイッチが入ると手がつけられない最強の存在となるのだが、その代償として理性を失ってしまう。しかし、そんな時でも何故かフェリオにだけは心を許すリセリナ。ヒロインがとにかく可愛く書けているのがまず素晴らしい。
って思っていたら、この物語にはヒロインがもう一人居た!後半からは幼なじみにして、神官少女ウルクが登場する。清楚な美貌に柔らかな物腰、やんごとなき高貴な身分でありながら機知に富み、政治的判断力まで持っているという怖ろしい16歳。この作品は、どうやらダブルヒロイン制が採用されている模様。主人公が朴念仁設定っぽいので今後の三角関係の進展に期待である。
多岐にわたる伏線が張り巡らされた、長編作品の一作目ということで、序盤の展開は物語世界の説明や、キャラクターの紹介に多くのページを割いている。しかし、緩やかに思えたストーリー展開は最終章で一気に加速。このものすごい引きはリアルタイムで読んでいたらたまらんだろうな。長編作品を一気読み出来るヨロコビを噛みしめつつ、早速次巻へ行ってみよう。[2008/04] ⇒次巻
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空ノ鐘の響く惑星で2
[渡瀬草一郎] ★★★☆ メディアワークス 電撃文庫 (\570) [Amazon] ※書影無し
リセリナを追って現れた新たな来訪者(ビジター)たち。彼らによってアルセイフは国王と王太子を同時に殺害されてしまう。王都セイラムではこれを好機と見る者たちの不気味な暗躍が始まる。好色な第二王子レージク、病弱な第三王子ブラドー、そして第四王子フェリオ。次の王位に就くのは誰なのか。王の葬儀で起きた惨劇は誰が仕組んだものなのか。フェリオは更なる陰謀の渦中に巻き込まれていく。
シリーズ二作目。2004年刊行。
リセリナのそっくりさんイリス率いる、来訪者軍団の登場で俄然面白くなってきた本作。少しずつ世界の全容が見えてくる。架空王朝モノはいかに、それっぽい世界観を構築出来るがどうかが鍵だけど、ここまでは至って順調。いきなり全てを見せずに小出しにしてくるところが達者な書き手だなと思う。難癖をつけるとすれば時間や距離の単位くらい創作してしまえばば良かったのに、ってことくらいかな。ファンタジー世界でメートルとかキロとか使われると萎えるのだ。
前巻ではリセリナに出番を奪われ気味だったウルクが今回は大活躍。恋する少女モード全開のウルクが素敵過ぎる。剣の腕は立つが人情派で後先を考えない体力バカ系の主人公を、裏から支えるウルク。自分の血筋を盾にとって発揮される政治力。瞬時の思い切りの良さ、決断力が痺れるなあ。卓越した戦闘力でフェリオを助けるリセリナとは対照的な立ち位置が面白い。
フォルナム神殿での事件を契機に、王位争奪戦が勃発。物語の舞台は王都セイラムへと移る。退廃の第二王子レージクが登場。軍閥の名門サンクレット家のクラウス、ニナ兄妹も登場。更に当面の敵となりそうな、宗教王国ジラーハのカシナート司教も暗躍中と来たもんだ。魅力的なキャラクターが続々と出てくる。この話、これから更に面白くなっていきそうだ。[2008/04] ⇒次巻
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首鳴き鬼の島 [石崎幸二] ★★★ 東京創元社 ミステリ・フロンティア (\1,700) [Amazon]

相模湾に浮かぶ頸木島。別名首鳴き島。ここではいまでも「オーンオーン」と失った腕と首を求めて彷徨い歩く鬼が出るのだと云う。編集者の稲口は怪奇スポット記事の取材のため、頸木島を訪れる。島は大企業オーナー竜胆家が個人所有しており、稲口は社長の恭蔵、その息子の慎一郎と知己を得ることになる。台風が接近し、外界から隔絶された島内で、惨劇の幕は切って落とされるのだが……。
2007年刊行。石崎幸二五年ぶりの新作はミステリ・フロンティア枠から。講談社から出ていた過去四作に登場した石崎やミリア、ユリの女子高生コンビは今回登場しない。前シリーズでは、滑りまくりなギャグテイストが正直タイプで無かっただけに、新しいキャラクターで勝負してきたことは正解だったと思う。
孤島、嵐、連続殺人、見立て。基本的な本格ミステリのガジェットは全部揃えてみました、という態なのだが、相変わらず文章がイマイチ。メイントリックの秀逸さは十二分に評価すべきなのだろうけど、それを補うべき作品の肉付けが上手く描けていない。キャラクターの魅力の無さ(特に女性が酷い)、会話文の滑り具合、正直余り成長していないように思えて残念。土曜ワイドショーのような、ありがちな幕引きもいかがなものかと。メイントリックが良かっただけに惜しい。果たして次はあるのだろうか。[2008/04]
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空ノ鐘の響く惑星で3
[渡瀬草一郎] ★★★☆ メディアワークス 電撃文庫 (\590) [Amazon] ※書影無し
王の葬列を暗殺者が襲う。軍務卿ガートルードをはじめ第二王妃、第三王妃らが死亡。フェリオはぎりぎりのところで難を逃れる。大きな後ろ盾を失った第二王子レージクは強引に即位を表明、ガートルードの遺子クラウスを傘下に加え権力の掌握に動き出す。政務卿ダスティア、王宮騎士団長ウィスタルは囚われの身となり、唯一脱出に成功したフェリオは彼らを救出すべく活動を開始する。
シリーズ三作目。2004年刊行。この作品の表紙は作中の登場人物二人の全身図がデザインされているのが特徴で、今回はウルクとフェリオ。前の巻がフェリオとリセリナだったから、一人ずつキャラクターが入れ替わっていく趣向らしい。第一巻に関してはリセリナのみ(2ポーズ)だったので、おそらく最終巻では再度リセリナが登場して円環的に輪が閉じるのではないかと予想している。
ここで、関係各国についてまとめ。主人公の属するアルセイフ王国は大国では無いが、フォルナム神殿から供給される貴石故に肥えた土壌を持ち、不作知らずの豊穣の国。ここしばらくは戦争も経験しておらず平和を享受し続けている。アルセイフの北西には大国ながらも食糧事情が厳しいタートムが存在し、虎視眈々と豊かなアルセイフへの侵攻の機会を窺っている。そして大陸の中心部には全大陸の神殿の総元締、ウィータ神殿に神姫ノエルを頂く宗教国家ジラーハがある。例えるならローマ教皇領みたいなものだろうか。
さて、今回は一転して追われる身となったフェリオVS第二王子レージク編。北方民族出身にしてタートムの間諜シズヤとの対決シーンが燃える。戦いに淫するシズヤのエグくてエロいところがたまらん。まだ少年の主人公が最初から作中キャラで最強クラスの設定なのは出来すぎとも思えるが、面白いからそれもまたよしとしよう。
フェリオたちを追いかける本筋を進めながら、神殿側のカシナートの思惑についてもきちんと言及している。来訪者たちのフォローも忘れてはおらず、複雑な群像劇をきっちり書いてくれていて安心して読める。上手いねこの人。終盤はまたしても大ピンチの連続。健気に頑張るウルクに、再登場するリセリナ。フェリオどれだけ悪運強いんだよ(笑)。ご都合主義的展開だけど、盛り上がっているのでオッケー。どんどん物語に勢いが出てきているね。[2008/04] ⇒次巻
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空ノ鐘の響く惑星で4
[渡瀬草一郎] ★★★☆ メディアワークス 電撃文庫 (\570) [Amazon] ※書影無し
王都セイラムを脱出したフェリオは外務卿ラシアンらと共に、王位簒奪者レージクに対し反乱軍を組織する。しかしセイラムには第三王子ブラドー、王宮騎士団長ウィスタルなど多くの重要人物が囚われの身となっていた。一方レージクは軍閥の名門サンクレット家の長子クラウスを軍務卿に抜擢する。アルセイフの内乱は、遂に両軍の直接対決の時を迎えようとしていた。
シリーズ四作目。2004年刊行。アルセイフ内乱終結編。
外務卿ラシアンの後ろ盾を得て、王都へと進軍を開始するフェリオ。おおっ、ようやく戦記モノっぽくなってきた。隻眼のベルナルフォン、政務卿の長子アゴール、クラウスの腹心ロセッティまでもが傘下に加わり駒が揃ってくる反乱軍の陣営。人望って素晴らしい。初陣で将としての器量さえも見せつけるフェリオ。これでまだ16歳なのだから怖ろしい。
王都でこれを迎え撃つのは自ら即位宣言したレージク第二王子と、新たに軍務卿となった復讐に燃える智将クラウス。相手側がバカばかりで無いところが面白い。主人公サイドが勝つのは容易に予想出来るけど、やはり多少は苦労して勝たないといけない。これまでウルクの活躍の前に影が薄かったリセリナが、ここぞとばかりに直接戦闘では大活躍。反則級の無敵ユニットで、この点レージクには気の毒だった。
予想通り、アルセイフ内乱編は今回でオシマイ。全体のバランスから見ても、長くは引っ張らないと思っていたのでこんなところだろう。売国奴としていかようにも悪く描くことも出来たレージクの行為を、それなりの紆余曲折を経た上での決断であったと情状酌量の余地を残したことは良い判断。シズヤとの最後の一幕まで描いて貰えて、悪役としては上々の退場シーンだった。これは良い中ボス。[2008/04] ⇒次巻
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マリア様がみてる マーガレットにリボン
[今野緒雪] ★★★ 集英社 コバルト文庫 (\438) [Amazon]

もうすぐホワイトデーを迎えようとしているリリアン女学園。下級生からもらったチョコレートのお返しには何を贈るべきなのか。祐巳、吉乃、志摩子の三人は思案を重ねるが、話題は二転三転。先代の薔薇さまたちの消息は、イタリア修学旅行での出来事、志摩子の両親の事……。とりとめのないお喋りから、さまざまな物語が見えてくる。
2008年刊行。もう何作目だか判らなくなった。たぶんこれで28作目。現在進行形の事件を分割配置して、その間に独立した短編を挿入する構成。マリみてでは何度か見られた形式を取っている。「バラエティギフト」「インライブラリー」「フレームオブマインド」と同じと書けば判りやすいかな。
「マーガレットにリボン」って、どんだけ集英社に媚びてるんだと突っ込もうと思ったら、後書きでセルフツッコミが入っていた。どうせなら「なかよしにKiss」みたいなお題で是非一作書いて欲しい。ちなみに、今回は「コバルト」掲載作をまとめたのではなく、全て書き下ろしなのだとか。
本作では八本の短編作品が収録されている。読者リクエストに出来るだけ応えてみました、ってことだけあって、なかなか本編ではネタにしにくい先代三薔薇さまやロサ=カニーナが久しぶりに登場してくれてファンとしては嬉しい。個人的には蓉子の「新環境キャラ替え失敗話」が好み。この子が生まれながらの優等生キャラを捨て去るのはやっぱり難しかろう。
本編のミッシングリンクを埋めるエピソードも入っているのだけど、そこは無理をしてまで隙間を埋めなくてもいいのではと思える話もあってその点は少々疑問。「青い傘の思い出」はいい話だと思うけど、傘の件は謎のままにしておいた方が美しいように思えた。
あとがきで祥子卒業問題にちょっとだけ言及。この先続くかどうかは別として、いちおう一段落つけるようだ。最高学年になった祐巳も見てみたい気がするけど、さてどうなるか。[2008/04]
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空ノ鐘の響く惑星で5
[渡瀬草一郎] ★★★☆ メディアワークス 電撃文庫 (\570) [Amazon]

フェリオたちの活躍によりレージクの王位簒奪は失敗に終わる。次なる王位は誰の手に?第三王子ブラドーとの間に新たな問題が浮かび上がってくる。一方、フォルナム神殿ではジラーハの司教カシナートが勢力拡大のため暗躍を開始していた。敵中に残されたウルクを襲う悲劇的な運命とは。全てを捨てて、フォルナムへ向けてフェリオは旅立つのだが……。
シリーズ五作目。2004年刊行。面白いのでガンガン先に進む。この巻でようやく世界地図が登場。やっと状況設定が判りやすくなったよ。クオリティが落ちていないのに、三ヶ月に一冊という驚異的な早さで続巻が出ているのが素晴らしい。速筆はラノベ作家にとっての最大の武器だな。
舞台は再びフォルナム神殿へ。 偉そうなこと言ってたわりにはあっさりウルクを奪われてしまったシルヴァーナはこれくらい苦労した方がいいと思うよ。チャンスの後にはピンチあり。レージクの反乱を退けたフェリオに新たな災厄が訪れる。幼なじみの神官少女ウルクに降りかかった未曾有の危機。これまで恋愛面では朴念仁だったフェリオが、ウルクの大切さを改めて認識する展開は、少年の成長物語としてはきちんと手順を踏んでいるなという印象。並行して自らの恋心に気付いてしまったリセリナの葛藤もきちんと描かれおり卒がない。フェリオをめぐる女の戦いはこれからが本番。今後の三角関係がどう進展していくのかに期待したい。
それにしてもパンプキンのキャラ立ちがものすごいスピードで進んでいる。長身痩躯、頭にはカボチャの被り物。ビジュアル的にはネタキャラとしか当初は思えなかったのだけど、なんだか無性に格好良く見えてきた。最強クラスの戦闘能力に、騎士道精神を併せ持ち、独自の価値観に基づいた行動を取る。戦いに愉悦を感じる彼の性格は、これからの物語を大いに盛り上げてくれそうだ。[2008/04] ⇒次巻
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空ノ鐘の響く惑星で6
[渡瀬草一郎] ★★★☆ メディアワークス 電撃文庫 (\590) [Amazon]

フォルナム神殿はジラーハの司教カシナートにより制圧されてしまう。虜囚の憂き目を見る僧侶たち。記憶を失ったウルクを前に呆然と立ちつくしていたフェリオだったが、急転直下の事態に際し、とある決意を固める。一方、国境地帯では隣国タートムがアルセイフへの侵攻を開始。未だ新王は定まらず、アルセイフ王国は更なる激動に巻き込まれていく。
シリーズ六作目。2005年刊行。まだまだフォルナム神殿編。
カシナートをはじめとするジラーハ陣営、そして来訪者たち。ラトロアの間諜シズヤ。複数の陣営がそれぞれの思惑を見せて動くところがこの手のお話の楽しいところ。主人公以外の陣営が戦い合うシーンが面白い。そしてウィスタルの甥、ハーミットが登場。これまで描かれなかった西の大国ラトロアの輪郭が見えてきた。カリスマ的な王族がいるような国ではなく、民主制の国らしい。でも、かなり衆愚政治気味。元首のジェラルドはたぶん小物で黒幕は別に居るようだ。いちおう最大の敵国っぽいから、それなりのラスボスは用意しておいて欲しいな。
鬼畜リカルドクンは今回も外道大作戦に失敗。なんたる噛ませ犬っぷり。パンプキンの高潔さを示すための引き立て役として使われてしまうところが情けない。貞操の危機を危うく逃れたウルクだが、その記憶は依然として戻らないまま。失われた記憶と、未だフェリオを想い続ける潜在意識との間で苦しむ。安易に愛の力で無理矢理思い出しました!って展開にしないのがいいところかな。
ラストはラトロアから送り込まれた屍の兵の皆さんが大量に出現。ウルクとリセリナだけでも逃がそうとしたフェリオだったが、彼女たちの別働隊は最悪な事にイリス率いる来訪者チームの迎撃を受けてしまう。毎回毎回ラストの「引き」が凄すぎて、ついつい次をすぐに読んでしまう。本当に完結してから読めて良かった。リアルタイムで読んでいたら、続きが気になって仕方が無かったことだろう。[2008/04] ⇒次巻
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イナイ×イナイ [森博嗣] ★★☆ 講談社 講談社ノベルズ (\900) [Amazon]

椙田探偵事務所を訪れた佐竹千鶴は、自身の兄を捜して欲しいと訴える。彼女の兄は、佐竹の屋敷の奥深く、地下の座敷牢に長らく囚われの身なのだと云う。椙田の助手、小川令子は芸大生の真鍋俊市と共に佐竹邸へと赴く。そこで彼らは探偵を自称する鷹知祐一朗に出会う。この屋敷に秘められた恐るべき謎とは。そして事件の真相はいったい……。
2007年刊行。S&M⇒V⇒Gと来て、新たに始まったXシリーズの一作目。なんで「X」なのかはタイトルに「×」が入っているからだと思う。六作で早々に打ち切られた(って思っていいよな)Gシリーズに代わり、新たに始まった本シリーズは相変わらず段組無し。下部四センチくらいは余白のゆとり設定と、ボッタクリ構成は変わらず。ボリュームとしては300枚くらいかな。
なんだかんだ文句を言いながらもそそくさと読んでしまう自分。時系列的にはGのすぐ後くらい。美術鑑定業椙田(Vで出てきたあの人ね)のところにいる助手の小川さんと、芸大生の真鍋君のコンビがメインらしい。椙田さんは出番控えめ。それに怪しげな探偵の鷹知が絡む。
都内の一等地に建つお屋敷。地下の座敷牢。美人双子姉妹。行方不明の兄。ありがちなギミックを集めて密室を作ってみましたというお話。佐竹さんちの特殊事情がなんだったのとか、どうして幽閉されてんだよとか、細かい説明は一切無し。事件⇒解決。ってところだけ提示してされてもわかんないじゃん。依然低空飛行は続きそう。
萌絵はラストに少しだけ登場。また今回もGシリーズみたいに主役を取られないように>>小川さんたち。[2008/04]
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空ノ鐘の響く惑星で7
[渡瀬草一郎] ★★★☆ メディアワークス 電撃文庫 (\590) [Amazon]

東方の大国ラトロアの仕組んだ陰謀により、フォルナム神殿の御柱からは大量の屍の兵が出現する。対応に追われるフェリオたち。無限に増え続ける屍の兵を前にして、神殿騎士団長ベリエが謎の暴走を起こしウィスタルにその刃を向ける。一方、神殿からの逃亡を計ったリセリナたちはイリスの手中に落ちていた。緊迫した状況の中、人々は重大な決断を迫られることになる。
2005年刊行。シリーズ七作目。フォルナム神殿編の終章。
最初から最後まで、一巻まるまる戦いっぱなし。終章に相応しい派手な巻になっている。屍の兵に対応するフェリオたちと、イリスたち来訪者チームを相手に奮戦するリセリナたち。二つの局面が交互に描かれ緊迫度アップ。これはなかなか良い展開ではないか。ここに来て、地味キャラのライナスティに素敵な出番が!作中最強クラスの剣士パンプキンと互角に渡り合う姿に燃える。そしてウィスタルVSベリエ戦の団長対決も見逃せない。主人公以外のキャラクター対決が盛り上がるのは、作品としてキャラが立っている証拠なので、これはとてもいい傾向。
ベリエが片付き、リカルドもあんな状態だしこれで神殿騎士団側の面倒なキャラクターが一掃できた。ここしばらく悪役キャラであったカシナートにも、彼なりの正義があることが示された。これはきっと今後の伏線になるのだろう。いずれ味方陣営に加わるのだろうね。ラストはフェリオたちVS昇華モード(V-MAXとかトランザムみたいな時間限定最強モード)の来訪者と一気に盛り上げて終了。気がかりはウルクの病状が思ったよりも深刻なこと。この巻だけは決着がつかず先に引っ張るようだ。
次巻は孤独に国境で頑張っているベルナルフォンのお話になる見込み。VSタートム編だ。[2008/04] ⇒次巻
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空ノ鐘の響く惑星で8
[渡瀬草一郎] ★★★☆ メディアワークス 電撃文庫 (\630) [Amazon]

タートム軍は国境を越え、アルセイフへと侵攻を開始した。軍務審議官として戦線に加わったベルナルフォンであったが、出自の低さと若さ故、古参の軍閥貴族に侮られ、思うように手腕を発揮することが出来ない。なんとか戦線を持ちこたえることが出来たのは、老少バロッサ・アーネストが率いた工作隊の働きだった。しかし、シズヤたちの玄鳥部隊が到着し戦況は一変。アルセイフ側は苦境に陥る。
2005年刊行。シリーズ八作目。フォルナム神殿編の裏で起きていた隣国タートムとの戦いの顛末を描く。400ページ近いボリュームは過去最高。今回の主役はベルナルフォン、かと思わせておいて、意外なキャラクターが美味しいところを持って行く。まさか、彼がここまで出てくるとは思わなかったよ。対照的に、今回はフェリオの出番が少なめ。最後にやっと出てくる程度だ。
久々の大規模戦闘編ながらも、戦闘スタイルはオーソドックス。田中芳樹作品みたいに、次々と奇策や秘策を繰り出してくるような戦いはこの物語では発生しない。戦いは兵数の多寡と、特殊ユニットの有無で決まる。タートム側のカルバイやモーフィスといった武将が、バカではないし悪者でも無い、それなりの考えがあって動いているキャラとして書いているのが相変わらずいい感じ。単純な悪役を登場させないのは、このシリーズで一貫した特徴となっている。
地味キャラながらも老将バロッサと、その娘ソフィアが登場。ソフィアはベルナルフォンとフラグが立つかと思ったら、意外なキャラにフラグが立った。アルセイフ王家は王族の婚姻について寛容の度合いが高すぎるぞ(笑)。一方、フェリオ側ではウィスタルの甥ハーミットが登場。初のラトロア側キャラですな。出番は少ないのに表紙を持って行くところは卒がない。
そしてイリスが典型的なツンデレキャラになり果てている件。エンジュとの関係は微笑ましいけど、スレた読み手としてはありがち過ぎる展開でやや萎え。ウルクは散々心配させたわりには、最後でアッサリ回復してしまったのも拍子抜けなのであった。もう少し手間をかけても良かったような気がするよ。[2008/04] ⇒次巻
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名探偵木更津悠也 [摩耶雄嵩] ★★★ 光文社 カッパノベルス (\819) [Amazon]

京都の名家で起きた殺人事件。犯人は長男の嫁か、それとも放蕩者の甥なのか「白幽霊」。学園で発見された遺体。被害者は全身を石灰の粉に覆われていた「禁区」。初対面の男に酔った勢いで交換殺人を持ちかけてしまった男。その意外な結末とは「交換殺人」。女子大生は何故殺されなくてはならなかったのか。盲点は思わぬところに「時間外返却」。四編を収録した推理短編集。
2004年刊行。「ジャーロ」等に掲載されていた作品をまとめたもの。麻耶雄嵩作品における名探偵木更津悠也の活躍を描く。『翼ある闇』 [Amazon] で読んだ筈なのだけど。木更津悠也の存在を完全に忘れていた。摩耶作品で、探偵というとメルカトル鮎の印象があまりに強すぎるのがいけない。あちらは「銘」探偵だけどさ。
本作はこの作家の作品としてはかなりノーマルな本格モノ。アクロバットな楽しみは無いが、堅実なミステリが楽しめる。説明不足に思える点が無きにしもあらずだけど、短編故のキレ優先と考えると仕方のないところだろうか。収録された四編にはそれぞれの作品に共通して「白い幽霊」が登場する。しかしその謎は本編では解明されない。え、これ次の話はどれ??なんだかとても気になる。
ワトソン役の香月が盲目的に木更津を崇拝しているように見えて、意外にブラックなところがファン的には楽しめるところだろうか。木更津のキャラクターは典型的な「よくある」名探偵像。抜群の観察力と推理力を持つが、気むずかしくて、プライドが高い。判りやすいけど個性としては平凡で弱い。ま、記号みたいな扱いでいいのかな。せっかくなので、久しぶりに『翼ある闇』を再読しようかと思っている。[2008/04]
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空ノ鐘の響く惑星で9
[渡瀬草一郎] ★★★☆ メディアワークス 電撃文庫 (\590) [Amazon] ※書影無し
タートムの侵攻を退けたアルセイフ軍。フェリオたちは久しぶりに王都セイラムに戻り、束の間の静かな時間を過ごしていた。王宮では舞踏会が開かれることになり、フェリオの傍らに立つ二人の美少女に注目が集まる。しかし宴たけなわのその時、謎の仮面の男が乱入し現場は騒然となる。メビウスと名乗る不敵に微笑む男の正体とは……。
2005年刊行。シリーズ九作目。タートム編が終わり、次なるジラーハ編へと続くインターミッション的なつなぎの回。ウルクとリセリナ(+ソフィア)のドレス姿、それからディアメルのメイド姿を披露するための巻と見た。
そして謎の変態仮面登場。ビジュアル的にも性格的にも「ガンダムSEED」のラウ・ル・クルーゼっぽいね。わざわざ仮面して出てくるくらいだから、これまでに出てきた誰かなのかと思って、正体はリカルドなのかと想像していたのだけと違っていた。ほほう、そう来るか。どうやらこいつがラスボスの予感がする。
ウィスタルの抱えていた秘密が想像以上にヤバくて衝撃を受ける。前王陛下よ、ウィスタルを手元に置いておきたかったのは判るけど懐深すぎだろ。っていうか、王家の血筋を大事にしなさ過ぎ。第四王子ならいいかと思っていたのだろうか。レージクの件もあったから、意趣返し的な側面もあったのかもしれない。でも結果として、有能な王宮騎士団長を確保出来たのだから、高度な政治的配慮と言えないこともない。そう考えると、けっこう腹黒い人だな。
ブラドーお兄ちゃんにはソフィアとのフラグがつながり、長々と引っ張ってきたクラウス-ニナ問題も意外に世話焼きなベルナルフォンの仲介でまとまりそう。話の流れからして、彼らは本筋からは離れていきそうだ。ジラーハ編を前にして、アルセイフ側の人間関係整理が終了。いよいよ終盤だな。さてこの先どうなるか。[2008/04] ⇒次巻
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空ノ鐘の響く惑星で10
[渡瀬草一郎] ★★★☆ メディアワークス 電撃文庫 (\590) [Amazon] ※書影無し
タートムとの停戦処理。産出が止まったアルセイフのセレナイト。依然として予断を許さないラトロアとの関係。様々な諸問題を解決すべくジラーハを訪問したフェリオは、大陸の御柱(ピラー)を統括するウィータ神殿、宗教王国の持つ圧倒的な国力に瞠目させられる。神姫ノエルとの会見は彼とウルクとの関係に思わぬ波紋を及ぼすのだが……。
2006年刊行。シリーズ十作目。今回は神殿の総元締め宗教大国ジラーハ編。物語世界の説明をし過ぎないことが、よくも悪くもこの作品の特徴だろうか。口絵部分のライナスティ君がかなりフォローしているけど。ジラーハの描写は最低限に抑えて、物語を動かす方に注力している。栗本薫みたいにごてごて何もかも説明していたら、倍の枚数使っても終わらないだろうからね。
デレるカシナートに絶望した。ウルクの姉にして、神姫ノエルが本格的に登場。いきなりカシナートとラブラブかよ。傀儡に見えて、それなりに策略も使えるノエルが素敵。「女」としての自分も迷いなく使ってみせるところにしたたかさを感じる。もっと弱々しい存在なのかと思っていたよ。それにしても、マディーン司教が哀れに過ぎる。
ラトロア側の描写も増えてきて、穏健派のダルグレイ議員が登場。しかしシュナイクはいくらなんでも子供過ぎだろ。人の子の親としてそれはどうなのよ。そして最重要アイテム死の神霊が遂に姿を現す。変態仮面メビウスの外道ぶりが冴えまくりで、やっぱりこいつがラスボスで決まりかな。リカルドは最後の出番もかませ犬。それでも、これだけのオールスターキャストを相手に健闘した方だろう。ご冥福を祈りたい。
前巻の舞踏会編で酔った勢いでフェリオの唇を奪ったウルク。意外に策士よのう。フェリオをめぐるリセリナとの三角関係は更に深刻化。いい子過ぎて、逆に嫌みになりかねないウルクの性格をノエル側から指摘させる手回しの良さに感服した。読者からのツッコミ所を丁寧に潰しておく作者の几帳面さに「巧」である。ウルクとの差を完膚無きまでに思い知らされたリセリナは悩みモードに突入。これは終盤まで引っ張りそうだな。
ジラーハ内部の暗闘でまだまだ引っ張れただろうに、これ一冊で終わらせた思い切りの良さ。というか、ラノベ的な制限なのだろうか。ビランチャ大司教とか、クーガー大司教とかいいキャラなのに出番が少なくて勿体ない。そろそろ終わらせろよていう、編集部的な圧力がかかっているのかもしれない。[2008/04] ⇒次巻
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掘割で笑う女 浪人左門あやかし指南
[輪渡颯介] ★★★☆ 講談社 講談社ノベルズ (\800) [Amazon]

とある城下町で出現する女幽霊。掘割に出るその幽霊を見た者には必ず死が訪れるのだと云う。龍神沼の動く死体。商家に現れた後ろに立つ女。鶴北寺の裏山に出る上半身だけの女。相次ぐ幽霊騒ぎの中、次席家老の檜山織部が何者かによって暗殺される。殺害現場は奇しくも、件の掘割の傍だった。大の幽霊嫌い、臆病者の甚十郎は怪談好きの浪人平松左門と謎を解く羽目に陥るのだが。
2008年刊行。第38回メフィスト賞受賞作。メフィスト賞としては初の時代小説。輪渡颯介は「わわたりそうすけ」と読む。五十音順にした時に絶対最後になるように狙ってつけたのかしらん。
見た人間は死ぬと噂される女の幽霊。とある藩の城下町で起きた怪異と、お家騒動にまつわる謎。冒頭から怪談四発。「耳袋」風味のこれがけっこう怖い。怪談の雰囲気作りは上手い。が、その反面で時代小説としての雰囲気作りはまだまだ。時代モノは習慣や言葉、歴史的考証の約束事が多いから、やはり書くのが大変だ。資料を見て書いていますよってのが、透けてみるのは要改善ポイントだろう。
木を隠すなら森に。人殺しを隠すなら怪談の中に。その発想は面白い。虚実入り乱れ、どれが真実なのか判らなくなる。超自然的現象を巧みに取り入れながら、現実的解法も示して見せる。ちゃんと江戸時代で無ければ成立しないミステリにしているところが偉い。周到に張り巡らされた伏線がきれいに回収される鮮やかさは新人とは思えない出来。最後に平仄がピタリと合う面白さを堪能した。京極夏彦の亜流と言われてしまいそうだけど、今後に期待したい作家だ。次にどの程度の作品を出せるかが、評価の分かれ目かな。受賞後第一作への期待は高いぞ。[2008/04]
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空ノ鐘の響く惑星で11
[渡瀬草一郎] ★★★☆ メディアワークス 電撃文庫 (\590) [Amazon] ※書影無し
ラトロアからの使者シュナイクの要請に応える形で、ジラーハはウルクを大使として派遣する。フェリオ主従もこれに同行し、一行は首都ラボラトリへと入る。一方、彼らとは別に、死の神霊の奪還を目指す別働隊として動くリセリナたちは、その隠し場所を求め調査を開始する。メビウスが目論む、恐るべき計画とは何なのか。遂にその全貌が明らかになろうとしていた。
2006年刊行。シリーズ十一作目。大詰め。遂にラトロア編。表紙はデレてるイリスにエンジュ。すっかり空気キャラのイリスが哀しい。別の意味での空気キャラ、これまで出番らしい出番の無かったカトルにすら見せ場があるっぽい。この作者はどのキャラクターにも、それなりの落とし前をつけてくれるのがいいな。でも、ユーディエのプレゼントした香水は光学迷彩が最大の武器であるカトルには致命傷になりそうな気がするよ。同じく地味キャラだったバニッシュもだんだん黒くなってきて、これまで地道に貼ってきた伏線が生きてきた。ラストに向けて、ひたひたとテンションが高まっていく感じがいい!
前の巻から落ち込みモードのリセリナは、養父の死が確定しさらにどん底へ。最終巻を前に落とすだけ落としておこうという措置みたい。でも「名無し」の連中は弱すぎだろう。北方民族抜きではこんなものか。ラスト直前の引きとしてはこれくらいの苦境設定は必要だったのかもしれない。アンジェリカの生死が気になるところ。さあ、次で最後だ。順調に物語が収束してきているようなので、良い仕上がりが期待出来そうだ。[2008/04] ⇒次巻
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空ノ鐘の響く惑星で12
[渡瀬草一郎] ★★★★ メディアワークス 電撃文庫 (\690) [Amazon]
メビウスの真の目的は、かつてリセリナたちが暮らしていた「向こう側の世界」を訪れること。しかしその行為はこちらの世界の滅亡を意味していた。死の神霊を奉じる六番目の神殿「終末の黒い神殿」がラトロア首都ラボラトリに出現した時、惑星の存亡を賭けた最後の戦いが始まる。決戦の場へと赴くフェリオたち。果たして世界の命運は。
2006年刊行。シリーズ最終作。各巻ごとに二人の主要キャラクターが描かれ、一巻ごとに登場キャラが入れ替わっていくという、これまでの表紙イラストの法則性が崩れて、本巻ではフェリオ、ウルク、リセリナの主役キャラ三人が登場。最後だから仕方が無いとはいえ、一度しか表紙に出られなかったエンジュは可哀想。
さて最終巻である。これだけの長編を三年で書いてしまい、大きな破綻もなく綺麗に幕引きが出来る才能はたいしたもの。名台詞のオンパレード。主要キャラ勢揃いでお送りする、見事すぎるくらいの大団円に拍手喝采だ。
前半はラトロアとの外交交渉を頑張るウルクの話。この後のラストバトル編では非戦闘員の彼女には出番が無いため、事実上これがウルクの最終ステージとなる。他国の大人相手に一歩も引かないウルク。政治家として神姫の妹としての責任を必死に果たそうとする姿が可憐で良きかな良きかな。どうせなら傍らにフェリオが居なかった方が、より緊迫度&必死度が高まって良かったと思うのだけど、それは高望みしすぎだろうか。
会談が一段落ついたところで、最終的な手段へと出たメビウスの暴走が発覚。世界の滅亡という事実の前に、己の野心よりも世界の存続を選択するジェラルド。まあ、惑星環境が崩壊してしまっては、ラトロアの覇権云々の話どころでは無いので、こう決断するしか選択肢が無いところなのだけど、ユーディエのエピソードをしっかり入れておいたのがここで効いてくる。政治家としての野心と父親としての情愛。一つの人間の中に複数の立ち位置を用意することでキャラクター描写に深みが出てきた。メビウスみたいにぶち切れてしまった悪役キャラも必要だけど、ジェラルドのような地に足のついた敵キャラもこうした長編作品には大事なのだ。
というわけで、対メビウス連合軍が結成される。フェリオ&リセリナにアルセイフ王宮騎士団、ジラーハの神殿騎士団&名無しの方々、北方民族の皆さんそしてバニッシュを除く来訪者軍団と豪華すぎるラインナップ。なんという呉越同舟。ラストならではの豪華ラインナップである。これを迎え撃つのは変態仮面メビウスに、シズヤ主従、来訪者バニッシュ、そして無数の屍の兵の皆さん、そして頼りないながらもリーブルマン先生ってところか。出番が無いかと思われたウィスタル、バロッサの爺さんにまで出番があるとは!なんという熱く燃える展開。これだけ主要キャラクターが綺羅星のごとく登場するラストバトルで、美味しいところを全てもっていくパンプキンの冠絶した個性は異常(笑)。格好良すぎるだろう。
このシリーズは、大兵力同士の直接戦闘シーンが当初思っていたよりも少なくて(結局タートム戦くらいでしょ)、戦記モノ好きとしてはややガッカリしていたのだけど、大勢登場するキャラクター個々の戦闘シーンを楽しむためには、この程度の戦闘規模で良かったのかもしれない、数千、数万と大軍同士での戦争になると個人個人の力はどうしても見せ場を作りづらい。戦術レベルの戦闘に止めておいたのは正解だったと思う。
終盤。リーブルマンの爺さんごときに無力化されるハーミットはどうなのよ。フェリオに予備の神鋼の剣を渡すためだけにここまで連れてこられたハーミットの哀れさに合掌。そして真のラストバトル。フェリオ&リセリナVSメビウス。二対一とはメビウスがあまりに不利すぎて泣ける。やっぱり天然こそ最強ということなのか。最終局面では戦闘面で精神面でもフェリオの圧勝だった。王道を行く気持ちのいい決着の付け方に◎。
ラストバトルの後は、ちょっと長めのエピローグ。登場キャラクターが多かった分だけ、物語の幕を下ろすのにも手間がかかるのだ。思っていたより生存者が多かったのは驚きだった。メビウス、リーブルマン先生、バニッシュ、カトルくらいしか死んでいない。本当の悪党はこんなことでは死なないのよ!ってことで、しぶとく生き残るシズヤたちには笑った。ジェラルドにも再度の見せ場があるのも素晴らしい。そして、懸案のフェリオ、ウルク、リセリナの三角関係は予想通りというか、それしか無いだろうという重婚エンドで決着。いやはや王族って羨ましい。しかしアルセイフ王家は王族の結婚に関して本当に寛容過ぎ。大事な存在を守るためには、何かを捨てなくてはならないときが来る。運命の選択を迫られたときに「オレはどっちも守る!」と言い切って、それを実現してしまうフェリオが本当に凄すぎる。
大ラスは再び空ノ鐘が響く季節で。空ノ鐘が鳴って始まった物語が、空ノ鐘の音と共に閉じていく。円環的な処理がお約束ながらも美しく決まった。最後に登場するのは成長したシアと、フェリオ、ウルク、リセリナの子供たち。そしてここでも美味しいところを持って行くかパンプキン。余韻を残した終わり方が見事。実に味わい深い、素敵な最終巻だった。[2008/04] ⇒次巻
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他方等は四十歳。独身。東京の大学を卒業し、東京で働いていたが脱サラ。生まれ育った広島に帰り今にも潰れそうなバーを経営している。吹奏楽部時代の先輩桜井ひとみと再会したことで思わぬ事態に巻き込まれる。彼女の披露宴までに、かつてのメンバーを集めて吹奏楽部を復活させることは出来るのか?同窓生たちに声をかけはじめた他方は、そこで歳月のもたらす重みと哀しみを知る。
2006年刊行。津原泰水描くところの1980年代ブラバン小説。『ぶらばん!』だとエロゲーになっちゃうので注意ね。津原泰水は広島観音高校の吹奏楽部でコントラバス奏者だったらしい。経験に基づく部活描写が泣かせる。部活モノということもあり、登場人物はかなり多めで総勢34名。でも、冒頭に人物紹介図があるので、なんとか混乱せずに読める。会話文は全編広島弁で方言好きにはたまらない。
全12章構成で、それぞれの章にはクラシックもしくはロック、ジャズの名曲のタイトルが冠せられている。ニコニコ動画かYoutubeでほとんどの楽曲は見つけることが出来るので、興味がある人は探してみるといいだろう。楽曲と内容の関連を考えながら読むのもまた良し。70年代〜80年代のロックの知識があると更に楽しめる。ジャズまで判れば完璧だ。吹奏楽畑の出身ではないので知らなかったけど上岡洋一の「秋空に」は、郷愁漂う名曲。これを聞くだけでも泣けそうだ。これだけはリンク貼っておく。
あこがれの桜井先輩(Tp)が結婚。彼女の披露宴のために、当時のメンバーによる吹奏楽部を復活させるべく奮闘を開始する主人公。主人公の所属していた吹奏楽部は決して上手な学校ではなく、コンクールの予選すら通らないレベル。学校としても、二流の進学校で空気は至って温めだ。高校時代のエピソードはリアリティ満点で面白い。合宿で女湯覗いたのがばれて女子にハブられるクラ男子とか、ゲイの先輩に迫られたりとか、学校の楽器がボロばかりだったりとか、コンクールでの失敗話、文化祭での反乱劇等々、ありそうな話ばかりで音楽系の部活出身者ならニヤニヤしながら読める筈。
ただ、なにせ主人公が四十歳なので、現役もしくは高校卒業十年以内の読み手には、まだピンと来ないエピソードが多いかもしれない。この作品で特徴的なのは現在パートのヘビーさが半端で無いことだ。四半世紀の歳月は人間を変えてしまう。久しぶりに手に取った楽器からは思うような音が出ないように、登場人物たちの人生も若き日に願った通りのものとはならなかった。一握りの成功者たちと、取り残されたそうでは無いものたち。二度と会えない同級生。人生の折り返し地点を過ぎて終わりが見えてきた。それでいて、まだ全てを諦めるわけにはいかない。そんな年代の微妙な想いを津原泰水は熱くなりすぎることはなく、かといって突き放すでもなく適度な距離感を保ちながら綴っていく。露骨な感動路線に走らないのがいいところだろう。
総勢34名の過去と現在を行きつ戻りつしながらも、視点にはぶれがなく、きちんと読んでいけば無理なく読了出来ると思う。わたしは一晩で一気に読んでしまった。人はなぜ音楽を奏でるのか。凡人がなかなか言語化出来ないもやもやとした思いを、ああそうなのかと納得度の高い文章で示してくれたのも高く評価したい。ちょっと長いけど最後に引用して終わるよ。[2008/04]
音楽なんて、単純な物理法則を利用した儀式に過ぎない。
音楽なんて、雑多な情報に取り囲まれた空虚に過ぎない。
音楽なんて、本来他人とは共有しえない閃きに過ぎない。
音楽なんて振動に過ぎない。
音楽なんて徒労に過ぎない。
音楽は何も与えてくれない。与えられていると錯覚する僕らがいるだけだ。
そのくせ音楽は僕らから色々に奪う。人生を残らず奪われる者たちさえいる。
なのに、苦労を厭わず人は音楽を奏でようとする。
種を植え歩くようにどこにでも音楽を運んでは奏で、楽しいことばかりならいいけれど、
それを原因に争ったり病気になったり命を絶ったりする。
そんな手に負えない悪辣な獣から僕らが逃れられないのは、
きっと、そいつと共にいるかぎりは、何度でも生まれ直せるような気がするからだ。
そいつに餌を与えながら、滑らかな毛並みを撫でてきた者ほど、予感に逆らえず、背を向けられない。