2008年7月

書籍名
作家名
出版社
価格
コメント
お薦め度
白澤 人工憑霊蠱猫02 化野燐 講談社 \880
時実君の能力は面白い。
★★★
時砂の王 小川一水 早川書房 \600
もっと長くても良かったな。
★★★☆
百万の手 畠中恵 東京創元社 \800
初の現代モノらしい。
★★★
キラレ×キラレ 森博嗣 講談社 \880
Xシリーズ二作目。
★★☆
龍盤七朝
DRAGONBUSTER 01
秋山瑞人 メディア
ワークス
\550
早く続きを!
★★★☆
化物語 上 西尾維新 講談社 \1,600
でも、イラストはイマイチだと思う。
★★★☆
化物語 下 \1,500
マグダラのマリア 岡田温司 中央公論新社 \800
この時代の「マリア」さん多すぎ。
★★★☆
作者不詳
ミステリ作家の読む本
三津田信三 講談社 \1,500
奈良県怖ええ。
★★★☆
半落ち 横山秀夫 講談社 \1,700
映画も見ておくかな。
★★★
陽気なギャングの日常と襲撃 伊坂幸太郎 祥伝社 \838
テイストは軽め。
★★★
探偵小説のための
ヴァリエイション
「土剋水」
古野まほろ 講談社 \950
熱血バカカルタ小説としては最高。
★★★
樹上のゆりかご 荻原規子 中央公論新社 \950
恐るべし立川高校。
★★★☆

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白澤 人工憑霊蠱猫02 [化野燐] ★★★ 講談社 講談社ノベルズ (\880) [Amazon]

白澤 人工憑霊蠱猫 02 (講談社ノベルス)

美袋学園の学芸員時実はかつての恋人高穂の依頼を受け、失踪した彼女の父親嵯峨野教授の行方を追うことになる。学園内は瓜生助教授が推し進める謎の研究のために、不穏な空気が漲りはじめていた。妖怪の実体化を企てる"有鬼派"の一党は着々とその陰謀を実行に移していく。巨大データベースの中に蠢く怪異たち。調査を進める時実の前に現れたのは……。

古い歴史を持つ地方の街。現代になってから増え始めた研究施設群。なんとなく筑波みたいな感じ?そんな街を舞台として繰り広げられる伝奇バトルもの。人工憑霊蠱猫シリーズの二作目。2005年刊行。久しぶりに続きを読んだらすっかり前の話をわすれていた件。こういうのは一気に読まないとダメだよな。

しかし二巻まで行ってこの展開は遅すぎるだろう。山形石雄ならもう主要キャラが半分くらい死んでいてもおかしくない状態だぞ。前巻では出てこなかった人物の視点で物語が始まるので、しばらく時間軸が動いた後の話なのかと思ったら、まるで前の巻から話が進んでないではないか。まさか同じ時間軸を使っての別キャラ視点展開をやるとは意表を突かれた。

話はちっとも進まないのだが、キャラクター小説としては着々と主要キャラが出揃ってきている印象で、まったりメガネっ娘エンジニア石和さんはオーソドックスな天然系で良い感じ。あらゆる怪異が顕現しなくなる「妖怪キャンセラー」時実クンの特殊能力も面白い。この第二巻は、単体で取り上げてみるとまったくオチがついていないので、そろそろ次回からドカーンと一気に盛り上げて欲しいもの。真面目に続きを集めてみるかな。[2008/07]

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時砂の王 [小川一水] ★★★☆ 早川書房 ハヤカワ文庫 (\600) [Amazon]

時砂の王 (ハヤカワ文庫 JA オ 6-7)

2598年。人類は正体不明の機械生命体の来襲より存亡の淵にまで追い詰められていた。地球本星は壊滅。海王星の衛星トリトンにまで後退した人類は、最後の切り札として時間を遡って全ての過去を書き換える奇策に打って出る。メッセンジャーと呼ばれる強化人間たちは地球の様々な時代で過酷な戦いを挑んでいく。そして決戦の地は、紀元248年の邪馬台国となるのだが……。

2007年刊行。書き下ろし作品。どうしてJコレクション枠で出なかったのが謎である。今が旬の小川一水ならそれでも十分売れただろうに。

現在の絶望的な危機を回避するために過去を変える。それじゃ、歴史が変わっちゃうじゃん。というツッコミのために、この話では時間枝の概念が持ち込まれている。過去が変わった時点で時間の枝には新たな分岐が起きる。もともとの時間枝に暗い未来しかなかったとしても過去のどこかの時点の人類が勝利した世界が存在すれば、そこで枝分かれした未来では人類は救われる。それで良しとする考え方。

敵となる謎の機械生命体にも時間跳躍能力は備わっており、彼らは時間を遡っては凄絶な死闘を繰り広げる。しかしながら突然現れた人間に「僕たちは未来からやってきました。このままでは人類は滅びてしまいます。さあ、僕らと一緒にエイリアンと戦いましょう!」なんて言われて、その時代の政府首脳たちが素直にハイと言えるわけもなく。その時代の人々の協力を上手く得ることが出来ずに、メッセンジャーたちはひたすら負け続ける。負けた場合は更に時間を遡ってリベンジとなる。というわけで、この戦いの決着は簡単にはつかない。

昔の小川一水だったらこの設定だけで三冊は書いていたと思うのだけど、今回はやけにあっさりしている。正直勿体ないと思うなあ。連合軍と枢軸軍が呉越同舟でエイリアンと戦う第二次大戦編なんて、本気で書いたら相当面白くなったと思うだけにかなり残念だ。この設定は『導きの星』のような大長編で読んでみたかったよ。

そして負け続けたメッセンジャー側が乾坤一擲の大勝負に出るのが卑弥呼時代の日本。燃える設定を用意することにかけては小川一水、今回も実に冴えている。本作のヒロインはなんと日本史上最古の女性有名人卑弥呼なのだ。この話、ちょっとさすがに短すぎて少々説得力に欠ける面が無くも無いのだが、「だって卑弥呼だし」で全てが許されてしまう。卑弥呼ならそれくらいするでしょ。と、読み手がついつい納得させられてしまう。実在した人物のキャラクター力をブースターにした幕の引き方はずるいなとも思ってしまうけど、卑弥呼の可憐さが半端無く素敵なのでアリってことで。ラストはバレバレなんだが、それでも燃えた。時間モノの醍醐味はこれだよな。[2008/07]

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百万の手 [畠中恵] ★★★ 東京創元社 創元推理文庫 (\800) [Amazon]

百万の手 (創元推理文庫)

音村夏貴は十四歳。父親を事故で亡くし、現在は母一人子一人の生活。母親の過剰なまでの愛情と依存に苦しむ日々が続く。過呼吸発作の持病あり。唯一の救いは同級生の正哉の存在だったが、突然の火事が親友の命を奪ってしまう。悲嘆にくれる夏貴に、かかってきた電話。携帯から聞こえてくるのは死んだ筈の正哉の声だった?

2004年に東京創元社のミステリフロンティアから出ていた奴の文庫版。2006年刊行。『しゃばけ』の畠中恵がはじめて書いた現代作品。

なんというかその、有り体に言うと黒くない宮部みゆき(しかも初期作品)みたいなテイスト。しかも残念なことに上手く書けてない。 まず夏貴と正哉の距離感が妙にウェットで気持ちが悪い。この年代の男の子が当の本人に対して「親友」なんてコトバで呼びかけたりしないだろ。この話、もしかしてそっち系?畠中恵お前もかと、いきなり引いてしまった読者は決してわたしだけでは無いはず。

ところが主人公と正哉の関係性で引っ張っていくのかと思ったら、途中から方向転換。ええっ、正哉の扱いはそれでいいのかよ?後半は「オッサン」こと、母親の再婚相手との疑似親子モノになってしまう。畠中恵という書き手は、ひょっとして同性キャラを描くのが苦手なのだろうか。かなり重要な位置づけのはずなのに、主人公の母親がちっとも話の本筋に絡んでこない。母親との関係については、しっかりと描きこんでおかないと終盤の展開に説得力が出ないのだけど……。

最後のカタストロフィは、やり過ぎというか、絵空事過ぎというか、土曜ワイドショウ的な空々しさが一杯で読んでいてメゲてしまった。ラスボスの人も、それ相応の伏線を張っておかないと、誰こいつで終わってしまうのだ。『しゃばけ』の続編は今後も読んでみるつもりだけど、現代モノはこの程度の出来だとこれから先、読むのは考えてしまいそうだ。[2008/07]

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キラレ×キラレ [森博嗣] ★★☆ 講談社 講談社ノベルズ (\880) [Amazon]

キラレ×キラレ (講談社ノベルス (モF-39))

満員電車の中で頻発する、三十代の女性ばかりをターゲットとした切り裂き魔事件。探偵鷹知祐一朗と椙田探偵事務所に所属する小川令子は事件の調査を開始する。一見、何のつながりも無いように見えた被害者たちだったが、彼女たちにはとある共通点があった。佐久間クリニックに通院していた彼女たちは何故被害に遭ったのか。切り裂き魔の正体は意外な人物だった。

Xシリーズの第二弾。2007年刊行。まあ、よくある隣のサイコさん系。でも、前回よりは悪くない。って、前回が酷すぎたか。新キャラの小川さんメインで物語が進行するので、本編が短い中で視点があちこち飛ばずに最後まで進む。警察や医者みたいな仕事の人間が、警察でも無い人間相手に、ペラペラ大事な秘密を喋ってくれるのはもはや突っ込むだけ野暮ということで。しかし今回のヒロインは地味だなあ(小川さんゴメンね)。[2008/07]

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龍盤七朝 DRAGONBUSTER 01
[秋山瑞人] ★★★☆ メディアワークス 電撃文庫 (\550) [Amazon]

DRAGONBUSTER 1 (1) (電撃文庫 あ 8-13 龍盤七朝)

被差別民「言愚」の少年涼孤は天涯孤独の身の上。卯王朝の都、元都で似顔絵描きと、講武所の下働きで生計をまかなう日々。かたや月華は王国の第十八皇女。たびたび屋敷を抜け出してはお忍びの市中徘徊を楽しんでいた。出会う筈の無い二人が出会ってしまったことで時代は動き始める。"龍の末裔"たる涼孤の振るう剣はいかなる因果を世界に呼び込むことになるのだろうか。

秋山瑞人三年ぶりの新刊。2008年刊行。『ミナミノミナミノ』はいらない子と考えてよろしいのですね。酷い。酷すぎる。いくら『イリヤ』と話が被ってたからってあんまりだ。このままだと『E.G.』の続きは永遠にあり得なさそうだな。新シリーズはじめるのは良いけど、ちゃんと完結させような。それから刊行ペースも大事。せめて年に一冊は続きを読ませてね。

本作は秋山瑞人初のオリエンタルファンタジー。見てきたような嘘をつく力はさすがに秋山。相変わらず上手い。空気の臭い。街の喧噪。光と陰のコントラスト。いきなり異世界へと読者を呼び込む筆力はやはり健在であった。

わりと露骨に差別ネタが描かれて驚く。小説以外のメディアではこういう話は出来ないだろうな。言愚は被征服民たちの中でも最下層の山岳民族という設定で、まともな職業には就けないし、殴られようが何をされようが何も言えないような階層。ヒロインの友人の女の子は女郎屋勤めだし、相変わらずエグイぜ秋山。ヒロインの月華の無垢にして無知な部分が今回はひたすら強調されていただけに、これがいつ暗転してくるのか、ダークな期待を抱かずには居られない。

このもの凄い身分格差を乗り越えて、この二人のカップリングは成立するのか。涼孤が用いる剣術にはいろいろな秘密が隠されていそうだし、月華の技倆が今後のインフレ的に上がっていきそうな点も楽しみだ。何にせよ、こういう話は戦ってナンボなので、まずは敵カモーン。まずは、強力なライバルさんいらっしゃい〜♪ってところかしらん。早く次を出そうな>>作者。[2008/07]

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化物語 上・下
[西尾維新] 
★★★☆ 講談社 講談社BOX (上:\1,600/下:\1,500) [Amazon:/]

化物語(上) (講談社BOX) 化物語(下) (講談社BOX)

私立直江津高校に通う学生、阿良々木暦はクラスメイト戦場ヶ原ひたぎの身に隠された恐るべき秘密を知ってしまう。はかなげで深窓の令嬢にしか見えない彼女を呪縛する忌まわしい怪異。それは体重のほとんど無くしてしまうという不思議なものだった。その呪いを解くべく行動をはじめた阿良々木は、更なる妖魅の世界へと足を踏み入れていくのだが……。

2006年刊行。二冊で\3,100っ高くね?そう思って古本で買えるまで待っていた自分がバカだった。それでいて『刀語』は12冊きっちり集めてしまった自分が恥ずかしい。クオリティはどう見ても『化物語』>>>越えられない壁>>>『刀語』。西尾維新よすまん。ちなみに「バケ−モノガタリ」ではなく「バケモノ−ガタリ」なので注意。

平たく言うと、西尾維新版京極堂。戯言シリーズの異能バトルが、今回は妖怪伝奇バトルになったと思いなさいと。主人公の善良さは西尾作品随一。なんていい奴。エロゲーの主人公みたいに女の子が寄ってくるのも仕方ない。登場する女性キャラは、ツンデレ(微妙にヤンデレも兼務)、体育会系百合少女(エロ担当)、小学生(噛む担当)、妹系中学生(ロリ担当)、正統派委員長(隠れエロ担当)と、今回攻略出来るのは五人。年上系が居ないのが唯一の難点だろう。

作者曰く、書きたいように書いた、とあるだけあって、もう西尾維新的言葉遊びが全開。これがもう完全に振り切れてる。話のテンポとか、バランスとか考えないでひたすら会話。会話。会話。とにかく会話。でもそれがイイ!会話シーンを省略したらこの話のボリュームって1/4で済んでしまう。でもそれでいてなお、この話の肝は会話なのだ。姫ちゃんのいた頃の戯言シリーズが好きだった人間には、間違いなく「刺さる」作品だろう。

そして凄絶なまでに見事な切れ味を見せるツンデレヒロイン、戦場ヶ原ひたぎがあまりに魅力的過ぎる。極北のツンとピンポイントでたたみかけてる肺腑を抉るようなデレ。このバランスが素晴らしい。泣くだろこれ。これは骨抜きにされても仕方が無い。前日譚『傷物語』と、後日譚『偽物語』も出ているようなのだが、これに戦場ヶ原が出ているかで、読むモチベーションが随分と変わってきそうな気がするよ。[2008/07] ⇒次巻

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マグダラのマリア [岡田温司] ★★★☆ 中央公論新社 中公新書 (\800) [Amazon]

マグダラのマリア―エロスとアガペーの聖女 (中公新書)

キリスト教史においてマグダラのマリアは特別な位置を占めている。聖母マリア、エヴァと並んで聖書の中で、最もよく知られた女性存在でありながら、その真実の姿は時代の変遷により大きな変容を遂げている。聖書のテキストの中では僅かに言及されるに過ぎなかった彼女に膨大な「物語」が習合されていく課程を、豊富な美術作品を例に出しながら読み解いていく。

2005年刊行。これは面白い!本書は名前だけは知っていても、あまり日本人には縁が薄い「マグダラのマリア」さんについての考察本だ。

新約聖書における「マグダラのマリア」の出番は実際には極めて少なく、最大(ルカによる福音書)でも四回しか出てこない。 登場するのは、福音の旅、キリストの磔計、埋葬、復活のシーン。しかし登場機会は少ないが、出てくる時は重要なシーンばかりだ。聖書内の福音書(マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネと四つある)によって、彼女の扱いに軽重があり、これは原始キリスト教時代における、女性の位置づけをどうするべきか教団内でも判断に揺れがあったのではとする指摘が実に興味深かつた。

一般的に「マグダラのマリア」のエピソードだと思われている「罪深き女」や「ベタニアのマリア」は本来まったくの別人で、本来別人のエピソードを一つにまとめたのは、あのグレゴリオ一世。かつて娼婦であった罪深き女が、イエスに出会いその死と復活の場に立ち会うことで改悛し、信仰に目覚め聖女へと変貌していく。という、人口に膾炙した「マグダラのマリア」像は後世のキリスト教会が、布教のために意図的に作り上げたものらしい。罪に穢れた人間でも、頑張って信仰すれば天国に行けますよ。ってのは信仰を広める側としては都合の良いモデルケースだったわけだ。

本書では有名なティツィアーノの「改悛のマグダラ」を筆頭に、バロック期に描かれたマグダラのマリアを描いた絵画が豊富に紹介されている。聖と俗の間を揺れ動いたさまざまなマグダラ像が見られるのがたまらなく面白い。全部カラーで見たいぞこれ。まさに聖女!と呼ぶしかないような楚々とした姿から、フェロモン全開のエロティカルな姿まで、仮にも列聖された人物の絵姿にこれほど幅が出るのはこの人物の故の特性なのだろう。罪に穢れすぎてどうしようも無いエヴァ、あまりに気高すぎて近寄りがたい聖母マリアの中間に位置づけられたのがマグダラのマリア。だからこそのバリエーションの奥深さなのだ。

実際、ティツィアーノの「改悛のマグダラ」にはいくつかバージョンがあって、聖書の世界の人々を裸で描くなんてけしからん!みたいな教会の締め付けを受け、全裸⇒半裸⇒着衣と時代が下るにつれて肌の露出が減ってくる事例が紹介されている。確かにここまでエロティカルな絵だと、バロック時代のグラビアアイドルと呼んでもおかしくないかもしれない。裸体バージョンのマグダラが高位聖職者の間でプライベートコレクションとして人気が高かったなんて話も本気で信じたくなってくる。

物足りない部分としては、視点が14世紀〜17世紀のイタリアに特化している点だろうか。他の時代や、他の国ではどんな扱いだったのかが気になるところ。[2008/07]

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作者不詳 ミステリ作家の読む本
[三津田信三] 
★★★☆ 講談社 講談社ノベルズ (\1,500) [Amazon]

作者不詳―ミステリ作家の読む本 (講談社ノベルス)

編集者の三津田は奈良の古い寺町、杏羅で奇妙な古書店を見つける。店の存在を知らされた親友の飛鳥は「迷宮草子」と題された古ぼけた同人誌を手に入れる。ごく僅かな数だけしか製作されなかったこの冊子には七つの物語が収められていた。何気なく最初の一編を読み終えてしまったとき怪異が訪れる。物語の謎が解けない読者を待つのは死のみ。二人は「迷宮草子」を最後まで読み終えることが出来るのか。

作者と同名の三津田クンが頑張る三津田シリーズの二作目。今回もホラーテイストたっぷり(但し、今回は和風)のミステリ作品となっている。時系列上は処女作の『ホラー作家の棲む家』よりは前の設定。同人出版されたミステリアンソロジー「迷宮草子」を手に取った時から始まる怪奇譚を描く。

「迷宮草子」には七編の物語が収められており、体験談を元にした怪異譚はいずれも謎解きが放棄されたまま物語が終わっている。「迷宮草子」を読んだ者は、それぞれのエピソードに隠されている真相を看破出来ないと、その物語の持つ呪いに取り込まれてしまう。過去にこの本を手にしたものは全て謎の失踪を遂げている。つまり、皆その謎を解くことが出来なかった、というわけだ。

かくして、三津田は友人の飛鳥信一郎と共に「迷宮草子」の謎に挑んでいく。七編の作中作はゴシックホラー風ミステリから、地域の伝承を絡めた横溝正史風本格、猟奇でエログロな乱歩テイスト、スラッシャー風味のそして誰もいなくなった系、そして王道を行く孤島モノと、いずれも趣向を凝らした贅沢な遊び心に満ちた作品ばかりが取り揃えられている。これは垂涎のバラエティだろう。ケチケチしないで、惜しみなくありったけの仕掛けを盛り込んだその意気や良しである。ショボイ作家だったら、これだけで本七冊書いちゃうよ。

三津田の住んでいる架空の集落。奈良県杏羅の妖しげな雰囲気がいい。ちょっと出歩くとすぐに古墳にぶつかる近畿圏ならではの設定が関東者のあこがれを誘ってやまない。七つの物語は独立しているように見えながらも、微妙にリンクしており、ベースとなる三津田と飛鳥の物語をも絡め取りながら、最終的には現実世界に浸食してくる。杏羅という街の持つ独特の怪異を内包した雰囲気がここで生きてくる。万人向きとは言い難いが、ハマる人間には麻薬のように吸引力のある作品だと思う。残り二冊も買っておいて良かった。[2008/07] ⇒次巻

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半落ち [横山秀夫] ★★★ 講談社 (\1,700) [Amazon]

半落ち

W県警本部教養課次席の梶聡一郎が自らの妻を扼殺した。若年性アルツハイマー病に苦しむ彼女を見かねての犯行だった。現役の警察官が犯した妻殺しに世間は騒然となる。梶は全ての罪を認め犯行の一部始終を自供する。しかし犯行から自首に至る空白の二日間に関して、彼は全てを黙秘していた。果たしてその二日の間に何が起こったのか。

初出は「小説現代」。刊行は2002年。その年の「このミス」国内部門および「週刊文春ミステリーベスト10」国内部門で共に第一位となった作品。横山秀夫のブレイク作だ。この人は本作でいきなり有名になったので、これが処女作なのかと思っていたのだが、実は意外にキャリアが長くて驚かされた。なんと1991年頃から既に作家活動をはじめていて、2002年の本作でやっと大当たりを出したという事になる。

ということで、有名過ぎる作品だがやっと読んだ。この作品、直木賞の候補にもなったものの、作中に致命的な事実誤認があると、北方のオッサンと林真理子のオバサンに難癖をつけられて、作者が激怒。逆に直木賞に訣別宣言をしたことでも知られている。

梶本人の心理描写は書かれることが無く、取り調べをした刑事、検察官、新聞記者、弁護士、判事、刑務官など、梶を取り巻く人々の視点でのみこの作品は形成されている。本人を直接描かずに、周囲の目線からその人となりを表現しようとする浮き彫り型の構造を取っているのだ。次々に視点となる人物が変わるので最初は取っつきにくいかもしれない。しかし構成そのものはシンプルで、リーダビリティも高いので、慣れればサクサクと読めてしまえる筈。

梶の抱えている秘密はなんの伏線も無いまま、最後の最後まで明らかにならないので、これが弱いと言えば弱い。梶は完全黙秘を続け、事件の真相はわからない。しかし、警察や検察庁、大新聞社。巨大組織の中で清濁併せのまなければ生きていけない男たちにとって、妻を手にかけながらもその目に一点の曇りもなく、あくまでも信じる何かを貫き通そうとする梶の姿が、次第に神々しいまでの輝きを放つように見えてくる。

この話の最大の泣かせどころは、真実が明らかになるラストではなく、その前の裁判シーンなのだろう。捜査に関わってきた男たちは、梶がひた隠しにする秘密が何だか判らないままなのに、それでも梶の中にある誠実さを信じて、それぞれが示し合わせている訳でもなく、とにかくこいつをなんとか救ってやろうと、それぞれの立場で少しだけ組織に叛こうとする。これは泣ける。

ちなみに直木賞を取り損なった問題点は「受刑者はドナーになれない」という事実らしい。でもそれって、この話のクオリティに対して瑕瑾としか思えないのだけど。そういう重箱の隅を突いても虚しいだけなのではないかと心底思う。ツッコミどころが全く無いフィクション作品書いてる作家なんてそうそう居ないだろうに。[2008/07]

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陽気なギャングの日常と襲撃
[伊坂幸太郎] ★★★ 祥伝社 ノンノベル(\838) [Amazon]

陽気なギャングの日常と襲撃 (ノン・ノベル)

マンション屋上で起きた立てこもり事件。ベッドから消えた幻の女の話。送られてきた謎のチケットの物語。いわれのない暴力に晒された男が隠し持つ秘密。四つのストーリーは捻れに縺れ絡み合い、そして意外な模様を描きはじめる。陽気なギャングたちが狙う、新たなるターゲットとは。騒動の末に明らかになる事件の全体像とは……。

2006年刊行。『陽気なギャング』シリーズの二作目。冒頭の短編四つは「小説NON」誌上に2004年から2005年にかけて掲載されたもので、もともとはメインキャラ四人にそれぞれ短編二作を書いて、計八編の短編集として仕上げるつもりだったらしい。が、途中で方針転換。四編書いたところでそれを連作化し、更にそれに追加エピソードをドッキングさせて長編作品に仕立ててしまったのが本作だ。

別々に進行していたエピソードの一編一編が、思わぬ連鎖を繰り返すうちに鮮やかな一枚のタペストリーに仕上がっていく手並みはさすがに伊坂幸太郎。この作者お得意のスタイルといったところだろう。こんなに上手くいくわけねえだろ!なんて突っ込んじゃだめね。気軽にスイスイ読めるのがこのシリーズの良さかな。そろそろ一作目の映画を見てみよう。[2008/07]

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探偵小説のためのヴァリエイション「土剋水」
[古野まほろ] ★★★ 講談社 講談社ノベルズ (\950) [Amazon]

探偵小説のためのヴァリエイション 「土剋水」 (講談社ノベルス フJ- 5)

第六十六期歌龍戦。その舞台は実予が誇る住田温泉本館又神殿。競技かるた実力制第十代名人水里あかねは、無敵の挑戦者神角五冠を迎え撃つ。名人位以外の全てのタイトルを奪った強敵を相手に、長いブランク空けのあかねは勝利することが出来るのか。しかし、住田温泉では思わぬ事態が出来。対戦中に発見された三人の死体。容疑はあかねに向けられる。

2008年刊行。南国実予(どう見ても松山)を舞台とした「探偵小説」シリーズの第二弾。今回は「THE・道後温泉殺人事件」。三階建ての木造建築。漱石の間。神の湯に霊の湯。住田温泉のオリジナルは言うまでもなく道後温泉だろう。

もう、熱血カルタバトル小説でええぞな。ミステリしないでもええぞなもし。バカ小説として純粋にカルタバトルを読ませてくれよと伏してお願いしたくなったのはわたしだけ?「天帝」シリーズの古野まほろに勝るとも劣らない、肥大した脳内妄想を節操もなく垂れ流すヒロインが、前巻まではうざったくてたまらなかったのだけど、不思議と慣れてきてしまった気がする。慣れとは怖ろしい。

天才美少女陰陽師(笑)の謎解きは相変わらずディティール無視で清々しい。コモの正体があの人でほぼ確定と判ってから、俄然楽しくなってきたが、その分「天帝」シリーズを読めていないとつらいかもしれない。今後どうあちらと話がリンクしてくるのに期待しよう。[2008/07]

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樹上のゆりかご [荻原規子] ★★★☆ 中央公論新社 C-NOVELS (\950) [Amazon]

樹上のゆりかご (C・NOVELSファンタジア)

都内多摩地区有数の進学校、辰川高校に進学した上田ひろみは、ふとした事件をきっかけに生徒会執行部の面々と交流を深めていくことになる。五月の合唱祭で起きた不気味な事件。パンの中にカッターの刃を入れたのは誰なのか?季節は変わり夏、そして秋へ。演劇コンクール。体育祭。辰川高校の伝統行事にさす不穏な影。果たしてその犯人とは?

2006年刊行。もともとは2002年理論社から刊行されたもの [Amazon] がオリジナル。『これは王国のかぎ』の後日譚にあたる。上田ひろみ久しぶり!前作は異世界巻き込まれ型ファンタジーだったけど、今回は純然たる学園小説だ。話としては完全に独立した造りになっているので、こちらから先に読んでも大丈夫。但し、主人公の性格をより理解するには『これは王国のかぎ』をまず読み終えておいた方がベター。

東京郊外の都立名門校、辰川高校を舞台とした物語。辰川高校のモデルははどう考えても立川高校だろう。実際この作者立川高校出身だし。荻原規子版『六番目の小夜子』(『夜のピクニック』でも可)。作者自身の高校時代へのオマージュ的意味合いが非常に強い作品となっている。

女子は男子の1/3。異常なまでに発達した校内自治。公立校なのにOBばかりの教職員たち。合唱コンクール、演劇コンクール、体育祭、この三つの行事に学生生活の全てを賭ける、ちょっと今時の学校では見ることが出来無さそうな異空間がもの哀しくも懐かしいのだ。作中に登場する学校行事の数々は実際にかつての立川高校では存在していたものらしい。荻原規子は1959年生まれなので、年代的には1970年代頃か。昔の高校生スゲー。

主人公の上田ひろみは、いかにも男の保護欲をかきたてるかよわそうな外見に似合わず、実は「放って置いてくれないかな」系の群れない女。なんでそうなっちゃったかは『これは王国の鍵』参照ね。クラスメイトたちと微妙な距離を保ちながら二年生に進級した主人公が体験する奇妙な事件の数々とその顛末を本作では描く。

全校生徒中1/3しかいない、稀少な存在だけに過剰なまでに尊重される校内の女子。でもそれは尊重という名の性差別なのではないのか。大事なことは何もさせてもらえないもどかしさに、抗うのか流されるのか。少し離れたところから傍観しようとした主人公と、あくまでも流れに抗ってみようとした「彼女」。その違いは何だったのか。美しい学園生活描写の中に落とされた一滴の毒。いいなあ、こういう話。学園小説としてはなかなかの佳品。荻原作品の中では地味な方なんだろうけど、これはもっと読まれていい。[2008/07]

ついでに…… 
『氷菓』@米澤穂信 
 <<比較的似た雰囲気を追うならこれで
『理由あって冬に出る』@似鳥鶏  <<これもわりかし似てるかな
『ブラバン』@津原泰水  <<70年代的高校生像を追うならこれで

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